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中村俊三 ブログ

中村ギター教室内のレッスン内容や、イベント、また、音楽の雑学などを書いていきます。

バッハ:無伴奏チェロ組曲 21


 調性とギターへの編曲 6


チェロ組曲第1番ト長調




ギターではニ長調が一般的

 第1番はト長調で書かれています。 これまでの話では、チェロの曲をギターに編曲する場合は4度か、5度上げることが一般的ということでした。

 4度上げるとハ長調ですが、ギターではハ長調は開放弦を上手く使えず、あまり弾く安い調とは言えません。

 一方、5度上げてニ長調とすると、6弦を「レ」にした場合、たいへん効率よく開放弦を使え、たいへん弾き易くなります。

 結果、「第1番ト長調」 をギターに編曲する場合は、ニ長調(#2個)が第1の選択となります。 

 多くのギタリストによって演奏されてきたデュアート編も、このニ長調で、それぞれのギタリストが独自に編曲したものも、ほとんどこのニ長調です。



プレリュード

 調はニ長調を選択ということで、さらに実際にどのようにギターに編曲するかということを考えてみましょう 

 下の譜面は無伴奏チェロ組曲第1番の「プレリュード」の原曲(チェロ)の譜面です。

 といってもこの譜面は、いわゆる実用譜と言って、演奏記号などを後から付け加えたもので、本当の原典ではありません。

 この譜面はかなり前(1980年頃)買ったものですが、チェロの方でも以前はこうした譜面が使われていたようです。

 しかし現在チェリスト、及びチェロを学んでいる人たちは、はこうした書き込みのない、あるいは少ない、より原典に近いものを使用しているのではないかと思います。



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無伴奏チェロ組曲第1番のチェロの譜面 演奏記号などは後から付け加えたもので、バッハが書いたものではない。 最近ではより原典に近いものが使われているようだ。




とりあえずト音記号に直す

 ヘ音記号に慣れている人なら、このままギターでも弾けますが、やはりギターをやっている人にとってはヘ音記号はちょっと不慣れ(私も!)。

 そこで私たちが慣れているト音記号、と言ってもギターのためのト音記号なので、1オクターブ低いト音記号に直してみましょう(半分だけ)。



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ヘ音記号で書かれているものをギター用のト音記号(1オクターブ低い)に書き直したもの。



 これでかなり弾き易くなりましたね。原調(ト長調)にこだわるのであれば、このまま弾いても良い訳ですが、しかしギターには通常ない「ド=ナチュラル」まで出てきます。 

 ⑥弦を「ド」下げればその音のカヴァー出来ますが、それでは他のところが弾きにくくなるので、やはりこのト長調でギタ―で弾くのは無理があるでしょう。




5度上げてニ長調に移調

 そこで、前述の通り、5度上げてニ長調に移調してみましょう。

 因みにこうした移調は楽譜ソフトだと簡単に出来ます。 手書きの場合は結構たいへんなだけでなく、どうしてもミスも起きがちでした。



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原曲を5度上げてニ長調に移調したもの。 見にくい場合は画像をクリックしてください。



 これでだいぶ弾き易くなりましたが、しかしまだギターの楽譜らしくないですね。




低音を下向きの長い音符に書き替え

 例えば最初の「レ」は譜面では16分音符となっていますが、普通にギターで弾くと次の同じ音が出てくるまで、つまり2拍伸びるので、実質は2分音符となります。

 そこで当然伸びるべき低音は下向きに、実際に伸びる長さに書き替えてみます。

 

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低音を下向きに書き替えたもの




ここまではソフト任せで誰にでも出来る

 これでだいぶギターの譜面らしくなりましたね。 ほぼ編曲の出来上がりといったところですが、しかしまだ一切編曲はしていません。

 ただ原曲の譜面を書き直しただけで、実際の音には全く手直しはしていません。

 なお且つト音記号への書き替えや、移調はソフト任せということで、音楽ソフトの取り扱いさえ慣れていれば誰でも出来ることと言えます。




低音をオクターブ移動したり、低音のない小節に低音を補充する

 確かにこれだけでも(一切編曲なしで)ギターで演奏出来なくもないですが、でも7小節(4段目)のように低音がないところもあります。

 またギターでは同じ「レ」でも⑥弦を下げればオクターブ下の「レ」も使えます。 

 そのようにして低音などを補充したものが次の譜面です。




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カッコの付いた音符はオクターブ移動したり、新たに付け加えた音



次回詳しく説明

 これで編曲の出来上がりですが、これに関してはやはり説明が必要ですね。

 低音を付け加える場合、ただコードのルート音を入れるだけというわけにもゆきません。

 低音(バス音)の進行、及び和声全体の進行を考えて音を選択しなければなりません。

 古典的な和声法はもちろん、バロック音楽、あるいはバッハ的な手法も理解する必要があるでしょう。

 一応付け加えた音について説明をしておこうと思いますが、ちょっと長くなるので、次回と言うことにしましょう。




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バッハ:無伴奏チェロ組曲 20


 調性とギターへの編曲 5





 さて、今回からギターへの編曲の話です。

 チェロのための譜面をギターに編曲する際に、最も重要なのは調の選択ということになります。 




かつてはかなり高めの調が選ばれた

 前にも触れましたが、20世紀の中頃までの編曲は、ギターがもっとも響く調、あるいはギターにとってもっとも都合の良い調を選択する傾向がありました。 

 タレガが無伴奏チェロ組曲第3番の「ブレー」を9度上げて編曲したなどその良い例です。

 チェロ組曲以外でも、その時代ではリュート組曲ホ短調BWV996(第1番とされるもの)を4度上げてイ短調。

 同ハ短調BWV997(第2番と呼ばれるもの)がニ短調と、今日演奏されているものより音域の高い調が選ばれていました。




一時期、原調で演奏することも行われた

 20世紀末になると原調を重んじる風潮が生まれ、なるべく原調で演奏することが好まれました。

 その際原曲の音を一切変更せず、チェロのオリジナルの譜面をそのままギターで演奏さるということが多くありました。

 こうした方法はギターとしてはかなり低い音域に音が集中し、また低音などの追加もないので、窮屈な感じ、あるいは禁欲的な感じは否めませんでした。




チェロとギターの音域の違いを考慮して

 今現在の考え方の主流としては、チェロとギターの音域の違いを考慮して調を選ぶと言った方法のようです。
 
 チェロの最高音弦は通常 「ラ」 となっています。 ギターで言えば3弦の2フレットです。 

 それに対してギターはご存じのとおり、「ミ」 となっており、最高音弦で見るとギターの方が5度高いということになります。

 またチェロの最低音弦は 「ド」 (ギターの5弦の「ド」のオクターブ下)で、ギターは 「ミ」 ですから、ギターのほうが長3度高いということになります。




長3度~完全5度上げるのが合理的

 つまりチェロとギターでは長3度から完全5度違うということになります。 

 したがって、チェロからギターに編曲する際は、この音程の範囲で移調するのが合理的と言えます。

 また♯系の曲と♭系の曲ではやはりそのイメージが違いますから、調号などはあまり変わらないほうがしっくりきます。

 チェロの原曲を5度上げると#が一つ増えることになります。 つまりト長調(#1個)を5度上げるとニ長調(#2個)という訳です。

 4度上げると#が1個減る、または♭が1個増えることになります。 ト長調だとハ長調(#なし)ですね。




近親調の関係

 また、これらの関係は近親調ということで、ト長調からするとニ長調は属調、ハ長調は下属調となり、文字通り近い関係にあります。

 したがって移調してもそれほどの違和感はない訳です。

 結局のところ、この関係でギターへの編曲の際に調が選ばれることが一般的なのですが、ただし、前にも言いました通り、バッハ曲の無伴奏チェロ組曲はすべて同じ調律で演奏されるわけではなく、変則的な調弦や、第6番のように5弦チェロもあるので、こうしたことには当てはまらないものもあります。

 では、それぞれの曲がどの調に移調したらよいかは、次回から順に書いてゆきましょう。
ギター文化館所蔵楽器によるコンサート

   2020年 1月12日(日)




アントニオ・パフェス・ロペスと松村雅旦

 来年の1月12日にギター文化館の所蔵楽器を用いてのコンサートの話は、以前にしましたが、一昨日その楽器に馴染むために弾かせてもらいました。
 
 前回は画像がなかったので、今回は画像を用いて楽器の説明などしたいと思います。





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アントニオ・パフェス・ロペス( スペイン 1795年制作)   最初期の6単弦ギターと思われる。  他の19世紀ギターに比べても、ボディは細長い。 ボディの厚さも薄く、座って持つとかなり弾きにくい。 主に立奏したのかも知れない。 修理の跡はたくさんある。





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ギター文化館にもしばしば訪れていた松村雅旦(まさのぶ)氏の1997年の楽器。 松村さんには合うたびに親しく声をかけていただいていたが、2014年1月に亡くなられた。




存在を知らなかったが

 とはいっても、このアントニオ・パフェス・ロペスという18世紀のギター制作家については、私もこれまで全く知識がなく、今度の機会でその存在を初めて知ったわけです。

 一般に、19世紀ギターと呼ばれる、6単弦ギターは、その名のとおり19世紀になってからで、 18世紀まではバロックギターと呼ばれる5コース複弦と言われています。
 



最初期の6単弦ギター

 そうしたことからすれば、1795年制作となっているこの楽器は、6単弦ギターのはしり、つまりかなり初期の6単弦ギターということになります。





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ちょっと読みにくいが、ラヴェルにはしっかりと製作者の名前と ”1795年” という製作年が書いてある。 






弦巻きやブリッジは後で交換されたもの

  また、ちょっと見ただけでもヘッド(特に弦巻き)やブリッジは当時(18世紀から19世紀初頭)のもではなく、少なくとも19世紀末以降のものとわかります。





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明らかに ”今風” の弦巻き。 当時は木製のペグだった(これがなかなかチューニングしにくい!)





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こうしたブリッジも19世紀後半以降。 当時のものはアコースティック・ギターのようにピンで弦を止めるタイプ。





指板はネック側がかなり厚くなっている

 また、指板はネックのほうに行くにしたがって厚くなっています。 おそらくネックの反りに対処したものと思荒れます。 この指板も後の物と思われますが、ネック自体はオリジナルのものかも知れません。

 その結果、楽器の重心がネック側に偏り、そう言った点でも楽器を保持しにくくなっています。





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上の方に行くに従い、指板(黒檀)が厚くなっている。 ネックの反りに対処するためかも知れない。 その結果、ネック側が極端に重くなっている。






表面板にフレットを打ちこんだ跡が

よく見ると、表面板にはフレットが埋め込まれた跡があります。 19初期の楽器はフレットを表面板に直接埋め込むのが普通で、現在のようにサウンドホール近くでもフレットを指板上に埋め込む形になったのは19世紀半ば頃からと思われます。





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表面板にはもともとフレットが打ちこんであった形跡が





 もともと表面板上にフレットがあったものを、後に(19世紀半ば以降)現在の楽器のようにサウンドホールまで指板を付け、そこにフレットを打ち直したものと思われます。




表面板がオリジナルであることを示している

 となると、この表面板に関しては18世紀末から19世紀初頭のものと考えられ、オリジナルのもである可能性は極めて高いと言えます。
 



表面板、裏板、側板、ネックはオリジナルの可能性が高い

 この楽器のどの部分までがオリジナルで、どの部分が後に交換されたりしたものかを判断するのは、私には難しいところですが、おおよそのところでは、ボディ(表面、裏、側板)とネックはオリジナルで、 指板、ヘッド(糸巻きを含む)、ブリッジなどは後に交換されたものではないかと思われます。




何度も致命的な破損を

 他にひび割れなどのあとが各所に見られ、何度も修理された形跡があります。 恐らく致命的な破損を何度か経験しているのではと思われます。
バッハ:無伴奏チェロ組曲 19


 調性とギターへの編曲 4



そもそも、バッハとギターとの接点はないが
 
 今回からはギターへの編曲の話となります。 具体的な話となる前に、若干ギターへの編曲の歴史みたいなものに触れておこうと思います。

 もちろんこのバッハの無伴奏チェロ組曲は作曲された当初からギターで演奏されたわけではありません。 そもそもバッハが生存中に、何らかの形でギターと関わったという記録も残っていません。

 スペインやフランスなどで用いられている楽器として、バッハもその存在は知っていたと思われますが、少なくともバッハの周辺にギターを弾く人はいなかったようで、バッハとギターとの接点は見当たりません。



しかしリュートには強い関心があった

 その代わりにバッハはリュートには深い興味を示し、自身ではあまり演奏出来なかったと思われますが、リュートのための作品を残し、また楽器も所有していたようです。

 チェロ組曲第5番ハ短調はバッハ自身の手でリュート用にも編曲され、バッハが生存中に無伴奏チェロ組曲がリュートで演奏されていたのは確かなようです。



18世紀後半になると、リュート自体が演奏されなくなる

 しかし18世紀も後半になるとリュートはほとんど演奏されなくなり、したがってバッハのチェロ組曲がリュートで演奏されることもなくなりました。

 またバッハの音楽自体も一時期表舞台から消えることになります(一部の音楽家などには愛好されていたが)。



チェロでの無伴奏チェロ組曲の全曲演奏は20世紀になってから

 19世紀半ば頃には再びバッハの音楽が高く評価されるようになり、無伴奏チェロ組曲の一部は演奏されるようになったようですが、全曲演奏が普通になるのは20世紀に入ってからのようです。

 1936~38年にはパブロ・カザルスによって初めて全6曲録音されます。



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パブロ・カザルスによる無伴奏チェロ組曲の世界初録音(1936~1938年)



タレガは無伴奏チェロ組曲第3番の「ブレー」を 「ルール」として編曲

 ギターへの編曲で最も古いものとしては、タレガのものが知られています。

 タレガは無伴奏チェロ組曲第3番ハ長調の「ブレー」をギターに編曲していますが、なぜか曲名が 「ブレー」 ではなく、「ルール」とされています。 

 「ルール」 と 「ブレー」 は全く別の舞曲なので、なぜタレガが 「ルール」 としたのかは全くわかりません。

 この曲をセゴヴィアやバリオスも 「ルール」 の曲名で録音しています。



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タレガのチェロ組曲第3番のブレーのアレンジ。 タイトルはしっかりと 「Lore」 と書かれている。 ハイポジションが多く技術的にはかなり難しい。 



 上の譜面のように、タレガの 「ルール」 は原曲のハ長調を ”9度” 上げてニ長調としてます。

 ギターでもかなり高い音域を用い、技術的にも難しいです。

 その結果、チェロ曲の面影はほとんどなく、とても軽快で華やかな曲となっています。

 原曲のことを考慮しなければ、これはこれでなかなか面白い曲です。

 

セゴヴィアは1961年にデュアートの編曲で第3番を録音

 セゴヴィアは1961年に無伴奏チェロ組曲第3番を全曲録音しています(前述のブレーはブレーとして)。

 編曲はイギリスの音楽家、ジョン・デュアートによるもので、イ長調版となっています。



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ウィリアムスの1958年の録音はチェロ組曲全曲(第1、第3番)録音としては世界初かも



ジョン・ウィリアムスはセゴヴィアよりも早い時期に録音

 セゴヴィアの高弟でもあったジョン・ウィリアムスは、そのセゴヴィアの録音に4年先立つ1958年に、同じくデュアート編でチェロ組曲第1番、第3番を録音しています。 

 ウィリアムスは1941年生まれですから、当時17歳ということになるので、ウィリアムスの天才ぶりの一つの表れでしょう。

 演奏は後のウィリアムスの演奏スタイルとは若干異なりますが、師のセゴヴィアにかなり似ているとも言えます。



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この時代(1950~70年代)では無伴奏チェロ組曲第1、第3番はこのデュアート編、あるいはデュアート編の再編曲で演奏されるのが一般的だった。



 なお、この時代(1950~70年代)では、チェロ組曲第1、第3番に関しては、このデュアートの編曲が一般的で、ほとんどのギタリストがこのデュアート版、あるいはこのデュアート版の再編曲などで演奏していました。



全く手を加えずといった方法も

 1980年代になると、ギター界においても 「バッハの原典に忠実に」 といった考えが強くなり、なるべく原曲に忠実にということで、チェロの譜面を全くそのまま、移調もせず、音も追加せず、ギターで演奏すると言ったことも行われるようになりました。



現在では ”バッハ的な手法” でアレンジ

 しかし、バッハ自身では一つの作品を他の楽器にために編曲する際、かならずその楽器に合うように移調したり、音を加えたり変更したりするのが常で、全く手を加えず他の楽器で演奏すると言った発想はなかったのではと思います。

 今現在はギターで無伴奏チェロ組曲を演奏する場合、ほとんどそのギタリスト自身の編曲を用いています。

 その際、バッハチェロ組曲第5番をリュートにアレンジしたような方法をとりながらアレンジしているのが一般的と言えます。
バッハ:無伴奏チェロ組曲 18


 調性とギターへの編曲 3



第3,4,5番は調的に関連付けられているが

 前回の記事で、 第3番ハ長調 ⇒ 第4番変ホ長調 ⇒ 第5番ハ短調 の3曲は調性的に強く関連付けられていて、その中でも第5番ハ短調は、その中心、あるいは重心となっていると言ったようなことを書きました。

 特に第4番に変ホ長調という無伴奏のチェロには不向きな調が与えられているのは、第5番のハ短調との関係でしか理解できないでしょう。

 6曲の組曲のなかで、この3曲が一つのグループを成していることが見てとれるでしょう。




残りの3曲は?


 では、残りの 「第1番ト長調」、 「第2番ニ短調」、 「第6番ニ長調」 の3曲はどうかというと、やはりこちらも 「第6番ニ長調」 を軸に結びつけられていると考えられます。

 「第6番ニ長調」 を中心として、「第1番ト長調」 は下属調、 「第2番ニ短調」 は同主短調となっていて、「第6番」を中心としたグループを作っています。 

 舞曲的にも、また調性的にも、前述の 「第5番」 とこの 「第6番」 は6つの組曲の中でも重要な役割を持っているということになります。



二つのグループに分かれる

 そして、6つの組曲は第1、第2、第6番の3曲と、第3番、第4番、第5番の3曲の二つのグループに分かれるということになりますね。


 一つ目のグループは

先鋒 : 第1番ト長調

中堅 : 第2番ニ短調

大将 : 第6番ニ長調



 もう一つのグループは

先鋒 : 第3番ハ長調

中堅 : 第4番変ホ長調

大将 : 第5番ハ短調


 ・・・・・なんか、剣道の団体戦みたいですね。  でも本当に試合をしたらどちらが勝つのかな?  とりあえずそれぞれの選手の特徴を書き出してみましょう。



<ニ長調館大学>

先鋒 : 第1番ト長調  ・・・・・・  たいへん人あたりがよく、誰にも好かれるタイプ。 気難しいところがなく、性格も穏やか。

中堅 : 第2番ニ短調  ・・・・・  あまり目立たず、やや暗い性格。 しかし内面は激しいところもある。 

大将 : 第6番ニ長調  ・・・・・  非常に積極的で、動きは速い。 ともかく攻撃あるのみ、手数も多い。



<ハ短調体育大学>

先鋒 : 第3番ハ長調  ・・・・・  相手方の先鋒と似た感じで、親しみやすい性格。 しかし相手方よりは力強さはある。

中堅 : 第4番変ホ長調 ・・・・・ やはりあまり目立たない存在で、相手方の中堅と似ているが、性格は陽気で、軽快な面も。

大将 : 第5番ハ短調  ・・・・・  どのような状況でも動じることない精神的な強さを持つ。 その構えだけでも相手を威圧する。








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 1勝1敗を受けて、決着は大将戦に。 攻めのニ長調館大学にたいして、鉄壁の守りのハ短調体育大学で、一向に勝負がつきません・・・・・・・ 




第5番ハ短調と第6番ニ長調は正反対の性格

 あまり変な例えをすると自爆しそうですが、ともかく 「第5番ハ短調」 と 「第6番ニ長調」 は共に6曲の組曲中でも内容の濃い曲ですが、その性格はまさに正反対となっています。

 バッハかなり意識してこの2曲の性格付けを行ったのではないかと思います。 まずニ長調とハ短調と言うことだけでもすでに軽快さと重厚さが現れますが、 チェロに関しては、前にか言った通り、ハ短調では最も低い第4弦に主音(ド)があり、次に低い第3弦に属音(ソ)があります。

 それに対してニ長調では通常高い方から2番目の第2弦に主音(レ)があり、第1弦が属音(ラ)となっています。 これによってハ短調では全体に低めの音が使われ、ニ長調では比較的高い音が使われます。




さらに、さらに

 まだそれだけではありません。 第5番ニ長調は通常のチェロではなく、5弦チェロのために書かれています。 通常のの「ラ」より4度高い「ミ」の音の弦を追加している訳です。

 これは前にも書きましたとおり、チェロというよりはほぼギターの音域の楽器となります。 したがって、第6番ニ長調は第5番ハ短調とは比べ物にならないほど高い音域で演奏されるこのになります。

 さらに第5番のほうも通常「ラ」に調律する第1弦を1音下げて「ソ」に調律するように指示があります。 この調律はチェリストにとっては演奏しにくく、あまり評判良いものではないようで、通常の調律(第1弦=ラ)で演奏する人もいるようです。

 この変則調律は弾き易さのためというより、より内向的な響きを求めてということではないかと思います。




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 チェロ組曲第5番ハ短調の楽譜。 下の譜表は実際の音。 上の譜表は演奏譜で、通常の調弦にした場合の ”ポジション” を示したもの。 上の譜面で弾く場合は演奏者は実際に出る音を無視して弾くことになる。

 例えば、2小節目の最初の和音の最高音は上の譜表では「シ♭」だが、実際に出る音は下のように 「ラ♭」 。 もちろんこの譜面では①弦で弾くところを②弦で弾くことはできない。

 チェリストにとっては、この”弾いている音” と ”実際に出ている音” が違うのはたいへん、苦痛なようで(絶対音感があればあるほど)、下の譜面で弾く人も多いという(それはそれで弾きにくいが)。 

 どちらにしてもたいへん弾きにくい譜面のようだ。 なお、バッハ(実際には妻のアンナ・マグダレーナ)は上の演奏譜の形で書いている。




たまたまこうなって訳でも

 このように考えると、バッハの6曲の無伴奏チェロ組曲は内向的、かつ重厚な第5番ハ短調と、軽快で華麗な第6番ニ長調という、二つの極を持ち、他の4曲はそれぞれどちらかの極と繋がりを持つということになるでしょう。

 また、バッハはそうしたことを周到に考慮してこれらの曲の作曲を進めたと考えられます。

 イギリス組曲やフランス組曲、無伴奏ヴァイオリン・ソナタとパルティータなどが、どの程度それぞれの調の関係を考えて作曲されているかはわかりませんが、少なくとも、この 「6つの無伴奏チェロ組曲」 に関しては、たまたまこのような調の配列になったわけではなさそうです。