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中村俊三 ブログ

中村ギター教室内のレッスン内容や、イベント、また、音楽の雑学などを書いていきます。

アポヤンド奏法 6


親指のアポヤンド奏法



アストゥリアス




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アルベニスのアストゥリアスも親指が大活躍




激しい曲で人気がある

 親指のアポヤンド奏法の続きです。クラシック・ギターでは人気曲、アルベニスの「アストゥリアス」も親指中心の曲ですね。アルベニスの曲の中で、と言うよりクラシック・ギター曲全体の中でも1,2を争う華やかな曲です。 華やかな曲と言うより、激しいとか、情熱的とかと言いた方が相応しい曲でしょうか。



もっと派手な曲弾け!

 私が若い頃、お店でギターを弾いていたことがあります。ギター曲は静かな曲が多く、よくお客さんから 「そんな暗い曲弾いていないで、もっと派手な曲弾け!」 と言われることがありました。そんな時よくこの曲弾いたものです。 当時レパートリーも狭かったこともあって、他には 「粉屋の踊り」 とか、 「入り江のざわめき」(弾き方にもよるが) くらいだったでしょうか。

 でも、そんな曲弾いていると、今度は 「うるさいから、もっと静かな曲弾け」 とか 「そんな知らない曲ばかり弾くな」 とか・・・・・ 



お世話になっている
 
 何はともあれ、この 「アストゥリアス」 はクラシック・ギターのことを知っている人でも、知らない人でも、あるいは音楽に詳しい人でも、そうでない人にでも受けがよく、さらにはどのような場でも弾ける曲で、たいへんお世話になっています。




テンポを上げることよりも、音量を上げることの方が難しい

 もちろん華やかに聞えるためには、それなりのテンポで弾かないといけませんが、それ以上に音量を上げないといけません。この曲の場合、速く弾くことよりも、音量を上げることの方がずっと難しいでしょうね。 よく和音だけ大きくて、親指で弾く主旋律のほうは全然聴こえない演奏なんてよくありますね。



親指のアポヤンド奏法が必要

 この低音(低音弦)のメロディを強く出すにはアポヤンド奏法を用いる以外にありません。アルアイレ奏法でも十分に音が出せる人もいますが、そういう人は決して多くありません。



かなり速いが

 この曲(中間部以外)のテンポとしては、四分音符=110~130くらいで弾く必要があると思いますが、私はだいたい126くらいで弾いています。 因みに音楽の友社のピアノの譜面では、「スペインの歌」が132、「スペイン組曲作品47」で138となっています(ただしアルベニス自身のものではないかも)。



この曲で親指のアポヤンド奏法の練習をするのもよい

 こうしたテンポで親指をアポヤンド奏法出弾くのは確かに難しいところですが、もともとアポヤンド奏法は指の動きは小さいので、正しい弾き方をすれば不可能なものではありません。この曲を通して親指のアポヤンド奏法の練習をするのもたいへんいいのではないかと思います。

 

一般的な編曲

 若干余談になりますが、25小節から一般の編曲ではこのようになっています。この編曲につては以前にも書きましたが、1950頃までに編曲されたもので、以前この編曲者の名前が現代ギター誌に書いてありましたが、その記事が手元になくて、私自身ではわからなくなってしまいました。セゴヴィアはこのアレンジを基に演奏していますが、和音などは原曲よりに修正しています。



アストゥリアス2ページ
一般的に演奏されるアストゥリアスのギター版。 スペインのギタリストによるアレンジで、かつて現代ギター誌にそのギタリストの名前があったが、その記事が手元にないので、私自身ではわからなくなってしまった。セゴヴィア編とされることもあるが、セゴヴィアの編曲でないのは確からしい。



セゴヴィア編ではない

 「セゴヴィア編」として出版されているものもありますが、セゴヴィアの編曲ではないようです。細かくみれば、若干理不尽というか、共感出来ないところもありますが、現在ギターで演奏されるアストゥリアスはこのアレンジの影響を受けていると言ってもいいでしょう。私の編曲もまたしかりです。



25小節から伴奏は2弦の連打となっているが

 さて、この編曲の25小節からの伴奏部はこのように、2弦を連打するようになっています。原曲ではオクターブの重複となっているところですが、音量や華やかさを増すためにこのようなアレンジになっていると思われます。



私は同音ではなく、オクターブとしている

 一方、次は私のアレンジです。



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私のアレンジ。 25小節から同音ではなく、一オクターブ離れた音にしている。このことにより、ノイズが軽減され、テンポも音量も上がった


 25小節からを、2弦の連打ではなく、オクターブにしています。この理由はいくつかありますが、まず同音だとテンポが」上がらない、それから音量もあまり出ない、さらには同じ弦を速く続けて弾くと爪に当たってノイズが発生する、あるいは大きくなるといった理由です。右手については明かにこの方が弾きやすいです。

 速く弾くなら、同じ弦をひくより、アルペジオ風に違う弦を弾いた方が速く弾けるわけですね。また、この方法だと2弦ではなく、1弦の「シ」を弾くので、聴こえやすくなって、結果的に音量も上がります。



元々はノイズを軽減するためだったが

 この方法にした最も大きな理由は爪のノイズなのですが、若い頃はこのノイズがほとんど気になりませんでした。 気にならなかっただけかも知れませんが、年齢が高くなって、プラスティックの付け爪を使うようになってから、それが目立つようになりました。 あれやこれやその対策を考えたのですが、この方法が最もノイズが軽減に効果的でした。



一挙三得!

 しかし右手が弾きやすくなる分、その負担は左手に来るわけで、左手は結構難しくなります。もとももと2弦の開放弦を連打するようにアレンジされているのも、左手の負担を少なくするためと思われます。 私自身としては左手には問題なかったので、この方法を用いています。 この方法だと、ノイズが少なくなるだけでなく、音量とテンポが上がると言うオマケまで付いてきて、まさに一挙三得というところです。
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親指のアポヤンド奏法



ヴィラ=ロボスの前奏曲第1番、中間部



親指のアポヤンド前奏曲2
ヴィラ=ロボスの前奏曲第1番の中間部でも親指のアポヤンド奏法は重要 1小節目と3小節目の右指の使い方が異なってしまったが、どちらでもよい。親指が上手く使えれば、3小節目のような使い方の方がいいかも。




3つの弦を滑らせるようにしての連続アポヤンド

 前回に引き続き、ヴィラ=ロボスの前奏曲第1番での親指のアポヤンド奏法です。今回はホ長調となる中間部ですが、ともかく、この曲では親指のアポヤンド奏法が大活躍します。親指のアポヤンド奏法が苦手などと言っていたのでは、この曲は絶対に弾けません。

 この中間部は前回の主部よりさらに右親指が重要で、また使い方も難しくなります。 まず譜面最初の小節で、6.5,4弦、「ミ」 「シ」 「ミ」と連続してアポヤンド奏法で弾きます。この場合、6弦を強いて5弦に指を止めたら、そのまま5弦を弾きます。一旦5弦から離して弾いてはいけません。 そしてさらに4弦に指を止めたら、さらに4弦を弾きます。




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6弦を弾いたら5弦に止めて、そのまま5弦を弾く



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さらに4弦を弾く。imaは弦に触れないようにした方が良い。



 つまり6,5,4弦上を親指が滑るように動き、一つの動作で行います。そうしないと音がよく出なかったり、余韻が消えてしまったりします。この時、imaは弦に触れないようにします。そうしないと和音の響きがなくなったりします。もちろん比較的速めのテンポで弾きますが、たとえ速くとも音符の長さを正確に揃えないといけません。 平均した音の長さで弾くのはかなり難しいかも知れません。



アクセントをつけるため親指で2,1弦を弾く

 最初の小節、7個目の16分音符(7フレットの「シ」)は、2弦の開放「シ」と同時に弾くことになりますが、これも親指で弾くべきでしょう。そうでないとアクセントが付きません。つまり②弦、1弦を同時に親指で弾くわけですが、1弦の次に弦がないのでアポヤンド奏法にはなりませんが、方向的にはアポヤンド奏法と同じです。



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2弦、1弦を親指で弾く



1弦アルアイレ、6弦アポヤンド

 3小節目は1小節目のものに1弦の開放が付いています。これが厄介ですね、親指のアポヤンド奏法で6弦を弾きながら、薬指のアルアイレ奏法で1弦を弾きます。逆に親指アルアイレ、薬指アポヤンドでは上手く弾けません。



かつては出来なかった

 この前奏曲第1番は私の学生時代(1970年頃)にとても流行っていて、多くの仲間たちが弾いていましたが、これを上手く出来る人がいなくて、結果的にここがはっきり音が出なかったり、また正しい音価で弾ける人は皆無でした。もちろん私もそうでしたが、いろいろトレーニングした結果、今ではそこそこ出来るようになりました。

 これが上手く出来ないと、どうしても最初の音だけ長くなってしまいます。またギタリストによってはあえて、最初の音だけ長く音価を取ったりする人もいますが、出来ることなfらやはりイン・テンポで弾きたいところですね。



イン・テンポを守った上でのルバート

 この曲(前奏曲第1番)はところどころにテンポ変化の指示が出ていて、もちろんその指示には従った方がいいですが、しかし基本的には音価を正しくとるべきでしょう。ルバートなどはあくまで音価、つまり音符間の比を正しくとった上で行うべきと思います。 ただ自分が気持ちよく弾いているだけだと、なかなか聴いている人の共感は得られないでしょう。



特別速く弾く必要はない

 またこの中間部を非常に速いテンポで弾く人もいますが、冒頭のピュー・モッソは「前より速く」と言った意味で、すごく速く弾くという意味ではありません。実際にヴィラ・ロボスもそれほど速く弾いていません(この曲にはヴィラ=ロボス自身の録音が残されている)



4通りの弾き方

 因みに親指で6弦、薬指で1弦を弾く場合、

① 両方アルアイレ奏法
② 親指アルアイレ、薬指アポヤンド奏法
③ 親指アポヤンド、薬指アルアイレ
④ 両方アポヤンド奏法


以上の4通りあります。どれも出来るようにしておけるといいですね。


アポヤンド奏法 4



親指のアポヤンド奏法



親指○




アルペジオの低音にも用いられる

 前回、親指のアポヤンド奏法は非常に重要であることを書きましたが、今回はその例をいくつか挙げてゆきます。 まずはシンプルにアルペジオの場合です。弾き語りや、伴奏などによく用いられるものですね。




親指のアポヤンドアルペジオ
アルペジオの場合、低音をアポヤンド奏法で弾くことにより、自然な音量バランスと音質が得られる




自然な音量バランスと音質が得られる

 このようなアルペジオでの親指は基本的にアポヤンド奏法を用います。アポヤンド奏法を用いないギタリストや、それを指導しない指導者もいますが、いろいろな点でアポヤンド奏法を持ちるほうがよいと思います。

 まず第一番に音量、音質の問題があります。和音の低音は他の音よりも強く弾かなければなりません。それは西洋音楽においては、和音の低音(バス)は、和音全体の響きを支えなければならないからです。その場合もただ強いだけでなく、重厚な響きでなければなりません。

 そうした音を出すためには、やはりアルアイレ奏法では難しく、アポヤンド奏法を用いることにより、適切な音量と重厚な音質が得られます。親指のアポヤンド奏法が難しいと言う人もいますが、アポヤンド奏法を用いることにより、特に高い技術がなくとも、正しい音量と音質が得られるという、たいへん便利な方法です。



他の弦の余計な響きを抑えることが出来る

 次に、アルアイレ奏法で弾くと他の弦に触れたり、あるいはその前に弾いた低音が残ったりして、和音が濁りがちになります。アルアイレ奏法でも、そうした不必要な音を消音することは可能かもしれませんが、それには高い技術が必要となります。 

 アポヤンド奏法を用いれば、他の弦を鳴らしてしまうこともほぼありませんし、また上の弦(6弦を弾く場合の5弦)を、自然に消音することが出来ます(逆に言えば、上の弦を消してはいけない場合には、アポヤンド奏法は使えない)。




フォームも安定する

 さらには、親指のアポヤンド奏法を用いてアルペジオを弾く場合、他の指、ima のほうも上下動がなくなり、安定します。 こrも逆に言えば、右手の上下動が激しい人は、親指のアポヤンド奏法が出来ないということもできます。その他、いろいろな面で親指のアポヤンド奏法が出来ないと、ギターの上達は難しいとも言えるでしょう。



サム・ピックを使う必要もなくなる

 かつて、フォークソングなどの弾き語りでは親指に付けるピック、つまりサム・ピックを用いる人がいましたね。 私の知る限りでは、フォーク・ギター(今風に言えばアコースティック・ギター?)をやる人で、親指のアポヤンド奏法を用いる人は、あまりいないようですが、そうした弾き語りをやる人でも、通常の弾き方(アルアイレ奏法)では低音がよく出ないと言うことは自覚しているのでしょう。そこで親指の音を上げるためにサム・ピックを用いているものと思われます。

 しかし、親指のアポヤンド奏法を用いれば、サム・ピックの必要は全くありません。またピックを使うと、音は大きくはなりますが、軽めの音となり、バスとしてはあまりにふさわしい音ではないようにも思います。



最初からやれば難しくないが

  因みに、私の教室では最初から親指のアポヤンド奏法の練習をするので、それが出来ない人はあまりいません(少しはいますが)。しかしある程度年数をやった人にとっては、この親指のアポヤンド奏法はなかなか難しいようですね。 だが、やはりその必要性はたいへん高いので、自在に出来るようにするのは非常に大切と思います。

 



ヴィラ=ロボスの前奏曲第1番

 もちろん独奏曲でも親指のアポヤンド奏法は非常に重要です。わかりやすい例として、ヴィラ=ロボスの「前奏曲第1番」を挙げておきましょう。 ヴィラ=ロボスにはこの「前奏曲第1番」のほか、「前奏曲第4番」、「練習曲第11番」、「ショティッシュ・ショーロ」など低音、あるいは低音弦が大活躍する曲が多いですね。




親指のアポヤンド前奏曲
赤丸のところで、伴奏の3弦がないのは、親指を3弦で止めるためか。 運指等は私が付けたもの。




主旋律が一貫して低音弦にある

 この曲の主要部(中間部以外)はずっと低音弦、つまり親指が主旋律担当です。もちろんこうした曲での親指はアポヤンド奏法を用いなければ曲の良さが出ません。音量的にも、また音質的にもそれが言えるでしょう。




親指で二つの音を一度にアポヤンド奏法で弾く


 さらにこの曲ではその低音のメロディの下にもう一個低音が加えられているところがあります。これを pi などで弾いたら適切な音量や音質は出ません。また親指でも、アルアイレ奏法で弾くことは、それ自体が難しいですし、また音量も出ません。

 譜面のほうではアルペジオ記号で書いていますが(私が書いたもの)、実際は6弦、5弦を続けてアポヤンド奏法で弾く感じになります。 親指だけで和音を弾いたリ(アルペジオ風に)することがありますが、その要領と言ってもいいでしょう。



5弦にウェイトをかける

 この場合、6弦は伴奏で、5弦の音のほうが主旋律ですから、ウェイトは5弦の方にかけなければなりません。6弦には軽く当てて、5弦の方をしっかりと押え込む感じですね。



一旦5弦で止めてから4弦を弾く

 また、2段目のところでは(赤➡)、6弦、4弦と弦が離れています。この場合でも両方親指で弾きますが、まず6弦をアポヤンド奏法で弾いて、一旦5弦に親指を止めます、その後さらに4弦をアポヤンド奏法で弾きます。もちろんあまり時間をかけてはいけませんので、連続した弦を弾く場合より難しくなりますが、ヴィラ=ロボスの曲を弾く場合には、この弾き方がどうしても必要です。

 一旦5弦に親指を止めてから4弦を弾かないと、どうしても5弦が鳴ってしまうので、難しくてもこの弾き方が必要になる訳です。



6弦を早めのタイミングで弾くのがコツ

 さらに、この場合どうしても4弦を弾くのが遅れるので、6弦の方は実際にのタイミングよりやや前に弾くのがポイントです。6弦ではなく、4弦にタイミングを合わせる訳ですね、これが出来るといろいろなところに応用が出来ます。

 

3弦に止める

 また2段目の赤丸のところは5,4弦と2,1弦の4個の音を同時に弾くのですが、5,4弦を親指、2,1弦を中指と人差し指で弾きます。この場合の親指はアルアイレ奏法でもやむをえないところですが、主旋律は5弦ではなく、4弦の方なので、出来れば親指を3弦で止めたいところです。 

 かなりハードルの高い弾き方ですが、そうすることにより、4弦の主旋律がしっかりと鳴ってくれます。しかし実際にはプロ、アマを問わず、ここは5弦のほうが大きく出てしまう人が多いですね。



まだまだ続く

 ヴィラ=ロボスの前奏曲第1番の親指の使い方、まだまだこれだけではありませんが、とりあえず今回はこれだけにして、次回またこの続きをやりましょう。
アポヤンド奏法 3



だいぶ遅くなったが

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ちょっと遅れてしまったが、沢渡川(和菓子店「にいづま」付近)の桜。撮影は3月29日  桜の花は青い空によく映える



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アポヤンド奏法の弾き方



弦の弾き間違いは少ない

 今回はアポヤンド奏法の実際の弾き方です。アポヤンド奏法はアルアイレ奏法にくらべるとそれほど難しくありません。動きとしては次の弦まで押し付ければよい訳です。細かく言えば、それぞれの指には3つ関節がありますが、主には先端から3番目の関節を使います。他の二つの関節もある程度使いますが、どちらかといえば、逆方向に動かないようにする程度です。

 特に問題がなければ、親指は6弦などに添えておきます。これによって右全体が安定するので、確実に弦を弾くことが出来ます。 また右手が安定することにより、弦の弾き間違いもたいへん少なくなります。



爪は斜めにあてる

 爪を弦に平行にあてると、アルアイレ奏法の場合と同じく爪が引っかかって、ノイズが発生したりしますから、爪は弦に対して45度くらいになるようにいします。フラメンコ奏者などの場合、指を弦に叩きつけるように弾いたりしますが、通常は指先を弦に当ててから、押すようにして弾きます。

 この時、爪の左側と指先の先端部分の皮膚が両方とも弦に触れ状態となります。 弦に触れる時、つめの一部が弦に当たっていないと爪がひっかった感じになります。 また皮膚の一部が弦に触れていないと直接振動している弦に爪が当たるので、やはりノイズが発生します。
 



アポヤンド1
imaのアポヤンド奏法の場合は、基本的に親指を6弦などに添えておく



「く」の字

レッスンの際、アポヤンド奏法が出来ないという人はほとんどいませんが、指先の関節を曲げすぎるとアポヤンド奏法は弾きにくいでしょう。かといって、指を反らせたり、一直線にしたりしても弾きにくいです。指が軽く曲がった状態、ややまっすぐ気味に書いたひらがなの 「く」 くらいの感じでしょうか。



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爪は45度くらいに当て、爪の左側(親指側)が弦に接するようにする。



アポヤンド✖
このように爪を当てると硬質な音になったり、ノイズが発生したりする。



親指のアポヤンド奏法が出来ない人もいるが

 imaのアポヤンド奏法に比べて、親指のアポヤンド奏法の方がやや難しいかも知れません。その理由のひとつとしては、フォームの問題で、右手が上の方、つまり6弦のほうにあると親指のアポヤンド奏法が難しくなります。

 親指のアポヤンド奏法の場合も im を1,2弦に置きますが(差しさわりがなければ)、そのimをまっすぐにしたりすると右手全体が上に上がってしまいますから、触れているimは曲げておくようにします。

 もう一つの理由として爪の問題もあります。確かに親指の場合、爪の形の調整とか弾弦の際の爪の付か方はやや難しく、その関係でアポヤンド奏法が上手く出来ないということもよくあります。親指の爪は基本的に斜めに整えますが、それについてはまた別項目でお話ししましょう。


親指○
親指の場合も爪の先端を弦に接してから弾く。


爪の一部が弦に触れるように

 上の写真のように、まず爪の先端と指先の皮膚の部分を両方とも弦に接してから弾弦します。下の写真のように弦に触れた際、爪の一部が弦に触れていなと、やはりノイズが発生したり、爪が弦の引っかかったりします。



当初は爪がない方が

 ギターを習い始める時には爪は伸ばしていないと思いますが、むしろその方がアポヤンド奏法もアルアイレ奏法も弾きやすいでしょう。ただし爪がない状態でたくさん練習すると指先の皮膚が痛くなったりしますが、やっているうちに皮膚が厚くなって委託なくなるでしょう。私の場合、爪の調整が上手く行かなくて爪が短くなったりすると、結構指先が痛くなってしまいます。



親指✖
このように爪の先端が弦から離れるとノイズが発生する。



上級者でも出来ない場合もあるが

 前述のとおり、imaのアポヤンド奏法が出来ない人はあまりいないのですが、親指のアポヤンド奏法が上手く出来ない人は少なくありません。 しかもどちらと言えば初心者が出来ないのではなく、”いわゆる”上級者の人で出来ない人が多いので、その点はやはり問題となります。

 クラシック・ギターではima以上に親指のアポヤンド奏法は重要で、かつてimaのアポヤンド奏法が使われなかった時代でも、親指についてはアポヤンド奏法を用いていたくらいです。



入門時から練習すれば問題はない

 アポヤンド奏法が出来ないことの主な理由としては、ギターを始めた当初、親指のアポヤンド奏法を練習しなかったことが主だと思います。 全くギターを弾いたことがない段階からレッスンした場合、特に親指のアポヤンド奏法が出来ない、とかあるいは出来るようになるまで時間がかかるといったことがありません。 最初からアポヤンド奏法の練習をすれば特に問題ないようです。



親指のアポヤンド奏法を重視しない先生もいる

 問題になるのは、親指のアポヤンド奏法をずっと行わないで長年、10年とか20年とかやってきた人の場合と言うことになります。 独学でギターを始めた人の場合はやむを得ないこともありますが、意外とギター教室で長年習っている人でも結構そうした人はいます。ギター教室の先生の中には親指のアポヤンド奏法を重要視しない先生も多いのかも知れません。

  私個人的には、親指のアポヤンド奏法は、クラシック・ギターを弾くためには絶対に必要な技術だと思ってますので、入門時からこれをしっかりレッスンしてゆきます。 しかし長年親指のアポヤンド奏法を使ってこなかった人へのレッスンは確かに難しいです。



結局は耳の問題

 とはいっても、初心者にでも出来ることですから、絶対に出来ないはずはないのですが、その必要性をあまり感じないということなのでしょう。正しく自分の演奏や、他の人の演奏を聴けば、その重要性は理解できるのですが、突き詰めるとやはり耳の問題となるのでしょう。

 そうなると、親指のアポヤンド奏法が出来ない人は、多くの場合他の面でもいろいろ問題が生じ、結果的に”いわゆる上級者”となってしまうのでしょう。
令和時代のギター上達法



アポヤンド奏法 2



imaのアポヤンド奏法はいつ頃から使われるようになったか

 前回の記事では、リュートやバロック・ギターでは ima のアポヤンド奏法は基本的に使われなかったといったことを書きました。これは絵画などでの演奏姿勢などからも裏付けられると思います。右手全体が下がっていて、この姿勢ではアポヤンド奏法がしにくいと思います。またこれについては後でまた触れるかも知れませんが、アルアイレ奏法で弾く場合の一つのヒントになると思います。



タレガがアポヤンド奏法を多用していたことは知られている

 アポヤンド奏法、特に ima のアポヤンド奏法が使われるようになったことがはっきりわかるのはタレガの時代からで、そのことはエミリオ・プジョールの著作の「タレガ伝」にも書かれていますし、その作品からもそれが窺えます。、

 また、直接的な師弟関係はないものの、その流れをくむアンドレ・セゴヴィアもアポヤンド奏法を多用していることからも言えます。これは映像などでも確認できますし、私の師であり、セゴヴィアの高弟でもあった松田晃演先生も積極的に使っていました。




ハッキリはしないが

 では、いつ頃からアポヤンド奏法(ここでは主にimaに関して)が使われるようになったのかは、なかなか難しいところです。もちろんのことですが、ある日、またはある年を境にすべてのギタリストがアポヤンド奏法を使い始めたという訳ではありません。 またこの「アポヤンド奏法」という言葉自体もいつ頃から使われるようになったのかと言うことも、あまりよくわかりません。

 プジョールによれば、タレガの師に当たるフリアン・アルカスも限定的ではあるが、アポヤンド奏法を用いていたが、タレガはそれを積極的に使ったと言っています。 したがってタレガ以前からアポヤンド奏法が使われていたのは確かなようです。



譜面などを見る限り19世紀初頭ではアポヤンド奏法(ima)は使われなかったと思える

 しかし、19世紀初頭、恐らく1830~40年頃まではアポヤンド奏法が積極的に使われた形跡はありません。その教本や作品などからして、ソル、アグアドはアポヤンド奏法を用いなかったのは確かで、アグアドは親指の先端の関節の動きで弾弦すると言っているので、親指もアルアイレ奏法で弾いていたようです。 ジュリアーニ、カルリ、カルカッシなどもそれに準じていたと思われます。

 使われなかったと言っても、全く使われなかったかと言えば、もちろんそれも断言できません。単音を弾いた場合、たまたまアポヤンド奏法になてしまうこともあるでしょうし、中にはそれを比較的積極的に用いたギタリストもいたでしょう。

 

もしかしたら

 もしかしたら、アポヤンド奏法を使ったかも知れないと言った例として、レゴンディの作品を挙げておきましょう。次の譜面はジュリオ・レゴンディの「序奏とカプリッチョ作品23」の冒頭部です。レゴンディは生存期間が1822~1872年ということですが、幼少時より高く評価され、演奏活動もしていたギタリストです。この作品の作曲年代ははっきりわかりませんが、比較的若い頃、おそらく1830~1850年代くらいのものと思われます(ちょっと幅広いですが)。



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ジュリオ・レゴンディの「序奏とカプリッチョ作品23」




小節の最初の音を単音にしている

 このように小節の最初の音が単音になっているところがありますが(赤↓)、ここでアポヤンド奏法を使っていた可能性が考えられます。通常小節の最初には低音が付くことが多いのですが、小節の冒頭の音を単音にして、和音はその裏で弾くようになってます。こうすることで冒頭の音をしっかりと弾くことが出来ますね、今現在であれば多くのギタリストはこの単音をアポヤンド奏法で弾くでしょう。

 もちろんアルアイレ奏法であっても単音のほうがしっかりと出るので、絶対にアポヤンド奏法を使ったとも言い切れませんが、可能性としてはありそうです。



パガニーニ、コスト、メルツは

 パガニーニ、コスト、メルツの場合は、その譜面からすると、アポヤンド奏法を用いた可能性は低いようです。 パガニーニは時代的にも19世紀初頭ですから、当然アポヤンド奏法は使わなかったでしょうが、活動の時期が19世紀の中ごろとなるコスト、メルツも、譜面を見る限りではアポヤンド奏法は使わなかったように思えます。



パガニーニソナタ
パガニーニの大ソナタイ長調のギター・パート。 オクターブ・ユニゾンを多用しているところからも、アポヤンド奏法は使わなかったと考えられる。


リゾンの泉
コストの「リゾンの泉」


ハンガリー幻想曲
メルツの「ハンガリー幻想曲」  作品から見る限りでは、コストもメルツもアポヤンド奏法は使わなかったと思われる。小さい音符で書かれた箇所(2,4小節)は親指で弾いたと思われるが、その場合はアポヤンド奏法の可能性もある。



単旋律=アポヤンド奏法となったのは、19世紀末くらいか

 いずれにしても、高音の単旋律をアポヤンド奏法で弾くことが標準になったのは、19世紀末から20世紀初頭にかけてくらいの時期と考えてよいのではと思います。その時期には楽器のの方も変わってきていますから、それとの関連性もあるかも知れません。