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中村俊三 ブログ

中村ギター教室内のレッスン内容や、イベント、また、音楽の雑学などを書いていきます。

ギター文化館所蔵銘器コンサート   


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1月12日(日) 14:00  石岡市ギター文化館



たいへんありがとうございました

昨日ギター文化館で所蔵銘器コンサートを行いました。 ご来場下さった方々本当にありがとうございます。

 1795年制作のアントニオ・パフェス・ロペスと1997年の松村雅亘という、だいぶ形も音質も異なる楽器による演奏と言うことで、若干苦労した点もありました。



足台にダイナレットで逆足

 特にパフェス・ロペスはボディの形状が現代の楽器にくらべてかなり細身で、通常の持ち方では演奏出来ず、足台とダイナレットを両方使い、さらに通常とは逆の右足に乗せて弾くという方法をとりました。

  当時の人はこの楽器をどのように持って弾いたのか知りたいところです。 ストラップを使ったのかなとも思いますが、ストラップを止めるようなものは特に付いていません。 



弦の間隔が違うのが

 また弦の間隔がやや狭く、これが意外と混乱をもたらします。 おそらく数日間その楽器を弾き続けていれば自然に馴染むところですが、この楽器を弾くのはギター文化館に行った時のみで、そうした機会は演奏会当日を含め4回でした。

 そんなこんなでしたが、昨日は午前中からこの楽器になじむようにしていたので、弦を空振りしたり、他の弦を弾いてしまったりは最小限度には留められたかなと思います。



独特の響き

 このパフェス・ロペスの音は完全に19世紀ギター(この楽器は18世紀だが)ぽくもなく、また当然現代のギターとも異なり、独特の音と言えるでしょう。 特にこのギター文化館で弾くと、味わい深いものがあると思います。




深い低音が特徴

 松村さんの楽器は音質こそ、通常私が弾いているハウザーと違った傾向にありますが、指的には何の問題もなく、パフェス・ロペスが弾きにくかった分、何かほっとする感じです。

 松村さんの楽器は、特に低音に特徴があり、重く、深い音がします。なんとなく1オクターブ下の音も鳴っているような、そんな響きです。 ヴィラ=ロボスの曲は低音が活躍するものが多いので、そういった曲ではたいへんよい効果を出します。

 高音の方は柔軟で品のある感じと言え、確かに人柄が出ているのでしょう。 ただし楽器になじむ時間が短かったので、松村さんの楽器を弾きこなすには程遠い感じだったのも確かです。

 やはり一つの楽器を弾きこなすのはそれなりの時間が必要と言うことでしょう。 でもこうした機会をいただいて、いろいろなことがわかって、本当に勉強になりました。 池田館長をはじめ、ギター文化館の方々にはたいへん感謝です。
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日蝕、一月物語 ~平野啓一郎



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「マチネの終りに」を書いた平野啓一郎の芥川賞受賞作品

 「マチネの終りに」の話は何度かしましたが、そう言えば、私は小説などと言うものを読んだのは何年、いや何十年ぶりということに気が付きました。

 おそらく大学生の頃、トルストイとかロマン・ローランなどを読んで以来ではないかと思います。 「マチネの終りに」を書いた平野啓一郎と言う小説家が他にどんな小説を書いているか気になっていくつか読んでみました。

 まずこの作家の芥川賞受賞作品の「日蝕」と同じ文庫本に収められていたので、第2作目の「一月物語」、他にエッセーで、「私とは何か~個人から文人へ」、さらに短編集の「高瀬川」などを読んでみました。



まるで明治時代の小説

まず「日蝕」を読み始めてびっくり! ひらがなこそ現代のものだが、言葉や漢字などはまるで明治時代のような感じ。 ルビはふってあるが、難読漢字のオンパレード・・・・・・・

 それに何といっても主人公はフラン人で、なお且つ現代人ではなく15世紀!  そして題材もキリスト教、とか錬金術に魔女狩り! 

 つまりちょっと読んだ感じだと、ヨーロッパの古典文学を明治時代の文豪が翻訳したような小説で、 これが20代の日本人が書いたとは到底思えない小説となっています。



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難しそうだが、意外と先に進める

 確かに読みやすい小説ではありませんが、でも読んでいるとなんとなく言葉のリズムみたいのがあったり、言葉の ”カッコよさ” みたいのもあって、意外と先に進みやすいです。

 文体の難しさから比べると、ストーリーのほうはそれほど複雑なものではなく、わりとわかりやすいものになっています。 



奇跡伝説を偽古典的な文体と緻密な情報で装飾

 宗教的な奇跡伝説みたいなものを扱った小説といえますが、錬金術とか両性有具者とか巨人のカップルとか出てきて、オカルト的とも言えます。

 この偽古典的な文体とか、小説の中で語られている神学問題とかは、一種の ”道具立て” ともいえるかも知れませんが、確かにこうしたものがストーリーにリアリティを感じさせているのでしょう。

 「マチネの終りに」とは全く違う文体ですが、恋愛ストーリーにクラシック・ギターという道具を用い、しかもその道具を極めて緻密に描くといったことは共通しているのでしょう。



経験したことのないことを経験したように語れる

 それにしても驚異的な知識量とイメージ力ですね。 普通の日本人には全く縁のなさそうな中世の宗教問題をこれだけ語れるなんて、本当に恐れ入ります。

 また普通、小説は何らかの形で作家の実際の体験を基に空いている場合が多いのですが、平野氏の場合は、全く経験していないことを、あたかも実際に経験しているように書くことが出来るようです。

 芥川賞を受賞した作家はたくさんいる訳ですが、そうした受賞者の中でもひときわ能力の高い人なのでしょう。

 こうした事を考えれば、「マチネの終りに」で、まるでギョウカイ人のようにギターのことを語るなんて、特に不思議なことではないのでしょうね。 

 もっとも平野氏は音楽にはかなり詳しいようで、ギターも実際に弾いたりするようです。



白薩摩?

 「一月物語」は明治30年頃の話で、これもまた現代の小説というより、明治か大正時代の小説のようです。 「日蝕」のほうで、もうこの書き方に驚かなくはなりましたが、主人公の服装を紹介っするところは、

「白薩摩に小倉の袴、流石(さすが)に高下駄は草鞋(わらじ)に穿(は))き替えているが・・・・・」
 
となっています。

 この漢字の使い方を置いておいて、「白薩摩」とか「小倉の袴」なんて知っている20代なんて、ちょっと想像出来ませんね。

 文章を読んだだけでは、作家は明治時代の人か、あるいは相当年齢の高い人にしか思えないでしょう。

 もっとも、普段着物に縁のある人だったら、こうした言葉も日常的に使うのでしょうが、20代(小説を書いた時点で)の平野氏が着物姿で京都の街を歩いていたわけではないでしょう。



夢の中であった女性に恋焦がれ

 この小説も民話を基にしているのかも知れません。  25歳の青年詩人が奈良県の山中でマムシに噛まれて倒れていたところを、山寺の僧に助けられる。

 その青年気が付くと、その僧の庵で看病されている。その庵の別棟には籟病を患った老女がいるので、そこには近づかないようにと言われる。

 しかしその青年が見たものは籟病の老女ではなく、美しく若い女性だった。 そしてその女性は、青年がかねてから夢の中で恋焦がれた女性だった。    ・・・・と言ったようなストーリーです。

 最後には僧やその女性の制止を振り切ってその女性に合う訳ですが、すると青年の姿は消え去り、残されたのは老女の遺体だけとなります。

 確かにストーリーそのものはリアリティのあるものではないのですが、「日蝕」の場合と同じく、偽古典的な文体と精密な描写でストーリーにリアリティを持たせています。



往仙岳って?

 因みに、この小説の舞台となった ”往仙岳” という山を地図で探してみたのですが、見つかりませんでした。

 場所的には奈良県と和歌山県の県境付近のようで、その付近に”行仙岳” という山が地図に記載されているので、山の名前が変わっているのかも知れません。

 このあたりのことはよくわかりませんが、地図で見る限りでは、本当に人里離れてという感じで、こんな話もありそうかな、と言った感じです。
今年の予定


 明けましておめでとうございます。 お正月も、いつの間にか3日になってしましたが、今年の予定を書きます。




1月12日(日) 14:00   所蔵銘器によるコンサート   ギター文化館


 当ブログでも何度か紹介しましたが、ギター文化館所蔵の2本の楽器を用いてのコンサートです。 

 スペインの製作家 Antonio Pages Lopes による1795年製の楽器は、このギター文化館所蔵の楽器のうちで最も古いものです。

 この製作家についてはあまり詳しい情報がないのですが、スペインのカディスにおいて、少なくとも父の代からギター工房を開いていたようです。

 ほとんどの兄弟たちもギター製作に携わっていたようで、ギター製作一族の一員と言えるのでしょう。 
 
 古い楽器なので、修理の跡が多く見られます。



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 もう1本の楽器は1997年、松村雅亘製作のものです。 松村さんはロベルト・ブーシェに学んだ製作家で、この楽器もたいへん深い響きがします。

 松村さんはギター文化館にもしばしば訪れていましたが、2014年に亡くなられました。 私自身としては、この機会に松村さんの楽器を演奏出来てたいへん光栄です。



 演奏曲目 

<アントニオ・パフェス・ロペス>
ガスパル・サンス : パヴァーナ、カナリオス他
フェルナンド・ソル : ラルゴ・マ・ノン・トロッポ、 ソナタハ長調

<松村雅亘>
エイトール・ヴィラ=ロボス : ブラジル民謡組曲、ショールス第1番


入場料は前売り、当日共に1000円です。ぜひふらりと立ち寄っていただければと思います。





4月25日(土) 14:00   中村俊三ギター・リサイタル    ひたちなか市文化会館

 1年前から予定を決めていたので、上の銘器コンサートと日にちが近くなってしました。

 日にちが近いために、かえって同じ曲ではいけないかなと思い、銘器コンサートとは完全に違うプログラムを組みました。

 最近、ひたちなか市文化会館では2回ほど(2015、2016年) 「名曲コンサート」 と言った形で独奏のコンサートを行いましたが、この会場において、本格的なクラシック・ギターのレパートリーによるリサイタルとしては2008年以来となります。

 久々に重厚な内容のリサイタルといったところですね、でも2016年にギター文化館で行った19世紀のギター作品によるリサイタルもかなり重厚なプロでしたが。

 今のところまだ具体的に準備など出来ない状態ですが、来月くらいには印刷物など作ろうと思っています。


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 演奏予定曲は次の通りです。

バッハ : 無伴奏チェロ組曲第3番、シャコンヌ(中村編)
グラナドス : 詩的ワルツ集(全曲、中村編)、 スペイン舞曲第5、10番(リョベット編)
バリオス : ワルツ第4番、クエカ、大聖堂






5月31日(日) 14:00   中村ギター教室発表会   ギター文化館

 今年の発表会はギター文化館で行います。 ステージの大きさの関係上、内容は独奏と二重奏(5,6重奏くらいまでは大丈夫)ということになります。

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7月  (日)    水戸市民音楽会     水戸芸術館

 毎年出演している水戸市民音楽会ですが、日にちはまだ決まっていません。 毎年7月中の日曜日に行われます。






10月31日(土)   第19回水戸ギターアンサンブル演奏会    ひたちなか市文化会館

 隔年に行っている(ひたちなかGMフェスティヴァルと交互に)水戸ギターアンサンブルの演奏会です。 

 今年はこれまで何度か演奏した「カルミナ・ブラーナ」とピアソラのタンゴなどがメインです。 

 宮下祥子さんにもゲスト出演していただいて、私と二重奏をやる予定です(曲目はソルの幻想曲作品54bis)。 


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11月   第3回ICGアンサンブル演奏会    ギター文化館

 今年もICGアンサンブルの演奏会を行うつもりですが、日にちはまだ決まっていません。





それでは皆様、今年も中村俊三、中村ギター教室、水戸ギターアンサンブルをよろしくお願い致します。
今年のまとめ


 今年も残すところごく僅かになってしまいました。 恒例の ”今年のまとめ” を行うことにしましょう。 以下、中村ギター教室、及び中村俊三の今年です。



1月20日(日) 中村俊三 新春コンサート   ひたちなか市アコラ

涙のパヴァーン、エリザベス女王のガリアード(ダウランド)
チェロ組曲第1番(バッハ)、 「私は羊歯になりたい」による序奏と変奏(ソル)
ブラジル民謡組曲(ヴィラ=ロボス)
大聖堂(バリオス)


 2か月前に決まったコンサートとしては結構本格的な内容のものでした。 おかげで、年末、年始は練習に明け暮れでした(今年も同じですが)。

ちょっと無理したせいか、指の調子が悪くなりましたが、今は回復しました。




5月3日(金) 第50回クラシカル・ギター・コンクール 日本橋公会堂

 久々にクラシカル・ギターコンクールを聴きに行きました。 最近は若い世代ののギター人口がだいぶ減っていると思われますが、出場者の演奏レヴェルは決して下がってはいないようです。

 ただ、かつてのように中学生、高校生くらいの出場者は少なくなっているようです。 第1位はテデスコのソナタを演奏した山口莉奈さんでした。




6月2日(日) 中村ギター教室発表会   ひたちなか市文化会館小ホール


 今年の発表会はひたちなか市文化会館で行いました。 私を含めて22人の人が独奏。または二重奏を行った他、水戸ギターアンサンブルの合奏(カルミナ・ブラーナ)も行いました。

 やはりこの会場は他のところよりも落ち着いて演奏で出来ますね。 前回(総合福祉会館)から引き続き出演してる人も多いのですが、それぞれ演奏内容も一歩前進しているようです。



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6月      改築

 家の改築を始めました。当初はちょっと手直しをする程度の予定だったのですが、最終的には部屋を拡げるなど、やや大掛かりな改築となりました。

 部屋が広くなったほか、床や天井、壁、窓なども補修し、かなり断熱効果の高い部屋になったようです。



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7月14日(日)水戸市民音楽会   水戸芸術館

 これも恒例の市民音楽会ですが、出演団体数34で、5時間半という今年もたいへん長いコンサートとなりました。

 企画の趣旨上、なるべく多くの愛好団体に出演していただきたいということなのですが、そうするとコンサートとしては長くなってしまう・・・・・

 そのジレンマを解決する方法はないかということですが、なかなか上手い解決法はないようです。



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8月10日(土) クラシック・ギター・コンサート in ひたちなか


 ひたちなか市文化会館でプロとアマチュアのギタリストによるコンサートが行われました。

 プロは東京国際ギターコンクール優勝の小暮浩史さん、黒田公子さん、谷島崇徳さんと私などで、他十数名の方が出演しました。



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10月19日(土)第3回ひたちなかGMフェスティヴァル

 GMフェスティヴァルは、今回10団体の出演でした。 台風被害の直後で、集めた参加費の中から1万円ほど義援金として寄付しました。

 そうしたこともあってか、今回は観客の方がやや少なかったのが気になるところでした。



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11月1日(金) 映画「マチネの終りに」上映開始

   待望(?)の「マチネの終りに」の映画の封切です。新聞などでもかなり大きく広告が載っていたので、満員で映画館に入れなかったらどうしようなどと心配したのですが、全くそんな心配は不要でした。

 ほとんど今まで映画館などに行ったことがなかったので、他の映画がどうなのかはわかりませんが、封切日でもそんなに混むわけではないようですね。

 映画化の関係上、ストリーなどは原作とちょっと違うようですが、内容はとてもよかったです。 福山雅治のギター演奏シーンもすばらしいものでした。



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11月21日(木) 第2回ICGアンサンブル演奏会

 昨年から始めたICGアンサンブル演奏会の2回目です。 昨年同様7人の茨大ギター部同期で演奏を行いました。 昨年よりほんの少し内容が良くなったように思います。 

長年ギターを中断していた仲間もだいぶ勘が戻ってきたように思います。


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12月15日(日) 福田進一マスタークラス ギター文化館

 前日の12月14日に福田先生のリサイタルがあったのですが、それには行けず、15日のマスター・クラスの方に行ってきました。 生徒さんの田澤さんも受講しました。

 創がレッスンを受けている時は、私もほとんど聴いていたのですが、その後しばらくは聴いていなくて、十数年ぶりに福田先生のレッスンを聴くことになります。

 福田先生のレッスンを聴いていると、いつも私が生徒さんに言っていることと近いことも言っています。 私が創のレッスンを聴きながら覚えたことも多いのでしょう。




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それでは、今年も残すところ、本当に僅かとなりました。 読者の皆さま、来年もよろしくお願いします。
バッハ:無伴奏チェロ組曲 24


パブロ・カザルス   1936~39年録音



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EMIの復刻CD 2000年頃発売



世界初全曲録音

今回から無伴奏チェロ組曲(全6曲)のCDの紹介です。

 無伴奏チェロ組曲の録音といえば、まずはやはりこの全曲世界初録音と言われているパブロ・カザルス盤を上げなけれならないでしょう。

 カザルスについてはいろいろなところで紹介されているので、あえてここで紹介する必要もないと思いますので、他のサイト、あるいはカザルスについて書かれた本、あるいはCDのブックレットなどを参考にして下さい。



ある程度は演奏されていたと思われるが

 そうした文章ではカザルスがそれまで忘れ去られていたバッハの無伴奏チェロ組曲を再発見し、その音楽の偉大さを世に知らしめたとされています。

 確かにカザルスの貢献度を極めて高いものと思われますが、しかしそれまででも、バッハの無伴奏チェロ組曲が一般から完全に忘れ去られてしまったわけではなかったのでしょう。

 タレガが無伴奏チェロ組曲第3番のブレーをアレンジしていたことなどからも(「ルール」としてだが)、ある程度は演奏されていたと思われます。

 しかし、6曲を通しての演奏はもちろん、一つの組曲でも全曲とおして演奏されることは稀だったようです。

 因みにカザルスは1910~20年代に無伴奏チェロ組曲一部の曲を録音しています。



リマスターによって音質などは異なる

 この全曲録音盤(1936~39年)の録音方式としてはSP録音の後期、いわゆる”電気録音” と言われるものの時代で、現在はその復刻版CDが何種類か出ています。

 何種類かのCDが出ているといってももとは同じ音源で、リマスターが何種類かあるということです。 そのリマスターの仕方で、それぞれ若干の音質の違いがあるようです。

 私が持っているのは2000年頃CD化されたEMI盤で、SP独特のノイズはほとんどカットされていて、SP盤音源のCDとしては聴きやすいものと言えます。  しかし、ノイズを除去した分、本来の音も削られてしまっているとも言えます。

 Opus盤など、もう少し音来の音を残したリマスター盤もあるようですが、おそらく”チリチリ”といったSP盤独特のノイズもある程度残されていて、 どちらをとるかは好み次第ということになるのでしょう。




低音は強調されている

 第1番ト長調から聴いてゆくと、まず最初の低音 「ソ」 がかなり長く演奏されています。 多くのチェリストはこうした低音を本来の音符の長さよりも長く演奏していますが、それにしてもカザルスはかなり長く、16分音符が付点8分音符、つまり3倍くらい引き延ばして演奏しています。

 これはチェロの場合、低音を響かせながら上声部を演奏することが出来ないための手段といえますが、低音を強調する意味もあるでしょう。



16分音符は不均等の長さで

 プレリュードなど16分音符を中心に書かれた曲が多いのですが、その場合、1拍4つの16分音符は均等の長さで弾かれることは少なく、ほとんど不均等の長さで演奏されています。

 前述とおり、4つの16分音符の最初のものがバス(低音)に当たる場合は必ず長く、しかもかなり長めに奏され、そうでない場合でも拍節感を出すために最初の16音符は長くなる場合が多いようです。

 その他、そのフレーズの頂点になる音や、和声的に意味のある音など、特徴的な音も長く演奏しています。

 こうした事は他のチェリストも行っていますが、カザルスの場合はそうしたことが比較的はっきり行われています




カザルス以来の習慣?

 以前書いたことですが、カザルスは第1番のプレリュードの中央付近(26小節)で、B♭をBナチュラルで演奏しています。 私の知る限りでは譜面ではどの譜面もB♭となっていて、和声的にも属9の和音と思われるので矛盾はありません。

 ギタリストの場合はほとんどB♭(ニ長調のアレンジだとF)で演奏していますが、多くのチェリストはカザルス同様ナチュラルで弾いています。おそらく増2度の進行を嫌ったためと考えられますが、よくわかりません。


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アルマンドは速めのテンポ

 アルマンドは今現在私たちが思っているイメージ(中庸、あるいはやや遅めのテンポ)と言ったものからすればかなり速めのテンポで弾いています。

 続くクーラントは現在のチェリストとだいたい同じくらいの速さなので、クーラントとのテンポの差はあまりありません。



かつてのペータース版では、4分音符=104

 そう言えば、私が持っている無伴奏チェロ組曲の譜面は1970年代くらいに買ったペータース社版とCDのオマケに付いていた旧バッハ全集のものなのですが、このペータース版ではアルマンドに、 4分音符=104  というメトロノーム数が書かれています。

 もちろんこれはバッハが書いたものはなく(そもそも、バッハの時代はメトロノームなどなかった!)、出版社などで付けたものです。

 このアルマンドはほとんど16分音符で書かれていますから、この104というのはかなり速いテンポです。 さすがにカザルスもこのテンポでは弾いてなく、90台といったところです。




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かつてのペータース版ではアルマンドが4分音符=104となっている。これはかなり速いテンポ




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同じく、第4番のアルマンドはなんと126! こんなテンポで弾いた人、本当にいるのだろうか。




第4番のアルマンドでは126の数字も

 さらに第4番のアルマンドは 126 と書かれ、同じく16分音符で書かれているので、これは相当に速いテンポです。

 同時代のピアノ譜面でもアルマンドにはかなり速いテンポの指示がされていますから、 かつてはアルマンドは遅い曲というより、速い曲といった考えがあったようです。

 かつては平均律曲集や無伴奏のヴァイオリン、チェロ曲などは ”ただの” 練習曲と思われていたようですから、そういったことも影響しているのかも知れません。




カザルスの演奏が反映されている。

 このペータース版では、これらのメトロノーム数や速度標語、強弱記号などが書かれていますが、もちろんそれ等はバッハが書いたものではなく、出版に際に付け加えられたものです。

 これらの記号が書かれる根拠となったものは19世紀後半から20世紀前半くらいの時期の考え方と思われますが、 よく見るとこれらの強弱記号などはカザルスの演奏と相関関係があるのがわかります。

 このペータース版が実際に出版された時期はカザルスの演奏よりも後と思われるので、カザルスの演奏がこの譜面に影響を与えた可能性もあります。

 その一方で、まだエチュード的な捉え方もあったので、速度記号などはカザルス以上ものが付けられていたのでしょう。




力強くキビキビとした演奏

 カザルスのCDに戻りますが、何と言ってもSP盤からの復刻CDなので音質についてはあまり多くを語れませんが、このCDで聴く限りでは、カザルスの音は大変力強く、最近のチェリストのように軽く、爽やかで、美しいと言った音ではないようです。

 テンポは全体に速めで、キビキビとしています。 じっくりと、やや遅いテンポで演奏される傾向だった1960~70年代のチェリストの演奏よりは今現在のチェリストの演奏に近い感じもします。

 カザルスの録音は、発表以来多くの人に愛され、格別高い評価を受け、神格化さえされたものですが、その後多くのチェリストに影響を及ぼしたのは言うまでもないことでしょう。 いろいろな意味で、はやり避けては通れない演奏でしょう。