中村俊三 ブログ

中村ギター教室内のレッスン内容や、イベント、また、音楽の雑学などを書いていきます。

組曲「スペイン」より
 プレリュード、マラゲーニャ、カタルーニャ奇想曲、タンゴ


 一般に、組曲「スペイン」と邦訳されているこの組曲ですが、原題は、Espana Seis hojas de album で、「エスパーニャ〜6葉の音楽帳」と直訳出来ると思います。でもこれを、組曲「スペイン」と訳すると、他に「グラナダ」や「セビリャ」で有名な「スペイン組曲作品47」もあるので、ちょっと紛らわしいです、もっと別の訳がなかったのでしょうか。この組曲「スペイン」は1890の出版ということで、アルベニスとしてはスペイン的書法にも熟達した「盛期」と考えられます。実際にはこの組曲は前述のとおり6曲からなり、プレリュード、タンゴ、マラゲーニャ、セレナータ、カタルーニャ奇奏曲、ソルチコの順になっています。今回演奏するのはそのうち上記の4曲ですが、チューニング等の関係もあり、このような順で演奏しようと思います。



プレリュード

 「プレリュード」は演奏時間2分ほどの短い曲で、前述のとおり「ラ」を主音としたフリギア調による単旋律を中心に書かれています。独立した曲というよりプロローグ(前口上)的で、次の「タンゴ」に繋げるための曲といった感じです。ニ長調のタンゴの属和音で終わり、繋がりやすくなっています。アルベニスが書いた組曲のほとんどは続けて演奏するためのものというより、単なる「曲集」といった性格の方が強いのですが、この組曲「スペイン」はそれぞれの曲の調に関連性があり、6曲を連続して演奏することを念頭においているようです。この短いプレリュードはギターでは(ピアノでも)ほとんど弾かれることのない曲だと思いますが、ギターにはよく合い、演奏次第ではギターの美しさも十分に出せるのではないかと思います。もともとがシンプルなので、ギターへのアレンジもほとんど無理なく、私の編曲もほぼ原曲どおりの音になっています。調も原調のままです。



マラゲーニャ

 この曲はこの組曲の第3曲で、この組曲の中では比較的演奏される曲です。定型的な音形にのせて旋律を歌わせるという、比較的シンプルな曲ですが、ギターで演奏する場合は伴奏の音形を崩さず、かつメロディを歌わせるのはそれなりの技術が必要でしょう。主部は前述のとおりフリギア調で出来ていますが、中間部は主要3和音のみの長調になっており、メロディとアルペジオが交互に出てくるもので、「入り江のざわめき」よりもシンプルになっています。原曲はシャープ一つ、つまり「シ」を主音としたフリギア調で、中間部はト長調になっています。イエペスをはじめ多くのギタリストは1音上げてシャープ3つ(「ラ」を主音としたフリギア調)で演奏しており、私のアレンジもそれを踏襲しています。曲名どおりフラメンコ的な曲ですが、軽快で、親しみやすい感じがあります。



カタルーニャ奇想曲

 この曲は第5曲目になりますが、アルベニスの生まれ故郷のカタルーニャの名が付けられています。カタルーニャ地方の人々は歴史的に独立心が強く、スペインの王権と対立していました。現在でも、サッカーでバロセロナとレアル・マドリッドの試合が白熱するのはその名残と言われています(レアル=王室)。アルベニスの音楽には特にそうしたことを意識している点はないようですが、でもこの曲には故郷への思いとか、郷愁といったものが込められている感じがします。原曲は変ホ長調で4分の2拍子、アレグレットで書かれています。全曲にわたってシンコペーションの伴奏が付いていますが、リズミカルな曲というより、メロディを歌わせる曲となっています。曲の終わりは、私たちにはなじみの深い5音音階のパッセージと、変化された女性終止で郷愁を誘うように優しく閉じられます。


タンゴ

 アルベニスのタンゴは、アルベニスの作品のうちでは一般に最も知られている曲でしょう。原曲のピアノはもちろん、ヴァイオリンでもよく演奏され、またタンゴのスタンダードとしてタンゴのバンドでも演奏されます。もちろんギターでもよく演奏されます。この曲の魅力はなんといってもその美しい旋律にあると思いますが、和音は上記の曲などからするとはるかに複雑なものになっています。いわばロマン派後期の拡大された機能和声というところでしょうか。3分弱の、聴いた感じでは特に難しく感じない曲ですが、ギターで演奏する場合、この和音をちゃんと鳴らしつつ、リズムを正確に刻み、さらにこれが最も大事なことですが、美しくメロディを歌わせるは、決して簡単なことではありません。隠れた難曲でしょう。原曲はニ長調で、ギターで弾く場合もほとんどこの原調で演奏されます。この曲のみ私自身のアレンジではなく、アンドレ・セゴビアの編曲を用いていますが、単純ミスと思われる部分や、原曲と矛盾する箇所、また私の技術に合わない箇所などは若干修正して演奏しています。


入り江のざわめき 〜「旅の思い出」より


 しばらく間があいてしまいましたが、12月13日のアルベニスのコンサートの曲目紹介の続きです。前回(1ヶ月近く前になってしまいますが)はパヴァーナ・カプリッチョの紹介をしましたが、今回はギター曲としてたいへん人気の高い「入り江のざわめき」です。


 この曲は1886年頃出版された「旅の思い出」作品71.B (Recuerdos de viajo)に含まれ、全7曲中の第6曲となっています。原題は Remores de ra Caleta で、「Remores」は「うわさ」とか「つぶやき」、「ざわめき」、「せせらぎ」とかいった意味のようです。かつては「入り江のたより」つまり「入り江のうわさ話」といった邦訳になっていたのですが、現在ではこの「入り江のざわめき」といった訳に統一されているようです。つまり「入り江にある港町から聴こえてくる賑わい」といった意味なのでしょう。因みにこの「入り江にある港町」とは地中海に面したマラガ港を指しているものと思われます。楽譜には明記されていませんが、曲はマラゲーニャのリズムで出来ています。


   入り江

                  原曲のピアノの譜面



 上の原曲の譜面はフラット一つで、一見、ニ短調のように見えます。しかし実際は、ニ短調ではなく、「ラ」を主音とした「フリギア調」で出来ています。つまりヘ長調の第3音の「ラ」を主音とした音階を用いたものです。ギターではこの調では弾きにくいので、普通シャープ、フラットなし(一見、イ短調)の、「ミ」を主音としたものに移調して演奏しています。私が持っているギター譜の中には、この曲がフリギア調であることを知ってか知らずか、曲の最後にイ短調の主和音を付け加えているものがあります。またそうした演奏も聴いたことがあります。曲が属和音で終わるのはおかしいというので(確かに属和音で終わっているようにも見える)、常識的判断として付け加えたのでしょう。もちろんこれこそ本当の蛇足!


 このフリギア調というのはフラメンコではよく用いられるもので、スペイン的な音楽を書く時、多くの作曲家がこの旋法を用いています。今回演奏するアルベニスの曲のうちこの「入り江のざわめき」の他、組曲スペインの「プレリュード」、「マラゲーニャ」がこの旋法を用いています。スペイン的な音楽を書いたアルベニスですから、当然このフリギア調の作品はあるわけですが、数的にはそれほど多くありません。またその作品もどちらかといえばシンプルなもや、短いものが主となっています。何回かお話したとおり、アルベニスは基本的にはロマン派的な作曲家なのでしょう。


 主部は前述のとおりマラゲーニャのリズムで出来ていて、テンポも速く、熱狂的に踊る感じになっています。中間部は16部音符のシンプルなリズムの伴奏を伴う歌となりますが、特に遅くとは書いてありませんがrit.などのテンポの変化の指示は多くなっています。またここは”普通”の長調となっていて(ギター譜の場合ハ長調)、前後のフリギア調の舞曲と対比されています。


 ギター譜としてはいろいろなものが出ていて、原曲に近いものから、やや離れているものもありますが、大きなところではそれほど違いはありません。今回演奏する私のアレンジは私の技術の範囲内で、出来るだけ原曲に近くしてあります。主部のアルペジオも原曲どおり3連符にし、中間部の伴奏部も出来る範囲で原曲に忠実にしてあります。この曲は、かつてはイエペスなどの演奏でよく知られ、アルベニスの曲の中ではアストゥリアスと並ぶ人気曲だったのですが、最近では弾かれる機会が若干少なくなったような気もします。フラメンコぽさではアストゥリアス以上です。

今日ひたちなか市アコラで北口功さんのリサイタルを聴きました。予定されたプログラムは以下のとおりです。


使用楽器 : マルセル・バルベロ・イーホ [Marcelo Barbero Hijo 1991]

  ・ソル/第七幻想曲

  ・シューベルト/セレナーデ(メルツ編曲)

  ・モンポウ/「コンポステラ組曲」よりプレリュード

  ・バッハ/「無伴奏ヴァイオリンパルティータ第1番」より
        テンポ・ディ・ボレアとドゥーブル


使用楽器 : 松村雅宣 [Masanobu Matsumura 2000]

  ・タレガ/涙  アデリータ

  ・アルベニス/アストゥリアス(北口編曲)

  ・ヴィラロボス/プレリュード第1番

        休憩

  ・ヴィラロボス/ショーロ第1番

  ・武満徹編曲/ロンドンデリーの歌

  ・バリオス/フリアフロリダ
          ディノーラ
          クリスマスの歌


使用楽器 : アルカンヘル・フェルナンデス [Arcangel Fernandez 2007]

  ・シューマン/トロイメライ(バリオス編曲)

  ・アルベニス/セビーリャ(リョベート編曲)
      


 上記のように3台の楽器を使用してのコンサートで、サロン・コンサートの域を超えたボリュームのプリグラムです。コンサートの前半で会場内で具合が悪くなった方がいて、一時騒然となりましたが、とりあえず大事はなかったようです。そうした関係で、バッハの「テンポ・デ・ボレア」の前にバッハの「ロンド風ガヴォット」が追加されました。


 冒頭からソルの大曲で、とても力強い演奏でした。間近で聴いたせいでしょうか、以前聴いた時よりもいっそうパワー・アップして聴こえました。メルツ編のシューベルトの「セレナーデ」は、リスト編を基にしたというかなり難しいアレンジですが、それを感じさせない演奏でした。バッハの「テンポ・デ・ボレア」と「ドゥーブル」はかなり速いテンポで、これも力強く演奏され、積極的を通り越して「超攻撃的」とでも呼びたくなるような演奏で、聴いていて興奮を覚えるものでした。


 「北口編」とされた「アストゥリアス」は既存のアレンジとは全く違うもので、強いて共通点といえばホ短調であることくらいかも知れません。アルベニスの原曲の譜面を基に、北口さん自身の考えに従って一から編曲したものと考えられます。主部の16部音符が連続するところは、原曲どおりスタカートで演奏しています。私も試みてみたのですが、これが意外と難しく、すべての音を同じように切るのは簡単ではなく、また左手を浮かしながら弾かないといけないので、どうしても細かいミスが出やすくなります。そういったわけで私の場合は断念し、従来どおりの弾き方にしてしまいました。北口さんはこれを何の問題もなくやっています。


 細部を挙げればきりがないのですが、北口さんのアレンジは従来のアレンジとは異なり、原曲にかなり近いものになっています。その中でも私が特に気になったのは、前に書いた本来低音が「ラ♯」(ギターのアレンジで)になるところです。普通のギターのアレンジではここは8フレット・セーハで、低音が「ド」になっているところです。ここを原曲に忠実に「ラ#」にするととても難しくなってしまい、普通「ド」で代用しています。確かに弾きやすく、またちょっと聴いた感じでは響きに違和感もないのですが(きれいに響きすぎ?)、こうするとロマン派の音楽ではあってはならない「連続8度」が生じてしまいます。前にも言いましたが、この曲は一見典型的なスペイン音楽のようですが、実際は完全に古典的な和声法(機能和声)に従って書かれています。そうしたわけで、本来はこのようなアレンジはよくないのですが、私の場合はやはり技術的な関係上やむを得ず従来の方法に従っています。


 北口さんの場合は低音を「ミ」にしているようですが、聴いた感じでは「ラ#」が目立つように演奏していました。たいへん巧妙な方法だと思いました。セゴビアは確かに「ラ#」にしていますが、そのかわりその部分でテンポを落としています。要する北口さんはテンポを落とさず、なおかつ連続8度をさけ、結果原曲に近い響きを出していました。


 ちょっと細部にこだわりすぎたかも知れません。北口さんのコンサートは私もこれまでも何度か聴いていて、その度にとても気持ちのこもったコンサートだと感じていましたが、今回は、さらに意志の強さみたいなものを感じました。その穏やかな語り口調とは裏腹に、とても力強く、情熱的でエネルギッシュなコンサートだったと思います。なんといっても一回一回のコンサートにかける意気込みを感じました。


 アンコール曲としてバリオスの「森に夢見る」が演奏されました。北口さんの得意なレパートリーの一つだと思います。
イサーク・アルベニス ピアノ協奏曲第1番(幻想的狂詩曲)作品78

  1887年初演 〜1967年オーケストラ譜発見


   pino : Felicja Blumental      conductor : Alberto Zedda      Torino Orchestra


 アルベニスの作品はほとんどピアノ独奏曲なのですが、オペラや協奏曲も作曲していることは以前にも書いたと思います。最近ではそれらの曲も録音されていて、CDなどで聴く事が出来ます。このアルベニスのピアノ協奏曲については、HMVのネット・ショッピングで2種類ほど入手可能で、今回のものはその一つです。


 このブログを読んでいる方のうち、どれくらいの人がこの曲を聴いたことがあるのかわかりませんが、かなり稀な曲であるのは確かでしょう。おそらく演奏されたり、録音されるようになったのも比較的最近のことと思います。上記のように一時オーケスラ譜が不明となり、1967年に再発見されたようですから、なおさらだと思います。因みにこのCDの録音は2002年となっています。


 この曲の第1楽章の冒頭は、ロマン派の協奏曲の典型的な感じです。一応譜面も載せておきましたが、私が採譜したもので、多少違っているとは思いますが、「だいたい」で見てください。


アルベニス協



 上の方はオーケストラで演奏される、第1主題と思われるものですが、情熱的な感じで、アルベニスというより、シューマンか、ブラームスのように聴こえます。少ししてピアノもオーケストラを伴いながらこのテーマを演奏し、しばらくはこのテーマを中心に曲が進んで行きます。下のほうは第2主題と思われるもので、ホ長調に変わり、テンポもゆっくりになります。こちらの方はスペイン的ではないとしても、アルベニス的というか、アルベニス好みのメロディといった感じで、スペイン組曲の「キューバ」などにちょっと似ています。


 第2楽章はゆっくり、静かな感じの「Reverie」と速い「Scherzo」の二つの部分からなり、後半のスケルツィオは第1楽章の第2主題を素材として用いています(嬰ヘ長調→ロ短調)。第3楽章(アレグロ)の方は第1楽章の第1主題を用いています(ロ短調→イ短調)。以上のようにこの協奏曲は3楽章の形になっていますが、3つの楽章は同じ素材からなり、これもロマン派の音楽の特徴を示しているといってもよいでしょう。


 ちょっと聴いた感じでは、確かにロマン派の典型的な協奏曲といった感じですが、最後まで聴くとシューマンやブラームスの音楽のように情熱的とか、緊張感のある音楽ではなく、もう少し穏やかというか、ドボルザークの音楽のように和む感じの音楽にも感じます。確かにメロディの美しさで聴く音楽かも知れません。このアルベニスのピアノ協奏曲は、ショパンやシューマン、ブラームス、チャイコフスキーといった大作曲家のピアノ協奏曲と同一のレヴェルで語ることは出来ないかも知れませんが、とても親しみやすい曲で、何回か聴いているうちに愛着も感じるようになりました。皆さんも出来れば自分の耳で確かめてください。


 なおこのCDには同じアルベニスの「スペイン狂詩曲」=(ピアノ&オーケストラによる) も入っていて、こちらはスペインの民謡を素材として用いているようで、協奏曲よりもスペイン的な感じがします。他にTavaresという作曲家の「ブラジリアン・フォームによる」協奏曲も収められています(実際はこちらのほうがメイン)。前述のとおり21世紀の録音ですが、残念ながら音質はイマイチです(もう1種類のCDほうが音質はようという話)。


 今日発表会に来ていただいた方々、たいへんありがとうございました。

 
 今回はこの発表会に初めて出演する人、あるいはステージで初めて演奏するという人も多かったのですが、それぞれなかなかよい演奏だったように思います。練習では出来ていても、なかなかステージでそのとおり演奏するのは難しいのですが、ステージの「そで」で聴いていて、これまでのレッスンでやってきたとおり、メロディを歌わせたり、表情の変化など、とても音楽的に演奏出来た人が多かったように思います。


 誰しもステージなどで演奏する時はとても緊張して、若干細かいミスなどは多くなるとは思いますが、しかし一方では、多くの人聴いてもらうということは、普段よりずっと音楽的に演奏できることもあるということなのでしょう。やはり音楽、あるいは演奏というものは聴いていただく人がいて、初めて成り立つものなのだと思います。


 今回は3つのグループによるアンサンブルも行いました。私の教室では基本的に個人レッスンなので、普段はそれぞれの生徒さんどうしが顔を合わせる機会は少ないのですが、同じギターをやっている人どうしが集まるよい機会になったのではと思います。アンサンブルも発表会も初めてという人が多かったのですが、しっかり合わせられたと思います。


 最近は小さい子供たちの出演者が少なくなってしまいましたが、でもその子供たちを見ていると年々ギターが上手になってゆくのはもちろんですが、年々大人に近づいてゆくのも感じとれます。これから場合によっては一時的にギターを離れることもあると思いますが、生涯の友達であってくれればと思います。


 今回は残念ながら体調などの関係で急に出場できなくなってしまった人もいましたが、次回はもっと多くの人に出場していただければと思います。