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中村俊三 ブログ

中村ギター教室内のレッスン内容や、イベント、また、音楽の雑学などを書いていきます。

 CD22 マキシモ・ディエゴ・プホール:ギター二重奏曲全集   ~ピアソラ風のタンゴ二重奏曲

 マキシモ・ディエゴ・プホール(1957~)はタンゴの巨匠、アストル・ピアソラ風のギター曲を作曲している人です。確かに聴いた感じではピアソラの曲に似ていて、こCDの2曲目の「ミロンガ」などはほとんど「ブエノスアイレスの冬」に聴こえます。演奏者(ジョルジオ・ミルト、 ビクトル・ビジャダンゴス)については情報がありませんが、技量も高く、また音も美しく、この音楽を過不足なく表現しているように思います。ミルトの方は10弦ギター使用とのことです。これも聴いていてとてもくつろげる1枚です。


 
 CD23 カステルヌーヴォ=テデスコ:ギター協奏曲全集   ~テデスコの3曲の協奏曲

 ロレンツォ・ミケーリはイタリアのギタリストと思いますが、ナクソスの方でもタデスコのギター独奏曲集を出していて、テデスコのスペシャリストなのかも知れません。またナクソスとブリラントをまたいで録音しているギタリスト多いようですね、このようなこともこうしたレーヴェルの特徴なのかも知れません。「二つのギターのための」はマッシモ・フェリチとロレンツォ・ミケーリ、「第1番」はミケーリ、第2番はフェリチが演奏しています。曲目リストのほうに3つの協奏曲の他に「変奏曲によるサラバンド」というのがありますが、これは別個の曲ではなく「第2番」の第2楽章のことのようです(でもどうせ書くなら「サラバンドによる変奏曲」?)。

 「第1番」はセゴビア献呈された曲で、明るく、はつらつとしていてなかなか楽しめる曲です。この曲もアランフェス協奏曲に次ぐギター協奏曲の名曲でしょう。「第2番」は確かパークニングのために作曲された曲だったと思いますが、「二つのギターの・・・・」は誰だったかな・・・・。 オーケストラの技量はすごく高いとはいえないかも知れませんが、まず問題はないでしょう。


 
 CD24 ジラルディーノ:超絶技巧練習曲第1集    ~楽譜の校訂で有名なイタリアのギタリストの作品
 
 アンジェロ・ジラルディーノと言えば、楽譜の校訂者として知られていますが、作曲もしていたことはこのCDで初めて知りました。12曲の練習曲が収められていますが、作風としては前衛的(最近この言葉はあまり使われなくなってきたかな)で、無調的、あるいは12音技法的のようです。最近のギター曲に多くみられる、パーカッション的な特殊技法はあまり使われず、純粋な音程関係のみで作曲されています。またポピュラー音楽的な要素やリズムも使われてなく、いわば「正統的な」前衛音楽といったところでしょうか。12曲ともそれぞれ副題が添えられ、バルトーク、ベルク、プロコフィエフ、ヴィラ・ロボスなどの現代音楽の作曲家へのオマージュもあります。なお演奏しているギタリスト(クリスティアーノ・ポルケッド)については詳細はわかりません。



 CD25 ブローウェル:ギター独奏曲集

 いよいよ最後の25枚目は、キューバの作曲家、レオ・ブローウェルの「20のシンプルな練習曲」に、ブロウェルの作品としては人気の高い「黒いデカメロン」と「舞踏礼賛」が収められたCDです。ブローウェルもかつてはギター界における、前衛音楽の旗手などと言われましたが、こうして聴いてみると、すっかり耳に馴染んでいて、普通の(?)ギター曲という感じがします。

 同じ前衛音楽でもシェーベルクなどの無調、あるいは12音技法的ではなく、不規則なリズムに特徴があったり、民謡てきな旋律、あるいは旋律の断片を使っていたりで、強いて言うならストラビンスキーなどの路線に近いのかも知れません。 「黒いデカメロン」や「舞踏礼賛」は今や定番的なギターのレパートリーで、「シンプル・エチュード」は現代音楽への導入として、欠くことの出来ない教材です。ジョヴァンニ・カルーソの演奏は的確で、力強い演奏です。



 次回は「ギター上達法

 一応これで全部紹介し終わったことになりますが、このCDを購入した方も全部聴くのはなかなか大変だろうと思います。もちろん聴きたいCDだけ聴けばよいのだと思いますが、その際、この記事などを参考にしていただければ幸いです。この「格安CD紹介」はいずれまた再開したいと思いますが、とりあえずこの辺でシメておきましょう。次はまた「ギター上達法」を復活しようと思っていますが、じっくり考えないといけないところもあるので、このあとちょっと間があくとは思います。



 *限定15部

 今日、現代ギター社のOさんが私の家に来られ、いろいろな新刊書を紹介した後、「これは残りあと15部しかない貴重なものです、この際、先生1冊いかがですか」とバリオスの洋書を差し出しました。その本は英語とスペイン語で書かれたもので、後ろの方にはバリオスの自筆譜の写真がありました。価格を聞くと2~3万円すると言うので、「考えておきます」と返事をしてしまいました。

 その本を眺めているうちに、前回の「ワルツ第3番」ことを思い出して、その箇所を見てみたのですが(最初から32小節目の2拍目の「シ」~『B』の部分の5小節目)、確かにナチュラル記号は付いていないのですが、付けてある運指からすると、間違いなく「ナチュラル」と考えられます。どうやらこの「シ」の音はナチュラル記号の脱落と考えた方いいようです。ギタリストの作曲した曲は運指の方が信頼できるということもあります。これからこの曲を演奏する人はナチュラルになおしたほうがよいと思います。

 因みに記されている運指ではこの小節全体が「セーハ10」となっています。また冒頭の部分はバリオス自身、8分音符を詰め気味に弾いていて、ほとんど3連符のように弾いています。従って他のギタリストもほとんどの人が3連符で弾いていますが、譜面のほうにはしっかりと「普通の」8分音符で書かれています。つまり一般的な譜面どおりに8分音符で弾いても悪くはないということだと思います。もしかしたら自分以外の人はそう弾いた方がよいと思っていたのかも知れません。

 と言ったように、この本を買わずに立ち読みならぬ「座り読み」して、なお且つ当ブログの記事に活用してしまいました。Oさんごめんなさい。代わりにといっては何ですが、お金に余裕のある人と、バリオスに強く興味がある方はぜひこの本を買って下さい。早く決断しないとなくなってしまいますよ!
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CD20 ロドリーゴ : ギター協奏曲集   ~アルフォンソ・モレーノ  ロドリーゴの3つの協奏曲

 そう言えば最初に挙げたCDの曲目リストにこのCDだけ抜けていました(HMVのコメントは間違いが多い!)。曲目は有名な「アランフェス協奏曲」、「ある貴紳のための幻想曲」、「ある宴のための協奏曲」の3曲で、最初の2曲については説明不要と思いますが、「ある宴のための協奏曲」は1982年の作曲ということなので、ロドリーゴが80歳を越えてからの作品ということになります(ホアキン・ロドリーゴ 1901~1999年)。ファリャの「7つのスペイン民謡」に出てくる旋律などを基にしているようです。

 モレーノのパワフルな演奏は、ポンセの協奏曲の場合と同じなのですが、やはり同じく音質はあまりよくありません。録音の関係ということにしておきましょう。



CD21 バリオス : ギター曲集    ~再びフォルホースト

 再びエンノ・フォルホーストの登場ですが、このギタリストはこのコレクションで私が初めて聴く人と思っていたら、私のCD棚に「バリオス・ギター曲集Ⅱ ~ナクソス盤」というのがありました。以前に何枚かのCDと一緒に取り寄せて、後で聴いてみようと思っているうちに忘れてしまったようです。だんだん自分で持っているCDも管理できなくなっているかな? 

 こちらのブリラント盤の方が「バリオス曲集Ⅰ」にあたり、1994年に録音されていて、このギタリストのデビュー盤にあたるそうです。なぜか二つのレーヴェルをまたいでバリオス全集を録音しています。「デビット・ラッセルに関係があるのかな?」と前に書きましたが、確かにデビット・ラッセルに師事したと書かれています。

 演奏内容は、バッハの時と同じく、とてもがっちりとした音楽作りです。曖昧さとか、ごまかしはなく、作曲家が残した音符と、そこから帰結される作曲家の考えやイメージを現実の音にしてゆく、といったタイプのギタリストのようです。また歌わせ方はあくまで自然で、無表情でもなく、また極端な感情移入も避けられています。このバリオスの演奏からはより真面目さが感じとれます。確かにデビット・ラッセルに近い音質や音楽へのアプローチがみられ、「さらに真面目なデビット・ラッセル」といったところでしょうか。もちろんデヴィット・ラッセルもたいへん真摯な態度で音楽に取り組むギタリストですが、それでもまだラッセルの演奏には、多少なりとも「遊び」や「即興性」みたいなものも感じます。このフォルホーストの演奏ぶりは、そのラッセル的な方向性の中から、枝葉的なものを切り捨て、より純化したような音楽に感じます。
 
 一曲目の「ワルツ第3番」はバリオス自身の演奏を基にした譜面のようですが、中ほどで、普通「シ♭」で演奏される音を「シ-ナチュラル」で弾いているところがあります。改めてバリオス自身の演奏を聴いてみましたが、何といっても”ものすごい”音質(もちろん良くない方)で、なお且つその音が2回とも不明瞭に弾かれていて、よくは聞き取れないのですが、やはり「ナチュラル」になっています。 譜面の方もよく見てみると、和声法的にも「ナチュラル」と考えた方が妥当性があるようです。他の部分もバリオス自身の演奏にかなり忠実に弾かれ、そんなところにも「真面目さ」が出ているのでしょうか。因みに、ウィリアムスやラッセルなど他のギタリストのほとんどはその部分を「シ-♭」で弾いています。

 「パラグアイ舞曲第1番」はめずらしい二重奏バージョンで演奏しています(共演は Hein Sanderink)。また前述のナクソス盤の「バリオス曲集Ⅱ」の方にはタレガの「ラグリマ」をテーマにした変奏曲が収録されています。12分ほどの結構長い曲で、初めて聴きますが(本当はもっと前に聴いているはず!)、なかなか面白い曲です。
 
クラシカル・ギター・コレクション、あと10枚なので、一応全部紹介してしまいましょう。



  CD12、13  ソル、コスト : 二重奏曲集  ~ラコートを使用してのオリジナル版

 ジュリアーニの二重奏曲集と同じく、クラウディオ・マッカーリとパオロ・プリエーゼの演奏ですが、使用楽器は作曲者に合わせて当時のフランスの製作家、ルネ・ラコートの3本の楽器が中心となっています。「慰めOp.34」は普通「アンクラージュマン」と呼ばれていて、ウィリアムスのCDの時にも触れた曲です。主旋律が第1ギターのみになっているオリジナルの譜面を使用していると思われますが、聴いた感じではそれほど違いはありません。主旋律以外の音などを抑え気味に弾いているところはジュリアーニの場合と同じです。

 アンクラージュマンの他、「ロシアの思い出」、「二人の友」、「幻想曲」他、教育的な作品も含めて現存するソルの二重奏曲がすべて収録されています。かつて山下和仁、尚子兄妹も全曲録音していました。

 コストの二重奏曲はなななか珍しいもので、今まであまり録音されなかったものだと思います。「グラン・デュオ」はなかかの力作です。なお最初に記載した曲目リスト(HMVのもの)では「コステ」となっていますが、一般には「コスト」とカタカナ表記されます。
 
 
 
  CD14 ポンセ、カルリ、ヴィヴァルディ : ギター協奏曲   ~アルフォンソ・モレーノ、 ヨゼフ・サプカ

 アルフォンソ・モレーノとヨゼフ・サプカという二人のギタリストによる4曲の協奏曲の入ったCDですが、おそらく本来は別の音源だったのでしょう。アルフォンソ・モレーノといえば、1970年代の後半に水戸でリサイタルを聴いた記憶があります。確かパリ国際ギター・コンクールを優勝してすぐの頃だったと思います。メキシコ出身のギタリストで、とてもパワフルな演奏だったのを覚えています。このCDを聴いてもそのパワフルさは健在なようです。ポンセの「南の協奏曲」は、セゴヴィアのために作曲され、セゴヴィアの録音も残されている曲で、ギター協奏曲としては名曲に数えられると思います。録音データなどは記されてなく、多分1980年代の前半くらいのものだろうと思いますが、音質とオーケストラの力量は今一つの感があります。

 カルリの協奏曲はジュリアーニの協奏曲第1番と同じ時期に作曲された曲で、ジュリアーニの曲同様、初版では管楽器も加わった「フル・オーケストラ」版でしたが、後に弦楽合奏に縮小した譜面が出されたようです。このCDでもその弦楽合奏版になっています。曲の方はとても親しみやすい感じで、カルリの曲としては独奏曲より楽しめるのではと思います。またここには収録されていませんが、カルリのもう一曲の協奏曲「協奏曲ホ短調」も魅力的な曲です。

 ヴィヴァルディの「協奏曲ハ長調」は原曲はマンドリンのための協奏曲で、かつて映画「クレーマー・クレーマー」に使われた曲。「二長調」の方はリュートのための協奏曲で、ギターでは大変よく演奏される曲です。
 
 

  CD15 カルッリ : ギターとピアノ・フォルテのための二重奏曲集   ~19世紀の楽器による二重奏

 曲目リストにはギタリストが「アルフォンソ・モレーノ」となっていますが、これは Leopoldo Sarasino の間違いです。蛇足かも知れませんが、楽器の「ピアノ」の正式名称は「ピアノ・フォルテ」と言い、これは弱音も強音も出せるということで、そう名づけられたのだと思います。もちろん今では面倒なので「ピアノ」と言うようになっています。これはおそらく世界中どこでも同じなのだろうと思います。しかし19世紀初頭くらいまではフルネームで呼んでいたと思われ、現在の習慣として、19世紀初頭くらいまでのピアノは「ピアノ・フォルテ」と呼び、19世紀後半くらいのものからは「ピアノ」と呼んでいます。したがってここで書かれている「ピアノ・フォルテ」は19世紀初頭の楽器で、Felix Gross と言う人の作だと記されています。

 ギターの方もオリジナル楽器で前述のマッカリなどと同じくガダニーニを用いています。曲のほうはさすがカルリらしく、どこかで聴いたことの(弾いたことのある)メロディやパッセージが次々と出てきます。現代のグランド・ピアノよりはこのピアノ・フォルテのほうがギターには相性がよいとは思いますが、基本的にはそれぞれ似た音質で、なおかつ音量が全然違うので、やはり難しい点もあるでしょう。



  CD18 ロマンティック・ギターⅠ   ~ダニエル・ベンケー  一人二重奏によるクラシック名曲

 ダニエル・ベンケーというギタリストは1970年代くらいに名前だけは聴いたことがあります(覚えやすい名前のせいか)。中身の方はシューベルトの「セレナード」やリストの「愛の夢」などクラシック名曲の二重奏と、RocamoraやRohなど、初めて名前を聴く作曲家の曲、およびタレガのアラビア風奇想曲などの独奏曲となっています。ギタリストの名前は一人しか書いてないので二重奏の方はオーヴァー・ダビング(一人二重奏)なのでしょう。このCDの前半と後半が全く違う傾向の曲なので、2種類以上の音源を1枚のCDにまとめたものかも知れません。

 前半の二重奏では、馴染みのあるメロディを美しく聴かせ、また初めて聴く作曲家の曲は、曲も演奏もなかなか興味深いものです。ただ1枚のCDとして聴くとやはりまとまりを欠くように思います。またジュリアーニやピッチニーニなどの曲を聴いた後では違和感も感じます。出来れば別なコレクションに入れてもよかったのでは・・・・・というのは余計なお世話かな。


 
  CD19 ロマンティック・ギターⅡ   ~セゴビアの高弟、アリリオ・ディアス

 アリリオ・ディアスは1923年にベネズェラに生まれたギタリストで、レヒーノ・サインス・デ・ラ・マーサとセゴヴィアに師事し、セゴヴィアのシエナでのマスタークラスでは助教もした人です。録音データ等はありませんが、おそらく1960年代の録音で、楽器もラミレスⅢではないかと思います。ディアスの演奏は、セゴヴィアを彷彿させる演奏で、20世紀を代表するギタリストの一人だと思います。「ロマンティック・ギター」とタイトルされていますが、実質的にはスペイン・ギター曲集です(ヴィラ・ロボスの曲も入っていますが)。

ジュリアーニの曲が9枚

 この25枚のCDのうち9枚はマウロ・ジュリアーニの作品となっていて、このレーヴェルでは特にジュリアーニの作品には力を入れているようです。 ジュリアーニにはかなりの作品がありますが、これまでそれほどたくさんの曲が録音されてきたとは言えません。

 このコレクションには協奏曲や二重奏曲全集などの貴重なもの、また4曲のロッシニアーナとか「セミラーミデ」全曲ギター版など、ロッシーニに関係した曲も多数収録されています。
  


前にも書きましたが

 3曲のギター協奏曲については以前にもこのブログで紹介しましたが、特に有名な「第1番イ長調作品30」は、初版(1808年版)の2管編成のフル・オーケストラ版で演奏しています。 普通、この曲は弦楽合奏版で演奏されることが多く、なお且つジュリアン・ブリーム以来、多くのギタリストは展開部を大幅にショート・カットした形で演奏していました。

 この曲を「聴衆に飽きずに聴いてもらうための賢明で、現実的な処置」ということかも知れません。 しかし、こしたことはやはり悪しき習慣と言えるのではないでしょか、世の中、そんない気短な聴衆ばかりではないと思います。

 私の知る限りではこの曲をフル・オーケスラで演奏しているのはこのCDのみだと思いますので、そういった意味でも大変貴重な録音だと思います。 でも、弦楽合奏版は、フル・オーケストラ版に比べて引き締まった感じもあり、別な魅力も感じます。

 因みにギターのソロ・パートについてはどちらの版でも、全く同じになっています。



やはり「第3番」はいいが、多少「オマケ」も必要

 「第3番ヘ長調作品70」 は晩年(1822年)の作ですが、管弦楽法にもいっそう熟達し、第1番を凌ぐ曲と思います。 特に冒頭の部分などなかなか”おしゃれ”で、今後もっと演奏されてもよい曲だと思います。 

 この「第3番」はあまり演奏される機会がなかったせいか、逆に簡略化などされずに「無キズ」で今日に至っています。 3曲ともオリジナル楽器使用ということと、リアルな音量バランスということで、ギターの音はかなり聴き取りにくくなっています。 個人的にはCDなのだから多少は 「オマケ」 してもらってもいいのではと思います。




二重奏曲が3枚

 二重奏曲が3枚のCDに収められていますが、オペラの序曲の編曲、教育的な小品集、協奏的変奏曲などとなっています。 「協奏的変奏曲作品130」以外は、これまであまり演奏されることがなく、やはり貴重な録音だと思います。 またここでもロッシーニに関する曲が多くなっています。




友達? 親友? ただの知り合い?

 ジュリアーニは1806~1819年までウィーンに滞在しましたが、その地でベートーヴェンなど多くの音楽家たちと親交を深めたようです。 ベートーヴェンの「交響曲第7番」の初演にも加わったことはいろいろなところで書かれているので、皆さんもご存知かも知れません。

 ただ、実際に何の楽器を演奏したかは、はっきりしないようです。 ジュリアーニは若い頃チェロを弾いていたので、「チェロ・パートを弾いた」と書かれているものもありますが、「いや、テンパニーだ」とか、「名を連ねただけで、実際には演奏には加わらなかった」、と書かれているものもあります。

 要するに初演者のリストに名前が載っていたということ以外は不明なようです。 またこれも詳しく書いてあるものはありませんが、実際にはどの程度、ベートーヴェンと親しかったのでしょうか?  親友? 友達? ただの知り合い?

 ジュリアーニにとって、なにはともあれ、ベートーヴェンの「交響曲第7番」の初演に立ち会たことは自慢だったようです。 ジュリアーニが作曲した 「テルツ・ギターとギタのためのグラン・ポプリ作品67」 には、その「交響曲第7番」の第1楽章のテーマが登場します(大序曲も登場するが)。



ロッシーニは郷土が生んだ音楽的英雄

 ベートーヴェン以上にジュリアーニが大きく関った作曲家といえば、何回か触れたとおり、「セビーリャの理髪師」などで有名なロッシーニがいます。 ロッシーニは1810~1820年代にはイタリアやウィーンをはじめ、ヨーロッパ中に大センセーショナルを巻き起こしたと言われています。

 ジュリアーニにしてみれば、ロッシーニが超人気作曲家というだけでなく、郷土が生んだ音楽的英雄といった思いもあったのかもしれません、晩年にはロッシーニに因んだ作品を多数作曲しています。

 確かにジュリアーニの音楽はロッシーニと共通するものがあるように思います。 1820年代に作曲された「ロッシニアーナ」は現在でもジュリアーニの作品の中ではよく演奏され、特にオリジナルのオペラを知らなくても楽しめる作品だと思います。 

 この「ロッシニアーナ」は全部で6曲あるのですが、このCDではなぜか4曲のみになっています。 「ポプリ」の方を優先させたのでしょうか。



オペラをまるごとギター1台でなんて

 また当時大変人気を博したと言われるロッシーニの「セミラーミデ」の全曲ギター独奏編曲が2枚のCDに収められています。 私自身このオペラをよく知らないので、どの程度の「全曲」なのかはわかりませんが、一つのオペラを丸ごとギターで弾くなどということは、確かに他には聴いたことがありません。

 ただロッシーニにしても、ジュリアーニにしても、とても似た曲が多く、さすがにこちらは原曲を知らないと楽しみにくいかも知れません。
 


Duo Maccari-Pugliese 

 演奏者の紹介をしていませんでしたが、この9枚のジュリアーニのCDのうち、「セミラーミデ」の2枚を除いてはクラウディオ・マッカリとパオロ・プリエーゼというギタリストが演奏しています。 CD5、6の「4つのロッシニアーナと4つのポプリ」は基本的に独奏曲のはずですが、演奏は Duo Maccari-Pugliese となっていて、どちらが演奏しているかは書いてありません。

 さりとて二人で独奏曲を弾いたり、二重奏にアレンジして弾いている感じでもありません。 使用楽器(主に19世紀初頭の楽器)については細かく記されているのですが、なぜか演奏者は明記されていません。



大大序曲?

 ついでにジャケット裏の曲目データには、

  5 Grande Ouverture Op.6        17:53

となっていて、ジュリアーニに20分にも迫る、こんな長い 「大序曲」 があったのかなと思いましたが、もちろんこのこの曲は皆さんがご存知のあの「大序曲」です。 お気づきのとおり 「1」 が移動してしまい、正しくは、

   5 Grande Ouverture Op.61       7:53

です。 こんな間違いって意外とよくあります。




軽快な指さばきだが

 この二人の演奏スタイルは確かによく似ていて、軽快な音と軽快な「指さばき」が特徴だと思いますが、重要な音とそうでない音(伴奏の刻みのような)との音量の差が大きいのも特徴でしょう。 ただあまりにも弱音用いるので、細部が不明瞭に感じてしまいます。

 それは独奏でも二重奏でも、協奏曲でも同じようです。 協奏曲でギター・パートが不明瞭なのは録音や楽器の音量だけではないかも知れません。



Izhar Elias

 「セミラーミデ」を演奏している Izhar Elias については初めて聴くギタリストなので、詳細はわかりませんが、Maccari と同じ1812年のガダニーニを使用して演奏しているので、Maccari-Puglieseの二人と何らかの関係があるのかも知れません。

 音質的にはこのEliasの方が質感とか力感とかはあるように思います。 また細部もクリヤーに弾いています。 Maccari-Puglieseたちと同じく爪を使わない、いわゆる「指頭奏法」を用いているようです。
 
天地天命に誓い

 このところ、当ブログを読んでCDを注文したと言う話を時々聞きます。なんだかHVM、あるいはBrillantの回し者みたいになってしまっていますが、もちろん天地天命に誓って、該当企業等からの金銭授受など、一切ございません! 
 しかし、生産者と消費者は表裏一体、よい「買い手」がいなければ、よい「売り手」は育たない。皆さんもしっかりと内容を吟味した上で、よいと思ったもの、あるいは気に入ったものはお金を出して買うべきでは、と思います。特にクラシック・ギターなどというマニアックな世界では。 ・・・・・・・やはり回し者かな?



アレッサンドロ・ピッチニーニ 

 さて、次の2枚のCDはルネサンス末期からバロック初期にかけてのリューテスト、アレッサンドロ・ピッチニーニ(1566~1638年)の作品で、「リュートとキタローネのためのタブラチュア、第1巻、第2巻」となっています。ピッチニーニは名前だけ聞いたことがありますが、その作品を聴くのは初めてです。因みに、ピッチーニ(ピッチンニ)という作曲家もいますが、この人は18世紀後半に活躍したオペラ作曲家で、このピッチニーニとは全くの別人です。



ダウランドにも、ヴァイスにも似ていない

 曲のほうは、結論から言えば今まであまり聴いたことのない感じで、なかなか興味深いものです。ルネサンス的な要素とバロック的な要素とを両方持っている感じで、 時代からすればジョン・ダウランドと同じくらいですが、もちろん印象はかなり違っています。ダウランドの曲はリュート・ソロの曲でもリュート伴奏の歌曲的な要素が強くありますが、このピッチニーニの作品は単旋律的ではなく、より多声部的な感じがあります。またフランスのバロック・リュ-トの作品やヴァイスの作品のような装飾を主とした作風でもないようです。

 ピッチニーニの作品は、曲にもよりますが、しっかりとした対位法で書かれ、また音域も広く使われているのが目立ちます。また、時には現代音楽を思わせる大胆さも感じられます。今まであまり演奏されることが少ないようですが(私が知らなかっただけ?)、ダウランドやヴァイスに比べても決して遜色のない作品群で、もちろんギターで弾いても面白いのではと思います。もしかしたら、当コレクション中、最も興味深いCDかも知れません。



キタローネ = テオルボよりもさらに長い竿

 「キタローネ」というのは長い竿の付いた低音用のリュートで、同種の楽器であるテオルボよりもさらに長い竿が付いています。主にオペラなどの伴奏に使われたようです。リュートは基本的に復弦(2本ずつ弦が張ってある)ですが、このキタローネは単弦だそうです。

 かつては音楽史の本の中でしか出会えなかったこうした作曲家の作品や、写真でしか見られなかった楽器の音が気軽に、しかも優れた演奏と録音で(さらに安価で!)聴けるのですから、確かに時代は変わりましたね。



スカルラッティの12のソナタ

 次の1枚(5枚目)はバロック時代(バッハと同時代)にイタリア、およびスペインで活躍した作曲家のドメニコ・スカルラッティの鍵盤用のソナタをギターで演奏したものです。スカルラッティのソナタもまたギターと相性のよいものです。スカルラッティのソナタは数百曲ありますが、ギターで演奏される曲となるとある程度限られ、K208、K209、K292、K213 などはギターでも比較的よく聴く曲です。K87はかつてジュリアン・ブリームが弾いていた曲でしょうか?

 演奏者の Luigi Attademo (ルイージ・アッタデモ)については詳細はわかりませんが、ドイツのギター製作家、オルテゲス氏の楽器(1994年)を使用しての演奏は、清楚で気品ある美しさ湛えたものです。とてもくつろいだ気分になれる1枚です。