<勝手に選ぶセゴヴィア名録音 第9位>
ポンセ(伝ヴァイス) : プレリュード、アルマンド(組曲イ短調より) 1954年録音(LP:アンドレス・セゴヴィア・プレイズ)
SP時代の全曲録音もあるが
セゴヴィアが作曲者名をヴァイスなどとしたポンセの作品、いわゆる”偽バロック作品”を多数演奏、録音しているのはご存知のとおりだが、その中では”ヴァイスの組曲”とした、5曲からなるこのイ短調の組曲が最も印象深い。セゴヴィアはSP時代にこの組曲全曲を、また1952年にはこの組曲中のジグも録音しているが、録音状態などからすると、やはりこの1954年のものがすばらしい。
最初は”バッハの作曲”とするつもりだった
一説によれば、当初はこの組曲をバッハの名を付して発表するつもりだったが、バッハではあまりにも有名過ぎてすぐに疑われるので、当時あまり一般には知られていなかったリューティストのヴァイスの名を使用したと言われている。確かにある意味それは成功し、実際にかなり長い間に渡りこの曲はシルビウス・レオポルド・ヴァイスの真作としてほとんど疑われなかったようだ。
私自身もヴァイスの名を知ったのはこの作品からであり、しばらくの間はヴァイスの本当の作品は知らなかった。当時(1970年頃)のほとんどのギター・ファンはヴァイスとはこう言う作風の人だろうと思っていたのではないかと思う。しかし一部の識者(ギター界における)の間では偽作であることは周知の事実だったようだ。
これらの曲は、実際に聴いてみるとヴァイスの真作とはかなり作風が違い、バロック的な作品ではあるにせよ、リュートらしさはほとんど感じられない。ヴァイスの作品が一般に知られるようになった現在では、この曲を”ヴァイス作”といっても誰もが疑うかも知れない。強いて言うならヴァイスよりは、バッハの作品のほうに近いかも知れない。
年代不詳、国籍不明の不思議な魅力
それにしても、この年代不詳、国籍不明の作品は不思議な魅力を持っているのは確か。私自身では若い頃から数え切れないくらい何度も聴いた。もちろん自分でも弾いてみたが、当然セゴヴィアの演奏に似せたものになってしまう。
セゴヴィアはこれらの曲を生前には譜面にしなかったが、確かに譜面には書ききれない音楽でもあるかも知れない。現在出ている譜面はセゴヴィアの演奏を譜面にとったものらしい。
因みにセゴヴィアはポンセの名で発表した作品は出版したが、ポンセの作品でもバロック時代作曲家などの名で発表した作品は出版していない。また完全に自分で編曲した作品は出版しているが、他のギタリストの編曲を若干変更して演奏しているような場合は全く出版していない。その点はセゴヴィアははっきりしている。
<勝手に選ぶセゴヴィア名録音 第10位>
メンデルゾーン : カンツォネッタ(弦楽四重奏曲作品12より) 1955年録音(アンドレス・セゴヴィア・シャコンヌ)
学生時代の下宿で深夜ラジオから聴こえてきた
メデルスゾーンの弦楽四重奏曲からの編曲だが、甘美とも言えるメロディで、これも一般に人気の高い曲。学生の頃、セゴヴィアの演奏するこの曲が深夜にFM放送から聴こえてきて感動した記憶がある。若くして世を去ったメンデルスゾーンの曲には、青春の甘酸っぱい味と香りがある。メンデルスゾーンの作品は、仮に深遠な音楽ではないとしても、心を揺さぶる音楽ではあろう。
基本はタレガ編
セゴヴィアは基本的にタレガの編曲を用い、原曲に応じ若干修正して演奏しているようだ。セゴヴィアの場合、他のギタリストの編曲を用いる場合、ほとんどこのような方法を取る。そうしたものを、後に”セゴヴィア編”とされることもあるが、セゴヴィア自身ではそれを自らの編曲として出版などすることはないのは前述のとおり。
多くの人をギターの世界へと誘った1曲、「シャコンヌ」のB面
セゴヴィアはSP時代にもこの曲を録音しているが、この1955年の録音は、発表当時のLPでは「シャコンヌ」のB面に収録されている。モノラル録音時代の末期だが、初期のステレオ録音よりもリアルで、好感度が高い録音。多くの人をセゴヴィア・ファン、あるいはギター・ファンへと誘った1曲であろうと思われる。
私個人的にも好きな曲だが、この順位になってしまったのは、この曲なら他のギタリストが弾いてもいい曲に聴こえるかなという点。時々自分でも弾いてみようと思ったりするが、なぜか上手く弾けない。
・・・・・・・・・・・・・・
やっと終わった
以上で「勝手に選ぶセゴヴィア名録音」は終了です。結局ベスト10までとなりました。文字通り「勝手に」選んだのでかなり偏った内容になったと思います。おそらく皆さんの考えとは全く異なったものでしょう。
バッハ、タレガ、ソルの作品の演奏が外れてしまったが
結果的にセゴヴィアが力を入れて録音したと思われるバッハ、タレガ、ソルなどの作曲家の作品が上位に入りませんでしたが、私の中では、バッハでは「ルール」の名で演奏したチェロ組曲第3番の「ブーレ」=1955年録音、タレガではムーア風舞曲=1944年録音。 ソルの作品ではアレグロ・ノン・トロッポ(ソナタ作品25より)=1952年録音などが好みの演奏です。
言い訳になりますが(勝手にやっているのだから言い訳の必要はないが)、結果的にこれらの演奏を上位に入れなかったのは、どこかで演奏者と作曲家との間にちょとした隙間みたいなものを感じてしまったからかも知れません。もちろん客観的にみればそれぞれたいへん優れた演奏であるのは間違いないでしょう。
1年以上に亘ってしまった
以上で「20世紀の巨匠たち」のテーマを終了しようと思いますが、いつの間にかに1年をはるかにに越えた記事になってしまいました。特にセゴヴィアについては、当初はそんな気など全くなかったのですが、結局全部の録音(私が知りうる限りの)を紹介することになってしまいました。
当初は他に伝説のデュオ、プレスティ・ラゴヤやイエペス、ブリームなどの録音の紹介もしようと思っていたのですが、結局出来なくなってしまいいました。
初めて聴いたような曲も
この記事を書くのを機に、セゴヴィアのCDを改めて聴きなおしてみました。かなり前から持っているにも関らず、初めて聴くような曲もちらほら。聴いたことはあるのかも知れませんが、ほとんど忘れてしまっているのでしょう。
また当然といえば当然かも知れませんが、若い頃聴いた時と今では同じ曲、同じ演奏でもまた違った印象に聴こえてきます。曲によっては当時感じたほど強烈な印象は感じなくなったものもあり、また当時はわからなかったことがいろいろわかってきたものもありました。
セゴヴィアの演奏は何歳になっても、はやりセゴヴィアですが、同時に年齢によってメカニックだけでなく、その音楽観が徐々に変ってゆくこともだいぶ感じられました。
ありがとうございました
この記事も、ただただ長いだけの記事となってしまい、ごく少数の人だけが読んでいる記事だったと思いますが、私自身では世紀の大ギタリストの演奏と真剣に取り組む、たいへんよい機会となり、たいへん勉強になりました。
最後までお付き合い下さった方々、本当にありがとうございました。
ポンセ(伝ヴァイス) : プレリュード、アルマンド(組曲イ短調より) 1954年録音(LP:アンドレス・セゴヴィア・プレイズ)
SP時代の全曲録音もあるが
セゴヴィアが作曲者名をヴァイスなどとしたポンセの作品、いわゆる”偽バロック作品”を多数演奏、録音しているのはご存知のとおりだが、その中では”ヴァイスの組曲”とした、5曲からなるこのイ短調の組曲が最も印象深い。セゴヴィアはSP時代にこの組曲全曲を、また1952年にはこの組曲中のジグも録音しているが、録音状態などからすると、やはりこの1954年のものがすばらしい。
最初は”バッハの作曲”とするつもりだった
一説によれば、当初はこの組曲をバッハの名を付して発表するつもりだったが、バッハではあまりにも有名過ぎてすぐに疑われるので、当時あまり一般には知られていなかったリューティストのヴァイスの名を使用したと言われている。確かにある意味それは成功し、実際にかなり長い間に渡りこの曲はシルビウス・レオポルド・ヴァイスの真作としてほとんど疑われなかったようだ。
私自身もヴァイスの名を知ったのはこの作品からであり、しばらくの間はヴァイスの本当の作品は知らなかった。当時(1970年頃)のほとんどのギター・ファンはヴァイスとはこう言う作風の人だろうと思っていたのではないかと思う。しかし一部の識者(ギター界における)の間では偽作であることは周知の事実だったようだ。
これらの曲は、実際に聴いてみるとヴァイスの真作とはかなり作風が違い、バロック的な作品ではあるにせよ、リュートらしさはほとんど感じられない。ヴァイスの作品が一般に知られるようになった現在では、この曲を”ヴァイス作”といっても誰もが疑うかも知れない。強いて言うならヴァイスよりは、バッハの作品のほうに近いかも知れない。
年代不詳、国籍不明の不思議な魅力
それにしても、この年代不詳、国籍不明の作品は不思議な魅力を持っているのは確か。私自身では若い頃から数え切れないくらい何度も聴いた。もちろん自分でも弾いてみたが、当然セゴヴィアの演奏に似せたものになってしまう。
セゴヴィアはこれらの曲を生前には譜面にしなかったが、確かに譜面には書ききれない音楽でもあるかも知れない。現在出ている譜面はセゴヴィアの演奏を譜面にとったものらしい。
因みにセゴヴィアはポンセの名で発表した作品は出版したが、ポンセの作品でもバロック時代作曲家などの名で発表した作品は出版していない。また完全に自分で編曲した作品は出版しているが、他のギタリストの編曲を若干変更して演奏しているような場合は全く出版していない。その点はセゴヴィアははっきりしている。
<勝手に選ぶセゴヴィア名録音 第10位>
メンデルゾーン : カンツォネッタ(弦楽四重奏曲作品12より) 1955年録音(アンドレス・セゴヴィア・シャコンヌ)
学生時代の下宿で深夜ラジオから聴こえてきた
メデルスゾーンの弦楽四重奏曲からの編曲だが、甘美とも言えるメロディで、これも一般に人気の高い曲。学生の頃、セゴヴィアの演奏するこの曲が深夜にFM放送から聴こえてきて感動した記憶がある。若くして世を去ったメンデルスゾーンの曲には、青春の甘酸っぱい味と香りがある。メンデルスゾーンの作品は、仮に深遠な音楽ではないとしても、心を揺さぶる音楽ではあろう。
基本はタレガ編
セゴヴィアは基本的にタレガの編曲を用い、原曲に応じ若干修正して演奏しているようだ。セゴヴィアの場合、他のギタリストの編曲を用いる場合、ほとんどこのような方法を取る。そうしたものを、後に”セゴヴィア編”とされることもあるが、セゴヴィア自身ではそれを自らの編曲として出版などすることはないのは前述のとおり。
多くの人をギターの世界へと誘った1曲、「シャコンヌ」のB面
セゴヴィアはSP時代にもこの曲を録音しているが、この1955年の録音は、発表当時のLPでは「シャコンヌ」のB面に収録されている。モノラル録音時代の末期だが、初期のステレオ録音よりもリアルで、好感度が高い録音。多くの人をセゴヴィア・ファン、あるいはギター・ファンへと誘った1曲であろうと思われる。
私個人的にも好きな曲だが、この順位になってしまったのは、この曲なら他のギタリストが弾いてもいい曲に聴こえるかなという点。時々自分でも弾いてみようと思ったりするが、なぜか上手く弾けない。
・・・・・・・・・・・・・・
やっと終わった
以上で「勝手に選ぶセゴヴィア名録音」は終了です。結局ベスト10までとなりました。文字通り「勝手に」選んだのでかなり偏った内容になったと思います。おそらく皆さんの考えとは全く異なったものでしょう。
バッハ、タレガ、ソルの作品の演奏が外れてしまったが
結果的にセゴヴィアが力を入れて録音したと思われるバッハ、タレガ、ソルなどの作曲家の作品が上位に入りませんでしたが、私の中では、バッハでは「ルール」の名で演奏したチェロ組曲第3番の「ブーレ」=1955年録音、タレガではムーア風舞曲=1944年録音。 ソルの作品ではアレグロ・ノン・トロッポ(ソナタ作品25より)=1952年録音などが好みの演奏です。
言い訳になりますが(勝手にやっているのだから言い訳の必要はないが)、結果的にこれらの演奏を上位に入れなかったのは、どこかで演奏者と作曲家との間にちょとした隙間みたいなものを感じてしまったからかも知れません。もちろん客観的にみればそれぞれたいへん優れた演奏であるのは間違いないでしょう。
1年以上に亘ってしまった
以上で「20世紀の巨匠たち」のテーマを終了しようと思いますが、いつの間にかに1年をはるかにに越えた記事になってしまいました。特にセゴヴィアについては、当初はそんな気など全くなかったのですが、結局全部の録音(私が知りうる限りの)を紹介することになってしまいました。
当初は他に伝説のデュオ、プレスティ・ラゴヤやイエペス、ブリームなどの録音の紹介もしようと思っていたのですが、結局出来なくなってしまいいました。
初めて聴いたような曲も
この記事を書くのを機に、セゴヴィアのCDを改めて聴きなおしてみました。かなり前から持っているにも関らず、初めて聴くような曲もちらほら。聴いたことはあるのかも知れませんが、ほとんど忘れてしまっているのでしょう。
また当然といえば当然かも知れませんが、若い頃聴いた時と今では同じ曲、同じ演奏でもまた違った印象に聴こえてきます。曲によっては当時感じたほど強烈な印象は感じなくなったものもあり、また当時はわからなかったことがいろいろわかってきたものもありました。
セゴヴィアの演奏は何歳になっても、はやりセゴヴィアですが、同時に年齢によってメカニックだけでなく、その音楽観が徐々に変ってゆくこともだいぶ感じられました。
ありがとうございました
この記事も、ただただ長いだけの記事となってしまい、ごく少数の人だけが読んでいる記事だったと思いますが、私自身では世紀の大ギタリストの演奏と真剣に取り組む、たいへんよい機会となり、たいへん勉強になりました。
最後までお付き合い下さった方々、本当にありがとうございました。
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