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中村俊三 ブログ

中村ギター教室内のレッスン内容や、イベント、また、音楽の雑学などを書いていきます。

グレーな音符たちのその後 8



タレガの反復記号




ト長調? のマズルカ

 下はタレガのマズルカト長調で、これもなかなかいい曲ですね。しかし”ト長調”とはなっていますが、この曲の冒頭を聴いたり、弾いただけではト長調の曲だなんて、そんな感じ全然しませんね。だいたい、イ短調という感じですが、でもちゃんと主和音にはなっていませんね。

 2小節目は一応ト長調の主和音となるのですが、Am➡D7と、いわゆるトゥー・ファイブ(Ⅱ➡Ⅴ7)の和声進行で始めている訳です。結構凝った出だしですね。確か、ショパンにマズルカにも同じような曲があったように思います。

 今回の”グレー” はそれほど問題のあるものではないのですが、こうしたケースはよくあるので、取り上げてみました。ちょっと長いですが、全曲3ページ分載せておきます、出所はいつものアリエール社の初版です。



マズルカ1
タレガ作曲 マズルカト長調(計3ページ) アリエール社の初版  冒頭だけを見ると、ト長調の曲には、まず見えない



マズルカ2
2段目のところにリピート記号(前向き)があるが、





マズルカ3
最後にはリピート記号(後ろ向き)がない。




よくあることだが

 現在、この曲の国内版などは、ほぼこの譜面を基にしていますが、後半部には2ページ目のところにしかリピート記号(後ろ向きの)が付いていません。おそらく最後に付くべきリピート記号(前向きの)が脱落したものと思われますが、逆に2ページ目の2段目に不必要なリピート記号が付いてしまったとも考えられます。

 演奏上、それほど困る事ではないか知れませんが、実際の演奏で、後半部分をリピートすべきなのか、しない方がいいのか、ちょっと迷うところですね。前回にも書きました通り、タレガは繰返しなどは状況に応じて行っていて、あまりこだわらなかったので、こうしたことがよく起こるのだと思います。出版の際のミスかも知れませんが、タレガの残した譜面(タレガの死後の出版)自体がこのようになっていた可能性もあるでしょう。



4通り考えられる

 後半は繰り返しても、繰り返さなくてもよいと考えられますが(結局そうするしかないが)、前半部分の方も拡大して考えれば、繰返しの方法としては以下の4通りが考えられるでしょう。

①前半、後半とも繰り返しを行う
②前半繰返し、後半繰返しなし
③前、後半とも繰り返しなし
④前半繰返し梨、後半繰返し


 ①は前、後半共に繰返しということで、最もオーソドックスな方法ですね、時間的な制約がなければこれでよいと思います。時間が短い方が良いのであれば、②の前半のみ繰返しでもいいでしょう。

 さらにもっと身近方が良ければ、③のようにどちらも繰返しなしもあると思います。④は楽譜の指示からは若干遠くなりますが、魅力的な中間部が2回出てくることになるので、私個人的にはこの方法が最もよいと思っています。





ロシータ


 次はロシータ(ポルカ)のダ・カーポの件で、ちょっと問題になる箇所ですね。これも初版では下のようになっています。


ロシータ
ロシータ(ポルカ) アリエール社の初版  初版譜ではダ・カーポなので、最初のグリサンド付きの「ラ」に戻ることになる




余計な1拍が

 譜面の最後にD.C.が付いていますから、この譜面に忠実に演奏するなら、冒頭の不完全小節にある「ファ」からのグリッサンドの付いた「ラ」に戻ることになります。しかしそうすると2拍子の曲の中に余計な1拍が挿入されることになり、リズム的にはちょっと変な感じになってしまいます。

 そこで、D.C.記号はD.S.(ダル・セーニョ)記号の誤りと考え、さらに1小節目(不完全小節の後の)にセーニョ記号を付け加え、冒頭の不完全小節ではなく、1小節目に戻れば、すっきりと2拍子の曲となります。ポルカは基本的に軽快な2拍子の曲ですから、理にも適うわけですね。実際にそのように書き直している譜面もあります。

 



CCI_000355.jpg
ドレミ楽譜出版のギター名曲170選より。2拍子のリズムを守るため、ダ・カーポをダル・セーニョ記号に書き換えられるなどしている。




あえて余計な1拍を入れた?

 では、初版のダ・カーポ記号が誤りかというと、はっきりとそうも言えないところもあります。まず、この譜面は 「アラビア風奇想曲」 などと同じくタレガが生前したもので、しかもタレガが初めて公式に出版した譜面でもあります。そうしたことからして、おそらくタレガとしても丁寧に出版を行ったと思われるので、単純なミスとは言えないところもあるでしょう。

 つまりタレガが、意識的にダ・カーポにした、つまり冒頭に戻る時にも、あえて冒頭のグリッサンド付きの「ラ」を弾くようにしたとも、十分に考えられるわけです。

 そもそも、ポルカにはアウフタクト(冒頭の音)は不要で、1拍目から始めるほうが一般的です。そうしたことをわかった上で、タレガはあえて冒頭に1拍追加したわけですから、最初に戻る時も、やはりこの1拍は入れた方が良いと判断したとも考えられます。

 因みに、この冒頭の音(グリッサンド付きのラ)は”番外”的なものなので、この音のみテンポから外して長めに弾く方がいいように思います。




そんなこと、どっちでもいいから

 いずれにしても、真相はタレガに聴いてみるしかないのですが、私の予想では、きっとタレガは 「そんなこと、どっちでもいいよ。好きなように弾きなさい」 なんて言うのかなって思います。「そんなことよりもギターらしい音を出すこととか、聴く人に感銘を与えるように努力しなさい」 ・・・・なんて。

 そうはいっても、実際に演奏すr場合はどちらかにしなければなりませんが、私自身はかつてはダ・カーポの際は、この1拍を省略していましたが、最近はダ・カーポ時にも弾くようにしています。
 




中間部のリピートもありかな

 この曲の繰り返しで気になる事と言えば、この譜面通りだと、前半のニ長調の部分にはリピート記号がありますが、ト長調の中間部にはリピート記号がありません。つまりダ・カーポも含めれば前半部分は3回弾くのに、中間部は1回となりますね、やはりななkバランスが悪いような。中間部の方もリピートしていいんじゃないかと、私は思います。この曲はテンポも速く、あまり長い曲でもありませんし。 ・・・・・きっとこれも 「どっちでもいい」 と言われそうですね。
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グレーな音符たちのその後 7



タレガの曲の反復記号




音の間違いは少ないが

 タレガの譜面は、音の間違いが非常に少ないですが、それにはタレガの音感の良さが関係しているのではと思います。比較の対象としてはいけませんが、私など、教材や合奏曲など、ほとんど自分で打ち込んでいるのですが、よく間違えて生徒さんや合奏のメンバーに迷惑かけています。そう言った点では、さすがにタレガですね(当然のことかも知れないが)。

 その反面、ダ・カーポやリピート記号などの間違いや、混乱は比較的多いです。おそらくタレガの場合、自身で演奏する場合、リピートなどはその場の状況などで行ったり、省いたり、自由に演奏していたのではないかと思われます。そうしたことが残された譜面にも反映されているのでしょう。

 確かにリピートなどはどちらでも大きな影響がないことも多いですが、ダ・カーポやダル・セーニョの場合はちょっと困りますね。今回はそうした例をいくつか挙げておきましょう。




再三だが、ワルツニ長調

 では、この「ニ長調のワルツ」については、当ブログでも複数回書いていますが、演奏上、ちょっと困った問題でもあるので、復習しておきましょう。



タレガワルツ1



タレガワルツ2
1910年~1920年にスペインで出版されたタレガの「ワルツニ長調」の初版譜。現在出版されている楽譜の基になって言うrと思われる。




問題の多い譜面

 上の譜面は1910~1920年頃に出版された初版譜です。今現在のほとんどこの譜面を基にしていて、これ以外の手書譜などは残されていないようです。

 この曲、なかなかいい曲なのですが、この譜面はいろいろ問題ありそうですね。タイトルなどはかなりカッコいい飾り文字で書いているのですが、おそらくこの譜面の版下を作った人が、あまり楽譜、あるいはギターの譜面に慣れていないのではないかと思われます。諸事情(採算面など)でそう言う人に頼まざるを得なかったのかな・・・・




音楽に詳しくなかった?

 一番わかりやすいのが2ページ目の一段目ですね、たいしたことではありませんが、小節数の計算を間違えて、ここだけ異様に小節のスペースが長くなってしまいました。演奏上は問題ないものですが、熟練した人ならこのような事はしないでしょう。

 また、これもよくあることなのですが、1ページ目の5段目では右指の記号のpが強弱のpになってしまいました。おそらくpが親指の記号だと言うことを知らなかったのでしょう。 「なんだかpが小さく書いてあるな」 くらいに思ったのかも知れません。

 2ページ目4段目の休符の書き方も、ちょっと変ですね。確かに計算上はおかしくないし、この表記に忠実に演奏しても、あまり違和感はないかも知れませんが、通常はこのように書かず、2分音符+8分休符、 または4分音符+4分休符+8分休符 と書くかどちらかでしょう。

 さらに低音のみ付点2分音符というのも、ちょっとおかしいですね、ここははっきりした区切りとなっているので、低音のほうにも休符が入るべきでしょう。通常は上声部の音価と同じにするでしょうね(実際の演奏ではたいていそうしている)。

 しかし、ここはオリジナルもこのように書いてあった可能性のほうが高く、必ずしも版下製作者の問題とも言えないかも知れません。でも音楽に精通した版下職人だったら 「ここちょっと変ですけど」 とか、依頼者に問い合わせをするかも知れませんね。




その割には音の間違いがない

 このように、かなり”ヤバイ”譜面ですが、音の間違いと思われるものはありません。かえって不思議な気もしますが、おそらく依頼したタレガの遺族などがしっかりと校正をしたのでしょうね。音の間違いが少ないのはタレガの譜面(スペインでの初版)の共通した特徴です。




下属調で終わってしまう

 さて問題の繰り返しについてですが、この曲はニ長調で始まり、後半はト長調となっています。またその特徴もかなり違うもので、正反対とも言えるでしょう。古い例えだと、男性的➡女性的、となるところですが、最近ではこういう表現はあまりよくないのかな? そう言えば 「女性終止」 などと言う言葉もあまり使われなくなったような・・・・・

 ともかく、この通りに演奏すると、やはりおかしいですよね、最初と終わりが全然違う感じになってしまう。それにクラシック音楽では通常最初と違う調で終わることはほとんどありません。




ジョプリンのラグタイムではよくあるが

 確かにポピュラー系の音楽ではよくあることで、ジョプリンのラグタイムでは、むしろこのように下属調(#が1個少ない調)で終わる曲が多いです。またJ-ポップなどでも最後は半音高い調で終わったりしますが、これなどクラシック音楽ではあり得ないことですね。




D.C.記号が脱落していると考えられる

 そこで、当然最後にD.C.(ダカーポ)記号が脱落していると考える訳ですが、でもそうすると終わるところがありません。通常であれば、2ページ目の赤の二重線のところにFine.が入るところと考えられます。しかしそうすると終わる音が4弦の7フレットのハーモニックス、つまり「ラ」になってしまいます。



コーダもないといけない

 やはり終わる音は「レ」またはニ長調の主和音(Dメジャー・コード)で終わらなければなりません。ということは、この譜面の最後にコーダを付けて、曲がちゃんと終われる形を作ってやらなければなりません。

 となると、これは版下製作者の問題というより、オリジナルの譜面が正しく書かれていなかったと考える方が妥当と思われます。結局、この譜面は基になった譜面も版下製作もどちらにも問題があったと言えるのかも知れませんね。

 タレガとしても、この曲を出版することは全く考えず、生徒さんへの教材として、サッと書いたものかも知れませんね、終わり方などは口頭で言えばいいとか。  

 


コーダとしては

 因みに、終わり方として、具体的には次の4通りなどが考えられると思います。
 


CCI_000353.jpg
*私は4.で弾いている。音符の種類としては、4分音符や、付点2分音符も考えられる





3拍目で終わるのもあるが

 他にも赤い二重線の前の小節、つまり2ページ目の3小節目の3拍目で終わったり、あるいはダ・カーポをしないで、そのまま譜面上の最後(ト長調の部分)で終わったりということも考えられます。しかし自然さという点では、やはり上の4通りのように1拍目に、「レ」のハーモニックス、または主和音で終わる方がいいように思います。 因みに私は4.の和音を採用しています。
グレーな音符たちのその後 6



ソルの練習曲ト長調作品31-5




常に正確に書かれるわけではないが

 前回は音としては別におかしくはないが、音符の棒の向きがおかしいと言う話でした。今回もちょっと似た話で、確かに音がおかしいという訳ではないのですが、楽譜の書き方がちょっと気になるということです。

 とは言っても、楽譜というのは、常にそれほど正確に書かれるものでもないですし、演奏に支障がなければいいくらいに書かれるものです。特にギターに関しては、あまり正確に、あるいは几帳面に書かれると、かえってややこしくなって、逆に誤解が障子が生じたり、わかりにくくなったり、また、見た目が”煩く”なったりするので、ある程度は省略、もしくは簡略化して書く方が一般的です。



ソルは譜面の書き方にこだわる方だが

 フェルナド・ソルは楽譜の書き方、特に声部分けについてはかなりこだわって書くタイプです。有名な「月光」なども、もともとシンプルな曲ですが、棒が上向いたり、下向いたり、わかりにくいですね。結果だけ考えれば、もっとシンプルな書き方も出来たと思いますが、「ちゃんと声部の動きを考えて弾きなさい」 といったメッセージなのかも知れません。


月光
ソルの月光はだいぶこだわった書き方をしている


 一般的に”こだわりやさん”というのは、自分がこだわることには、とことこんこだわる、逆にあまり関心がないところはルーズになる傾向があります。




ソルの練習曲としてはよく弾かれる

 さて、今回はソルの練習曲の中でも比較的よく演奏されるト長調Op.31-5です。この曲の譜面は市販されているものでも、あまり違いがなく、それぞれ初版にほぼ忠実なものではないかと思います。下の譜面は基本的に現代ギター社版を基にしていますが、一部で棒の向きは変更しています。



ソル31-5
3段目の赤丸の1拍目の 「ラ」 と 「ファ#」 は普通に弾けば2分音符、または付点2分音符になる。


 特に気になるのが2段目の赤丸の個所ですが、他にも3段目の赤丸のように、音符の長さがあまり正確でないと思われるところも見られます。ただし、2段目以外は実際の演奏ではそれほど問題にはなりません。




音楽の区切りはは文章の区切りとほぼ同じ

 本題に入る前に、まず音楽の区切りに付いて説明が必要だと思います。とは言っても、私の場合音楽大学などで音楽を学んだわけではないので、正確でないかも知れませんが、わかる範囲で書いておきましょう。

 音楽の区切りも基本的に文章の区切りと同じ言葉を使います。文章の場合は、 

単語(ワード) ➡ 文節(フレーズ) ➡ 文(センテンス) ➡ 段落(パラグラフ) ➡ 文章(センテンス? コンポジション?) 

といったとこでしょうか。最後の「文章」については書いたもの全体を言っているので、小説だったり、論文だったりと、定まった英単語はないようですね。

 これを音楽の方に当てはめると、

動機(モチーフ) ➡ 小楽節(フレーズ) ➡ 大楽節(センテンス) ➡ (段落) ➡ 曲(ミュージック)? 楽章(ムーブメント)? 作品(オーパス)? 音楽?


 音楽の場合、意味のあるものの最小のもの、つまり単語に当たるものが動機(モチーフ)と言われます。さらに動機が部分動機に別れている場合もあります。 その動機が集まって、小楽節、さらに大楽節となります。その大楽節がいくつか集まって一つの曲というか、作品が出来上がると言うことになるのでしょう。 

 長い曲になれば、曲は主題提示部など、さらにいくつかの部分に区切られます。それをなと呼ぶのか分かりませんが、段落というのでしょうか(パラグラフという言葉はあまり聞かないが)。




音楽の場合は小節数がほぼ決まっている

 ただし、音楽の場合は、文章の場合とは違って、その長さがほぼ決まっていると言うことです。

動機 = 2小節  (部分動機 = 1小節)
小楽節 = 4小節
大楽節 = 8小節

 ということになりますが、曲全体の長さはもちろん決まっていません。ただし最低限8小節はないと曲にはならいようですね。「かえるの合唱」とか 「野いちご」、「赤とんぼ」 などはこの8小節で出来ていますが、こうした曲の場合歌詞が複数あって、何度か繰り返されることが多いです。



小節線はフレーズなどの区切りとは限らない

 因みに小節線はあくまでもリズムの区切りであって、メロディの区切りではありません。またフレーズやモチーフも常に1拍目から始まるわけではありません。この曲の場合は4拍目からそれぞれ始まります。



3とか、5もあるが

 「フレーズ」は一般的には単なる「区切り」ということで、幅広い意味に使われますが、音楽用語的には4小節と決まっている訳です。ただしこうした数字はあくまで古典的なものが対象で、3小節や、5小節のフレーズも、勿論存在します。ビートルズの「イェスタディ」も冒頭のフレーズは3小節ですね。古いものでもヴィヴァルディの「春」第1楽章も3小節のフレーズとなっています。



この譜面は各段とも4小節ごとに書かれていて、各段の最後の4分音符が各フレーズの始まりとなる

 このソルのエチュードについては、上の原則に完全に当てはまります。なお、この譜面は各段とも4小節ごとに書かれているので、わかりやすいですね、ただしアウフタクトがあるので、各段の最後の四分音符が各フレーズの出だしの音となる訳です。



2の累乗数で区切られることが多い

 そして、前半のト長調の部分が二つの大楽節で16小節、後半(中間部)のホ短調の部分も同じく16小節で出来ています。もうお分かりと思いますが、古典的な曲の場合、動機や楽節は2の累乗数(2,4,8,16)で出来ています。



2段目の赤丸では次のセンテンスに音が繋がっている?

 このようにして二段目の赤丸のところを見ると、ここは大楽節(センテンス)の区切りに当たります。しかし楽譜では3拍目の「レ」が二分音符で書かれ、次のセンテンスにかかるようになっています。もちろん常識的に考えれば、ここで比較的大きな区切りとなっていますから、一旦消音してから次のセンテンスに進むべきところです。 実際に各段とも最後の小節の4拍目の低音部は、ここ以外すべて休符となっています。



常識的に考えれば

 確かに、ソル独特のこだわりがあって、ここは区切らないで次のセンテンスに進むために、あえて3拍目の「レ」を二分音符で書いたと言うことも全く考えられない訳ではありませんが、しかしそれはかなりに”奇策”ということになります。

 曲全体としても、特殊な曲とも言えませんから、ソルがそうしたことを意図したとは考えにくいところです。やはり素直に考えれば、ここも他の段と同じく、4拍目の低音部は四分休符にすべきではないかと思います。




「レ」が開放弦だと違和感?

 また、この小節で、2拍目と3拍目の「レ」に開放弦の指示がある譜面もあります。確かに3拍目の「レ」を2分音符とすると、開放弦で弾いた方が弾きやすいですが、聴いた感じ、これも不自然でしょう。この「レ」は1拍目から続いてくる音なので、やはり1拍目と同じく5弦で弾くべきでしょう。

 しかし、これらのことは”常識的に考えれば”ということで、ソルがあえて非常識な作品を書いたとなれば、話は全然違ってきます。確かにそのように解釈しているギタリストもいるようです。




ちゃんと書かれた休符もある

 一方、ソルが”ちゃんと”書いた休符もあるので、それは間もなら毛rばならないでしょう。特に下から2段目と最後の段の赤丸の休符は消音しないと、動機やフレーズの区切りがはっきりしなくなります。




あえて書けば

 その他、確かに演奏上では特に問題にはならないですが、この曲は音符の長さなど、結構アバウトに書かれているようです。敢えて正確に(ほぼ?)に書けば、下のようになるでしょうか。あくまで参考ということですが、多くのギタリストは、結果的にはこのように弾いていると思います。



ソル31-5修正
スラー記号は動機(モチーフ)の区切りを示す
グレーな音符たちのその後 5



ヘンツェ : ノクターン




教材としては有名だが、作曲家の詳細はわからない

 この曲もギターを習っていたり、あるいは教えている人にとっては馴染みの深い曲ですね。初級~中級程度の小品と言えるでしょうか。特に難しい曲ではないですが、弾き方次第では美しい曲になりますね。曲の方は有名なのですが、作曲者のカール・ヘンツェと言う人について検索してみたのですが、なかなかヒットしません、ドイツ人で生没年が1872~1946年ということしかわかりませんでした。



初版の情報などもないが

 譜面につても、だいたい市販されているのは以下のようなものですね(ドレミ楽譜出版)。初版などの情報はありませんが、おそらく特には変わらないものではないかと思います。



ノクターン3
聴いた感じは全く変ではないが



聴いた感じでは、特におかしいところがない

 この譜面通りに弾いても、特におかしな点はありません。グレーな音符とは言っても、音符自体にはグレーな点はありません。まあ、ちょっとした書き方の問題なのですが、赤矢印のところにちょっと気になる点があります。



メロディだけだと変

 問題の個所を拡大すると下の通りですが、この譜面からすると、ひと段落するところのメロディが ミーファード となっていますね。そうでしょうか、これで曲というか、フレーズが終われるでしょうか? これ、誰しも変に聞えるんじゃないかと思います。小学校とか、中学校の音楽の授業で、こんなメロディ作ると、先生から 「これじゃメロディになりません」 なんて間違いなく言われるでしょうね。




ノクターン1
譜面の書き方からすると、赤い線がメロディの終わりの部分となるが、この ミーファード は如何にも変、曲が終わらない。




棒の向きがおかしい

 しかし、メロディ(上向きの音符)だけでなく、楽譜通りに全部の音を弾けば、全くおかしくありませんね。 皆さん、もう気が付いたと思いますが、実は下向きに書かれている音符の 「ラ」と「シ」もメロディなのですね。本当は下のようにそれらの音符も上向きに書くべき音です。



ノクターン2
本当はこのように棒の向きを書くべき




ラ、シを伴奏とすると、コードもおかしい

 このように ミーファラシド とメロディを考えれば何の問題もなくなります。因みにこの「ラ」と「シ」が伴奏の音、つまりコードの音だと考えると、ここのコードが 「Gナインス」 ということになります。ナインス・コードからトニック(主和音)に進んでも別に問題ありませんが、曲全体がシンプルに出来ているので、ここに突然ナインス・コードはちょっと唐突で不自然でもあります。


 というわけで、ここの部分では、音自体には問題ないが、音符の棒の向きが違っているということで、解決となります。それでおしまいと言えばおしまいで、あとは私の勝手な妄想ということになります。



単純ミス?

 では作曲家、あるいは出版関係者のミスで、棒の向きが逆になってしまったのかと言ことですが、私にはどうも単純にそうは思えないところもあります。 



ショパンのノクターンの影響がある

 曲目のノクターンといえば、やはり何と言ってもショパンですね、19世紀後半以降、こうした曲が作曲される場合、どうしてもショパン抜きには考えられないでしょうね。この曲もおそらくショパンのノクターンの影響でか書かれたと思われます。下は有名なノクターン(作品9-2)を、このヘンツェのノクターンと同じくハ長調にアレンジしたものです(かなり易しくアレンジしている)。



ショパンノクターン
赤線のところの5つの音 ミ、ファ、ラ、シ、ド はヘンツェのノクターンと同じ



フレーズの終わりの5つの音はショパンの曲と同じ

 なんだか雰囲気似ていますね。原曲は変ホ長調(♭3個)で、ピアノ曲なので音の数も多いですから、それとは見た目だいぶ違いますが、このようにハ長調のギター曲にアレンジすると似ているのがよく分かります。 さらに赤線の5つの音は、音符の長さこそ違いますが、音の進行は全く同じですね。



ショパンのイメージがぬぐえなかった?

 ここまで似ていると、誰もがショパンのノクターンを参考にしている、もうちょっと平たく言えばパクリだということがわかると思います。おそらく作曲者も同じにはしたくはなかったのではないかと思いますが、どうしてもショパンのノクターンが頭から離れなく、他の終わり方が出来なかったのかも知れませんね。



隠ぺい工作?

 そこで、形の上ではショパンのノクターンと同じにならないように、ラとシを伴奏扱いにして、ショパンのノクターンと同じように見えないようにしたのかな? つまり、パクリ疑惑の隠蔽? 勘ぐりすぎかな?




グレーな音符たちのその後 4



カタルーニャ民謡(リョベット編曲) : 盗賊の歌





ちょっと聴いた感じでは易しそうだが

 今回は盗賊の歌です。これもたいへん人気のある曲ですね、好きな人も多いのではないかと思います。ちょっと聴くとなんだかあまり難しくなさそうい聴こえて、とりあえずやってみるのですが、いざやってみるとなかなか難しくて弾けない、そんな思いをした人も多いのではないかと思います。私もこの曲弾けるようになるまで、何年もかかりました。


 最近、とはいってももう14年前となってしまいますが、2010年に現代ギター社からリョベート作品集が出版されました。その2ページ目を下に掲載しました。赤矢印が問題の個所です。



CCI_000326.jpg
2010年に現代ギター社から出版されたミゲル・リョベート作品集




CCI_000327.jpg
現代ギター社版では1個目の「ラ」に#





 しかし、私たちの世代ですと、これらの曲は1966年に出版されたギタルラ社版のほうが馴染みがあるかも知れません。このギタルラ社版が、現在でも入手可能かどうかわかりませんが(絶版?)、そのギタルラ社版では、赤矢印が、次のようになっています。



CCI_000329.jpg
1966年にギタルラ社から出版されたカタロニア民謡集




CCI_000328.jpg
ギタルラ社版では2個目の「ラ」に#





問題の個所を拡大しておきましょう。

グレー盗賊




#が付くのは1個目? それとも2個目?

 赤矢印のところの「ラ」(4弦)に#が付いていますが、その付く音がそれぞれ、一つずれている訳ですね。 現代ギター社版では最初の「ラ」について、ギタルラ社版では2個目についています。



初版では1個目から

 私の場合、前述の通り、ギタリラ社版で弾いていましたので(本当の最初はLPのオマケの楽譜)、当然2個目の「ラ」だけを#にしていました。10数年前だったか、シニア・ギターコンクールの審査員をやった時、参考に配られた楽譜には、現代ギター社版と同じく、一個目の「ラ」に#が付いています。それを配った方に聴いてみると、初版ではそうなっているとのことでした。

 その後で、この現代ギター社版を購入したのですが、この版でも1個目の「ラ」に#が付いており、おそらく初版を基にしているものと思われます。ということは、ギタルラ社版は間違いで、初版に基づいた現代ギター社版が正しいのか、ということになるのでしょうか。




やはり減8度は

 そうかも知れないのですが、短い時間とは言え、いきなりここで減8度という音程がぶつかっていいのか? ということになります。 おそらくギタルラ社版も、それはおかしいから、初版は間違いではないか、と言うことで、1個目の「ラ」ではなく、2個目の「ラ」に#を移動したのでしょう。 確かにこの方が自然に聞えます。

 しかし、絶対初版が間違っているという根拠がない限り、出来る限り初版に従うといった最近の潮流で、やはりここは一個目の「ラ」から#を付けるべきだという声も、最近あります(多分)。




リョベットの他の作品では

 ですが、リョベットの他の作品などを見る限りでは、このような例は見当たらず、ほとんどの場合類似したケースでは、半音ずつ上がるようになっています。 下は同じカタルーニャ民謡集の「糸をつむぐ娘」です。




糸を紡ぐ娘
リョベットの作品では、伴奏部分が半音階的に上がる3つの音をよく用いられる



殆どのギタリストは2個目から

 単純に聴いた感じでも、あるいはこうした例を考えても、やはり初版の一個目から#は間違いである可能性が高いように思われます。 

 しかし、私では、はっきりと答えを出すことは出来ないので、例の如く、いろいろなギタリストの演奏を聴いてみるしかないですね。 CDやネット動画を聴いた結果からは、どうも、ほとんどのギタリストが、一個目の「ラ」はナチュラルで弾いているようです。



アリバイ作り?

 中には指を見ていると、そのギタリストは一個目のラを#で押さえているようなのですが、その音がよく聴こえません。よほど小さい音で弾いているのかも知れませんね、ちょっと手品っぽいですが、やはり減8度の不協和音は気になるようですね。「いや、私はちゃんと楽譜通りに弾いていますよ」なんてアリバイ作り?




よくあること?

 と言ったところで、世間一般的には、ここは初版の間違いと考えられているようですね。それは私も同感です。#の位置が一音ずれるなんてよくある事では? 

 じゃあ、現代ギター社版が間違いかというと、それはそれでいんじゃないかと思います。最近ははっきり間違いとわかっていても、初版通りに出版するというのはよくある事です。間違いも含めて一つの情報なのでしょう。また99パーセント間違いであっても、1パーセントくらいは間違いではないこともある訳ですから(いや、もうちょっと多いかな?)。