バッハ:無伴奏チェロ組曲 24
パブロ・カザルス 1936~39年録音

EMIの復刻CD 2000年頃発売
世界初全曲録音
今回から無伴奏チェロ組曲(全6曲)のCDの紹介です。
無伴奏チェロ組曲の録音といえば、まずはやはりこの全曲世界初録音と言われているパブロ・カザルス盤を上げなけれならないでしょう。
カザルスについてはいろいろなところで紹介されているので、あえてここで紹介する必要もないと思いますので、他のサイト、あるいはカザルスについて書かれた本、あるいはCDのブックレットなどを参考にして下さい。
ある程度は演奏されていたと思われるが
そうした文章ではカザルスがそれまで忘れ去られていたバッハの無伴奏チェロ組曲を再発見し、その音楽の偉大さを世に知らしめたとされています。
確かにカザルスの貢献度を極めて高いものと思われますが、しかしそれまででも、バッハの無伴奏チェロ組曲が一般から完全に忘れ去られてしまったわけではなかったのでしょう。
タレガが無伴奏チェロ組曲第3番のブレーをアレンジしていたことなどからも(「ルール」としてだが)、ある程度は演奏されていたと思われます。
しかし、6曲を通しての演奏はもちろん、一つの組曲でも全曲とおして演奏されることは稀だったようです。
因みにカザルスは1910~20年代に無伴奏チェロ組曲一部の曲を録音しています。
リマスターによって音質などは異なる
この全曲録音盤(1936~39年)の録音方式としてはSP録音の後期、いわゆる”電気録音” と言われるものの時代で、現在はその復刻版CDが何種類か出ています。
何種類かのCDが出ているといってももとは同じ音源で、リマスターが何種類かあるということです。 そのリマスターの仕方で、それぞれ若干の音質の違いがあるようです。
私が持っているのは2000年頃CD化されたEMI盤で、SP独特のノイズはほとんどカットされていて、SP盤音源のCDとしては聴きやすいものと言えます。 しかし、ノイズを除去した分、本来の音も削られてしまっているとも言えます。
Opus盤など、もう少し音来の音を残したリマスター盤もあるようですが、おそらく”チリチリ”といったSP盤独特のノイズもある程度残されていて、 どちらをとるかは好み次第ということになるのでしょう。
低音は強調されている
第1番ト長調から聴いてゆくと、まず最初の低音 「ソ」 がかなり長く演奏されています。 多くのチェリストはこうした低音を本来の音符の長さよりも長く演奏していますが、それにしてもカザルスはかなり長く、16分音符が付点8分音符、つまり3倍くらい引き延ばして演奏しています。
これはチェロの場合、低音を響かせながら上声部を演奏することが出来ないための手段といえますが、低音を強調する意味もあるでしょう。
16分音符は不均等の長さで
プレリュードなど16分音符を中心に書かれた曲が多いのですが、その場合、1拍4つの16分音符は均等の長さで弾かれることは少なく、ほとんど不均等の長さで演奏されています。
前述とおり、4つの16分音符の最初のものがバス(低音)に当たる場合は必ず長く、しかもかなり長めに奏され、そうでない場合でも拍節感を出すために最初の16音符は長くなる場合が多いようです。
その他、そのフレーズの頂点になる音や、和声的に意味のある音など、特徴的な音も長く演奏しています。
こうした事は他のチェリストも行っていますが、カザルスの場合はそうしたことが比較的はっきり行われています
カザルス以来の習慣?
以前書いたことですが、カザルスは第1番のプレリュードの中央付近(26小節)で、B♭をBナチュラルで演奏しています。 私の知る限りでは譜面ではどの譜面もB♭となっていて、和声的にも属9の和音と思われるので矛盾はありません。
ギタリストの場合はほとんどB♭(ニ長調のアレンジだとF)で演奏していますが、多くのチェリストはカザルス同様ナチュラルで弾いています。おそらく増2度の進行を嫌ったためと考えられますが、よくわかりません。

アルマンドは速めのテンポ
アルマンドは今現在私たちが思っているイメージ(中庸、あるいはやや遅めのテンポ)と言ったものからすればかなり速めのテンポで弾いています。
続くクーラントは現在のチェリストとだいたい同じくらいの速さなので、クーラントとのテンポの差はあまりありません。
かつてのペータース版では、4分音符=104
そう言えば、私が持っている無伴奏チェロ組曲の譜面は1970年代くらいに買ったペータース社版とCDのオマケに付いていた旧バッハ全集のものなのですが、このペータース版ではアルマンドに、 4分音符=104 というメトロノーム数が書かれています。
もちろんこれはバッハが書いたものはなく(そもそも、バッハの時代はメトロノームなどなかった!)、出版社などで付けたものです。
このアルマンドはほとんど16分音符で書かれていますから、この104というのはかなり速いテンポです。 さすがにカザルスもこのテンポでは弾いてなく、90台といったところです。

かつてのペータース版ではアルマンドが4分音符=104となっている。これはかなり速いテンポ

同じく、第4番のアルマンドはなんと126! こんなテンポで弾いた人、本当にいるのだろうか。
第4番のアルマンドでは126の数字も
さらに第4番のアルマンドは 126 と書かれ、同じく16分音符で書かれているので、これは相当に速いテンポです。
同時代のピアノ譜面でもアルマンドにはかなり速いテンポの指示がされていますから、 かつてはアルマンドは遅い曲というより、速い曲といった考えがあったようです。
かつては平均律曲集や無伴奏のヴァイオリン、チェロ曲などは ”ただの” 練習曲と思われていたようですから、そういったことも影響しているのかも知れません。
カザルスの演奏が反映されている。
このペータース版では、これらのメトロノーム数や速度標語、強弱記号などが書かれていますが、もちろんそれ等はバッハが書いたものではなく、出版に際に付け加えられたものです。
これらの記号が書かれる根拠となったものは19世紀後半から20世紀前半くらいの時期の考え方と思われますが、 よく見るとこれらの強弱記号などはカザルスの演奏と相関関係があるのがわかります。
このペータース版が実際に出版された時期はカザルスの演奏よりも後と思われるので、カザルスの演奏がこの譜面に影響を与えた可能性もあります。
その一方で、まだエチュード的な捉え方もあったので、速度記号などはカザルス以上ものが付けられていたのでしょう。
力強くキビキビとした演奏
カザルスのCDに戻りますが、何と言ってもSP盤からの復刻CDなので音質についてはあまり多くを語れませんが、このCDで聴く限りでは、カザルスの音は大変力強く、最近のチェリストのように軽く、爽やかで、美しいと言った音ではないようです。
テンポは全体に速めで、キビキビとしています。 じっくりと、やや遅いテンポで演奏される傾向だった1960~70年代のチェリストの演奏よりは今現在のチェリストの演奏に近い感じもします。
カザルスの録音は、発表以来多くの人に愛され、格別高い評価を受け、神格化さえされたものですが、その後多くのチェリストに影響を及ぼしたのは言うまでもないことでしょう。 いろいろな意味で、はやり避けては通れない演奏でしょう。
パブロ・カザルス 1936~39年録音

EMIの復刻CD 2000年頃発売
世界初全曲録音
今回から無伴奏チェロ組曲(全6曲)のCDの紹介です。
無伴奏チェロ組曲の録音といえば、まずはやはりこの全曲世界初録音と言われているパブロ・カザルス盤を上げなけれならないでしょう。
カザルスについてはいろいろなところで紹介されているので、あえてここで紹介する必要もないと思いますので、他のサイト、あるいはカザルスについて書かれた本、あるいはCDのブックレットなどを参考にして下さい。
ある程度は演奏されていたと思われるが
そうした文章ではカザルスがそれまで忘れ去られていたバッハの無伴奏チェロ組曲を再発見し、その音楽の偉大さを世に知らしめたとされています。
確かにカザルスの貢献度を極めて高いものと思われますが、しかしそれまででも、バッハの無伴奏チェロ組曲が一般から完全に忘れ去られてしまったわけではなかったのでしょう。
タレガが無伴奏チェロ組曲第3番のブレーをアレンジしていたことなどからも(「ルール」としてだが)、ある程度は演奏されていたと思われます。
しかし、6曲を通しての演奏はもちろん、一つの組曲でも全曲とおして演奏されることは稀だったようです。
因みにカザルスは1910~20年代に無伴奏チェロ組曲一部の曲を録音しています。
リマスターによって音質などは異なる
この全曲録音盤(1936~39年)の録音方式としてはSP録音の後期、いわゆる”電気録音” と言われるものの時代で、現在はその復刻版CDが何種類か出ています。
何種類かのCDが出ているといってももとは同じ音源で、リマスターが何種類かあるということです。 そのリマスターの仕方で、それぞれ若干の音質の違いがあるようです。
私が持っているのは2000年頃CD化されたEMI盤で、SP独特のノイズはほとんどカットされていて、SP盤音源のCDとしては聴きやすいものと言えます。 しかし、ノイズを除去した分、本来の音も削られてしまっているとも言えます。
Opus盤など、もう少し音来の音を残したリマスター盤もあるようですが、おそらく”チリチリ”といったSP盤独特のノイズもある程度残されていて、 どちらをとるかは好み次第ということになるのでしょう。
低音は強調されている
第1番ト長調から聴いてゆくと、まず最初の低音 「ソ」 がかなり長く演奏されています。 多くのチェリストはこうした低音を本来の音符の長さよりも長く演奏していますが、それにしてもカザルスはかなり長く、16分音符が付点8分音符、つまり3倍くらい引き延ばして演奏しています。
これはチェロの場合、低音を響かせながら上声部を演奏することが出来ないための手段といえますが、低音を強調する意味もあるでしょう。
16分音符は不均等の長さで
プレリュードなど16分音符を中心に書かれた曲が多いのですが、その場合、1拍4つの16分音符は均等の長さで弾かれることは少なく、ほとんど不均等の長さで演奏されています。
前述とおり、4つの16分音符の最初のものがバス(低音)に当たる場合は必ず長く、しかもかなり長めに奏され、そうでない場合でも拍節感を出すために最初の16音符は長くなる場合が多いようです。
その他、そのフレーズの頂点になる音や、和声的に意味のある音など、特徴的な音も長く演奏しています。
こうした事は他のチェリストも行っていますが、カザルスの場合はそうしたことが比較的はっきり行われています
カザルス以来の習慣?
以前書いたことですが、カザルスは第1番のプレリュードの中央付近(26小節)で、B♭をBナチュラルで演奏しています。 私の知る限りでは譜面ではどの譜面もB♭となっていて、和声的にも属9の和音と思われるので矛盾はありません。
ギタリストの場合はほとんどB♭(ニ長調のアレンジだとF)で演奏していますが、多くのチェリストはカザルス同様ナチュラルで弾いています。おそらく増2度の進行を嫌ったためと考えられますが、よくわかりません。

アルマンドは速めのテンポ
アルマンドは今現在私たちが思っているイメージ(中庸、あるいはやや遅めのテンポ)と言ったものからすればかなり速めのテンポで弾いています。
続くクーラントは現在のチェリストとだいたい同じくらいの速さなので、クーラントとのテンポの差はあまりありません。
かつてのペータース版では、4分音符=104
そう言えば、私が持っている無伴奏チェロ組曲の譜面は1970年代くらいに買ったペータース社版とCDのオマケに付いていた旧バッハ全集のものなのですが、このペータース版ではアルマンドに、 4分音符=104 というメトロノーム数が書かれています。
もちろんこれはバッハが書いたものはなく(そもそも、バッハの時代はメトロノームなどなかった!)、出版社などで付けたものです。
このアルマンドはほとんど16分音符で書かれていますから、この104というのはかなり速いテンポです。 さすがにカザルスもこのテンポでは弾いてなく、90台といったところです。

かつてのペータース版ではアルマンドが4分音符=104となっている。これはかなり速いテンポ

同じく、第4番のアルマンドはなんと126! こんなテンポで弾いた人、本当にいるのだろうか。
第4番のアルマンドでは126の数字も
さらに第4番のアルマンドは 126 と書かれ、同じく16分音符で書かれているので、これは相当に速いテンポです。
同時代のピアノ譜面でもアルマンドにはかなり速いテンポの指示がされていますから、 かつてはアルマンドは遅い曲というより、速い曲といった考えがあったようです。
かつては平均律曲集や無伴奏のヴァイオリン、チェロ曲などは ”ただの” 練習曲と思われていたようですから、そういったことも影響しているのかも知れません。
カザルスの演奏が反映されている。
このペータース版では、これらのメトロノーム数や速度標語、強弱記号などが書かれていますが、もちろんそれ等はバッハが書いたものではなく、出版に際に付け加えられたものです。
これらの記号が書かれる根拠となったものは19世紀後半から20世紀前半くらいの時期の考え方と思われますが、 よく見るとこれらの強弱記号などはカザルスの演奏と相関関係があるのがわかります。
このペータース版が実際に出版された時期はカザルスの演奏よりも後と思われるので、カザルスの演奏がこの譜面に影響を与えた可能性もあります。
その一方で、まだエチュード的な捉え方もあったので、速度記号などはカザルス以上ものが付けられていたのでしょう。
力強くキビキビとした演奏
カザルスのCDに戻りますが、何と言ってもSP盤からの復刻CDなので音質についてはあまり多くを語れませんが、このCDで聴く限りでは、カザルスの音は大変力強く、最近のチェリストのように軽く、爽やかで、美しいと言った音ではないようです。
テンポは全体に速めで、キビキビとしています。 じっくりと、やや遅いテンポで演奏される傾向だった1960~70年代のチェリストの演奏よりは今現在のチェリストの演奏に近い感じもします。
カザルスの録音は、発表以来多くの人に愛され、格別高い評価を受け、神格化さえされたものですが、その後多くのチェリストに影響を及ぼしたのは言うまでもないことでしょう。 いろいろな意味で、はやり避けては通れない演奏でしょう。
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