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中村俊三 ブログ

中村ギター教室内のレッスン内容や、イベント、また、音楽の雑学などを書いていきます。

目で見るギターの音 5




3弦と6弦



 これまで①弦の各フレットのグラフを見てもらいましたが、今回は3弦と6弦のグラフを見てもらいます。

 まず3弦ですが、今回は16個の音を一つのグラフにしたので、間隔が狭くなっていますが、1個の音は時間にしてだいたい2~3秒くらいです。



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3弦の開放から15フレット(シ♭)までのグラフ。 上がハウザー、下がジェイコブソン やはり開放と1フレット、12フレットと13フレットの「ソ」、「ソ#」 は3弦でも突出している




やはり「ソ」と「ソ#」は突出している

開放1フレット、12フレットと13フレットの 「ソ」 と 「ソ#」 が突出している点は1弦の場合と同じです。 ハウザーでは 「ソ」 と 「ソ#」 の差があまりありませんが、ジェイコブソンの 「ソ#」 はかなり突出しています。

 1弦ではあまり鳴らなかったハウザーの「ド」とジェイコブソンの「シ」はそれほどへこんではいません。 前述の「ソ」と「ソ#」が突出していること以外はわりと均等ですね。



「ソ」、「ソ#」に食われている?

 でも突出した 「ソ」 と「ソ#」 の両隣の 「ファ」、「ファ#」、「ラ」、「ラ#」 が凹んでいます。 まるでこの「ソ」と「ソ#」に音が持ってゆかれているみたいですね。



2台とも傾向は同じ

 それにしてもこの二つの楽器、この3弦を見る限りではかなりよく似ています。 どうしても同じような傾向の楽器を好む傾向があるのでしょう。 因みに3弦はどちらもサバレス・アリアンスのノーマル・テンションを使用しています。




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6弦の開放から12フレット 1弦に比べると各音の差が小さい。 12フレットの音はどちらの楽器も変な形をしているが、他の弦の共鳴を拾っていると思われる。




低音弦は、やはり余韻が長い

 次は6弦ですが、やはり6弦となると余韻が長く、減衰が少ないですね。 放っておくとまだまだ余韻が続くでしょう。 ちょっと見た感じでも1弦とはだいぶ違ったグラフになっています。



高音弦ほど各音で差がない

 それにしても、6弦の場合は、1弦に比べると各音であまり差がないですね。 相変わらず4フレットの「ソ#」がやや突出している以外は、ほぼ同じような振幅です。 またハウザーとジェイコブソンの差もあまり顕著ではないようです。

 ハウザーの低音の「ラ」、つまり6弦の5フレットの音はいつもよく鳴らなくて苦労するのですが、グラフを見た限りではあまり凹んでもいないようですね。

 また1弦では7フレットの「シ」が鳴って、8フレットの「ド」が鳴らなかったのですが、6弦ではその逆のようにも見えます。「シ」のほうは減衰が速いようです。

 どちらの楽器も12フレットのグラフは乱れた形をしていますが、おそらく他の弦が共鳴していたのでしょう。



よく鳴る音は減衰も速い

 ところで、よく鳴る音の 「ソ」 と 「ソ#」 ですが、確かに発音時の振幅は高いのですが、減衰も速いです。 あまり鳴らない5フレットや6フレット(「ラ」と「ラ#」)ほうが減衰が遅く、音が伸びるようです。

 特に低音は発音時に鳴るかどうかというより、持続する方が大事なので、そういった意味ではこの「ソ」とか「ソ#」はやや困った音ともいえるでしょう。



よく鳴る楽器はウルフトーンも顕著に出るのか

 こうした音は前に言いましたとおり「ウルフトーン」と言って、楽器の製作上、どうしても現れてしまうことだそうですが、これらを押さえようとすると、どうしても楽器全体としてならなくなり、また楽器全体の音量を上げようとすると、このウルフトーンも顕著に現れてしまうということなのかも知れません。



楽器を選ぶ際には

 確かに楽器を買う時に、よく鳴る楽器を選ぶか、バランスの良い楽器を選ぶかで悩むところですね。 よく鳴るといっても瞬間的に鳴るよりも、余韻が長続きする楽器が良いのは間違いありません。



中音域が太い楽器は近くでは大きく聴こえるが

 また、中音域がよく鳴る楽器は聴いて大きな音に聴こえるのですが、どうしても離れたところには届きにくい面もあります。 遠達性を考慮すると中音域よりもやや高い音域の倍音をよく拾う楽器のほうがいいようです。

 しかし高音域をよく拾う楽器というのは弾き方によってはノイズっぽく聴こえるので、こうした楽器で美しい音を出すのはかなり技術が必要です。



思った以上に差が大きかった

 さて、このようにギターの音を編集ソフトによりグラフで見てもらいましたが、今回こういったことをやってみて改めて気が付いたこととしては。まずグラフで見ると各音によって相当差があるということです。

 確かに、同じギターでも鳴る音と鳴らない音があるということは日頃からわかってはいる事ですが、グラフで見るとこんなに違うものかと思いました。



グラフには現れない部分も


 それは特に高音で顕著で、低音弦ではそれほど差がないこともわかりました。 しかし実際に耳で聴いた感じではグラフで見るよりも差が小さく、鳴る音とならない音の差が2倍以上もあるようには聞こえないのも事実です。 おそらくは人間の耳にはグラフ通りには感じられない他の事情もあるのかも知れません。



固有振動

 ギターの場合、特になる音、つまりウルフトーンが現れるのは、ボディ自体に固有の振動数があるからで、それは楽器製作上避けられないものだそうです。 
 
 そうしたことからすると、録音の際にも、デジタル録音とは言え、空気の振動をデジタルのデータに置き換える際、やはり物理的な媒体で空気の振動を感知するしかありません。となればその物理的媒体にも固有の振動があって、拾いやすい振動数とそうでないものもあるのかなとも考えられます。

 さらには人間の耳も鼓膜という物理的な媒体によって空気の振動を感知するので、その鼓膜の固有振動なども関係する可能性もあるでしょう。 結論としては、人間の耳も完全ではないが、こうしたグラフもまた完全ではないということでしょう。



お店で

 何はともあれ、私たちがギターを選ぶとき、こうしたグラフはたいへん参考になるでしょうね。 

 しかし楽器店にICレコーダーとノート・パソコンを持って行って、その場で録音しパソコンでグラフを見ながら、 「この音の凹み酷いな」 とか、「この音、なることは鳴るけど、減衰早すぎ!」  「うあー、ヤバイ! こんなところにウルフトーン! きついな」 

 なんてやっていたら店の人に追い出されるでしょうね。 くれぐれも当ブログを参考にしたなんて言わないで下さい。
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目で見るギターの音 4




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18、19フレットは突出していたはずだが

 前回の記事に引き続き、消音した場合としない場合のグラフで、今回はハウザーの1弦の14フレットから19フレットです。 

 このグラフで、まず気になるのは、以前載せたグラフでは18、19フレットの「シ♭」と「シ♮」のグラフが突出していたのですが、今回のグラフではそれがあまりはっきり出ません。

 よく見ると(クリックすると拡大する)弾弦直後に若干振幅が跳ね上がるのは前回同様ですが、それにしても前回とだいぶ違います。



無意識に調整してしまった?

 おそらくこの2か所は前回グラフが突出したので、無意識に抑えて弾いてしまったのでしょう。 逆に言えば、前回はこのあたりの音は出にくいので習慣的に強く弾いてしまったとも言えます。 

 実際の曲の中でも、このあたり音が出てくる場合はほぼ間違いなく目立たせなければならない音、つまりフォルテが必要とされる場合多いので、強めに弾く習慣が出来てしまったのでしょう。 

 その他も音についても前回ほど凸凹が少ないですね。 前回のグラフを記憶していて、無意識にコントロールしてしまったのかも知れません。 

 やはり人間が弾くと実権にはなりませんね、全く音を聴かないで弾けばいいんでしょうけど、なかなか難しい。  ・・・・・・それが出来ちゃう人もいるが。



上段と下段の差もあまりないが

 上段と下段(消音した方としない方)の差も、ちょっと見えるとあまりありませんが、 グラフを拡大してみると、同じ音を低音弦に持つ音、「ソ」、「ラ」 などは振幅が収まったあたりから余韻があるのが分かります。

 つまりこのあたりの音は弾いてからしばらくしないと他の弦の共鳴は表に出ないということでしょうか。 



ファ#は意外と他の弦と共鳴する

 14フレットの「ファ#」は直接同じ音が開放弦になく、かろうじて2弦が5度関係になっているくらいですが、意外と共鳴があるようです。 
 4弦とか5弦も長3度関係である程度共鳴するのでしょうが、この長3度は厳密には5倍音にはなっておらず、あまり共鳴しないはずなのですが、ある程度共鳴するのかも知れません。






ハウザーとジェイコブソンの違い

 ちょっと話が変わりますが、下はハウザーとジェイコブソンの同じ 「ミ」の音~1弦の開放弦のグラフです。 



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上段はハウザー、下段はジェイコブソン。 どちらも1弦の開放(ミ)のグラフ 時間にして約2秒間  ジェイコブソンのほうが音量があるが、伸びはハウザーの方があるのがわかる




弾弦直後はあまり変わらないが

 前述のとおり、弾いた瞬間の振幅はどうも弾き方の違いの方が大きく出てしまうようです。 音色についてはこのグラフからではよくわかりませんが、弾いた瞬間の音色も楽器の違いよりも弾き方、あるいは弾く人の差の方が大きいかも知れません。

 しかしこの「ミ」の音はグラフでもまた弾いた感じでも音量はあきらかにジェイコブソンの方が大きいです。 グラフをよく見ると弾いた瞬間がは両者でそれほどの違いがありませんが、ジェイコブソンの方は弾いた直後に減衰せず、一定の時間振幅が持続するので、大きく聴こえるのでしょう。 人間の耳に大きく聴こえるためにはある程度の時間が必要と言えるのでしょう。 

また、よく見ると弾弦直後よりその少し後に振幅のピークがあります(どちらの楽器も)。 つまりギターのボディの共鳴にはすこし時間がかかるのでしょう。



ある程度時間が経つとハウザーの方が振幅が大きくなる

 一定の時間が過ぎるとハウザーに比べ、ジェイコブソンの方が減衰が大きくなり、ある時点で振幅が逆転します。 正確な時間はわかりませんが、このグラフ全体が約2秒くらいなので、だいたい0.5秒当たりでしょうか。

 そしてその後は音が聞こえなくなるまでハウザーの振幅のほうが大きい状態が続きます。

 この余韻の長さだけが楽器の特徴を決める訳ではありませんが、一つのファクターであることは言えるでしょう。 弾いている印象からもハウザーのほうが音の”伸び”があるのですが、それはこうしたグラフに表れているようです。



減衰の仕方は弦でも変わる

 もっともこの減衰のしかたは弦の種類によっても異なるでしょう。 テンションの高い弦は弾いた瞬間の振幅は上がるが、減衰も速いと思われます。

  テンションの低い弦は弾いた感じ、音がよく出ないように思われるのですが、その分伸びはよく、また高音は自分には小さく感じても少し離れたところではよく聴こえるので、どちらかと言えば弦のテンションは弱めの方がいいようです。

 もちろん今回はどちらも同じ弦を用いていますが(プロアルテ・ノーマルテンション)、 同じ楽器で弦を変えて測定しても面白いかなと思います。
目で見るギターの音 3





他の弦を共鳴させて

 今回は前回と同じ①弦の開放から19フレットまでを他の弦を消音せずに弾いたものです。 まずハウザーからです。




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ハウザー  開放から6フレットまで




共鳴する音としない音でだいぶ異なる

 ちょっと見にくいかも知れませんが(クリックすると見やすくなる)、音によってだいぶ異なります。 当然のことながら開放弦に同じ音がある音は共鳴し、ないものはその音だけの響きとなります。



「ミ」は6弦の他、2弦と5弦も共鳴する

 特に開放の「ミ」は6弦が共鳴するわけですが、他に5弦と2弦も5度関係なので共鳴します。 その結果、ミの音の余韻が大きくなっています。

 共鳴すると言っても、発音の瞬間には関係なく、余韻、つまりある程度時間が経ってからが大きく異なります。 しかし人間が感じる音量は瞬間的な振幅だけでなく振動している時間にも関係あるので、やはり共鳴が多い音は大きく聴こえます。

 ハウザーの場合、元々「ミ」は鳴る方ですが、さらに他の弦との共鳴もあるということで、やはり他の音より聴こえるのは確かです。いろいろと「恵まれた音」とも言えるでしょう。




6弦の余韻が残ってしまった?


 1フレットの「ファ」はギザギザしていますが、おそらくこれはその前に弾いた「ミ」の音によって6弦や5弦などが響いていて、その響きと不協和となっているためではないかと考えられます。




意外と共鳴


 2フレットの「ファ#」は特にオクターブや5度関係の弦がなく、あまり共鳴しないと思いますが、それでもすこし共鳴があるようです。おそらく➃弦の「レ」が長3度(微妙だが5倍音)、2弦(シ)が5度関係と言うところで若干共鳴があるのでしょう。



1オクターブ下の音があるので余韻が長続き

 3フレットの「ソ」は3弦と同じ音なので、さすがに余韻が長続きしていますね。 この音は元々鳴る音なので、「恵まれた」ということになります。 3弦以外に4弦も若干共鳴します。




あまり共鳴しないが


 ソ#はよく鳴る音(ウルフトーン?)ではありますが、5度やオクターブ関係の音がなく、他の弦と共鳴しにくい音ですが、これも若干共鳴があるように見えるのは6弦が長3度関係と言うことなのでしょう。 他の弦は全く共鳴しないのではないかと思います。

 

他の弦とよく共鳴する

 5フレットの「ラ」は一般的によく鳴る楽器が多いのですが(昔使っていたホセ・ラミレスはよく鳴っていた)、このハウザーではあまり鳴りません。 しかしあまり目立たないのは5弦などの共鳴を拾いやすいからなのでしょう(6弦、4弦も共鳴する)。



共鳴には頼れない

 6フレットの「シ♭」は全く共鳴する弦を持たず、まさに自力で頑張るしかないのですが、このハウザーではそこそこ鳴るので、あまり気にはなりません。
 


上段のほうが発音時の振幅が大きいが

ところで、よく見ると他の弦を消音して弾いた方、つまり上の段の方が音の出の振幅がやや大きいように見えます。 どちらもアポヤンド奏法(薬指の)で弾いているのですが、他の弦を消音しているということは、左手のどこかを2~6弦に置いて弾いている訳です。



同じように弾いているつもりでも

 そのため右手が安定して弦を強く弾くことが出来る訳です。 消音しないということは右手を他の弦に全く触れないで弾かないといけないので、どうしても不安定になります。

 出来るだけ同じ音量で、同じ力で弾こうしたのですが、こうした事もあって発音時の振幅にやや差が出てしまったのでしょう。

 結果、音自体を大きくしたければ、親指を6弦などに添えてアポヤンド奏法で弾いた方が良く、また逆に音の出よりも”伸び”を重視する場合はアルアイレ奏法など、他の弦に触れない方が良いということになるのでしょう。 こういったことも日頃無意識にやっていることかもしれませんね。




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7フレットから13フレットまで




共鳴が複雑に絡み合っている?

 7フレットの 「シ」 は、下段(消音しないほう)のグラフは、なんか変な形をしていますね。 発音直後は消音したほうよりも減衰が大きく、その後は減衰せず余韻が長続きしています。

 この 「シ」 は6弦、4弦、2弦、共鳴が共鳴し、さらに3度関係で3弦の若干共鳴するので、それらの共鳴が複雑に絡み合っているのかも知れませんね。

 元々よく鳴る音なので、、実際の演奏では他の弦を消音したほうがすっきり聴こえます。グラフ的にも上段の方がきれいですね。



何重苦?

 8フレットの「ド」や普段からよく鳴らない音なのですが、共鳴もほとんど拾っていないようですね。 よく鳴らない上に共鳴もないといった、困った音ですね。 さらに音の伸びも悪く、音色もなかなかきれいに出ず、ヴィヴラートもかかりにくい、・・・・・何重苦?

 9フレットの「ド#」は、そのナチュラルの 「ド」 に比べるとよく鳴る音ですが、他の弦の共鳴は殆んどないようです。 ほんの少し5弦が鳴るくらいでしょうか(5倍音関係で)。

 

10フレットの「レ」は最も 「おいしい音」

 10フレットの「レ」はグラフではわかりにくいのですが、このハウザーでは最も 「おいしい音」 で、たいへん美しく、余韻も長く、特にヴィヴラートがかかりやすい音です。

 8フレットの「ド」と真逆の関係ですね。 こうした事からも、この楽器ではハ長調には不向きで、ニ長調、またはト長調に適していることがわかります。 もちろん低音弦の関係からもこうした調がよく合うことは自明と言えるでしょう。

 この「レ」は同じ音の4弦のみでなく3弦、5弦も共鳴し、拡がり感のある音となっています。 しかし複数の弦が共鳴すると、前述のようにグラフ上では不規則な形になるようですね。
 


うっかり触れてしまった?

 11フレットの「レ#」と12フレットの「ミ」は上下であまりかわりませんね。 「レ#」は共鳴する弦がないので当然と言えますが、 12フレットの「ミ」の場合は 開放と同じく6、5、2弦などが共鳴するので余韻が大きくなるはずです。

 うっかり低音弦にふれてしまったかな? しかし余程しっかりと消音しない限りどこかの弦が共鳴するので、やはり同じ「ミ」でも開放の場合ほどは共鳴しないのかも知れません。



実際の演奏でも気を付けなければならない

 13フレットの「ファ」のグラフが不規則になっているは、1フレットの時と同じく6弦などの余韻が残っていたからでしょう。 これは実際に演奏の場合でも気を付けなければならないことです。 6弦などが鳴っている状態で 「ファ」 を弾いてしまう機会はよくあります。




目で見るギターの音 2




①弦の14~19フレット




ハウザーの18.19フレットが突出している

 下のグラフは①弦の14~19フレットです。 下のジェイコブソンは比較的各音の差が小さいですが、上のハウザーはだいぶ特徴的ですね。 18,19フレット(シ♭、シ♮) の振幅が突出しています。

 ハウザーの18、19フレットの振幅が大きいと言っても、かなり瞬間的なので、実際に弾いた感じではそれほど他の音との差は感じません。

 また18フレットの振幅が特に大きいですが、同じ「シ♭」でも1オクターブ下の6フレットはそれほど振幅が大きくありませんでした。 




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①弦の14フレット~19フレットのグラフ。   ハウザー(上段)の18、19フレット(シ♭、シ♮) が突出している。 18フレットなど、瞬間的だが他の音の3倍くらいの振幅がある。 ただし実際に聴いた感じではそれほどは突出していない。 ジェイコブソン(下段)のほうは意外(?)と均質。 しかし4フレットの「ソ#」が異常に鳴っていたわりにはオクターブ上の16フレットは逆に落ち込んでいるのが目立つ。





ハウザーは高次の倍音が多い傾向 

 中音域では圧倒的にジェイコブソンの方が振幅が大きかったのですが、18フレット以上となると逆にハウザーの方が振幅が大きくなっています。 ハウザーは高次の倍音を拾いやすいということが出来るのでしょう。

 これまで使ってきた経験からは、ハウザーはクリヤーな音と言った印象があります。 クリヤーと言う意味は音響学的には、高次の倍音が比較的多く含むと言うことになるのでしょう。 




高次の倍音多いと音がクリヤーで遠達性にも富むが

 高次の倍音が多いということは、クリヤーに聴こえると同時に、遠い位置からでもよく聴き取れて、いわゆる 「遠達性に富む」 ということにもなります。

 一般にコンサートでは聴く人が数メートル~20、30メートルくらいの位置にいるので、やはりハウザーはコンサートに適した楽器と言うことが出来るでしょう。



その一方で美しい音を出すのは難しい楽器

 しかし高次の倍音が多いということはノイズ成分も増幅してしまうので、音色としては硬く、あるいはノイジーな音にも聴こえてしまいます。 

 つまりこのハウザーでノイズの少ない美しい音を出すのはかなり難しいとも言えます。 爪の角度や深さなど、指先のベストな位置で捉え、正確に弾かないとなかなかよい音が得られません。

 これらのことはこれまでの経験でも感じてきたことですが、そうしたことはこのグラフによっても裏付けられるます。  

 



ジェイコブソンの4フレットの音はかなり鳴っていたが

 ジェイコブソンの方は0~13フレットではかなり個々の音で差があったのですが、この音域では意外と均質です。 7フレットの「シ」はよく出なかったのですが、19フレットは結構出ています。




共鳴というのはオクターブちがうと全く異なる

 逆に4フレットの「ソ#」が異常に鳴っていたわりには、オクターブ上の16フレットがあまり鳴っていないのが不思議です。 ハウザーの場合も同様ですが、共鳴というのはオクターブ違うとかなり違うものなんですね、今までよくわかりませんでした。



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0~6フレット ジェイコブソンの4フレット(ソ#)は突出していたが




中音域が太い

 全体的に見れば、ジェイコブソンは中音域の音が良く出ると言うことがグラフに表れています。それは実際に弾いた印象と一致しているといえるでしょう。 

 中音域がよく出るということは、ノイズや硬い音と言ったものも聞こえにくく、比較的安定した音とも言えます。 一般に美しい音というのは中音が中心の音とも言えるでしょう。

 またこうした音は聞き取りやすいのも特徴ですが、楽器の近く、つまり演奏者には大きな音量で聞えるのも特徴です。 その一方で、ややぼやけた感じ(あくまでハウザーに比べればですが)にも聴こえ、距離が離れるとハウザーの音の方が良く聴こえるのは確かでしょう。



あまり弾き手を選ばない

 また多少弾き方が違っても同じような音になる傾向もあり、あまり弾き手を選ばない傾向もあります。 また強弱の変化などは付けやすく、ダイナミックな音楽の構成には向いていますが、その反面、繊細な感覚の弾き手や、繊細な内容の音楽にはやや不向きかも知れません。



次回は消音なしで
 
 これまで①弦の開放から19フレットまでの音をグラフで見てもらいました。その際、他の弦は共鳴しないように消音して録音、測定した訳ですが、次回は消音せず他の弦を共鳴させた場合のグラフを掲載します。

 実際の演奏ではこうしたケースも多いでしょう。 また①弦以外に③弦と⑥弦のグラフも掲載しましょう、


 
目で見るギターの音 1


  ~編集ソフトでギターの音を目で見る





タイトル変更

 前回の続きですが、前回の話の通り、タイトルを変えて 「目で見るギターの音」 ということで書いてゆきます。

 編集ソフトでギターの音のグラフを見てみると、実際に聴いた感じを反映した部分もあれば、異なる点などもあります。

 また、よく鳴る音とそうでない音はグラフで見るとどう違うのかなどを検証してゆきます。

 前回は若干思いつきでやったので、あまり深く考慮しなかった点もあり、今回改めて2台のギターの音を録音し、そのグラフを画像にしてみました。



他の弦の共鳴を止めて0~19フレット

 前回は1弦の1~12フレットだったのですが、今回は1弦の開放から19フレットまでと拡げてみました。 また前回他の弦の共鳴を止めたかどうかはっきりしなかったので、今回は1弦以外の弦を消音した状態で弾いたものと、他の弦(2~6弦)に触れず、全く消音をしていない状態のもと別に録音してみました。
 


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1弦の開放から6フレットまで。 1弦以外の弦を消音して録音した。 上はヘルマン・ハウザーⅢ、 下はポール・ジェイコブソン






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ヘルマン・ハウザーⅢ (表面松 裏横ローズ・ウッド 1983年ドイツ)




個々の音によって振幅などがかなり異なる

 それしても同じギターで弾いても各音によって振幅、つまり音量が全く違うのにあらためて驚かされます。 またグラフの波形が音によってそれぞれ違う、つまり減衰の仕方が音によってかなり異なっています。

 ギターは弦の振動をボディで共鳴させて音を増幅させているので、そのボディの形や大きさなどで共鳴する振動数が変わるので、やむを得ない事ではあるでしょう。

 そのボディの形や大きさはクラシック・ギターであればだいたい同じなのですが、これらのグラフを見てもわかる通り、楽器の違いによって共鳴する音、しない音はかなり異なってきます。





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ポール・ジェイコブソン (表面杉 裏横ハカランダ アメリカ 1991年)





0~6フレットまではよく似た傾向


 上のグラフのように0~6フレット辺りまではこの2本の楽器は似たような傾向を示しています。

 弾いている感じからするとこの2本の楽器はやや同じ傾向にあり、それは 「ソ」 や 「ソ#」 (3、4フレット) が共によく共鳴することからも言えるでしょう。

 この 「ソ」 と 「ソ#」 がよく鳴る楽器は多く、前回の記事のとおり、このあたりに 「ウルフ・トーン」 と呼ばれる音があると言われています。 

 聴いた感じでは「ソ」の方はどちらの楽器も比較的素直な音で、「ソ#」は鳴り過ぎてちょっと異質な音に聴こえます。おそらくこの「ソ#」がウルフトーンと呼ばれる音に相当するのかも知れません。 

 



縦長と横長

 個々の波形を見るとジェイコブソンのほうが全体的に音量があるので、振幅は大きくなっていますが、それだけに減衰も大きいので、したがってグラフが ”縦長” に、見えます。

 それに比べてハウザーのほうはやや ”横長” となっていて、弾弦直後の音量は比較的小さいが、減衰は急でない、つまり音が ”伸びる” 傾向にあります。

 

 


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 1弦  7~13フレット  上ハウザー、 下ジェイコブソン



7~13フレットではだいぶ差が出る

 この7~13フレットではだいぶ二つの楽器で違いが出てきましたね。 特に 「ド」 と 「レ」 (8、10フレット)が正反対になっています。

 前回の記事のグラフでは 「シ」(7フレット) もだいぶ異なったのですが、今回の測定ではあまり差がありません。 常に同じように弾くのはなかなか難しいですね。

 ジェイコブソンでは 「レ」 のグラフがたいへん小さく、それに対して「ド」の振幅が大きいですが、実際に弾いている感じではそれほどでのちがいは感じません。

 確かに改めてそれにしても 「ド」 がよく鳴りますね、前回の測定でも振幅は大きく出ていました。 日頃はあまり気が付きませんでした。 「ド」の音は意外とギターではあまり重要なところで使われないせいかも知れません。


 

ハウザーの「ド」は困った音

 その一方でハウザーの 「ド」 が鳴らないのはいつも困りものです。 この「ド」は音量がないだけでなく、音色もきれいに出ません。 音量がないので、自然と弾弦に力が入り、したがってノイズっぽい音になってしまうのかも知れません。

 しかし、グラフを見ると、確かに振幅は小さいですが、余韻はある程度長続きしています。 あらためて聴いてみると、確かに余韻は比較的長持ちしています。
 


「レ」は ”美味しい音” だが

 弾いている感じだとハウザーの「レ」はよく鳴り、余韻も美しく、またヴィヴラートもかかりやすいです。 演奏の際には、この10フレットの「レ」は ”美味しいところ” で、まさに聴かせどころです。

 でもぐらふでは特にそういった感じはありませんね、特に振幅が大きい訳でもありません。 余韻も特に長い訳ではありませんが、やや変わったグラフにはなっていますね、その辺が関係あるのかも知れません。



ジェイコブソンのあのタコ形は

 また前回の記事で、ジェイコブソンの12フレットの「ミ」がタコみたいな音型だなんて書きましたが、どうもこれは他の弦、特に5弦または6弦に共鳴してあのような形になったようです。 この他の弦を消音せず共鳴させた場合については次回(あるいは次次回)検証してみます。

 今回、他の弦の共鳴を押さえて弾いたら、比較的普通のグラフとなりました。 しかし弾弦直後の振幅が跳ね上がり、減衰が非常に速いのは同じです。 



”細く、長く” か ”太く、短く” か

 もちろんそれは常に感じているところで、”鳴るけど困った音” と言えます。 本当に音が「プツッ」と消えるので、ミスをしたような感じにも聴こえてしまいます。

 他に 「ド#」(9フレット) も「ミ」ほどではありませんが、余韻が短く感じます。 この 「ド#」 と 「ミ」 の余韻が短く感じるのはハウザーも同じでした。

 もしかしたら、弾弦直後に振幅が跳ね上がると、そこでエネルギーを使い果たしてすぐに減衰してしまうのかもかも知れませんね、まさに ”細く、長く” か ”太く、短く” でしょうか。