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中村俊三 ブログ

中村ギター教室内のレッスン内容や、イベント、また、音楽の雑学などを書いていきます。

アポヤンド奏法 6


親指のアポヤンド奏法



アストゥリアス




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アルベニスのアストゥリアスも親指が大活躍




激しい曲で人気がある

 親指のアポヤンド奏法の続きです。クラシック・ギターでは人気曲、アルベニスの「アストゥリアス」も親指中心の曲ですね。アルベニスの曲の中で、と言うよりクラシック・ギター曲全体の中でも1,2を争う華やかな曲です。 華やかな曲と言うより、激しいとか、情熱的とかと言いた方が相応しい曲でしょうか。



もっと派手な曲弾け!

 私が若い頃、お店でギターを弾いていたことがあります。ギター曲は静かな曲が多く、よくお客さんから 「そんな暗い曲弾いていないで、もっと派手な曲弾け!」 と言われることがありました。そんな時よくこの曲弾いたものです。 当時レパートリーも狭かったこともあって、他には 「粉屋の踊り」 とか、 「入り江のざわめき」(弾き方にもよるが) くらいだったでしょうか。

 でも、そんな曲弾いていると、今度は 「うるさいから、もっと静かな曲弾け」 とか 「そんな知らない曲ばかり弾くな」 とか・・・・・ 



お世話になっている
 
 何はともあれ、この 「アストゥリアス」 はクラシック・ギターのことを知っている人でも、知らない人でも、あるいは音楽に詳しい人でも、そうでない人にでも受けがよく、さらにはどのような場でも弾ける曲で、たいへんお世話になっています。




テンポを上げることよりも、音量を上げることの方が難しい

 もちろん華やかに聞えるためには、それなりのテンポで弾かないといけませんが、それ以上に音量を上げないといけません。この曲の場合、速く弾くことよりも、音量を上げることの方がずっと難しいでしょうね。 よく和音だけ大きくて、親指で弾く主旋律のほうは全然聴こえない演奏なんてよくありますね。



親指のアポヤンド奏法が必要

 この低音(低音弦)のメロディを強く出すにはアポヤンド奏法を用いる以外にありません。アルアイレ奏法でも十分に音が出せる人もいますが、そういう人は決して多くありません。



かなり速いが

 この曲(中間部以外)のテンポとしては、四分音符=110~130くらいで弾く必要があると思いますが、私はだいたい126くらいで弾いています。 因みに音楽の友社のピアノの譜面では、「スペインの歌」が132、「スペイン組曲作品47」で138となっています(ただしアルベニス自身のものではないかも)。



この曲で親指のアポヤンド奏法の練習をするのもよい

 こうしたテンポで親指をアポヤンド奏法出弾くのは確かに難しいところですが、もともとアポヤンド奏法は指の動きは小さいので、正しい弾き方をすれば不可能なものではありません。この曲を通して親指のアポヤンド奏法の練習をするのもたいへんいいのではないかと思います。

 

一般的な編曲

 若干余談になりますが、25小節から一般の編曲ではこのようになっています。この編曲につては以前にも書きましたが、1950頃までに編曲されたもので、以前この編曲者の名前が現代ギター誌に書いてありましたが、その記事が手元になくて、私自身ではわからなくなってしまいました。セゴヴィアはこのアレンジを基に演奏していますが、和音などは原曲よりに修正しています。



アストゥリアス2ページ
一般的に演奏されるアストゥリアスのギター版。 スペインのギタリストによるアレンジで、かつて現代ギター誌にそのギタリストの名前があったが、その記事が手元にないので、私自身ではわからなくなってしまった。セゴヴィア編とされることもあるが、セゴヴィアの編曲でないのは確からしい。



セゴヴィア編ではない

 「セゴヴィア編」として出版されているものもありますが、セゴヴィアの編曲ではないようです。細かくみれば、若干理不尽というか、共感出来ないところもありますが、現在ギターで演奏されるアストゥリアスはこのアレンジの影響を受けていると言ってもいいでしょう。私の編曲もまたしかりです。



25小節から伴奏は2弦の連打となっているが

 さて、この編曲の25小節からの伴奏部はこのように、2弦を連打するようになっています。原曲ではオクターブの重複となっているところですが、音量や華やかさを増すためにこのようなアレンジになっていると思われます。



私は同音ではなく、オクターブとしている

 一方、次は私のアレンジです。



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私のアレンジ。 25小節から同音ではなく、一オクターブ離れた音にしている。このことにより、ノイズが軽減され、テンポも音量も上がった


 25小節からを、2弦の連打ではなく、オクターブにしています。この理由はいくつかありますが、まず同音だとテンポが」上がらない、それから音量もあまり出ない、さらには同じ弦を速く続けて弾くと爪に当たってノイズが発生する、あるいは大きくなるといった理由です。右手については明かにこの方が弾きやすいです。

 速く弾くなら、同じ弦をひくより、アルペジオ風に違う弦を弾いた方が速く弾けるわけですね。また、この方法だと2弦ではなく、1弦の「シ」を弾くので、聴こえやすくなって、結果的に音量も上がります。



元々はノイズを軽減するためだったが

 この方法にした最も大きな理由は爪のノイズなのですが、若い頃はこのノイズがほとんど気になりませんでした。 気にならなかっただけかも知れませんが、年齢が高くなって、プラスティックの付け爪を使うようになってから、それが目立つようになりました。 あれやこれやその対策を考えたのですが、この方法が最もノイズが軽減に効果的でした。



一挙三得!

 しかし右手が弾きやすくなる分、その負担は左手に来るわけで、左手は結構難しくなります。もとももと2弦の開放弦を連打するようにアレンジされているのも、左手の負担を少なくするためと思われます。 私自身としては左手には問題なかったので、この方法を用いています。 この方法だと、ノイズが少なくなるだけでなく、音量とテンポが上がると言うオマケまで付いてきて、まさに一挙三得というところです。
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親指のアポヤンド奏法



ヴィラ=ロボスの前奏曲第1番、中間部



親指のアポヤンド前奏曲2
ヴィラ=ロボスの前奏曲第1番の中間部でも親指のアポヤンド奏法は重要 1小節目と3小節目の右指の使い方が異なってしまったが、どちらでもよい。親指が上手く使えれば、3小節目のような使い方の方がいいかも。




3つの弦を滑らせるようにしての連続アポヤンド

 前回に引き続き、ヴィラ=ロボスの前奏曲第1番での親指のアポヤンド奏法です。今回はホ長調となる中間部ですが、ともかく、この曲では親指のアポヤンド奏法が大活躍します。親指のアポヤンド奏法が苦手などと言っていたのでは、この曲は絶対に弾けません。

 この中間部は前回の主部よりさらに右親指が重要で、また使い方も難しくなります。 まず譜面最初の小節で、6.5,4弦、「ミ」 「シ」 「ミ」と連続してアポヤンド奏法で弾きます。この場合、6弦を強いて5弦に指を止めたら、そのまま5弦を弾きます。一旦5弦から離して弾いてはいけません。 そしてさらに4弦に指を止めたら、さらに4弦を弾きます。




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6弦を弾いたら5弦に止めて、そのまま5弦を弾く



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さらに4弦を弾く。imaは弦に触れないようにした方が良い。



 つまり6,5,4弦上を親指が滑るように動き、一つの動作で行います。そうしないと音がよく出なかったり、余韻が消えてしまったりします。この時、imaは弦に触れないようにします。そうしないと和音の響きがなくなったりします。もちろん比較的速めのテンポで弾きますが、たとえ速くとも音符の長さを正確に揃えないといけません。 平均した音の長さで弾くのはかなり難しいかも知れません。



アクセントをつけるため親指で2,1弦を弾く

 最初の小節、7個目の16分音符(7フレットの「シ」)は、2弦の開放「シ」と同時に弾くことになりますが、これも親指で弾くべきでしょう。そうでないとアクセントが付きません。つまり②弦、1弦を同時に親指で弾くわけですが、1弦の次に弦がないのでアポヤンド奏法にはなりませんが、方向的にはアポヤンド奏法と同じです。



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2弦、1弦を親指で弾く



1弦アルアイレ、6弦アポヤンド

 3小節目は1小節目のものに1弦の開放が付いています。これが厄介ですね、親指のアポヤンド奏法で6弦を弾きながら、薬指のアルアイレ奏法で1弦を弾きます。逆に親指アルアイレ、薬指アポヤンドでは上手く弾けません。



かつては出来なかった

 この前奏曲第1番は私の学生時代(1970年頃)にとても流行っていて、多くの仲間たちが弾いていましたが、これを上手く出来る人がいなくて、結果的にここがはっきり音が出なかったり、また正しい音価で弾ける人は皆無でした。もちろん私もそうでしたが、いろいろトレーニングした結果、今ではそこそこ出来るようになりました。

 これが上手く出来ないと、どうしても最初の音だけ長くなってしまいます。またギタリストによってはあえて、最初の音だけ長く音価を取ったりする人もいますが、出来ることなfらやはりイン・テンポで弾きたいところですね。



イン・テンポを守った上でのルバート

 この曲(前奏曲第1番)はところどころにテンポ変化の指示が出ていて、もちろんその指示には従った方がいいですが、しかし基本的には音価を正しくとるべきでしょう。ルバートなどはあくまで音価、つまり音符間の比を正しくとった上で行うべきと思います。 ただ自分が気持ちよく弾いているだけだと、なかなか聴いている人の共感は得られないでしょう。



特別速く弾く必要はない

 またこの中間部を非常に速いテンポで弾く人もいますが、冒頭のピュー・モッソは「前より速く」と言った意味で、すごく速く弾くという意味ではありません。実際にヴィラ・ロボスもそれほど速く弾いていません(この曲にはヴィラ=ロボス自身の録音が残されている)



4通りの弾き方

 因みに親指で6弦、薬指で1弦を弾く場合、

① 両方アルアイレ奏法
② 親指アルアイレ、薬指アポヤンド奏法
③ 親指アポヤンド、薬指アルアイレ
④ 両方アポヤンド奏法


以上の4通りあります。どれも出来るようにしておけるといいですね。


アポヤンド奏法 3



だいぶ遅くなったが

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ちょっと遅れてしまったが、沢渡川(和菓子店「にいづま」付近)の桜。撮影は3月29日  桜の花は青い空によく映える



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アポヤンド奏法の弾き方



弦の弾き間違いは少ない

 今回はアポヤンド奏法の実際の弾き方です。アポヤンド奏法はアルアイレ奏法にくらべるとそれほど難しくありません。動きとしては次の弦まで押し付ければよい訳です。細かく言えば、それぞれの指には3つ関節がありますが、主には先端から3番目の関節を使います。他の二つの関節もある程度使いますが、どちらかといえば、逆方向に動かないようにする程度です。

 特に問題がなければ、親指は6弦などに添えておきます。これによって右全体が安定するので、確実に弦を弾くことが出来ます。 また右手が安定することにより、弦の弾き間違いもたいへん少なくなります。



爪は斜めにあてる

 爪を弦に平行にあてると、アルアイレ奏法の場合と同じく爪が引っかかって、ノイズが発生したりしますから、爪は弦に対して45度くらいになるようにいします。フラメンコ奏者などの場合、指を弦に叩きつけるように弾いたりしますが、通常は指先を弦に当ててから、押すようにして弾きます。

 この時、爪の左側と指先の先端部分の皮膚が両方とも弦に触れ状態となります。 弦に触れる時、つめの一部が弦に当たっていないと爪がひっかった感じになります。 また皮膚の一部が弦に触れていないと直接振動している弦に爪が当たるので、やはりノイズが発生します。
 



アポヤンド1
imaのアポヤンド奏法の場合は、基本的に親指を6弦などに添えておく



「く」の字

レッスンの際、アポヤンド奏法が出来ないという人はほとんどいませんが、指先の関節を曲げすぎるとアポヤンド奏法は弾きにくいでしょう。かといって、指を反らせたり、一直線にしたりしても弾きにくいです。指が軽く曲がった状態、ややまっすぐ気味に書いたひらがなの 「く」 くらいの感じでしょうか。



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爪は45度くらいに当て、爪の左側(親指側)が弦に接するようにする。



アポヤンド✖
このように爪を当てると硬質な音になったり、ノイズが発生したりする。



親指のアポヤンド奏法が出来ない人もいるが

 imaのアポヤンド奏法に比べて、親指のアポヤンド奏法の方がやや難しいかも知れません。その理由のひとつとしては、フォームの問題で、右手が上の方、つまり6弦のほうにあると親指のアポヤンド奏法が難しくなります。

 親指のアポヤンド奏法の場合も im を1,2弦に置きますが(差しさわりがなければ)、そのimをまっすぐにしたりすると右手全体が上に上がってしまいますから、触れているimは曲げておくようにします。

 もう一つの理由として爪の問題もあります。確かに親指の場合、爪の形の調整とか弾弦の際の爪の付か方はやや難しく、その関係でアポヤンド奏法が上手く出来ないということもよくあります。親指の爪は基本的に斜めに整えますが、それについてはまた別項目でお話ししましょう。


親指○
親指の場合も爪の先端を弦に接してから弾く。


爪の一部が弦に触れるように

 上の写真のように、まず爪の先端と指先の皮膚の部分を両方とも弦に接してから弾弦します。下の写真のように弦に触れた際、爪の一部が弦に触れていなと、やはりノイズが発生したり、爪が弦の引っかかったりします。



当初は爪がない方が

 ギターを習い始める時には爪は伸ばしていないと思いますが、むしろその方がアポヤンド奏法もアルアイレ奏法も弾きやすいでしょう。ただし爪がない状態でたくさん練習すると指先の皮膚が痛くなったりしますが、やっているうちに皮膚が厚くなって委託なくなるでしょう。私の場合、爪の調整が上手く行かなくて爪が短くなったりすると、結構指先が痛くなってしまいます。



親指✖
このように爪の先端が弦から離れるとノイズが発生する。



上級者でも出来ない場合もあるが

 前述のとおり、imaのアポヤンド奏法が出来ない人はあまりいないのですが、親指のアポヤンド奏法が上手く出来ない人は少なくありません。 しかもどちらと言えば初心者が出来ないのではなく、”いわゆる”上級者の人で出来ない人が多いので、その点はやはり問題となります。

 クラシック・ギターではima以上に親指のアポヤンド奏法は重要で、かつてimaのアポヤンド奏法が使われなかった時代でも、親指についてはアポヤンド奏法を用いていたくらいです。



入門時から練習すれば問題はない

 アポヤンド奏法が出来ないことの主な理由としては、ギターを始めた当初、親指のアポヤンド奏法を練習しなかったことが主だと思います。 全くギターを弾いたことがない段階からレッスンした場合、特に親指のアポヤンド奏法が出来ない、とかあるいは出来るようになるまで時間がかかるといったことがありません。 最初からアポヤンド奏法の練習をすれば特に問題ないようです。



親指のアポヤンド奏法を重視しない先生もいる

 問題になるのは、親指のアポヤンド奏法をずっと行わないで長年、10年とか20年とかやってきた人の場合と言うことになります。 独学でギターを始めた人の場合はやむを得ないこともありますが、意外とギター教室で長年習っている人でも結構そうした人はいます。ギター教室の先生の中には親指のアポヤンド奏法を重要視しない先生も多いのかも知れません。

  私個人的には、親指のアポヤンド奏法は、クラシック・ギターを弾くためには絶対に必要な技術だと思ってますので、入門時からこれをしっかりレッスンしてゆきます。 しかし長年親指のアポヤンド奏法を使ってこなかった人へのレッスンは確かに難しいです。



結局は耳の問題

 とはいっても、初心者にでも出来ることですから、絶対に出来ないはずはないのですが、その必要性をあまり感じないということなのでしょう。正しく自分の演奏や、他の人の演奏を聴けば、その重要性は理解できるのですが、突き詰めるとやはり耳の問題となるのでしょう。

 そうなると、親指のアポヤンド奏法が出来ない人は、多くの場合他の面でもいろいろ問題が生じ、結果的に”いわゆる上級者”となってしまうのでしょう。
令和時代のギター上達法



アポヤンド奏法 2



imaのアポヤンド奏法はいつ頃から使われるようになったか

 前回の記事では、リュートやバロック・ギターでは ima のアポヤンド奏法は基本的に使われなかったといったことを書きました。これは絵画などでの演奏姿勢などからも裏付けられると思います。右手全体が下がっていて、この姿勢ではアポヤンド奏法がしにくいと思います。またこれについては後でまた触れるかも知れませんが、アルアイレ奏法で弾く場合の一つのヒントになると思います。



タレガがアポヤンド奏法を多用していたことは知られている

 アポヤンド奏法、特に ima のアポヤンド奏法が使われるようになったことがはっきりわかるのはタレガの時代からで、そのことはエミリオ・プジョールの著作の「タレガ伝」にも書かれていますし、その作品からもそれが窺えます。、

 また、直接的な師弟関係はないものの、その流れをくむアンドレ・セゴヴィアもアポヤンド奏法を多用していることからも言えます。これは映像などでも確認できますし、私の師であり、セゴヴィアの高弟でもあった松田晃演先生も積極的に使っていました。




ハッキリはしないが

 では、いつ頃からアポヤンド奏法(ここでは主にimaに関して)が使われるようになったのかは、なかなか難しいところです。もちろんのことですが、ある日、またはある年を境にすべてのギタリストがアポヤンド奏法を使い始めたという訳ではありません。 またこの「アポヤンド奏法」という言葉自体もいつ頃から使われるようになったのかと言うことも、あまりよくわかりません。

 プジョールによれば、タレガの師に当たるフリアン・アルカスも限定的ではあるが、アポヤンド奏法を用いていたが、タレガはそれを積極的に使ったと言っています。 したがってタレガ以前からアポヤンド奏法が使われていたのは確かなようです。



譜面などを見る限り19世紀初頭ではアポヤンド奏法(ima)は使われなかったと思える

 しかし、19世紀初頭、恐らく1830~40年頃まではアポヤンド奏法が積極的に使われた形跡はありません。その教本や作品などからして、ソル、アグアドはアポヤンド奏法を用いなかったのは確かで、アグアドは親指の先端の関節の動きで弾弦すると言っているので、親指もアルアイレ奏法で弾いていたようです。 ジュリアーニ、カルリ、カルカッシなどもそれに準じていたと思われます。

 使われなかったと言っても、全く使われなかったかと言えば、もちろんそれも断言できません。単音を弾いた場合、たまたまアポヤンド奏法になてしまうこともあるでしょうし、中にはそれを比較的積極的に用いたギタリストもいたでしょう。

 

もしかしたら

 もしかしたら、アポヤンド奏法を使ったかも知れないと言った例として、レゴンディの作品を挙げておきましょう。次の譜面はジュリオ・レゴンディの「序奏とカプリッチョ作品23」の冒頭部です。レゴンディは生存期間が1822~1872年ということですが、幼少時より高く評価され、演奏活動もしていたギタリストです。この作品の作曲年代ははっきりわかりませんが、比較的若い頃、おそらく1830~1850年代くらいのものと思われます(ちょっと幅広いですが)。



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ジュリオ・レゴンディの「序奏とカプリッチョ作品23」




小節の最初の音を単音にしている

 このように小節の最初の音が単音になっているところがありますが(赤↓)、ここでアポヤンド奏法を使っていた可能性が考えられます。通常小節の最初には低音が付くことが多いのですが、小節の冒頭の音を単音にして、和音はその裏で弾くようになってます。こうすることで冒頭の音をしっかりと弾くことが出来ますね、今現在であれば多くのギタリストはこの単音をアポヤンド奏法で弾くでしょう。

 もちろんアルアイレ奏法であっても単音のほうがしっかりと出るので、絶対にアポヤンド奏法を使ったとも言い切れませんが、可能性としてはありそうです。



パガニーニ、コスト、メルツは

 パガニーニ、コスト、メルツの場合は、その譜面からすると、アポヤンド奏法を用いた可能性は低いようです。 パガニーニは時代的にも19世紀初頭ですから、当然アポヤンド奏法は使わなかったでしょうが、活動の時期が19世紀の中ごろとなるコスト、メルツも、譜面を見る限りではアポヤンド奏法は使わなかったように思えます。



パガニーニソナタ
パガニーニの大ソナタイ長調のギター・パート。 オクターブ・ユニゾンを多用しているところからも、アポヤンド奏法は使わなかったと考えられる。


リゾンの泉
コストの「リゾンの泉」


ハンガリー幻想曲
メルツの「ハンガリー幻想曲」  作品から見る限りでは、コストもメルツもアポヤンド奏法は使わなかったと思われる。小さい音符で書かれた箇所(2,4小節)は親指で弾いたと思われるが、その場合はアポヤンド奏法の可能性もある。



単旋律=アポヤンド奏法となったのは、19世紀末くらいか

 いずれにしても、高音の単旋律をアポヤンド奏法で弾くことが標準になったのは、19世紀末から20世紀初頭にかけてくらいの時期と考えてよいのではと思います。その時期には楽器のの方も変わってきていますから、それとの関連性もあるかも知れません。
令和時代のギター上達法



アポヤンド奏法 1




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右手の話は避けてきたが

 久々の上達法です。ギターを弾くには左手よりも右手がより重要と、これまで言って来ましたが、なだかんだと、右手の話をするのを避けてきました。右手については、弾くのも難しいのですが、やはり話をするのも難しいし、書き始めるとなかなかたいへんになりそうで、ついつい先延ばしにしてきました。

 しかしいつまでも避けていると ”やるやる詐欺” てなことになってしまうので、この辺で腹を括って始めることにしましょう。 もちろんですが、これは絶対に正しいとか、だれにでも言えることではありません。 私がこれまでに身に付けたことや、見聞きしたことについての記事と言うことになるでしょう。



歴史的に見たアポヤンド奏法

 まず、最初はアポヤンド奏法とアルアイレ奏法についてから始めましょう。 右手の弾き方は、大きくこの二つに分かれますが、ギタリストによっては、これらを区別しないと言う人もいるようです。しかし実際には弾いた後、次の弦に触れるか、触れないかとということで、やはりそのどちらかになるでしょう。

 これらの用い方は、その時代ごとに異なります。19世紀と20世紀で異なるだけでなく、この20年、30年くらいでも違ってきています。と言ったことから、まずその歴史的なことから話を始めましょう。



バロック時代ではリュートの演奏に準じたものと思われる

 17世紀ではギターは複弦で、どちらかと言えばラスゲアード奏法で、ジャラジャラと弾くほうが中心だったようです。しかしガスパル・サンスやロベルト・ド・ヴィゼーのようにリュート的な弾き方をしている人もいました。おそらくはリュートに準じた弾き方をしていたのではないかと思います。




リュート
この絵を見た限りでも、ima はアルアイレ奏法で、親指はアポヤンド奏法と考えられる




アルアイレ奏法が中心だが7、8コース以上の低い弦はアポヤンド奏法も

 リュートの場合、動画などで見る限りでは ima は間違いなくアルアイレ奏法で弾いています。 親指については弦によっても違うようですが、だいたい4,5コースくらいまではアルアイレ奏法で、そこから下の弦、特に7コース以下はほぼアポヤンド奏法のようです。 

 特に弦の数が多い場合は、親指がかなり上の方まで行くので、アルアイレ奏法はかえって難しくなるようです。それにアルアイレ奏法だと、次に弦を鳴らしてしまいがちですし、アポヤンド奏法で弾くことにより消音も出来ます。

 

theorboトリ
これはリュートではなくテオルボ。 14コースだったかな? ギターのように普通に持ったら、ネック(左側)が落ちてしまいますね。この写真ではちょっとわかりにくいですが、ストラップを使用しているようです。



アポヤンド奏法だと二つの音に聴こえてしまう?

 そうしたことからして、バロック・ギターではほとんどアルアイレ奏法を使用し、親指のみ場合によってはアポヤンド奏法を使うと言ったことではないかと思います。 因みに、私自身ではリュートを弾いたことがないのですが、リュートなどの複弦の楽器の2弦を im のアポヤンド奏法で弾くと(1弦は通常単弦なので)、ポロンとはっきりと二つの音に聴こえてしまうようです。アルアイレ奏法だとそれは目立ちません。



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複弦のバロック・ギター




 バロック・ギター バロック・ギターはラスゲアード奏法でかき鳴らすほうが多かったようですが、この絵では通常の弾き方のようです。リュートの弾き方と近かったのではないかと思われますが、やはりその形状からして、手のフォームは若干リュートの場合とは異なるようです。



19世紀に前半ではほとんどアルアイレ奏法

 19世紀に入ってもギターの演奏法はほぼ同じだったのではないかと思われます。の両方を用い、人差し指、中指、薬指はアルアイレ奏法と思われます。少なくとも19世紀半ばくらいまでは ima のアポヤンド奏法はあまり使われなかったのでしょう。

親指については、アグアドの教本によれば、親指の第1関節(一番先端の関節)を曲げて弾く方法を取っているで、単音、重音に関わらずアルアイレ奏法で弾いていたと考えられます。他のギタリストもほぼ同様だったのではないかと思います。



中にはアポヤンド奏法を用いていたギタリストも

 とは言え、絶対にアポヤンド奏法を使わなかったと断言するのは難しいでしょう。 19世紀半ば、あるは後半になってから突然アポヤンド奏法を使い始めると考える方が不自然で、主流ではなかったとしても、19世紀初頭からアポヤンド奏法で弾いていたギタリストがいたと考えるのが自然と思われます。

 

キュフ
キュフナーのアンダンテ  初級の比較的簡単な練習曲だが、部分的に重音となっているところがあり、単音でもアルアイレ奏法が用いられていたと思われる。