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中村俊三 ブログ

中村ギター教室内のレッスン内容や、イベント、また、音楽の雑学などを書いていきます。

アルアイレ奏法 6


私の演奏フォームの遍歴






 前回まで歴史上の大ギタリストやギター界のレジェンドたちの演奏フォーム(右手の)を見ていただきましたが、今回は私自身ののフォームの移り変わりを見ていただきましょう。まずは今現在のものからです。



今現在

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今現在の私の演奏フォーム




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だいぶ捻っていますね。右手が表面板に近いのも特徴





袖、出すぎ?

 ちょっと袖が出すぎているのが気になるところですが、かなり横向きですね、手首を内側に捻って、指は弦に平行に近いくらいです。ラッセルよりもさらに横向きといった感じですね。






1970

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大学2年生、茨城大学ギター部定期演奏会。手首を外側に曲げて、指は弦に直角に近い




当時の標準的なフォームか、渡辺範彦さんに似ている?

 不鮮明な写真で恐縮ですが、写真として残っている私の最も古いもので、1970年、私が大学2年生の時の定期演奏会の写真です。手首を曲げる方向が今と完全に逆ですね、渡辺範彦さんのフォームに近いですが(全体的にも?)、確かにこの当時はこれが標準的なフォームだったと思います。楽器は故富田修氏のものです。






1977年

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ラミレスの6弦、手首はややまっすぐに




手首はややまっすぐ、足はイエペス風?

 1977年、大学を卒業して2年目くらいの頃です。手首はややまっすぐになってきましたね。よく見ると、ギターの持ち方がちょっと違っています(足開き方)、イエペス風と言ったところでしょう。楽器はホセ・ラミレスⅢになりました。この楽器は1973~1981年の期間使いました。





1985年

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ラミレスの10弦




なんと10弦!

 なんと、10弦ギターを弾いていますね、1983~1986年の約3年間ほど10弦ギターを弾いていました。フォームのほうは上のものとあまり変わりません。





1992年

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右手がやや横向きに、ハウザーⅢに変わる、足の開き方もオーソドックスなものに。




被写体の経年変化のほうが気になる?

 なんか、演奏フォームよりも被写体の経年変化のほうが気になるかも知れませんね、でも、そこはちょっと置いておいて、フォームの方に集中してください。 右手のフォームが変わりましたね、現在ほどではありませんが、だんだん横向きになってきました。ただ、この写真はアポヤンド奏法で弾いているところだと思いますので、アポヤンドの場合はあまり横向きになりません。

 また、楽器がハウザーⅢに変わりましたね、足の開き方もオーソドックスなものに戻っています。ギターレストは使っていなくて、足台です。いろいろな意味で、私自身の弾き方や、音色などが変った時期です。




ラッセルの影響で

 1990年頃デビット・ラッセルのリサイタルとマスタークラスを聴き、その影響を受けてフォームなどが変わった時期です。若い頃はお世辞としても音がきれいとはあまり言われたことがなかったのですが、この頃からそういったお世辞も言っていただけるようになりました。



右手が不安定になって

 これ以後、だんだん指が弦に対して平行に近くなってゆき、現在のフォームとなってゆくのですが、だんだん横になった理由としては、音色の問題だけでなく、40代半ばの頃(この写真の3年後くらい)、右手が不安定になり、特にステージではアルペジオや和音が上手く弾けなくなるという現象が起きました。

 一度そうしたことが起きると、負の記憶というか、人前で演奏すると、常にその不安が起きてしまいます。なんとかその不安を取り除かなければならないのですが、そこで、どんなに指が震えても和音やアルペジオが弾ける方法はないかと、いろいろ考えました。




和音が掴みやすくなった

 まずは右手をより表面板に近くする、なるべく弦から離れないようにするようにしました。これだけでもある程度効果はあったのですが、さらに手首をより弦に平行にすることにより、和音が掴みやすくなりました。つまり3本の指をくっつけた状態で弦に当てれば、自然に1,2,3弦の位置にそれぞれの指が行くことになり、和音の際に弦を掴み損ねることが少なくなりました。



他の弦に触れてしまうことも少なくなった

 また、弦を斜め方向に弾くので、実質的に弦どうしの距離が広がり、他の弦を弾いてしまったり、他の弦をひっかけてしまったりすることが少なくなりました。


メンタル的な事が大きいが

 もっとも、こうしたことはメンタル的な事も大きいですから、どんなに指が震えても、自分は問題なく弾くことが出来ると思うと、指は震えなくなるものです。また逆に、指が震えて弾けなくなってしまうかも知れないと思えば、やはり震えてしまうことになります。つまりフォームを変えたことで、自己暗示をかけることも出来たのでしょう。

 と言った訳で、結論からすると、私の場合、今現在のフォームにすることにより、音色や音量、右手全体の安定性など、いろいろな事柄が解決しました。



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アルアイレ奏法 5


 いろいろなギタリストの演奏フォーム 4




エアコン故障

 本当に暑いですね、暑さのせいか、一昨日、レッスン・スタジオのエアコンが故障してしまい、ネットでエアコンを注文しました。このところ2回ほど、エアコンでは評価の高いダイキンのものを使っていたのですが、どちらも6~8年くらいで故障してしまいました。どうもレッスン・スタジオは平屋で直射日光の熱を受けやすく、また室外機にも直射日光が当たりやすいところもあり、冷房効率も悪く、故障しやすいのかも知れません。

 別棟のリヴィングの方はもう十数年ほど同じエアコンを使っています。リヴィングは二階もあって、直射日光が当たらず、また改築して断熱効果も高くなっているので、エアコンに負担がかからないのかも知れませんね。

 今回はリビングで驚異的な粘りを発揮している富士通のものを注文したのですが、どうでしょうか、どれくらいもつのでしょうか? いずれにしても、今やエアコンなしだとレッスンも不可能になってしまいますね。



一週間後?

 この記事を書いている時に発送元から電話。発送は今日なのですが、設置の方は来月5日火曜日ということで、なんと一週間後! なんとかもう少し早くなりませんかとお願いしても、もちろん全く無駄な事。どうしましょうね、この先一週間も間違いなく30度を超えそうですしね。夜ならともかく、日中だと扇風機でレッスンするのは不可能ですね。とりあえずレッスンをリヴィングでやるしかないかな・・・・・



 さて、気をとりなおして、前回に続き、いろいろなギタリストの演奏フォームですが、今回は私より若い世代のギタリストと言うことになりますが、その前に忘れてはならない邦人レジェンドから。




渡辺範彦(1947~2004)

渡辺範彦

 渡辺範彦さんは、すでに故人となってしまいましたが、日本人では初めてパリ国際ギターコンクールで優勝した、我が国ギター界のレジェンド中のレジェンドですね。 当ブログでも何度か紹介しています。



このフォームからなぜあんな柔らかい音が

 この写真のフォームでは、手首をやや曲げて指を弦に直角にあて、しかも結構ブリッジ寄りとなっています。この当時の一般的なフォームとも言えますが、通常このフォームからはかなり硬質な音が出そうなのですが、実際の渡辺さんの音はふっくらとしていて、もちもち感のある音です。このフォームから、どうしてあんな柔らかい音が出ていたのか、ちょっと不思議な気もします。





荘村清志(1947~)

荘村
最近は楽器が”立って”いますね


 1960~70年代の我が国のギター界では、生まれも同じ年で、渡辺範彦さんと人気を二分していた荘村清志さんですが、荘村さんは今現在でも非常に積極的に演奏活動をなさっているのは皆さんもご存じと思います。ギター文化館でも毎年リサイタルを行っています。

 写真のフォームはたいへん自然なものですね、この写真は比較的最近のもので、楽器がかなり”立って”いますね。若い頃はちょっと違っていたようにも思います。この際、その若い頃のLPジャケットの写真も載せておきましょう。1972年録音のLPの写真で、撮影もおそらくその時期だと思います。



荘村70年代
1972年頃の主村清志さん



若い頃は楽器が”横向き”だった

 上の写真よりは横向きというか、平行に近いですね。確かにイエペスもあまり楽器を立てていません。楽器を立てると右手首の関節がまっすぐになりやすく、また体が起き上がって、全体の姿勢も良くなりやすいですが、欠点としては、ネックが目の近くになって、フレットや左指が見にくくなるのと、左手が上がるので、やや疲れやすくなります。

 逆に楽器を立てないで横向きにすると、左手が見やすく、また疲れにくくなりますが、ハイポジションは押さえにくくなり、右手首も曲がりやすくなります。また姿勢が前傾になり、腰が痛くなりやすいといった欠点もあります。タレガは典型的に”横向き”タイプですね。

 荘村さんはイエペスに師事したということですが、音質的にはイエペスに近いという訳ではないようです。 若い頃はすっきりさわやかと言った感じの音でしたが、今現在では音に重みが出てきたというか、より充実したものになっているようにも思います。







エドアルト・フェルナンデス(1952~)

フェルナンデス


 フェルナンデスはウルグアイ出身のギタリストですが、感覚的というより、知性的なギタリストとも言えるでしょう、もちろん極めて高い技術を持っています。カルバーロ奏法の影響を受けていると思われますが、爪はいくぶん斜めにも見えます。因みにカルレバーロは爪を斜めにしてはいけないと言っています。

 音色については聴く人によって意見が分かれるところですが、私が聴いた感じでは、生演奏でも、またCDでもややノイズっぽく聴こえてしまいますが、それは好みの違いということでしょうか。






セルジオ&オダイル・アサド(1952~)

アサド


 驚異のデュオと言われる双子のアサド兄弟です。文字通り異次元的にレヴェルの高いデュオで、リサイタルも聴きに行きましたが、なんと、特に合図もなしに演奏を始めてしまいます。まるでテレパシーで交信しているかのようです。

 写真の左が作曲もするセルジオで、右がオダイルです(多分そうだと思いますが)。右手のフォームはオダイルのほうしかわかりませんが、おそらくセルジオのほうもそれほど変わりないのではないかと思います。 直角に近いですが、やや斜めに爪を当てているでしょうか、もちろんどちらもたいへん美しい音です。





福田進一(1955~)

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 私の息子が10年間ほどレッスンを受けていたので、私としては福田先生とお呼びしていますが、福田先生のフォームもたいへん自然なものですね。弾弦の瞬間は力を集中させるが、それ以外の時では右手をなるべくリラックスさせるということなのでしょう。

 この写真ではかなり左よりの位置で弾いていますが、常にこの位置で弾いている訳ではくなく、通常は平均的な位置で弾いています。当然といえば当然なのですが、状況によって弾く位置を変えている訳ですね。






山下和仁(1961~)

山下


山下2


 山下和仁さんは1977年にパリ国際ギターコンクールに最年少(16才)で優勝し、注目を集めたギタリストです。超絶技巧の持ち主で、ムソルグスキーの「展覧会の絵」など、オーケストラ作品をギター演奏する事でも話題になりました。




フォームのことを語るのはあまり意味がない

 この2枚の写真は、通常のギターの弾き方からすると、ちょっと不自然なので、撮影のためにポーズを取っているのではないかと思う人もいると思いますが、おそらくこれは実際に演奏している時の写真だと思います。

 山下さんのリサイタルは何回か聴きましたが、本当にこんな感じ弾いていました。ギターが水平になったり、垂直になったり、椅子から立ち上がったりなど、山下さんのフォームは固定することはないようです。 また指の角度も状況によって様々なようでした。したがって、山下さんについては。フォームのことで云々するのはあまり意味のないことのようですね。
アルアイレ奏法 4


いろいろなギタリストの右手のフォーム 3






アリリオ・ディアス(1923~2016)

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セゴビア風でパワフルな演奏

 ディアスの演奏は録音でしか知りませんが、パワフルでヴィルトーゾ的な演奏です。セゴヴィアのマスター・クラスではアシスタントも務めていて、演奏スタイルはセゴヴィアに近いものもありますが、直接セゴヴィアのレッスンは受けていないそうです。アントニオ・ラウロの作品の浸透にも努めていて、セゴヴィアがラウロの曲を演奏しているのもディアスの影響ではないかと思います。

 写真で見るディアスのフォームはほんの少し手首を曲げて、指が直角に弦に当たるようになっていますが、セゴヴィアほどは捻っていません。確かにパワフルな音が出そうですね。






ジュリアン・ブリーム(1933~2020)


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故人になってしまいましたが

 ギター界の情報に疎くてたいへん恐縮なのですが、ジュリアン・ブリームもすでに故人となっていたのですね、今回の検索でわかりました。ブリームの活動のピークは1960年代から1980年代といったところで、1990年代後半からは活動が少なくなっていたようです。私が持っているCDの最も最近の録音は1993年(ソナタ集)のものです。 リサイタルの方は1970年代と80年代に2回ほど聴きましたが、もちろんたいへん美しい音でした。



結構角度を付けている

 これまでのギタリストに比べると、指を弦に対して直角ではなく、ある程度の角度を付けて、弦にやや斜めに当たるようにしています。ブリームは美しい音だけでなく、多彩な音を出していましたが、このフォームは柔らかい音を出すときのものでしょう。






ジョン・ウィリアムス(1941~)



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かつてのギター界のプリンスはご存命

 ジョン・ウィリアムスは1960年代にはギター界のプリンスと呼ばれ、20世紀後半を代表するギタリストの一人ですが、ご存命のようですね。 ただ、やはり今現在は演奏活動をあまり行っていないようです。

自然なフォームですが、弦に当てる角度は直角に近いです。動画などで見ると、各指が完全に独立して動いていて、アルアイレ奏法主体の演奏ですが、アポヤンド奏法もそれなりに使っています。非常にクリアーで、力強い音ですね。



生演奏なのに生音が聴けない?

 ウィリアムスといえば、活動の後半はリサイタルにアンプを使用していたことで知られています。これはウィリアムス・ファンからすればあまり有り難くないことで、なぜ生演奏なのに生音が聴けないのかという不満も多かったようです(私もそう思った一人だが)。

 ウィリアムスの音であれば多少大きなホールで聴いても、十分に音が通るのですが、ウィリアムスはある時期から頑なにそれを守っていました。 従ってウィリアムスの生音を聴いたことのある人は、今では少なくなっていると思いますが、それは本当に美しいものでした。





マヌエル・バルエコ(1952~)

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私より若い世代、フォームが自然

 バルエコは私より一歳年下なんですね。ここから私より若い世代のギタリストとなります。バルエコのフォームもたいへん素直なフォームですね、まったく曲げたり、ひねったりはしてません。音色云々というより、合理性からこのフォームになっているのでしょう。 今ではバルエコのようなギタリストは少なくありませんが、デビュー当時は新時代のギタリストとして注目されていました。






デビット・ラッセル(1953~)

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強く影響を受けた

 1980年代の半ば頃、私もラッセルの重厚な音をCDで聴いた時には衝撃を受けました。どんな弾き方をしているのかなと、その頃来日した時の東京でのリサイタルとマスタークラスはすべて行きました。 私自身の音楽的な表現法とか、音の出し方などには、デビット・ラッセルの影響が強くあります。



セゴヴィアなどとは逆方向に手首をやや曲げて、弦に斜めに爪を当てている

 それまで、なんとなく弦に対して斜めに弾いてはいけないような風潮があって、私も当時は今よりも直角に近いフォームで弾いていました。私としてはそれまでも多少斜めの方がよいのではと思っていましたが、ラッセルの演奏と言葉でそのことの確信が持てました。ラッセルは弱音であれば直角でもよいが、強音になればなるほど角度を付けなければならないと言っていました。

 また、音楽的な表現、特に19世紀のロマン派の音楽の表現法についても、マスタークラスでわかりやすく説明していて、デビット・ラッセルのマスター・クラスではたいへんいろいろなことを学びました。





イェラン・セルシェル(1955~)

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ガシガシ弾かないところがいい

 セルシェルのフォームも自然ですね、手首などを全く曲げないところはバルエコと同じです。ただ、バルエコよりはタッチが柔らかいですね。こうした一流のギタリストは皆、メチャクチャ指が動くのですが、セルシェルはあまりガシガシ弾かないところがいいですね。バッハやソルの曲などもゆったりと弾いてます。セルシェルの音楽は肩に力の入らない、癒し系の音楽と言えるでしょう。


アルアイレ奏法 3



いろいろなギタリストの右手のフォーム 2




 前回に引き続きさまざまな著名なギタリストの演奏フォームを見ていただきます。前回は19世紀初頭から20世初頭にかけてのギタリストの画像でしたが、今回は20世紀前半から半ばと言ったところです。




ダニエル・フォルティア

ブログ 116



やはりタレガに近い

 ダニエル・フォルティアはタレガの晩年の弟子ということですが、録音なども残されています。ソルの「月光」の二重奏編曲でも知られたいますね。私の教室ではフォルティアが書いたフラメンコ風の「マラゲーニャ」なども教材に取り入れています。

 やはりタレガの写真と似た感じですね、右手の位置は左目(中央寄り)で、手首を少し曲げて指は弦に対して直角に近いです。この写真も実際に演奏している訳ではなく、”止めた” 状態での撮影と思われますので、そう言う点からもタレガの写真と似た感じなのでしょう。 おそらくこのスタイルが、当時スペインのクラシック・ギターの標準形と言ったところなのでしょう。




アグスティン・バリオス

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スペインの奏法を学んだ

 バリオスについては説明不要と思います。バリオスはなんとなく独学でギターを学んだような印象がありますが(インディアンのコスプレをした写真にせい?)、10代ではソーサというスペインのクラシック・ギターの演奏法を習得したギタリストに習ったり、またアスンシオ国立大学で学んだりなど、しっかりと音楽を学んだ人のようです。

 バリオスと言えば、南米音楽的な曲のイメージがありますが、ロマン派風のオーソドックスな曲も多いです。楽譜の書き方もタレガなどに近く、おそらく演奏法もある程度近かったのではないかと思われます。やはりフォームもタレガに近いですね。

 因みにヴィラ・ロボスは少なくともギターに関しては独学だったのではないかと思います。楽譜の書き方もタレガ流のものとはだいぶ違いますね。




アンドレス・セゴヴィア

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間接的にではあるがタレガの奏法を学んだ

 20世紀のクラシック・ギターといえば、やはりこのアンドレス・セゴヴィアですね、その影響力は非常に大きいものがあります。自伝などによれば、セゴヴィアは当初、独学でギターを始めたようですが、その後どのようにギターを学んだかはあまり具体的に書かれていないようです。しかし間接的だったとしても、当然ながらタレガ流の演奏法を学んでいたでしょう。

 セゴヴィアの演奏は、直接的にはリョベットの影響が感じられ、タレガなどによって伝えられるスペインの伝統的なギター演奏法の継承者であるのは間違いありません。




タレガよりも手首を曲げている

 セゴヴィアのフォームはタレガに比べても、いっそう手首を曲げているように見えます。通常このような角度で弦を弾くとかなり硬質なキンキンとした音になるはずですが、もちろんセゴヴィアはそんな音は出していません(たまにそういった音も出すが)。写真ではあまりわかりませんが、爪を弦に当てる際に、微妙に角度を調節したり、また爪の整え方などで、美しい音を出していたのでしょう。




一つの理想かも知れないが

 タレガの時にも書きましたが、このフォームの利点は指先が揃うと言うことにあるのでしょう、特にアポヤンド奏法の時にそれが言えます。 その一方では硬質な音が出やすいという傾向もあります。 しかしセゴヴィアはこのフォームで”セゴヴィア・トーン” と称される美しい音を出していたのですから、これは一つの理想のフォームであるのは間違いないでしょう。




一般的にはオススメではない

 しかしこのフォームは誰にでも出来るものではなく、あまり技術や感性のない人がこのフォームで弾くと、とんでもない音になったりします。セゴヴィア自身は指の先端を上手くコントロールして弦に対してベストな角度となるようにしているとも思われます。写真ではわかりにくいですが、指先をほんの少し倒しているようにも見えます。

 また、身体的にも合理的なフォームとはいえず、このフォームで長時間練習すると、人によっては指の筋や神経にトラブル発生することもあると言われています。このフォームはセゴヴィアにとては理想のフォームであるでしょうが、ただ一般的に言えば、あまりオススメとは言えないでしょうね。





松田晃演(1933~2021)

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セゴヴィアから直々のレッスンを受けた松田先生

 この際、私の師である松田晃演先生の写真も載せておきましょう。松田先生はセゴヴィアのレッスンを直々に受けています。やはりフォームは近いですが、あまり手首を捻っていませんね、もちろん松田先生もセゴヴィアを彷彿させる美しい音を持っていらっしゃいました。 



ブリッジのすぐ脇から12フレット付近まで右手が動く

 松田先生の弾き方の特徴は、何と言っても右手の位置が頻繁に、また非常に大きく動くということにあります。この写真ではほぼ平均的な位置にありますが、ブリッジのすぐ傍から、12フレット付近までの幅で弾く位置を変えています。それだけ音色の幅を大きく取っているということになります。 10年ほど前に横浜でのリサイタルを聴いたことがありますが、その時には以前よりも右手の位置の移動が、さらに顕著になったように思いました。




私にはその資格はなさそう

 因みに私は松田先生にあまり長く習わなかった(正確には8か月)ので、こうしたことはあまり身に付いていません。右手はある程度移動しますが、ブリッジのすぐ脇とか、指盤上で弾くことはなく、左に寄ってもせいぜいサウンドホー上くらいまでです。 さらに右手のフォームもセゴヴィアや松田先生などとはだいぶ異なっていて、少なくとも私は、タレガーセゴヴィアー松田の継承者の資格はなさそうですね。  ・・・・・ともかく8か月だけでしたからね。




一昨年逝去されました。心よりご冥福をお祈りいたします

 今回、松田先生のことを検索して分かったのですが、松田晃演先生は一昨年(2021年)1月17日にお亡くなりになられたのですね。先生の逝去を知るのが今頃になってしまい、まさに不肖の弟子ということで、恐縮の限りですが、先生のご冥福を、心からお祈りいたします。  

 松田先生はアンドレス・セゴヴィアの高弟として知られ、その演奏は我が国でも高く評価されていました。また指導者として、これまで多くのギタリストを輩出なされましたことも、お伝えしなければならないでしょう。

 前述の通り、私は21才の頃先生のレッスンを受けたのですが、その8か月は私にとって非常に刺激的で、充実した8か月でした。 またこれも前述のとおり、10年前に横浜で聴いたリサイタルが先生の最後のリサイタルとなったようですね。いずれまた、機をあらためて先生の想い出を書くこともあると思いますが、今はただご冥福をお祈りする限りです。





マリア・ルイサ・アニード(1907~1996)

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元祖、天才少女ギタリスト

 アニードは20世紀後半くらいまで活躍していたアルゼンチンのギタリストで、リョベットの弟子でもあります。リョベットはその活動の後半をアルゼンチンで行っていました。写真は若い頃というより幼少期と言った感じですね、当時は天才少女ギタリストとして知られていた聴きます。

 なんといってもギターの大きさが目立ちますね、まだ体も小さかった頃の写真なのでしょう。フォーム的にはこれまでのギタリストに近いものですが、右手の位置はやや左目ですね。この写真も実際に弾いている訳ではなく、静止した状態で、なお且つしっかりとカメラ目線ですね。



柔らかい音をし指揮していた?

 ポーズを取っているとは言っても、やはり右手のフォームや弾弦する場所などは普段行っているものなのでしょう。右手の位置を変えながら演奏していたと思いますが、写真ではやや左目ということで、やはり柔らかい音を意識していたのでしょう。






ナルシソ・イエペス(1927~1997)

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 いよいよイエペスの登場ですね、私たちの世代では超有名ギタリストで、私も子供の頃、セゴヴィアは知らなくても、イエペスだけは知っていました。この写真も若い頃ですね、6弦ギターを弾いているところからしても30才前後、あるいは30代前半くらいだと思います。 ・・・・そうは見えないかも知れませんが。



手首を曲げていない

 これまでのギタリストと少しフォームが違いますね、手首を全く曲げずに、右手をストレートに弦に当てています。指の運動上の合理性を考えてのことと思います。 弦に当たる角度は直角に近く、これはこれまでのギタリストと変わらないようですが、指先で爪が弦んにあたる角度を微妙に調節はしていないようですね。

 この写真の右手の位置は、ほぼ平均的ですが、リサイタルを聴いた時の記憶では、右寄り(ブリッジ寄り)で弾くことが多かったように思います。もっとも私が聴いた数回のイエペスのリサイタルはすべて10弦ギターによるものでした。




独自の美意識

 イエペスの音色的には美しいといえば美しいのですが、硬質な感じもします。よく通る音とも言えますが、柔らかさはあまりないようです。 イエペスの音を美しい音と感じるか、硬質な音と感じるかは、聴く人次第でしょうが、ノイズなどは非常に少なく、やはり独自の美観を持ってたギタリストなのでしょう。

 イエペスはスペインのギタリストですが、それまでの伝統的な演奏スタイルとは見た目も、またその中身も少し違うようです。いろいろな意味でたいへん個性的、あるいは独創的なギタリストであることは言えるでしょう。
アルアイレ奏法 2



いろいろなギタリストの右手のフォーム 1




いろいろなギタリストのフォーム

 今回はアルアイレ奏法での指、あるいは爪の角度の話しです。アポヤンドの場合と被ることも多いとは思いますが、書いてゆきましょう。 これについては静止画像でもわかると思いますので、まずはいろいろなギタリストの右手の写真からです。なるべく弦にあてる角度のわかるものを挙げておきます。

 まずはギター史上のレジェンドから見ていただきましょう。




フェルナンド・ソル(1778~1839)

ソル



テーブルの端に楽器を乗せる

 ソルのギター教則本の中ので、ギターの持ち方に関する説明のための図です。被写体がソル自身かどうかわかりませんが、ソルがこのようなフォームで弾いていたのは確かなのでしょう。特徴としては楽器をテーブルの端に乗せていることですね、私も弾いてみてわかりましたが、ラコートなどの19世紀ギターはボディが細く、膝の上にギターを乗せると、成人男性の場合、ギターが下がり過ぎて非常に弾きにくいです(足台を上げても)。

 ソルもギターの持ち方ではだいぶ苦労したらしく、最終的にこの方法になったようです。因みにソルは「指先が一直線に揃わない」ということで、右薬指の使用は最小限にしています。





デシオド・アグアド(1784~1849)

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ソルが絶賛したトリポーデ
 
 見てわかる通り、今現在よりもかなり弾く位置が右寄りで、指は直角に近いです。当時の楽器(19世紀ギターは現代のギターに比べて、高音が出にくかった)だと、この位置でないとはっきりした音が出くかったのでしょう。柔らかい音色と言うより、少し離れた位置からでも聴こえるように、やや硬めで、聴き取りやすい音を好んだのでしょう。 絵で見る限りでは、次のカルカッシもかなり右寄りですが、ソルはやや中央寄りになっていますね。

 アグアドは絵にある通り、トリポーデという支持具を用いて演奏したようですが、この時代の人はギターの持ち方にいろいろ苦労していたみたいですね。次第にギターのボディが太くなっていったのも、こんな理由もあるのかも知れません。このトリポーデはアグアドの友人でもあるソルが絶賛して紹介しています。  ・・・・・・これ、特注で作ったりすると、結構高そう、テーブルの方が安上がり?






マティオ・カルカッシ

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手首の向きが反対?

 教則本や練習曲でお馴染みのマティオ・カルカッシです。アグアドのように支持具ではなく、足台を用いています。右手のフォームはアグアドと近いですが、よく見ると手首をやや左の方に曲げていて、アグアドとは逆方向になっています。 やはり、見た目からするとギターが下がり気味で、ちょっと弾きにくそうですね。





ジュリオ・レゴンディ

レゴンディ



右手は中央寄り

 レゴンディは幼少時から天才ギタリストとして知られ、演奏活動もしていたようですね。この肖像画の顔はだいぶ低年齢に見えますが、体つきなどからすると、10代前半といった感じかも知れませんね。「天才ギター少年」 ということをアピールするために、やや若さを強調した肖像となっているのかなと思います。

 楽器などは上記の二人と近いものを使用しているようですが、右手の角度はほぼ弦に対して直角ですが、その位置はだいぶ左よりですね。おそらく柔らかい音を好んだのでしょう。





フランシスコ・タレガ

ブログ 114



コスト、メルツには適当な写真がなかった

 本来であれば、タレガの前にコスト、メルツ、などの写真が欲しいところですが、両者には右手のフォームがわかる写真がないので、、ちょっと飛びますが、タレガの写真となります。




右手の位置が左(中央)寄り

 近代ギターの父とも言われるタレガの写真ですね、ここからは肖像ではなく、写真となります。因みに、いつ頃から肖像画が写真にんったかと言うと、だいたい19世紀半ば、1850年前後くらいと思われます。

 アグアド、カルカッシに比べるとだいぶフォームが変わりましたね、右手の位置がかなり左になって、サウンドホールの近くになっています。親指は完全にサウンドホール上ですね。それだけ柔らかい音を求めたということになるでしょうが、それまでの 「音楽がよく解るように」 と言うことから、音色などのニュアンスに意識が向かったとも言えるでしょう。




指は直角だが

 角度的には弦に対してほぼ直角ですね、手首をやや下の方に曲げているのもわかります。これだと通常爪が弦に引っかかる感じになって硬めの音になるはずですが、おそらく指先ののコントロールで柔らかい音を出したのでしょう。



高音がいっそう出るようになった

 アグアード、カルカッシに比べて右手の位置が左になったのは、楽器の違いもります。タレガが使用したアントニオ・ト―レスは、ごく大雑把に言えば、現代のギターとほぼ同じです。19世紀ギターに比べ、低音域が重厚になったと同時に、高音域が出るようになりました。高音域が出るようになったということは、アグアドのような弾き方では、高音がキンキン聴こえてしまう訳ですね。

 アグアドなどとタレガの演奏フォームの違いは、目指す音楽も違ってきたのは確かですが、楽器も変わってきたということもあるでしょう。



本当に弾いている訳ではない

 余談ですが、この写真は本当に演奏している訳ではなく、写真を撮るためのポーズしたものと思われます。したがって、右手は本当に弦を弾いている訳ではなく、弦に指を置いている状態です。本当に弾いてしまうと、当時は写真になりませんでした。私たちの子供の頃も、写真を写す時には動いてはいけないというのが常識でしたね。




 
ミゲル・リョベット

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タレガの弟子と言うことになっているが

 リョベットはタレガの弟子と言うことになっていますが、プジョールなどの伝えによればそれほどタレガのレッスンを受けていたわけではなさそうです。リョベットがタレガにあったときにはすでに完成されたギタリスだったと言っているので、恐らくタレガはリョベットの演奏聴いて、それに若干コメントしたといったような感じだったのではないかと思います。

 とは言え、演奏法などはタレガとかなり近いものがあると思われ、譜面の書き方も共通点が多いです。したがってリョベットの残された録音はタレガの演奏法を推し量る上で、たいへん貴重なもと言えるでしょう。




おそらく音色の変化のために頻繁に右手の位置を変えていたのでは

 この写真では右指(爪)の角度などはほぼタレガと同じですが、右手が極端に左に寄っています。はっきりとは分かりませんが、親指などはサウンド・ホールというより、指盤上となっています。特に柔らかい音を追求したとも言えますが、恐らく常にこの位置で弾いていた訳ではなく、頻繁に右手の位置を変えて、音色の変化を付けていたのでしょう。

 これもプジョールの著作によれば、タレガは硬質なな音(金属的な音)を嫌ったようですので、極端に右寄り、つまりブリッジ寄りで弾くことはあまりなかったのかも知れません。しかしリョベットの場合は音色の変化を求め、右手の位置は大胆に変えていたのではないかと思われます。