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中村俊三 ブログ

中村ギター教室内のレッスン内容や、イベント、また、音楽の雑学などを書いていきます。

マルタ・アルゲリッチ




5月13、14日に、水戸芸術館でラヴェルの協奏曲を弾く

 今年から二十数世帯ほどの町内会長などやっております。何分これまでずっと自由業なんてやっているので、事務手続きなどは経験なく、前会長などに指導してもらって、なんとかやっています。その会長の仕事の一つが水戸市報の配布、と言っても実際には班長さんがやるのですが。

 先日、と言っても1月頃ですが、その市報をめくっていたら、なんと、水戸芸術館での水戸室内管弦楽団の演奏会に、いまやピアノ界のレジェンド、マルタ・アルゲリッチが出演するではありませんか。チケット予約が2月25日、9時からからと言うことだったので、何としてでもネット予約しなければと、その前日も明日忘れずに予約しなければと思っていました。しかし、なんとその当日気が付いた時にはすでに夕方!  間違いなくもうチケットなくなっているでしょう、おそらく発売と同時に売り切れでしょうね。



貴重なワルトシュタインの録音

 仕方がないのでCDで我慢しようということで、最近あらたに発売されたアルゲリッチのCDないか、と検索してみたら、新たにいくつかライブ録音のCDが発売されていて、その中にベートーヴェンのピアノ・ソナタ「ワルトシュタイン」を含むCDがありました。2枚組で他にラヴェル、ベートヴェンなどの協奏曲、ショパンのソナタ第3番なども収録されています。
 
 アルゲリッチはあまりベートーヴェンのソナタは弾いていませんが、それでも若い頃は多少演奏していたようです。ワルトシュタインの演奏はたいへん珍しく、これまでCDにはなっていなくて、始めて聴きます。 



アルゲリッチは若い頃しかソロを弾いていない

 御存じかも知れませんが、マルタ・アルゲリッチは20~21世紀を代表する超天才ピアニストということで、並外れた能力のわりにはレパートリーは少なく、リサイタルなどでもほぼ決まった曲しか弾きません。またピアノ独奏はは若い頃を除いて、録音もリサイタルも行っていません。

 ただし室内楽とか協奏曲とか、誰かと共演する形では、ずっと演奏していて、年齢的に考えれば、むしろほかのピアニストよりも積極的に活動しています。本当に”変”なピアニストですね、要するに、一人でステージにたつのは嫌だが、だれか一人でも他にいれば、むしろ積極的に演奏する、と言うピアニストです。

 確かに日常生活でもたいへん寂しがり屋で有名で、どんな人でも自宅に呼び寄せ、様々な人が自宅を出入りしているそうです。 それをステージにまで持ち込む人なんですね、ステージでも寂しがりやと、寂しがり屋もそこまで行く人はそんなにいないでしょう。



1970年、初来日時のライブ録音

 そんなわけで、ピアノ独奏のCD(LP復刻を含め),特にスタジオ録音のものは非常に限られていて、おそらく8枚、最後に録音したのは1984年頃と思います。しかし最近では6~70年代のライブ録音などがCD化され聴けるようになっていて、聴くことの出来るアルゲリッチのピアノ・ソロはそれなりに増えています。 とはいえ、やはり演奏する曲は同じものになりがちです。

 このベートーヴェンのワルトシュタイン、ショパンのソナタ第3番、ドビュッシーの版画の3曲は、1970年、東京の厚生年金ホールで、アルゲリッチの初来日時のものだそうです。 リサイタルであればもっとほかにも弾いているはずで、この3曲だけしかCDになっていなのはどうしてなのでしょうか。 リサイタルまるごとCDにしてもらったほうがファンとしては喜ぶとは思うのですが。

 曲が重複していると言ったこともあるかも知れませんが、もしかしたらアルゲリッチ本人の許可がなかったということも考えられるかも知れませんね。





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1970年前後、アルゲリッチ30歳前後のいくつかの会場でのライブ録音を収録した2枚組のCD。1970年、初来日時の厚生年金ホールでもワルトシュタインなども含まれている。



ぶっ飛びのワルツシュタイン!

 さて、実際に聴いてみると、これが驚き! すごいテンポ! 音量の変化が半端ない! こんなワルトシュタイン聴いたことがない! ワルトシュタイン・ソナタはベートーヴェン中期の作品で、ベートヴェンらしくエネルギッシュな曲ですが、これまで私自身では激しい曲というより、軽快でさわやかな感じで、聴いて心地よい曲と言ったイメージだったのですが、そんな生易しいワルトシュタインではないです。 まさにぶっ飛びのワルツシュタイン!



高血圧の方はご遠慮ください!

 特に第1楽章は強烈で、頭に全身の血液が上ったり、下がったりと、血圧が心配な方にはかなり危険な演奏と言えるでしょう。 確かにアルゲリッチは情熱的な演奏と言われていますが、特にCDではスタジオ録音のこともあって、少なくとも常軌を逸したものではありません。 このような演奏は、まさにライブならではとも言えるでしょう。  



ツンデレ?

 第2楽章になると一転して耳元でささやくような演奏、途中で一旦音量を上げますが、静かに第3楽章に繋げます。第3楽章は通常第1楽章と同じく、テンポの速い、エネルギッシュなものですが、アルゲリッチはまさに忍び寄るようにして第3楽章を開始します。

 同じ曲なのにこの第3楽章は第1楽章とは全然違う弾き方で、荒れ狂う第1楽章にたいして、こちらは旋律が丸みを帯びるように弾いています。 第3楽章でも強音の部分もあり、そういった部分では確かに力強く弾いていますが、しかし第1楽章とは異なり、”やさしさ”が目立ちます。 テンポもそれなりに速いのでしょうが、第1楽章が早かったせいか、ほぼ普通に感じます。

 この演奏、最近の言葉で言うと ”ツンデレ” と言うやつでしょう。高圧的に厳しい言葉を浴びせたかと思うと、次は耳元で甘い声で囁くみたいな。 きっと会場に詰め掛けたおじさんたちはメロメロになったんじゃなかと思います。




すでに80歳を超えて

 5月13、14日に水戸芸術館で行われるコンサートはディエゴ・マテウス指揮の水戸室内管弦楽団で、アルゲリッチがソロを弾くラヴェルのピアノ協奏曲の他、プロコフィエフの交響曲第1番、ストラヴィンスキーのプラチネッラ他となっています。 

 アルゲリッチは1941年生まれですから、もう80才越えているんですね、若い頃よくリサイタルをキャンセルなんかして、演奏会嫌いで有名だったのですが、今ではかえって積極的に演奏していますね。もちろん独奏なしですが。




2017年にも水戸芸術館に来ている

 水戸芸術館で演奏するのは何回目かわかりませんが、2017年に小澤征爾さんと演奏したものがCDになっています。
 

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2017年の水戸室内管弦楽団演奏会のCD。 ベートヴェンの交響曲第1番、ピアノ協奏曲第1番が収録されている。
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<ジョン・ウィリアムス コロンビア録音全集>  9


John Williams - Barrios

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しっかりとフレタを持っている



収録曲

アウグスティン・バリオス

大聖堂
マドリガル・ガヴォット
メヌエット
マズルカ・アパショナータ
エチュード
プレリュード
森に夢見る
ワルツ第3番
クエカ(チリ舞曲)
サンバの歌
アコンキーハ
マシーシ
どうか、神のご加護を(最後のトレモロ)
郷愁のショーロ
クリスマスの歌

 1977年  発売





本格的なバリオス人気のきっかけとなったLP

 このLPの話は何度かしていますが、現在のバリオス人気に火を付けたものといえるでしょう。 録音日などは明記されていませんが、国内発売も1977年だったと思います。

 この頃からある程度バリオスはギター愛好家の間で人気が高まりつつありましたが(1950年代くらいまではほとんど弾く人がいなかった)、このLPとほぼ同時期に全音出版からヘスス・ベニーテス編のバリオス全集が出版されたこともあって、バリオス人気は本格的なものへとなってゆきます。

 また録音としても、この頃までにバリオスの作品はある程度録音されていましたが、バリオスの作品のみによるアルバムはこのウィリアムスのものが最初です。 このアルバムにより、これまで一般愛好家には知られていなかった曲なども聴くことが出来るようになりました。

 今日、あらゆるギターの作曲家の中で、バリオスは最も人気のある作曲家(兼ギタリスト)と言えますが、そのことにウィリアムスは非常に大きな貢献をしたと言えるでしょう。



人口的な加工を排した録音、フレタらしさも出ている

 このLPの音質はこれまでのものと違い、残響や高音域を押さえたものになっています。 生音に近い感じになっていると言ってもよいでしょう、ボリュームもかなり押さえ気味になっています。 さらにこの後に録音するポンセの作品集になると、それが徹底し、たいへん困ったことになるのですが、それはまた次にお話しましょう。

 確かにこの録音を聴いていると 「フレタかな」 と言った感じがします。 写真ではくフレタを持っているので間違いなくこのLPはフレタで録音しているものと思いますが  ・・・・・・本当はちがっているかも知れませんね。



ロマンティックなバリオスの音楽とは相性がよい

 ウィリアムスは後年ポピュラー系の音楽に志向してゆきますが、基本的にウィリアムスと言うギタリストはロマンティックなギタリストで、旋律を歌わせるのが得意な人だと思います。 そうしたウィリアムスに、これまた、極めてロマンティックであるバリオスを作品はたいへん相性のよいものです。ここに収録された曲はすべて名演奏といってよいでしょう。



当時は皆開放弦で弾いていた?

 若干余計なことを言えば、前述のベニーテスの譜面で、「クリスマスの歌」のハーモニックス記号が一部脱落しています。 ウィリアムスはこの譜面、またはこの譜面と出所を同じくする譜面を用いていたのでしょう、その本来ハーモニックで弾く部分、を開放弦(譜面上はそう記されている)で弾いていいて、たいへん意味不明となっています。

 今では笑ってしまいそうですが(失礼!)、当時はだれも気が付かず、みんなウィリアムスと同じく開放弦で弾いていました、「なんか変なメロディだな」 と思いながらも。







Manuel Ponce


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ファッションも1970年頃に比べるとやや地味になったが、録音の音質のほうはもっと地味になった


収録曲

マヌエル・ポンセ  

「スペインのフォリア」による変奏曲とフーガ
プレリュード
バレー
3つのメキシコ民謡
ワルツ
3つの歌

 1978年 発売




1970年頃の録音の反動? でもちょっとやり過ぎ!

 先ほども触れたとおり、このLPは非常に音を押さえたもので、残響などは全くなく、高音域や低音域も押さえられ、さらに音量も非常に押さえられていました。 1970年前後のウィリアムスの録音は残響を付け(自然の残響ではなく、装置による)、また高音域も伸ばして、かなり派手な音質となっていましたが、このポンセの録音はそうしたことへの反動と思われます。

 しかしこのLPに関しては、ちょっと度が過ぎているようです。 特にLPの場合はアンプのボリュームを上げると針のノイズが大きくなり、まるでかつてのSP盤のようになってしまいます。 もちろん精度の高い装置を使えばちゃんと聴けるのかも知れませんが、当時私が使っていた装置ではかなりノイズが大きくなって、聴きにくいLPとなっていました。

 このCDでは多少ボリュームをあげてもノイズが出ませんから、そうした問題はありませんが、それでも高音域がカットされたような音なので、一瞬 「耳が変になったかな」 といった感じにはなり、やはり違和感はあります。



でも演奏は秀逸

 しかし演奏の方はたいへん素晴らしく、ポンセの大曲 「スペインのフォリア」 も、その美しさに聞きほれて、所要時間20数分というものを感じさせません。 他の小品も魅力的で、いまさらながら、ウィリアムスがこうした定番的なクラシック・ギターのレパートリーをあまり録音しなかったことが惜しまれます。

 ウィリアムスの師匠であるアンドレ・セゴヴィアはポンセの音楽を愛し、その作品の演奏や録音に力を注ぎました。 このウィリアムスのポンセ・アルバムもその師匠の影響があるのかも知れません。 あまりオーソドックスなギターノレパートリーを演奏しないウィリアムスにとっては、ポンセの作品のみのアルバムを世に出した意味は大きいでしょう。 



師、セゴヴィアとは異なる道を進んだが、共通項は確かに存在する

 ウィリアムスはデビュー当時は ”ギター界のプリンス” と呼ばれ、セゴヴィア門下の優等生として世に出ました。 しかしその後はセゴヴィアとは一線を画する方向へと進み、一部のファンからは失望されたこともありました。 確かにその後の活動はセゴヴィアの方向性とはだいぶ違うものの、このポンセのアルバムは師との共通項の一つなのでしょう。

 またセゴヴィアとは違って現代的なイメージのウィリアムスの演奏ですが、しかし基本はロマンティックで、メロディを歌わせることが得意というわけで、やはりしっかりと師匠の音楽を継承しているとも言えるでしょう。 セゴヴィアとの繋がりを感じさせる演奏、それがこのポンセの作品集のLPなのでしょう。
<ジョン・ウィリアムス コロンビア録音全集>  8

John Williams Plays Bach The Complete Lute Music on Guitar


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収録曲

バッハ : リュート組曲全4曲、 プレリーュドニ短調BWV999、 フーガBWV1000、 プレリュード、フーガ、アレグロBWV998

録音 1975年




アグアード ⇒ フレタ ⇒ スモールマン

 ウィリアムスが使用した楽器の話は、前にもしましたが、 大ざっぱに言って、デビュー(1950年代末)から1970年代前半くらいまではアグアード、1970年代半ば頃から1980年代始め頃まではフレタ、それ以降はグレッグ・スモールマンを使用したようです。 

 このLPのジャケットの写真からは、フレタかアグアードかは区別が付きませんが、前回紹介した「さくら」のLPジャケット写真では、明らかにフレタを弾いていますので、そうしたことからすればフレタ使用なのではないかと思います。



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前回紹介した1973年録音の「さくら」のLPジャケットだが、ここに写っているのは明らかにイグナシオ・フレタ

  



プロは聴いただけで楽器がわかる?


 もっとも、 「プロだったら、聴けばフレタかアグアードかなんて、わかって当然!」 なんて言われそうですが、これが残念ながら聴いただけでは全く区別が付きません。 テレビ番組でも、プロ・ヴァイオリニストが、何億円もするストラディバリと安物のヴァイオリンとの区別が付かなかったようですから(そのヴァイオリニストは日頃トラデバリを弾いている)、楽器の音など、それほど簡単にはわかりません。



どれを弾いてもウィリアムスの音はウィリアムスの音

 生演奏でもわからないくらいですから、まして録音となればわかるはずもありません。 また、フレタもアグアードも杉材で、どちらもスペイン系の楽器と言うこともあって、よく似ているといえば似ているでしょう。 また、楽器は弾く人によってかなり変わり、楽器の違いよりも演奏者の違いのほうが、音としては変わるでしょう。 要するに、どの楽器を弾いてもウィリアムスの音はウィリアムスの音ということでしょう。



アグアードだったとは思うが、ただ美しかったことだけが確か

 因みに、私は1971年に虎の門ホールで、ウィリアムスの ”生音” を聴き、その美しさに感動したわけですが、 その時使用した楽器は、聴いた話ではアグアードのようです。 ただ本当に確かめたわけではないので断言は出来ません。 その後ウィリアムスの生音は一般ファンにとっては ”幻” となる訳ですが(リサイタルでもアンプを使うため)、 ウィリアムスの生音は極めて美しかったのは紛れもない事実です。

 


スモールマン使用になってからは生音では演奏しなくなる

 1983年頃からは、CDのジャケット写真からするとグレッグ・スモールマン使用のようです。 スモールマンは他の二つの楽器に比べて異質な音がするので、CDでもある程度判別できます。 特にスモールマンを使用するようになってからはリサイタルなどでもアンプなしには演奏しなくなったようです。  ・・・・・・スモールマンと言う楽器は生でもアンプを通したような音がします(あくまで個人的な感想ですが)。


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ウィリアムスは1983年以降、ほとんどグレグ・スモールマンを使用している




バッハのLPに話を戻す。 ~流麗で完成度の高いバッハの演奏


 話が楽器の方に行ってしまいましたが、演奏の話に戻しましょう。 1975年と言えば、ウィリアムスの円熟期と言ってよく、このバッハのリュート作品全集のLPは完成度の非常に高いものです。 技術的な完成度は言うまでもありませんが、さらにたいへん流麗なバッハを聴かせます。



私自身たいへんよく聴いた演奏

 今現在ではギター、及びリュートによって、このバッハのリュート作品全集がかなりの種類出ていますが、この時点ではこうした全集はほとんど録音されていなくて、そういった意味でも貴重なLPでした。 私自身もギターで弾くバッハのリュート作品としては、これまで最もよく聴いたものかも知れません。 たいへん荘快感のあるバッハの演奏です。



最近の演奏スタイルとは違う


 最近ではこうしたバッハのリュート作品を演奏する場合はそのギタリストなどによって装飾を施したりするのが普通ですが、そうしたものはこの録音にはありません。 この時代にはそうした装飾を付ける演奏まだ主流とはなっていませんでした。 要するに演奏スタイルとしては ”1970年代的な演奏” と言えるでしょう。



フーガBWV1000などが復活したのはたいへん嬉しい

 この2枚組のLPは、後に4つの組曲のみを1枚のCDにした発売されていました。 つまり小プレリュード、フーガBWV1000、プレリュード、フーガ、アレグロが外されてしまったわけです。 今度この全集が出されたことにより、てそれらの曲が復活し、往年のファンとしてはたいへん嬉しいことです。
<ジョン・ウィリアムス コロンビア録音全集>  7


John Williams

Ingland Japan Brazil Venezuela argentina&Mexico

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収録曲

日本古謡 ~横尾幸弘  :  さくら
ドッジソン  :  ファンタジー・デビジョンズ
M.ポンセ  :  南のソナチネ
ヴィラ=ロボス  :  ショールス第1番
A.ラウロ  :  ヴェネズエラ風ワルツ第3番
クレスポ  :  ノルティーニャ
V.E.ソホ  :  5つのヴェネズエラのメロディ
A.バリオス  :  パラグアイ風ワルツ

 録音 1973年6月





ジョンが 「さくら」 を弾く?

 このLPの日本での発売は1974~5年頃だったと思いますが、何といってもウィリアムスが日本民謡の 「さくら」 を弾いたということでたいへん話題になりました。 確かに私が子供の頃からギターで 「さくら」 を弾くのは、いわば定番になっていて、いろいろな 「さくら変奏曲」 の譜面が発売されていました。

 私も中学生の頃、その中の一つを弾いていました(クラシック・ギターのレパトリーなどよくわからなかったので)。 最後はトレモロの変奏になっていましたが (当時の「さくら変奏曲」はたいていそうなっていた)、誰の編曲だったか思い出せません。 というよりあまり編曲者など気にしなかったように思いますが、この横尾編でなかったのは確かです。

 確かにギターで 「さくら」 は定番だといっても、それはあくまで日本国内、しかもアマチュア・レヴェルでの話で、外国のギタリスト、しかもウィリアムスのような世界的な超一流ギタリストがこの曲を弾くなどということは、だれも想像しなかったのではないかと思います。 



銀行マン・カット?

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国内盤のLPジャケット。 発売当時は 「ジョンがさくらを弾いた」 ということで話題となった。 ジャケットからもわかるとおり、国内盤ではこの「さくら」全面に出してのリリースだった。 ちょっと気になるのはかなり古い写真を使用していて、発売時にはこんな ”銀行マンスタイル” ではなかった。 他に適当な写真がなかったのだろうか、あるいはこの写真の方が好感度が高いと考えたのだろうか。 ただ、裏面には海外盤でも使われた写真(最初の写真)が載っていた。




クリヤーに、シンプルに演奏している

 ウィリアムスの演奏は、たいへんクリヤーな音で、あまり表情などを付けずにシンプルに演奏しています。 そのことがかえってこの曲の持ち味を出しているようです。 そう言えば確かに、お琴などでは西洋音楽のよううに、フレーズごとにクレシェンドしたり、リタルダンドしたりなど、テンポや音量を変えて、いわゆる ”歌わせる” ということはあまりやらないようですね。 



最も海外で演奏されている邦人ギター作品かも

 因みに、この横尾編の 「さくら」 は新旧2つのバージョンがあって、ウィリアムスは基本的には最初のバージョン(比較的シンプルな方)を用い、新バージョンのほうから一つの変奏のみを演奏しています。 現在ではやや長めになっている新バージョンのほうもよく演奏されるようになりましたが、 多くの海外のギタリストはこの ”ウィリアムス・バージョン” で演奏しています。

 もちろん、この横尾編は、今現在多くの日本人ギタリストによって演奏されるだけでなく、Y.セルシェルやEフェルナンデスなど、多くの著名な海外ギタリストにも演奏されています。 もしかしたら今現在、最も多く海外で演奏されている邦人作品かもしれません。



前回のLPの関係で、スペインもの以外のプログラムとなった

 この「さくら」以外はイギリスのドッジソンと、ポンセ、ラウロ、ソホ、バリオスなど南米の作品となっています。 このLPの前のLPがスペインものだったので、要するにスペイン以外の音楽を集めたLPということなのでしょう。

 ウィリアムスは友人のドッジソンの曲をたいへん積極的に取り上げていますが、現在までは、あまり他のギタリストは彼の作品をあまり演奏しないようですね。 ポンセの 「南のソナチネ」 はセゴヴィア編で、たいへん爽快に演奏しています。 名演の一つではないかと思います。 ヴィラ=ロボスの 「ショールス第1番」 も、個人的に好きな演奏です。



ヴェネズエラ風ワルツ第3番とノルティーニャはウィリアムスの愛奏曲

 ラウロの「ヴェネズエラ風ワルツ」はウィリアムスの好きな曲なのでしょう、この録音以外にも何回か録音しています。 この曲もたいへん爽快な演奏で、譜面に書かれているよる多めに繰り返しを行っていますが、長すぎる感じはしません。

 アルゼンチンの作曲家、ジョージ・ゴメス・クレスポの作品で、セゴヴィア編曲の 「ノルティーニャ」 もこの録音以外にも何度か録音していて、ウィリアムスの愛奏曲の一つと言えます。 ソホの 「5つのベネズエラのメロディ」 は、なかなか親しみやすい曲で、最近では、いろいろなギタリストに演奏されています。



ジョンのパラグアイ舞曲はこのLPのみ

 アウグスティン・バリオスの 「パラグアイ舞曲第1番」 は華やかな曲で人気がありますが、指が拡がらないと弾けない曲です。 かなり左手の負担が大きい曲ですが(右手も結構難しい!)、最近のギタリストにとっては全く問題にならないのでしょうね。 手の小さい私には全く不向きな曲ですが、それでも無理やり弾いています。

 なおあ、ウィリアムスは1977年と1994年にバリオスの作品集を録音し、また他のCDなどのもバリオスの作品を録音していますが、この 「パラグアイ舞曲第1番」 はこの録音が唯一のものと思います。
今、予報通り台風が通過中


 今日は台風9号が関東地方に上陸ということで、生徒さんたちがくるのはなかなかたいへんな状況なので、仕事の方は休みにしました。 休を決めたのは一昨日の土曜日ですが、台風情報などというのは結構外れることが多く、結局のところ、雨も降らず、風も吹かず、いったい台風はどこに行ってしまったんだろう、などということもあります。

 2日前のテレビなどでは、間違いなく今日(22日月曜日)に関東地方に上陸すると断定しているので、素直に従うしかないかな、ということで休みにしました。 今回に関しては、確かに予報どおりで、今現在(16時頃)この辺(水戸周辺)を通っているところのようです。 よくも悪くも、”大当たり” といったところです。

 少なくとも私の家の当たりでは、大きな被害が出るほどの雨や風ではないようですが、ただ教室に来るのはちょっとたいへんなところです。 とりあえず予報に従っておいてよかったかなと思います。 さて、そんなわけで、急遽仕事がなくなったので、この記事を書いているという訳です。





ジョン・ウィリアムス コロンビア録音全集 6>



ジュリアーニ、ヴィヴァルディ、ギター協奏曲集



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<収録曲>
ジュリアーニ : ギター協奏曲第1番
ヴィヴァルディ : リュート協奏曲ニ長調
同        : ギター協奏曲イ長調(トリオ・ソナタからの編曲)

 イギリス室内管弦楽団   録音 1968年10月





ジュリアーニは縮小版

 ジュリアーニの協奏曲については、当ブログでも何度か書きましたが、この曲にはいくつかのバージョンがあります。 もともとは2管編成のフル・オーケストラのために書かれていますが、ジュリアーニ自身の手により、弦楽器のみのものや、弦楽四重奏の形のものもあり、さらに後世の人の手によるものもあるようです。 

 この録音では、ジュリアン・ブリームが演奏しているものと同じく、弦楽合奏版で、さらに展開部などのオーケストラ部分を大幅にカットしたものです。 そうした処置は、おそらくジュリアーニ自身のもではないでしょう。 因みに、ウィリアムスは1998年には弦楽合奏版ですが、そうしたオーケストラ部の省略のない形で録音しています。




ギターの音は増幅されている

 この録音は、そうした、いわば ”縮小版” ではありますが、ギターもオーケストラもたいへんきびきびした演奏で、荘快感のある演奏です。 やや人工的に残響が付けられ、またギターの音量もかなり増幅され、オーケストラの音に紛れないような録音となっています。

 もちろんライブではあり得ないことで、最近では録音の場合でも特にギターの音量を増幅させないで、リアルな音量バランスになっているものが多くなりました。 確かにその方が本来の ”ギター協奏曲” の姿かも知れませんが、 聴き手からすると。頭の中でギターの音量を拡大して聴かないといけないので、結構疲れます。



CDとしては聴きやすい

 CDなどで聴くとするなら、現実的ではないかも知れませんが、この録音のようにギターの音量をオーケストラの音量に対抗出来るように修正しておいてくれた方が、聴きやすいといえば、聴きやすいでしょう。

 もっとも最近ではイクリプスなど、かなりリアルなギター用アンプが出来、それを使用すれば、例えライブであっても、ギターの音色を損なうことなしにオーケストラとのバランスがはかれるでしょう。 「ギター協奏曲は、生ではギターの音が聴こえない」 といったことは過去のことになるのかも知れません。



これもたいへん懐かしい演奏

 このLPもかつて、自分では買えず、友人からテープにダビングさせてもらって聴いていました。 その後CDの形では市場に出ず(おそらく)、これも久々に聴いた懐かしい演奏です。




あまり聴いていないものもあるので

 ここまでは、このボックスに収められているLP復刻をすべてコメントしてきたのですが、ウィリアムスはギターの独奏や協奏曲以外に他のアーチスト(ポピュラー系も含む)との共演による録音を多数残しています。 それらのものは、私自身ほとんど聴いていなかったり、またあまり興味が持てないものもあるので、ここからの紹介は、独奏曲などを中心とした、私個人的に興味あるLP、CDのみにします。






John Williams Plays Spanish Music


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収録曲

アルベニス : アストゥーリアス、タンゴ、コルドバ
グラナドス : 詩的ワルツ集、 ゴヤの美女
ロドリーゴ : ファンダンゴ
モレーノ・トローバ : ノクトゥルーノ、マドローニョス
カタルーニャ民謡 : クリスマスの夜、聖母の御子
ファリャ : 漁夫の歌、粉屋の踊り、市長の踊り、


 録音 1969年 11月




最もよく聴いた個人的に思い入れのあるLP

 スペイン音楽によるこのLPにつては以前にも書きましたが、私自身ウィリアムスのLP,CDのうち、最もよく聴いたものなので、改めて紹介しておきましょう。 私が初めて買ったウィリアムスのLP、また同時期に東京虎の門ホールで生演奏 (本当の生演奏!) を聴いたこと、収録曲が当時の私の興味に完全にはまったことなどから、文字どおり ”溝か擦り切れる” 聴いたLPです。




演奏も華やかだが、音質はさらに華やか


 曲目も上記のとおり人気曲となっていますが、演奏ぶりも、また録音の音質もたいへん華麗なものとなっています。 ウィリアムスの録音中、あるいはクラシック・ギターの録音中、最も華麗な録音といってもよいかも知れません。 ウィリアムスはこの録音の反動か、何年かすると逆に高音域や残響を極端に絞った”地味な” 録音へとなってゆきます。




跳ね返り音、 ミス?

 1曲1曲については、ともかく聴いてほしいと思いますので、あまり触れませんが、何といっても特徴的なのはアストゥリアスなのではないあkと思います。 この録音ではラスゲアードのところで、右手を弦に触れて、”跳ね返り” のような音が聴こえます。 おそらくこれはあえてしたもではなく、たまたま偶然にそうなってしまったものと思えます。 ミスと言えばミスなのでしょう。




故意に出すのは意外と難しい


 テープ編集で取ろうと思えば取れたと思いますが、これがかえって面白いと考えたので、そのままLPにしてしまったのではないかと思います、ちょっとした遊び心でしょう。 因みにこの”跳ね返り音” は故意に出そうと思ってもなかなか出せません。 また、ウィリアムスは1980年にこの曲を再録していますが、その録音ではこの音は入っていません。



世界初録音

 アルベニスの「コルドバ」とか、グラナドスの「詩的ワルツ集」などは、現在ではギターの定番的なレパートリーとなっていますが、それぞれこのLPが ”世界初録音” となっています。 アルベニスの「タンゴ」も、ギターで弾くとたいへん美しい曲であることを示してくれたのも、このLPではないかと思います。 いずれにしてもウィリアムスのLP、CDの中で、最も魅力的なものと言ってよいでしょう。


 ・・・・・・ 台風、行ってしまったみたいですね。