2つの譜面
この曲の原曲には2つの譜面があることは前回お話しました。繰り返しになりますが、一つは「スペインの歌」第1曲目プレリュード、もう一つは「スペイン組曲作品47」第5曲目アストゥーリアス=レーエンダです。
「スペインの歌」はプレリュード、オリエンタル、椰子の木陰で、コルドバ、セギディージャの5曲からなり、1893年~1895年に作曲され、1890年代の後半頃出版されているようです。 「スペイン組曲作品47」はグラナダ、カタルーニャ、セビーリャ、カディス、アストゥリアス、アラゴン、カスティージャ、クーバの8曲で、そのうちグラナダ、カタルーニャ、セビーリャ、クーバの4曲は1886年頃作曲され、それぞれこの組曲独自の曲ですが、他の4曲はアルベニスの死後(おそらく1910年代)出版社により、他の組曲などから転用され、この組曲に入れられたものです。
これらの曲名をみるとお気づきのとおり、それぞれギターで馴染みの深いものばかりですが、特に「スペイン組曲」のほうはアストゥリアス以外にもグラナダ、セビーリャとほとんどギター曲ともいえる曲が並んでいます。こちらの方が一般的になるのもうなずけ、マヌエル・バルエコもこの組曲を全曲ギターで演奏しています。
私の手元にあるのはどちらも音楽の友社のものですが、その譜面にはオリジナルの譜面に関しての記述が全くありませんので、初版に関する情報がわかりません。初版に対して、何らかの変更があったかないかわからないのですが、一応初版どおりということで話を進めて行きます。
強弱記号などの違い
「スペインの歌」第1曲プレリュードと「スペイン組曲作品47」第5曲アストゥーリアス=レーエンダの譜面を詳しくみてみると、曲名以外にもいろいろ違いがあります。音としては21小節目からの和音の弾き方が若干異なります。和音そのものは同じなのですが、「スペインの歌」のほうでは16分音符「裏」にあったものが、「スペイン組曲作品47」では小節の「頭」になっています。より華やかに聴こえるようにという配慮かなと思いますが、特に変更の必要などなかったのではないかと思います。
音としてはそれ以外は違いがないと思いますが、強弱、表情記号などはかなり変えられています。全体的に言えば「組曲」のほうがより細かく、例えば冒頭の指示も「marcato il canto(はっきり、歌うように)」が「marcado el canto y siembre staccato sin pedal(はっきりと歌って、ペダルなしで、常に音を切る)」と詳しくなっており、こちらはスペイン語になっています。また「組曲」のほうがpがppのように強弱のコントラストが強くなっていて、メトロノームの数字も132から138に変えられています(この数字も初版の時にあったのかどうかはわかりませんが)。
まとめると「組曲」のほうが「歌」に比べると強弱や速度の差を付け、より華やかに聴こえるように変えられているようです。全体的には「組曲」のほうは「歌」のほうの指示を強調したような形になっていて、それほど矛盾することは少ないのですが、エンディング(最後の6小節)のところだけは全く正反対の指示になっています。「歌」のほうではテンポ・プリモで冒頭の速さに戻り、最後はクレシェンドしてffで終わっていますが、「組曲」のほではテンポはトランキュロでメトロノームの数字が100、最後はさらにリタルダンドでpppで終わっています。
以上のように実際に演奏する場合はどちらの譜面を参考にするかでかなり違ってきます。富川さんによればアルベニス自身に演奏スタイルは特にコントラストや、スペイン的な部分などを強調したりするものではなく、客観的、あるいは古典的なものだったそうです。十分なテクニックを持ちながらも表面的な派手さを嫌い、洗練された美しい演奏で、特にフランスの音楽家たちの評価は高かったそうです。派手さを嫌い、繊細なニュアンスを求めたということでは、ショパンやドビュッシー、あるいはタルレガなどとも共通した点があるのかも知れません。
生存中出版された「スペインの歌」
以上のことを考えると、この曲の演奏にあたっては、やはりアルベニスの生存中に出版され、アルベニスの意図が忠実に反映されていると考えられる「スペインの歌」の方の譜面を参考にすべきと思います。実際に弾いてみてもこちらのほうが自然な感じがありますし、エンディングもpからffまでクレシャエンドしてffで終わるほうがずっとすっきりしていると思います。
ギターへの編曲の話はまた次回にしようと思いますが、ほとんどのギターの譜面は「組曲」ほうから強弱記号などを取っていますが、これはやはり見直すべきでしょう。なおこの「スペインの歌」、「スペイン組曲」とも手軽に入手出来、価格もそう高いものではありませんから、これからアストゥリアスに取り組む方、あるいは現在弾いている人などはぜひ手元に置きたいものでしょう。
この曲の原曲には2つの譜面があることは前回お話しました。繰り返しになりますが、一つは「スペインの歌」第1曲目プレリュード、もう一つは「スペイン組曲作品47」第5曲目アストゥーリアス=レーエンダです。
「スペインの歌」はプレリュード、オリエンタル、椰子の木陰で、コルドバ、セギディージャの5曲からなり、1893年~1895年に作曲され、1890年代の後半頃出版されているようです。 「スペイン組曲作品47」はグラナダ、カタルーニャ、セビーリャ、カディス、アストゥリアス、アラゴン、カスティージャ、クーバの8曲で、そのうちグラナダ、カタルーニャ、セビーリャ、クーバの4曲は1886年頃作曲され、それぞれこの組曲独自の曲ですが、他の4曲はアルベニスの死後(おそらく1910年代)出版社により、他の組曲などから転用され、この組曲に入れられたものです。
これらの曲名をみるとお気づきのとおり、それぞれギターで馴染みの深いものばかりですが、特に「スペイン組曲」のほうはアストゥリアス以外にもグラナダ、セビーリャとほとんどギター曲ともいえる曲が並んでいます。こちらの方が一般的になるのもうなずけ、マヌエル・バルエコもこの組曲を全曲ギターで演奏しています。
私の手元にあるのはどちらも音楽の友社のものですが、その譜面にはオリジナルの譜面に関しての記述が全くありませんので、初版に関する情報がわかりません。初版に対して、何らかの変更があったかないかわからないのですが、一応初版どおりということで話を進めて行きます。
強弱記号などの違い
「スペインの歌」第1曲プレリュードと「スペイン組曲作品47」第5曲アストゥーリアス=レーエンダの譜面を詳しくみてみると、曲名以外にもいろいろ違いがあります。音としては21小節目からの和音の弾き方が若干異なります。和音そのものは同じなのですが、「スペインの歌」のほうでは16分音符「裏」にあったものが、「スペイン組曲作品47」では小節の「頭」になっています。より華やかに聴こえるようにという配慮かなと思いますが、特に変更の必要などなかったのではないかと思います。
音としてはそれ以外は違いがないと思いますが、強弱、表情記号などはかなり変えられています。全体的に言えば「組曲」のほうがより細かく、例えば冒頭の指示も「marcato il canto(はっきり、歌うように)」が「marcado el canto y siembre staccato sin pedal(はっきりと歌って、ペダルなしで、常に音を切る)」と詳しくなっており、こちらはスペイン語になっています。また「組曲」のほうがpがppのように強弱のコントラストが強くなっていて、メトロノームの数字も132から138に変えられています(この数字も初版の時にあったのかどうかはわかりませんが)。
まとめると「組曲」のほうが「歌」に比べると強弱や速度の差を付け、より華やかに聴こえるように変えられているようです。全体的には「組曲」のほうは「歌」のほうの指示を強調したような形になっていて、それほど矛盾することは少ないのですが、エンディング(最後の6小節)のところだけは全く正反対の指示になっています。「歌」のほうではテンポ・プリモで冒頭の速さに戻り、最後はクレシェンドしてffで終わっていますが、「組曲」のほではテンポはトランキュロでメトロノームの数字が100、最後はさらにリタルダンドでpppで終わっています。
以上のように実際に演奏する場合はどちらの譜面を参考にするかでかなり違ってきます。富川さんによればアルベニス自身に演奏スタイルは特にコントラストや、スペイン的な部分などを強調したりするものではなく、客観的、あるいは古典的なものだったそうです。十分なテクニックを持ちながらも表面的な派手さを嫌い、洗練された美しい演奏で、特にフランスの音楽家たちの評価は高かったそうです。派手さを嫌い、繊細なニュアンスを求めたということでは、ショパンやドビュッシー、あるいはタルレガなどとも共通した点があるのかも知れません。
生存中出版された「スペインの歌」
以上のことを考えると、この曲の演奏にあたっては、やはりアルベニスの生存中に出版され、アルベニスの意図が忠実に反映されていると考えられる「スペインの歌」の方の譜面を参考にすべきと思います。実際に弾いてみてもこちらのほうが自然な感じがありますし、エンディングもpからffまでクレシャエンドしてffで終わるほうがずっとすっきりしていると思います。
ギターへの編曲の話はまた次回にしようと思いますが、ほとんどのギターの譜面は「組曲」ほうから強弱記号などを取っていますが、これはやはり見直すべきでしょう。なおこの「スペインの歌」、「スペイン組曲」とも手軽に入手出来、価格もそう高いものではありませんから、これからアストゥリアスに取り組む方、あるいは現在弾いている人などはぜひ手元に置きたいものでしょう。
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