
進化しすぎた脳 池谷裕二 BLUE BACKS 講談社
今回は音楽の本ではありませんが、ギターを弾くことにまんざら無関係なことではありません。特に私の仕事にはとても関係の深いものだと思います。この本のタイトルからすると人間がだんだん宇宙人かエスパーのようになってゆくような内容に思われるかも知れませんが、決してそういったものではなく、またオビに「しびれるくらいに面白い!」と書いてあり、確かに面白い本だとは思いますが、この本を読みながら「しびれた」人がいるのかどうかはわかりません。要するにわりと「普通」の脳関係の本と言えると思います。普通と多少違う点があるとすると、この本は著者が「高校生と会話」するといいた形をとっており、この種の本としてはわかりやすく、また読みやすいといった点だと思います。そういった点では確かに「オススメ」の本と言えます。
「読譜」や「暗譜」にも
この著者の専門分野は神経薬理学だそうで、記憶をつかさどると言われている海馬の研究家でもあるようです。この本では記憶に関するものだけでなく、脳の働きなどに関して全般的に書かれています。この本を読んで今まで知らなかった点もたくさんありましたが、私自身で今までなんとなくそう思っていた事などが、整理されて文章で書かれていると感じた点もあります。特に第3章で書かれている「人間はあいまいな記憶しかもてない」では、一つ一つの内容に納得のゆくものでした。前に私がこのブログで、「ギター上達法」の「読譜力」や「暗譜」のところで書いた内容には、この章からの影響はかなりあります。
忘れるのも理由がある
「正確な記憶」といった点では人間よりもむしろ他の動物のほうが優れていると言っています。人間は例えば風景などを見たとしてもそれを写真のように記憶することは出来ません、普通は「遠くに山が見えた」とか「高い建物」があったとか、そんな感じだと思います。稀に一度見ると写真のように記憶する人がいるようですが、これは逆に脳になんらかの障害があった場合のようです。この本で書かれているのは人間はある理由があって、あるいは進化の過程であいまいな記憶しか持てなくなったのだそうです。
記憶よりもカン
人間は何らかの情報を得た時。それを抽象化あるいは一般化して記憶するのだそうで、それによってその情報をいろいろな場面で利用するのだそうです。もし完璧な記憶だとそれを他の事柄に利用でないということなだそうです。今まで出くわしたことのない事柄でも(厳密には同じことは二度と起こらないから、すべては初めての出来事かも)、なんとなく「カン」でその対処法がわかるというのも、その「抽象化」のおかげだそうです。
いかに抽象化するか
「ギター上達法」の中で「暗譜が速いことが、必ずしも上達につながらない」と書いたと思いますが(こういった内容のことは書いたと思いますが、正確にこう書いたかどうかは『記憶に』ありません!)、まさにこのことだと思います。特に「丸暗記」のようなことはかえって害があるなどということも言ったと思います(これも同様)。曲をわりと短期間で丸暗記するタイプの人は意外と楽譜が読めなくなる、特にハイポジションなどがよくわからない人が多いなどということも、この「一般化」あるいは「抽象化」に問題があるのかも知れません。またこれまでたくさんの曲を練習してきたのに、新しい曲になるとまた弾き方がわからなくなったり、間違えた弾き方、あるいはこれまでの経験を活かせないと言う人もいますが、それもこの「抽象化」に関係があるようです。ギター上達のためにはこれまで練習してきた曲そのものを記憶することではなく、それらの曲を練習してきたことをいかに「抽象化」出来るかということのようです。
「魔笛」は誰々流
例えば有名なギタリストのマスタークラスなどを受講したとしても、大事なのは「この音はやや強く」とか、「ここは絶対にテンポをキープしなければならない」とかいった個々の事柄を克明に記憶することではなく、そのギタリストのレッスン、あるいはそのギタリストの考え方を、自分の中でいかに「抽象化」するかといったことなのでしょう。場合によっては一回そうしたレッスンを受けることにより、それ以後の音楽や演奏についての考え方などが一変することもあるでしょう。また逆に「魔笛」は誰々流で、「アルハンブラの想い出」は別なギタリスト、「シャコンヌ」はさらに別なギタリスト流と、受講したギタリストの教えそのままにバラバラに身に付けてしまっている人なども現実にはいるのではないかと思います。
言葉は感情や思考の道具
話がこの本から少し離れてしまいましたが、この本の中では「言葉」に関しても書いてあって、もともと言葉は他の人とのコミュニケーションのために生まれたものと思われますが、人間はその言葉を自分自身の中で思考することにも用いています。思考だけでなく悲しいとか嬉しいとかいった感情にも関り、いわゆる人間らしさとかいったものも言葉に大きくかかわっています。脳の活動すべてではないにしろ、人間の脳の活動には言葉が大いに関係しているのは確かでしょう。またそれが人間と他の動物との違いを鮮明にしている点かも知れません。
だいたい
この話題については、まだまだ話したいことはあるのですが、この辺でやめておきましょう。因みにこの本についてのことは私の中で「抽象化」されたものにより書かれているので「だいたい」のことは合致していますが、あくまでも「だいたい」です。
・・・・・・・もしかしたら 『だいたい』 というのは私の好きな言葉かも知れません。
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