フェルナンド・ソル : モーツアルトの「魔笛」の主題による変奏曲Op.9

今回はクラシック・ギターの代表的な曲で、プロからアマチュアにいたるまで、多くの愛好者から親しまれているこの「モーツアルトの『魔笛』の主題による変奏曲Op.9」についてです。この曲は多くの人に演奏されているわけですから、すごい「難曲」とも言えませんが、かと言ってミスなく弾くのはかなり難しい曲でもあると思います。またよく知られている曲だけに、聴く人を満足させるのはなかなか難しい曲とも言えます。古典的な曲だけに良い演奏をするためには、ギター演奏上の基本技術はもちろん、クラシック音楽全体的な知識や感覚も必要でしょう。本来なら「ミス」に関してとは違った視点で語るべきなのでしょうが、ここでは「ミスを少なくする」ということにしぼり、いくつかの部分を例にして話をします。
主題
最初の譜例はテーマの冒頭の部分ですが、最初の「シ-ラソ」の右手は「m-i-m」の順で弾くのが一般的でしょう、逆の順で弾くととても弾きにくいので、当然といえば当然なのですが、うっかり「i」から始めるとミスにつながったり、リズムがくずれたりしますので、意識しておいたほうがよいでしょう。他に「a-i-m」、「a-i-a」などもありますが、私は「a-i-a」で弾いています。
この3つの音をアポヤンド奏法で弾くべきか、アルアイレ奏法かといったことですが、基本的にはアルアイレ奏法で弾くべきでしょう。アポヤンド奏法を用いると、後続の3度で重なった「ソ」の音のほうが細く、あるいは小さく聴こえてしまう可能性があります。ソルの時代にアポヤンド奏法があったかどうかわかりませんが、種々の状況からしてあまり積極的に使わなかったのは確かでしょう。ただし私の場合はアポヤンド奏法で弾いています。これは私がアルアイレ奏法があまり上手くないというこによりますが、後続の音との音量、音質のバランスには十分気を付けています。要するにアポヤンド奏法を用いていることがあまりわからないようにしています。
2小節目の装飾音は正確な音価(音符の長さ)で弾くのはなかなか難しく、長さを引き伸ばして弾くギタリストは多いと思いますが、曲の性格上、なるべく正確な音価で弾きたいものです。そのために、*印の「ソ」は、左人差し指(1)ではなく、左薬指(3)で押さえた方がよいと思います。その方が正しい長さで弾けるでしょう。またどうしてもうまく行かない時には装飾音を外すことも考えられます。私は2回目のみ装飾音を入れています。
第4変奏
この変奏は比較的シンプルなものですが、細かいミスなく弾くのはかなり難しいと思います。以外と①②弦で弾く3連符が難しく、正しい音価でムラなく弾くのは結構たいへんです。普通に考えれば「m-i-m-mi」となるのでしょうが、それでは小節の頭の3度の和音が弾けません(「m」が続くために)。「m」の連続を避けるために最も一般的なのは「m-i-a-mi」で、私もしばくはこの運指で弾いていました。しかしこの運指だと逆に速くなりすぎ、ステージなどの緊張した場で弾くとどうしても音がかすれたり、音価が保てなくて、リズムが乱れがちになります。
そこで数年前から譜例にあるように「m-i-m-pi」というような運指で弾いています。薬指を使うかわりに親指を使うわけですが、今のところこの方法が最も安定しています。なんといっても速くなりすぎるのは防げ、「空振り」もかなり減りました。また拍の頭にアクセントが付きやすく、安定したリズムが得られます。「m-p-i-pm」というのも考えられますが、私の場合あまりうまくゆきませんでした。
結局はその人にあった指使いということになるかも知れませんが、決め手は「速く弾ける」指使いではなく、「安定した」指使いということだと思います。特にこの変奏は正確な音価で弾き、シンプルなリズム感を出したいところだと思います。
第5変奏
第5変奏の5小節目からは「m-i-a」あるいは「a-i-m」といった運指が考えられ、私もしばらくの間「a-i-m」で弾いていましたが、第4変奏同様、練習では弾けてもステージでは不安定になってしまいます。数年前より譜例のように「m-p-i」に変えましたが、このほうが確かに安定感があります。やはり薬指(アルアイレ奏法の)はいざと言う時には不安定になってしまうのでしょうね。
前半の「m-p」は普通に「m-i」でもよいのですが、後半「p」を使うため慣らしておこうというわけです。この第5変奏も暴走するとコーダが弾けなくなってしまいますからスピードはコントロールする必要があります。
コーダ8小節目
このコーダはこの曲の中で技術的に最も難しく、またここがうまく弾けるかどうかで演奏全体の印象を大きく左右するところです。特に複雑に出来ているわけではないのですが、スピードが上がった時にには右手が不安定になりがちです。コーダ8小節目の最後の3連符の「シーソ」は、普通どちらも①弦で弾き、スラーがかかっています。私もずっと①弦のスラーで弾いていたのですが、いつもここでテンポが詰まり気味になり、音も抜けたりしていました。こここそ練習では全く問題のないところなのですが、ステージで弾くとことごとく「転んで」しまいます、他の個所が絶好調の時でもここだけ上手く行きません。多少音が抜けたりしても、テンポが詰まらなければよいのですが、逆に音は抜けなくてもテンポの方が詰まってしまい、いつも反省材料になります。
というわけで、ここも数年前よりスラーを使わず、譜例のように親指を用いたアルペジオ的な運指にしています。少なくともテンポが詰まり気味になるのは少なくなったと思います。
コーダ16小節目
コーダの最後の方に3連符のスケール(音階)が2回出てきますが、ここも最後の難所ということになるでしょう。小節の最初に和音があって、それからすぐに低音弦からスケールが始まりますが、スケール最初の⑥弦の「ミ」は「i」や「m」では弾けないので「p」にします。このスケールは特に弦が変わるところで空振りなどしやすいので、私の場合譜例のように「a-m-i」の順で弾き、弦の変わり目はすべて「a」で弾いています。この方法はかなり前からやっていますが、これまでステージなどで音を外した記憶はあまりありません(記憶がないだけかも知れませんが)。3連符で出来ているせいかも知れませんが、テンポも安定しています。アルアイレ奏法で弾いています。
最初にも言いましたとおり、この曲に関して語るなら、もっと音楽表現的なことで語るべきなのでしょうが、この場ではミスしないための「ちょっとした工夫」ということで若干の部分を例にとり、話をしました。音楽的な表現などについては、また別な機会にお話しましょう。
「ミス克服法」ということで計8回にわたり書いてきましたが、いかがでしょうか、「ミス」との付き合い方について多少おわかりいただけたでしょうか。繰り返しになりますが、「ミス」は私たちギターを弾く者にとっては、ずっと付き合ってゆかなければならない相手で、どうしても縁が切れないのなら、正しい付き合い方をしてゆかなければなりません。
とりあえず今回でこの「ミス克服法」は終わりということになります。お付き合いくださった方々、ありがとうございました。次は「歌わせる」ということについて話をしようかと思っていますが、来月末くらいから始めたいと思います。
スポンサーサイト