バッハ : リュート=ハープシコードのための作品集
リュート=ハープシコード(ラウテンチェンバロ) : エリザベス・ファー
リュート組曲1~4番他 (BWV995~1000、1006a、964、990)
24日にアコラでのデュオ・コンサートが終わったかと思えば、来月は教室の発表会(8日)、再来月(12月13日)はアルベニスのコンサートと、ちょっと忙しい時期になってしまいましたが(自分のことを忙しいと言う人は「出来る男」ではないそうですが)。最近聴いたCDの中から気になったものを紹介したいと思います。今回紹介するのは、J.S.バッハの「リュート=ハープシコードのための音楽集」です。

リュートの音が出せるチェンバロ
この「リュート=ハープシコード」という楽器については以前「アンナ・マグダレーナ」のところでも話をしましたが、「リュートの音が出せるチェンバロ」で、原語では”Lauten Wercke”(ラウテン・ヴェルク)と言うのだそうです。その現物は残されていないようですが、バッハの遺品の目録中にその楽器が書かれています。因みに”本物”のリュートも遺品として残されました。文献などによれば、この「ラウテン・ヴェルク」は通常のチェンバロ用の弦の代わりにリュート用のガット弦を張り、弦を弾く部分も鳥の羽を使ったものだそうで、要するに演奏の仕方はチェンバロ、音色はリュートといったものだと思います。この楽器が当時どの程度普及していたかはわかりませんが、バッハ自身の考案とも言われています。
バッハの「リュート組曲」は本当にリュートのための作品?
クラシック・ギター愛好者の人でしたら、バッハが4つの組曲を始め、いくつかのリュートのための作品を残していることをご存知だと思います。それらの譜面の多くは単に「pour la Luth」、つまり「リュートのための」とだけ書かれていて、言葉上では”本物”のリュートのための作品となっています。しかし当時のリューテストは演奏の際に五線譜は使わず、弦の番号やフレットの番号を数字や記号などで示した「タブラチュア」を用いていましたが、バッハの自筆譜はすべて鍵盤用の譜面、つまり2段の五線譜で書かれています。おそらく当時のリューテストはバッハの自筆の五線譜を見て、直接演奏は出来なかったと思われます。そこでこれらのバッハの作品のうちいくつかのもの(BWV995、997、1000)は他のリューテストが書いたものと思われるタブラチュアも残されています。
バッハの「リュートのための作品」と言われるものが、本物のリュートのための曲なのか、あるいはこの「ラウテン・ヴェルク」のための曲なのかという議論もありますが、それは厳密に特定することは難しいでしょう。おそらくバッハ自身はそのどちらでもよいと思っていた、もしかしたら故意に曖昧にした可能性もあります。BVW998の場合は「リュート、またはチェンバロのため」と記しています。
リュートを練習するのがたいへんなので?
前述のとおりバッハが生前リュートを所持していたのは確かなようで、どんな楽器も演奏出来たバッハですから、リュートもある程度演奏出来た可能性は十分にあります。しかしこれらの自分の作品を自在に、あるいは知人のヴァイスのように巧みに演奏出来た可能性は少ないと考えるべきでしょう。またタブラチュアを見ながらの演奏出来た可能性はもっと少なかったと考えられます。となればバッハが自身の「リュートのための作品」を演奏するとしたら、このラウテン・ヴェルクを使用したとしか考えられないでしょう。しかしまた他のリューテストがそのバッハの作品をタブラチュアに書き直して演奏出来るようにとも配慮したはずでしょう。
確かにリュートぽいが、クリヤー過ぎ
さて前置きが長くなってしましたが、このCDで使われている楽器は、現物が残されていないので、前述のような文献をもとに復元した楽器が使用されているとのことです。聴いてみると、確かにリュートぽい音にはなっていて、特に低音は本物のリュートの音にかなり近くなっています。その一方ではリュートぽく聴こえない部分もあるわけですが、一つには特に高音や中音域では音がクリヤー過ぎることでしょう。リュートは指で押さえて、指で弾く関係から全体に音が曖昧な感じ、あるいはソフトな感じがあり、爪を使わないのでギターよりもさらにその傾向はあります。またリュートでは多用されるスラー奏法、つまりハンマーリングやプリングが、このラウテン・ウェルクの奏法にはないので、そういったニュアンスはかなり違っています。
リュートの弾き方を意識して
また当然どちらの楽器にしろ実際に演奏する演奏者の力量によってかなり違ってはくるでしょうが、同じ譜面を弾いたらやはり本物のリュートの方が難しく、このCDにあるようなクリヤーに、また正確に弾くのはかなり難しいでしょう。ただスピードに関してはリュートを意識してか、それほど速くは弾いていません。また和音などではアルペジオ風の弾き方を多用したり(チェンバリストもよくやるかな?)、小刻みにテンポを揺らしたりするなど、リュートを意識した弾き方をしているようです。
リュートの方が本家?
このCDの中の曲では、特にBVW995(いわゆるリュート組曲第3番)が最もリュートぽく聴こえる気がします。プレリュードの冒頭の部分など本当にリュートのように聴こえます。ただしばらく聴くとやはりクリヤーに聴こえすぎというか、「このリューテスト、ちょっと上手すぎ」と聴こえてしまいます。この曲はもともとはチェロ組曲第5番からの編曲ですが、私にはチェロで演奏されるよりもリュートで演奏されるほうが自然に聴こえます。なんとなく古風な感じのする曲(昔の曲だから当たり前?)で、近代的な感じのするチェロよりもより古風な感じのリュートのほうがずっとしっくりきます。誰だったか、本当はリュート曲のほうがオリジナルで、チェロのほうが編曲だと言っていた人がいたような?
*パソコンの故障により、当記事が一時的に中途半端な状態でアップされてしまいました。
リュート=ハープシコード(ラウテンチェンバロ) : エリザベス・ファー
リュート組曲1~4番他 (BWV995~1000、1006a、964、990)
24日にアコラでのデュオ・コンサートが終わったかと思えば、来月は教室の発表会(8日)、再来月(12月13日)はアルベニスのコンサートと、ちょっと忙しい時期になってしまいましたが(自分のことを忙しいと言う人は「出来る男」ではないそうですが)。最近聴いたCDの中から気になったものを紹介したいと思います。今回紹介するのは、J.S.バッハの「リュート=ハープシコードのための音楽集」です。

リュートの音が出せるチェンバロ
この「リュート=ハープシコード」という楽器については以前「アンナ・マグダレーナ」のところでも話をしましたが、「リュートの音が出せるチェンバロ」で、原語では”Lauten Wercke”(ラウテン・ヴェルク)と言うのだそうです。その現物は残されていないようですが、バッハの遺品の目録中にその楽器が書かれています。因みに”本物”のリュートも遺品として残されました。文献などによれば、この「ラウテン・ヴェルク」は通常のチェンバロ用の弦の代わりにリュート用のガット弦を張り、弦を弾く部分も鳥の羽を使ったものだそうで、要するに演奏の仕方はチェンバロ、音色はリュートといったものだと思います。この楽器が当時どの程度普及していたかはわかりませんが、バッハ自身の考案とも言われています。
バッハの「リュート組曲」は本当にリュートのための作品?
クラシック・ギター愛好者の人でしたら、バッハが4つの組曲を始め、いくつかのリュートのための作品を残していることをご存知だと思います。それらの譜面の多くは単に「pour la Luth」、つまり「リュートのための」とだけ書かれていて、言葉上では”本物”のリュートのための作品となっています。しかし当時のリューテストは演奏の際に五線譜は使わず、弦の番号やフレットの番号を数字や記号などで示した「タブラチュア」を用いていましたが、バッハの自筆譜はすべて鍵盤用の譜面、つまり2段の五線譜で書かれています。おそらく当時のリューテストはバッハの自筆の五線譜を見て、直接演奏は出来なかったと思われます。そこでこれらのバッハの作品のうちいくつかのもの(BWV995、997、1000)は他のリューテストが書いたものと思われるタブラチュアも残されています。
バッハの「リュートのための作品」と言われるものが、本物のリュートのための曲なのか、あるいはこの「ラウテン・ヴェルク」のための曲なのかという議論もありますが、それは厳密に特定することは難しいでしょう。おそらくバッハ自身はそのどちらでもよいと思っていた、もしかしたら故意に曖昧にした可能性もあります。BVW998の場合は「リュート、またはチェンバロのため」と記しています。
リュートを練習するのがたいへんなので?
前述のとおりバッハが生前リュートを所持していたのは確かなようで、どんな楽器も演奏出来たバッハですから、リュートもある程度演奏出来た可能性は十分にあります。しかしこれらの自分の作品を自在に、あるいは知人のヴァイスのように巧みに演奏出来た可能性は少ないと考えるべきでしょう。またタブラチュアを見ながらの演奏出来た可能性はもっと少なかったと考えられます。となればバッハが自身の「リュートのための作品」を演奏するとしたら、このラウテン・ヴェルクを使用したとしか考えられないでしょう。しかしまた他のリューテストがそのバッハの作品をタブラチュアに書き直して演奏出来るようにとも配慮したはずでしょう。
確かにリュートぽいが、クリヤー過ぎ
さて前置きが長くなってしましたが、このCDで使われている楽器は、現物が残されていないので、前述のような文献をもとに復元した楽器が使用されているとのことです。聴いてみると、確かにリュートぽい音にはなっていて、特に低音は本物のリュートの音にかなり近くなっています。その一方ではリュートぽく聴こえない部分もあるわけですが、一つには特に高音や中音域では音がクリヤー過ぎることでしょう。リュートは指で押さえて、指で弾く関係から全体に音が曖昧な感じ、あるいはソフトな感じがあり、爪を使わないのでギターよりもさらにその傾向はあります。またリュートでは多用されるスラー奏法、つまりハンマーリングやプリングが、このラウテン・ウェルクの奏法にはないので、そういったニュアンスはかなり違っています。
リュートの弾き方を意識して
また当然どちらの楽器にしろ実際に演奏する演奏者の力量によってかなり違ってはくるでしょうが、同じ譜面を弾いたらやはり本物のリュートの方が難しく、このCDにあるようなクリヤーに、また正確に弾くのはかなり難しいでしょう。ただスピードに関してはリュートを意識してか、それほど速くは弾いていません。また和音などではアルペジオ風の弾き方を多用したり(チェンバリストもよくやるかな?)、小刻みにテンポを揺らしたりするなど、リュートを意識した弾き方をしているようです。
リュートの方が本家?
このCDの中の曲では、特にBVW995(いわゆるリュート組曲第3番)が最もリュートぽく聴こえる気がします。プレリュードの冒頭の部分など本当にリュートのように聴こえます。ただしばらく聴くとやはりクリヤーに聴こえすぎというか、「このリューテスト、ちょっと上手すぎ」と聴こえてしまいます。この曲はもともとはチェロ組曲第5番からの編曲ですが、私にはチェロで演奏されるよりもリュートで演奏されるほうが自然に聴こえます。なんとなく古風な感じのする曲(昔の曲だから当たり前?)で、近代的な感じのするチェロよりもより古風な感じのリュートのほうがずっとしっくりきます。誰だったか、本当はリュート曲のほうがオリジナルで、チェロのほうが編曲だと言っていた人がいたような?
*パソコンの故障により、当記事が一時的に中途半端な状態でアップされてしまいました。
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