ヴァイオリン協奏曲第1番は生前に出版
前回の話でパガニーニのヴァイオリン協奏曲は生前には出版されていないように言ってしまいましたが、よく調べてみると「第1番二長調作品6」については1920年、つまりパガニーニの活動の盛期に出版されていて、おそらくこれは海賊版的なものではなく「正規版」と考えられます。確かに他の曲よりオーケストラ・パートも充実しているように思えます(ロッシーニ風と言うべきか)。
リストの「カンパネラ」で有名な「第2番ロ短調作品7」は没後の1851年に出版され、他の曲は20世紀になってから発見されたり、出版されたりしています。これらの中には他の音楽家が採譜したものも含まれるようですが、どの曲がそうなのか、あるいはパガニーニの自筆譜があるものがあるのかなどは手元の資料ではわかりません。
前回は余計な話が多くて曲目の紹介をし忘れてしまいましたが、このアルバムに収められている曲は次のとおりです。
CD1-CD3
・チェントーネ・ディ・ソナタ集(18曲) MS.112
・カンタービレ ニ長調 MS.109
CD4-CD5
・6つのソナタ MS.9
・6つのソナタ MS.10
・6つのソナタ MS.11
・6つのソナタ MS.12
・6つのソナタ MS.13
CD6
・6つのルッカ・ソナタ Op.3 MS.133
・6つのルッカ・ソナタ Op.8 MS.134
・デュエット・アモローゾ MS.111
CD7
・アドニスの入場 MS.8
・6つのソナタ集 Op.2(Op.9) MS.26
・6つのソナタ集 Op.3(Op.10) MS.27
・アレグロ・ヴィヴァーチェ MS.72
CD8
・ソナタ・コンチェルタータ MS.2
・カンタービレとワルツMS.45
・ジェノヴァの歌「バルカバ」による60の変奏曲 Op.14,MS..71
CD9
・6つの二重奏曲集 MS.110
・変奏を伴ったカルマニョーラ MS.1
・グランド・ソナタ MS.3
上記の曲目リストのとおり曲数はたくさんあります。「ソナタ」とされている曲はほとんど、「ゆっくり=速い」の2楽章の形になっていて、確かによく似ています。なお「MS」はパガニーニの作品の整理番号と思われますが、詳しくはわかりません。
「ヴァイオリンとギター」ではなく「ギターとヴァイオリン」
これらの曲の中で、特徴的な曲としては前にも触れたCD9の「ギターとヴァイオリンのためのグランド・ソナタ MS.3 」で、一般常識を破り、ギターが主で、ヴァイオリンがごく控えめに伴奏をします。実質上ギター独奏曲とも言え、ヴァイオリン・パートはなくても演奏できますし、またギター・ソロにヴァイオリンの音を取り入れて演奏することも出来ます。オリジナルの形では、どうしてもヴァイオリンの音が大きくなってしまい、むしろ完全なギター・ソロのほうが自然な感じになるように思います。3楽章形式で、譜面どおりに演奏すると20分を越え、パガニーニの作曲したギターのための作品としては最も充実した作品と言えます。
対等な関係
次にはCD8の「ソナタ・コンチェルタータ MS.2 」で、これはヴァイオリンとギターを対等に扱っていて、ヴァイオリンにもギターにも聴かせどころがあります。グランド・ソナタ同様3楽章形式の曲で、演奏時間は15分前後と、程よい長さになっており、CDやコンサートでもたいへんよく取り上げられます。余談ですが、伝説のギター・デュオと言われるプレスティ&ラゴヤが、かつてギター二重奏でも演奏していました。ラゴヤは夫人のプレスティの死後フルーティストのピエール・ランパルとも演奏していて、ラゴヤにとっては想い出の曲なのかも知れません。
初見でも弾けそうだが
CD1の「カンタービレ二長調」は一般にも親しまれている美しい小品で、ピアノ伴奏でも演奏され、そうした譜面も出ていますが、ギター伴奏のほうがオリジナルのようです。この曲のギター譜は本当に和音を添えるだけのものになっていて、一見初見でも弾けそうなくらいなのですが、自由に歌うヴァイオリンに合わせるのは決してやさしくはなく、やはり相応の能力は必要です。因みに1昨年の私のリサイタルでは、私自身のソロ・アレンジで演奏しました。
作品番号が二つ?
他によく演奏される曲としてはCD7の「作品2(作品9) MS.26 」と「作品3(作品10) MS.27 」の2組の「6つのソナタ」がありますが、作品番号がそれぞれ2つずつ書かれているのは、別々の出版社により、別々の時期、場所で出版されたのでしょう。詳しくはわかりませんが、作品番号からするとパガニーニの生前に出版された可能性もあるかも知れません。これらの曲も比較的よく演奏され、今日でもCDやコンサートでよく取り上げられます。マヌエル・バルエコもギター・ソロに編曲して演奏しており、私も前述のリサイタルでOp.3-6(MS27)をソロに編曲して演奏しました。
ほどよいバランス
このアルバムの演奏については詳しいことはわかりませんが、ヴァイオリンはどちらかといえば、過剰なヴィヴラートなどはなく、すっきりした清楚な感じがします。音程については正確なところはわかりませんが、私にとってはとても自然で、違和感のないものになっています。ギターの方は最近流行のオリジナル系の楽器ではなく、現代の楽器だと思いますが、重厚な音質でしっかりとヴァイオリンを支えています。
音量のバランスはリアルなバランスよりは若干ギターの音量を大きくしてあるように思いますが、前に紹介したパールマンとウィリアムスのものほどではありません。またナクソスからも同種のCD(4~5枚)が出ていますが、こちらはほとんどリアルなバランスなのでギターの音が聞き取りにくくなっています。このアルバムでは、確かにリアルではないと言えるかも知れませんが、CDとしてはとても聴きやすいバランスにしてあります。特に前述の「ソナタ・コンチェルタータ」などはとてもよいバランスになっています。
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