譜例 10

「譜例10」はナポレオン・コストのト短調の練習曲です。ギターではこのフラット2つのト短調は弾きにくいので練習曲などは非常に少なく、比較的やさしいものとしては唯一この曲くらいかも知れません。この曲はそういったギターでは珍しい調を用いているので、短い曲ですが独特の響きがしてなかなか印象的です。コストはソルの後継者といった人で、ソル同様にはっきり声部分けした楽譜の書き方をします。
低音だけ長い音符で書き、和音であることを暗示する
最初の小節を見ると、最初の音(⑥弦のソ)は付点4分音符で書かれていて、その小節の半分まで音を保持するように書いてあります。次の「シ♭」は形の上では8分音符で書かれていますが、前後関係を考えると、弾いてすぐには放さず、次の「レ」まで保持する、つまり「4分音符」と考えないといけません。その結果として、3音目の「レ」を弾いた段階で「ソ、シ♭、レ」の和音が響くようにします。確かに譜面上では長く伸ばすのは最初の「ソ」だけですが、次の「シ♭」も長い音符で書くと楽譜が煩雑になってしまうので8分音符で書いてあると考えるとよいでしょう。実際に本当に譜面どおりに「ソ」を付点4分音符で弾いて、「シ♭」を8分音符で弾くほうがかえって弾きにくいと思います。
一人二役
2小節目など他の小節も同様ですが、この曲は譜面上ではほぼ単旋律の曲となっていますが、メロディが同時に和音にもなっていて、一つずつ音を弾きながらも和音とメロディがどちらも聴こえるようになっています。ギターではピアノなどと違い、同時にたくさんの音を弾くのは難しいので、一つの音にメロディと和音と両方の役割を持たせることがよくあります。仮に楽譜上ではそれが旋律か和音かということがはっきり書いていなかったとしても、その役割を譜面上から判断して演奏しなければならないでしょう。
譜例 11

「譜例11」は私がアレンジした「愛の賛歌」ですが、初級の教材なので伴奏の音はかなり少なくなっています。1小節目(最初の不完全小節を除いた)も伴奏、つまり和音としては2拍目の「ド、ミ」しかありませんが、後半のメロディの「ミ、ソ#、シ、レ」はちょうど「E7」のコードになっていて弾いた音を残してゆくと実際はメロディしか弾いていなくても、和音が聴こえるようになっています。3小節目の後半の「ファ、ラ、ド、ミ」も同様で、こちらは「Fメジャー7」になっていて、指的にも押さえたまま(順番に押さえてゆくが、押さえたら4つの音を弾き終えるまで放さない)のほうがかえって弾きやすくなります。こうした部分がコードとして聴こえるかどうかで、この曲もだいぶ違って聴こえると思います。もっともメロディ自体をレガート弾くことも大切です。
譜例 12

「譜例12」はカルリの「アンダンテ」で、以前にも例として用いました。初級の教材としてよく用いられる曲です。この譜面もオリジナルの譜面がないので、カルリが実際に書いた譜面がこのとおりなのかどうかはよくわかりません。前回の曲同様低音は、はっきりと長さが示されていなくて、上声部と「棒」て繋がっているだけかも知れませんが、普通私たちが見るのはこのような譜面です。因みにこの譜面は全音出版の「フェルナンド・カルリ 45の練習曲集 人見徹編」から写したもので、強弱記号などは省いています(これも、もともとあったかどうかは、わかりません)。
休符=消音ではない
ちょっと気になるのは7小節目(最初の不完全小節は数えない)で、低音の「レ」と「ミ」がそれぞれ4分音符になっていて、その後に4分休符が付いています。前述のとおり、もともとこのように書かれていたかどうかは、はっきりしません。もしこれを楽譜どおりに弾くとすると、下がってくる音階の3つ目の「ミ」を弾く時に、同時に低音を親指で消音しなければならず、これは初級者としては難しい技術になると思います。カルリがそのようなことを要求するとは考えられず(初級者に”やさしい”のがカルリの特徴ですから)、ここは実質上2分音符と扱ってよい、つまり消音の必要はないと思います。その2つの音符(低音の「レ」と「ミ」)が2拍ずつ伸びたとしても、特に問題になるようなことはありません、むしろそう弾くべきでしょう。
普通に初級者(ギターを始めて1~3年程度の)が弾いたら、あえて消音したりはしないでしょうが、上級者、あるいは潔癖症的な人がこの曲を弾いたりする時、この「消音」に強くこだわる人もいます。しかし諸状況を考えると消音の必要などありません、つまり「休符=消音」ではないのです。もし低音の消音が得意な人でしたら、3小節目から4小節目にかけてなどの、低音が⑥弦の「ミ」から⑤弦の「ラ」に変わるところを消音したらよいでしょう、確かに⑤と⑥弦が同時になってしまったりすると多少不快な音になります。もちろん初級者の場合はその限りではありません。
なぜここだけ低音が先?
話がちょっと変わりますが、この曲の場合1小節目のように、低音は拍の裏側、つまり3度の和音の後に出てきます。ほとんどの小節がそうなっていますが、15小節目のところだけ、なぜか低音が先に、つまり拍の表に出てきます。またまたですが、なぜだと思いますか?
当然何か理由があると思います。少し先を見るとなんとなくわかると思いますが、次の小節の4分休符にはにはフェルマータが付き、曲は一時停止となります。そして15小節目の4拍目の低音にはシャープが付いています。この曲(の前半)の低音はここ以外シャープなど全くなく、開放弦でないのもここだけとなっています。いろいろ見ると、ここが特別なところだということがわかると思います。音楽用語的に言うと、ここは属和音で終わる「半終止」というところで、一応終わったような感じにはなるのですが、本当の終わりと違ってちょっと落ちつかない終わり方をします。
ねこ? たぬき? でもよかった轢かなくて
また変な例えで申し訳ありませんが、車に例えると、24小節目のような本当の終わりは、家のガレージに車を止めるような感じと言えるでしょうか。家の少し前から減速して、いつものように静かに止まる感じです。それに対してここの終わり方は広い道路を快調に走っていて、急に何かが飛び出してきたので、急いでブレーキを踏んだ、そんな感じでしょうか。でも早めの判断とブレーキにより、なんとか飛び出してきたその小動物を無事やり過ごすことができたので、何事もなくまた発進した・・・・ といった感じだと思います。つまり自然に減速するのではなく、思いっきり足に力を入れてブレーキを踏んで止まる、と言う感じです。車の場合踏ん張るのはブレーキを踏む足ですが、この曲の場合は低音となります。15小節目の4つの低音にはしっかりと力を入れて踏ん張らないといけないのですが、特に4拍目の「レ#」には力を入れます。ここは裏拍の「ラ」、「ド」と合わせて「減7」という緊張感のある和音にもなるからです。
拍の裏表がひっくり返ってしまう
もう低音を拍の表にした理由がおわかりと思いますが、もし低音は他と同じ裏拍だったら踏ん張ることが出来ません、仮に裏拍のまま強く弾けば拍の裏表がひっくり返って聴こえてしまいます。といったように、若干音楽用語的に言えば、「ここは減7の和音を経て、半終止となるので、その前のところより音量が必要となる。特に低音を強く弾く必要があるので、それまで裏拍だった低音を表拍に変えた」 ということになるでしょうか。因みに、16小節目の休符に付いったフェルマータは、「この休符を通常より長くする」と考えるよりも、「ここで曲が一時停止する」と考えたほうがようと思います。
最も大事なことは
以上のような話をしておきながら、何ですが、この練習曲を練習するにあたって、最も大事なことは、低音の消音でも、半終止の仕方でもなく、ごく基本的なことの、非常に単純な反復練習にあると言えます。譜面上同じような音形がたくさん続き、さらにリピート・マークやダ・カーポなどが付いているのは、なるべくたくさん反復練習をするようにといった意味に考えられると思います。アル・アイレ奏法(カルリの時代にはアル・アイレ奏法しかなかったと思いますが)による音階、imによる3度の練習、さらに低音の付いた音階練習などですが、初級者にとっては音階を美しい音でクリヤーに、さらにレガートに弾くのは決して簡単なことではありません。また3度の和音となるとさらに音が貧弱になったり、2つの音がそろって聴こえなかったりします。やはり大事なのはそうしたことで、一見この曲を簡単に弾けると思っている中級者や上級者と言えど、それらがクリヤー出来ているとは限りません。この練習曲の本当の狙いはその辺にあるといえるでしょう、少なくとも私はそのような考えでこの曲をレッスンに用いています。

「譜例10」はナポレオン・コストのト短調の練習曲です。ギターではこのフラット2つのト短調は弾きにくいので練習曲などは非常に少なく、比較的やさしいものとしては唯一この曲くらいかも知れません。この曲はそういったギターでは珍しい調を用いているので、短い曲ですが独特の響きがしてなかなか印象的です。コストはソルの後継者といった人で、ソル同様にはっきり声部分けした楽譜の書き方をします。
低音だけ長い音符で書き、和音であることを暗示する
最初の小節を見ると、最初の音(⑥弦のソ)は付点4分音符で書かれていて、その小節の半分まで音を保持するように書いてあります。次の「シ♭」は形の上では8分音符で書かれていますが、前後関係を考えると、弾いてすぐには放さず、次の「レ」まで保持する、つまり「4分音符」と考えないといけません。その結果として、3音目の「レ」を弾いた段階で「ソ、シ♭、レ」の和音が響くようにします。確かに譜面上では長く伸ばすのは最初の「ソ」だけですが、次の「シ♭」も長い音符で書くと楽譜が煩雑になってしまうので8分音符で書いてあると考えるとよいでしょう。実際に本当に譜面どおりに「ソ」を付点4分音符で弾いて、「シ♭」を8分音符で弾くほうがかえって弾きにくいと思います。
一人二役
2小節目など他の小節も同様ですが、この曲は譜面上ではほぼ単旋律の曲となっていますが、メロディが同時に和音にもなっていて、一つずつ音を弾きながらも和音とメロディがどちらも聴こえるようになっています。ギターではピアノなどと違い、同時にたくさんの音を弾くのは難しいので、一つの音にメロディと和音と両方の役割を持たせることがよくあります。仮に楽譜上ではそれが旋律か和音かということがはっきり書いていなかったとしても、その役割を譜面上から判断して演奏しなければならないでしょう。
譜例 11

「譜例11」は私がアレンジした「愛の賛歌」ですが、初級の教材なので伴奏の音はかなり少なくなっています。1小節目(最初の不完全小節を除いた)も伴奏、つまり和音としては2拍目の「ド、ミ」しかありませんが、後半のメロディの「ミ、ソ#、シ、レ」はちょうど「E7」のコードになっていて弾いた音を残してゆくと実際はメロディしか弾いていなくても、和音が聴こえるようになっています。3小節目の後半の「ファ、ラ、ド、ミ」も同様で、こちらは「Fメジャー7」になっていて、指的にも押さえたまま(順番に押さえてゆくが、押さえたら4つの音を弾き終えるまで放さない)のほうがかえって弾きやすくなります。こうした部分がコードとして聴こえるかどうかで、この曲もだいぶ違って聴こえると思います。もっともメロディ自体をレガート弾くことも大切です。
譜例 12

「譜例12」はカルリの「アンダンテ」で、以前にも例として用いました。初級の教材としてよく用いられる曲です。この譜面もオリジナルの譜面がないので、カルリが実際に書いた譜面がこのとおりなのかどうかはよくわかりません。前回の曲同様低音は、はっきりと長さが示されていなくて、上声部と「棒」て繋がっているだけかも知れませんが、普通私たちが見るのはこのような譜面です。因みにこの譜面は全音出版の「フェルナンド・カルリ 45の練習曲集 人見徹編」から写したもので、強弱記号などは省いています(これも、もともとあったかどうかは、わかりません)。
休符=消音ではない
ちょっと気になるのは7小節目(最初の不完全小節は数えない)で、低音の「レ」と「ミ」がそれぞれ4分音符になっていて、その後に4分休符が付いています。前述のとおり、もともとこのように書かれていたかどうかは、はっきりしません。もしこれを楽譜どおりに弾くとすると、下がってくる音階の3つ目の「ミ」を弾く時に、同時に低音を親指で消音しなければならず、これは初級者としては難しい技術になると思います。カルリがそのようなことを要求するとは考えられず(初級者に”やさしい”のがカルリの特徴ですから)、ここは実質上2分音符と扱ってよい、つまり消音の必要はないと思います。その2つの音符(低音の「レ」と「ミ」)が2拍ずつ伸びたとしても、特に問題になるようなことはありません、むしろそう弾くべきでしょう。
普通に初級者(ギターを始めて1~3年程度の)が弾いたら、あえて消音したりはしないでしょうが、上級者、あるいは潔癖症的な人がこの曲を弾いたりする時、この「消音」に強くこだわる人もいます。しかし諸状況を考えると消音の必要などありません、つまり「休符=消音」ではないのです。もし低音の消音が得意な人でしたら、3小節目から4小節目にかけてなどの、低音が⑥弦の「ミ」から⑤弦の「ラ」に変わるところを消音したらよいでしょう、確かに⑤と⑥弦が同時になってしまったりすると多少不快な音になります。もちろん初級者の場合はその限りではありません。
なぜここだけ低音が先?
話がちょっと変わりますが、この曲の場合1小節目のように、低音は拍の裏側、つまり3度の和音の後に出てきます。ほとんどの小節がそうなっていますが、15小節目のところだけ、なぜか低音が先に、つまり拍の表に出てきます。またまたですが、なぜだと思いますか?
当然何か理由があると思います。少し先を見るとなんとなくわかると思いますが、次の小節の4分休符にはにはフェルマータが付き、曲は一時停止となります。そして15小節目の4拍目の低音にはシャープが付いています。この曲(の前半)の低音はここ以外シャープなど全くなく、開放弦でないのもここだけとなっています。いろいろ見ると、ここが特別なところだということがわかると思います。音楽用語的に言うと、ここは属和音で終わる「半終止」というところで、一応終わったような感じにはなるのですが、本当の終わりと違ってちょっと落ちつかない終わり方をします。
ねこ? たぬき? でもよかった轢かなくて
また変な例えで申し訳ありませんが、車に例えると、24小節目のような本当の終わりは、家のガレージに車を止めるような感じと言えるでしょうか。家の少し前から減速して、いつものように静かに止まる感じです。それに対してここの終わり方は広い道路を快調に走っていて、急に何かが飛び出してきたので、急いでブレーキを踏んだ、そんな感じでしょうか。でも早めの判断とブレーキにより、なんとか飛び出してきたその小動物を無事やり過ごすことができたので、何事もなくまた発進した・・・・ といった感じだと思います。つまり自然に減速するのではなく、思いっきり足に力を入れてブレーキを踏んで止まる、と言う感じです。車の場合踏ん張るのはブレーキを踏む足ですが、この曲の場合は低音となります。15小節目の4つの低音にはしっかりと力を入れて踏ん張らないといけないのですが、特に4拍目の「レ#」には力を入れます。ここは裏拍の「ラ」、「ド」と合わせて「減7」という緊張感のある和音にもなるからです。
拍の裏表がひっくり返ってしまう
もう低音を拍の表にした理由がおわかりと思いますが、もし低音は他と同じ裏拍だったら踏ん張ることが出来ません、仮に裏拍のまま強く弾けば拍の裏表がひっくり返って聴こえてしまいます。といったように、若干音楽用語的に言えば、「ここは減7の和音を経て、半終止となるので、その前のところより音量が必要となる。特に低音を強く弾く必要があるので、それまで裏拍だった低音を表拍に変えた」 ということになるでしょうか。因みに、16小節目の休符に付いったフェルマータは、「この休符を通常より長くする」と考えるよりも、「ここで曲が一時停止する」と考えたほうがようと思います。
最も大事なことは
以上のような話をしておきながら、何ですが、この練習曲を練習するにあたって、最も大事なことは、低音の消音でも、半終止の仕方でもなく、ごく基本的なことの、非常に単純な反復練習にあると言えます。譜面上同じような音形がたくさん続き、さらにリピート・マークやダ・カーポなどが付いているのは、なるべくたくさん反復練習をするようにといった意味に考えられると思います。アル・アイレ奏法(カルリの時代にはアル・アイレ奏法しかなかったと思いますが)による音階、imによる3度の練習、さらに低音の付いた音階練習などですが、初級者にとっては音階を美しい音でクリヤーに、さらにレガートに弾くのは決して簡単なことではありません。また3度の和音となるとさらに音が貧弱になったり、2つの音がそろって聴こえなかったりします。やはり大事なのはそうしたことで、一見この曲を簡単に弾けると思っている中級者や上級者と言えど、それらがクリヤー出来ているとは限りません。この練習曲の本当の狙いはその辺にあるといえるでしょう、少なくとも私はそのような考えでこの曲をレッスンに用いています。
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