
12個の半音が出揃う
譜面の方をもう少し詳しく見て行きます(もう一度楽譜の方を載せておきます)。冒頭の2小節をよく見ると、12個の半音がきっちりと重複なしに出揃います。シェーンヴェルクの「12音技法」では、まずこのように12個半音をすべて用いた(重複なしに)音列=セリーを提示し、その後は、それを反転させたり、拡大、縮小させたり、移調したりなどして組み合わせてて曲を構成してゆきます。
無調ではあるが12音技法ではない
確かにこの曲の冒頭では、12音技法と同様に12個の半音を提示しているのですが、その後は12音技法的な方法はとっていません。無調ではありますが、12音技法の曲ではありません。そういった意味では「折衷的」と言えるのかも知れません。
無調であっても主音はある
この楽章では、最初と最後は同じ和音(厳密な意味で”和音”と言えるかどうかはわかりませんが)になっています。無調とは言っても12個の半音をすべて対等に扱っているわけではなく、「ミ」の音には”主音”的な役割が与えられています。これは第4楽章の最後の低音も「ミ」になっていて、これは全楽章を通じて言えるようです。
特にこの楽章では、最後の和音の直前の和音(下から2段目)の低音は「シ」になっていて(ほとんど属和音)、古典的な主音、属音、つまり5度関係が成り立っています。この曲は無調で、12音技法的な要素もありますが、同時に完全に古典的な要素を排除したものではないようです。
ソ#は和音らしさ? 人間味?
もちろん一般的な協和音的な響きは避けられていて、例えば最初の和音(ミ、ソ#、ファ、シ♭)では、ミ-シ♭、ミ-ファと減5度、短2度といった不協和音程が組み合わされています。一方、ソ#はミに対して長3度で、古典的な協和音程になり、こうした無調の曲には合わないような気がしますが、和音らしさを出すためにあえて付け加えているのでしょう。空虚な不協和音程だけでは音楽にならないと考えたのでしょうか、確かにこの音があるために、不協和音ながら、ちょっと温かみというか、人間ぽさみたのが感じられます。
でもやはり覚えにくい
とはいっても、このような無調的な曲だと、やはり音程関係は聴き取りにくい(私を含め、大部分の人はそうなのではないかと思います)。またこの楽章は、様々の長さの音符で書かれ、一定の”刻み”が感じにくいようになっています。結果的に聴く側の人も、普通の曲のようにメロディとか、リズムとかで音楽を感じ取りにくくなっています。
1音1音の響きは古典的な曲より重要
つまり聴く側にとっては音どうしの関連性が感じ取りにくく、1音1音がばらばらな感じに近くなります。別な言い方をすれば1音1音の独立性や、存在感が高いとも言えます。ということは1音1音の、音色、強弱など、音程やリズム以外の要素がたいへん重要になり、一般的な曲に比べれば、いっそう演奏者の音色や音量の幅、あるいはそれらをコントロールする感性などが要求されことになるでしょう。
確かに細かい書き込みの多い曲ですが、実際にどのような音色、音響を作り出すかは、演奏者次第ということになります。今までの話と若干矛盾するかも知れませんが、いかに精密に楽譜が書かれようと、楽譜はあくまで楽譜で、最後はやはり演奏者の感性で音楽が出来上がるのでしょう。いくら作曲者といえど、演奏会場まで出かけていって、NGを出すわけにもいかないでしょうから。
速い楽章はなかなか面白い
もっとも第2、第4楽章はほぼ一定の長さの音符(16分音符)で書かれ、軽快に進みます。また同じ音形が繰り返されたりして、最初の楽章に比べるとかなり聴きやすくなっています。特に最後の楽章は結構”ノリ”がよく、また盛り上がりように出来ています。
12音技法はクラシック音楽の究極の進化形?
最近はこのような無調や12音技法の曲といのはあまり聴かれなくなったような気がします。こうした曲はやり人間の感受性とは相容れない部分もあるのかも知れません。私が音楽を始めた頃は、「12音技法こそが古典的な音楽の進化した形」と言われ、「いま時、古典的、あるいはロマン派的技法で作曲する人は作曲家にあらず」などと思われていました。
当時の考えでは、21世紀のクラシック音楽界では12音技法の曲が圧倒的に主流となり、それはポピュラー音楽まで浸透し、ひょっとしたらアイドル歌手までが無調で歌うようになる、なんて思われていました(私が思っていただけ?)。もちろん現実はAKBが無調で歌うこともなく、クラシックの演奏会も相変わらずモーツアルトやベートーヴェンが主流で、相変わらずストラヴィンスキーやバルトークは「ゲンダイ音楽」とされ、一般の音楽ファンからは敬遠され・・・・
過ぎ去った20世紀へのオマージュ
無調や12音技法、あるいは現代音楽そのものも、もしかしたら20世紀独特の一つの現象なのかも知れません、アルス・ノヴァ(新芸術)が14世紀の音楽現象を指すように。この「黄金のポリフェーモ」は、ギリシャ神話からインスパイアーされて作曲したもではありますが、過ぎ去った20世紀へのオマージュとして聴いていただければ、と思います。
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