中村俊三 ブログ

中村ギター教室内のレッスン内容や、イベント、また、音楽の雑学などを書いていきます。

フローリアン・ラルース GFA優勝 現在22歳

 新進演奏家リサイタル・シリーズの2回目は、2009年の9月に録音された、フランス生まれのフローリアン・ラルースのCDです。このギタリストは1988年生まれとなっていますから、現在22歳、録音時には21歳ということになります(誕生日の関係で若干異なるかも知れませんが)。2009年に Guitar Foundation of America Competition で優勝しており、パリ・コンセルバトワールでローラン・ディアンスなどに師事しています。


    新進演奏家 001

ダウランド : ファンシー、涙のパヴァーン、ファンタジア
レゴンディ : 序奏とカプリッチョ
アントニオ・ホセ : ソナタ
ダンジェロ : リディア調の二つの歌
コスト : ル・デパル~劇的幻想曲Op.31


音が美しい

 このCDを聴いてまず最初に感じるのは、その音の美しさ。確かにこのシリーズのギタリストは皆美しい音をもっているのですが、でもこのギタリストの音は一際美しく感じます。しかし何といってもCDなので、音色などについてはあまりはっきりしたことは言えませんが、でもやはり印象的な音です。音色が美しいというより、とても繊細で、センシシブな演奏、あるいは響きの美しさを持ったギタリストと言えるかも知れません。



2フレット・カポが主流?

 最初のダウランドは2フレットにカポタストを使用しての演奏のようで、最近ではダウランドの曲はこのように演奏されるのが主流なのでしょう(パリ・コンセルバトワールの指導方針?)。他にもすばらしい点はいろいろあるとは思うのですが、やはりその響きの美しさに目が(耳が)行ってしまいます。



なまめかしい

 レゴンディの「序奏とカプリッチョ」は最近比較的よく演奏される曲ですが、いわゆるヴィルトーゾ的な曲で、ギタリストによっては勢いにまかせたような演奏になることもありますが、このラルースではやはり美しく演奏しています。技巧的な「カプリッチョ」のほうでも華やかさというより”なまめかしさ”が感じられます。



スペイン内乱の犠牲者

 アントニオ・ホセの「ソナタ」も最近よく演奏される曲で、このシリーズでも少なくとも3人のギタリストがこの曲を録音しています。アントニオ・ホセは1902年生まれのスペインの作曲家で、この「ソナタ」は1933年に作曲されています。ホセは1936年にスペイン内乱の戦禍で若くして亡くなったそうです。

 この曲は終楽章など、確かにスペイン的なところはあるのですが、この演奏で聴くと、独特の響きの美しさを持った曲に感じられます。そう感じるのもこのギタリストの感受性によるものでしょうか。

 しかしこのギタリストは感覚的にのみ演奏しているわけではなく、それぞれの音のタイミング、音量、音質などをしっかりとコントロールした上で、あるいは計算した上でで発音しているようにも感じます。私がこれまで聴いたこの曲の演奏の中では最良のものと感じました。



このギタリストにもっともよく合う美しい曲

 Nuccio D'Angerlo の「リディア調の二つの歌」も響きの美しい曲で、これこそこのギタリストに最もよく合う曲だと思います。リディア調とは長音階の第4音、つまり「ファ」を主音とした教会旋法で、この曲はいわゆる現代的な和声の曲ですが、教会旋法を用いているせいか、どこか懐かしいような感じもします。2曲目のほうは動きも活発になり、よりシャープな響きの曲になっています。


コストらしく

 最後はコストの「ル・デパル」で、「劇的幻想曲」となっていますが、特に激しいとか情熱的といった感じではなく、いつものコストの感じ、つまり日常的というか、親しみやすさのほうが感じとれます。この曲も美しく演奏しているのは言うまでもありません。



魅力的なギタリスト、ただそれだけ

 このCDを聴いていると、まず何といっても、どの曲もすばらしい曲に聴こえてくると言うことが出来ます。そのことはこのギタリストの能力の高さを証明しているのでしょうが、でもこのギタリストについて語る言葉としては ”とても魅力的なギタリスト”・・・・ ただそれだけでよいかも知れません。
 

  
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ナクソス : 新進演奏家シリーズ

 ナクソスというレーヴェルについては皆さんもご存知と思いますが、低価格で様々なジャンルの貴重なCDを多数市場に出しています。ギターのほうでも作曲家やジャンルごとに価値あるCDを多数出していますが、その中に「新進演奏家シリーズ(Laureate Series)」と言うのがあり、国際コンクールなどで優勝した、世界中の優れたギタリストを紹介しています。

 このシリーズは1990年代から続いていて、ネットで検索すると、少なくとも30枚以上は発売されているようです。もちろんその全部は購入していませんが、比較的最近発売されたものを中心に紹介して行こうと思います。それぞれ世界各地の著名な国際コンクールの優勝者ということもあって、どのギタリストもたいへんレヴェルが高いのはいうまでもありません。

 このシリーズにはヨーロッパやアメリカなど世界各地の出身ギタリストが名を連ねていますが、残念ながら邦人ギタリストは一人もいません。最近著名な国際ギター・コンクールで優勝したギタリストがいないということでしょうか。



クラシック・ギターの今が見えてくる

 しかしこうしたギタリストの特徴や実力、そのギタリストの音色や微妙な表現力などを知るにはCDではなく、生でリサイタルを聴く方がずっとよいかも知れません。現代のようにどんなに録音技術が上がっても、いや上がればあがるほど、むしろその音楽家の本当の音楽を捉えるのはかえって難しくなるでしょう。

 でもその一方、CDにはそのギタリスト(あるいは録音スタッフ)の、一つの理想像が記録されているはずですから、CDから聴こえてくる音楽もやはりそのギタリストの一つの音楽だろうと考えられます。そうしたことも踏まえつつ、ここではあくまでも「CDで聴いた印象」ということで、各ギタリストを紹介してゆこうと思います。

 またこうした若いギタリストの演奏を聴くと、最近どのような曲がどのように演奏されているのか、さらに世界中でどのようにギター演奏の教育がなされているのかなど、クラシック・ギターの”今”が見えてくるのではと思います。



    新進演奏家
          オンドラス・チャキ


J.S.バッハ : パルティータホ長調 BWV1006b (リュート組曲第4番)
ベンジャミン・ブリテン : ノクターナル
ジョン・デュアート : カタルーニャ民謡による変奏曲
M.C.テデスコ : ソナタ「ボッケリーニ賛歌」



2009年 ミハエル・ピッタルーガ国際ギター・コンクール、  2008年 東京国際ギター・コンクール優勝

 さて、最初に紹介するCDはこのシリーズで最も新しいもので、今年の4月に録音された、オンドラス・チャキのCDです。このギタリストは1981年にハンガリーで生まれたギタリストで2009年にイタリアのアレッサンドロ市で行われた「ミハエル・ピッタルーガ国際ギター・コンクール」で優勝しています。私事になりますが(ブログは基本的に私事ですが)このコンクールは、2000年に創(長男)が3位に入賞したコンクールなので、若干親近感があります。また山下和仁さんや鈴木大介さんも確か優勝していたと思います。このコンクールの本選では協奏曲を演奏し、創もこのコンクールで初めてアランフェス協奏曲を全曲、フル・オーケストラで演奏しました(最初で最後?)。

 また2008年の東京国際ギター・コンクールでも優勝しており、その時の様子や、インタビューは現代ギター誌にも乗っています(2009年2月号)。なお、このギタリストの名前は、このCDのオビでは「アンドラーシュ」と表記されていますが、この現代ギター誌のインタビュー記事では、母国語では上記のとおり「オンドラス」という発音のほうが近いそうなので、ここでもそのように表記しました。


コーノ・ファン?

 このギタリストはインタビューでも言っているとおり、「コーノ」ギターを愛用しており、現在3本コーノを持っているそうです(正確にはSakurai-kohno)。ただし3本ともコンクールの賞品とのことです。



速すぎず、遅すぎず

 このCDに収められた曲目は上記のとおりですが、このシリーズの多くのギタリストがバッハの組曲を録音していますが、その中でもこの「パルティータ ホ長調」は好んで取り上げられているようです。自らの演奏能力をアピールできる曲と考えられているのでしょう。他にバッハの曲としては無伴奏ヴァイオリン・ソナタ第2番、第3番などが人気が高いようです。

 このギタリストの特徴として、このバッハの曲に限りませんが、非常に適切なテンポで演奏しているという点があります。このパルティータのプレリュードは、4:07で演奏されていて、一般的にギターで弾くテンポとしては決して遅い方ではありませんが、また速すぎるとも感じません。要するに速すぎるとも、遅すぎるとも感じない速さと言えます。そのことはブリテンやテデスコの曲にも言えます。



さっぱりしょうゆ味?

 演奏技術が高く、流麗な演奏になっていることは、あえて言うまでもありませんが、装飾音などは楽譜にある以外はほとんど付けていません。音色ももちろん美しいものですが、どちらかと言えば、「こってり系」よりも「さっぱり系」といった感じです。

 ここで演奏されている曲は、それぞれ難曲として知られていますが、このCDを聴く感じではそうしたことはほとんど感じられません、ブリテンやテデスコの曲では各声部がよく整理されて演奏されているので、ごちゃごちゃ感がなく、自然に聴けます。音量などに関しても適切に変化させていて、曲の構造がよくわかるようになっています。

 またテデスコの終楽章の「ヴィヴォ・エ・エネルジコ」は異常な速さで演奏されることが多いのですが、前述のとおり”常識を逸することのない速さ”(特に遅いわけではない)で演奏しています。

 「カタルーニャ民謡による変奏曲」は有名なリョベートの「盗賊の歌」をテーマにしたものです。演奏者のチャキはもちろんよくメロディを歌っているのですが、テンポの収縮などは控えめに演奏しています。


逸脱することなく

 このオンドラス・チャキの演奏の印象をまとめると、まず、たいへん高いレヴェルで常識をわきまえた、つまり伝統的な音楽語法をしっかりと学んだ上での演奏と感じることです。前述のとおり、テンポや音量の変化、フレージングなどもたいへん適切な処理をしています。

 まだ20代のギタリストですから、今後まだまだ変ってゆく可能性はあると思いますが、ただこうした傾向のギタリストは今後それほど大きく変ることは少ないようにも思います。つまり今の時点でもある程度完成された感があるということです。ただし最初の話のとおり、生演奏とCDではかなり異なる可能性はありますが・・・・
 昨日(12月18日)水戸市の茨城県民文化センターで木村大ギター・リサイタルを聴きました。プログ゙ラムはいかのとおりです。


ムヌエル・デ・ファリャ : 粉屋の踊り
A.ヨーク : アルバイシンの丘、 ムーンタン
木村大 : Ayers Rock、 Home
C.ドメニコーニ : コユンババ


アルベニス : アストゥリアス
ニーノ・ロータ : ロミオとジュリエット
マイヤーズ : カヴァティーナ
パコ・デ・ルシア : リオ・アンチョ
ジプシー・キング : インスピレーション
木村大 : 聖母の御子
チック・コリア : Spain


      木村


 上の写真(木村大ファン・クラブ機関紙『shine』より)からもわかるとおり、今回の木村大君のコンサートはエレ・アコを用いての演奏です。木村大君は1996年に東京国際ギター・コンクールの優勝するなど、クラシック・ギタリストとしてデビューしましたが、現在ではクラシック音楽に限らず、ジャンルを越えた活動をしています。最近ではコンサート活動の他、テレビ番組などの音楽も担当していて、来年のNHK大河ドラマの音楽も担当するそうです。

 会場のスピーカーを通して聴こえてくると思われる音は、私たちが日頃親しんでいるクラシック・ギターの音とはちょっと違った響きで、いわゆる「アコーステッィク・ギター的」とでも言えるのでしょうか。こなれた雰囲気のトークもカジュアル調です。 

 大君の演奏は、やはりヨークや自作などがよく合っているようで、特に大君のために作曲された「ムーン・ターン」(サン・バーストの続編として作曲された)は、まさに「自分のために書かれた曲」といったすばらしい演奏でした。

 後半のパコ・デ・ルシアやジプシー・キングの曲ではパコ・デ・ルシアを彷彿させるスケールやラスゲアードなどで、観客から大いなる喝采を浴びていました。

格安CDなどはどこで買うの?

 今回は、前回の「エチュード・ブリランテ」の続きなのですが、「ここに紹介されているCD、特に格安CDなどはどこで買っているのか」という質問がありましたので、若干お答えしておきます。

 前にもお話したかも知れませんが、私の場合、HMVのネット・ショップを利用しています。CDのネット・ショップは他にもあるとは思いますが、特にクラシックの輸入盤はここが最も品揃えが豊富で、また検索もしやすいように思います。価格のほうも納得のゆくものと思います。レアなものを注文した時などは、入手できないこともありますが、今のところ大きなトラブルはありません。

 データなどが細かく記されているものもありますが、逆に全くないもの、あるいは演奏者や曲目などに誤記のあるものもありま。取り扱う数量が大きいのでやむを得ないかなと思います。人気のある曲や演奏家のCDにはコメントも多数ありますが、個人的な感想がほとんどなので”それなりに”読んでいます。時にはたいへん貴重な情報が書かれてあることもあります。ただしギター関係のCDにはコメントは少ないようですね・・・・ では本題に。



パヴァーナ・カプリッチョ

 「アルベニスのパヴァーナ・カプリッチョ」は私自身でも編曲して演奏したので親近感のある曲ですが、タレガの編曲は、文字通り「編曲」で、かなりギター的な曲に仕上がっています。比較するのは何ですが、私の編曲は単なる楽器の移し変えといったもので、なるべくピアノのイメージに近くなるようにになっています。タレガの編曲では原曲より1音低いニ短調のようですが、このCDでは半音ほど低いピッチで調律していて、嬰ハ短調のように聴こえます。


ショパンのノクターン

 ショパンの有名なノクターン(作品9-2)は99年発売の「ショパニアーナ」にも録音されていますが、その時の 演奏に比べ、気持ち遅めで、表情はいっそう深くなっているように感じます。この編曲ではピアノの魅力を十二分に引き出したショパンの原曲に対抗するかのように、たいへんギター的なパッセージが追加されているのが特徴で、タレガ自身でもよく演奏していました。当時から聴衆に人気のあった曲のようです。



アルハンブラ? アランブラ?

 このCDの最後は、名曲「アランブラの思い出」で閉めています。余談ですが、このCDでは「タレガ作曲『アンブラの思い出』」となっていますが、皆さんもお気付きのとおり、かつては「タレガ作曲『アルンブラの思い出』」と表記されていました。タレガは ”Tarrega”とrを重ねて綴るので、かつては「ル」を間に挟んだのですが、もちろんスペイン語ではそのような発音はしません。またアランブラは ”Alhambra”とhが入っているので「ハ」を入れたのでしょうが、もちろん発音されることはありません。

 といったように、長きにわたって「タルレガ作曲『アルハンブラの思い出』」として親しまれてきましたが、スペイン語の発音に近い形でカタカナ表記すれば、当然「タレガ作曲『アランブラの想い出』」とすべきなのでしょう、最近の楽譜やCDその他の印刷物などではほとんどそのように直されています。先日見たNHKハイビジョン放送のスペイン特集でも「アランブラ宮殿」と表記されていました。



「バッハ」が「バック」なら「タレガ」が「タルレガ」だって

 しかしそれが正しいとわかっていても、長い間の習性は恐ろしいもので、まだ私自身でもタルレガ作曲「アルハンブラの思い出」と言ってしまいます。もっとも、フランス人はモーツアルトのことを「ムザルト」と呼び、アメリカ人はバッハのことを「バック」と呼ぶわけですから、日本人なら「アルハンブラ」だろうと、「タルレガ」だろうと、どっちでもよいのかも知れません。

 福田先生の以前のCDでの表記を見てみますと、87年に発売されたCDでは、タルレガ作曲「アルハンブラの思い出」、98年のものではタレガ作曲「アルハンブラの思い出」、04年のCDで晴れてタレガ作曲「アランブラの思い出」となっています。ということは完全にタレガ作曲「アランブラの思い出」と表記されるようになったのは、一般的に言って、21世紀になってからということでしょうか。 



「近代ギターの父」と讃えられながらも

 話を戻しますが、この2枚のタレガ作品集はいろいろな意味で今後のタレガの作品の演奏に影響を与えるものと思います。これまでタレガは「近代ギターの父」と賞賛されながらもその音楽が十分に尊重されなかった面もあります。これまでの多くのギタリストはタレガの音楽を感覚的に捉えることに重きを置き、その譜面からタレガの意図を客観的に汲み取ることには消極的だったように思います。

 現在ではソルやコスト、メルツといったもう少し前の時代の作曲家については客観的にアプローチすることが浸透していますが、タレガの場合は時代が近すぎるせいか、まだまだ演奏者の主観が上回っているように思います。この2枚のCDはタレガの残した譜面を慎重に読み込み、タレガの意図を音として再現することに重きを置いているように思います。

 もっとも実際のタレガの演奏はおそらく即興に富んだものだったでしょうし、それを譜面にすることも、また譜面からそれを再現することも極めて難しいことではあると思います。しかしこの2枚のCDでは可能な限りそれを行っているように感じます。



「編曲作品」も「作品」である

 またこの2枚のCDの最大の特徴は、タレガの編曲作品も「タレガの作品」であることを証明したことではないかと思います。プログラミングの問題だけでなく、実際に聴いてみても、これらの編曲作品が一級のギター作品であることが実感出来ると思います。

 タレガのオリジナル作品についてはそのほとんどのものが出版されていて、現在入手も簡単だと思いますが、これらのCDの録音されているいくつかの編曲作品などはまだ出版されていないか、または入手が困難な状態にあると思います。このCDをきっかけにタレガの編曲作品も体系的に出版されてゆけばと期待しています。



タレガの演奏の歴史を変える

 オリジナル、編曲ともにまだまだ演奏されていない作品がたくさん残っているので、福田先生自身としても、おそらく今後「タレガ作品集Ⅲ」、「Ⅳ」を録音してゆくのではないかと思います。いずれにしてもこれらの一連の「タレガ作品集」は、文字通りタレガの演奏の歴史を変えてゆくことになるでは。 ・・・・・決して誇張した表現ではないでしょう。  

     福田 002

 この「タレガ作品集Ⅱ」は、基本的には前回の「オダリスク」同様に前半がオリジナル作品、後半が編曲作品となっていて、編曲作品では今までほとんど演奏されることのなかった曲が収録されています。またタイトルの関係で編曲による練習曲がいくつか入っているのが特徴と言えます。
  


シュトラウスのワルツのように

 前半のオリジナル作品の演奏で感じたことと言えば、「舞曲が舞曲に聴こえる」と言うのは「オダリスク」の時と同様ですが、特に3曲のワルツ=「グラン・ワルツ」、「ワルツ二長調」、「イサベル」はシュトラウスのワルツを聴いているようです。もっとも「イサベル」は本当にシュトラウスのワルツで、「グラン・ワルツ」も「南国のバラ」を思わせるところも出てきます。「ワルツ二長調」ではダ・カーポはせずにト長調の部分で終わっています。



ピチカート奏法?

 セゴビアもよく演奏した「メヌエット」は、いきなりピチカート奏法で始まり、「あれ」と思ったのですが、あらためて譜面を見てみると、楽譜の下のほうにしっかりと 「Ejecutese toda obra en pizzicato」 と書いてあるではありませんか(正確にはわかりませんが「ピッチカート奏法で弾け」ということでしょう)。自分自身ではこの曲をちゃんと弾いたことがなかったので、また今までピチカート奏法で演奏したものを聴いたことがなかったので、恥ずかしながら気が付きませんでした。不勉強を反省しなければなりません。

 確かにこのような演奏を今まで聴いたことがなかったので、とても新鮮に聴こえ、あらためてなかなかよい曲だなと思いました。また、確かに譜面の下に上記のような書き込みがあるのですが、具体的にどこがピチカート奏法で、どこが通常の奏法なのかは書いてありません。書き込みだけを考慮するなら曲全部がピチカート奏法ということになりますが、それではかなり窮屈な演奏になってしまいますので、常識的に考えれば特定の部分だけがピチカート奏法と考えられます。このCDではそうしたピチカート奏法と通常の奏法との使い分けをたいへん巧みに行っています。



エンデチャ-オレムス-エンデチャ

 「エンデチャとオレムス」はそれぞれ短い曲で、これを2つの曲として扱うギタリストもいますが、福田先生はこれを一つの曲として扱い、「エンデチャ-オレムス-エンデチャ」 と言ったようにダ・カーポした形で演奏しています。楽譜にはそういった指示はありませんが、十分に考えられる方法でしょう。

 

リズムが心地よく

「ムーア風舞曲」はタレガ自身でも評価の高い作品だそうで、あまり長い曲ではありませんが、易しい曲でもありません。この演奏はとても気持ちのよく聴こえますが、舞曲としてのリズムに十分配慮がいっているからなのでしょう。



かなりの難曲ですが 

 タイトルの「エチュード・ブリランテ」をはじめ、「ヴュータンによる演奏会用練習曲」、「ゴルチャックによるグラン・トレモロ」、「プリュダンによるエチュド」の4曲の編曲による練習曲はいずれも技術的に難しい曲ですが、4曲とも圧倒的なテクニックとスピードで弾いています。

 「グラン・トレモロ」の楽譜は現代ギター社から出されていますが、譜面を見ただけで恐ろしくて弾く気になれません。実際に聴いてみるとメロディックな曲で(トレモロの曲だから当たり前ですが)、けっして「厳つい」曲ではありません。しかしトレモロ奏法で一音ずつ動くあたりはやはり難しそうです。譜面ではかなり長い曲ですが(10ページ)、このCDでは4分余りで弾いています。

 「プリュダンによるエチュード」は3音からなる和音の曲ですが、これも驚異的なスピードで弾いています。ほとんど超絶技巧の世界です。



初録音?

 後半の編曲作品のほうでは「ボルゾーニのメヌエット」、「チャビのムーア風セレナード」、「マスカーニのシチリアーナ」、「バッハ~グノーのアベ・マリア」などの初めて聴く曲(おそらく初録音)があります。「シューマンのロマンス」も楽譜はよく見かけますが、録音はあまりないのではないかと思います。
 
 「ボルゾーニのメヌエット」、「チャビのムーア風セレナード」などの原曲についてはよくわかりませんが、なかなか聴き映えのする曲で、コンサートのプログラムに取り入れても面白いのではないかと思わせる曲、「マスカーニのシシリアーナ」は「真珠とり」に似た感じのメロディの美しい曲。「アベ・マリア」は楽譜が現代ギター誌に掲載されたこともあり、今後よく弾かれるようになるのではと思います。



「タレガ編曲」を「タレガの作品」として演奏

 「メンデルスゾーンのカンツォネッタ」はよく演奏されている曲ですが、その場合でもセゴビアのように若干変更したり、また実質上はタレガ編を使用しながらも編曲者を明記しなかったり、または演奏者自身の編曲とされたりして、はっきりと「タレガ編曲」として演奏されることは少なかったように思います。もちろんこのCDではあくまで「タレガの作品」としてタレガの譜面に忠実に演奏しています(反復記号の省略は補っています)。同様に「マラッツのセレナード」も、恣意的に変更することなしに、タレガの意図を忠実に再現しています。



 
今ごろ買っていたのでは・・・・・ 

 予定ではヴィラ・ロボスの交響曲や弦楽四重奏曲の紹介をする予定だったのですが、日にちもだいぶ経ってしまい、私の興味も他の方に移ってしまったので、そちらの方はまた別の機会にすることにします。CDはいつもネットで買っていることもあって、どうしても海外盤ばかりに目がいってしまいがちですが、今回は久々に国内盤の紹介です。

 と言っても、このCDは先月のギター文化館での福田進一ギター・リサイタルの折、会場で買ったもので、発売時に話題になったCDで、本来なら当然すでに購入しておくべきもの。今頃買っていたのではちょっと肩身が狭いかも・・・・・  この「オダリスクの踊り」の続編であるタレガ作品集Ⅱ「エチュード・ブリランテ」も同時に購入したので、そちらも次回紹介します。


      福田

      タレガ作品集「オダリスクの踊り」 
   タレガの没後100年に当たる昨年(2009年)の7月の発売

           収録曲  
オリジナル : ラグリマ、パヴァーナ、マリーア、ワルツハ長調、夢(トレモロ)、グラン・ホタ、ペピータ、朝の歌、オダリスクの踊り、ロシータ
 
編曲 : 演奏会用練習曲(タールベルク)、ねずみ(カジェーハ)、セギディージャス(チュエカ)、椿姫幻想曲(ヴェルディ)、日本のポルカ(バルベルデ)、相合い傘のマズルカ(チュエカ)、ワルツ(ベルリオーズ)、ラ・パロマ(イラディエール)
   


並のタレガ作品集ではない!

 このような話題盤は現代ギター誌をはじめ、いろいろなところで紹介されたり、その評が出ていますし、第一今頃コメントするのはあまりにも遅すぎますが、でも実際に聴いてみた結果、やはりたいへん注目すべきCDだと思いましたので、記事を書くことにしました。また購入をさぼっていたことも若干反省しています。

 タレガ作品集のCDはいろいろなギタリストが録音していて、たくさん市場に出回っていますが、この2枚とも他のギタリストのタレガ作品集とは際立った違いがあります。その曲目リストを見るだけでももそれが感じとれますが、実際に聴いてみるとそれがいっそう決定的なものと感じられます。ともかく「並の」タレガ作品集でないことはあらかじめ申し上げておきましょう。



タレガが実際にコンサートで演奏していた曲

 まず曲目に関しては、これまでのほとんどのタレガ作品集は、オリジナル作品のみになっていますが、この2枚のCD(タレガ作品集「オダリスクの踊り」、タレガ作品集Ⅱ「エチュード・ブリランテ」)ではそのオリジナル作品に加え、多数の編曲作品、しかもこれまであまり演奏されることも、録音されることもなかった作品が多数収録されています。

 タレガは自らのコンサートでは、他の作曲家の作品からの編曲物の比重が高かったことは以前にも書きました。タレガは自らを作曲家である前に、ギタリストであると考えていたのでしょう。またタレガのオリジナル作品のほとんどは演奏会用というより、生徒や一般愛好家のための教育的な作品が多く、タレガ自身ではコンサートなどでは「グラン・ホタ」や「パガニーニの主題による変奏曲」などの他は、あまり演奏しなかったようです。

 この2枚のCDでは、タレガ自身が実際にコンサートで演奏していた曲が中心に聴けるようになっていて、こうしたCDはこれまであまりなかったのではないかと思います。それぞれのCDは前半はタレガのオリジナル、後半は編曲物となっていますが、その中間にはまさに「中間的」な作品(タールベルクの「演奏会用練習曲」や、ゴッチャルクによる「グラントレモロ」など)が収められています。


当時の人気曲

 このCDでは、注目すべき編曲作品として、当時サルスエラの作曲家として有名だったチュエカの「セギディージャス」と「相合い傘」の2曲が録音されています。この2曲はタレガの伝記などでは、タレガ自身がよくプログラムにのせていた作品となっています。「相合い傘」の方は現代ギター社版の曲集に楽譜も載っていますが、聴くのは2曲とも今回初めてです。それぞれサルスエラの曲らしく、軽快で楽しい感じの曲ですが、当時の人気曲だったのでしょう。こうした曲でタレガが多くの聴衆を魅了していた様子が彷彿されます。

 このCDの「相合い傘」の演奏では、楽譜の印象よりはるかに豊かな表情、イメージなどが描かれています。福田先生はこの曲の原曲を知っているのでしょうか? それとも直感的にイメージを膨らませているのでしょうか? どちらにしてもすばらしい演奏です。


どんな曲かやっとわかった

 同じくサルスエラの作曲家のカジェーハの「ねずみ」はハバネラ風の曲で、短いがなかなか愛らしい曲。バルベルデの「日本のポルカ」はあまり日本には関係なくとのことですが、軽快なポルカです。タールベルクの「演奏会用練習曲」は、楽譜が比較的出回っているわりにはあまり演奏されない曲、CDもほとんどないような気がします。若干は弾いてみたことがあるのですが、結構難しくなかなかちゃんと弾けない曲です。このCDでやっとどんな曲なのかわかったような気がします。



ボネル版?

 「椿姫幻想曲」は編曲作品としては演奏される機会のたいへん多い曲ですが、曲そのものはご存知のとおりフリアン・アルカスの作品(若干タレガが手を加えている)。この演奏では冒頭の部分が現代ギター社版と若干異なりますが、カルロス・ボネル版を使用しているのでしょうか(現代ギター誌8月号に記事)。



愛好者のための編曲だが

 このCDの最後の「ラ・パロマ」はタレガの編曲としては比較的易しいもの。生徒や愛好者のためのものなのでしょう。このCDはハバネラのリズムをしっかりと刻みながらメロディをじっくりと歌わせています。当然のことのようでけっして簡単ではない、この前のコンサート(11月のアンサンブルのコンサート)で実感しました。



ラグリマ=接続句付き

このCD前半はオリジナル作品ですが、オリジナル作品の演奏でも「普通の」演奏でないところが随所に現れています。有名な「ラグリマ」は、後半から前半に戻るところに、短い接続句が挿入された版を使用しています。確かプジョールの版だったと思いますが、このCDをきっかけに今後この版を用いる人が増えるかも知れません。



舞曲としての性格

 「ロシ-タ」や「ペピータ」、「マリーア」など、タレガの多くの小品はは舞曲の形で書かれています。しかしこれまでタレガの小品の演奏というと、音色やギター的なニュアンス、あるいはメロディを歌わせることなどに主眼が置かれ、舞曲としての面はあまり重視したされなかったように思います。このCDではその舞曲としての性格をきちんと捉え、ワルツはワルツとして、ポルカはポルカとして演奏しているように思います。そうしたことにより演奏されることの多いこれらの作品も、たいへん新鮮な感じになっています。



表舞台に

 「オダリスクの踊り」はタレガのオリジナル作品の中ではこれまで演奏される機会の少なかった曲と言えます。タレガの小品の中では充実した曲で、曲名どおり魅力的な曲です。今回CDのタイトル曲となり、晴れて表舞台に登場です。