アントニオ・ラウロ : マリア・カロリーナ、 アディオス・オクマレ、 ヴェネズエラ風ワルツ第3番 アントニオ・ラウロ(1917~1986)はヴェネズエラのギタリスト兼作曲家で、その作品のほとんどはヴェネズエラ風ワルツの形をとっています。軽快で親しみやすい曲が多いのですが、メロディは意外と悲しい感じのものが多くなっています。
晩年の作 「マリア・カロリーナ」は”1983年”と楽譜に記されていますので、ラウロの晩年の作のようです。やはりヴェネズエラ風ワルツの形をとっていて、若干憂いを帯びたメロディとなっています。曲名は女性の名前からとっているものと思われますが、イ短調→イ長調→ハ長調と転調してゆき、ラウロの曲としてはやや長めの曲になっています。テンポの指定はありませんが、やはり軽快なテンポで弾く曲なのでしょう。

マリア・カロリーナ 1983年作曲、1985年出版と記されている
ラウロの編曲 「アディオス・オクマレ」は1984年に出版された「3つのヴェネズエラの小品」に含まれますが、ラウロのオリジナルではなく”編曲”となっています。原曲については全くわかりませんが、”オクマレ”という人物を追悼する曲かも知れません。「Andante 4分音符=92~100」と、ラウロの曲にしてはやや遅めのテンポの指定ですが、弾いている感じではやはりラウロの作品といった感じです。
ラウロの曲の中で最も有名。セゴヴィアも弾いている 「ヴェネズエラ風ワルツ第3番」は1963年にアリリオ・ディアスにより出版された「4つのヴェネズエラ風ワルツ」に属します。ラウロの作品の中では最も人気が高く、セゴヴィア、ジョン・ウィリアムスなど多くのギタリストにより演奏されています。「Allegro ritomico」と記され、3/4拍子と6/8拍子が交錯するリズムをとっています。ホ短調の曲ですが、中間部はホ長調となりメロディックになります。

アリリオ・ディアス編 「4つのヴェネズエラ風ワルツ」 1963年出版
アウグスティン・バリオス : 人形の夢、 蜜蜂、 大聖堂 クラシック。ギター・ファンでしたら、このバリオスについては説明不要かも知れません。いわずと知れた20世紀の大ギタリストの一人で、その作品は多くのギタリストにより演奏され、現在だは欠くことの出来ないレパートリーとなっています。パラグアイの出身ですが、正統的に音楽を学び、その作風は基本的にロマン派の音楽と踏襲したものです。またその一方で南米各国の民族舞曲的な作品も多数作曲しています。
バリオスの自演の録音がCDとなっている バリオスの演奏は、その一部がSP録音として残されており、現在でもCDとして入手出来ますが、残念ながらその音質はかなり劣るものとなっています。バリオスの生前には楽譜も出版されなかったようで、本格的な出版は1960~70年代くらいからのようです。わが国では1970年代に全音出版からメキシコのギタリスト、ヘスス・ベニーテスにより4冊にわたる作品集が出版され、以後多くのギタリストにより演奏されるようになりました。
バリオスの譜面は一つではない 現在では国内外で多数のバリオス作品集が出版されていますが、生前には出版されなかったこともあって(少なくともまとまった形では)、異稿がたくさんあり、それの従い現在出版されている譜面もいろいろなものがあります。バリオスの作品を演奏する場合には、その楽譜を選ぶということもたいへん重要なことです。今回のコンサートの場合、「人形の夢」と「大聖堂」はベニーテス編、「蜜蜂」は現代ギター社の鈴木大介編を用いています。

全音出版 ヘスス・ベニーテス編 バリオス作品集 全4巻
ベニーテスはメキシコのギタリスト。この作品集が出版されるちょっと前、私が20代の頃(1970年代)演奏を聴いたことがある。コンサート終了後のお酒の席にも同席
かわいらしくも、幻想的 「人形の夢」はワルツ風に書かれた作品で、中間部はハーモニックス奏法を用い、美しく、かつ幻想的な雰囲気も醸しだしています。バリオスの曲の中では平易な曲と言えますが、オクターブ・ハーモニックス(右手のみのハーモニックス)の音をムラなく出すのはそれほど易しいとは言えません。
ギターとハチとの関係 ギターではこのバリオスの「蜜蜂」をはじめ、プジョールの「熊蜂」とかサグレラスの「蜂雀」 ・・・・・・おっと「蜂雀」は”蜂”ではなく”鳥”だった・・・・ など蜂に関する曲がありますが、これらの曲に共通するのは、無窮動、つまり休むことなく細かい音符が続く作品になっていることでしょう。
この「蜜蜂」も冒頭の2小節を除くと全曲3連8分音符で出来ています。3部形式で主部は音階的、中間部はアルペジョ的となっています。プジョールの「熊蜂」の方は短2度、つまり半音違いの音を多用し、それによって思わず身をよけたくなるようなブンブンという鋭い羽音を表現しています。
その点こちらの「蜜蜂」の方は短調ですが、あまり不協和音程は使わず、”マイルド”な響きになっています。やはり「熊蜂」と「蜜蜂」の違い何のでしょうか。因みに「雀蜂」と言う曲は、今のところないようです(誰か作曲しているかも知れませんが)。

現代ギター社出版 鈴木大介編 バリオス作品集
バリオスの演奏や、いろいろな譜面を参考にして譜面が出来ているようだ。いろいろな選択肢も用意されている。
大聖堂の大伽藍を彷彿させる曲 「大聖堂」はバリオスの曲の中でも最も有名な曲で、比較的早い時期からいろいろなギタリストにより演奏されていたようです。もともとは2楽章形式の曲(現在の第2.第3楽章)でしたが、最終的に別に作曲された「プレリュード」が付け加えられ、現在のような3楽章形式になりました。
バリオス自身録音では当初の2楽章の形になっていますが、幸いにもこの「大聖堂」はバリオスが残した録音の中では比較的音質が良く、聴きやすいものになっています(あくまでも比較的にですが)。
後から「プレリュード」が加わり、いっそう大きな”大聖堂”となった 3つの楽章ともギターでは比較的珍しい”ロ短調”をとっていますが、第1楽章の「プレリュード」はカンパネラ奏法的なアルペジョに載せてメロディが歌われます。神秘的な雰囲気も秘め、この「プレリュード」が加わったことにより、いっそう充実した曲になったように思います。
第2楽章は「Andante rerligioso(敬虔に)」 となっていて、付点音符を多用し、大聖堂への階段を一歩ずつ厳かに登ってゆくような感じがします。
これまで、静かに、ゆっくりと進んできた曲は第3楽章で一転して動きのある曲となります。「Allegro rerligioso」と記された第3楽章は16分音符による無窮動の曲で、気持ちの高揚を表した曲と言えます。その高揚が頂点に達すると同時に、曲は閉じられます。