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中村俊三 ブログ

中村ギター教室内のレッスン内容や、イベント、また、音楽の雑学などを書いていきます。

<CDコンサート> 

20世紀の巨匠たち Vol.1 バリオス&リョベット

3月25日(日)14:00~ 中村ギター教室スタジオ 

     <内容>

◎バリオスの自身よる歴史的録音から   
  大聖堂、 森に夢見る、 ワルツ第3番(以上バリオス)、アラビア風奇想曲(タレガ)他

◎ジョン・ウィリアムス、 デビット・ラッセル、 エンノ・フォルホルスト、 クリスティアーノ・ポルケドゥなどによるバリオスの作品の演奏

◎リョベットによる歴史的な録音から
  サラバンド(バッハ)、 エチュード(コスト)、 
  アメリアの遺言、 エル・メストレ(以上カタルーニャ民謡~リョベット編)他 

◎セゴヴィア、イエペス、ウィリアムス、グロンドーナ、荘村清志などによるリョベットの作品の演奏


 聴講者募集  ~本日より先着10名受付 無料




 上記のように、この記事に関連して私の教室でCDコンサートを行いたいと思います。定員は約10名で、聴講は無料です。内容はバリオス、及びリョベットの歴史的録音を中心に、現代のギタリストによる両者の作品の録音などを聴いていただきます。

 聴講する方は、主に当教室の生徒さんなどになるとは思いますが、当ブログをご覧になっている方でしたら、どなたでも結構です。お申し込みのほうは、メール、ブログ・コメント、電話、直接などどのような方法でも結構です。

 
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ミゲル・リョベット (1878~1938年) 


アメリアの遺言で有名なギタリスト、タレガの高弟

 今回はカタルーニャ民謡「アメリアの遺言」などで有名なミゲル・リョベットの録音の紹介です。あまり重要なことではないかも知れませんが、普通リョベットは「ミゲル・リョベート」とカタカナ表記されるのが一般的ですが、「Miguel Llobet」と言う綴りからすると、少なくとも「リョべート」とは発音されないでしょう。



本当は「ジョベット」かも知れないが

もっともスペイン語では「L」は「ラ行」的な発音ではなく、「ジョ」に近い発音ですから、なるべくスペイン語に近い表記となると「ジョベット」あるいは「ジョベッ」といいた感じになるのでしょうが、「ジョベッ」では誰だかわからなくなってしまいますので、ちょっと中途半端な表記ですが、ここでは「リョベット」と表記しておきます。最近ではこの表記が多くなっているようです。


諸外国ではあまり気にしないようだが

 若干脇道にそれてしまいますが、タレガの伝記を書いたエミリオ・プジョール(Emilio Pujol)もスペイン語では「プホール」と発音され、本来そのように表記すべきところなのでしょうが、長年この表記を用いているので、浜田滋郎訳のタレガ伝記でも「プジョール」と表記されています。もっともプジョールはイギリスにも住んでいたことがあって、英語圏の人でしたら間違いなく「プジョール」と呼んでいたでしょうから、この呼ばれ方にはそれほど違和感はなかったのではと思います。

 最近の日本ではこうした外国語の固有名詞についての表記にこだわるようになっているのですが、以外と欧米ではそうしたことはほとんど気にせず、人名などでも自国流に堂々と発音しているようです。因みにアルゼンチンの作曲家、Maximo Pujolについては最初から「マキシモ・プホール」と表記しています。もちろん本来同じ発音のはずです。結果的に、Emilio Pujolは「プジョール」。Maximo Pujolは「プホール」とわかりやすくてよいかも知れません。


彫刻家の息子に生まれ

 さて道草が長くなってしまいましたが、リョベットは1878年にスペインのバルセロナで、彫刻家の息子として生まれ、その家庭環境もあって、幼少より美術や音楽の才能をのばしていったそうです。ギターのほうは1889年、つまり12才の時よりアントニオ・ヒメネス・マンホン(後年南米でも活動した当時著名なギタリスト)に師事し、1894年よりバルセロナ市立音楽学校でタレガに師事するようになったとのことです。


教わるというより・・・・

 一般的にはリョベットはタレガの高弟とされ、タレガ奏法の後継者というイメージがありますが、リョベット自身では「教わるというより、自分で演奏技術を試していた」と言っているようです。リョベットがタレガに師事した時には16歳になっていて、才能豊かなリョベットとしてはすでにギタリストとして完成している部分もあったのでしょう。タレガもそれを認めていて、基礎的なことから細かく指導したわけではなかったのでしょう。

 もっとも日本でもかつては芸事にしろ、職人技にせよ、師匠が手取り、足取り教えるのではなく、弟子たちが師匠の身の回りに世話などしながら”技術を盗む”というのが普通だったようですから、こうしたことは特別なことではなかったのでしょうね。そういえばセゴヴィアもリョベットの師事したことになっていますが、全く同じようなことを言っていて、セゴヴィアはリョベットから「ほんの短い間リョベットから助言を求めた」とだけ言っているようです。


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1925年~1929年の録音

 さて本題のリョベットの録音のほうですが、1925~1929年にかけてバルセロナとアルゼンチンで録音をしています。その時代ですからSP盤ということになりますが、そSPがCDとなり写真のとおり、Chanterelleから発売されています。ただHMVや各ギター専門店のサイトを見てもリスト・アップされていないので、今現在は入手が難しいのかも知れません。このCDの収録曲目は以下のとおりですが、録音場所、年代等の詳しいデータはありません。


バッハ : サラバンド(パルティータBWV1002より) ~2種類
ソル : メヌエットOp.11-12
ソル : アンダイテーノOp.2-3
ソル : 月光        ~2種類
コスト : エチュードOp.38-23  ~2種類
カタルーニャ民謡~リョベット編 : アメリアの遺言、 商人の娘、 哀歌、 先生
ヴィラール : レオンの歌
P.Quljano : アルゼンチン民謡
ポンセ : 小鳥売りの娘、 わが心よ君ゆえに

  <マリア・ルイス・アニードとの二重奏>
メンデルスゾーン : 5月の風
アルベニス : エヴォカシオン
アギーレ : Huella


バリオスよりは聴きやすい

 前回のバリオスの録音とはほぼ同じ年代ですが、全体的にバリオスの録音よりは聴きやすいものになっています。ただし曲によってはノイズを大幅にカットしたために”つまり気味”音になってしまったものもあります。これ以外に録音した曲はなかったのかどうかはわかりませんが、おそらく入手出来たもののすべての音源ということになるのでしょう。

 このCDに収められた音源は、原盤のようなものが残っていて、そこからCDにしたものではなく、実際に市販されたSP盤を、その所有者から借り受け、CDにしたようです。そのSPの所有者がブックレットに書かれています。こうしたものは本当に貴重なものだったのでしょう、それなりの知識人やお金持ちしか買わなかったのでしょうね。またこうしたものの情報なども、特に日本などではなかなか入りにくかったでしょう、本当に今は便利になりましたね。


リョベットもかなり速弾き

 バリオスのところでも、この時代の大ギタリストは”速弾き”が多いということを言いましたが、このリョベットもその一人のようです。最初のサラバンドも、サラバンドとしては比較的速く、2:53と2:31で弾いています。後の録音のほうが音質がよく、おそらくこちらは1929年のバルセロナかも知れません。演奏はやはりセゴヴィアの演奏と似ています。いや本当は逆ですね、セゴヴィアの演奏がリョベットに似ているんですね。

 速いといえば、コストのエチュードはもの凄い速さです。ある程度速く弾いても2分半から3分はかかる曲ですが、リョベットはなんと1:44と1:27で弾いています。トレモロ的な感じを出すためなのでしょうが、それにしてもすごい速さです。「最近の若いギタリストは速く弾きすぎる」などと言う言葉を時々聞きますが、昔だって、速弾きのギタリストは少なくなかったようですね。


ソルは録音しているが

 リョベットはフェルナンド・ソルの曲を3曲、計4回録音していますが、これはタレガが全くソルの曲を弾かなかったのと対照的です。そういえばリョベットは師のタレガの曲を一曲も録音していません。たまたま録音していなかっただけなのかも知れませんが、タレガに関係する作品も書いていません。ソルに関してはソル作曲の「スペインのフォリア」による変奏曲も作曲しています。


師の曲を弾いてもおかしくないと思うが

 一方バリオスは「アラビア風奇想曲」を2度にわたり録音し、「ラグリマ」をテーマにして変奏曲も書いています。その時代と、タレガの高弟といった関係からすれば、リョベットはタレガの曲の録音を残したり、タレガに因む作品などを書いても何の不思議もなかったのではないかとも思います。

 本当に余計なことかも知れませんが、タレガとリョベットにの間には、なんとなく微妙な空気が流れていたのでしょうか。この ソル → タレガ → リョベット の関係はちょっと面白いですね ・・・・・面白がってはいけませんが。因みにタレガのほうはリョベットに「前奏曲第2番」を献呈しています。



ワシは誰の世話にもなっとらん

 またリョベットとセゴヴィアにも似たようなものがあったのかもしれませんね、セゴヴィア自身は「リョベットにはほんのちょっとしか習わなかった、自分は独学でギターを学んだ」つまり「ワシは誰の世話にもなっとらん」と言っているようですが、こうして録音を聴いてみると、セゴヴィアはしっかりとリョベットのスタイルを継承しているの感じです。さらにはその背後のタレガの奏法も引き継いでいるといってよいでしょう。やはりセゴヴィアはタレガ奏法の継承者の一人と考えてよいのでしょう。
バッハ大全集(ブリラント)  CD157枚 + DVD3枚
 ~バッハの全作品のCDの他、旧バッハ全集、全曲の楽譜がオマケとして付いている



バッハ大全集

 器楽曲、鍵盤曲、宗教曲、オルガン曲のジャンルごとに色分けされてある。CDを聴いた後、ケース戻す時にちゃんと順番どおりに戻さないと後で取り出す時に困る。


バリオスのCDの紹介をしていたところですが

 相変わらず寒い日が続いています。いつもだと2月になるとそこそこ暖かい日もあるのですが、今年に限ってはそんな日がありませんね。昔はもっと寒い冬もあったのでしょうが、若い頃はあまり感じなかったのでしょうね。地球温暖化とはいえ、こんな年もあるのでしょうか。

 このところ、当ブログではバリオスのCDの話となっていますが、写真のように先月ブリラント・レーヴェルの「バッハ大全集」を購入したので、今日はこのCDの紹介をしましょう。この大全集はCDとDVDあわせて160枚で価格は1万2千円ちょっと。もう一枚当たりの価格を計算するのはやめましょう、空の音楽用CDの価格を下回っているのは確かです。


思ったほどはかさばらないが、やはり置き場所には困る

 全部で160枚ですから相当なボリュームだとは思ったのですが、紙ケースなので枚数の割には意外とかさばらない気がします。しかし重量は3キロ以上あり、結構重たく感じます。やはり適当な置き場所がなく、とりあえず床に直接置いています。

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 やはり置き場所に困り、とりあえず床にじか置き


カンタータやオルガン曲は順番がばらばら

 CDのほうは器楽曲(鍵盤以外の)、鍵盤曲、宗教曲(カンタータ、受難曲など)、オルガン曲と写真のように色分けされていますが、宗教曲は数が多いので3色になっています。それでも適当に取り出して、順番が狂ったりするとCDを探すのにたいへんになってしまいそうなので、CDを取り出したら、しおりなどを挟んで、戻す時に順番が狂わないようにしています。

 これまでバッハの作品はカンタータ以外ほとんど持っているのですが、カタータ全集を買うより、この大全集のほうが安いのは間違いありません。ただそのカンタータはBWVの番号どおりには並んでなく、探すのにちょっと手間取りそうです。また「大全集」としているわけですからすべてのカンタータが重複や脱落なしに揃っているとは思いますが、確かめるのもちょっとたいへんです。

 オルガン曲もフーガやコラールなどがばらばらに入っているので、特定の曲を探すにはちょっと不便ですが、もともと全集を想定して録音された物ではないのかも知れません。



気になるリュート曲は

 ギターファンには気になるリュート曲のほうは、リンドベルクの演奏で現在リュートのための作品とされている4つの組曲とBWV998、999、1000が2枚のCDに収められています。リンドベルクの演奏はあまり癖のないオーソドックスとも言える演奏で、装飾音も記入されているもの以外はあまり入れていません。

 テンポも中庸で、あまり崩したりすることもなく清楚な演奏と言えます。楽器の関係もあると思いますが、各声部とも聴き取りやすくなっています。練習の際に参考にするにはよい演奏だと思います。



一枚のDVDにバッハのすべての作品が入っている ~旧バッハ全集だが

 DVDのほうはマタイ受難曲とヨハネ受難曲の演奏。もう一枚のDVDには前述のとおり、旧バッハ全集の譜面のデータが入っています。紙の楽譜にしたらどれくらいの量になるのでしょうか、おそらくダンボール何個分かにはなるでしょう。データのみとはいえ、それらがたった一枚のDVDに収まってしまうのですから恐ろしいものです。


新バッハ全集は最近完成、買ったらいくら?

 因みに新バッハ全集のほうは1951年に校訂作業を開始し、2007年にすべての楽譜が刊行されたそうです。なんと半世紀を越えるプロジェクトだったのですね。1951年といえば私の生まれた年、ちょっと親近感を感じます。こちらの新バッハ全集のほうがオマケだったら本当に言うことはありませんが、それはちょっと虫のよすぎる話でしょうね、本当に大変な作業だったようですから。新バッハ全集のほうは買ったらいくらするのでしょうね。



旧バッハ全集ではリュートのための作品というのはない。BWV番号も

 旧バッハ全集は1900年頃完成されたとのことですが、これとてやはり当時の音楽学者たちの労力と叡智を結集してのもの、たいへん価値のあるものと思います。ところで、この旧バッハ全集には「リュートのための作品」というのはありません。前に言った現在バッハのリュートのための作品とされている「4つの組曲+3曲」というのは、あくまで新バッハ全集によってリュートのための作品と認められたものです。またBWV番号というのも新バッハ全集のもので、旧バッハ全集には番号的なものはありません。


現在リュート曲とされている4曲の鍵盤譜

 そうしたことを考慮しつつこのDVDの中から、今日リュート曲とされている曲を探してみました。何分ドイツ語表記でもあって、探すのにちょっと苦労しましたが、BWV996(リュート組曲第1番ホ短調)、BWV997(リュート組曲第2番ハ短調)、BWV1006(リュート組曲第4番)、BWV998(プレリュード、アレグロ、フーガ変ホ長調)の4曲が見つかりました。これらは「楽器不明の作品」とされたカテゴリーに、鍵盤譜で入っていました。

 他の作品は見つからなかったのですが、BWV1000のフーガはタブラチュア譜ですから当然除外されたのでしょうが、995(リュート組曲第3番)の鍵盤譜はあればなんとか見つかると思いますので、この当時は発見されていなかったのかも知れません。999の小プレリュードはただ見つからないだけかも知れません。


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 リュート組曲第1番(BWV996)と第2番(BWV997)の鍵盤譜


 これらのリュート曲の鍵盤譜は前から欲しかったもので、以前にいろいろ調べてみたのですが、取り寄せ方がよくわかりませんでしたので、今回入手できてとても重宝しています。しかも安くというか、実質ただ同然で入手出来て、ある意味申し訳なく思っています。

 さらに最近よくギターで演奏される「無伴奏ヴァイオリン・ソナタ第2番」の鍵盤譜(バッハ自身の編曲)もあり、これもこの曲を演奏する時の参考にとてもなるでしょう。また「同3番」のプレリュードの鍵盤譜もありました。
 

 
バリオス ギター独奏曲全集(6枚組)  クリスティアーノ・ポルケドゥ

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 このアルバムはバリオスのギター独奏曲を6枚のCDに収めたもので、おそらく現時点での唯一の独奏曲全集だろうと思います。演奏は1975年、地中海のサルディニア島のヌオロに生まれたクリスティアーノ・ポルケドゥです。1975年生まれと言うことですから、今年37歳になるのでしょうか。因みにサルディニア島はナポレオンの出身地で有名なコルシカ島の南側にあり、イタリア領のやや大きめな島です。


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アルファベット順に曲が並んでいる

 このアルバムはアルファベット順に曲が並んでおり、”辞典”のようになっています。全集としての位置づけを考えてということだと思いますが、ギター愛好者が練習する際の参考にする時のことも配慮しているのでしょう。



独奏曲のみ110曲収録。世界初録音7曲 

 1枚のCDには10数曲から20曲程度収められていて、全部で110曲収録されています。おそらく現存するバリオスの独奏曲のすべてが収録されているのでしょう。確かに聴いたことも、見たこともない曲がかなり含まれています。これらのうち7曲は世界初録音ということです。

 この110曲というのはあくまでオリジナルの”ギター独奏曲”ということで、二重奏曲や編曲ものは含まれていません。バリオスの自演のCDからも推測出来るとおり、バリオスには編曲作品も多数あると思いますが、その中にはオリジナル作品に限りなく近いものもあると思われますので、そうしたものも、いずれは録音されたり、出版されたるするのではと思います。



意外とあるスペイン風の曲。タレガ以上にフラメンコ的

 これまであまり演奏されない曲で印象的なもとしては、「アンダルシアの歌 Aires andaluces」、「ホタ Jota」、「スペインの伝説 Leyenda de Espana」、「スペイン奇想曲 Capricho espanol」などのスペイン的な曲です。

 これまでバリオスの作品と言えば、南米風か、あるいはロマン派風の作品といったイメージがあるのですが、意外とこうしたスペイン的な曲が結構あるようです。特に「アンダルシアの歌」などはアルベニスやタレガ以上にフラメンコ的な曲です。なかなか面白く、一般の受けもよいのではと思いますが、バリオスというと南米音楽というイメージがあるので、こうした曲はあまり演奏されないのでしょうか。

 おそらく今後はこうした曲もコンサートのプログラムに載るようになるのではないかと思います。因みにここで演奏されている「スペインの伝説」はベニーテス版とはかなり違うようで、このCDのものほうが長く充実したものになっています。
 

タンゴもある。なぜかジョプリン風

 また「タンゴ第2番」や「ドン・ペレス・フレイレに捧ぐ」などのタンゴ風の曲もあります。「タンゴ第2番」はもちろんタンゴのリズムで出来ていますが、何となくスコット・ジョプリンのラグタイムに似ています。同様に「Abrila puerta mi china~邦訳不明」もタンゴ風でやはりジョプリンの曲に似ています。「La bananita~浴女?」もリズムは違いますがジョプリンの曲に似ています。おそらくジョプリン風のメロディや伴奏の付け方はこの時代の流行だったのでしょう。これらの曲はなかなか楽しい感じの曲です。



ヴァイオリン風もチェロ風もある

 その他では、「Divagacion en imitacion violin~ヴァイオリンを模した即興曲」はジプシー風のヴァイオリンを思わせる曲で印象的。「Romanza en imitacion viorincello~チェロを模したロマンサ」と言う曲もあります。「La samaritana~サマリタ人」、「Oracion~祈り」、「Oracion por todos~すべての祈り」などもしみじみとした美しい曲。「Serenata morisca~モーロ風セレナード」はスペイン的でもあり、ジプシー風でもある曲。



ガラニー族に因む2つの曲

 世界初録音の曲としては「Leyenda gurani~ガラニーの伝説」、「Diana guarani~ガラニーの太鼓」というブラジル、およびウルグアイの先住民であるガラニー族に因んだ曲があります。「Leyenda gurani」のほうは幻想的な曲。「Diana guarani」のほうは軍楽隊の音楽を模したような曲で、低音弦を交差させて小太鼓を模した奏法やタンボラートなど特殊奏法をふんだんに使ったエンターティーメント的な曲です。どちらも10分近く、バリオスの作品としては大曲に属しますが、これらの曲がなぜこれまで埋もれていたのでしょうか。「Bicho feo~醜い虫?」も短い曲ですが、なかなか面白い曲。



私たちバリオス観はまだ一面的

 バリオスの作品が頻繁にコサートのプログラムに載るようになってからすでに40年くらいにはなると思いますが、私たちがこれまで聴いてきた(あるいは弾いてきた)曲は、まだまだ一部の曲のみのようです。この全集を聴いてみるとバリオスの作品は私たちが、これまで思っていた以上にバラエティに富んでいるようです。今後はこうした、これまであまり演奏されなかった曲もどんどんプログラムに載るようになるのは間違いないでしょう。それに従い、私たちのバリオス像もだんだん変ってゆくでしょう。



音楽の内容を正しく届けてくれる ~愛好者必携 ブリラント盤 2859円

 このアルバムは、価格のほうも6枚組で2859円(HMV価格 ブリラント盤)と比較的買いやすいと思いますので、バリオスに興味のある方には必携ではないかと思います。最後になりましたが、ポルケドゥによるこのアルバムの演奏もたいへん優れたもので、バリオスの音楽の内容を正しく私たちに伝えてくれていると思います。これまで紹介したウィリアムス、ラッセル、フォルホルストなどに比べると若干音が軽い感じもしますが、それはむしろ前の3人のギタリストの音がとても重厚であることを示しているのでしょう。
エンノ・フォルホースト  バリオス作品集1 ブリラント盤


 オランダのギタリスト、エンノ・フォルホーストはナクソスとブリラントの二つのレーヴェルにまたがってバリオス作品集を出しています。

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 このブリラント盤のほうは一昨年紹介したセットものの中からですが、単売もされています。1994年の録音ということですから、このCDもバリオス没後50年ということなのでしょう。「ワルツ第3番」、「同第4番」、「フリア・フロリダ」、「蜜蜂」、「森に夢見る」他、練習曲やあまり演奏されない曲、そして「パラグアイ舞曲第1番」、「バッハを讃えて」の2曲の二重奏曲も収録されています。



「より真面目なデビット・ラッセル」なんて紹介してしまいましたが

 フォルホーストについては以前にも紹介しましたが、とても誠実な演奏と言えます。このギタリストの演奏は、その作品の内容や、作曲家の意図を十分に考慮したもので、好感度はとても高いと思います。また音質も師のデビット・ラッセルを彷彿させる、美しく、また質感を感じさせるものです。

 楽器は1963年のホセ・ラミレスだそうですが、低高音ともしっかりと鳴っています。この時代のラミレスといえば、セゴヴィア、 ホセ・ルイス・ゴンザレス、 クストファー・パークニングなども使用していて、まさに絶頂期のラミレスと言えますが、フォルホーストはそうしたギタリストとはまた違った方向性で、この楽器を使用しているようです。


やっぱり「シ=ナチュラル」はドキッ!

 それにしてもフォルホーストの「ワルツ第3番」の「シ=ナチュラル」(最初のエピソードの5小節目)には一瞬ドキッとします。ここを「シ=ナチュラル」で弾いているのはバリオス自身の他は、このフォルホーストしかいないようで、他のギタリストはすべて「シ=♭」で弾いています。

 和声法上の難しいことはわかりませんが、ここをハ長調の属7の和音、つまりG7のコードと考えると、間違いなくここは「シ=ナチュラル」となります。バリオスの自筆譜と思われるものでは、ナチュラル記号は付いていなのですが、運指を見るとに「シ=ナチュラル」を示しているようにも思えます。何といっても作曲家自身がそう弾いているわけですから、あまり疑問の余地はないところかも知れません。

 しかしそうはわかっていても「シ=♭」で弾いている演奏を聴くと全く違和感なく、正しいはずの「シ=ナチュラル」の演奏を聴くと思わず「音を間違えた」と思ってしまうのは、長年聴きなじんでしまったということでしょうか。



バリオスの作品にはある程度の自由度があるが

 バリオスの譜面は生前に出版されなかったこともあって、いろいろな譜面が出ています。またバリオス自身の演奏も残された譜面とはかなり違っているものも多く、そうしたこともあって細かいところでは、ギタリストによって異なる演奏となっています。そしてそれらの場合、どちらかが正しくて、どちらかが間違っているといったものではなさそうです。おそらくバリオス自身でも演奏する度に多少なりとも変えて演奏していたのではないかと思いますので、バリオスの作品にはある程度の自由度があると考えられます。



どちらかが正しく、どちらかが正しくない?

 ですから一個くらいの音が違っていたとしても、特に大きな問題ではないのですが、でもこの箇所については他の例とちょっと事情が違うのではと思います。おそらくバリオス自身では、ここは「フラットでもナチュラルでもどちらでもよい」わけではなく「どちらかが正しくて、どちらかが正しくない」のではないかと思います。

 とは言っても、フラットでも全然おかしく聴こえないところからすると、和声法上、フラットでも可能と言うことも考えられるのかも知れませんが、こういったことの判断はもっと見識のある方々におまかせしましょう。




バリオス作品集2 ナクソス盤


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 こちらのナクソス盤のほうは2001年の録音で「Volume 2」となっていますから、レーヴェルは異なりますが、上のブリラント盤の続編として製作しているのでしょう。曲目のほうも「大聖堂」を除くと、4曲のメヌエットなど前記のものよりもさらに比較的演奏されない曲が多くなっています。



「ラグリマ」をテーマとした

 タレガの「ラグリマ」をテーマにした「タレガの主題による変奏曲」も録音されていることは以前にも書きましたが、テーマと6つの変奏で計10分以上かかる、やや長めの曲になっています。テーマ自体も有名なので、今後頻繁に弾かれるようになるのではと思います。



簡単なプレーに徹する

 フォルホーストはデビット・ラッセルの影響がある、と再三言いましたが、このバリオスに関しては、ラッセルのように、各部分に表情の変化を細かく付けるといったことはあまりしていなくて、”必要なことだけをする”と言った感じです。でも決して無表情ということではなく、5曲目の「祈り」でも端正な歌いまわしながら、情感は次第に込みあがってきます。

 またまたサッカーに例えれば、高い技術をもちながらもなるべく最短距離で簡単なプレーをする。決してウケ狙いの足技などは使わない選手といったところでしょうか。確かに北欧人らしいとても誠実な演奏で、好感度の高いバリオスです。やはり聴く価値は十分にあるCDでしょう。