再びリョベットの自演~リョベットのまとめ
SP盤ってショート・プレーイング盤?
いろいろなギタリストの演奏を聴いた後で再びリョベット自身の演奏を聴いてみると、はやりリョベットのテンポは速い。よく「最近の若いギタリストは速く弾きすぎる」などということを耳にしますが、昔のギタリストも負けず劣らず速かったようですね。若い頃のセゴヴィアやバリオスも速かったが、それ以上にリョベットは速い。
これにはSP盤の収録時間を考慮してのこととも考えられますが、ところでLPとは「long playing」の略。とすればSPとは当然「short playing」のと考えられそうですが、正しくは「standard playing」の略だそうです。
ラッパの前でギターを弾く
SP録音とは、初期の場合には本当にラッパの前で歌ったり、楽器を近づけて録音したそうです。これを「機械録音」、または「アコースティック録音」というのだそうですが、1925年頃からマイクロフォンを用いた「電気録音」が始まります。1940年代からは磁気テープによる録音も始まり(つまり編集が可能)、LP盤が登場するのは第二次世界大戦後、つまり1945年以降ということになります。
リョベットの演奏を聴くと、セゴヴィアが大人しく聴こえる
話がそれましたが、リョベットの演奏はテンポの収縮もかなり大きく、これもバリオスやセゴヴィア以上と言えるでしょう。強弱の変化はこの録音ではあまりはっきりとはわかりませんが、かなり大きかったように感じます。結果的にはリョベットの表現法は、強く、激しく、起伏に富むもので、まさにヴィルトーゾ的といってよいでしょう。リョベットの演奏を聴くとセゴヴィアの演奏もマイルドに聞こえてきます。
なぜこんなにピッチがばらばら
しかしそれにしてもこのリョベットの自演のCD、なんでこんなにピッチがバラバラなのでしょうか。曲によっては全音くらい上がっています。このCDで、バッハの「サラバンド」は二つのテイクが収録されていて、一つ目のテイクではピッチがだいたいA=440になっていますが、2曲目のほうはほとんど一音高く、実質「ロ短調」が「嬰ハ短調」になっています。同様にコストの「エチュード」も二つ目のテイクでは、ほぼ一音高くなっています。
回転数を落として録音?
リョベットが実際にどのようなピッチで演奏していたかははっきりとはわかりませんが、A=440前後ではないかと想像できます。おそらくこのピッチの違いはSP盤の回転数の関係によるものと考えられます。SP盤は基本的に毎分78回転ということになっていますが、当時の事情を考えれば、常に正確にこの回転数で録音されたとは限らないでしょう。場合によっては収録時間の関係で、あえて回転数を落として録音することもあったと言われています(そんなことをすれば聴く時にピッチが上がってしまうが)。
いずれは正しいピッチのものが
おそらくこのCDにおけるバラバラなピッチはこれらのSP盤をすべて同じ回転数で再生したことによるものではないかと思われます。リョベットが、あえてサラバンドを「嬰ハ短調」で弾いたり、コストのエチュードを「ロ長調」で弾いたとは考えられませんから、CDに復刻する時に妥当否ピッチに直すことも出来たのではないかと思います。
これらの録音はたいへん貴重なものであると思いますので、いずれは正しい、あるいは妥当性のあるピッチで収録されたCDが市場に出されることを期待します。
異常な速さも回転数の関係
リョベットはコストのエチュードを異常とも思えるスピードで収録しています。1テイク目では01:44、2テイクでは01:27となっています。因みに同じ曲を稲垣稔さんは02:34、マクファーデンは02:23で弾いています。前述のとおり、リョベットの1テイク目はほぼ440のピッチになっていますが、2テイクではほぼ一音高くなっています。
特に2テイク目の異常とも思えるテンポには録音時と再生時の回転数のずれが関係があります。この2テイク目の録音がもともと440のピッチだったとすると、実際のテンポはもっと遅くなるはずです。。
本来の演奏時間は?
もともと440のピッチで演奏されていたと仮定した場合の演奏時間は、意外と難しい計算になるので私には正確に出せませんが、あえて大雑把に計算してみましょう。
仮に1オクターブピッチが上がっていれば、元の演奏時間は2倍の02:54、つまり87秒長かったと言うことになります。1オクターブは12半音ですから、全音、つまり2半音上がるということは、ごく大雑把に言って、87秒の6分の1*ほど長かったと考えられます。
*正しくは 2の1/6乗 -1 くらいかな? ちょっと怪しいが。
もともとは2回ともほぼ同じテンポだった
結果、本来の演奏時間は約15秒ほど長くなり約”01:42”となるでしょうか。そうすると結果的に1テイク目の演奏時間(01:44)とほぼ同じとなります。納得しやすいところでしょう。しかし15秒ほど遅くなったとしても、やはり異常に速いテンポであることは変りありません。
三角測量
話は脇にそれてしまいましたが、このリョベットの録音を聴くということはリョベットの演奏スタイルを知るだけでなく、19世紀後半から20世紀初頭にかけてのスペインのギター演奏法を知る上での超一級の情報であるのは間違いないでしょう。またリョベットの後継者とも言えるセゴヴィアの演奏と比較することで、三角測量的にフランシスコ・タレガの演奏、あるいは19世紀末から20世紀初頭にかけてのスペイン・ギターの演奏法を推し量ることも出来るでしょう。
次回からはアンドレス・セゴヴィア
以上でミゲル・リョベットに関しては終わりということになりますが、次回からはその三角測量のもう一つの点、アンドレス・セゴヴィアの話です。まさに20世紀を代表するギタリストで、今現在でもたくさんのファンがいるでしょう。もちろん私もたくさんのセゴヴィアの録音を聴きました、いや聴いて育ってきました。また晩年の演奏を直接聴いたこともあります。ご期待下さい。
SP盤ってショート・プレーイング盤?
いろいろなギタリストの演奏を聴いた後で再びリョベット自身の演奏を聴いてみると、はやりリョベットのテンポは速い。よく「最近の若いギタリストは速く弾きすぎる」などということを耳にしますが、昔のギタリストも負けず劣らず速かったようですね。若い頃のセゴヴィアやバリオスも速かったが、それ以上にリョベットは速い。
これにはSP盤の収録時間を考慮してのこととも考えられますが、ところでLPとは「long playing」の略。とすればSPとは当然「short playing」のと考えられそうですが、正しくは「standard playing」の略だそうです。
ラッパの前でギターを弾く
SP録音とは、初期の場合には本当にラッパの前で歌ったり、楽器を近づけて録音したそうです。これを「機械録音」、または「アコースティック録音」というのだそうですが、1925年頃からマイクロフォンを用いた「電気録音」が始まります。1940年代からは磁気テープによる録音も始まり(つまり編集が可能)、LP盤が登場するのは第二次世界大戦後、つまり1945年以降ということになります。
リョベットの演奏を聴くと、セゴヴィアが大人しく聴こえる
話がそれましたが、リョベットの演奏はテンポの収縮もかなり大きく、これもバリオスやセゴヴィア以上と言えるでしょう。強弱の変化はこの録音ではあまりはっきりとはわかりませんが、かなり大きかったように感じます。結果的にはリョベットの表現法は、強く、激しく、起伏に富むもので、まさにヴィルトーゾ的といってよいでしょう。リョベットの演奏を聴くとセゴヴィアの演奏もマイルドに聞こえてきます。
なぜこんなにピッチがばらばら
しかしそれにしてもこのリョベットの自演のCD、なんでこんなにピッチがバラバラなのでしょうか。曲によっては全音くらい上がっています。このCDで、バッハの「サラバンド」は二つのテイクが収録されていて、一つ目のテイクではピッチがだいたいA=440になっていますが、2曲目のほうはほとんど一音高く、実質「ロ短調」が「嬰ハ短調」になっています。同様にコストの「エチュード」も二つ目のテイクでは、ほぼ一音高くなっています。
回転数を落として録音?
リョベットが実際にどのようなピッチで演奏していたかははっきりとはわかりませんが、A=440前後ではないかと想像できます。おそらくこのピッチの違いはSP盤の回転数の関係によるものと考えられます。SP盤は基本的に毎分78回転ということになっていますが、当時の事情を考えれば、常に正確にこの回転数で録音されたとは限らないでしょう。場合によっては収録時間の関係で、あえて回転数を落として録音することもあったと言われています(そんなことをすれば聴く時にピッチが上がってしまうが)。
いずれは正しいピッチのものが
おそらくこのCDにおけるバラバラなピッチはこれらのSP盤をすべて同じ回転数で再生したことによるものではないかと思われます。リョベットが、あえてサラバンドを「嬰ハ短調」で弾いたり、コストのエチュードを「ロ長調」で弾いたとは考えられませんから、CDに復刻する時に妥当否ピッチに直すことも出来たのではないかと思います。
これらの録音はたいへん貴重なものであると思いますので、いずれは正しい、あるいは妥当性のあるピッチで収録されたCDが市場に出されることを期待します。
異常な速さも回転数の関係
リョベットはコストのエチュードを異常とも思えるスピードで収録しています。1テイク目では01:44、2テイクでは01:27となっています。因みに同じ曲を稲垣稔さんは02:34、マクファーデンは02:23で弾いています。前述のとおり、リョベットの1テイク目はほぼ440のピッチになっていますが、2テイクではほぼ一音高くなっています。
特に2テイク目の異常とも思えるテンポには録音時と再生時の回転数のずれが関係があります。この2テイク目の録音がもともと440のピッチだったとすると、実際のテンポはもっと遅くなるはずです。。
本来の演奏時間は?
もともと440のピッチで演奏されていたと仮定した場合の演奏時間は、意外と難しい計算になるので私には正確に出せませんが、あえて大雑把に計算してみましょう。
仮に1オクターブピッチが上がっていれば、元の演奏時間は2倍の02:54、つまり87秒長かったと言うことになります。1オクターブは12半音ですから、全音、つまり2半音上がるということは、ごく大雑把に言って、87秒の6分の1*ほど長かったと考えられます。
*正しくは 2の1/6乗 -1 くらいかな? ちょっと怪しいが。
もともとは2回ともほぼ同じテンポだった
結果、本来の演奏時間は約15秒ほど長くなり約”01:42”となるでしょうか。そうすると結果的に1テイク目の演奏時間(01:44)とほぼ同じとなります。納得しやすいところでしょう。しかし15秒ほど遅くなったとしても、やはり異常に速いテンポであることは変りありません。
三角測量
話は脇にそれてしまいましたが、このリョベットの録音を聴くということはリョベットの演奏スタイルを知るだけでなく、19世紀後半から20世紀初頭にかけてのスペインのギター演奏法を知る上での超一級の情報であるのは間違いないでしょう。またリョベットの後継者とも言えるセゴヴィアの演奏と比較することで、三角測量的にフランシスコ・タレガの演奏、あるいは19世紀末から20世紀初頭にかけてのスペイン・ギターの演奏法を推し量ることも出来るでしょう。
次回からはアンドレス・セゴヴィア
以上でミゲル・リョベットに関しては終わりということになりますが、次回からはその三角測量のもう一つの点、アンドレス・セゴヴィアの話です。まさに20世紀を代表するギタリストで、今現在でもたくさんのファンがいるでしょう。もちろん私もたくさんのセゴヴィアの録音を聴きました、いや聴いて育ってきました。また晩年の演奏を直接聴いたこともあります。ご期待下さい。
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