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中村俊三 ブログ

中村ギター教室内のレッスン内容や、イベント、また、音楽の雑学などを書いていきます。

再びリョベットの自演~リョベットのまとめ


SP盤ってショート・プレーイング盤?

 いろいろなギタリストの演奏を聴いた後で再びリョベット自身の演奏を聴いてみると、はやりリョベットのテンポは速い。よく「最近の若いギタリストは速く弾きすぎる」などということを耳にしますが、昔のギタリストも負けず劣らず速かったようですね。若い頃のセゴヴィアやバリオスも速かったが、それ以上にリョベットは速い。

 これにはSP盤の収録時間を考慮してのこととも考えられますが、ところでLPとは「long playing」の略。とすればSPとは当然「short playing」のと考えられそうですが、正しくは「standard playing」の略だそうです。


ラッパの前でギターを弾く

 SP録音とは、初期の場合には本当にラッパの前で歌ったり、楽器を近づけて録音したそうです。これを「機械録音」、または「アコースティック録音」というのだそうですが、1925年頃からマイクロフォンを用いた「電気録音」が始まります。1940年代からは磁気テープによる録音も始まり(つまり編集が可能)、LP盤が登場するのは第二次世界大戦後、つまり1945年以降ということになります。


リョベットの演奏を聴くと、セゴヴィアが大人しく聴こえる

 話がそれましたが、リョベットの演奏はテンポの収縮もかなり大きく、これもバリオスやセゴヴィア以上と言えるでしょう。強弱の変化はこの録音ではあまりはっきりとはわかりませんが、かなり大きかったように感じます。結果的にはリョベットの表現法は、強く、激しく、起伏に富むもので、まさにヴィルトーゾ的といってよいでしょう。リョベットの演奏を聴くとセゴヴィアの演奏もマイルドに聞こえてきます。



なぜこんなにピッチがばらばら

 しかしそれにしてもこのリョベットの自演のCD、なんでこんなにピッチがバラバラなのでしょうか。曲によっては全音くらい上がっています。このCDで、バッハの「サラバンド」は二つのテイクが収録されていて、一つ目のテイクではピッチがだいたいA=440になっていますが、2曲目のほうはほとんど一音高く、実質「ロ短調」が「嬰ハ短調」になっています。同様にコストの「エチュード」も二つ目のテイクでは、ほぼ一音高くなっています。 


回転数を落として録音?

 リョベットが実際にどのようなピッチで演奏していたかははっきりとはわかりませんが、A=440前後ではないかと想像できます。おそらくこのピッチの違いはSP盤の回転数の関係によるものと考えられます。SP盤は基本的に毎分78回転ということになっていますが、当時の事情を考えれば、常に正確にこの回転数で録音されたとは限らないでしょう。場合によっては収録時間の関係で、あえて回転数を落として録音することもあったと言われています(そんなことをすれば聴く時にピッチが上がってしまうが)。



いずれは正しいピッチのものが

 おそらくこのCDにおけるバラバラなピッチはこれらのSP盤をすべて同じ回転数で再生したことによるものではないかと思われます。リョベットが、あえてサラバンドを「嬰ハ短調」で弾いたり、コストのエチュードを「ロ長調」で弾いたとは考えられませんから、CDに復刻する時に妥当否ピッチに直すことも出来たのではないかと思います。

 これらの録音はたいへん貴重なものであると思いますので、いずれは正しい、あるいは妥当性のあるピッチで収録されたCDが市場に出されることを期待します。

 

異常な速さも回転数の関係

 リョベットはコストのエチュードを異常とも思えるスピードで収録しています。1テイク目では01:44、2テイクでは01:27となっています。因みに同じ曲を稲垣稔さんは02:34、マクファーデンは02:23で弾いています。前述のとおり、リョベットの1テイク目はほぼ440のピッチになっていますが、2テイクではほぼ一音高くなっています。

 特に2テイク目の異常とも思えるテンポには録音時と再生時の回転数のずれが関係があります。この2テイク目の録音がもともと440のピッチだったとすると、実際のテンポはもっと遅くなるはずです。。


本来の演奏時間は?

 もともと440のピッチで演奏されていたと仮定した場合の演奏時間は、意外と難しい計算になるので私には正確に出せませんが、あえて大雑把に計算してみましょう。

 仮に1オクターブピッチが上がっていれば、元の演奏時間は2倍の02:54、つまり87秒長かったと言うことになります。1オクターブは12半音ですから、全音、つまり2半音上がるということは、ごく大雑把に言って、87秒の6分の1*ほど長かったと考えられます。

  *正しくは  2の1/6乗 -1  くらいかな? ちょっと怪しいが。



もともとは2回ともほぼ同じテンポだった

 結果、本来の演奏時間は約15秒ほど長くなり約”01:42”となるでしょうか。そうすると結果的に1テイク目の演奏時間(01:44)とほぼ同じとなります。納得しやすいところでしょう。しかし15秒ほど遅くなったとしても、やはり異常に速いテンポであることは変りありません。



三角測量

 話は脇にそれてしまいましたが、このリョベットの録音を聴くということはリョベットの演奏スタイルを知るだけでなく、19世紀後半から20世紀初頭にかけてのスペインのギター演奏法を知る上での超一級の情報であるのは間違いないでしょう。またリョベットの後継者とも言えるセゴヴィアの演奏と比較することで、三角測量的にフランシスコ・タレガの演奏、あるいは19世紀末から20世紀初頭にかけてのスペイン・ギターの演奏法を推し量ることも出来るでしょう。



次回からはアンドレス・セゴヴィア

 以上でミゲル・リョベットに関しては終わりということになりますが、次回からはその三角測量のもう一つの点、アンドレス・セゴヴィアの話です。まさに20世紀を代表するギタリストで、今現在でもたくさんのファンがいるでしょう。もちろん私もたくさんのセゴヴィアの録音を聴きました、いや聴いて育ってきました。また晩年の演奏を直接聴いたこともあります。ご期待下さい。
 
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「13のカタルーニャ民謡」の他のギタリストによるCD録音

 リョベットのオリジナル作品を録音しているギタリストは、前述のグロンドーナなどを除くと、まだあまりいませんが、この「13のカタルーニャ民謡集」を全曲、あるいは部分的に録音しているギタリストは現在多数います。この「カタルーニャ民謡集」は、様々な技法を駆使し、ギターの魅力が十分に発揮できるようになっているだけでなく、後期ロマン派的な高度な和声法を用いているのも大きな特徴です。結果的にはリョベットのオリジナル作品を差し置いてリョベットの代表作とされているのもうなずけます。編曲というより限りなくオリジナルに近い作品と言えるでしょう。

 といった訳で、今回はこの「13のカタルーニャ民謡集」の、リョベット以外のギタリストによるCDの紹介です。この「13曲」の曲名は以下のとおりです。

1、アメリアの遺言
2、盗賊の歌
3.紡ぎ女
4.王子
5.夜うぐいす
6.哀歌
7.先生
8.あとつぎのリエラ
9.商人の娘
10.凍れる12月
11.羊飼いの娘
12.レリダの囚人
13.聖母の御子
 

 これらの作品がいつ頃編曲され、いつ頃出版されたのかはわかりませんが、私の知る限り、わが国では1~10曲目までが「10のカタルーニャ民謡」として1966年にギタルラ社から出版されています。その基となったものは1964年にスペインのUNION MUSICAL ESPANOLA社から出版されているとのことです。現在は現代ギター社からも、いくつかのオリジナル作品や編曲作品と共に出版されています。またUNION MUSICAL ESPANOLA社からも、現在全6巻のリョベット作品全集が出されてます(ホマドリームのホーム・ページ参照)。

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 「10のカタロニア民謡集」  ギタルラ社1 966年出版


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ミゲル・リョベット作品集   現代ギター社 2010年出版 


 この「カタルーニャ民謡集」の全曲録音、あるいはそれに順ずる録音は比較的最近のことと思いますが。1992年に荘村清志、斉藤明子、ジョン・ウィリアムスの3人のギタリストのCDが発売されています。荘村さんは11曲、斉藤明子さんは全13曲、ウィリアムスは9曲録音しています。またLP時代の録音としては、5曲のみですがイエペスの録音を挙げられるでしょうか。


ナルシソ・イエペス

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ナルシソ・イエペス  イエペス、カタロニア民謡を弾く 1972年録音(LP)

 1970年代ではイエペスが「聖母の御子」、「商人の娘」、「糸を紡ぐ女」、「先生」、「盗賊の歌」、の5曲を1972年に録音しています。イエペスの演奏はリョベットの演奏とはずいぶんと違い、セゴヴィアなどのスペイン・ギターの伝統の則った演奏とは一線を画したものがあります。しかしその乾いたスペインの大地を思わせるような響きには不思議な魅力もあります。



荘村清志

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カタロニア郷愁  荘村清志  1991年録音

 荘村清志さんはスペイン音楽には思い入れも深いと思いますが、全体的にはやはり師のイエペスの演奏の影響があると言えるでしょう。比較的ゆっくりと情感たっぷりに演奏していますが、師のイエペス同様リョベット的な演奏とは異なります。「盗賊の歌」ではイントロを変更していますが、ご自身のアレンジなのでしょうか?



斉藤明子

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スペイン  斉藤明子 1992年発売


 斉藤明子さんのCDは斉藤さん自身のデビーアルバムにあたるものですが、少なくとも国内では「13のカタルーニャ民謡」としては初の全曲録音なのではないかと思います。そういった意味でも意識の高いデビュー盤と言えるでしょう。全体に中庸なテンポで、端正に歌っています。グリサンドなども目立たないようにではありますが、指示どおり付けています。



ジョン・ウィリアムス

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イベリア  ジョン・ウィリアムス 1991年録音

 ウィリアムスの演奏は上記の二人(荘村、斉藤)のCDよりもリョベト→セゴヴィアの演奏にやや近くなっています。速めのテンポで小粋で軽快、且つダイナミックに弾く曲と、じっくり歌わせる曲とはっきり弾き分けています。



角圭司

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Mi Corason  角圭司 2005年録音

 角圭司君も2005年に「13のカタルーニャ民謡」を録音しています。角君の演奏はイン・テンポを基調とした演奏で、スラー、グリサンド奏法などの使用は控えめです。音楽の骨格を重んじた演奏と言えるでしょうか。
<アンドレス・セゴヴィアによる3曲のカタルーニャ民謡>


 アンドレス・セゴヴィアは1949年にリョベット編曲のカタルーニャ民謡から「聖母の御子」、「アメリアの遺言」、1956年に「先生」を録音しています。


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リョベット編の2曲のカタルーニャ民謡、「聖母の御子」、「アメリアの遺言」が収められている初出のLPジャケット。セゴヴィアの初のLPと思われる。上の写真は復刻ジャケット。


テンポこそ遅いが、リョベットの演奏に似ている

 このうち「先生」はリョベットが2分43秒、セゴヴィアが3分23秒と、演奏時間こそかなり違いますが、セゴヴィアの演奏はリョベットにかなり似ていると言えるでしょう。セゴヴィアにしては、リョベットの書いた譜面をほとんど変更することなく、かなり忠実に演奏しています。


弟子と言わずして・・・・

 さらにリョベットの演奏と聞き比べると、グリサンドの付け方から、ピッチカート奏法やハーモニックス奏法のところをテンポを上げて演奏するなど、ほとんどリョベットの演奏のコピーと言えるくらいです。この「先生」を聴いた限りでは本人がどう言おうと、「セゴヴィアをリョベットの弟子と言わずして、何と言わんや」 と言えるでしょうか。

 セゴヴィアが実際にリョベットからレッスンを受けたかどうかは別にしても、セゴヴィアがリョベットの演奏を手本にしていたのは間違いないでしょう。
 

セゴヴィアの再アレンジ?

 「聖母の御子」は一般にリョベット編として出されている譜面と若干違っています。ナルシソ・イエペスもこれと同じもの(リピートをしていて、演奏時間は長くなっている)を録音していますが、そこでは「セゴヴィア編」と書かれています。セゴヴィアの再アレンジなのでしょうか。

 また、荘村清志さんも同じものを演奏しています(荘村さんはイエペスに師事した)。因みに初出のLPジャケットには、「カタルーニャ民謡」とだけ書かれ、編曲者は書かれていません。セゴヴィアの録音やリサイタルの場合、編曲者はほとんど表記されません。



カタロニア民謡「海の子」?

 本当に余談ですが、私が持っていた国内盤のLPには、この「聖母の御子(El noi de la mare)」が「海の子」と訳されていました。マリア様の「mare」を「海」と訳してしまったのでしょうね。しかしスペイン語の辞書を引いてみると「mare」と言う単語は載っていなくて、一番近い綴りが「marea」で、これは確かに海。マリア様のほうは「Maria」で、綴りも違うが、当然のことながら最初の文字は大文字!

 と言うわけで「mare」が「海」になってしまうのは十分に同情の余地があります。もしかしたら「mare」というのはカタルーニャの方言なのかも知れません。ともかく誤訳としてはなかなかの傑作といえるでしょうね(小ネタにして失礼!)。


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私が持っている国内盤LPのジャケットとオビ。このLPの発売は1977年と書いてあります。この音源は何度も再発を繰り返し、その度にジャケットのデザインも変っているのでしょうが、このジャケットは初出のものに戻っているのですね。もしかしたら「最後の」LPかも。見にくいと思いますが、オビにはしっかりと「海の子」と書いてあります。


意外とあっさり

 「アメリアの遺言」も譜面どおりに演奏していて、もちろんリョベットの演奏に近いのですが、濃厚なリョベットの表現に比べると、意外とさらっとしています。

CDコンサート 日時変更   3月25日→4月8日AM.10:00

 前に3月25日に当教室でCDコンサートを行うと書きましたが、その日は都合の悪いと言う人が多く、4月8日(日)AM.10:00~に変更します。また時間も午前中の方がよいかなということで、AM.10:00からにしました。まだ2~3人程度は大丈夫なので希望の人は言って下さい。



ステファーノ・グロンドーナの「リョベット作品集」から

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レスプエスタ(Respuesta) 

 速いテンポのアルペジオの曲で、かなりテクニカルな曲。曲名の「Respuesta」は「回答」といったような意味のようですが、どういった意味なのでしょうか、このアルバムのタイトルにもなっています。グロンドーナの演奏は相変わらずエネルギッシュ。



マズルカ

 タレガは「マズルカ」の名でいくつか曲を書いていますが、それらの曲は生徒や愛好者のために書かれたと考えられ、技術的にはあまり難しくはありません。このリョベットの曲は自らのコンサート用に書かれたのでしょうか。情緒的な曲ですが、テクニカルに書かれています。グロンドーナはアントニオ・トーレス使用ということで、ピッチを低めにとっているのでしょう。曲は変ロ長調(B♭)。



エスチューディオ・カプリチョ

 ハーモニック奏法、スラー奏法などを多用した曲で、ポジション移動も激しそうな曲。二長調。



ロマンサ

 曲名どおりゆっくりと歌わせる曲ですが、和音の変化は多彩で、決して易しいとは言えない曲。ハ短調~ハ長調。



エチュード

 アルペジオ、スラー奏法、ハーモニックス奏法などにより、高低の動きも激しいエチュード。ホ短調。



スケルツィオ・ワルツ

 華やかな曲で、難易度はさらに高そうです。中間部ではフラット5つの変二長調。



3つのアルゼンチンのエステーロ(アルゼンチン風)

 アルゼンチンのポピュラー・ソングの編曲と思われます。このCDの中では親しみやすい曲といえます。



5つの前奏曲

 タレガの前奏曲のように情緒的な曲ではなく、スラー奏法やグリサンドを多用した、無窮動的な曲が多く、どちらかと言えば練習曲風。




リョベットのオリジナル曲は自分のコンサート用?

 これらのリョベットのオリジナル曲は、タレガのものと比較すると、技巧的なものが目立ちます。リョベットの場合、オリジナル曲は自らの技量をアピールするための作品といった面が大きいのかも知れません。その一方で、13曲のカタルーニャ民謡をはじめ、編曲作品では親しみやすいものが多いように思います。


 
世界初の国際派ギタリスト

 タレガの場合、活動の場がほぼスペイン南東部に限定され、多くに支持者や生徒たちに囲まれて過ごしていたと言われています。聴衆の多くも顔見知りだったのかも知れません。それに対してリョベットの活動の場はヨーーロッパ全土から南北アメリカにおよび、またその録音を通しても世界中の不特定多数の人がその演奏を聴いたことでしょう(おそらく日本に於いても)。

 リョベットは史上初の国際的ギタリストであったとも言え、そうしたことがこれらの作品にも反映しているのでしょう。リョベットのこうしたオリジナル曲からも、リョベットのヴィルトーゾぶりが偲ばれますが、リョベット自身がこれらの曲の録音を残さなかったのはたいへん残念なことです。

 最近ではこうした曲も時折演奏されるようになりましたが、今後は技術に自信のあるギタリストにとっての格好のレパートリーになってゆくのでしょう。
 

ミゲル・リョベットの作品の現代のギタリストによるCD

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ステファーノ・グロンドーナ : リョベット・ギター作品集(2枚組)


リョベットのオリジナル作品と編曲作品 ~カタルーニャ民謡だけが有名だが

 リョベットの作品と言えば、よく知られているのは13曲のカタルーニャ民謡の編曲、さらに「スペイン舞曲第5番」、「朱色の塔」などグラナドスやアルベニスの作品の編曲ということになるでしょう。オリジナル曲に関しては短い小品も含めて10数曲程度のようです。これはタレガやバリオスに比べるとかなり少ない数です。



専業ギタリスト?

 19世紀までのギタリストは、作曲も演奏も両方行うことが当然だったのですが、リョベットは作曲よりも演奏にかなり比重を置く”専業演奏家”、つまり20世紀型ギタリストだったようです。オリジナル作品の数だけで言ったら、セゴヴィアよりも少ないかも知れません。


オリジナル作品を聴くようになったのは最近

 その数少ないオリジナル作品も、私たちの耳に届くようになったのも、ごく最近のことです。この「リョベット作品全集」CDは、イタリアのギタリスト、ステファーノ・グロンドーナによる演奏で、リョベットのオリジナル作品と編曲作品からなる、2枚組ものです。オリジナル作品は7曲収録され、13曲のカタルーニャ民謡他の編曲作品も収録されていますが、比較的よく演奏されるアルベニスや、グラナドスなどの編曲作品、および二重奏曲などは省かれています。

 

ソルの主題による変奏曲 ~第2変奏まではソルの原曲どおり

 リョベットのオリジナル作品で比較的よく演奏される曲としては「ソルの主題による変奏曲」が挙げられます。この曲はソルの「フォリアの主題による変奏曲作品15-1」から主題をとったものです。ソルの原曲では4つの変奏があり、コーダとしてホ長調のメヌエットが添えられています。

 リョベットの作品では、計10の変奏となりますが、第1、第2変奏はソルのものをそのまま使っていて、第3変奏から第10変奏までがリョベットの作曲となります。第6変奏と第7変奏の間にはゆっくりとした間奏曲が置かれています。

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ソルの原曲  =スペインのフォリアによる変奏曲作品15-1 冒頭部分


タレガよりも技巧的

 リョベットの作曲した変奏はかなり技巧的になっていて、リョベットのヴィルトーゾぶりが感じ取れます。最近ではよくコンクールの自由曲などに選ばれますが、そういったこともうなずける曲です。

 リョベットの作曲した第3変奏は3連符による変奏。第4変奏はアルペジオとトレモロ奏法が合体したもの。第5変奏はハーモニックスと急速なアルペジオ。第6変奏はハイ・ポジションまで駆け上がる急速なアルペジオ。メロディックでゆっくりなインテルメッツォを挟み、第7変奏は急速なレガート奏法。第8変奏は自然ハーモニックス。第9変奏は左手のみによるレガート奏法。コーダ的な第10変奏は跳躍が多く、かなり高いポジションの音も使われ、より技巧的で華麗な変奏となっています。

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リョベットの作曲した第10変奏。跳躍が多く、かなり高いポジションの音も使われている。



グリサンドやオクターブ・ハーモニックスは使われない

 確かにタレガの技法(正確にはタレガの時代の技法)を継承とも言え、さらにそれを拡大したような感じになっています。タレガの曲以上に技巧的な曲と言えます。ここでは他のリョベットの曲(カタルーニャ民謡など)でよく使われるグリサンド(小音符を付した)やオクターブ・ハーモニックスは使われていませんが、これはソルの曲を意識してのことでしょうか。



エネルギッシュなグロンドーナ

 このCDでのグロンドーナの演奏は力強く、重厚な音で、まさにヴィルトーゾ的に弾いています。グロンドーナの演奏はアコラ(アコースティック・ライフ)でも聴きましたが、理知的でありながらも、たいへんエネルギッシュな演奏で、コンサートの前、後半を、それぞれインターバルもとらずに弾ききったのを記憶しています。



爽やかなヴィロートー

 他には前に紹介したナクソスのローリエイト・シリーズでトーマ・ヴィロートーもこの曲を演奏しています。ヴィロートーもたいへん技術の高いギタリストですが、こちらは爽やかで澄んだ響きの演奏です。
 
4曲のカタルーニャ民謡

 リョベットと言えば、なんと言ってもカタルーニャ民謡と言うことになると思います。リョベットのカタルーニャ民謡の編曲は13曲ほどですが、そのうち4曲を録音しています。私たちがこれらの曲を演奏する場合にはぜひとも参考にしなければならない録音だと思いますが、さらにはタレガの作品の演奏を演奏する場合のヒントにもなるのではないかと思います。

 「アメリアの遺言」は「Andante espressivo」と指示がありますが、例のごとくかなり速めのテンポで演奏しています。リピートは2回でなく3回になっていますが、SP盤の録音時間の関係でしょうか。


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今年のシニア・ギター・コンクールの課題曲になっていますが

 この曲は今年のシニア・ギター・コンクールの課題曲にもなっていますが、この曲においては「グリサンド記号」の意味、またその弾き方などが気になるところです。楽譜のほうが若干不鮮明で申し訳ありませんが、皆さんの手持ちの譜面を見ながら読んでいただければと思います。



リョベットのグリサンド記号の表記と演奏法

 第1小節目の最後の「レ」から2小節目の1拍目の「ファ」にグリサンド記号が付いています。そして「ファ」の音の前に小音符で同じ「ファ」の音が付いています。ここを見た目どおりに一旦グリサンドで小音符の「ファ」を出してから改めて主音符(大きい音符)の「ファ」を弾き、結果的に「レ-ファファ」というような感じ弾いている人もいますが、やはりリョベットの演奏を聴いた限りではそのようには弾いていません。



ダブっては聴こえない =後続の音を弾きなおす、といっただけの意味

 リョベットの演奏ではこの小音符の「ファ」はほとんど聴こえないようになっていて、「レ-ファ」というように「ファ」はダブっては聴こえません。したがって、この小音符を付けた意味合いというのはグリサンドの後続の音、つまり「ファ」を”改めて弾く”といったものだと結論出来ます。この小音符を付けないと、「ファ」はグリサンドした音だけでよいのか、改めて右指で弾弦すべきなのかはっきりしなくなるので、付けてある音符と考えるべきなのでしょう。

 もっともこの小音符がなかったとしても強拍の音をグリサンドの音だけで済ますというのはたいへん不安定ですから、仮にそのように表記されている場合でもここは改めて弾弦すべきところでしょう。


メロディを歌わせることがより重要

 またこの録音ではグリサンドの表記はあっても、ほとんどグリサンド音が聞こえないところもあります。グリサンド表記が付いたところは、実際にグリサンド音が出るかどうかということよりも、メロディを歌わせるといった気持ちのほうが大事なのかも知れません。


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この世への未練?

 また”下り”のグリサンドの箇所には「dolce」や「poco rall.」などの指示があり、やはりこだわった箇所と言えます。リョベットはここを”糸を引くように”弾いています。メロディの最後の「ファ-レ」というところはこの世を去ってゆこうとするアメリア姫の”この世へのなごり”を表しているのでしょうか。

 最後から2小節目のところにはフォルテ記号が付いていますが、リョベットはこの箇所を特に強く弾いているというより、最後の8小節、つまりメロディが低音弦になった部分全体を大きく弾いているようです。つまりメロディとなっている低音弦をしっかりと鳴らせと言った意味に考えたほうがよいようです。



タレガを継承したのではなく、その時代のスペインのギター奏法を継承した

 この時代頃まで自然ハーモニックスの場合は、実際に出る音ではなく、開放弦で表記されています。リョベットの表記は、基本的に師のタレガと全く同じといってよく、そういった点でもタレガを継承しているといってもよいでしょう。

 もっとも、こうした記譜法にしろ、演奏法そのものにしろ、正確には個人的にタレガのものを継承したというより、タレガに代表される19世紀末から20世紀初頭にかけてのスペインのギターの記譜法と奏法を継承したというべきかも知れません。ともあれ、タレガとリョベットの演奏法はかなり近いものだったことは確かで、再三になりますが、タレガの曲を演奏する場合、このリョベットの演奏を聴くことは不可欠でしょう。


「商人の娘」はかなり速い

 オクターブ・ハーモニックスが多用される「商人に娘」は「Andante ma non toroppo」と指示されていますが、これもかなり速く、聴いた感じではアレグロかアレグレットくらいに聴こえます。演奏時間が2分ちょうどくらいになっているので、これも収録時間の関係かも知れません。

 
「哀歌」では音をダブらせるグリサンドも

 「哀歌」は上記の2曲にくらべるとやや落ち着いたテンポで弾いています。8小節目には「シ-レレ」のようにグリサンドの後の音がダブって聴こえるグリサンドが出てきますが、譜面を見ればわかるとおり、この場合は前述のものとは別の表記をしています。


声部をまたぐグリサンドも

 「先生 ~El Mestre」にもグリサンドが多用されていますが、この曲では主旋律だけでなく、内声部や低声部にも、ところによっては声部をまたいだグリサンド記号が付いています。「民謡」いうこともあるのでしょうが、タレガよりも多用している感じがします。