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中村俊三 ブログ

中村ギター教室内のレッスン内容や、イベント、また、音楽の雑学などを書いていきます。

1950年代以降の録音 ~米デッカ専属契約


まさにセゴヴィアの最盛期

 セゴヴィアは1950年代に入ると、米デッカと専属契約を結び、1972まで多くの録音を残すことになります。米デッカは文字通りメジャーなレーヴェルで、録音技術もセールスもこれまでとはかなり異なり、セゴヴィアの録音としてはまさに最盛期となってゆきます。私たち持っているセゴヴィアの演奏のイメージは、ほぼこの時代の演奏を基にしていると言っても過言ではないでしょう。

 1950年代にはセゴヴィアは60代を迎えることになりますが、しかし演奏はまだまだ若々しく、活気溢れるものといってよいでしょう。1952年~1956年まではモノラル録音ですが、私個人的にはこのモノラル録音こそがセゴヴィアの演奏のイメージに最もぴったりくる感じがします。何といってもハウザーⅠ世の音が冴え渡る!

 

かつて17枚のCDに復刻されていたが

 この1952~1972年のデッカへの録音は、1980年代に国内盤として17枚のCDに復刻されました。その際にはLPオリジナルの曲順ではなく、「バッハの作品」、「スペイン音楽」、「ポンセの作品」といったようにジャンルや作曲家ごとに組み合わせを変えて発売されました。この17枚のCDのうち、私が購入したのは輸入盤も含め15枚で、2枚ほど抜けてしまいました。



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 今現在ではこのシリーズのCDは廃盤となってしまい、ごくわずかのCDのみ在庫があるといった状況のようです。今現在この時代のセゴヴィアのCDを購入するとしたら、まず考えられるのは前述のナクソスのシリーズで1950年代の録音は8枚ほどのCDになっています(各CD単売)。

 さらに人気曲だけをセレクションしたCDが多数あると思いますが、1950年代に録音した最初の6枚だけはオリジナルの縮小ジャケット入りで、オリジナルの曲順で発売されています。以前にも紹介しましたが、あとでまた詳しく述べます。

 セゴヴィアの録音に関しては、今現在古いものほど入手しやすく、後の時代のものほど入手しにくくなっているようです。1970年代に録音した4枚のLPに関してはCDとして出ているかどうか、情報がありません。



LP録音年代順に紹介

 それではちょっと手間のかかる作業になりそうですが、これらのオリジナルのLPを録音された年代順に紹介してゆきましょう。やはり私にとっても、また多くのギター愛好者にとっても想い出のあるLPだと思いますので。



<アンドレス・セゴヴィア・リサイタル>  1952年7月録音
 
ムダラ : ロマネスカ
ポンセ : 前奏曲、バレー、ジーグ (ヴァイス作曲として曲名表示)
バッハ : 前奏曲(チェロ組曲第1番より)、 ガヴォット(チェロ組曲第6番より)
ソル : アレグロ(ソナタ作品25より)
メンデルスゾーン : ベニスの舟歌
シューベルト : メヌエット
モレーノ・トロバ : ソナチネ(全3楽章)
アルベニス : アストゥリアス


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上記のLPの縮小オリジナルジャケット入りのCD。曲順もオリジナルどおり。


 もちろんのことですが、これ以降紹介するLPは最初からLPとして録音されたものです。その記念すべき最初のLPは、タイトルにもあるとおり、一つのリサイタルの形となっていますが、他のLPもこうした形をとっているものが大半です。このLPは写真のとおり、また前述したようにドイツ・グラモフォンからオリジナル縮小ジャケット入り(6枚組)のCDで入手できます。

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オリジナルジャケト入りの復刻CD6枚入りのコレクション(ドイツ・グラモフォアン)




 このように復刻CDがオリジナルのLPと同様の形で聴けるのは嬉しいことです。やはりセゴヴィアの演奏はオリジナルのLPの曲順で聴きたいものです(CDにはA面、B面がないが)。

 オリジナルのLPではルネサンス時代のアロンソ・ムダラの作品に引き続き、シルビウス・レオポルド・ヴァイスとJ.S.バッハというドイツバロックの二人の作曲家の作品。最後に古典派の巨匠フェルナンド・ソルの曲と、古典派以前の作品でA面が構成されています。

 ご存知のとおり、この”ヴァイスの作品”とされた「前奏曲」、「バレー」、「ジーグ」はマヌエル・ポンセの作品ですが、セゴヴィアの演奏では前後の作品にしっかりと馴染み、むしろセゴヴィアの演奏にはこれらの作品のほうがかえって似合う感じです。

 バッハの無伴奏チェロ組曲から2曲録音していますが、「プレリュード」はポンセ編曲で、低音のやや多めに付け加えられています。1935年、1973年にも録音していて、計3回録音していますが、やはりこの1952年のものがもっとも多く聴かれているでしょう。「ガヴォット」は、原調より一音上げられ、ホ長調で演奏しています(楽譜も出版されている)。1946年に続き2度目の録音です。


ソルの作品の真価を伝える

 次にソルの作品25のソナタの第1楽章「アレグロ」を録音していますが、この当時はまだこうしたソルの大曲を録音、あるいは演奏することは稀だったのではと思いますが、全曲演奏ではないとしても、この曲のすばらしさや、内容の充実度を一般に知らしめた演奏といえるでしょう。



B面はロマン派以降の作品

 オリジナルのLPではB面はロマン派以降の作品となっています。メンデルスゾーンとシューベルトの曲はどちらもタレガ編を用いていますが、いつものとおりセゴヴィアは若干手を加えて演奏しています。どちらも名演ですが、メンデルスゾーンの「ベニスの舟歌」は、DGのオリジナル・ジャケット入りのほうでは後半に”音飛び”のようなものがあります。私が持っているCDだけなのでしょうか? 国内盤CDのほうには特にトラブルはありません。

トロバの「ソナチネ」全曲演奏

 トロバの「ソナチネ」は第1楽章のみ1927年に録音していますが、このLPでは晴れての全曲演奏となります。
モーリス・ラヴェルが絶賛したというこの曲の魅力が充分感じられる演奏といえるでしょう。



ギターで「アストゥリアス」が弾かれるようになったのは意外と遅かった?

 最後にアルベニスの「レーエンダ(アストゥリアス)」が収録されています。もちろんこの曲はギターで弾くアルベニスの曲としては最も人気が高く、知名度も高い曲ですが、ギターで演奏されるようになるのは、意外と遅かったようです。

 同じアルベニスの作品でも、グラナダやセビージャはアルベニスの生存中からタレガなどによって演奏されていましたが、この「アストゥリアス」発表がやや遅かったこともあってか(1895年)、少なくともタレガやリョベットは編曲していません。

 いつ頃からこの曲がギターで演奏されるようになったのかはわかりませんが、おそらくセゴヴィアも戦前には演奏していなかったのではと思います。セゴヴィアにとってはこの1952年が初録音、および唯一の録音です。因みにセゴヴィアは他のギタリストの編曲を用いていますが(現代ギター誌に記事)、若干手直して演奏しています。



他のギタリストも踏襲

 この「レーエンダ」は作曲年代からすれば「ソナチネ」の前にくるはずですが、このLPはリサイタルの形をとっており、そのリサイタルの最後を締めくくるのにふさわしいということで最後に置かれています。こうしたことも後のギタリストたちによって踏襲されます(私もそれを時々踏襲しています)。 
 
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1946年12月 ニューヨーク録音

<バッハの作品>
 プレリュードBWV999
 クーラント(無伴奏チェロ組曲第3番)
 サラバンド(リュート組曲第1番)
 ブーレ(リュート組曲第1番)
 ガヴォット(無伴奏チェロ組曲第6番)
 フーガ(無伴奏ヴァイオリン・ソナタ第1番)
 シャコンヌ(無伴奏ヴァイオリン・パルティータ第2番)
 ガヴォット(無伴奏ヴァイオリン・パルティータ第3番)
 


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 以上の曲はすべてバッハの曲で、曲数からいってもちょうどLP一枚に収まりそうな数なので、LPを想定して録音されたのではとも思えますが、1944年のものと同様に当初はSP盤として発売されたようです。LPとして発売されたのは1960年代になってからのようで、私自身でもこのLPは持っていました。

 そのLPで聴いていた時には音質がかなり悪く感じましたが、このナクソスのCDで聴く限りではそれなりに聴ける録音といった印象です。ただしノイズの多いものから、ノイズがほとんどないものまで、曲によっていろいろで、確かに個々のSP盤からの復刻されたことを裏付けているようです。

 なお、ドキュメント盤(10組)では例のごとくピッチがばらばらなのですが、ナクソス盤ではどの曲のほぼ同じピッチになっていて、そうした点では評価できるでしょう。 


シャコンヌ初録音

 このバッハの録音集では、やはり「シャコンヌ」が目を引きます。セゴヴィアは1935年にパリでこのシャコンヌのギター初演を行いましたが、このシャコンヌの演奏でギター界のみでなく、音楽界全体から高い評価受け、世界のトップ・ギタリストの地位を確定させます。

 セゴヴィアは1955年にもこの曲を録音しますが、この49年盤のほうが演奏時間は1分半ほど速くなっています。全体の落ち着いた感じとか音質では1955年盤に分がありますが、勢いやスリリングさはこちらの方があるでしょう。

 出だしはかなり押さえ気味といった感じですが、速いところはより速くといった感じで、アルペジオに向って大きな盛り上がりを見せます。音価については例によってデフォルメがかなりあり、特に付点音符は正確な長さで演奏されることはほとんどありません。

 ドキュメント盤に比べると、このナクソス盤ではかなりノイズが入っていますが、音全体としては、やはりこちらの方がよいでしょう。ドキュメント盤ではノイズと一緒に本体も若干削られてしまっているようです。



リュート組曲第1番のサラバンド、ブーレは原調

 前に録音した、リュート組曲第1番の「アルマンド」はイ短調に移調されて録音していましたが、この「サラバンド」と「ブーレ」は原調どおりホ短調となっています。少なくともこの曲に関して、セゴヴィアは全曲通して演奏する意志はなかったようです。

 「サラバンド」は和音の音の数を多くしたり、低音弦のハイポジションを使うなどして静かな曲というより、迫力のある曲に仕上げています。「ブーレ」の方は比較的軽めに演奏していますが、最後の音(ミ)をフォルテでヴィヴラートをかけているのが特徴的です。
 
 残りの曲のうち「ガヴォット」(チェロ組曲第6番)を除いては再録となりますが、演奏そのものとしては、この1946年盤のほうが勢いを感じます。




1949年6~7月 ロンドン

クレスポ : ノルティーニャ
ポンセ : アレグロ(ソナタ・クラシカより)
ヴィラ・ロボス : 練習曲第1番、第8番
モレーノ・トロバ : アラーダ、ファンダンギーリョ
トゥリーナ : ファンダンギーリョ
テデスコ : タランテラ
ポンセ : 南のソナチネ(全3楽章)
テデスコ : ギター協奏曲二長調(全3楽章) 




アランフェス協奏曲とほぼ同じ時期に

 1949年というと、そろそろLPが登場する頃なのですが、これらの録音もSP盤として発売されました。LP盤として市販されたのはおそらく1970年代だろうと思います。これらの曲で注目はやはり、テデスコの協奏曲でしょう。

 ギター協奏曲として最も有名な「アランフェス協奏曲」の初演は1940年で、ソリストはレヒーノ・サインス・デ・ラ・マーサでした。初の録音もこのギタリストによるもので、時期的にもこのセゴヴィアのテデスコの協奏曲の録音と前後した時期だったと思います。

 奇しくも、セゴヴィア=テデスコ VS デ・ラ・マーサ=ロドリーゴ ということになったわけですが、勝負の行方は皆さんのご存知のとおりです(音楽は勝ち負けではないが)。セゴヴィアがアランフェス協奏曲を弾かないのは有名な話で、その理由も皆さんご存知のとおりと思います。

 そういった訳で、人気、知名度ではアランフェス協奏曲に一歩譲ることになりますが、このテデスコの協奏曲もなかなか優れた曲で、魅力的な曲です。間違いなくギター協奏曲のNO.2候補の一つでしょう。セゴヴィアは他にポンセ、ロドリーゴの「ある貴神のための幻想曲」、ボッケリーニ(カサド編)を録音しています。



ポンセの「南のソナチネ」の唯一の全曲録音

 ポンセの「南のソナチネ」を全曲録音していますが、これまでセゴヴィアがソナタや組曲を全曲録音するのはあまりなく(ポンセの「イ短調組曲」以来)、珍しいことと言えます。またセゴヴィアはリサイタルでもよくこの曲を取り上げているようですが、ほとんどの場合第2楽章を「ソナタ第3番」のものと入れ替えて演奏しています(私が聴いた時もその形)。

 したがって、この録音はセゴヴィアがこの曲をオリジナルの形で演奏したものとして、貴重なものと言えるでしょう。全体に速めのテンポで活き活きと演奏していて名演と言えると思いますが、スラーやフレーズの頭に強いアクセントを置くのは他の曲と同じで、また音価のデフォルメもかなり多いのも同じです。



タランテラもなかなかよい

 テデスコの「タランテラ」はその後録音していないので、貴重な録音といえます。活気ある演奏で、爽快感があります。この曲は1955年のエジンバラでのライヴでも演奏していますから、この時期にはよく演奏していた曲なのでしょう。

 以上の曲は比較的音質もよいのですが、他のヴィラ・ロボスやトゥリーナ、トロバなどの曲は音質が明らかに落ちます。SPの保存状態などによるものなのでしょうか。
ありがとうございました


 ちょっと日にちが経ってしまいましたが、15日(金)は県立図書館で私のコンサート、16日(土)は東海村リコッティでオーシャン・パル・ギター・コンサートが行われました。


県立図書館でのコンサート

 図書館でのコンサートはわたしの独奏のみのコンサートですが、平日の午後にもかかわらず、約120名ほどの方に来ていただきました。本当にありがとうございました!! 多少なりとも楽しんでいただけていたらと思います。


 ここでのコンサートは普段あまりギターに縁のない人も来てもらえるので、アコラやギター文化館でのコンサートとはまたちょっと違った内容でと考えています。今後も出来れば年に一度くらいはコンサートを行えればと思います。

 大学のギター部時代の仲間のIさんから、演奏終了後、館の人を通してお花をいただきました。Iさんとは30数年以上は顔を合わせてなく、連絡先もわからずお礼が言えません。それにしてもたいへん懐かしい名前に驚いたと共に、とても嬉しく思いました。当ブログを見ているはずはないとは思いますが、Iさん、たいへんありがとうございました。



オーシャン・パル・ギター・コンサート

 16日のリコッティでのコンサートは私を含めて、約18名の人によるコンサートでしたが、雨にもかかわらず約100名くらいの人が聴きに来ていました。ここでのコンサートは2度目ということで、前回の昨年よりは出場者も多くなりました。それぞれの演奏のほうも若干慣れてきたかなと感じました。

 私個人的にいえば、予想外に室温が高く、汗で親指が引っかかり気味になってしまった前日より(ちょっと言い訳が多いが)、この日のほうが多少は良かったかなと思います。




セゴヴィア 1940年代の録音

 またセゴヴィアの話に戻りましょう。1944年の録音のうち、前回のLP(セゴヴィア・ギター・リサイタル)に含まれなかった録音は、LP化が遅れ、一般にはあまり聴かれないものになりました。


1944年の録音のうちLP「セゴヴィア・ギター・リサイタル」に含まれなかった曲

D.スカルラッティ : ソナタホ短調
パガニーニ~ポンセ編曲 : ロマンス
ラモー : メヌエット
パーセル :アイルランドの新しい歌
ダウランド : ガリヤルド
A,スカルラッティ : ガヴォット
A.スカルラッティ : サラバンド
ハイドン : アンダンテ
ハイドン : メヌエット
 



前のLPの余り物?

 1970年代末頃には、これらの曲のうち一部の曲がアルベニスの曲などと組み合わされて「アンドレス・セゴヴィア秘曲集」としてLPで発売されましたが、時期的にもあまり話題にはならかったように思います。

 といった訳でかつては、これらの曲は文字通り「秘曲」となってしまったわけですが、現在ではCDとなって安価で、簡単に入手できるようになりました(複数のレーヴェルから廉価盤で出されている)。

 これらの曲は主にバロック時代の作品が中心となっていますが、「A,スカルラッティ作」となっている2曲はご存知のポンセの作品です(ドメニコ・スカルラッティ作では、ばれやすいので、あまり有名でない父親のアレクサンドロのほうにした?)。 



「組曲イ短調」と並ぶ、「組曲二長調」

 二長調で書かれたこられの作品は後に5曲からなる「組曲ニ長調」とされ、今日ではポンセ作曲「組曲二長調」として出版されています(おそらくこれにはポンセ自身もセゴヴィアも関与していないと思われる)。結果的に「組曲イ短調」と並ぶポンセのバロック風組曲となっています。

 ドメニコ・スカルラッティ(息子の方)のソナタは数百曲あり、ギターで演奏される曲だけでも数十曲以上はあると思いますが、かつてはギターではこの「ホ短調」のもが最も有名で、人気もありました。「ラモーのメヌエット」はイエペスが禁じられた遊びで弾いた曲とは別の曲です(鍵盤曲からの編曲)。



やはりセゴヴィアのハイドンはいい

 パガニーニの「ロマンス」は、ほぼ単旋律の原曲にポンセが肉付けしたもので、セゴヴィアは1960年代にも録音しています。パーセルとダウランドの曲は一つのトラックに収められています。ハイドンの「アンダンテ」は基本的にタレガ編、「メヌエット」は弦楽四重奏からのものです(交響曲「奇跡」からのものとは別曲)。こちらも1960年代に再録しています。なぜかセゴヴィアにはハイドンがよく合う感じです。

 演奏は曲目の関係で派手なものではなく、どちらかと言えばしっとりとした感じのもですが、あるいはこうしたことがLP化が遅れた要因だったのかも知れません。音質に関しては、このナクソス盤で聴く限り、ノイズ等は結構あるが、決してそれほど悪いものでないでしょう。大幅にノイズ・カットしたものよりかえってよいのではと思います。
明日は図書館でコンサート

 明日(6月15日金曜日)は水戸市三の丸の茨城県立図書館で「中村俊三ギター・コンサート」があります。曲目はスペインのギター曲と映画音楽などのポピュラー曲で、一般の人にも聴きやすいものになっています。入場無料で、時間は14:00~15:30となっています。平日の午後なので都合のよい方は限られると思いますが、よければ聴いてみて下さい。

明後日は東海村リコッティ

 また16日土曜日には東海村のリコッティ(東海駅前)でギター愛好家のコンサート「オーシャン・パル・ギター・コンサート」があり、私も出演します。時間は13:50~で入場無料です。





セゴヴィアの1940年代の録音

 それでは前回に引き続き、セゴヴィアのCD紹介となります。前回の曲目リスト(1940年代の録音)のうち、1944年の下記のものは、戦後LP「セゴヴィア・リサイタル」として発売され、多くのギター・ファンに親しまれました。


1944年1月 ニューヨーク

アルベニス : グラナダ、朱色の塔、セビージャ
グラナドス : ゴヤの美女、スペイン舞曲第5番、同第10番
ミラン : パヴァーナⅠ、Ⅱ
サンス : パヴァーナ
作者不詳 : カンション、サルタレッロ
モレーノ・トロバ : ブルガレサ、アルバーダ、アラーダ
リョベット : 聖母の御子、アメリアの遺言
タレガ : ムーア風舞曲、メヌエット
ド・ヴィゼー : エントラーダとジーグ、ブーレとメヌエット


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1950年代に発売されたLP「セゴヴィア・ギター・リサイタル」。 初出のLPジャケットだが、上の写真はレプリカのCDジャケット。

 これらの曲は前回紹介したナクソス盤でも聴けますが、ドイツ・グラモフォンから出ている6枚組のオリジナル・紙 ジャケット入りのCDでも聴けます。


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ドイツ・グラモフォンから出されているオリジナル・紙ジャケット入り6枚組。曲順もオリジナルのLPどおり。やはりセゴヴィアはオリジナルの曲順で聴きたい。お薦め。


 このコレクションには他に 「アンドレス。セゴヴィア・リサイタル」~1951年録音、 「アンドレス・セゴヴィア・コンサート」~1952年録音、 「アンドレス・セゴヴィア・プログラム」~1952年録音、 「
アンドレス。セゴヴィアの夕べ」~1954年録音、 「アンドレス・セゴヴィア・プレイズ」~1954年録音 の5枚が入っています。


やはりオリジナルの曲順で聴かないと

 オリジナルジャケットもさることながら、なんといってもそれぞれのLP発表時のオリジナルの曲順で聴けるということがとても嬉しい。現在出されているセゴヴィアのCDのほとんどが曲目を再編集してありますが、やはりセゴヴィアの演奏はオリジナルの曲順で聴かないと味わいも半減してしまうと思います。そういった意味でとてもお薦めのコレクションです。価格も3000円台だったと思います。

 こういった形で他のセゴヴィアのCDも出されるようのですが、残念ながら今現在ではこのコレクションのみとなっています。


やはりこの演奏が最もすばらしい

 最初の1944年録音の「セゴヴィア・ギター・リサイタル」の話に戻りますが、なんといってもこのLPの聴きどころは3曲ずつのアルベニスとグラナドスの作品です。セゴヴィアはこれらの曲を何度か録音していますが、それらの中ではやはりこの録音が最もすばらしいでしょう。全体にテンポも速くとても活き活きとした演奏です。

 セゴヴィアの残した録音としても代表的なものといってよいと思いますが、また、この演奏に魅せられてこれらの曲に取り組んだギタリストも少なくはないのではないかと思います。もちろん私もその一人です。これらの曲はその後いろいろ曲目の組み合わせをかえてLPやCDとして発売され、多くのギター・ファンに聴かれたものとなりました。


自作の曲をド・ヴィゼーの曲と組み合わせて

 オリジナルのLPでは、アルベニスとグラナドスの計6曲がA面で(ちょとお懐かしい言葉ですが)、残りはB面となります。B面はルネサンスやバロック時代の作品、及びタレガ、リョベット、モレーノ・トロバの作品となっています。

 この中では、前にも触れたセゴヴィアの自作と言われる「ジーグ」がド・ヴィゼーのオリジナル曲と組み合わされて収録されています。なおこの「ジーグ」は1939年にはフローベルガー作曲として出されましたが、1944年の場合はロベルト・ド・ヴィゼー作曲として出されました。また1961年には作者不明の「ジーガ・メランコリー」として録音されています。

 
1940年代の録音

 セゴヴィアは1944年にニューヨークに移住したのをきっかに、USAのマイナー・レーヴェル、Musicraft社で録音をするようになります。この時代の録音はダイレクト・カッティングではなく、磁気テープによる録音となりました。したがって編集も可能になったわけですが、しかしまだLPは発売されてなく、実際に市場に出た形としてはSP盤ということになります。

 しかしこの時期は、戦時中から戦後と言うことで、これらの録音はSP盤としてはほとんど日本には入らず、日本のギター愛好者の多くは、戦後LP盤として発売されたものを聴いたのではないかと思います。

 これらの録音のうち、アルベニスやグラナドスの曲などは比較的早い時期からLPとして発売され、多くの愛好者に親しまれたものもある、一方、LP化が遅くなり、比較的最近になってから一般の愛好者の耳に届くようになったものもあります。



 1944年1月 ニューヨーク

アルベニス : グラナダ、朱色の塔、セビージャ
グラナドス : ゴヤの美女、スペイン舞曲第5番、同第10番
ミラン : パヴァーナⅠ、Ⅱ
サンス : パヴァーナ
作者不詳 : カンション、サルタレッロ
モレーノ・トロバ : ブルガレサ、アルバーダ、アラーダ
リョベット : 聖母の御子、アメリアの遺言
タレガ : ムーア風舞曲、メヌエット
ヴィゼー : エントラーダとジーグ、ブーレとメヌエット

D.スカルラッティ : ソナタホ短調
パガニーニ~ポンセ編曲 : ロマンス
ラモー : メヌエット
パーセル :アイルランドの新しい歌
ダウランド : ガリヤルド
A,スカルラッティ : ガヴォット
A.スカルラッティ : サラバンド
ハイドン : アンダンテ
ハイドン : メヌエット


1946年12月 ニューヨーク

<バッハの作品>
 プレリュードBWV999
 クーラント(無伴奏チェロ組曲第3番)
 サラバンド(リュート組曲第1番)
 ブーレ(リュート組曲第1番)
 ガヴォット(無伴奏チェロ組曲第6番)
 フーガ(無伴奏ヴァイオリン・ソナタ第1番)
 シャコンヌ(無伴奏ヴァイオリン・パルティータ第2番)
 ガヴォット(無伴奏ヴァイオリン・パルティータ第3番)


1949年6~7月 ロンドン

クレスポ : ノルティーニャ
ポンセ : アレグロ(ソナタ・クラシカより)
ヴィラ・ロボス : 練習曲第1番、第8番
モレーノ・トロバ : アラーダ、ファンダンギーリョ
トゥリーナ : ファンダンギーリョ
テデスコ : タランテラ
ポンセ : 南のソナチネ(全3楽章)
テデスコ : ギター協奏曲二長調(全3楽章)
 


 これらの録音は1930年代までの録音と共に前述の10枚組のCDにすべて収められていますが、1940~1950年代のセゴヴィアの録音を収めたナクソスのシリーズでも聴けます。マスタリングが若干違うようで、ナクソス盤はノイズ・カットが控えめになっていて、サーというノイズは若干ありますが、必要な部分も削られてなく、かえってよいように思います。

 ただしなぜか、このナクソス盤は私のCDプレーヤー(マランツ)では反応しなくて、パソコンでダビングして聴いています。元々の録音の音質は前にも言ったとおり、1930年代までのものと基本的にはそれほど変わりません。


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ナクソスのセゴヴィア集。1940~1950年代の録音が10枚ほどのCDとなっている。


 
吉田秀和さん

 先日音楽評論家の吉田秀和さんが亡くなったという記事が新聞に載っていました。98歳だそうです。吉田秀和さんと言えば、私たち水戸市民にとっては音楽評論家というより、水戸芸術館の館長ということのほうがピンとくるかも知れません。

 吉田秀和さんのことは前にも書きましたが、私が大学生の頃FM放送で知り、その後その著作も読むようになりました。今現在音楽の友社から出ている吉田秀和全集は何巻あるのかわかりませんが、自分で買ったのと、図書館で借りて読んだのとを合わせると、10数巻は読んだと思います。


その演奏家の側に立って聴く

 読んだ内容のほとんどは忘れてしまっていますが、印象に残っている言葉としては、吉田さんが音楽を聴く時の心構えとして、「自分の好みや考え方ではなく、その演奏家の側に立って聴くことを心がけている」といったものです。

 もちろんこれは評論家としての立場に立ってという意味もあると思いますが、音楽を楽しむとか、鑑賞するといった時も同じではないかと思い、私自身でもCDやコンサートを聴く時に、そういったことを心がけるようにしました。

 いろいろ思い返せば学生時代からこれまで、耳から、あるいは目から入った吉田さんの様々の言葉は、私にとってはたいへん貴重なものでした。ご冥福をお祈りいたします。

 吉田さんはつい最近まで評論を書いていたそうで、まさに大往生と言えますが、でもまだあと5~6年くらいはがんばって欲しかったかな・・・・・


白く、よく動く指がきれいだった

 ところで、吉田さんとギターとの関係はというと、これが全く接点がないようです。吉田さんの興味の中心はモーツァルトやベートーヴェン、バッハ、シューマンなどのドイツ系の音楽にあるので、ラテン系とも言えるギターの音楽にはあまり興味が向かなかったのでしょう。

 10数巻の全集の中で、ギターに関連することを述べたのは、私の記憶の範囲では(かなり怪しいですが)、ただ一度だけ、確か、1950年代にニューヨークでアンドレス・セゴヴィアを聴いた感想を2~3行ほど書いています。

 どの巻に書いてあったか思い出せないのでそ、の文章を探し出すことは出来なかったのですが、私の曖昧な記憶によれば、「ニューヨークでギターのアンドレス・セゴヴィアを聴いた。バッハの『シャコンヌ』などを演奏した。とても小さな音だった。白くよく動く指がきれいだった」 ・・・・確かこんな内容だったと思います。



明日(6月2日)はセゴヴィアの25回目の命日

 さて、そのセゴヴィアは25年前の6月2日にこの世を去りました。つまり明日には亡くなってから4半世紀となるわけです。そこで当教室でも次の6月3日(日)にセゴヴィアの「没後25年記念CDコンサート」を行う予定になっています。

 しかしその命日にこだわったおかげで、ブログのほうが進展せず、これまでのところやっと戦前のSP録音を2度にわたって紹介しただけとなっています。予定としてはブログのほうを読んでもらってからCDの方を聴いていただくはずだったのですが、今回は完全に逆になってしまいました。

 ・・・・それでは多少なりとも追いつくために記事を書き進めましょう。



1935年4月9日
 プレリュード(無伴奏チェロ組曲第1番より J.S.バッハ~ポンセ編曲)
 華麗なるエチュード(アラール~タレガ)
 マズルカ(ポンセ)
 ワルツ(ポンセ)

1936年 10月13日
 カンツォネッタ(メンデススゾーン)
 ヴィヴォ・エネルジコ(テデスコ)

1939年 
 メヌエットⅠ、Ⅱ、ブレー(ド・ヴィゼー)
 ジーグ(フローベルガー作曲と表記、実際はセゴヴィア作)
 セビージャ(アルベニス)
 グラナダ(アルベニス)
 スペイン舞曲第5番(グラナドス)
 スペイン舞曲第10番(グラナドス)
 



当時の最先端技術

 前回の録音(1930年)から5年ほど間があきますが、前回までのものを含め、これらの録音はロンドンのHMV社で行われます。録音方式は電気録音によるダイレクト・カッティングとなります。

 1927年と1939年の録音を比べると、後の時代の方が多少音質は良くなりますが、録音方式に基本的な違いがないせいか、それほど大きくは変りません。しかし同じ年代に録音されたバリオスやリョベットの録音からするとかなりよい音質と言えます。セゴヴィアの録音は当時の最先端の技術で行われたのかも知れません。



風雲急を告げるヨーロッパ

 セゴヴィアは1930年にアメリカ公演、1935年にはパリでバッハのシャコンヌの初演(ギターでの)など、この時期にギタリストとして世界的な名声を築きます。しかし1936年からスペイン内乱、1939年から第二次世界大戦と世界、特にヨーロッパは激動の時代となります。セゴヴィアはそうした戦禍を避けて、1936年にウルグアイのモンテビデオに、1944年からはニューヨークに移住します。



ハウザーⅠ世を使い始める

 また使用する楽器も、1937年にこれまでのマヌエル・ラミレスからヘルマン・ハウザー(Ⅰ世)に変ります。この楽器にはセゴヴィアの要望が強く反映した楽器といえ、ホセ・ラミレスⅢに代わる1960年まで使用します。セゴヴィアの使用した楽器といえば、誰しも真っ先にこのハウザーを思い浮かべるでしょうが、マヌエル・ラミレスもホセ・ラミレスもハウザーと同じく20数年使用していて、使用した年数だけ見ると3本ともほぼ同じ年数です。

 それでもこのハウザーがセゴヴィアの楽器として一番印象に強いのは、この楽器が優れていたことと、セゴヴィアが最も充実した時期に使われたこともあるでしょう。


1935年の録音

 今回はそうした時代の録音ですが、バッハのチェロ組曲第1番からの「プレリュード」はポンセの編曲で、低音などはやや多めに付いています。これまでのところ、意外とタレガの曲の録音は少なく、この「アラールによる華麗なエチュード」はタレガの曲としては2曲目となります。
 
 セゴヴィアは、いろいろな作曲家の作品の中で、ポンセの作品を最も多く演奏し、録音していますが、1935年の2曲(マズルカとワルツ)は1950年代にも録音しています。なかなか魅力的な曲です。


1936年の録音

 メンデルゾーンの「カンツォネッタ」はタレガがメンデルスゾーンの弦楽四重奏曲から編曲したものですが、それをさらにセゴヴィアが手直しして演奏しています(タレガ編の場合、ほとんどそのようにしている)。セゴヴィアの演奏した曲の中では人気曲の一つといえるでしょう。

 テデスコのソナタ「ボッケリーニ賛」から第4楽章の「ヴィヴォ・エネルジコ」を録音していますが、1958年に全曲録音しています。



1939年の録音

 バロック時代のギタリスト、ロベルト・ド・ヴィゼーのメヌエットは、本来「Ⅰ→Ⅱ→Ⅰ」のように組み合わせて演奏すべきなのですが、セゴヴィアは別個に録音しています。「ブーレ」のほうはコスト編を参考にしているようですが、冒頭の”2つの8分音符”を”2個の4分音符”に直しています。こうすると厳密には「ブーレ」ではなく「ガボット」になってしまうのでは?



フローベルガー? ド・ヴィゼー? 作者不詳?

 次のフローベルガーの「ジーグ」として録音されている曲はセゴヴィアの愛奏曲の一つで、1949年にはド・ヴィゼー作として、1961年には作者不明として録音されています。どうやらセゴヴィアの自作のようですが、短い愛らしい小品です。

 グラナドスとアルベニスの曲を2曲ずつ録音していますが、アルベニスとグラナドスの曲もセゴヴィアにとってこの年が初録音となります。これらの曲は5年後、つまり1944年にも録音しますが、聴いた印象としては1939年録音のほうがテンポもやや遅く、落ち着いた感じがあります。活きの良さと音質では1944年の方に分があるでしょうか。