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中村俊三 ブログ

中村ギター教室内のレッスン内容や、イベント、また、音楽の雑学などを書いていきます。

ある貴紳のための幻想曲/南の協奏曲  録音1958年5月

ロドリーゴ : ある貴紳のための幻想曲
ポンセ : 南の協奏曲

指揮 エンリケ・ホルダ  シンフォニー・オブ・ザ・エア



セゴヴィアのデビュー50年を記念した3枚

 この年(1958年)は、セゴヴィアがグラナダで初めてのリサイタルを行ってから50年にあたり、それを記念してこの3枚のLPを録音、発売しました。


セゴヴィアはアランフェス協奏曲を一度も弾いていない

 その中の一枚がこの2つの協奏曲を録音したもので、協奏曲の録音が少ないセゴヴィアとしては貴重なものでしょう。

 因みに、セゴヴィアはギター協奏曲として最も知られ、また人気も高いロドリーゴの「アランフェス協奏曲」を、生涯一度も演奏していません。その主な理由としては、この曲が当時ライバル関係にあったスペインのギタリスト、レヒーノ・サインス・デ・ラ・マーサに献呈され、初演されたからと言われています。

 ロドリーゴとしては、アランフェス協奏曲を、当初セゴヴィアに献呈する予定だったようですが、セゴヴィアは当時(1940年)戦禍を避けてアメリカに渡っていたので、ロドリ-ゴはスペイン国内にいたレヒーノ・サインス・デ・ラ・マーサに作曲上のアドヴァイスを受け、その関係で彼に献呈し、また初演も依頼したのではないかと思います。

 そうした事情を踏まえれば、レヒーノが初演したことは必然的な流れだったろうと思いますが、セゴヴィアはそれをあまり快く思わなかったのは事実のようです。おそらくそうした関係により、ロドリーゴは改めて、セゴヴィアの為に協奏曲を書くことになり、出来上がったのがこの「ある貴紳のための幻想曲」と言われています。


ガスパル・サンスのギター曲をもとに作曲した実質上のギター協奏曲

 曲はバロック・ギターの名手、ガスパル・サンスの曲をもとに作られ、「幻想曲」となっていますが、実質は4つの楽章からなるギター協奏曲です。アランフェス協奏曲ほどの知名度や人気はありませんが、なかなか美しい曲で、アランフェス協奏曲のカップリングの曲としてLPやCDに多くのギタリストが録音しています。


ギター協奏曲No.2の座を争う

 もう1曲は、セゴヴィアとは特に親しいポンセの3楽章形式の協奏曲で、ロドリーゴの曲ほど演奏されませんが、ギター協奏曲としてはなかなかの傑作で、ギター協奏曲のNo.2候補の一つだと思います。もちろんセゴヴィアの演奏によく合った曲です。


往年の名指揮者アルトゥール・トスカニーニが率いたオーケストラ

 セゴヴィアの演奏は、協奏曲ということで、独奏の時のように自由に弾いているわけではありませんが、それでもあまり「縦の線」を合わせることには執着していないようです。なお「シンフォニー・オブ・ジ・エア」は往年の名指揮者アルトゥール・トスカニーニが率いたNBC交響楽団を前身に持ち、トスカニーニの死後、その楽団員により自主的に活動しているオーケストラということです。





アンドレス・セゴヴィアギター音楽300年  1958年録音


ムルシア : プレリュードとアレグロ
ソル : 3つのエチュード(第1番、9番、20番)
テデスコ : ソナタ「ボッケリーニ賛」
ロドリーゴ : ファンダンゴ
ロンカルリ : パサカリア、 ジグ、 ガヴォット
グラナドス : スペイン舞曲第10番 



テデスコの「ソナタ」やロドリーゴの「ファンダンゴ」など現在でも人気の曲を録音

 こちらはバロック時代から現代までの作品を網羅した小品集的なLPですが、テデスコの「ソナタ」、ロドリーゴの「ファンダンゴ」など、最近のギタリストにも人気が高く、よく演奏される曲が含まれています。また最後の「スペイン舞曲第10番」を除くとセゴヴィアの初録音曲で、デビュー50周年ということでのセゴヴィアの意欲も感じられるLPになっています。

 テデスコの「ソナタ『ボッケリーニ賛』」はLPを借りて聴いたことがありますが、本当に残念ながら今現在の私のCDコレクションから抜けてしまっています。昔の記憶ではふくよかで、重厚な音による演奏だった思います。ナクソス盤では入手可能だと思いますが、オリジナルの曲順で復刻されるのを期待しています。



意外(?)とイン・テンポ

 ロドリーゴの「ファンダンゴ」は「スペイン風の3つの小品」の第1曲目です。スペイン的な情熱や情緒がよく
伝わってくる演奏ですが、意外とセゴヴィアはイン・テンポで弾いています。やはり舞曲だからなのでしょう。

 グラナドスの「スペイン舞曲第10番」をセゴヴィアは4回録音していて、この1958年のものはその第3回目にあたります。前回1944年の録音よりは30秒ほどゆっくり弾き、落ち着いた感じになっています。それでもこの曲の演奏としてはやや速めと言えます。音質としては、前回同様ステレオ録音ですが、やはり人口的な残響は目立ちます。



アンドレス・セゴヴィアギターのための音楽  1958年録音

ヴァイス : 前奏曲ホ長調
モレーノ・トロバ : 特性的小品集(全6曲)
エスプラ : アンターニャ
ポンセ : アレグロ(ソナタ・メヒカーナ第1楽章)
ムソルグスキー : 古城(「展覧会の絵」より)
ルーセル : セゴヴィア
タンスマン : ギターのための3つの小品
グラナドス : トナディーリャ「ゴヤの美女」




店頭で試聴したが、ノイズが凄いので

 このLPは学生時代ににレコード店で視聴させてもらったことがあり、演奏や曲はとても気に入ったのですが、サーというノイズがあまりにも凄くて、結局買うのをやめしまいました。その後再発されたLPや、CDではそれらのノイズはカットされていましたが、その分やや加工した音になってしまいました。残響の付加もそのノイズに関係があるのでしょうか。


このLPに影響され、「古城」を演奏会で弾いたことがある

 ムソルグスキーの「古城」はなかなか印象的で、後に山下和仁氏が「展覧会の絵」全曲をギター独奏にアレンジして演奏しています。私もこのLPの影響で大学の定演で弾いたことがあり、それが私のステージでの独奏、初体験です。(もちろん「古城」のみ)。


珍しいハープシコードとの二重奏

 ヴァイスの「前奏曲ホ長調」は以前にも録音したポンセによる「偽作」ですが、今回の演奏ではハープシコード(演奏者:ラファエル・プヤーナ)を伴うバージョンとなっています。

 モレーノ・トロバの「特性的小品集」全6曲を録音しています。曲の優れていますが、セゴヴィアの名演の一つでもあると思います。「ゴヤの美女」は2度目の録音ですが、最後にグラナドスの曲を再録しているのは、前のLPとそろえているのでしょうか。
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アンドレス・セゴヴィアの偉大な芸術 1955年8月録音

作者不詳 : リュートのための6つの小品
ポンセ : ソナタ第3番、 ワルツ、 マズルカ
バッハ : フーガ(無伴奏ヴァイオリンソナタ第1番BWV1001)
テデスコ : セゴヴィアの名によるトナデーリャ
クレスポ : アギーレ賛歌~ノルティーニャ
ラウロ : ヴェネズエラ風ワルツ第3番
カサド : サルダーナ 



一部の曲は手元にない

 今回の3枚のLPは私自身では持ってなく、過去にはあまり聴いていません。また曲のほうも今現在のCDコレクションからもれてしまっているものも多く、従って、あまり詳しくレポート出来ないので、曲目リスト+αくらいに簡潔に紹介します。


キレソッティ編

 「リュートのための6つの小品」はキレソッティというイタリアの音楽研究家がリュート用のタブラチュアから現代の五線譜に直したもので、もともと別々の曲の組み合わせです。現在でも多くの愛好者やギタリストに演奏されています。この版はハーモニックス奏法を使用するなど、”現代的”なアレンジになっていて、おそらくセゴヴィアの手も入っていると思われます。


ソナタ第3番の第2楽章はセゴヴィア好み

 ポンセの作品をセゴヴィアは多数録音していて、これらの曲もほぼ再録ですが、「ソナタ第3番」全曲としては唯一のものです。このソナタの第2楽章はセゴヴィアの好みの作品のようで、「南のソナチネ」では本来の第2楽章の換わりにこの曲を演奏しています。やはりポンセの作品にはセゴヴィアの演奏がよく似合います。


バッハの「フーガ」は2度目

 バッハの「フーガ」は2度目の録音ですが、使用している譜面などは1928年、1946年のものと同じく、リュート版ではなく、セゴヴィア自身によるヴァイオリン譜からの編曲です。残念ながら3度目となる録音のこの音源は今現在手元にありませんが、セゴヴィアはリサイタルなどでもこの曲をよく取り上げています。


SEGOVIAの綴りをもとに

 「セゴヴィアの名によるトナディーリャ」はセゴヴィアの綴りを音に直した音列をもとに作曲した曲と思います(A-D-E・・・・・)。「トナディーリャ」はスペイン風小謡とい言った意味です。ゴメス・クレスポの「ノルティーニャ」をセゴヴィアは3度録音していて、この曲も愛奏曲の一つといってよいでしょう。


ラウロとカサドの作品

 ラウロの「ヴェネズエラ風ワルツ第3番」は人気のギター曲の一つですが、セゴヴィアはこの曲を軽快に演奏しています。セゴヴィアはラウロの曲をこの曲のみ録音しています。

 ガスパル・カサドは有名なチェリストですが、セゴヴィアとは親しかったのでしょう。セゴヴィアはこの曲以外にカサドの編曲したボッケリーニの協奏曲も録音しています。この演奏も残念ながら聴いたことがありません。


やや残響が目に(耳に)つく

 なお録音としてはモノラル録音の最後の時期のものとなり、比較的よい録音とは言えるのですが、復刻CDで聴く限りはやや機械的な残響を感じ、前の年(1954年)のものほうがすっきりして好感は持てます。



アンドレス・セゴヴィア ギター五重奏曲 1955年8月録音

テデスコ : ギター五重奏曲作品143
ハウク : アルバ~伝説、 後奏曲
リョベット : エル・メストレ
スクリャービン : 前奏曲
ヴィラ・ロボス : 練習曲第8番、第1番



ギター+弦楽四重奏曲 全4楽章

 テデスコの「ギター五重奏曲」は、比較的珍しいギターと弦楽による五重奏曲で、4つの楽章で出来ています。ギター・パートはラスゲヤードで始まりますが、明るく溌剌としたパッセージとメロディを歌わせる部分という形で、はやりテデスコの「ギター協奏曲第1番」に感じが似ています。なかなか面白い曲だと思いますが、演奏される機会はあまり多くはないようです。

 ハンス・ハウクは20世紀のスイスの作曲家だそうですが、テデスコに比べると現代的な和声の曲です。


マイルドなリョベット

 リョベットが亡くなってからこの録音時で30年ほど経っています。セゴヴィアの演奏からもリョベットの影響が若干薄れつつありますが、よく聴くとやはりリョベットの影響は感じられます。リョベットの演奏に比べればかなりマイルドにはなっていますが、曲想などはほぼ同じといってよいでしょう。


スクリャービン、 ヴィラ・ロボス

 珍しいスクリャービンの曲の編曲は残念ながら聴いたことがありません。ヴィラ・ロボスの二つのエチュード(8番、1番)は1949年に引き続き2度目となりますが、この録音も聴いたことがありません。



セゴヴィアとギター  1957年8月録音

ナルバエス : 「牛の番をせよ」によるディファレンシャス、 皇帝の歌
ダウランド : 歌とガリヤルド 
A.スカルラッティ : アンプロランブロとガヴォット
D.スカルラッティ : ソナタホ短調L352
エスプラ : 二つのレパンティーナ
マネン : ファンタジア・ソナタ



この年からステレオ録音

 この年(1957年)セゴヴィアの録音も、モノラルからステレオに代わります。音の拡がりなどは感じるようになりましたが、前回のLP同様、人工的な残響が感じられます。

 
ナルバエス(ビウェラ)、 ダウランド(リュート)

 「牛の番をせよ」は16世紀のビウェラの曲ですが、同じテーマの二つディファレンシャスの変奏をセゴヴィアが組み合わせて演奏しています。なおディファレンシャスとは定旋律をもとにした変奏曲です。ダウランドの曲は聴いたことがありません。


アレクサンドロ・スカルラッティ?

 A.スカルラッティの「アンプロランブロ(前奏曲)とガヴォット」は実際はマヌエル・ポンセの作品ですが、セゴヴィアはこの曲を、オペラなどの作品で知られるバロック時代のイタリアの作曲家、アレクサンドロ・スカルラッティの作品として発表しました。

 ポンセは後に、この2曲に加え、アルマンド、サラバンド、ジグを作曲して5曲からなる「組曲二長調」を完成しています。なお現代の出版譜ではポンセ作となっています。

 ポンセには他に”ヴァイス作”とした「イ短調組曲」もあり、この「二長調組曲」とあわせての二つの”偽バロック組曲”があります。この「二長調組曲」の方は「イ短調組曲」ほど演奏されませんが、なかなかよい曲です。


こちらは本物

 D.スカルラッティの「ソナタホ短調L352」のほうは偽作でなく、イタリア出身でスペインで活動したドメニコ・スカルラッティの真作(原曲はハ短調)で、セゴヴィアの編曲です。1944年にも録音していました。なおアレキサンドル・スカルラッティはドメニコ・スカルラッティの父親で、このドメニコはイタリア生まれですが、後にスペインに渡り、その地で音楽活動をしました。数百曲におよぶ鍵盤用のソナタの作曲で知られています。 


イエペスも演奏しているレヴァイティーナ

 「レヴァンテ」とは、①スペイン東部のムルシア、バレンシア地方、 ②地中海東部、 といった意味意味のようですが、この場合は①のスペイン東部を指しているのでしょう。ここで演奏されている2曲は10曲からなるピアノ曲集「レヴァンテ」の第2、第5曲目で、スペインのギタリスト、アスピアスの編曲だそうです。確かナルシソ・イエペスも録音していました。


大曲ファンタジア・ソナタ(マネン)

 スペインの作曲家、ホアン・マネンの「ファンタジア・ソナタ」はセゴヴィアに奉げられた曲としてはかなりの大曲と言え、全曲で20分ほどかかります。曲はゆっくりした部分と、速い部分が交互になっている5つの部分からなりますが、休みなく全曲続けて演奏されます。それぞれの部分には関連性があるようです。
ギターの巨匠アンドレス・セゴヴィア 1955年12月録音

F.ソル : 序奏とアレグロ
       メヌエットホ長調作品15-1、 イ長調作品11-6
       練習曲イ長調作品6-12、 ト長調作品29ー11、 ロ短調作品35-22、 イ長調作品6-6

F.タレガ : 華麗なる練習曲、 マリエッタ(マズルカ)、 前奏曲第2番、第5番、 マリーア(ガヴォット)、 マズルカト長調、 アラビア風奇想曲、 アランブラの想い出



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「ギターの巨匠」とはソル、タレガ、およびセゴヴィア自身

 「ギターの巨匠」というのは、フェルナンド・ソルとフランシスコ・タレガというスペインの2大ギタリスト兼作曲家を意味していますが、同時にセゴヴィア自身のことでもあるのでしょう。スペインのギター音楽を伝統を引き継ぐ、特にタレガの継承者であること自他共に認めるセゴヴィアですから、このアルバムは出るべくして出たアルバムといえます。


序奏とアレグロ(グラン・ソロ) ~多くのセゴヴィア・ファン、グランソロ・ファンを生み出した

 冒頭の「序奏とアレグロ(グラン・ソロ)」は、セゴヴィアの演奏した曲の中でも、当時たいへん人気のあったものと言えます。この演奏により多くのセゴヴィア・ファン、グラン・ソロ・ファンを生み出したのではないかと思います。


ジムロック版使用

 譜面のほうはジムロック版を使用しているとのことで、ヒューゲル版を基本としている現代ギター社版とは大きく異なります。私自身は実際にこのジムロック版を見たことがないので、どの程度セゴヴィアがこの版に忠実に弾いているかはよくわかりませんが、多少は手を加えて弾いているのではと思います。以前にはこのセゴヴィアの演奏に限りなく近い譜面が国内で販売されていて、山下和仁氏など、1980年頃まではその版で弾いている人が多くいました。


簡略化されている アグアード版はいっそう華麗

 この二つの版(ジムロック版のほうは推定ですが)で、最も異なるのが展開部で、ジムロック版ではかなり短くなっています。その他の部分についても、ジムロック版はヒューゲル版を簡略化した感じです。ヒューゲル版をさらに華麗に編曲したものがアグアード版で、最近ではそのアグアード版で弾く人も多くなりました。


曲のイメージに合った重厚な音

 この「グラン・ソロ」のセゴヴィアの演奏はやはりすばらしいもの。特にその音は曲の内容にふさわしい、クリヤーで重厚な音となっています。録音もモノラル録音とは言え、見事にセゴヴィアの音を捉えていて、この年代からすればかなりレヴェルの高い録音と言えます。


2つのメヌエット

 1曲目のメヌエットは、作品15-1の「スペインのフォリアによる変奏曲」のコーダにあたる部分で、本来は単独で演奏される曲ではないのでしょう。

 もう1曲のメヌエットは「12のメヌエット作品11」の「第6番イ長調」で、ソルのメヌエットの中ではたいへんよく演奏される曲です。セゴヴィアの演奏に影響受けた人の多くは、この曲をかなりルバート、あるいはテンポをデフォルメして演奏する傾向がありますが、よくこの演奏を聴いてみるとそれほど崩しているわけでもないようです。たしかにルバート等は使っていますが、セゴヴィアの演奏としてはすっきりしている方で、それほどは”ハメ”を外していないようです。


4つのエチュード ~かつては20のエチュード全曲を収めたLPが発売されていた?

 セゴヴィアは1945年に「ソル:20のエチュード」を出版したこともあって、ソルの練習曲は生涯に亘ってかなりの録音があります。この20のエチュードをすべて録音したかどうかはわかりませんが、ほとんどの曲は録音していると思います。記憶が交錯してしまっているかも知れませんが、かつてセゴヴィア演奏の「20のエチュード」全曲をまとめたLPが発売されていたような気がします。

 「作品31-22」はご存知の「月光」。

 「作品6-12」はイ長調、アンダンテでセゴヴィア番号14番。多声部的書法をとったメロディの美しい曲で、ソルの練習曲の中でも人気の高い曲です。

 「作品29-11」はト長調で、セゴヴィア番号17。なかなかの難曲ですが、セゴヴィアは爽快に弾いています。

 「作品6-6」はイ長調でセゴヴィア番号12。3度の和音で上行、下行を繰り返します。アレグレットの指示ですが、セゴヴィアはアレグロ、もしくはプレストといった感じで華麗に演奏しています。



タレガの作品9曲

 タレガの作品は、まず「アラールによる華麗なるエチュード」、そして「マリエッタ」、「前奏曲第2番」、「同第5番」、「マリーア」、「ト長調のマズルカ」、「アデリータ」と続き、最後は「アラビア風奇想曲」、「アランブラの想い出」となっています。

 これらのうち「華麗なるエチュード」は1935年に、「アランブラの想い出」は1927年に、「アラビア風奇想曲」は1970年代にも録音しています。「アランブラの想い出」は1927年のものに比べれば、音質は格段によくなっていて、演奏もずっとしなやかなものになっています。またリピート等の省略もなく完全に原曲どおりに弾いています。



これらの曲がタレガの代表作?

 私たちが何となく持っているタレガの作品のイメージとしては、まず代表的なものとして「アランブラの想い出」と「アラビア風奇想曲」、そして「マリーア」、「アデリータ」、「マリエッタ」などの小品、つまりこのLPに収録されている曲が、まさにタレガの代表作そのものといったものではないかと思います。



しかしタレガはこのような曲はリサイタルでは弾かなかった

 しかし以前お話したとおり、タレガ自身はこれらの曲をほとんどコンサートでは弾いてなく、少なくともこれらの曲をプログラムのメインにはしていなかったようです。

 「アラビア風奇想曲」はタレガの弟子たちもよく弾いていて、タレガの生存中から有名曲だったようですが、少なくとも「アラビア風奇想曲」としては自らのプログラムには載せていません。自作の「セレナータ」と言う曲がプログラムに載っていることがあり、その曲がこの「アラビア風奇想曲」であった可能性はあるようです。

 「アランブラの想い出」も「トレモロ練習曲」として演奏された可能性はありますが、本当に有名になったのはタレガの没後のようです。

 私たちがタレガの作品としてすぐに頭に浮かぶ「アデリータ」、「マリエッタ」などの小品は、基本的には生徒や一般愛好者のために書いた曲で、自らリサイタルで演奏することはタレガの念頭にはなかったようです。演奏したとしてもアンコール曲としてや、自宅などプライベートな場のみだったのではないかと思います。



タレガが頻繁に演奏したのは「グラン・ホタ」と「パガニーニの主題による変奏曲」および編曲作品

 タレガのリサイタルの曲目は、その残されたプログラムによれば、オリジナル曲として「グラン・ホタ」(曲名はそのつど変えていたようですが)と「パガニーニの主題による変奏曲」。他はほとんどショパンやシューマンなどの他の作曲家の作品の編曲作品となっています。


ここに収められた曲はセゴヴィアの愛奏曲 ~当たり前だけど

 つまり私たちが持っているタレガの代表作のイメージは20世紀半ばによく演奏されたタレガの曲、狭く言えばこのLPに収められた曲がタレガの代表作といったものになってしまっていますが、このLPに収められた曲は、あくまでセゴヴィアの愛奏曲であるのでしょう。


 
セゴヴィアはセゴヴィア?

 このLPでセゴヴィアは「アラビア風奇想曲」をかなりゆっくりめに、じっくりと歌うように弾いています。そうしたことから他のギタリストもセゴヴィアに近いテンポ、あるいはさらに遅いテンポで演奏する傾向があります(6分かけて弾くギタリストもいる)。

 しかし譜面のほうでは「アンダンティーノ」の指示があり、本来歌わせるだけでなく舞曲的な性質も持った曲ではないかと思います。おそらくタレガとしてはもう少し速いテンポを想定していたのではと思います。

 同様なことは「ト長調のマズルカ」にも言え、確かにタレガのマズルカは「アデリータ」や「マリエッタ」のように「レント」の指示があるものもありますが、この「ト長調のマズルカ」にはそういった指示はありません。テンポ指定がないとすれば、「マズルカ」である以上、ある程度の速さは必要になるのではと思います。

 もっともセゴヴィアが遅い曲を速く弾こうと、速い曲を遅く弾こうと、それは何の問題にもならないでしょう、それはセゴヴィアだからです。しかし私たちはセゴヴィアではないので、そういったことも十分考慮する必要はあるでしょう。


  
アンドレス・セゴヴィア・シャコンヌ  1954年録音

J.S.バッハ : プレリュード(リュートのための小プレリュードBWV999)
         ガヴォット(無伴奏ヴァイオリン・パルティータ第3番)
         シャコンヌ(無伴奏ヴァイオリン・パルティータ第2番)
         ルール(実際は無伴奏チェロ組曲第3番のブレー)

F.ソル : メヌエットハ長調(ソナタ作品22の第3楽章)
      アンダンティーノ(6つの喜遊曲作品2第3曲、二短調)
      メヌエット二長調(12のメヌエット作品11第5曲、二長調)

F.メンデルスゾーン : カンツネッタ(弦楽四重奏ホ長調作品12より)

H.ヴィラ・ロボス : 前奏曲(5つの前奏曲集第3曲、イ短調)

J.ロドリーゴ : はるかなるサラバンド


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オリジナルどおりの復刻CDはない

 このLPは前回紹介した「プレイズ」とほぼ同じ頃録音されたものですが、このLP以後のものに関してはオリジナルどおりの曲順で復刻されたCDは現在発売されていません。私の場合は1980年代に各ジャンルや作曲家ごとに編集し直されたMCA盤で聴いていますが、このLPに含まれる曲は「オール・バッハ・プログラム」、「ロマンティック愛奏曲」など5枚のCDに分かれています。



現在はナクソス盤などで聴くしかない

 このMCA復刻CDシリーズは全部で17枚ありますが、現在入手不可能になっています。これから購入して聴く場合は、ナクソス盤で、1950年代の録音が10枚ほどのCDとなっていて、こちらを聴いていただくのがよいかも知れません。ただし、こちらもジャンルごとに再編集されており、このLPに収録された曲は複数のCD振り分けられています。

 また、一部の有名、あるいは人気曲については、いろいろなレーヴェルから多種の「ベスト・アルバム」が出ていて、特にシャコンヌなどはいろいろなCDで聴くことが出来ます。


まとまった内容のLPが多くなる

 小品集が主だったセゴヴィアのLPも、この頃からまとまった内容のものが多くなってきます。このLPもその一つで、バッハをメインにしたLPですが、後半(B面)は古典派から近代にかけての様々な作品となっています。セゴヴィアのLPはすべてを一つのテーマ、あるいは一人の作曲家の作品で埋めるというより、半分だけ、あるいは半分ずつといったことが多いようです。

 タイトルにもあるとおり、前半はシャコンヌを中心としたバッハの作品となっています。プレリュードとガヴォットはどちらも3度目となりますが、テンポなど基本的なところは以前のものと大きな違いはありません。もちろん音質は以前のものに比べて格段によくなり、編集作業なども丁寧に行われている様子も窺われます。



前の録音より若干遅くなったが、完成度はこちらのほうが上か

 シャコンヌはセゴヴィアの代名詞とも言える作品で、このシャコンヌの演奏によりセゴヴィアはギター界に留まらず、一般の音楽界でもその地位を確立したと言えます。1949年に続き二度目の録音ですが、演奏時間では前回のものより1分半以上長くなっています。

 勢いや緊張感の高さなどから、1949年の録音の方を取る人もいますが、録音状態は1954年のほうがずっとよく、また音の美しさや全体の完成度(編集作業も含めた)などから言っても、やはりこの1954年のものに軍配はあがるでしょう。



出だしは意外と大人しいが、アルペジオに向かう盛り上がりは聴きどころ

 冒頭のテーマは以外とイン・テンポで演奏され、ほとんどルバートがありません。セゴヴィアにしては端正と言ってもよい演奏かも知れません。続く付点8分音符と16分音符の組み合わせは、いつものとおり正確な長さでは弾かれませんが、音色、あるいは音色の変化のほうに強く意識がいっているのでしょう。

 曲が始まって4分ほどしてからの32分音符のスケールからアルペジオに至るところの盛り上がりは、やはりすばらしいものがあります。スケールはスラー奏法を適度に混ぜて弾いているのですが、スラー奏法による凹凸はほとんど感じられず、レガートにまたクリヤーに弾いていて、心地よく聴けます。。

 その後に続く長いアルペジオもたいへん美しく、これもクリヤーに、レガートに弾いています。またバスの流れもたいへん力強く感じられます。



ギターでのシャコンヌの名盤

 ニ長調となる中間部の16分音符の同音の連打では、均等に長さに演奏にないで、最初の音を長めにとっています。付点音符の嫌いな(?)セゴヴィアですが、ここでは逆に付点音符のように聴こえます。聴く人によっては違和感も感じるところかも知れませんが、セゴヴィアとしては何の変化も与えず4つの音は弾けなかったのでしょう。

 最後に現れるテーマをセゴヴィアは音の数を増やしてたっぷりと鳴らし、冒頭の部分との違いを際立たせています。最後に出てくる16分音符も低音弦を用いてたっぷりと弾いています。本来なら装飾的なパッセージなので、和声の流れを優先すべきところなのでしょうが、でも”こうでないと”セゴヴィアを聴いた気がしない? 全体を聴くと、当然のことながら、間違いなくギターにおけるシャコンヌの名演奏、名盤と言えるでしょう。



その”やばさ”で外されてしまった? ~ルール

 次の「ルール」は私の持っている1980年代のCDでは外されてしまって聴くことが出来ません(LPはあるが、再生装置をかたずけてしまった)。ナクソス盤や他のレーヴェルのバッハ・アルバムなどでは聴くことが出来ます。

 80年代のMCA盤から外されてしまった理由としては1961年に録音した「チェロ組曲第3番」全曲に同じ曲が収録されていると言う理由ではないかと思いますが、この「ルール」は若干”訳あり商品(小品?)”で、その”やばさ”からCDのほうに収録しなかったのではないかと思います。


タレガがルールの名で編曲した

 その”やばい”理由は皆さんもご存知かも知れませんが、この曲はもともと無伴奏チェロ組曲第3番の第4曲「ブレー」なのですが、なぜか「ルール」と言う曲名で録音されています。これはタレガがこの曲名で編曲し、1920年頃出版されたものをもとにセゴヴィアが演奏したからなのだと思います。



ルールとブレーはまるで違うのだが

 そのタレガがなぜこの曲をブレーでなくルールとして編曲したのかまったくわかりません。「ルール」とは音楽辞典で引くと、「①16,7世紀のバグ・パイプの呼び名。 ②17世紀の舞曲、4分の6拍子で付点のリズムを持ち、中庸なテンポ・・・・」となっています。どう聴いても、見ても(譜面を)このブーレとは結び付きません。

 ルールといえばリュート組曲第4番(無伴奏ヴァイオリン・パルティータ第3番)の第2楽章がこのルールとなっていますが(辞典にあるとおり4分の6拍子で、付点音符が目立つ曲)、この曲と取り違えられたともあまり考えられません。また仮に譜面の曲名が間違っていたとしても、録音の時に正しい曲名にすることも出来たはず?



バリオスもルールの名で録音

 セゴヴィアは当然その曲がチェロ組曲第3番のブレーであることは知っていたと思いますが、タレガの譜面を尊重したのでしょうか、その割にはLPに「タレガ編」とは表記されていません。因みにこの曲はバリオスも録音していますが、バリオスも曲名を「ルール」としています。一時期ギター界ではこの曲はルールの名で通っていたのでしょうか。


音域がかなり高く、演奏は難しいが、華やか

 そうしたことでこの曲が復刻CDから外されてしまったのかも知れませんが、その曲名のことを気にしなければ、これはこれでなかなかよい演奏、あるいは編曲です。最近これを聴いていないので記憶にたよるしかありませんが、この「ルール」は全曲版の方に録音されているブレーとはかなり違う感じがします。なんと言っても音域が高く、原曲はハ長調ですが、全曲版(デュアート編)はイ長調なのに対して、この「ルール」の方は二長調、つまり原曲からすると1オクターブ以上高くなっています。


シャコンヌの”シメ”として収録された?

 さらにセゴヴィアはこの曲をかなり速めのテンポで演奏していて、高い音域とあいまって、かなり華やかな演奏になっています(バリオスはややゆっくりめ)。おそらくセゴヴィアはシャコンヌの”シメ”としてこの曲をここに(前半の最後)置いたのではないかと思います。確かにシャコンヌの緊張感を開放させてくれる演奏だと思います。


この曲を外したのは80年代的発想か

 セゴヴィアとしてはこのバッハの4曲は一つの流れとして演奏、あるいは収録したのではないかと思いますので、やはりこの曲も省かず、なおかつこの曲順で復刻していただきたかったかなと思います。CDのトータル時間を見ても収録出来なかったわけではなさそうなので、この曲を外したのは、やはり1980年代的発想というべきなのでしょうか。


前半の曲だけで長くなってしまったが

 「ルール」の話で盛り上がり(勝手に)、話が長くなってしまったので、後半(B面)の曲の方はかいつまんで書きましょう。ソルの3曲(メヌエットハ長調作品22、アンダンティーノ二短調作品2の3、メヌエット二長調作品11の5)は軽快なメヌエット2曲に歌わせるアンダンティーノを挟む形で、これで一つのまとまりを示していると思います。それぞれ曲の特徴をよく出した演奏と言えます。


カンツォネッタも名演

 メンデルスゾーンの「カンツォネッタ」は弦楽四重奏曲(第12番)の中の1曲ですが、セゴヴィアの演奏した曲のなかでもたいへん人気のある曲で、現在でもよく演奏されます。学生の頃FM放送からセゴヴィアの弾くこの曲が流れてきて、感動した覚えがあります(当時はLPなど持っていなかった)。



ヴィラ・ロボスとロドリーゴの曲はバッハ因んで?

 次にヴィラ・ロボスの前奏曲集から第3番を収録していますが、この曲は当初「バッハへの賛歌」とされており、前半の関係で収録されているのでしょうか。

 ロドリーゴの「はるかなるサラバンド」は曲名どおり”大人しい”タイプの曲で、フラメンコ風というよりは懐古的な雰囲気となっています。解説によればビウェラ奏者のルイス・ミランをしのんで書かれたとありますが、ミランはサラバンドを1曲も作曲していないのでは? サラバンドは主にバロック時代に作曲されていたので、これも前半のバッハと関係があるのかも知れません。
 今日(8月5日)ひたちなか市アコラで熊谷俊之さんのミニ・コンサートを聴きました。熊谷さんの演奏に先立ち、「ギター名曲を弾く会」と題して愛好者約20名による自由演奏が行われ、私もちょっと演奏しました(9月15日のアンサンブル演奏会の告知として)。


演奏曲目

J.ダウランド : ジョン・スミスのアルマンド、 蛙のガイヤルド
A.ピアソラ : 5つの小品
W.ウォルトン : 5つのバガテル

 *アンコール曲 J.マラッツ : スペイン・セレナード



 熊谷さんは現在ウィーン音楽大学在籍中で、東京国際ギター・コンクール第2位という経歴もあります。今年28歳だそうで、最近では各方面から高い評価を受け、才能豊かな新進ギタリストの一人と言えるでしょう。



やはり美しい音を持っている

 最近の若いギタリストたちは、皆それぞれ美しい音を持っているということは、このブログでも再三言っていますが、そうした中にあってもやはり熊谷さんの音は美しいと言ってよいでしょう。明るい音ですが、同時に”甘さ”も感じます。

 また低高音のバランス、特に低音の流れには十分に配慮が行き届いているなどと言うのも、あえて言うべきことでもないでしょうが、アーティキュレーションにかなり気を配っているようにも感じます。それぞれの音はそれぞれのあるべき長さに区切られたり、伸ばされたりしています。

 その結果、ダウランドの曲はたいへん美しく、また快適に聴こえてきます。ピアソラの「5つの小品」は、ウォルトンの「5つのバガテル」の影響のもとに作曲された曲ということで、両者を続けて演奏したと言うことだそうです。このピアソラの作品は、アクセントや音色の変化、曲による速度の対比などを特に強調、あるいはデフォルメすることなく、美しく、気品ある音楽に仕上げている感じでした。



その音楽のあるべき姿

 一方、ウォルトンの曲では表現がよりクリヤーに、また鮮烈になっているように感じました。やはり作品の違いなのでしょうか。熊谷さんの演奏は、ここでもアーティキュレーションがしっかりしていることに耳を奪われます。その結果、その音楽の”あるべき姿”が浮き上がってくるように感じます。

 勝手な想像ではありますが、熊谷さんの音楽への取り組みとしては、それぞれの作品を自らの手元に引き寄せるのではなく、その作品が本来どうあるべきなのか、ということで、自らがその作品に近づいて行く、といった姿勢なのではないかと思います。もっともこれも最近のギタリストの多くはそういった傾向を持っているといえるでしょう。このところセゴヴィアのCDなどをよく聴いているので、かつての巨匠たちとの違いがはっきりと感じとれます。