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中村俊三 ブログ

中村ギター教室内のレッスン内容や、イベント、また、音楽の雑学などを書いていきます。

アンドレス・セゴヴィア ギターと私 Ⅰ、 Ⅱ  1970年9月、1972年9月録音


 セゴヴィア自身の語り、 ソル、コスト、ジュリアーニ、タレガなどの練習曲、 メカニック練習について



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デッカ・レーヴェルでの最終アルバム

 セゴヴィアは1950年代から米デッカ・レーヴェルで幾多の名録音を残してきましたが、この2枚のLPを最後に契約を解除し、その後は母国スペインのレーヴェル(Movieplay社)で4枚のLPを録音することになります。 



セゴヴィアの語りと練習曲

 デッカ社への置き土産的となるこの2枚のLPはですが、自らのこれまでのギターとの関りについての語りをメインに、ギターを学ぶ人にとって不可欠なソル、コスト、ジュリアーニなどの練習曲の演奏、さらにメカニック練習についての実演と語りが添えられています。

 語りのほうはスペイン語で行なわれているので、直接理解できる人は限られると思いますが、LPジャケットには日本語訳も載っていて、セゴヴィアの小自伝的なものになっています。

 録音のほうは、コンサート・ホールではなく、レッスン室での演奏ということを前提としているのか、残響は少なめで、間近で演奏しているような音質となっています。



練習曲のみCD化、現在は入手不可能

 練習曲のほうは80年代に他の年代に録音されたソルの練習曲とともに一枚のCDになって復刻されましたが(現在は入手不可能?)、語りやメカニック練習のほうはCD化されていないようです。



中級程度の練習曲だが

 ここに収録されている練習曲は難易度の高いものではなく、中級者などが練習したり、レッスンを受けたりするような曲ですが、セゴヴィアの演奏は、このような比較的簡単な練習曲でも演奏次第では優れた内容の曲になることを教えてくれます。

 確かにセゴヴィアの演奏は、現在一般的に指導されているような内容と若干違ったものではあるとは思いますが、このような練習曲を、単に指のトレーニングや楽譜の読み方といったものだけでなく、音楽的な意味合いで取り組むことの重要さを私たちに伝えています。



デッカ社での録音の完全復刻を期待

 現在はこれらのLPは、少なくともオリジナルの形ではCD化されていないわけですが、近いうちに完全な形でのCD化を期待するところです。セゴヴィアのデッカ社での録音はたいへん貴重な人類の財産であるだけに、なるべく近いうちに残された録音のすべてが入手可能になるように願っています。当然そうならなければならないでしょう。
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アンドレス・セゴヴィア スペインの城  1970年

ダウランド : 歌とガリヤード、 メランコリー・ガリヤード、 ハンソン卿夫人のパフ
シャーレ : 二つのメヌエット
ヴァイス : ロジー伯のためのトンボー、 二つのメヌエット
モレーノ・トロバ : スペインの城(全8曲)
グリーグ : 農夫の歌、 ワルツ作品12-2




モレーノ・トロバの「スペインの城」を中心としたLP

 1970年代の最初の録音ははモレーノ・トロバ「スペインの城」を中心としたもので、この8曲からなる組曲は「松のロマンス」以外は初めての録音となります。残念ながらこのLPの曲目は、ヴァイス、およびグリーグの曲を除いてその音源が私の手元にありません。

 「スペインの城」は、80年代にジャンルごとに編集しなおされた復刻CDシリーズからは、何らかの理由で漏れていしまったようです。しっかりとアンテナを張っておけばこれまでも入手する機会があったのではと思いますが、現在は入手困難のようです。

 セゴヴィアの録音の場合、古いものほど入手しやすく、年代が新しくなるほど入手が難しくなる傾向があります。レーヴェル側の事情なのでしょうか。

 

最終的には14曲の組曲に

 そのような訳で「スペインの城」についてはコメントできないのですが、この時点では8曲からなる組曲だったのですが、トロバはさらに作曲を続け(この頃はまだトロバは作曲活動をしていた)、最終的には14曲の組曲となりました。美女ギタリストとして人気上昇中(もちろん実力も備わっている!)のアナ・ヴィドヴィッチがこの全14曲をナクソス・レーヴェルで録音しています(2004年)。



今回も”本物”のヴァイス

 セゴヴィアがヴァイスの曲を演奏すると言えば、どうしてもポンセ作曲の”偽ヴァイス”を連想してしまいますが、この「トンボー」と「メヌエット」は”本物”のヴァイスの作品です。セゴヴィアは1961年にもヴァイスの「ファンタジア」を録音しています。

 「ロジー拍のためのトンボー」は悲痛な曲というよりも美しい曲となっています。当然のことかも知れませんが、録音はさらに良くなりとても美しい音で録音されています。「メヌエット」のほうはヴァイスの数十曲に及ぶソナタの中に含まれる曲と思われますが、どのソナタに属するのかはわかりません。


あまり区別はしていなかった

 ちなみにセゴヴィアはこれらのヴァイスの真作とポンセ作曲の偽ヴァイスを並べて演奏することもよくあり、セゴヴィアの中では特に両者も区別はなかったようです。もちろん演奏の取り組み方も特に違いはありません。本物だの、偽物だのといっているのは私たちだけかも知れません。


珍しいダウランドの演奏もあるが

 セゴヴィアのダウランドは比較的珍しいものと言えますが、これも聴けないのは残念です。シャーレという作曲家のこともよくわかりません。グリーグの2曲はピアノ曲集の「叙情小曲集」からのもので、2分ほどの短い曲です。このピアノ曲集はメンデルスゾーンの「無言歌集」のような曲集と言えるかも知れません。

 セゴヴィアの演奏はたいへん美しいものですが、メロディなどあまりレガートには演奏されていないようにも聴こえます。響きの美しさのほうを重要視したのでしょうか。
 
アンドレス・セゴヴィアの芸術  1969年4月録音

バッハ : アルマンド(リュート組曲第1番)、 サラバンド、ジーグ(リュート組曲第2番)
ヴィラ・ロボス : 前奏曲第1番
アルベニス : マジョルカ
ルイス・ミラン : 6つのパヴァーナ
タンスマン : 前奏曲(組曲「ショパンを讃えて」より)
アルバート・ハリス : ヘンデルの主題による変奏曲とフーガ



毎年1枚ずつLPを発表

 この頃のセゴヴィアは1年に1枚のLPを録音していますが、この69年にはこのLPを発表しています。バッハのリュート組曲第1番の「アルマンド」は1928年以来約50年ぶりの録音となりますが、その時と同様にイ短調で演奏しています(原曲ホ短調)。



この時期のバッハはイン・テンポが多くなってきたけれども

 60年代以降のセゴヴィアのバッハ演奏は、かなりイン・テンポに近くなってきましたが、この曲については50年前ほどではないにしても、テンポは自由に演奏しています。この「アルマンド」に引き続きリュート組曲第2番の「サラバンド」と「ジーグ」を演奏していて、こちらもイ短調なので、そういった点での統一感はあります。

 「サラバンド」は、サラバンドとしてはかなり速めのテンポで演奏しています。「ジーグ」も音価(音符の長さ)が比較的自由に取られ、好みの分かれるところかも知れませんが、少なくとも古典舞曲的ではありません。



「情緒のメロディ」らしい演奏

 ヴィラ・ロボスの「前奏曲第1番」は1952年以来の録音となりますが、これも基本的な演奏スタイルはあまり変っていません。若干テンポがゆっくりになり、やや伴奏の和音がいくぶん大きめに感じられますが、中間部の8分の3拍子になるところの2拍目をかなり短くしているところなどは全く同じです。

 52年の演奏は神秘的な感じがしますが、この69年の録音は何か「アット・ホーム」な感じがします。いずれにしても低音のメロディじっくりと歌わせ、まさに「情緒のメロディ」といった感じの演奏です。



「マジョルカ」はセゴヴィアの名演奏の一つ

 アルベニスの「マジョルカ」はギターで演奏するアルベニスの曲の中でも、またセゴヴィアの演奏するアルベニスの中でもひときわ人気の高い曲で、確かにセゴヴィアは美しい音でこの名曲を演奏しています。アンダンティーノの指示がありますが、セゴヴィアはやや速めのテンポで弾いています。



様式を意識した演奏

 16世紀のヴィウエラの作品のミランのパヴァーナをセゴヴィアはよく演奏していますが、全6曲を録音したのはこの時が唯一のようです(ライヴ録音を別にすれば)。セゴヴィアの演奏は対位法的に書かれた作品を十分に考慮したもので、ここではテンポのデフォルメ等はありません。セゴヴィアらしい質感のある音質で、太い線構造を描き出しています。

 なお6曲の演奏順は原曲と異なり、1、6、3、5、2、4番の順で演奏しています。その意図などはよくわかりません。



ショパン風の短い前奏曲

タンスマンの組曲「ショパンを讃えて」からの前奏曲は2分ほどの短い曲です。全曲同じ音価の音符(おそらく4部音符)からなり、ホ短調ですが、最後は長調に変ります。この組曲は楽譜も出版されていますが、セゴヴィアはこの組曲からはこの前奏曲以外の曲は録音していません。



ヘンデルの「パスピエ」を主題にした変奏曲、なかなか聴きやすい曲

 アルバート・ハリスの「ヘンデルの主題による変奏曲とフーガ」は何度か登場した「エルフィーズの8つの小品」中の「パスピエ」を主題にとったものです(原曲の方は1967年に録音)。ハリスはイギリス生まれで(1916年)アメリカで活動した作曲家で、ギターも演奏したそうです。

 ギター・ファンには比較的馴染みのあるテーマに7つの変奏が付いていますが、前衛的な書法は取られておらず、比較的聴きやすい曲です。約12分ほどの比較的長い曲で、第6変奏はトレモロ奏法、第7変奏はフーガとなっています。セゴヴィア以外のギタリストによってはあまり演奏されませんが、リサイタルなどに取り上げても悪くない曲ではないかと思います。