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中村俊三 ブログ

中村ギター教室内のレッスン内容や、イベント、また、音楽の雑学などを書いていきます。

<ギター文化館開設20周年記念>
鈴木大介、大萩康司デュオ・コンサート  3月30日(土)14:00~


 昨日=3月30日(土)、ギター文化館開設20周年記念コンサートとして行なわれたコンサートのうち、14:00~に行なわれた鈴木大介、大萩康司デュオコンサートを聴きに行きました。プログラムは以下のとおりです。


<鈴木大介、大萩康司デュオ> 
ソル : 幻想曲作品54bis
アルベニス : 入り江のざわめき、椰子の木陰
ファリャ : スペイン舞曲第1番

<鈴木大介ソロ>
グラナドス : スペイン舞曲第5番
バリオス : 郷愁のショーロ
アルベニス : セヴィージャ

<大萩康司ソロ>
ウォルトン : 5つのバガテル

<鈴木大介、大萩康司デュオ>
ピアソラ : タンゴ組曲

 *アンコール曲  ①タレガ:アランブラの想い出  ②ピアソラ:リベルタンゴ



 二人ともこの後(17:00)より行なわれるコンサートに出演する福田進一門下で、ギターを始めるにあたっては荘村清志氏の影響が強かったとのことで、共通した面もあり、また親交も深いと思われますが、演奏スタイルとしては対照的な面もあるようです。クレバーで切れのよい演奏が持ち味の鈴木大介と、ナイーブな演奏が魅力の大萩康司といったところでしょうか。

 ソルの幻想曲は二重奏曲としてはたいへん人気の高い曲で、緻密なアンサンブルの中にも、主旋律の歌い回しなどは、前述のとおり対照的とも言え、お互いの個性を楽しめる演奏でした。アルベニスの「椰子の木陰」たっぷりと歌わせていました。


 鈴木大介さんのソロは「まるで荘村清志師匠のプログラムのよう」と言っていましたが、これらのギターの名曲をたっぷりと楽しめる巧みな演奏でした。

 大萩君のソロは最近取り組んでいる曲ということだそうですが、こうしたセンシティブな曲は得意なところなのでしょう(それにしてもいい音するな、ブーシェかな)。

 最後のタンゴ組曲も曲の演奏もすばらしく、とても楽しめる演奏でした。アンコールの2曲もなかなかのもの!!

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セゴヴィア・リサイタル   1968年3月10日 ロカルノ(Locarno スイス)


ルイス・ミラン : 6つのパヴァーナ
G.フレスコヴァルディ : アリアと変奏
J.S.バッハ : シチアーナ、 ブーレ
A.ハリス : ヘンデルの主題による変奏曲とフーガ
A.タンスマン : カヴァティーナ組曲
M.カステルヌォーヴォ・テデスコ : プラテーロ、メランコリア、春(プラテーロと私より)
I.アルベニス : 朱色の塔、 セビージャ
F.モレーノ・トロバ : 松のロマンセ
H.ヴィラ・ロボス : 練習曲第1番




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ドキュメント社の10枚組で聴くことが出来る

 このCDは1968年にスイスのロカルノと言う都市でのライブ録音で、写真のとおり、単売もされていますが、現在入手出来るかどうかは不明です。その代わりに例の10枚組(ドキュメント・レーヴェル)にも収録されていて、最近までHMVでは在庫切れでしたが、現在は入手可能のようで、HMVでは1000円くらいで入手出来ます。



ステレオ録音らしいゆとりのある音

 ステレオ録音なので、やはり音に拡がりと余裕が感じられます。ノイズも少なく、なかなか良い録音と言えるでしょう。ただリアルさという点からすると1955年の2枚のほうに歩がありますが、聴きやすさと言う点ではこの録音の方でしょう。



やはりこの年の前後に録音した曲が中心

 上記の曲目リストでは「6つのパヴァーナ」と「ヘンデルの主題による変奏曲」など、この年の前後にスタジオ録音した曲がならんでおり、タンスマンの「カヴァティーナ組曲」はこのリサイタルでもプログラムにのせています。やはりセゴヴィアの愛奏曲の一つと言えるでしょう。



変奏の間に別の作品?

 ちょっと面白いのはフレスコバルディの「アリアと変奏」で、原曲の「アリアと変奏」の間にフレスコバルディ
の他の作品を挟んでいます。詳しくは次のような順で演奏しています。

 アリア(ホ短調) - 第1変奏(同) - ガリアルド(二短調) - コレンテ(ホ短調) - 第3変奏 - コレンテ(イ短調) - 第2変奏(ホ短調) - アリア(同)


巨匠だけに許される

 変奏曲の間に別の曲を挿入するなどと言うことは普通やりませんし、また上記のとおり調もばらばらです。相変わらず自由な演奏ですが、こうしたことは巨匠だけに許される演奏法といえるでしょうか。また本来の第4変奏にあたる「コレンテ」は外して、その代わりに別のコレンテを2曲演奏しています。本来のコレンテの方は巨匠の好みに合わなかったのでしょうか。


ちょっとご愛嬌?

 テーマの前半の繰り返しのところで、出だしの音(ミ)を6フレットで弾いてしまい、グリサンド風に半音下げて次の音に進んでいます。それがまるで装飾音を付けたようにも聴こえます(ちょっと変な装飾音ですが)。これも巨匠の技の一つでしょう。
 


ロマンティックなシチリアーナ

 バッハの曲は必ずと言ってよいほどプログラムには載せていますが、この2曲(シチリアーナ、ブーレ)も名演です。特にシチリアーナはとてもロマンティックな演奏で、他のギタリストの演奏では味わえないものでしょう。



巨匠のメンデルゾーンは魅力的

 メンデルスゾーンの「カンツォネッタ」はセゴヴィアのレパートリーの中でも特に人気の高いものですが、相変わらずすばらしい演奏です。録音からしてもスタジオ録音のもよりゆとりか感じられます。「ベニスの舟歌」のほうは曲からすれば、ややスッカートな演奏がちょっと気になりますが、ハイポジションの音色を引き立たせるためでしょうか。


ハリスの曲は縮小版

 ハリスの「ヘンデルの主題による変奏曲」は以前にも紹介しましたが、「エイルズフォードの8つの小品」からの「パスピエ」を主題にとったもので、20世紀の作品ですが親しみやすい作品です。本来は12分ほどかかる曲ですが、第3、6,7変奏を省略して6分弱で演奏しています。スタジオ録音は1969年ですが、こちら方が美しい音に聴こえます。



セゴヴィア・トーンが十分に堪能できる一枚

 後半のプログラムは、全く鑑賞の妨げになるものではないにせよ、1955年の録音に比べると若干細かいミスも聴き取れれます。さすがの偉人にも年齢ということが現実となりつつあるのでしょうか。セゴヴィア、この年75才になります。

 しかし全体にはたいへん内容の濃い、またボリュームのある一枚(10枚組のほうでは2枚にまたがる)と言え、セゴヴィアの音の美しさが十分に堪能できる満足のCDです。
 
◎セゴヴィア : アスコーナ(イタリア)リサイタル  1955年4月20日


ヴィラ・ロボス : 練習曲第8番、 前奏曲第3番、 練習曲第1番

マヌエル・ポンセ : ソナタ第3番より第2、第3楽章

カステルヌォーヴォ・テデスコ : タランテラ

イサーク・アルベニス : セヴィーリャ




エジンバラの4ヶ月前、現在入手可能。1回のリサイタルにしては曲目が少ない

 前回のエジンバラのリサイタルと同じ1955年のライヴ録音で、こちらの方が少し早い(エジンバラは8月)。私が持っているCDは、これまで何度か紹介したDocmentsの10枚組ですが、単独でも発売されています。1回のリサイタルとしては曲目が少なめですが、リサイタルの一部分しか録音が残っていなかったのでしょう、単売のほうも同じ曲目のようです(他のスタジオ録音と組み合わされている)。

 単売のほうは現在入手可能と思われますが、10枚組のほうはHMVでは在庫切れで、GGショップなどでは入手出切るようです(ただし価格は4000円前後)。



音質もよく、ノイズ、特に観客によるノイズが少ない

 録音のほうはエジンバラ同様、この年代としてはかなり音質のようものです。さらにこのアスコーナのほうでは非常にノイズが少なくなっています。咳など観客席からのノイズも少なく、限られた、あるいは選ばれた観客の前で演奏しているのかも知れません。演奏のほうもエジンバラ同様、絶頂期の優れた演奏であることは以前にも触れたとおりです。



相変わらず曲目表記などわかりにくい

 最初のヴィラ・ロボスの3曲は、10枚組のほうでは「練習曲第1番」が「Allegro moderato」と表記され、「練習曲第1番」とは書かれていません。「練習曲第8番」のほうはそう書かれているのですから、ちょっとわかりにくいですね。

 またこのヴィラ・ロボスの3曲はトラック分けされておらず一つのトラックとなっています。セゴヴィアがほとんど間を空けずに演奏しているのでそのようにしたのだと思いますが、ちょっと扱いにくいところですね。



ポンセのソナタはやはり名演

 ポンセのソナタ第3番から第2、第3楽章を弾いていますが、セゴヴィアは1955年、つまりこの年に全曲録音しています。前にも言ったとおり、セゴヴィアはポンセのほぼすべてのギターのための作品を録音していますが、同じ南米の作曲家のヴィラ・ロボスのほうは、作品数がそれほど多くないにも関らず、演奏したり、録音したりしているのは一部の曲に限られています。

 セゴヴィアから見た場合の音楽的、あるいは個人的共感度、親密度の違いということになるのでしょうか。やはり演奏を聴いた感じではポンセの曲のほうがずっとすばらしいようです。特にこのソナタ第3番の第2楽章は共感度が高いようで、たいへん深い表現をしています。時折セゴヴィアは南のソナチネ第2楽章にもこの曲を使ったりしますが、特にこの曲への思い入れが強いのでしょう。



観客に拍手?

 テデスコのタランテラは1949年に録音し、またエジンバラのほうでも演奏することになりますが、とても溌剌とした優れた演奏で聴衆を大いに沸かせています。それにしても拍手は大きいのに、演奏中にはほとんど観客席からのノイズがない、観客にも拍手!



最高のセヴィーリャ

 最後のセヴィーリャについては以前にもお話したとおり、たいへん優れた演奏、セゴヴィアの残したいくつかのこの曲の録音の中でも最上位に挙げられるものではないかと思います、まさに乗りに乗った演奏とはこのこと。迫力や指回りが絶好調というだけでなく、セゴヴィア・トーンがいつもにも増してすばらしい(ハウザー1世も絶好調か)。ただ、ト短調の部分ではさすがに気持ちと力が入りすぎ。

 この録音50年以上も前のものですが、全くそんな感じがしない、まるですぐ目の前でセゴヴィアが演奏しているような気がします。確かにマイクの位置はかなり近そうです。この時代のスタジオ録音よりもずっとセゴヴィアの音をよく捉えているように思います。
 前回までで、セゴヴィアのスタジオ録音のLPの紹介は終了で、今回からリサイタルなどのライヴ録音のCD紹介です。セゴヴィアはその長い生涯に於いて、全世界で多数のリサイタルを行なっており、多くの場合その演奏は何らかの形で記録されていると思われます。

 そうしたもののうちいくつかは現在CDとして市場に出回っていると思いますが、私の手元にはそれらのうち4種類のCDがあります。おそらく今後さらにこれらの録音がCD、あるいはDVDなどの形で市場に出せれるのではと思います。

 


◎1955年 8月28日 エジンバラ音楽祭(イギリス)

ヴィンセンツォ・ガリレイ : 6つの小品
 Ⅰ.プレリュード、 Ⅱ.白い花、 Ⅲ.パサカリア、 Ⅳ.クーランテ、 Ⅴ.カンション、 Ⅵ.サルタレッロ

ロベルト・ド・ヴィゼー : 6つの小品(組曲第9番二短調、組曲第12番ホ短調*より)
 Ⅰ.メヌエット(ロンド)、 Ⅱ.アルマンド、 Ⅲ.ガヴォット、 Ⅳ.サラバンド、 Ⅴ.メヌエット、 Ⅵ.メヌエット*

J.S.バッハ : フーガ BWV1000、 ロンド風ガヴォット BWV10006

F.シューベルト : メヌエット

A.タンスマン : カヴァティーナ組曲
 Ⅰ.プレリュード、 Ⅱ.サラバンド、 Ⅲ.スケルツィオ、 Ⅳ.バルカローレ、 Ⅴ.ダンサ・ポンポーザ

H.ヴィラ・ロボス : 前奏曲第3番、 第1番 

C.テデスコ : セゴヴィアの名によるトナディーリャ、 タランテラ

グラナドス : スペイン舞曲第10番
 


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1955年のライヴだが、現在入手出来るかどうか微妙

 このCDは2003年の発売ですが、現在では入手出来るかどうかは、やや微妙なようです(可能性はなくはないと思いますが)。1955年のライヴ録音ということですが、音質はかなりよいといってよいでしょう、しっかりとセゴヴィアの音を捉えています。ノイズも年代からすればかなり少ない方だと思いますが、最後の方の曲でLPのキズのようなノイズが入るので、LPとして市場に出されていたこともあったのかも知れません。



まさに絶頂期の演奏

 セゴヴィア62歳の演奏ですが、勢い、緊張感、音色の美しさなど、たいへんすばらしい演奏で、まさに音楽性、技術共に絶頂期の録音と言えるでしょう。ライヴにありがちなミスや不明瞭な部分なども非常少なくなっています(完全にないわけではないが)。



ガリレオの叔父さんの作品?

 最初の「6つの小品」はヴィセンツィオ・ガリレイの作品となっていますが、一般には作者不明とされる作品でルネサンス時代のリュートのための作品をイタリアの音楽学者、キレソッティが現代譜に直したものとされています。

 この中ではっきり作者がわかっているのは「白い花」(チェザレ・ネグリ)のみのようですが、最後の「サルタレッロ」はそのヴェンセンツィオ・ガリレイの作とされることもあります。

 ちなみにこのヴェンセンツィオ・ガリレイは有名なガリレオ・ガリレイの叔父にあたるそうで、確かにリュート奏者で、いくつかの作品は残されているようです。しかし、少なくともこの6曲すべてがこのV.ガリレイの作ではなさそうです。

 個々の曲名の方もあまり聞かれない表記になっていますが、おそらくセゴヴィアはこのような形では主催者に告げなかったのではと思います。もちろん演奏はすばらしいもの、また、この曲はスタジオでも1955年に録音しています。

 因みに、その有名な”ガリレオ”自身でもリュートを弾いたそうで、ルネサンス人というのは芸術も科学も音楽も、すべてできなければならなかったそうです。



ド・ヴィゼーはフランスのバロック時代のギタリストだが

 ド・ヴィゼーの「6つの作品」のほうもこのCDの曲名表記はちょっと気になります。かなり丁寧に「組曲第9番二短調より」となっていて、6曲目の「メヌエット」は「組曲第12番ホ短調」となっています。また最初の「メヌエット」にはカッコ付きで「ロンド」となっていますが、この曲を「ロンド」するのはやや強引ではと思います。

 原曲ではこの最初の「メヌエット」と5曲目の「メヌエット」は両方で一つの曲(メヌエットⅠ-Ⅱ-Ⅰのようにダ・カーポして演奏される)となっています。また「ガヴォット」は「ブーレ」の間違いですが、セゴヴィアはコステ編に准じて冒頭の本来の二つの8分音符を4分音符で弾いており、確かに聞いた感じではガヴォットに聴こえるかも知れません。



作曲者名も曲名も調も全部間違っている!

 もっと凄いのは最後の「メヌエット」で、前述のとおりこのCDの表記ではド・ヴィゼー作曲、組曲第12番ホ短調より、「メヌエット」とされていますが、実はこれらすべてが間違い、つまりこの曲は、ド・ヴィゼー作曲でもなく、組曲第12番でもなく、ホ短調でもなく、さらにメヌエットでもありません。

 それにしても、曲名や調性、作曲者名などすべて間違いで、何一つ当たっていないと言うのも珍しいのではないかと思いますが、この「メヌエット」の正しい曲名の表記は

 マヌエル・ポンセ作曲 : 組曲二長調より「クーラント」

ということなります。因みにこの組曲のプレアンブロ(前奏曲)はヴァイス作曲として、ガヴォットはアレクサンドロ・スカルラッティ作曲として発表されています。

 このような誤記はまず、セゴヴィアが曲名は作曲者名などについて詳しいことを主催者側に告げなかったことによるものと思われます。これはセゴヴィアにとってはいつものことで、特にポンセのバロック風の作品は常にヴァイスやド・ヴィゼーなどのバロック時代の作曲者の作品として主催者に書き送っているようです。


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このCDでは”ド・ヴィゼー作曲「メヌエット(6曲目の)」とされた曲。実際はマヌエル・ポンセ作曲「クーラント」~組曲二長調より。  どう見てもメヌエットには見えない(聴こえない)。またホ短調などでは全くありえない。



一般のクラシック音楽には詳しいのかも知れないが

 そうした不十分な曲名表記のプログラムを見て、このCDの制作スタッフはより詳しい表記を試みたようです。シューベルトの「メヌエット」には「ピアノ・ソナタト長調D894より」と記していたりするので、このスタッフは一般の音楽には詳しかったと想像されます。

 しかしこの「メヌエット」は実際には二短調で演奏されているわけですから、「ト長調」とあえて記するのもどうかと思います。同様にイ短調で演奏されているバッハの「フーガ」もト短調と記しています。

 どうやらこのスタッフは一般のクラシック音楽には詳しいのだが、残念ながらギターについてはほとんど知識がなかったようです、特にセゴヴィアについては  ・・・・・・・・まあ、よくあることですが。 




速すぎず、遅すぎず

 ちょっと脇道にそれてしまいましたが、そのバッハのフーガはやはりすばらしい、若い頃ほど速くなく、また遅いと言うこともなく、まさに絶妙なテンポと言え、各声部の弾き分けもすばらしい。ガボットも軽快で力まず、緩まずといった感じ。 ・・・・・・ガヴォットでは一瞬記憶が曖昧になったのか若干迷走しています。といっても流れを止めたりせずに弾いていて、曲を知らないと、もしかしたら間違ったことには気付かないかも知れません。巨匠のちょっとした愛嬌といったところでしょうか。



1954~1955年頃に録音した曲目が中心

 タンスマンの「カヴァティーナ組曲」は1954年に録音しています。また”作者不詳”の「6つの小品」、 バッハの「フーガ」、 テデスコの「セゴヴィアの名によるトナディーリャ」は1955年に録音しており、この時のリサイタルにはこの前後に録音し、LPとして発表された曲が並んでいます。当然といえば当然かも知れません。



スタジオ録音より演奏の美しさはいっそう伝わってくる

 この「カヴァテーナ組曲」は1954年のスタジオ録音に比べると、バルカローレがやや速い以外はほとんど同じテンポで演奏しています。ライヴということを考えると比較的落ち着いた演奏といえるでしょう。

 観客の咳など、若干のノイズは入るものの、音色などはスタジオ録音に比べてこのライヴのほうが美しく聴こえます。また奥行きも感じられ、ニュアンスの変化もよく聴き取れます。セゴヴィアの演奏のすばらしさは、このライヴ録音のほうがより伝わってくるように思います。

 

自分の耳で確かめて下さい

 シューベルト、ヴィラ・ロボス、テデスコも、すべて名演ではありますが、是非、ご自分の耳で確かめてください。テデスコの「タランテラ」には前述のとおり、LP盤のキズのようなノイズが入ります。複数の音源からこのCDを制作しているのかも知れません。



待つ価値は十分にある

 グラナドスの「スペイン舞曲第10番」でこのCDが終わりますが、この曲はアンコール曲かも知れません。セゴヴィアらしいたいへん美しい演奏です。

 このCDは一つのリサイタルをまるごとCDにしたものなので(おそらく)、CDとしてのまとまりもたいへんよく、特にお薦めのものです。入手出切るかどうかは若干ありますが、待つ価値は十分あるものだと思います。
<スペインMovieplay社での録音>


◎セゴヴィア アラビア風奇想曲 1973年録音 
ナルバエス : 「牡牛の番をして」によるディファレンシャス
バルデラバーノ : ソネート第8番
ピサドール : パヴァーナ
ムダーラ : ガリアルダ
ソル : スペインの「フォリア」による変奏曲作品15
リョベット : エル・メストレ、 商人の娘
タレガ : アラビア風奇想曲
モレーノ・トロバ : ファンダンギーリョ、 アラーダ、 アルバータ、 ノットゥルノ、 ブルガレーサ、 アレグレット~ソナチネ第1楽章
アルベニス :朱色の塔



◎セゴヴィア 愛奏曲集Ⅱ  1973年12月録音

ヴァイス : ブーレ
ゲオルク・ベンダ : ソナチネ二長調
バッハ : 前奏曲、サラバンド、メヌエット(無伴奏チェロ組曲第1番より)
ドメニコ・スカルラッティ : ソナタホ短調L.S.7、 ホ長調K80
ソル : ラルゴ(幻想曲作品7より)、 メヌエットハ長調作品5-3、 メヌエットイ長調作品11-6、 メヌエットハ長調(ソナタ作品25より)
アセンシオ : ディブソ
ポンセ(伝ヴァイス) : 前奏曲ホ長調



◎セゴヴィア セレナータ  1975年録音

バッハ : メヌエットⅠ、Ⅱ、 マーチⅠ、 メヌエットⅢ、 マーチⅡ、 メヌエットⅣ、 ミュゼット(アンナ・マグダレーナの音楽帳より)
ソル : ジチリアーノ作品33、 「マールボローは戦争に行った」による変奏曲
モリエーダ : 主題と変奏
ドノステア : バスク風前奏曲(ドロール)
アルベニス : カタルーニャ奇奏曲
サマズイユ : セレナータ



◎アンドレス・セゴヴィア トロイメライ

グルック : 精霊の踊り
シューマン : 無題、メロディ、最初の損失、小曲、兵士の行進、民謡、あわれな孤児、楽しき農夫(子供のためのアルバム作品68より)
シューマン : トロイメライ、 ロマンス
アセンシオ : 神秘の組曲
テデスコ : ロンサール(プラテーロと私より)
モレーノ・トロバ : カスティーリャ




長年のデッカ社との契約を解き

 前にもお話したとおり、セゴヴィアは1972年をもって、金字塔ともいえる数々のLPを発表してきたデッカ社との契約を解き、1973年~1977年までにスペインのMovieplay社で4枚のLPを録音し、このれらがセゴヴィアの最後の録音となります。


入手できない

 これらのLPは発表当初は日本国内でも発売されていたのですが、その後CDとして復刻されたかどうかはよくわかりません。少なくとも今現在ではCDとしては発売されていないか、あるいは非常に入手しにくい状態になっているようです。

 私自身でもこれらの録音をLPとしても、またCDとしても聴いたことがなく、従ってこれらの4枚のLPについては残念ながら曲目などをリスト・アップすることしか出来ません。

 これらの録音はいろいろな意味でたいへん貴重なものであるのは間違いなく、近い将来私を含めた一般の愛好者が入手しやすい形になることを願っています。

 繰り返しになりますが、セゴヴィアの録音は、古いものほど入手しやすく、新しいものほど入手しにくいという状況があります。特に今回の4枚はスペイン国内レーヴェルということで特に市場に出回りにくい形となっているのでしょう(今現在このレーヴェルは存在しているのかな?)。



バルデラーバノ、ピサドールなど珍しいビウェラ奏者の曲も

 といったわけで、演奏についてはコメントできませんが、若干曲目について触れておきましょう。1枚目の「アラビア風奇想曲」では最初にビウェラの作品が録音されています。「牡牛の番をして」は2度目の録音ですが、バルデラーバノ、ピサドールなどあまり演奏されないビウェラ奏者の作品も録音されています。



最後のリョベット、タレガ

 リョベット、タレガとセゴヴィアにとっては特別な存在のギタリストの作品を収めていますが、それぞれセゴヴィアの最後の録音となります。LPのタイトルにもなっている「アラビア風奇想曲」は1954年以来の録音となります。なおこのアルバムは他にトロバ、アルベニスなど、スペイン音楽のみに絞った曲目になっています。



愛奏曲集Ⅱ? Ⅰは?

 2枚目のLPは「愛奏曲集Ⅱ」となっていますので、「愛奏曲集Ⅰ」が存在するのでしょうが、よくわかりません。いろいろな音源から抜粋したアルバムの可能性もあるでしょう。ともあれ、この「愛奏曲集Ⅱ」はバロック作品、及び古典の作品を中心に曲目が選ばれています。

 バロック作品ではゲオルク・ベンダという珍しい作曲家の作品を演奏していますが、ショット社から編曲譜も出版されています。それぞれ短い作品です。バッハのほうはこれまでよく演奏してきたチェロ組曲第1番のプレリュード以外に、同じ組曲からサラバンドとメヌエットを録音しています。

 スカルラッティの2曲はデュアート編だそうです(K80って、どんなソナタだったかな?)。ソルの作品ではハ短調の「ラルゴ」などが演奏されているようです。



マラッツのスペイン・セレナードではない

 「セレナータ」というタイトルからすると、有名なマラッツのセレナードかなと思うところですが、この「セレナータ」はサマズイムという作曲家の作品です。サマズイムはフランスの作曲家で1920年代の作品のようです。

 バッハの曲では「アンア・マグダレーナの音楽帳」からの小品が演奏されています。ソルの「シチリアーノ」や「マールボロ」などもセゴヴィアとしては初めての録音で、それまであまりリサイタルなどでも演奏していなかったのではと思います。「カタルーニャ奇想曲」は確か映像も残されているのと思います。



愛息カルロスのための

 セゴヴィア最後のLPとなるのが「トロイメライ」と題されたLPですが、もちろんこちらはシューマンの作品で、他に8曲の小品が録音されています。浜田滋郎氏のコメントでは「1970年に生まれた、愛息カルロスへのアルバム」としています。

 1970年といえばセゴヴィア77歳! 恐れ入ります。カルロスは今年42~3歳、私よりずっと若い! なおトロバの「カステーリャ」は「カスティーリャ組曲」とは全く別の曲だそうです。



次回はライブ録音

 以上でセゴヴィアのいわゆるスタジオ録音は(ほぼ)すべて紹介したことになりますが、他にライブ録音をCD化したものもいくつかあります。私の手元には4種類ほどありますので、次回それらを紹介します。