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中村俊三 ブログ

中村ギター教室内のレッスン内容や、イベント、また、音楽の雑学などを書いていきます。

ドイツ : ガヴォット、ブーレ(J.S.バッハ)


皇帝ベッケンバウアー

 ドイツ代表といえば、西ドイツ時代に3回優勝(1954、1974、1990年)しているサッカー強豪国です。特に1974年の時には皇帝と呼ばれたベッケンバウアーが活躍しました。「司令塔」といった言葉もこのベッケンバウアーから始まったようです。またゲルト・ミュラーというFWも活躍し、へデングでの得点が多いことから「爆撃機」と呼ばれていました。


19回中11回がベスト4以上

 1990年以来優勝はありませんが、2002年第2位、2006年、2010年第3位とワールド・カップではこのところ毎回好成績を上げています。また19回のワールド・カップのうち、ベスト4以上が11回と安定した強さを持っていて、このあたりが他のヨーロッパの強豪国との違いです。


FIFAランキング第2位

 現在の代表チームではエジル、ミュラーといった若手の選手が台頭する一方で、クローゼやラームといったベテラン選手も健在で、世代間のバランスもとれたチームとなっています。現在FIFAランキングはスペインに次ぐ2位で、ブラジル大会でも間違いなく優勝候補となるでしょう。



バッハの作品はギターのリサイタルには欠かせない

 ギターのほうはというと、実はドイツの作曲家やギタリストで優れたギター曲を残した人はあまりいないのですが、現在のクラシック・ギターのリサイタルではバッハの作品は必ずと言ってよいほど演奏されています。私自身でも昨年バッハの作品のみのリサイタルを行ないました。

といった訳でオリジナルのギター作品以上にバッハの作品はギターで演奏されることが多く、ドイツの音楽もギターに無縁ではありません。また現在のドイツのほとんどの音楽大学にはギター科があるそうです。

 演奏曲の方はバッハのリュート組曲第4番から「ガヴォット」、無伴奏ヴァイオリン・パルティータ第1番より「ブーレ」です。




イタリア : カプリース第24番「主題と変奏」(パガニーニ)、 凱旋行進曲(ヴェルディ)


いつのまにか勝ってしまう

 イタリアは優勝4回とワールド・カップではブラジルに次ぐ優勝回数を誇っています。特に下馬評が高くなくても何となく勝ってしまうチームのようです。1点取って守りきるサッカーは「カテナチオ」と呼ばれています。


ファンタジスタ

 これまでGKのブフォン、DFのカンナバーロ、マルディーニなどの優れた選手も生み出してきましたが、ファンタジスタと呼ばれるロベルト・バッジョ、デル・ピエロ、トッティなどのスター選手も生み出しました。


ブラジル大会でも優勝をさらうのか

 現在のチームではバロッティ、ピルロなどが中心選手ですが、ブラジル大会でも強豪たちのつぶしあいを尻目に、したたかに最後は優勝をさらってしまうのでしょうか。



イタリアもギターの国

 イタリアはヨーロッパではスペインに次ぐギターの盛んな国で、古典期にはジュリアーニ、カルリ、カルカッシなどのギタリストを生み出しました。20世紀になってからはカステルヌォーボ・テデスコが「ボッケリーニ賛」、「プラテーロと私」などのギターの傑作を書いています。



超絶技巧的な曲

 伝説のヴァイオリニストとして名高いニコロ・パガニーニもギターの作品を多数書いていますが、「24のカプリース」は無伴奏のヴァイオリンの為に書かれたもので、演奏には超絶技巧が必要な曲です。今日演奏するのはその中の第24番「主題と変奏」です。やはり難しい曲ですが、ギターに向いたところもあり、ジョン・ウィリアムスなど、ギタリストにもよく演奏される曲です。今日の演奏するのは私自身のギターへのアレンジです。


応援で歌われるあの曲

 凱旋行進曲はヴェルディの有名なオペラ「アイーダ」からです。そう、サッカーの応援で歌われる、あの曲です。





ブラジル : ショールス第1番、練習曲第12番(ヴィラロボス)


ワールド・カップ優勝5回

 最後は来年のワールド・カップの開催国、ブラジルです。ブラジルはワールド・カップ優勝5回と最多で、これまでも多くの選手をヨーロッパのビッグ・クラブに送り出してきました。言わずと知れたサッカー王国といえるでしょう。


ブラジル・サッカーと言えば、やはりペレ

 ブラジルといえば、なんと言ってもペレということになりますが、17歳で初出場した1958年、および1962年、1970年と現役選手時代に3度ワールド・カップで優勝しています。このペレの時代にブラジルはサッカー王国の礎を築いたものと考えられます。



黄金のカルテット

 もう一人ブラジルの代表的な選手といえば、私たちにはなじみの深いジーコでしょう。ジーコもたいへんすばらしい選手で、1982年のワールド・カップではソクラテス、ファルカン、トニーニョ・セレーゾの4人で構成する中盤を”黄金カルテット”と称賛されました。しかし残念ながらジーコの時代にはワールド・カップで優勝は出来ませんでした。

 因みにファルカンは短い期間でしたが、日本代表の監督を務めたことがあります。トニーニョ・セレーゾは現在の鹿島アントラーズの監督です。



こんな時にこそ強いのでは

 ブラジルは1994年のアメリカ、2002年の日韓でも優勝していますが、2006年ドイツ、2010年南アフリカとベスト4以上には進んでいません。また現在FIFAランキングでは19位。さらに、このところヨーロッパのビッグ・クラブで活躍する選手も、一頃に比べるとかなり少なくなっています。

 しかし昨年、直前にフランスを破って意気揚々と試合に臨んだ日本代表を、ネイマールを中心に圧倒したブラジル代表の強さが私たちの目には焼きついています。こんな時にこそブラジルは強そうです。1950年の時には果たせなかった自国大会優勝を今度は実現するのでは。



ブラジルの作曲家といえば

 ブラジルの音楽といえば、ボサ・ノバやサンバなどポピュラー系のものが盛んですが、クラシック音楽では20世紀前半に活躍したエイトール・ヴィラロボスが挙げられます。交響曲、室内楽、各種器楽曲、協奏曲などその作品数はかなり多く、その種類も多彩です。それらの中では12曲の「ショールス集」、9曲の「ブラジル風バッハ」などが代表作といえるでしょう。またピアノのための作品もよく演奏されます。



多作家だが、ギターの作品はそれほど多くない

 ギターのための作品は「5つの前奏曲」、「5つのショーロ」、「12の練習曲」などで、作品数としてはそれほど多くはありませんが、たいへんよく演奏され、ギターのコンサートではなくてはならないレパートリーになっています。

 その他のギター関係の作曲家と言えば、主に「鐘の響き」などのショーロを書いたペルナンブコ、二重奏で有名なセリジオ・アサド。さらにボサ・ノバ系のボンファ、カルロス・ジョビン、バーデン・パウエルなどが挙げられるでしょう。最近ではペレイラ、レイスなどのポピュラー系の作曲家の作品もクラシック・ギタリストによって演奏されています。



気が向いたらお出かけ下さい

 さて、当コンサート明日(6月1日 土曜日 14:00開演 水戸市三の丸茨城県立図書館視聴覚ホール)ということになりました。お時間のある方は是非お出で下さい。入場無料で、特に予約等の必要もありません。気が向いたらお出かけ下さい。
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スペイン : メヌエットイ長調作品11-6(ソル)、 マジョルカ(アルベニス)


現在、サッカー界の絶対的王者

 スペインのサッカーについては、以前お話したとおり、あるいは皆さんのご存知のとおりで、2010年南アフリカワールド・カップで初優勝、2008年、2012年のユーロを連覇、そしてこの数年間FIFAランキング1位の座を守っていて、まさに現在のサッカー界の王者として君臨しています。



その王者に勝利した

 さらにこの1年間、フル代表は負け知らずということですが、U-23(五輪代表)では昨年のロンドン・オリンピックで日本とホンジョラスに負けています。ホンジョラスに負けたのも日本戦の敗戦を引きずってと考えられますから、五輪代表と言えど、この1年で王者スペインを破ったの、はほぼ日本のみと言えるでしょう。



ギター界ではそれ以上の地位

 ギターに関してもスペインの地位は絶対的なものとなっています。スペイン音楽抜きにギターを語ることは出来ないでしょうし、またギター抜きにスペイン音楽を語ることもできないでしょう。16世紀以来重要な作品を残したギター奏者、ギターのための作品を書いた作曲家、ギターでその作品がよく演奏される作曲家など、挙げだすときりがないのでやめておきましょう。



スペインの都市の名が身近なものに

 私自身では新婚旅行の際にちょっと立ち寄った程度で、実質スペインには行った事がないといってよいのですが、長年ギターをやっていると、グラナダ、セビージャ、カディス、マラガ、アンダルーサ、カタルーニャなどのスペインの都市や地方の名前がとても身近なものになってしまいます。

 コンサートなどでも「アランブラ宮殿は、スペイン南部のアンダルシア地方のグラナダという都市にあって、イスラム人の王が・・・・」などという説明をよくしますから、聴いている人もおそらく私がスペインに詳しく、何度も行っているように感じてしまうかも知れませんね。



ブログ 104



浜田滋郎氏の著作

 スペインの音楽、およびギターについては、比較的最近音楽学者の浜田滋郎氏により「スペイン音楽の楽しみ」と言う本が出版(30年前に出されたものの改訂版)されました。スペインにおけるクラシック・音楽から、フラメンコなどスペインの音楽に関することがひと通り書かれています。

 先日浜田先生にお会いした時「堅苦しくなく、誰にでも楽しんでもらえるように書いたつもりです」とおっしゃっていました。ギターに興味のある方も、スペイン・サッカーのファンの方もぜひ読んでみて下さい。



アランブラでは大人気ない?

 サッカーのスペイン代表はご存知のとおり、イニエスタ、シャビ、ビジャ、カシージャス、フェルナンド・トーレス、ダビド・シルバとシター選手ぞろい。先発メンバーに誰を選んだらよいか監督もたいへん迷うところだと思います。しかしギターにおいてはそれ以上に名曲ぞろい。どの曲を演奏すべきはもっと迷うところです。

 アランブラの想い出、アストゥーリアス、魔笛の主題による変奏曲、スペイン舞曲第5番、そうそう、禁じられた遊びもスペインのギタリストの作品です。 ・・・・・しかしこれらの超有名曲をここで選んだのではあまりにも”大人気ない” 知名度はそれほどでなくとも優れた曲は山ほどある。

 ここでは王者の余裕としてフェルナンド・ソルの「12のメヌエット作品11」から「第6番イ長調」とイサーク・アルベニスの「マジョルカ」を選んでおきましょう。もちろんどちらも優れた作品です。





日本 : 早春賦(中田章 ~武満徹編)、 さくら変奏曲(横尾幸弘)



Jリーグ発足とドーハの悲劇が分岐点

 ご存知のとおりと思いますが、日本代表がサッカー・ワールド・カップに初めて出場したのは1998年のフランス大会。その後日韓、ドイツ、南アフリアカと4回連続で出場しています。その4年間のアメリカ大会の予選では、ほとんど出場が決まりかけていたイラク戦とのロスタイム、ほとんど残り1分とない時間にショート・コーナーから1点を失い、手にしていた出場権がポトリと落ちてしまいました。

 いわゆる「ドーハの悲劇」と言われている出来事で、Jリーグが発足して盛り上がる日本のサッカー界に大きな衝撃をもたらしました。もっともそれ以前にはサッカー・ワールド・カップなど日本では話題にもならず、そうしたものが存在することすら知らない人も決して少なくはなかったはずです。

 また実際に、日本代表が予選を突破して出場権を獲得する可能性は決して大きいものではありませんでした。日本のワールド・カップ出場は日本のサッカー関係者の一つの夢といったものだったでしょう。

 「ドーハ」の悲劇は確かに悲劇ではありましたが、そのことで日本の人々にワールド・カップのことをしっかりと印象付けたのは間違いないでしょう。そして同時にワールド・カップ出場権は夢ではなく、手の届くところにあるといったことも印象付けたはずです。



あまりプレッシャーを与えてもよくないが

 もちろん今現在ではワールド・カップは「絶対に出場しなければならないもの」といった感じもあり、選手や関係者には違った意味でのプレッシャーがかかているかも知れません。残念ながら今年の3月にブラジル大会の出場が決まりませんでしたが、6月4日には必ず決め手もらえるものと思います。

 最終予選はあと残り2試合ですが、勝ち点差などからすると日本が仮に連敗したとしても(あまり考えたくはないが)出場権獲得の可能性はかなりあるのではないかと思います。 何が起こるかはわからないが・・・・



ギター界の中田、香川?

 さて、曲のほうは、どちらも春の曲で、若干季節感がずれてしまいました。日本を代表する作曲家といえば、何と言っても武満徹。日本を代表するというより、20世紀を代表する作曲家といってよいでしょう。現在、武満の曲はギター曲も、またギター以外の曲でもヨーロッパを始め、世界各地で演奏されています。ギター界における中田英寿か香川真司といったところでしょうか。

 この横尾編の「さくら」も国外のギタリストがよく演奏している曲で、もちろんわが国でも人気の高い曲です。この曲がよく演奏されるようになったのはジョン・ウィリアムスが演奏したことがきっかけで、逆輸入的な作品と言えるかも知れません。
ギター・ワールド・カップ ~中村俊三世界の名曲コンサート 3

フランス : 亜麻色の髪の乙女(ドビュッシー)、 亡き王女のためのパヴァーヌ(ラヴェル)




1998年自国大会で優勝

 フランスと言えば、やはり1998年、日本代表が初めてワールドカップに出場した自国大会での優勝でしょう。ジダンを中心に決勝でもブラジルを圧倒しました。2000年のユーロでも優勝し、まさにフランスの絶頂期と言えるでしょう。

 次の2002年の日韓でも1998年にはまだ控えの選手だったアンリ、トレセゲがヨーロッパのリーグで得点王になるなど、ますます戦力を増強し、優勝候補の筆頭として臨んだのですが、ご存知のとおり、グループ・リーグで姿を消しました。



強いフランスともろいフランス、今度は強い番?

 しかし次の2006年のドイツ大会では特に下馬評が高くなかったにもかかわらず決勝進出し、準優勝しています。決勝ではイタリアにPK戦で敗れていますが、この時相手選手に暴言をはかれたことからジダンの頭突き事件などが起きました。
  
 そして前回の南アフリカ大会では、チーム内での不和の聞かれ、グループ・リーグで1勝も出来ずに敗退となっています。つまりこのところ強いフランスともろいフランスが交互となっています。とすると、今度のブラジル大会は強いフランスかな?



将軍プラティニ、 シャンパン・フットボール

 1970年代から80年代にかけてフランスでは将軍と呼ばれたプラテニというスター選手が活躍し、たいへん優雅で美しいサッカーをしていたことから”シャンパン・フット・ボール”と呼ばれていました。



優雅で美しい音楽

 優雅で美しいといえば、音楽では印象派の音楽家のドビュッシー、ラヴェルということになるでしょう。この2曲はどちらももともとギター曲ではありませんが、ギターで演奏してもたいへん美しい曲です。



パリはギターの一つの中心地

 因みに、フランスのギター音楽と言えば、まずバロック時代のロベルト・ド・ヴィゼー。19世紀初頭のパリではフェルナンド・ソル、 フェルナンド・カルリ、 フランシスコ・モレーノ、 マティオ・カルカッシなどのこの時代を代表するギタリストが活躍していました。

 19世紀半ばにはナポレオン・コスト、 現在ではローラン・ディアンス、 フランシス・クレンジャンス、などのギタリストが優れた作品を書いています。またパリ・コンセルバトワールのギター科からは毎年優れたギタリストが巣立っています。やはりフランスもギターの盛んな国といってよいでしょう。






アルゼンチン : ブエノスアイレスの夏(アストル・ピアソラ)、 ラ・クンパルシータ(ロドリゲス)



1978年ケンペス、 1986年マラドーナ

 アルゼンチンはブラジルと並ぶ南米のサッカー強豪国ですが、ワールドカップの優勝回数ではブラジル=5、アルゼンチン=2と若干水をあけられた形です。その2回は1978年の自国大会と1986年のメキシコ大会で、1978年の自国大会の時はアルゼンチンは軍事政権下にあり、国を挙げての大会だったようですが、ケンペスなどが活躍しました。

 86年のメキシコ大会ではマラドーナが活躍するわけですが、準々決勝でのイングランド戦では「神の手」によるゴールや5人抜きのゴールで、いろいろ話題となりました。その後も薬物使用や、相手選手に睡眠薬を飲ませるなど、マラドーナについては、よくも悪くも話題に事欠かないようです。




マラドーナの弟はJリーグでプレー

 因みにマラドーナ(ディエゴ・マラドーナ)の弟のウーゴ・マラドーナが1995~1998年頃Jリーグでプレーしていたのはご存知? 外見はよく似ていましたね。でもあまりいろいろと話題にはなりませんでしたから性格などは違うのかも知れません。



スーパー・スター:リオネル・メッシ ~代表ではイマイチかみ合わないが

 現在のアルゼンチン代表といえば、なんと言ってもバルセロナFCで活躍しているメッシ、まさに次元の違うフット・ボーラーと言えるでしょう。しかしそのメッシもアルゼンチン代表としては、バルセロナの時ほどには活躍出来ていないようです。

 メッシはこれまで2006年、2010年と2度のワールドカップに出場していますが、どちらもベスト8で終わっています。しかし年齢的にもそろそろピークを迎えるメッシ、今度のワールド・カップでは大爆発するかも知れませんね。



アルベルト・ヒナステラ

 アルゼンチンの作曲家、特にクラシック音楽においてはあまり著名な人がいませんが、アルベルト・ヒナステラという作曲家がたいへん優れた作品を書いています。交響曲や協奏曲なども書いていますが、ギターのためのソナタも書いています。

 ヒナステラはギターを全く弾かないそうですが、ギター曲を作曲する際に、ギターのことをとことん研究したそうで、出来上がった作品はギタリストが書いた作品以上にギター的な曲になっています。ギター名曲の一つといえるでしょう。



タンゴの巨匠、アストル・ピアソラ

 残念ながらそのヒナステラのソナタは私には弾けませんので、その代わりにタンゴの名曲からアストル・ピアソラの「ブノスアイレスの夏」とロドリゲスの「ラ・クンパルシータ」を演奏します。

 ピアソラはタンゴの巨匠として知られており、ギターに関する作品もいくつか残していますが、この「ブエノスアイレスの夏」はバルタサール・ベニーテスというギタリストのアレンジです。「ラ・クンパルシータ」のほうは私の編曲となります。アルゼンチンの音楽と言えば、やはりタンゴでしょう。
ギター・ワールド・カップ ~中村俊三世界の名曲コンサート 2


演奏予定曲目 : グリーン・スリーブス(イギリス民謡)、 レット・イット・ビー(P.マッカートニー)


 では最初の試合、いや演奏曲目はイギリス民謡の「グリーン・アリーブス」とビートルズの曲から「レット・イット・ビー」です。

 ご存知かとは思いますが、FIFAワールド・カップは、各国の代表が各地域で予選を行い、現在では32チームが本大会に出場します。各国1チームずつなどと言うことは当然のことですが、この”イギリス”だけはイングランド、ウェールズ、スコットランド、北アイルランドの4つの代表があり、それぞれがヨーロッパ地区の予選を戦います。


一つの国から3チーム?

 つまり場合によってはイギリスから複数のチームがワールド・カップ本大会に出場することがあるということですが、歴代の大会ではどちらかと言えば2チーム以上出場している大会のほうが多いくらいです。1958年のスウェーデン大会ではイングランド、スコットランド、ウェールズ、1986年のメキシコ大会ではイングランド、北アイルランド、スコットランドの3チームがワールド・カップに出場しています。



サッカー発祥の国に敬意を表して

 日本で言えば、本州代表と北海道代表、九州代表がそれぞれワールカップに出場するようなものです。これはイングランド、スコットランド、ウエールズ、北アイルランドの各サッカー協会が別個にFIFAに加盟しているとうことなのでしょうが、サッカーの発祥地としての優遇、特権ということなのでしょう。

 ただしイングランドなどのイギリス諸代表がワールド・カップに参加するようになったのは1950年以降のようです。多分いろいろな経緯があったのでしょうね。



イギリス=イングランド?

 先ほど”イギリス”と書きましたが、イギリスはイングランドが訛ったものですから、イギリス=イングランドと言葉上ではなります。しかし私たちが”イギリス”と言う場合はイングランド地方のことではなく、イギリスとういう国。ちょっとややこしいですね、正式にはグレート・ブリテン、及び北アイルランド連合王国と言うんだそうですね(正確ではないかもしれませんが)。

 スコットランド出身の人に「あなたはイギリス人ですか」というと「いえ、違います。私はスコットランド人です」と答えるのでしょう。では現地の人たちは自分たちの”国家”のことをなんと呼んでいるのかなというと、「ユナイテッド・キングダム」で”UK”と呼んだりもするようですが、あまりはっきりしていないようですね。



正確な発音では呼ばないように

 ともかく私たちはそんな内輪の事情など考えていられませんからウェールズ出身だろうと北アイルランド出身だろうと気にせず堂々と「イギリス人」と言ってしまいましょう。ただし正確な発音で「イングリッシュ」と呼ぶのだけはやめておきましょう。


1966年の自国開催の大会で優勝

 話があらぬ方向に行ってしまいましたが、イングランド代表は1966年の自国大会で優勝しています。1966年というと、ちょうど私が高校でサッカーを始めた年に当たります。高校でサッカーを始めるまでワール・カップのことなど全く知らず、サッカー部の仲間からいろいろ聴きました。その当時はテレビでサッカーの試合、特に外国乃試合など放送することなどありませんでしたから、ワールド・カップのことなどほんの一握りの人達を除いて、誰も知らなかったと思います。



サッカー部の仲間から話を聴いた

 そのサッカー部の仲間も情報原はサッカー・マガジンで、その情報も少なくとも一ヶ月遅れだったと思います。私自身ではその雑誌を買ったりはしませんでしたから、ワールド・カップのことは仲間たちが話をしているのを聴いて知ったという感じでした。

 その時聴いた話によれば、優勝したイングランドの中心選手は、マンチェスター・ユナイテッドのボビー・チャールトンと言う選手で、兄のジャッキー・チャールトンも代表選手だったとか、北朝鮮がアジア勢で初めてベスト8に入ったとか、黒豹と言われたポルトガル代表のエウゼビオ(当時の日本ではオイセビオと呼ばれていた)が得点王になったなど ・・・・多分オールド・ファンには懐かしい名前ではないかと思います。



グリーン・スリーブスはイギリス民謡?

 さて、演奏曲のほうは「グリーン・スリーブス」ですが、これを”イギリス民謡”とするのは異論もあるようですが、ややこしいのでこの点についてはあまり触れないでおきましょう。ともかく古くからある曲で少なくとも16世紀頃からあったのではないかと思います。”民謡”とされていますが、もともとは低音が決まっているだけで、メロディ自体は決まっていない曲だそうです。

 つまりその低音にあわせて演奏者がメロディを自分で作曲するのだそうです。ようするに無限のグリン・スリーブスが存在することになります。

 今回演奏するのは、現在一般的に演奏されているもの、17世紀初頭のリュート奏者、カッティングのもの、17世紀の作者不明のものの、3つのグリーン・リーブスを繋げたものです。



5人目のビートルズ

 もう1曲はビートルズのポール・マッカートニーの「レット・イット・ビー」ですが、前述のボビー・チャールトンがいたころのマンチェスター・ユナイテッド(現在香川選手が所属している)にジョージ・ベストという選手がいて、髪型がまるでビートルズだったので「5人目のビートルズ」と呼ばれ、たいへん人気があったそうです。

 当時の私たちのチーム(高校の)のセンター・ホワードがそのジョージ・ベストにあこがれて、同じようなヘア・スタイルにしていました(つまりビートルズぽいヘア・スタイル)。彼の快足で決定力のあるのプレー・スタイルは、確かにジョージ・ベストぽく、我がチームの得点源でした。
<コンサート告知>

ギター・ワールド・カップ ~中村俊三世界の名曲コンサート

6月1日(土曜日) 14:00~16:00  茨城県立図書館視聴覚ホール(水戸市三の丸)
入場無料(席数 約150)



・・・・・・・プログラム・・・・・・

イングランド  (FIFAワールド・カップ 1966年優勝)
  演奏曲目 : グリーン・スリーブス(イギリス民謡)、 レット・イット・ビー(マッカートニー)

フランス  (1998年優勝)
  亜麻色の髪の乙女(ドビュッシー)、 亡き王女のためのパヴァーヌ(ラヴェル) 

アルゼンチン  (1978年、1986年優勝) 
  ブエノスアイレスの夏(ピアソラ)、 ラ・クンパルシータ(ロドリゲス)

スペイン  (2010年優勝)
  メヌエット第6番(ソル)、 マジョルカ(アルベニス)

日本  (2002年、2010年Best16)
  早春賦(中田喜直~武満徹編)、 さくら変奏曲(横尾幸弘)

ドイツ  (1954年、1974年、1990年優勝~西ドイツとして)
  ガボット、 ブーレ(J.S.バッハ)

イタリア>  (1934年、1938年、1982年、2006年優勝)
  カプリース第24番(パガニーニ)、 凱旋行進曲(ヴェルディ)

ブラジル  (1958年、1962年、1970年、1994年、2002年優勝)
  ショールス第1番、 練習曲第12番(ヴィラ・ロボス)

  *ギター独奏、話  中村俊三




ギター・ワールド・カップ?

 生徒さんなどに、「今度こんなコンサート、やります。お時間などあれば・・・・」 とチラシを渡すと、ほとんどの場合、「はい・・・・ あ、またコンサートですか・・・・・」と特に驚く様子もなく、また特に質問などもなく、ごく普通に受け取っていただきました。

 確かにそれで何の問題もないのですが、内心、もうちょっと驚いて欲しかったとか、「え、これコンサートなんですか? 変なコンサートですね、なんでサッカーに関係があるんですか?」とか、何か普通じゃないリアクションがあっても・・・・・・


スペイン、ブラジル、イタリア、アルゼンチン、フランス・・・・・ これって

 いつ頃からかはよく覚えてはいないのですが、ギターのレパートリーというと、スペイン、ブラジル、イタリア、アルゼンチン、フランスといった国のもので、これらの国がサッカーの強豪国と重なっているということに気付いていました。

 こうしたことに絡んで、何かコンサートみたいなことが出来ないかなどと思ってはいたのですが、それを具体的に考えるようになったのは、2010年の南アフリカ・ワールドカップのちょっと前くらいだと思います。



スペインが勝たないことには始まらない

 ギターが最も盛んで、そのレパトリーが多いのは何といってもスペイン。確かにスペインは南アフリカ大会の前から「無敵艦隊」と称され、サッカーの強豪国の一つとされていました。しかしこれまでのワールド・カップでは目だった成績もなく(ベスト4が1回)、「強そうで勝てない」ところから、この「無敵艦隊」と言われるようになったのではないかと思います。

 そのスペインが1回もワールド・カップで優勝しないことにはギターとサッカーの関連性など語ることは出来ず、従って「ギター・ワールド・カップ」などという企画は存在しえない。



戦艦に群がるイギリスの小艦船

 そいったわけで、南アフリカ・ワールド・カップの時には、日本代表の試合もさることながら、スペインの試合には特別の関心を持ち、、またその結果に一喜一憂といった感じになりました。

 スペインが初戦でスイスに負けた時には、すべてが0になってしまったと思いました。確かにスペイン・チームは惚れ惚れするような美しいパス回しでしたが、結果は0-1の敗戦。スイスの選手がスペインの大戦艦に群がるイギリスの小艦船(体格ではスイスの選手のほうが大きいが)のように思えました。やはり「無敵艦隊」、美しさと強さは両立できないのか・・・・・



無敵艦隊らしくはなかったが

 その後のことは皆さんもご存知のとおりですが、スペインはグループ予選の残りの2試合を勝ち抜き、特に決勝トーナメントではすべて1-0で勝ち優勝しました。スペインは持ち前の高い技術で勝ち抜いたというより、プジョル、ピケなどをはじめ、イニエスタ、シャビ、ヴィジャなど攻撃的なスター選手までもが積極的に守備をし、勝利への強い執念で栄冠を勝ち取った感じです。

 ある意味「無敵艦隊」とはかけ離れた試合内容でしたが、何はともあれ、オランダとの決勝戦の延長戦でのイニエスタのゴール、そして終了のホイッスルとともに、この「ギター・ワールド・カップ」開催が決定(?)しました。



日本代表ブラジル・ワールド・カップ出場決定祈願を兼ねて

 といった訳で、6月、つまりブラジル・ワールド・カップのちょうど1年前にこの「ギター・ワールド・カップ」と称した私のコンサートを茨城県立図書館で行うことに決定わけですが、当初は3月に日本の5回連続のワールド・カップ出場が決定する予定だったので、そのお祝いも兼ねて行なう予定でした。

 しかしご存知のとおり、3月のヨルダン戦に敗戦し、ちょっと予定が狂ってしまいました。6月4日にはきっちりと決めてもらえるとは思いますが、日本代表ブラジル・ワールドカップ出場決定祈願を兼ねて当コンサートを行なうことにしました。
<勝手に選ぶセゴヴィア名録音 第9位>

ポンセ(伝ヴァイス) : プレリュード、アルマンド(組曲イ短調より) 1954年録音(LP:アンドレス・セゴヴィア・プレイズ)



SP時代の全曲録音もあるが

 セゴヴィアが作曲者名をヴァイスなどとしたポンセの作品、いわゆる”偽バロック作品”を多数演奏、録音しているのはご存知のとおりだが、その中では”ヴァイスの組曲”とした、5曲からなるこのイ短調の組曲が最も印象深い。セゴヴィアはSP時代にこの組曲全曲を、また1952年にはこの組曲中のジグも録音しているが、録音状態などからすると、やはりこの1954年のものがすばらしい。


最初は”バッハの作曲”とするつもりだった

 一説によれば、当初はこの組曲をバッハの名を付して発表するつもりだったが、バッハではあまりにも有名過ぎてすぐに疑われるので、当時あまり一般には知られていなかったリューティストのヴァイスの名を使用したと言われている。確かにある意味それは成功し、実際にかなり長い間に渡りこの曲はシルビウス・レオポルド・ヴァイスの真作としてほとんど疑われなかったようだ。

 私自身もヴァイスの名を知ったのはこの作品からであり、しばらくの間はヴァイスの本当の作品は知らなかった。当時(1970年頃)のほとんどのギター・ファンはヴァイスとはこう言う作風の人だろうと思っていたのではないかと思う。しかし一部の識者(ギター界における)の間では偽作であることは周知の事実だったようだ。

 これらの曲は、実際に聴いてみるとヴァイスの真作とはかなり作風が違い、バロック的な作品ではあるにせよ、リュートらしさはほとんど感じられない。ヴァイスの作品が一般に知られるようになった現在では、この曲を”ヴァイス作”といっても誰もが疑うかも知れない。強いて言うならヴァイスよりは、バッハの作品のほうに近いかも知れない。


年代不詳、国籍不明の不思議な魅力

 それにしても、この年代不詳、国籍不明の作品は不思議な魅力を持っているのは確か。私自身では若い頃から数え切れないくらい何度も聴いた。もちろん自分でも弾いてみたが、当然セゴヴィアの演奏に似せたものになってしまう。

 セゴヴィアはこれらの曲を生前には譜面にしなかったが、確かに譜面には書ききれない音楽でもあるかも知れない。現在出ている譜面はセゴヴィアの演奏を譜面にとったものらしい。

 因みにセゴヴィアはポンセの名で発表した作品は出版したが、ポンセの作品でもバロック時代作曲家などの名で発表した作品は出版していない。また完全に自分で編曲した作品は出版しているが、他のギタリストの編曲を若干変更して演奏しているような場合は全く出版していない。その点はセゴヴィアははっきりしている。





<勝手に選ぶセゴヴィア名録音 第10位>

メンデルゾーン : カンツォネッタ(弦楽四重奏曲作品12より)  1955年録音(アンドレス・セゴヴィア・シャコンヌ)



学生時代の下宿で深夜ラジオから聴こえてきた

 メデルスゾーンの弦楽四重奏曲からの編曲だが、甘美とも言えるメロディで、これも一般に人気の高い曲。学生の頃、セゴヴィアの演奏するこの曲が深夜にFM放送から聴こえてきて感動した記憶がある。若くして世を去ったメンデルスゾーンの曲には、青春の甘酸っぱい味と香りがある。メンデルスゾーンの作品は、仮に深遠な音楽ではないとしても、心を揺さぶる音楽ではあろう。


基本はタレガ編

 セゴヴィアは基本的にタレガの編曲を用い、原曲に応じ若干修正して演奏しているようだ。セゴヴィアの場合、他のギタリストの編曲を用いる場合、ほとんどこのような方法を取る。そうしたものを、後に”セゴヴィア編”とされることもあるが、セゴヴィア自身ではそれを自らの編曲として出版などすることはないのは前述のとおり。
 

多くの人をギターの世界へと誘った1曲、「シャコンヌ」のB面

 セゴヴィアはSP時代にもこの曲を録音しているが、この1955年の録音は、発表当時のLPでは「シャコンヌ」のB面に収録されている。モノラル録音時代の末期だが、初期のステレオ録音よりもリアルで、好感度が高い録音。多くの人をセゴヴィア・ファン、あるいはギター・ファンへと誘った1曲であろうと思われる。

 私個人的にも好きな曲だが、この順位になってしまったのは、この曲なら他のギタリストが弾いてもいい曲に聴こえるかなという点。時々自分でも弾いてみようと思ったりするが、なぜか上手く弾けない。



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やっと終わった

 以上で「勝手に選ぶセゴヴィア名録音」は終了です。結局ベスト10までとなりました。文字通り「勝手に」選んだのでかなり偏った内容になったと思います。おそらく皆さんの考えとは全く異なったものでしょう。
 


バッハ、タレガ、ソルの作品の演奏が外れてしまったが

 結果的にセゴヴィアが力を入れて録音したと思われるバッハ、タレガ、ソルなどの作曲家の作品が上位に入りませんでしたが、私の中では、バッハでは「ルール」の名で演奏したチェロ組曲第3番の「ブーレ」=1955年録音、タレガではムーア風舞曲=1944年録音。 ソルの作品ではアレグロ・ノン・トロッポ(ソナタ作品25より)=1952年録音などが好みの演奏です。

 言い訳になりますが(勝手にやっているのだから言い訳の必要はないが)、結果的にこれらの演奏を上位に入れなかったのは、どこかで演奏者と作曲家との間にちょとした隙間みたいなものを感じてしまったからかも知れません。もちろん客観的にみればそれぞれたいへん優れた演奏であるのは間違いないでしょう。



1年以上に亘ってしまった

 以上で「20世紀の巨匠たち」のテーマを終了しようと思いますが、いつの間にかに1年をはるかにに越えた記事になってしまいました。特にセゴヴィアについては、当初はそんな気など全くなかったのですが、結局全部の録音(私が知りうる限りの)を紹介することになってしまいました。

 当初は他に伝説のデュオ、プレスティ・ラゴヤやイエペス、ブリームなどの録音の紹介もしようと思っていたのですが、結局出来なくなってしまいいました。


初めて聴いたような曲も

 この記事を書くのを機に、セゴヴィアのCDを改めて聴きなおしてみました。かなり前から持っているにも関らず、初めて聴くような曲もちらほら。聴いたことはあるのかも知れませんが、ほとんど忘れてしまっているのでしょう。

 また当然といえば当然かも知れませんが、若い頃聴いた時と今では同じ曲、同じ演奏でもまた違った印象に聴こえてきます。曲によっては当時感じたほど強烈な印象は感じなくなったものもあり、また当時はわからなかったことがいろいろわかってきたものもありました。

 セゴヴィアの演奏は何歳になっても、はやりセゴヴィアですが、同時に年齢によってメカニックだけでなく、その音楽観が徐々に変ってゆくこともだいぶ感じられました。


ありがとうございました

 この記事も、ただただ長いだけの記事となってしまい、ごく少数の人だけが読んでいる記事だったと思いますが、私自身では世紀の大ギタリストの演奏と真剣に取り組む、たいへんよい機会となり、たいへん勉強になりました。

 最後までお付き合い下さった方々、本当にありがとうございました。
昨日(5月4日)石岡市ギター文化館で第8回シニア・ギター・コンクールが行われ、今回も審査員を務めました。結果は以下のとおりです。

シニアの部(55歳以上)

第1位   清水博之(千葉県) <本選演奏曲> 練習曲第1番(レゴンディ)
第2位   鈴木幸男(茨城県) プレリュードホ長調(ポンセ)、カプリース第22番、第7番(レニャーニ)
第3位   加瀬英子(千葉県) 練習曲イ長調作品6-12~セゴヴィア番号NO.14(ソル)
第4位   鹿野誠一(北海道) アリアと変奏(フレスコバルディ)
第5位   上原和男(千葉県) 光のない練習曲(セゴヴィア)、プレリュードBWV1006(バッハ)     第6位   荻島樹夫(千葉県) アラビア風奇想曲(タレガ)




 清水さんはメカニックでは決して易しくないレゴンディの練習曲をたいへん美しく、また完璧に演奏し、第1位を獲得しました。ただし第1位を獲得するには、ヴォリューム的にこの1曲でのみでは少なすぎるのではと言う声もあり、審査員の間で鈴木さんと意見が分かれ、最終的に浜田審査委員長の判断でこの結果となりました。

 鈴木さんの演奏もいつものとおり表現力のある演奏でしたが、今回はやや音の弾きこぼしがやや目立ちこの結果となりました。しかし前述のとおりたいへん印象度が強く、清水さんと接戦になりました。

 加瀬さんはソルの練習曲をたいへん美しく弾きました。高音のメロディもしっかりと歌い、中間の声部とのバランスもたいへんよかったと思います。さらに低音も響くとソルらしいハーモニーが聴けるのではと思いました。

 鹿野さんの「アリアと変奏」もたいへん美しく演奏されていました。またバスなどもしっかりと鳴らし、バランスのとれた和音を聴かせていました。若干のミスからテンポなどを崩してしまったのが惜しまれます。

 上原さんはセゴヴィアの自作とバッハの難曲というたいへん意欲的な選曲でした。セゴヴィアの曲もなかなか難しい曲で、メロディを上手く歌わせるのはかなりの技術が必要なのでしょう。バッハの「プレリュード」もクリヤーな音で最後まで弾ききるの相当難しい曲ですね。

 荻島さんの「アラビア風奇想曲」もタレガの曲らしい美しい音で演奏されていましたが、冒頭のスケールやスラー奏法などがもう少しクリヤーに聴こえてくれば良かったのでしょう。またグリサンドの掛け方などもよく研究してみるとよいでしょう。




ミドル部門(35歳~54歳)

第1位  三谷光恵(千葉県)  ワルツ第4番(バリオス)
第2位  増田康隆(石川県)  フーガBWV997(バッハ)
第3位  坂本 亮(東京都)  ハンガリー幻想曲(メルツ)
第4位  松田利枝(滋賀県)  ラ・ミラレーゼ(クレンジャンス)、水神の踊り(フェレール)
第5位  山本孔彦(東京都)  魔笛の主題による変奏曲(ソル)
第6位  桧山政広(青森県)  バスク風前奏曲(ドノステア)、郷愁のショーロ(バリオス)



 三谷さんは、昨年はスペイン舞曲第5番を弾いたと思いますが、今年はバリオスのワルツと、若干難易度が上がりました。しかし大きな破綻もなく丁寧に曲をまとめていました。また後半では調子もずいぶん上がってきたようです。やや音が小さくダイナミックス・レンジが狭いのが若干気になるところですが、いずれはそうしたことこもクリヤーされてゆくことでしょう。

 増田さんは前述のプレリュードとは違った意味でのバッハの難曲に挑みました。特に前、後半部分では声部の弾き分けもしっかり出来ていて、フーガらしい演奏でした。中間部で記憶が混乱してしまいましたが、こうした曲の完璧な記憶というのは本当に難しいものです。

 坂本さんはメルツの曲をヴィルトーゾ的に演奏し、冒頭の部分や後半のチャルダッシュのところなどたいへんすばらしかったのですが、途中やはり記憶が混乱してしまいました。

 松田さんの「ラ・ミラレーゼ」は少しクリヤーさの欠ける演奏になってしまいましたが、「水神の踊り」のほうは、序奏では音量の変化を際立たせ、また全体に舞曲らしい速めのテンポで曲の持ち味をうまく出していました。

 山本さんの「魔笛」はテンポも正確に、また和音の解決などにも気を配った好感のもてる演奏でしたが、全体の線が細く、低音などにももっと気を配ればさらによかったかなと思いました。
 
 桧山さんの演奏は、2曲ともメロディを表情込めて歌ってゆこうという姿勢で、共感は持てました。しかし音も小さく、全体に消極的な印象を与えてしまったかも知れません。



 今回はエントリー者がシニアで26人、ミドルで14人とこれまでにない数で、ますますこのコンクールも盛り上がっているようです。その分予選通過も難しくなってくるわけですが、実力者と言えど、予選ではなるべく無難にといった演奏になりがちのようです。しかしこれだけ出場者が多くなれば、ただ間違えずに弾ければ予選が通るということにはならなくなってくるでしょう。

 予選においても自分の特徴を出す、つまり他の出場者より強い印象を審査員に与えなくてはなりません。ソルの「エチュード」なども、練習曲だから楽譜に書いてないことはやってはいけないのではなく、この楽譜の音楽をいかに膨らませるか、と考えたいものです。予選課題曲といえど決して原典方式ではなく、加点方式と考えたほうがよいでしょう。