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中村俊三 ブログ

中村ギター教室内のレッスン内容や、イベント、また、音楽の雑学などを書いていきます。

Q : ヴィラ=ロボスの練習曲第1番を練習しようと思っているのですが、最後のところのハーモニックスの弾き方がイマイチわかりません。楽譜どおりの音で弾くと、何だか変に聴こえます。CDではもっとすっきり聴こえているように思います。音符の下に書いてある「C]、「B」などのアルファベットも意味不明です。どう弾くのでしょうか。


                                     30代 男性


A :  その2 
 


マズルカ・ショーロ

 下はマズルカ・ショーロの終わりの部分です。「ミ」、「シ」に付いている丸印はハーモニックスの記号と考えられ、後の方の二つの丸印は①と②弦の12フレットのハーモニックスと考えて問題ないようです。しかし前の二つの丸印の音には「8 harm」と書かれていて、後の二つとは違うことがわかります。これはおそらく「オクターバ」、つまり表記の1オクターブ上の音を出す意味で、5フレットのハーモニックスの可能性があります。


ブログ 130
「8 harm.」と書かれた部分は24フレットの人口ハーモニックス


24フレットのハーモニックス

 しかしヴィラ・ロボスは5フレットのハーモニックスの場合、①弦は「ラ」、②弦は「ミ」と表記しますから、単純にそうとは言い切れません。Amsco社の全集の注釈では人口ハーモニックス使用としています。つまり24フレットの、右手のみによる人口ハーモニックスということになります。  


自分のギターには19フレットまでしか付いていない?

 ・・・・・え、自分のギターは19フレットまでしかないって、 ・・・・いや、そういう意味ではなく、仮に24フレットまであったと仮定した時の位置を右手人差し指で触れながら弾くという意味です。もちろん私のギターにも24フレットは付いていません。

 確かに人口ハーモニックスを使用すると低音が譜面どおりに伸ばすことが出来、正解ということでしょうか。





ショティッシュ・ショーロ

 次の譜面はショティッシュ・ショーロの中程にあるハーモニックスです。「ヴィラ=ロボスは、ハーモニックスの場合、左手で触れるポジションを、実際に押さえた場合に出る音で表記する」といった意味が理解できていれば弾き方がわかると思います。

 
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同じハーモニックスの和音が、ガヴォット・ショーロにもある


もうわかると思いますが

 Amsco社の全集の注釈にはタレガ式の表記もありますが、最初の菱形の白い音符で書かれた和音(ソ#、ミ、ソ=ナチュラル)の触れる場所を書くと、「⑥弦の4レット」、「⑤弦の7フレット」、「④弦の5フレット」で、実際に出る音は(これも注釈にあるが)「ソ#=①弦の4フレット」、「ミ=①弦の開放」、「レ=①弦の10フレット」で、和音としてはE7となります。

 同様に後の方の和音(ラ、ミ、ラ)は、「⑥弦の5フレット」、「⑤弦の4フレット」、「④弦の7フレット」で、「ミ=①弦の開放と同じ」、「ド#=①弦の9フレット」、「ラ=①弦の5フレット」の音が出て、Aメジャーの和音となります。


左指の完璧なコントロールが必要

 以上で触れる場所などはわかったと思いますが、これらのハーモニックスの和音は、弾き方がわかってもかなり出しにくいものです。左指がその微妙な位置とか、弦に触れる強さなど、完璧にコントロール出来ないとなかなか出ないハーモニックスです。このハーモニックスをクリヤーに出すだけでも、かなりの技術が必要でしょう。また、全く同じハーモニックスがガヴォット・ショーロにもあります。

  



練習曲第2番はさらにわかりにくい

 練習曲集のほうでは、第1番もわかりにくいかも知れませんが、第2番のほうはもっとわかりにくい。


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 m.d. というのは「右手」、m.g.というのは「左手」を表しているようです。「二重ハーモニックス」と書いてありますが、ピッチカートの指示もあります。全集の注釈では下のように、上の音は人口ハーモニックス、下の音は自然ハーモニックスとなっています。


ブログ 134



正解なのかも知れないが

 これで問題ないのかも知れませんが、この弾きかただと、この次にいきなり14フレットセーハとなってしまい、演奏はかなり難しくなってしまいます。ブリームは最後のところでかなりテンポを落してこの方法(おそらく)で弾いていますが、この方法だとこのようにするしかないでしょう。



なぜここだけ?

 これが正解だとすると、なぜヴィラ=ロボスはこの部分だけ自然ハーモニックスを実音表記にしたのでしょう。最初からそう表記してくれていたら、何の問題もなかったのでは?

 CDなどでは大半のギタリストはここではハーモニックスを用いず、通常の弾き方や、ピッチカート奏法で弾いていますが、聴いた感じではその方が自然な感じがします。





”あきれる”しかない第3番

 第3番になると、もうあきれるしかありません。下の譜面の最後のところ意味がわかるでしょうか。

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迷宮入り?

 「D4」とか「A3」はおそらく弦とフレットを表していると思われますが、④弦の4フレットのハーモニックスであれば「ファ#」と音符では記されるはずですが、ご覧のとおり「ソ」となっています。何度見直しても第2線に書かれた「ソ」です。

 また⑤弦の3フレットであれば「ドーナチュラル」と記されるはずですが、これもどう見ても「ラ」と書いてあります。それに高い「レ」にも丸印が付いていますが、これもよくわかりません。さらにこのようにアルファベットと数字でハーモニックスを指示しているのは、ヴィラ=ロボスの曲の中ではこの曲だけです・・・・

  ・・・・これはもう謎としか言いようがありません。ついに迷宮入りか・・・・・


 全集に注釈(下の譜面)が付いていますが、これにも若干間違いがあり、一番下の「ファ」は「ラ」の間違いと思われます。

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一番下の「ファ」は「ラ」の間違い


レ、ファ#、ラの和音となるのは間違いないので

 と言ったように譜面だけ見たのではさっぱりわからない部分ですが、曲の流れから言って、ここはDメジャーの和音、つまり「レ、ファ#、ラ」の和音となるのは間違いなく、おそらく以下のようになるのが正しいのではないかと思います。タレガ式の表記と実音表記の両方を載せておきます。

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   タレガ式の表記と実音表記 



謎解きもヴィラ=ロボスの魅力の一つ

 それにしてもなぜこんなわかりにくい表記をしたのでしょうね、特に高い「レ」だけは他の二つの音とは全然違う表記をしています。  ・・・・ヴィラ=ロボスってよくわからない人ですね。

 でもこんな謎解もヴィラ=ロボスの曲を練習する時の楽しみの一つでしょう。通常のわかりやすい譜面だとヴィラ=ロボスらしくありませんね。ぜひ皆さんも果敢に注釈なしの初版で、ヴィラ=ロボスに挑戦してみては。   ・・・・・ヴィラ=ロボスの魅力を満喫出来ること疑いなしです。

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Q : ヴィラ=ロボスの練習曲第1番を練習しようと思っているのですが、最後のところのハーモニックスの弾き方がイマイチわかりません。楽譜どおりの音で弾くと、何だか変に聴こえます。CDではもっとすっきり聴こえているように思います。音符の下に書いてある「C]、「B」などのアルファベットも意味不明です。どう弾くのでしょうか。


                                     30代 男性


A : 




ヴィラ=ロボスのハーモニック表記はちょっと変っている

 確かにヴィラ=ロボスのハーモニックスの表記はちょっと変ですね。時にはプロのギタリストも悩ます、たいへん困ったものです。でも最近の譜面では丁寧な注釈も付いて、以前の譜面からするとかなりわかりやすくなりました。



初版では誤植もある

 「『C』、『B』と書いてある」と言っていることからすると、質問者は初版のエシック社の譜面を用いていると思われます。エシック社の譜面は表記がわかりにくいだけでなく、誤植もありいっそう混乱しやすくなっています。

 このアルファベットは弦を表していて、①弦=E  ②弦=B  ③弦=G  ④弦=D  ⑤弦=A  ⑥=E  となります。 しかし下の譜面で、ハーモニックスを表す、最初の白い菱形の音符のところに「C」と書いてあります。もちろんギターにCの弦などはありませんから、これは「G」の誤りで、③弦と言うことになります。二つ目の菱形の音符は「A」、つまり⑤弦で、以下は間違いがありません。  


譜例1
ブログ 119
初版のエシック社の譜面。音符の下のアルファベットは使用すべき弦が音名で示されているのだが、最初の「C」は誤りで、正しくは譜例2のように「G]、「A」となる。 



左手で触れるポジションを実際に弾いたときの音で書いてある
 
 ヴィラ=ロボスのハーモニックス表記は独特で、ハーモニックの際に左手で触れるべきポジションを、”実際に弾い場合の音”で書いています。言っている意味がわかるでしょうか?

 例えば①弦の5フレットのハーモニックスだったら、①弦の5フレットは普通に弾けば「ラ」だから「ラ(上第1線の」と表記されるわけです。しかし実際は「ラ」の音が出るのではなく、「ミ」(①弦の開放の2オクターブ上)が出ます。



小さい丸(○)は開放弦の意味もある

 ヴィラ=ロボスはハーモニックスの記号として、菱形の音符を用いますが、通常の丸い音符に小さい丸印を書く場合もあります。しかしこれは場合によって開放弦の意味でも使っています。

 つまり本来開放弦である音に丸印が付けば開放弦を意味し、本来開放弦でない音に付くとハーモニックスの意味となります。ともかくわかりにくいですね。



これはハーモニックスだが

ブログ 126


 上の譜面は「前奏曲第1番」の1部分ですが、最初の「ミ」、及び「ソ、シ、ミ」の和音に丸印が付いています。これらの音は開放弦では弾けませんから、すべてハーモニックスで弾くことになります。最初の「ミ」は⑥弦の12フレット、次の和音は①②③弦の12フレットのハーモニックスとなります。



こっちはハーモニックスではない!

ブログ 129


 上の譜面は「練習曲第1番」の中ほどのところで、「ミ」に小さい丸印が付いていますが、この音は開放弦で弾くことが出来るので、ハーモニックスではなく、通常の開放弦ということになります。  ・・・・・・納得していただけましたか?



AMSCO社の「ヴィラ=ロボス独奏曲全集」では注釈も付いている

 その後出版されたAMSCO社の「ヴィラ=ロボス独奏曲全集」では前述のアルファベットの誤植も訂正し、また後書きに注釈として私たちには馴染の深いタレガ式の表記も添えられています。



譜例2
 ブログ 120
AMSCO社の「ヴィラ=ロボス独奏曲全集」



最初からこっちでやれば?

 ドレミ出版の「ギター名曲170選」では、開放弦のフレット指定によるタレガ式の表記となっていて、たいへんわかりやすいです。これなら最初から迷うこともありませんでしたね。

 最も今どき初版のエシック社の譜面で練習する人なんてそうはいませんね、むしろこの170選で始める人のほうが圧倒的に多いでしょう。 ・・・・・・まあ、まあ、その辺は「大人の事情」ということで・・・・


譜例3
ブログ 121
ドレミ出版の「ギター名曲170選B」



でも、実際にどんな音がでているのかは、わかりにくい

 確かにこの譜面だと弾き方はよくわかりますが、実際にどんな音がでているのかはちょっとわかりにくいですね。そこで、最近の一般的な実音表記で書いてみます。


譜例4
ブログ 122


 これだと実際にどんな音がでているかよくわかると思います。因みに2小節目の「ミ、シ、ソ、ミ」の4つの音は”オクターバー”ということで、実際に出る音は表記の1オクターブ上となります。



結局すべてEmの音

 要するに、すべて「ミ、ソ、シ」の和音、つまりEmの和音で、その和音がだんだん高くなるというシンプルなものですね。もちろんCDで聴いてもそのように聴こえていると思います。

 そうわかると、この部分はあまり難しいところではありませんね、出しにくいハーモニックスではありません。ラレンタンドの指示もあってだんだんゆっくりとなりますから、演奏としても特に難しくはありません。



早々に一件落着?

 これで質問者も全く問題なくこの部分を弾くことが出来るでしょう。一件落着! では次のご質問。  

 ・・・・・いや、いや、そうは行きませんね。ヴィラ=ロボスのハーモニックスは他にもわかりにくいものがたくさんあるので、そのあたりに触れないでおいては、当ブログの数少ない読者も離れてしまうでしょう・・・・  ご安心下さい、次回以降もこの話の続きを行ないます。

Q : この秋の発表会に出るように勧められています。出てみたい気持ちもありますが、今までほとんど人前でギターを弾いたことがないので、もう少し上手になってからにしようかと迷っています。

                                         女性(年齢不詳)


A : その4  初めての発表会 2

 

 
初めての独奏

 今回は初めての発表会で独奏を行なう場合の話です。もちろんなるべく余裕のある曲を選ぶのは前述のとおりで、いろいろ弾きたい曲があるでしょうが、なるべく無理のない曲にしましょう。

 同じ難しさでも、曲を覚える時に難しい曲、特に譜面の読み方などが難しい曲と、初見などでは弾きやすそうでも、実際にステージで演奏しようとするとなかなか難しいものというのもあります。

 一般に左手が難しい場合、一応弾けるようになると多少緊張してもある程度弾けますが、右手の難しい曲や、速い曲などは練習時には弾けていても、緊張するとなかなか思うように行かないこともあります。

 

譜面を見て弾く? それとも暗譜?

 ステージで演奏する場合、譜面を使わず暗譜で弾く場合と、譜面を見ながら弾く視奏があります。合奏、二重奏の場合はほぼ譜面を見て弾くことになりますが、独奏の場合は暗譜の方がが多いようです。

 発表会で独奏する場合、事前にかなり練習すると思いますので、ほとんどの人は覚えてしまい、少なくとも練習時では譜面を見て弾くより、譜面を見ないで弾く方が、ずっと弾きやいのではないかと思います。



ステージだとちょっと違ってしまう

 ではステージではどうかというと、何回も繰り返して練習し、一人で練習している時には絶対に忘れることなどない曲でも、ステージで演奏すると途中で全くわからなくなってしまうこともあります。いわゆる「頭が真っ白」といった状態です。



かなり個人差があるが

 もちろんこうしたことにはかなり個人差があり、その人がどのような記憶の仕方をするかで違います。中にはどんな時にでも記憶の混乱をしない人もいるのは確かで、そうした人の場合完璧な記憶力が備わっていると同時に、絶対音感もある場合が多いようです。

 その反対に、最も危険なのは「指だけで覚えている」と言う人の場合で、こうした人の場合緊張した場で演奏した場合、かなりの高い確率で譜忘れれをしてしまいます。



次のことが出来れば 

 目安としてして次のことが出来れば、緊張した場合でも譜忘れせずに弾くことが出来るのではないかと思います。もちろんそれに加えて、練習では何の問題もなく弾けるということが前提です。


 ① 曲のすべての音を、楽譜を見ないで言える。

 ② 実際にギターを弾かないでも、頭の中だけで弾ける(すべてのポジションを具体的に思い浮かべられる)。

 ③ 曲のどの部分からでも即座に弾き始めることが出来る。


 以上3項目のうちどれか一つ出来れば、緊張した場でも譜忘れする可能性は低いと言えるでしょう。したがって、発表会では暗譜で問題ありません。

 しかしこれらのことはそれほど簡単ではなく、出来ない人の方がむしろ多いでしょう。そうした人の場合は、例え練習では譜面を見ずに弾けたとしても、発表会では譜面を見て弾く方が無難でしょう。



わからなくなってからでは譜面を見られない

 しかし「譜面を見て弾く方が無難」といっても、普段の練習で譜面見ないで弾いている場合、急に譜面を見て弾くことはそれほど簡単ではなく、やはり準備が必要です。練習時にちゃんと譜面を目で追って弾くことが出来なければ、当然ステージに譜面を置いたとしても何の役にも立ちません。

 まして、弾けるところまでは譜面を見ないで弾いて、わからなくなったら譜面を見ようなどということは絶対に不可能です!



読むと決めたら、読むことに徹しなければならない

 まず基本的に譜面を見ながらステージで弾くには、当然ながら相応の譜面を読む力がなくてはなりません。これは日頃から心がけておかなければなりません。

 もし仮に、発表会で演奏する予定の曲が譜面を追いながら弾けないとしたら、やはり初心に戻ってゆっくり(テンポを2倍から3倍遅くして)一音、一音しかっりと譜面を追いながら読みながら練習し直す必要があります。

 多少時間と根気が必要ですが、誰にでも出来る練習法だと思います。譜面を見て弾くと決めたら、やはり譜面を見ながら弾く練習に徹しなければなりません。こういった練習は譜忘れだけでなく、ちょっとしたミスを防ぐことにも有効で、いろいろ考えてもたいへんよい練習です。いつも気持ちよく弾いてばかりいては上達は望めません。



譜面を見て弾いた方がトラブルには対処しやすい

 譜面を見て弾いたとしても、やはりいろいろトラブルは発生するでしょう。しかし暗譜の場合に比べて譜面を見て弾いたほうがトラブルに対処しやすいのは確かで、特に何かあった時に、そこを飛ばして先に進むのはやりやすいでしょう。

 暗譜の場合は、小さなトラブルが生じた時に、それが大きなトラブルになる可能性があります。 これにも対処法がありますが、それは別の機会にお話しましょう。

 

練習中のミスは大事にする

 一人で練習している時、ちょっとしたミスでも止まったり、やり直しをしたりせず、必ず先に進むように心がけるののもたいへん重要なことです。特に発表会近くになると、練習も十分であまり間違えたりすることも少なくなりますので、間違えた時はたいへん貴重です。ミスを嫌がるのではなく、大事にして下さい。



全体と部分をセットで練習する、遅く弾くのも有効

 いつも全体を通して弾くだけでなく、必ず部分の練習もして下さい。暗譜の場合でも、視奏の場合でも、常にどこからでも弾けるようでないと、トラブルが発生した時、先に進めなくなったりします。全体の練習と部分の練習は必ずセットで行なってください。またテンポも普段の2倍以上遅くして練習するのもとても有効です。



記念すべき第一歩

 以上ようなことを参考にしていただいて、記念すべき初舞台がすばらしい思い出となることをお祈りします。しかし仮にどんなに失敗したとしても(ほとんどの場合、本人が思うほど失敗でないことが多いが)、たいへん貴重な経験を得るのは間違いなく、上達への大きな一歩となるでしょう。後悔することなど何もありません。
Q : この秋の発表会に出るように勧められています。出てみたい気持ちもありますが、今までほとんど人前でギターを弾いたことがないので、もう少し上手になってからにしようかと迷っています。

                                         女性(年齢不詳)


A : その3




初めての発表会

 今回は思い切って発表会に出てみようと決断した方のために(・・・・個人的にはそれほど大きな決断とは思いませんが、人によってはたいへん大きな決断でしょう・・・・)、初めて発表会に出る場合についてのお話をしましょう。



半年~2年くらいが適当、なるべく易しいもので

 初めての発表会出演は、なるべくならそれほどギターを始めて年数、月数が経ってなく、まだそれほど上手になっていない時の方がよいということは前にお話しました。具体的には半年~2年くらいが適切なのではと思います。

 曲の方も特別のものでなく、普段レッスンを受けているものでよいと思います。なるべく余裕を持って弾けるくらいのもの、できれば易しすぎるくらいの曲がよいでしょう。合奏や二重奏でもよいと思います。



リハーサル ~一人しか聴いてなくてもそれなりに緊張する

 ステージで演奏するというのは、始めてでなくても確かに緊張するものです。それはある程度回数を重ねてもそれほど変りませんが、何回かステージを経験すると緊張するとはどういったことなのかということがわかり、対策は立てやすくなります。

 そういったことで、リハーサルは出来れば複数回行なうのがよいのですが、現実にはそれほど何回も出来ないかも知れません。しかしギターを弾く場合、一人でも聴いている人がいると結構緊張するもので、私の場合などステージより一人の人しか聴いていない場ほうが緊張するくらいです。



人前でギターを弾くということを実感する

 従って、家族の方に聴いてもらうとか、発表会に出演する人どうしで聴き合ったりするなど、工夫してみて下さい。その時、上手く弾けたかどうかだけでなく、演奏中どんな精神状態になったか、どういった点は上手く出来て、どのようなことが予定通りにできなかったか、など把握しておくとよいでしょう。



緊張しても大丈夫なものと、緊張すると出来なくなるものもある

 もちろん個人差はありますが、緊張しても比較的問題なく出来ることと、練習では出来ていても、緊張すると上手く行きにくいということがあります。

 緊張しても比較的問題ないということでは、まず何といってもアポヤンド奏法を用いた単旋律、つまりメロディでしょう。最近ではアポヤンド奏法使用の良し悪しは議論されるところですが、初心者にも安定して音が出せると言う点では異論のないところと思います。



「ローポジション」の「単旋律」は最も確実

 特にim(人差し指と中指)によるアポヤンド奏法の場合、親指を⑥弦に添えることにより、ほぼ弦を間違えずに弾くことができるでしょう(例え指が震えたとしても)。

 さらに、出来ればポジション移動の少ないものほうがよく、ポジション移動自体でもリスクがあり、ポジション移動の際に指を見たりすると譜面が飛んでしまうリスクもあります。つまりロー・ポジション(第1ポジション)の単旋律というのが、最もステージで弾きやすいものと言えます。



一定の音形の伴奏

 また比較的簡単な和音による定まった形の伴奏も弾きやすいでしょう。伴奏なので多少音が不明瞭でもそれほど演奏に支障がないでしょう。もちろん練習中はクリヤーに音を出すようにしなければなりませんが。

 以上を総合すると、ギターを始めて間もない人が発表会に出るとしたら、この二つの組み合わせ、つまりローポジションによるメロディと簡単な和音による二重奏、あるいは合奏などがよいと言うことになります。





 
Q : この秋の発表会に出るように勧められています。出てみたい気持ちもありますが、今までほとんど人前でギターを弾いたことがないので、もう少し上手になってからにしようかと迷っています。

                                         女性(年齢不詳)


A : その2



ギタ-のレッスンは、人前で弾くことを想定して行なわれる

 私の教室では、実際に発表会に出る人は全体の半数くらいで、発表会などでは絶対演奏しない人も少なくないことをお話しました。

 しかし一方で、私のレッスンでは基本的に人前で演奏することを前提に、説明や、アドヴァイスを行なっているのも事実です。クリヤーな音でギターを弾く必要や、テンポをまもること、美しい音色を出すこと、曲の内容をよく理解、それを表現すること、それらすべては自分以外の人が聞いていることが前提となっています。



練習は好きだが、試合は嫌い?

 つまり最初から自分以外の誰にも聴かせないとしたら、レッスンそのものが成り立たないということになります。スポーツに例えれば、野球で、キャッチボールやバッティング練習を行なうのも、またサッカーでキックやトラップの練習をするのも、当然試合に出るためで、試合に出ないことを前提とした練習はありえないでしょう。

 確かに熱心に練習に取り組んだ結果、残念ながら試合に出られなかったというサッカー少年や草野球愛好者はいなくもないかも知れませんが、それは結果的にそうなってしまったということで(それでもミニ・ゲームや紅白戦には出ているでしょう)、はじめから絶対に試合に出ないことを前提にして熱心に練習する人、あるいは監督に言われても絶対に試合には出たくないと言い張るサッカー少年は(多分?)いないでしょう。

 

幸いにバーチャル・コサートを拒否した人はいない

 そういった訳でレッスンの際には、「ステージで演奏していることを想定しながら演奏してください。途中で失敗しても最後までちゃんと演奏するのは、音楽上のとても大事なモラルです」などいったことをよく言っています。今のところ幸いに、「例え空想上でも、人前では絶対に弾けません」と言った人はいません。 

 ・・・・・・本当にそう言われたらどうしましょう、たいへん困ってしまいますね、まさにお手上げ状態・・・・・



 

そのうち出たいと思うが、とりあえず次からにしよう

 これまでは「絶対人前では弾かない」といったはっきりしたポリシーを持った人の話でしたが、実際には「いずれは出たいと思うが、とりあえず次の機会からにしよう」といったように思っている人の方が多数派なのではと思います。これからはそうした人に向けての話をしてゆきます。

 発表会に出ることをためらってしまう理由としては、「発表会では、緊張して普段どおりには弾けないのではないか」、あるいは「まだあまり上手く弾けないので、大勢の人に聴かれると恥ずかしい」といったものだと思います。

 確かに「発表会では普段どおりには弾けない」といったことは否定できないところもあります。年に1回程度しかステージで演奏することのないアマチュアの愛好者でしたら、ステージで普段どおりに弾くのはなかなか難しいことではあるのは確かでしょう。



「もう少し上手になってから」はない

 これまでの私の経験からすると、「もう少し上手になってから発表会に出ます」と言った人の多くは、結果的にはそのままずっと発表会に出ないことが多いようです。発表会に出ないまま5年、10年とギター暦を重ねると逆になかなか発表会には出ずらくなってしまうようです。

 つまり最初のうちは”迷って”いても、そのまま年数が過ぎると”絶対出ない”人になってゆくことが多い訳です。もちろんその本人が、そういった形の方がギターという趣味をよりいっそう楽しめるのであれば、何の問題もありません。



初心者に怖いものはない

 と言ったことで、あなたが”出る人”の仲間入りをしたければ、あまり上手でないうちに発表会などに出るのが最もよいということになります。ギターを習った年数、あるいは月数が少なければ少ないほど、ハ-ドルは低いものです。ギターを始めたばかりだったら、上手く弾けなくて当たり前。初心者に怖いものはないでしょう。

 1回目がなければ2回目、3回目はないのは当然。結局どのタイミングで1回目の機会を作るかと言うことになるでしょう。その際、あまり上達してからと考えると、曲も難しくなり、難しい曲になればなるほど練習とステージでの演奏にギャップが生じやすくもなります。



なるべく易しいもので

 以上、ギターを始めてあまり年数などが経っていない方がステージに出やすい訳ですが、その際、なるべく簡単な曲を弾くべきでしょう。複数の人との合奏でも良いですし、先生などに伴奏していただいて、単音のメロディを弾くのもよいと思います。独奏曲なら易し過ぎるくらいのものがよいでしょう。

 そうしたものでは、多くの人はほぼ練習どおりにステージでも演奏することが出来ます。また仮に上手く行かないことがあたとしても、それは初めての機会ですから、当然といえば当然で、全く恥ずかしいことではありません。



1回目がある人は2回目もある。ハードルはなるべく低いうちに

 これも私の経験では、1回目があった人は、やはり2回目、3回目もあることが多いようです。つまり発表会に出る人か、出ない人かは、ほぼ最初の機会で決まります。繰り返しになりますが、そのハードルを越えるか、越えないかはその人次第。しかし越えなければならないものなら、なるべくそのハードルが低いうちに越えるのがベスト!

 
 
発表会どうしようかな?



Q : 4年ほど前からギター教室に通っています。この秋に教室の発表会があって、先生から「最近、だいぶ上手になってきましたね。今年の発表会にはぜひ出てみて下さい」と勧められています。

 確かにギターを習う以上、発表会など、人前で演奏するということは絶対必要だとは思うのですが、私の場合、これまで発表会どころか、先生以外の人の前でギターを弾いたことがなく、主人や子供たちにも聴かせたことがありません。

 ちょっとした集まりの時に挨拶するだけでもすごくドキドキしてしまうほうなので、大きな会場で、たくさんの人が聴いているところでギターを弾くなど、全く想像できません。

 先生のおっしゃるとおり、最近ではほんの少しですが、ギターも弾けるようになったような気がして、ギターを弾くのが楽しくなってきています。ステージで弾くのは怖いの半面、興味もあり、弾いてみたいという気持ちもなくもありません。

 でもやはりコンサート・ホールで演奏するのは、今の私にはちょっとハードルが高く、もう少し上手になってからの方がいいかなとも思います。どうしたらよいでしょうか。教室によっては、発表会には必ず出なければならないところもあるそうですが、私の先生はどちらでも良いとおしゃってくれています。
     
                           女性(年齢不詳)
                


    

A : 



強い肯定の表れ?

 「なくもありません」といった二重否定は強い肯定の表れでは? 「ほんの少し」と控えめさを強調しているところにも、ギターを弾くことへの意欲と自信が感じられますね。女性の場合、相談する時にはすでに結論が出ているそうですが・・・・・・・

 こうしたケースでは、実際には先生とよく相談して決めるが良いと思いますが、このQ&Aでは一般論、あるいは私の教室の場合としてお答えしましょう。



私の教室の場合

 私の教室では”全員参加型”の発表会は2年に一度、つまり隔年といった形で行っています。かつては毎年行なっていたこともあったのですが、他に水戸ギター・アンサンブル演奏会を行なったり、また私自身のリサイタルなどもあったりするので、現在はこの形になっています。



生徒さんの半分くらいしか出ない

 「全員参加型」といっても、あくまで”原則上”で、実際上としては約半数程度の生徒さんしか出ません。言ってみれば、生徒さん全員に発表会出る権利があるということで、もちろん義務ではありません。実際にその権利を行使するかどうかはその人次第ということになります。



全く言わないこともある

 発表会を行なう場合、習い始めて間もない方を除いては、基本的に生徒さん全員に、発表会があることを知らせますが、ある程度長く習っていて、始めから発表会には出たくないとわかっている生徒さんには、特に知らせません。人によっては「出てみませんか」と言われるだけでストレスを感じる人もいるからです。



かつては文字通り全員参加型だった

 しかし、かつて私が20代くらいの頃は、生徒さんほぼ全員に発表会で出てもらっていました。当時は習っている人も私と同年代の人や、小中高生がほとんどで、そうした関係からか、発表会に出ることに抵抗のある人は少なかったと思います。


     ブログ 118

1970年代の私の教室の発表会(茨城県民文化センター)。子供たちや、若い人が目立つ(私も若かったが)。 生徒さんの数はそれほど多くはなかったが、8割くらいの人は発表会に参加していた。


ギター部の延長で

 当時の私は、まだ大学のギター部の延長でギター教室をやっているようなところもあり、大学のギター部でちゃんと練習に来ている人が定期演奏会に出ないとか、出たくないとかいうことは全くありえませんでした。そうしたことから、ギター教室に通っている人で発表会に出ない人とか、出たくないないと思っている人がいる、などということは全く私の思い及ばぬことでした。



ギターをやめたくなるほど発表会が嫌い?

 ギター教室を始めて何年か経ったころ、発表会出るのをとても嫌がる高校生の生徒さんがいて、「発表会はギターを習うことの一部ですから、やはり発表会には出てください」というと、次の週から教室に来なくなりました。

 その生徒さんは、家でちゃんと練習もしていて、結構順調に上達していたと記憶してます。それだけに当時の私も、その生徒さんが発表会に出たくないと言った時に、発表会に出ない理由などなく、そういった言葉になったのだと思います。

 せっかくある程度上手になってきたギターをやめてしまおうと思うほど、発表会に出たくない人がいるということを、私はその時初めて知りました。



あまり強くは勧めないようにしたが

 その後は私も、発表会に出るのを好まない人にはあまり強く薦めないようにしましたが、多少抵抗を感じる人でも、合奏のような形でならハードルも低くなって、その当時、つまり1970~80年代くらいでは生徒さんの大部分はなんらかの形で発表会には出ていました。



この十数年くらいで、発表会に出ない人の割合が増えてきた

 1990年代の後半くらいから、特に2000年代なってからは発表会に出たくないと言う人がだんだん増え、現在のような状況になりました。その理由としては、もちろん私自身があまり強く発表会に出ることを勧めていないということもありますが、生徒さんの平均年齢が高くなってきたこともあるかも知れません。



これも一つの時代の変化?

 年齢が高い方でも教室の発表会や、他のコンサートなどに積極的に出る人は決して少なくありませんが、逆に強い意思をもって発表会に出ない人もいます。中には教室に入学する時に「私は発表会には出ません」と念を押して入学する人もいて、年齢が高くなると自分の考えがはっきりするということなのでしょう。

 しかし若い人(20、30代の)でも、最近では発表会に出たくないという人の割合は以前より多く、これも一つの時代の変化なかも知れませんね。