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中村俊三 ブログ

中村ギター教室内のレッスン内容や、イベント、また、音楽の雑学などを書いていきます。

<中村俊三ギターコンサート   11月29日(日)15:30~ ひたちなか市アコラ>



 今日、ひたちなか市アコラで中村俊三ギター・コンサートを行いました。 内容はすでに書いたとおりですが、20数名(この会場では満席)の方に聴きに来ていただきました。 事前に愛好者の演奏があり、ジ・エンターティナ、  トリステーゼ、アリア第5番(クレンジャンス)、  ラりアーネ祭、  エチュード(コスト)、  ワルツ(タレガ)など、約10名の方が演奏しました。 たいへんよく弾きこまれていたようです(詳細はアコラ・ホーム・ページで)。

 私の4曲の独奏の後、旧友、高矢君との二重奏を行いました。 30年ぶりの二重奏ですが、実際にやってみると、特に違和感もなく、とても合わせやすかった感じです。 文字通り、30年ぶりのアンクラージュマンも、練習の時よりもずっと気持ちよく合わせられたなと思いました。


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 アンコール曲としては二重奏で、「ラルゴ」(カルリ)、 私の独奏で 「星に願いを」 を演奏しました。  ・・・・最後のところちゃんと決めたかったな・・・・

 コンサート終了後は、高矢君が使っていたドミンゴ・エステソに興味を持った人も多く、何人かの愛好者が試奏させてもらっていました。

 今年も、もうすぐ終わってしまいますが、来年は19世紀ののギタリストの作品を中心にコンサートをやろうかなと思っていますが、日にちなどはまだ決めていません。
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<バッハ・シャコンヌ再考 19   バッハの無伴奏曲 8 >


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副呈示部はホ短調で終わり、2番目の喜遊部となる。 後半は属調の属音による保持低音部となる。




2番目の喜遊部から対呈示部へ

 平行調(イ短調)による副呈示部はホ短調に終止し、2回目の喜遊部となります。 この喜遊部の後半は「レ」の音、つまり属調の属音による保持低音部となっていて、最後はト長調で終止します。 この保持低音部もフーガ主題を基にしたものとなっています。




ここでも主題反転

 201小節からは、「al riverso」 と書かれているとおり、フーガ主題が上下反転され、対呈示部となります。 後半では”順”の主題と”逆”の主題が組み合わされる点は、第2番のソナタと同様です。 また主題をそのまま反転したわけではなく、最初の音程が2度から3度に変えられているとおり、音程関係は微修正されています。


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 この対呈示部はハ長調で終わり、ハ長調による3番目の喜遊部となります。


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最後のほうは属音による保持低音部となっていて、主調(ハ長調)への強い流れを示す。




フーガの場合でも調性的関係が最優先

 この喜遊部の最後は「ソ」、つまり属音による保持低音部となっています。 対呈示部からは属調(ト長調)から主調(ハ長調)へと、非常に強い流れがあるということになります。 

 フーガは基本的に旋律を組み合わせてゆく作曲技法だと思いますが、バッハの場合はここでも和声的、あるいは調性的関係が最優先されているといってよいでしょう。




最後に冒頭の主要呈示部が再現される

 最後に冒頭の主要呈示部が再現されますが、最初の8小節のみは冒頭のものとは対旋律の付け方が異なります。 同じ主題でも別の対旋律の付け方があるということでしょうか。


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最後の赤丸の「ソ」は普通ではありえないでは?

 

なぜこんなところに?

 9小節以降はまったく同じものですが、最後の和音には上声部に聴いた感じも見た感じも唐突に「ソ」が加えられています。 ヴァイオリンの奏法上、内声部には入れられなかったので、上声部に置いたのかもしれませんが、 音大でも和声法の授業ではありえないことかも。 よくわかりませんが、バッハはこんなことも楽しんでいたのかも知れません。




ギター向きで、意外と親しみやすいかも

 この無伴奏ヴァイオリン・ソナタ第3番のフーガは、特に充実したものなので、最初から一通り見てきました。 このフーガは大変高度な作曲技法で作られていることは確かですが、同時にわかりやすい部分もあると思います。 意外と聞きやすい曲かも知れません。

 また譜面を見た限りでは、特に難しそうな点もなく、ハ長調ということもあってギターでも比較的弾きやすそうに見えます。 確かに長いことは長いのですが、特にアレンジしなくてもほぼそのままでも演奏できます。 根気のあるかたは是非やってみるとよいでしょう。



長らくお待たせしていますが

 さて、「バッハ・シャコンヌ再考」というタイトルのわりには、まだバッハのシャコンヌそのものの話には、まだ一言も触れていません。 でも、これまで一般的なシャコンヌとか、バッハの無伴奏曲など、バッハのシャコンヌの周辺的なことをずっとやってきた、つまり外堀を埋める作業に終始してきましたので、 いよいよ”本丸”ということになるのでしょう、バッハ・シャコンヌ・ファンの皆さま、本当にお待たせしました!

 ・・・・・・・しかし念には念を入れて、次回はこれまで書いてきたことをとりあえずまとめることにしましょう。 
<バッハ・シャコンヌ再考 18   バッハの無伴奏曲 7> 



無伴奏ヴァイオリン・ソナタ第3番のフーガ

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無伴奏ヴァイオリン・ソナタ第3番のフーガ。 コラール「来ませ、精霊、主なる神」の旋律をテーマとしているといわれている。 他の2曲よりも声楽的、つまり”歌”を主題としている。


 第3番のフーガはテーマの長さが4小節と3曲の中で最も長くなっています。 第1番が1、第2番が2、第3番が4小節となっていて、曲全体の長さだけでなく、このテーマの長さも番号の順に長くなっていますが、これもバッハの意図によるものなのでしょう。




オルガン・コラール「来ませ、精霊、主なる神」(BWV651、および652)と関係があるそうだが

 この4小節のテーマはライプチヒ・コラールと呼ばれるオルガン曲集の 「来ませ、精霊、主なる神」(BWV651、および652)と関係があるのだそうですが、そのオルガン・コラールを聞いた感じでは、トリルなどの装飾音が多く、ちょっと聞いいただけでは、同じテーマには聞こえません、確かによく聞くと音程の動きは同じようなのですが、言われてみないとわかりません。

 いずれにしても第1番、第2番が器楽的な主題であるのに対して、この3番のテーマは声楽的です。 つまり第1番、2番のテーマはメロディというより ”音型” といった感じなのですが、この第3番のテーマははっきりとメロディ、つまり歌になっています。




縦に重ねられない分、横に伸びた?

 ともかく長いフーガで、バッハが作曲したフーガの中でもかなり長いものとなっています。 オルガン曲などに比べてあまり音や声部を重ねることができないので、その分 ”横” つまり時間軸的に拡がりをもたせたのでしょう。 

 曲の区分ははっきりしていて、主要呈示部(原調、および属調による)、 喜遊部(Ⅰ)、 副呈示部(平行調)、 喜遊部(Ⅱ)、 対呈示部(テーマの反転)、 喜遊部(Ⅲ)、 主要呈示部 の7つの部分に分けられます。 下はその主要呈示部の最初、つまり曲の冒頭部分です。



よく見ると、同じものではない

 4小節の主題呈示が終わると、定石どおりに5度上に主題が重ねられます。 しかしよく見ると(聴くと)、この主題は全く同じではなく、音程関係など微妙に変えられています。 特に最初の音と2つめの音は、元の呈示では2度進行ですが、次のもの(答唱)では3度進行になっており、また他の音ではシャープなど変化記号も付いています。



ただの半音階だが

 その答唱の下の声部には半音階が添えられています。 確かによくあることなのですが、コード・ネームを記すとと譜面のようになります。 お気づきかと思いますが、コード進行、つまり和声進行は、 E⇒A⇒D⇒G⇒Cと5度ずつ下がってゆきます。 



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答唄(5小節目からの上声部)に、赤丸の半音階が添えることにより、和声の5度進行を暗示している、まさにバッハらしい。



その半音階が和声の5度進行を暗示している

 主題に半音階を添えただけなのですが、これをもってバッハは和声の5度進行も実現させているわけです。 バッハと5度進行の関係は以前にも書きましたが、強いこだわりを持っていることがわかります。 またバッハの音楽では旋律的要素よりも和声的な要素の方が、より重視されていることも理解できると思います。




最初の喜遊部

 66小節までが主要主題提示部となりますが、66~92小節までが最初の喜遊部となり、この喜遊部はハ長調から、イ短調へという傾向を示します。 そして平行調のイ短調となる副主題提示部となります。



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フーガの2ページ目、 2段目の3小節目(65小節)から最初の喜遊部がはじまる。 この喜遊部はハ長調で始まり、イ短調へと移行してゆく。 下から2段目の1小節目4泊目から平行調(イ短調)による副主題提示部が始まる。




副主題提示部はストレット。  入念に主題を展開

  同時にここでは主題が終わらないうちにと答唄が始まる、ストレット(追迫部)となっています。 この副主題提示部は主要主題提示部よりも長く、かなり念入りに主題がが組み合わされ、大変充実した部分となっています。 



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3ページ目。 この副主題提示部では、最初の主要提示部より、いっそう入念に主題が展開される。
<バッハ・シャコンヌ再考 17   バッハの無伴奏曲 6>



100年早いが

 「次回はフーガの話をします」 などと前回書いてしまいましたが、改めて書こうとすると、当然のことながら、とんでもないことを言ってしまったものだなと、後悔しています。 やはりバッハのフーガを語るのは、私には100年早いと言うところでしょう。

 しかし言い出してしまった以上、やむを得ないので、あくまで素人目線の、表層的なことしか言えませんが、やるだけやってみましょう。  まず、バッハの無伴奏ヴァイオリンソナタ3曲の、それぞれ中心楽章となっている、3つのフーガを比較してみます。




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「ソナタ第1番ト短調BWV1001」のフーガ。 ト短調だが、例のごとく♭は1個になっている。



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「ソナタ第2番イ短調BVW1003」のフーガ



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「ソナタ第3番ハ長調BWV1005」のフーガ




番号の順に曲が長くなってゆく

 本当に外見的なことから言うと、「第1番」のフーガが94小節、 「第2番」が289小節、 「第3番」が354小節となっていて、だんだん長いものになってゆくのがわかります。 つまりバッハは主に、フーガの規模の関係で3つのソナタの番号を決めたことがわかります。

 小節数だけを見ると、第2番、3番に比べて、第1番が極端に短くなっていますが、第2番、3番がそれぞれ4分の2、2分の2拍子となっているのに対して、第1番は4分の4なので1小節あたりの音符の数はほぼ2倍となっているので、第1番の小節数は2倍の ”188小節” と計算してもよいかも知れません。 それでも第1、2、3番の順で長くなってゆくことには変わりありません。



第1番のテーマは、類似したものがよくあり、当時からも親しみやすかったのでは

 このうち、第1番のフーガは私たちにとって最も親しみやすいもので、古くはタレガの時代からギターで演奏されてきました。 1小節の非常に簡潔なテーマですが、これに近いフーガのテーマはテレマンにもあり、またバッハ自身も平均律曲集などで似たようなテーマを使っています。

 それらのことから、このフーガは当時から親しみやすいものだったのではと思います。 バッハはこのフーガをオルガン用にもアレンジしています(プレリュードとフーガニ短調BWV539)。



あまり変形されずに何度も出てくる

 この第1番のフーガが親しみやすいもう一つの理由として、この1小節のテーマはあまり変形されることなく何度も現れることにもあるでしょう。 つまり同じメロディが1曲の中で何度も、それもわかりやすい形で聞えてくるということになります。 それに比べ第2番、3番のものではテーマが逆転されたり、分解されたりなど、変形されています。

 調的には、他のフーガ同様に主調=属調から始まり、下属調、平行調など一通り転調しますが、それでもテーマは、はっきりと聴き取れます。 また、和声法的にも他の2曲よりはシンプルに出来ているように思います。 いろいろな意味で、バッハの深遠なフーガの世界の入り口として、最も相応しい曲ではないかと思います。








第2番のテーマは2小節だが、原型のまま出てくることは少ない

 第2番のフーガは2小節のテーマを持ちますが、この2小節のテーマが完全な形で出現することはわりと少なく、前半の16分音符の部分のみを用いて展開してゆくことが多いようです。 そうしたことで、第1番のフーガに比べると、確かにわかりにくい感じはあります。



テーマが上下逆転。 主題労作っぽい

 主要呈示部、嬉遊部、副呈示部(平行調)と一通り進んだ後、このテーマは上下逆転され、さらにもとの形のテーマと交錯するように絡み合います。 前述のようにテーマを分解して用いるなど、のちのベートーヴェンの”主題労作”を彷彿させるところもあります。



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第2番のフーガの中間部 4段目のところからテーマが上下逆転される。 その後は”順”のテーマと、”逆”のテーマが交錯するようになっている。




非常にレヴェルの高い器楽的フーガ

 この2小節のテーマには、1オクターブの跳躍があり、まさに声楽的というよりは完全に器楽的なもので、バッハとしては、思う存分自らの作曲技法を展開しているのではと思います。 バッハのフーガというものは、ただ同じテーマが別の声部に表れるだけのものではなく、そこに非常に複雑な和声関係が持ち込まれます。 

 全く同じ音程で現れたテーマも全く違った和声法的処理がなされるなど、 先行のグラーヴェと同様、この第2番のフーガは、非常にレヴェルの高い音楽だと言えるでしょう(特に和声法的に)。
 


 
<音楽基礎講座>  受講者募集中 



当教室の生徒さん以外でも

 来月(12月)と再来月(来年1月)に、私の教室のスタジオで下記のように、<音楽基礎講座>を行い、その受講者を募集しています。 対象者としては、基本的には当教室の生徒さんということになりますが、それ以外の方でも希望があれば受け付けます。





<Vol. 1  基礎楽典 ~速度標語 >    講師中村俊三

2015年 12月13日(日) 10:00~13:00     19日(土) 18:00~21:00


(同一内容、都合のよい方の日を選ぶ))


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 クラシック・ギターを正しく演奏するには、Adagio、Largo、Andante、Allegroなどイタリア語で書かれた速度標語を正しく理解しなければならない。 講師によるクラシック・ギターの演奏、およびクラシック名曲のCDにより、例をあげながら、速度標語の詳しい解説を行う。 


<ギター演奏曲目>

Largo      ソル : 幻想曲作品7 「ラルゴ・ノン・タント」、 
Adagio     メルツ : 愛の歌
Lento      ラヴェル : 亡き王女のためのパヴァーヌ
         タレガ : アデリータ
Andante    バッハ : 無伴奏ヴァイオリン・ソナタ第2番より「アンダンテ」
         タレガ : ラグリマ
         ソル : アンダンテ・ラルゴ作品5
Andantino   ソル : アンダンティーノ ニ長調作品2ー3
Moderato   ブロカ : 一輪の花
Allegretto   ハイドン(セゴヴィア編) : 交響曲第96番「奇跡」より「メヌエット」
Allegro     ジュリアーニ : 大序曲
         ジュリアーニ : アレグロ・ヴィヴァーチェ



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<Vol. 2  コード理論 ~基礎和声法>

2016年 1月17日(日) 10:00~13:00     1月23日(土) 18:00~21:00



 ギターであらゆるジャンルの曲を演奏するのに、コード理論は絶対に必要。 ともすれば難しくなりがちなコード理論を簡潔に講義と実践。 明日から使える実用コード理論。



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場所  中村ギター教室スタジオ

受講料  各1000円  教材費1200円《音楽乃友社「楽典」》
    (2回分+教材=3000円) ~どちらか一方、教材なしも可

定員  各日 8~10名   車以外で来られる方歓迎   *先着順に受け付け。定員になり次第受付締切。 







クラシック音楽を演奏するためには絶対必要な知識

 12月の方は、AllegroやAndanteなどの速度標語の話で、クラシック音楽を演奏するためには必ず理解しておかなければならないものですが、実際にレッスンをしていると、正しく理解できていない人が非常に多いのも現実です。 確かに小中学校なの音楽の授業である程度は習っているはずなのですが、ほとんどの人はすっかり忘れているようです。

 また、こうした速度標語は、単に演奏速度を物理的に指示しているだけではなく、曲の内容に深く関係しています。 速度標語を正しく認識することは、その曲を演奏したり、理解する上で、たいへん大きなヒントとなります。

 さらに同じ速度標語であっても、その時代、作曲家、音楽の形態、音符の種類など様々な条件で、異なった速さになります。 また若干演奏速度を変えるだけでも、その曲の表情などがだいぶ変わります。 いろいろな意味で、この速度標語を正しく、また深く理解することは、たいへん重要なことと思います。

 最後には試験問題も用意いたします。 もちろん講義を聴いていれば簡単にわかる問題です。




コードや和声法を学ぶきっかけになれば

1月はコード理論~基礎和声法ということですが、和声法なといものは音楽大学で複数年にわたって勉強するものなので、確かに3時間ほどの講義で理解できるものではないかも知れません。 ギターを習う人は、ギターを練習しながら、少しずつ学んでゆくべきでしょう。

 ここではそうした勉強のスタートとして、ごく初歩的なことを学びます。 また和声法というより、どちらかと言えばより実用的なコードの話として講義を進めてゆきます。もちろん決して難しいものではありません。 最後には簡単なメロディの伴奏付けも行いたいと思います。



申し込みは先着順

 申し込み受付は先着順となります。 部屋があまり大きくないのと、車があまり置けないので、一日あたり10名前後で、同じ内容の講義を上記のように土、日の2日間行いますので、都合のよい日を選んで下さい。  なお、車以外で来られる方については、定員に達した場合でも受け付けます。
<バッハ・シャコンヌ再考 16   バッハの無伴奏曲 5>



「グレーな音符たち」でも書いたが

 このグラーヴェに関しては、もう一つ気になるところがあります。 と言っても、これは以前当ブログの「グレーな音符たち」というところで書いたことなのですが、バッハの音楽の大変特徴的なことと思われますので、再度書いておきます。

 下はこのグラーヴェの最後の部分ですが、この曲は次のフーガのための序奏的な意味もあり、完全終止ではなく、属和音で終わる半終止となっています。 この終わり方、普通に聴くとちょっと変に感じませんか? 特に下の声部だけ聴くとやや不自然です。



グレーバッハ 001



見えないバスが5度進行

 最初はこの意味がよく分からなかったのですが、どうやら最後の和音(といっても「ミ」の重複だが)の直前の和音をⅤ/Ⅴ、つまり属和音の属和音にするためのようです。 こうすることにより、和音全体が5度で進行することになります。 ”見えない” バスが5度下がる(4度上がる)ということになります。

 普通、譜例3段目のようにファをナチュラルのままにしておいたほうが聞いた感じではなめらかです。 この和音は ”イタリアの6” と言う和音で少なくとも古典派以降ではよく用いられる和音です。

 バッハはこの”5度進行” ということに強いこだわりがあるようです。 前回の話で、属9の和音を好むといったこともその表れでしょう。 属9の和音は足の和音以上に5度進行を強く促すものです。




同じことがチェロ組曲第1番のメヌエットにも

 同様のことが無伴奏チェロ組曲第1番の「第Ⅱメヌエット」にもあります。 私がこの曲を弾き始めた頃、このシ=ナチュラルはどうしてもおかしいので、おそらく何かの間違いではないかと思い、フラットになおして弾いていました。 


グレーバッハ
譜面はニ長調に移調した編曲譜(この第Ⅱメヌエットのみニ短調)


 あるとき生徒さんから指摘され、「たぶん間違いじゃないかな」 と言ったら 「CDではナチュラルになっています」 というのでいろいろ聴いたり調べたりすると、やはりナチュラルが正しいようでした。 

 しかし、どう聴いてもフラットの方が自然に聴こえるのに、なぜバッハはここをナチュラルとしただろうと、しばらくこのことが頭から離れなかったのですが、 ある時、このソナタ第2番の「グラーヴェ」の最後と同じことだということに気が付き、以上のように理解したわけです。



バッハの和声法の根幹は5度進行  演繹法的思考

 どうやらバッハの和声法(そのようなものがあれば)では、この「5度進行」ということが根幹となってるようです。非常に複雑なバッハの和声法も突き詰めると、この5度進行に行き着くようです。 極めて簡潔な根本的な概念から、非常に複雑なものを築きあげるというバッハの音楽は、まさにヨーロッパ的な思考法に合致するものなのかも知れません。



次回はソナタ第3番の長大な「フーガ」

 次回はフーガの話をしようかと思うのですが、これがまたおそろしい!  「1台のヴァイオリンでも、一応フーガは作れますよ」 みたいなものではないのは、皆さんもご存じのとおり。 確かにバッハ以外の同時代の作曲家も無伴奏のヴァイオリンのためにフーガを作曲していたのですが、やはりバッハの作品とは比較ににはならないでしょう。

 例としては「無伴奏ヴァイオリン・ソナタ第3番ハ長調」の長大なフーガにしてみようと、思います   ・・・・・・ちょっと相手がデカ過ぎ?


<バッハ・シャコンヌ再考 15   バッハの無伴奏曲 4>



話を戻して

 前回は無伴奏のほうではなく、伴奏付きのヴァイオリン・ソナタのほうに話が行きましたが、もちろん本題の無伴奏曲のほうの話がまだ済んではいない。 再びバッハの無伴奏ヴァイオリン曲において、バッハらしいところ、バッハしか書かないことについて話を進めましょう。



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無伴奏ヴァイオリン・ソナタ第2番イ短調第1楽章「グラーヴェ」



よく似ているのに、第1番は「アダージョ」で、第2番は「グラーヴェ」。 どう違うの?

 今度はソナタ第2番の「グラーヴェ」ですが、 前々回譜面を載せた第1番の「アダージョ」とよく似た感じです。 調は違いますが、譜面の見た目といい、聴いた感じといいよく似ています。 使っている音符の種類など、ほぼ同じではないかと思います。

 もちろん中身、特に和声法的な部分ではかなり違うのかも知れませんが、演奏の仕方、特にテンポなどはほぼ同じになるのではないかと思います。 その似たものどうしで、なぜこちらが「グラーヴェ」で、第1番のほうが「アダージョ」なのかは、私にはよくわかりません。


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無伴奏ヴァイオリン・ソナタ第1番の「アダージョ」 前にも載せたが、比較のために。 調は違うものの、雰囲気は確かによく似ている。 



曲の感じを表していると思われるが

 この「アダージョ」と「グラーベ」は一般に速度標語と言われ、その曲の演奏するテンポを指示しているのですが、この両者の場合は絶対的な速度の差、つまりどちらが速いかとか遅いか、といったことではなく、曲の感じを表しているものと思われます。

 つまりどちらも「非常に遅く」なのですが、グラーヴェは重厚で、アダージョは繊細となるでしょうが、聴いた感じや、譜面を見た感じからは、そうした違いは見出すことが出来ません。

 強いて言えば、グラーヴェのほうは低音が順次進行することが多いのに対して、アダージョのほうが少ない、つまりグラーヴェのほうがバス・ラインがしっかりしていて、その分、重厚さが感じられるといったところでしょうか。



チェンバロ編曲では「アダージョ」

 この第2番のソナタにはニ短調に移調されたチェンバロへの編曲譜も残されています。 これはバッハ自身の編曲なのか、他の音楽家のてによるものなのかは、判別出来ないようですが、バッハ自身でないにしても、弟子や息子たちなど、バッハの影響力が及ぶ音楽家ではないかと思われます。


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バッハ:チェンバロのためのソナタBWV964 無伴奏ヴァイオリン・ソナタ第2番イ短調BWV1003からの編曲だが、バッハ自身の編曲かどうかは判明しない。 第1曲目は「Adagio」となっている。



結局どっちでもよかった?

 譜面を見てお気づきの通り、第1曲目は原曲のように「グラーヴェ」ではなく、「アダージョ」となっています。 書き間違えなのか、あえて変更したのかわかりませんが、この編曲者もグラーヴェとアダージョはだいたい同じもので、どちらも大した違いはないと思ったのかも知れません。 あるいはこの曲が、特に重厚な音楽とは思えず、アダージョのほうが相応しいと、積極的に変更した可能性もあるでしょう。 



中身のほうでは

 さて、タイトルに気を取られてしまいましたが、 この曲の中身で気になるところといえば、まず13小節目です。 この13小節目の音階は最初のほうではファとソに#が付きますが、上行して先に進むとそれぞれナチュラルとなり、シに♭が付きます。 




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13小節目 この音階の最初の方ではファとソに#が付くが、最後の方(高い方)ではナチュラルとなり、さらにシに♭が付いている。 次の属9の和音の出現を予告していて、強い力でニ短調へと進む





一つの音階の中で#が付いたり、取れたりする

 最初のほうでファとソに#が付くのはこの曲がイ短調だからで、これはいわば常識的なことです。 普通ならそのままオクターブ上がったとしても同じ音に#が付くはずですが、 オクターブ上がるとナチュラルになり、さらにシに♭が付いています。

 その後を見るとニ短調、あるいはイ短調の下属和音(つまりDm)となるので、それを先取りしてこのようになっていると思われます。



一つの音階の中で転調する?

 つまり一つの音階の中で転調をしているような感じになっています。 転調というのは間違いでしょうが、この後ニ短調に進むことを予告しているのではないかと思います。 こうした曲では、普通、音階は装飾的な扱いで、和声法上は重要ではない場合が多いのですが、ここでは大変重要な扱いをされ、 ”和音がなくても和声がわかる” と言った感じなっています。 



バッハは短調の属9の和音を好んで使った

 音階の最後のほうで出てくるシ♭は次の和音にも出てきて、これが属9の和音を形成します。 この短調の属9の和音はバッハが特に好む和音で、いろいろな場面に登場します。 普通の属7の和音よりもさらにいっそう主和音 (この場合ニ短調の主和音=Dm)、つまり5度低い和音に進む傾向があります。 二反長への転調を強く示す和音と考えられるでしょう。



根音を抜くと減7と同じ、 独特の不協和音

 この短調の属9和音は、根音(この場合はラ)を省くと減7の和音となります。 減7の和音は不協和音ですが、独特の響きをし、クラシックからポピュラー音楽に至るまで、たいへんもよく用いられます。 音楽が盛り上がる部分によく使われ、ベートーヴェンなども好んで使っています。

 子供の頃ベートーヴェンのピアノ・ソナタ「月光」を聴いて、とても印象的な部分があったのですが、後からそこに減7の和音が使われていることがわかりました。