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中村俊三 ブログ

中村ギター教室内のレッスン内容や、イベント、また、音楽の雑学などを書いていきます。

<音楽基礎講座 on Blog>  速度標語  16


モデラート はその言葉どおり ”中くらい” と言うことだが、やや速め



 モデラートはその言葉どおり中くらいということですが、いくぶん速めに演奏されることが多いようです。 聴いた感じでは速いとも、遅いとも感じないくらいというのが一番よいようです。 この速度標語も、18世紀半ば頃(古典派以降)から使われていて、ハイドンなどもよく使っています。 



モーツァルト、ベートーヴェンは過激な作曲家

 しかし、ここでもモーツァルトやベートーヴェンはほとんど使わなかったようです。 両者とも ”中途半端” な速さの曲は、あまり好きではなかったようです。 一方、ラヴェルやドビュッシーなどのフランス系の作曲家は好んで、このモデラート(フランス語で ”モデレ” と表記したが)を使用していました。

 速さそのもは全く違うのですが、性格的にはラルゴと共通するところもあるのでしょう。 それにしてもモーツァルトとベートーヴェンは”個性的” というより ”過激な” 作曲家だったのですね。





アレグロ  クラシック音楽の標準形 音楽は楽しくなければならない

 アレグロはクラシック音楽にとっては最も普遍的な速度標語で、古典派時代からロマン派時代にかけては、交響曲や協奏曲、ソナタ、室内楽などの第1楽章はほぼアレグロに決まっていました。 また何の速度標語も書かれていない場合、基本的にアレグロと考えるのが常識でした。

 本来の意味は前に書いたとおり、「陽気な」 とか、「楽しい」 と言った意味になります。 つまりこの時代、音楽は楽しくなければならなかったのですね。 もちろん ”悲しいアレグロ” つまり短調のアレグロもあった訳ですが、やはりその数は少ないものでした。



短調の交響曲は少ない

 例えば、モーツアルトには40数曲(はっきりはしていない)ほど交響曲がありますが、そのうち短調のものは2曲しかありません。 もっとも、その2曲ともト短調で書かれた人気作品で、特に40番の方は、モーツァルトの作品を代表するものになっています。

 しかし割合からすると、モーツァルトは5%しか短調の交響曲を作曲しませんでした。 協奏曲や室内楽などもほぼ同じです。 「運命」など短調の作品をよく書いたように思われるベートーヴェンでさえ、9曲の交響曲のうち、短調の作品はその第5番「運命」と第9番の2曲しかありません。 協奏曲も7曲中、1曲のみとなっています。

 長調と短調のアレグロ楽章が同等に作曲されるようになるのは19世紀半ば以降で、ブラームスは長調、短調、ほぼ同数の交響曲と協奏曲を書いています。 ブルックナーとマラーの場合はそれぞれ9曲の交響曲のうち、短調が6曲と逆転しています。



世の中が平穏になってくると

 18世紀から19世紀にかけては、ヨーロッパもまだまだ戦争や病気、貧困などがまん延し、、けっして明るく、平和な時代とはいえなかったようです。 ならばせめて音楽の世界だけでも楽しくしたいということだったのでしょうか。 確かに19世紀もだんだん後半になって、暮らしもよくなり、医学も進歩してくると、だんだん短調の曲も多くなってきたようです。



速度標語が付けられるようになったのは、バロック時代からだが

 さて、アレグロはクラシック音楽では、最も普遍的な速度標語だということを言いました。 音楽は明るいだけでなく、軽快でなければならないということでしょう。 音楽に速度標語が添えられるようになったのはバロック時代、つまり17世紀以降となりますが、この時代から本格的に器楽音楽が始まったと言ってよいでしょう。

 速度標語を含めた音楽用語がイタリア語であることからしても、この時代はイタリアの音楽が主流だったと言えます。 アレグロといえば、この時代、コレルリやヴィヴァルディなどの協奏曲が思い起こされるわけですが、これらの協奏曲は主に4分音符~16分音符で出来ていることが多く、4分音符を1拍とすることが一般的になりました。



アレグロの場合も時代を経るごとに速くなって行く

 これらの協奏曲のアレグロ楽章(第1、第3楽章)は、今現在4分音符=80~120くらいで演奏されています。 当時もこのテンポで演奏されていたかどうかはわかりませんが、演奏者や聞き手のことを考えると、ほぼ同じくらいだと考えられます。 速いと言っても「快適」ということですから、遅すぎてもいけませんが、あまり速すぎると快適ではなくなってしまいます。

 これが古典派、ロマン派と時代の経過と共にだんだん速くなってくる傾向にあります。 つまり速い曲と遅い曲の差がだんだん大きくなって来たということになります。 こうしたことは演奏の際によく考慮しておく必要があるでしょう。



言葉が付け加えられるようになる

 古典派時代以降になってくると、アレグロという速度標語に「アレグロ・モデラート」 や 「アレグロ・ヴィヴァーチェ」、 「アレグロ・マエストーソ」 など補助的な言葉が添えられるようになります。 音楽がいろいろ多様化したことが主な理由と思いますが、 それに従い、アレグロと言う意味が「楽しい」ということよりも、単純に「速い」という意味に変わってきたのでしょう。



”コン・ブリオ” はベートーヴェンの専売特許?

 このアレグロに添えられる言葉は、それぞれの作曲家によって好みが異なります。 ベートーヴェンの場合は、何といっても 「アレグロ・コン・ブリオ」 を好んで使用し、9曲の交響曲のうち 第1番、第2番、第3番『英雄』、第5番『運命』 の第1楽章と 第7番の第4楽章に、この 「アレグロ・コン・ブリオ」 が付けられています。

 「コン・ブリオ」の意味としては「生き生きと」とか「活気づいて」といった意味ですが、ベートーヴェンの場合、さらにもっと「力強く」 とか 「精神を集中して」 といったような意味も込められているように思います。

 あるいは、私たちが 「アレグロ・コン・ブリオ」 というと、いやでもベートヴェンの 「運命」 や「英雄」を思い出しますから、私たちにとっては ”コン・ブリオ=ベートヴェン的な曲” というイメージになってしまうのでしょう。



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いかにも ”コン・ブリオ” な感じの肖像画。 ベートヴェンの肖像画といえば、だいたいこの角度で、この角度がベートーヴェンのベスト・アングルなのかも。 。



”ワルツ第4番” にも付けられている

 ギターの方では、バリオスの 「ワルツ作品8-4」 にこの 「コン・ブリオ」 が付けられています。 「コン・ブリオ」 は、アレグロの中でも、かなり速い速度を言ってるので、テンポはなるべく速いほうが良いのですが、それに加えて、ダイナミックさ、つまり強弱の大きな変化も要求されているといってよいでしょう。



走り去る悲しみ

 モーツァルトはよく「モルトー・アレグロ」という速度標語を用います。 「モルトー」 は「出来る限り」といった意味ですが、速い曲が好きだった(と思われる)モーツァルトらしい速度標語ですね。

 有名な「交響曲第40番」などに付けられていて、この曲は短調でメロディの美しく、悲しい曲。 演奏者は当然ややゆっくり目に演奏したいと思うところですが、モーツァルトは、演奏が可能であれば、出来るだけ速く演奏するようにと言っている訳です。

 要するにモーツァルトはこの曲を感傷的に演奏することを好まなかったのでしょう。 誰かが言っていたような気がしますが、まさに ”走り去る悲しみ” といったところでしょうか。



ジュリアーニはアレグロ・マエストーソ

 ギターのほうでは、ジュリアーニが比較的 「アレグロ・マエストーソ」 を好んで使用していました。 「大序曲」や 「協奏曲第1番」などがこの「アレグロ・マエストーソ」となっています。 堂々として、華やかな音楽を好んだジュリアーニらしいですね。

 因みに「アレグロ・マエストーソ」 はそれほど速く演奏することを言っている訳ではなく、アレグロとしては中庸、単純に速度だけで言えば「アレグロ・モデラート」とだいたい同じと考えられます、もちろん曲の感じはだいぶ違います。


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ジュリアーニは ”マエストーソ” な音楽家を目指したのか。 ソルの肖像画とよく似ているが、ソルは反対向き。



プレスト  速いけど、ちょっと軽い
ヴィヴァーチェ  速いだけでなく、にぎやか



 アレグロよりも速い速度標語としては、Presto と Vivace があります。 プレストは速いけれども、ちょっと軽い感じもあります。 したがって、第1楽章などに付けられることはあまりなく、終楽章などに主に付けれらます。

 モーツァルトの 「第40番」の第1楽章 もなぜ 「プレスト」 ではなく 「モルトー・アレグロ」 なのかと言うこともそのあたりに理由があるようです。 やはり交響曲の第1楽章は「アレグロ」でなければならないのでしょう。 



アウトバーンを走るメルツェデス?

 ヴィヴァーチェは 「忙しく」 とか 「せわしく」 と言ったような意味ですが、「にぎやか」と言った意味もあり、静かな曲には、あまり付けられないようです。 代表な曲としてはベートーヴェンの 「交響曲第9番」 の第2楽章が挙げられます。 かなり速く演奏されますが、速いだけでなく、非常に力強く、まるで戦車かブルトーザーが高速で走っているようだ、などと前に書きました。

 モーツァルトの 「交響曲第41番『ジュピター』」 の第1楽章は「アレグロ・ヴィヴァーチェ」となっています。 こちらはベートヴェンの「第9」ほどではないとしても、やはり力強く、なおかつ高貴さも漂います。 こちらは ”4000CCのメルツェデス・ベンツ” といったところでしょうか。

 




まとめのまとめ

 これで、当ブログをちゃんと読んだ人は、速度標語について完璧に理解できたと思います。 特にそれrぞれの測度標語の性格、キャラクターと言ったものをしっかりと把握できたのではないかと思います。 こうしたことは実際に曲を演奏する際に絶対必要な知識です・・・・・・・・・

 例題の ”わけあり社員” のように家庭のちょっとした問題から、会社の重大問題まで Prsto に片付けてくれる人がいたら、本当に助かりますね。
 
 「あなたは Lento な人ですね」 などと軽々しく人に向かって言ってはなりません。 自分に対して 「私はちょっと Lento なもので」 とかいうのは、謙譲語としてよいでしょう、ショパンのワルツのように。

 Grave な明日香ちゃんのお母さんと、Adagio なシュンちゃんのおばあさんとは、どこか性格が似ていますね、なんとなく、ちょっと ”ねちっこい” ところが。 ただ明日香ちゃんのお母さんのほうがちょっと ”きつめ” かな。

 Allegro な日がずっと続けば言うことないのですが、 でもやはり Allegro な日は走り去ってしまうものですね、モーツァルトの曲のように。 翔くんと香澄ちゃんは、その後どうなったのでしょうか? 翔くんの思う方向に進んだのでしょうか?

 Largo な性格のミタ・センパイは、後輩たちに、たかられようが、いじられようが、そんなことは気にしません。 後輩たちが楽しそうに食べて、飲んでいる姿を見れば、それで嬉しいわけです(自分ではお酒は飲めないが)。 また次の柔道大会の応援に駆けつけてくれるでしょう。



 
 

 
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<音楽基礎講座 on Blog>  速度標語  15

まとめ 2



アンダンテ ~ちょっと厄介なテンポ


 前回に引き続き、音楽基礎講座のまとめを行っています。 前回は最も遅いクラスの Largo Adagio Grave Lento について書きましたが、今回は Andante からです。  このアンダンテは 「中庸なテンポ」 のクラスと言えますが、 音楽辞典の記述も若干迷走しているとおり、ちょっとやっかいなものです。

 その音楽乃友社の音楽辞典では中庸なテンポではあるが、「速い速度に属するか、遅い速度に属するかは意見が一致しておらず」と言っている訳です。 



”歩く速さ” と言うけれど

 また、一般にアンダンテは 「歩く速さ」 と解釈され、学校での音楽の教科書等にもこのように書かれているのではないかと思います。 しかし実際に歩くといっても、ゆっくり歩く場合と、速く歩く場合では、速度が2倍以上は異なるでしょう。

 さらに、素朴な疑問といえるかも知れませんが、歩くと言った場合、1拍、つまり4分音符1個で片方の足なのか、それとも両足で1拍なのか、といった疑問もあります。

 このように一般に言われていたり、記述されていることを読んだりしただけでは、アンダンテがどのようなテンポかと言うことはわかりません。 そうなると、実際にアンダンテの曲はどう書かれ、どう演奏されているかを様々な曲で聴いてみるしかないでしょう。



モーツァルトは明らかにアンダンテを遅いテンポと考えている

 実際の講座ではモーツァルトのピアノ協奏曲第21番ハ長調K467の第2楽章を聴いてもらいました。 内田光子、ジェフリ・テイトの演奏では、 4分音符=56 くらいで、かなりゆっくりです。



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内田光子、ジェフリ・テイト のモーツァルトピアノ協奏曲集



 この演奏は特に遅いと言う訳でもなく、現在出されているCDとしては平均的なテンポと考えられます。 これくらいのテンポだと、ラルゴやアダージョなどともあまり変わらないでしょう。

 モーツァルトの場合、交響曲や協奏曲の第2楽章は、ほとんどアンダンテとなっています。 おそらく9割くらいはアンダンテとなっているでしょう。 残りはアンダンティーノ、ラルゲット、アレグレットとなっています。

 この時代の第2楽章は、基本的にゆっくりした楽章、つまり緩叙楽章となるので、少なくとも、モーツァルにとっては、アンダンテは「ゆっくり」 といったイメージなのではないかと思います。

 ただ、いろいろな状況からすると、モーツァルト自身はかなり速く演奏したようなので、今現在演奏されているよりは速めに演奏していたかも知れません。  また、「やや速く」 と言った意味のアレグレットも、場合によっては ”ゆっくりした曲” 扱いになるようです。



数字上ではもっと遅く演奏される場合もある

 その他、いろいろな作曲家の作品の演奏を聴いても、やはりアンダンテは中庸というより、”遅い曲” といった感じになっているようです。 私たちが演奏する際にも、そのように理解してもよいのではないかと思います。 講座のほうでは、バッハの無伴奏ヴァイオリン・パルティータ第2番の「アンダンテ」も聴いてもらいました。

 この曲は拍子記号としては 「4分の3」 となっていますが、バスが8分音符の刻みになっていて、実際には4分音符ではなく、8分音符で拍子を取る感じになります (おそらく、ほとんどの演奏者はそうしていると思いますが)。  

 私もそうですが、他のヴァイオリニストも、8分音符=60~70 くらいで演奏しています。 そうでないと32分音符のところなどもの凄く速くなって演奏出来なくなったり、演奏出来たとしても相当せわしく、落ち着かないものになってしまいます。

 このテンポを4分音符1拍とすれば、30台となりますから、これはもうラルゴ、アダージョ・クラス、あるはそれ以下となるでしょう。 どう考えても中庸なテンポとは言えません。




アデリータとラグリマのテンポ

 ギターのほうでは、よくタレガの、アデリータ(Lento) と ラグリマ(Andante) のテンポが問題になります。 確かにタレガはこうした速度標語を厳密に考えて付けていたわけではなく、自分で演奏する時にもかなり感覚的にテンポを取っていたのではなかと考えられます。 

 しかしだからと言って、これらの速度標語を無視してしまってはタレガの音楽を正しく聴衆に伝えることは出来ないでしょう。 やはりレントとアンダンテの違いをよく考え、感じるべきだと思います。

 この2曲を著名なギタリストがどのようなテンポで演奏しているかと言うと、

<デビット・ラッセル>          アデリータ=78、  ラグリマ=76
<マリア・エステル・グスマン>     アデリータ=74   ラグリマ=70 
<ベルグストローム>          アデリータ=74   ラグリマ=74  




レントよりもアンダンテのほうが遅い?

 このようになっています。 本文中でも書いたたとおり、これではレントのアデリータとアンダンテのラグリマが、同じテンポ、あるいは逆転したテンポで演奏していると言えます。 これらのギタリストはタレガの付けた速度標語を無視しているのでしょうか? 

 そう言ったことも考えられなくはありませんが、講座の中でもやったとおり、アデリータとラグリマを全く同じテンポで弾くと、ラグリマの方が速いテンポに感じられます。 これはアデリータが4分音符中心で、ラグリマは完全に8分音符で刻んでいるので、そう感じるのだと思います。



ワルツ同様、1小節1拍?

 もう一つ考えられることとしては、 ショパンのワルツに「Lento」とされたものがありますが、これらの曲をほとんどのピアニストは 4分音符=130くらいで演奏しています。 この速さは普通に考えるとほとんどアレグロの領域ですが、ワルツの場合、4分音符=1拍 ではなく、1小節、つまり付点2分音符が1拍と感じられます。

 そうすると1拍=40 くらいとなり、確かにレントの範囲となります。 因みに速いワルツ、たとえば「子犬のワルツ」などは、一般に4分音符=300くらいで演奏されます。

 アデリータは「マズルカ」とされていて、マズルカはワルツよりは遅いですが、比較的速いテンポの踊りです。 ワルツと同様に1小節=1拍 と考えると、1拍=20台 ということで、かなりゆっくりなものになります。 




私自身はもっと遅く弾いている

 しかし、アデリータを1小節=1拍 で取るのはちょっと強引すぎると思います。 それではこの曲がかなり早く終わってしまい、聴く人にあまり印象を残さず終わってしまうことになります。 やはり、アデリータをじっくり聴いてもらうとすれば、4分音符=1拍 でよのではないかと思います。

 私自身ではアデリータを 4分音符=64、  ラグリマを68 くらいで演奏しています。 生徒さんにも同じくらいの速さ、またはそれよりも少し遅く弾くように指導しています。 プロのギタリストがアデリータやラグリマを速く弾いているからといって、一般愛好者の皆さんが同じようなテンポで弾くのは、あまりお薦め出来ません。



アンダンテの性格は?

 ところで、ラルゴとアダージョは全く性格が違うということでしたが、このアンダンテの性格とはどんなものなのでしょう。 一般にそうした”アンダンテの性格” などということはあまり語られることはないのですが、やはり性格があるのではないでしょうか、どんなひとにも性格があるように。

 一般に言われている、”歩く感じ” というのはちょっと微妙だと言いましたが、しかしやはりモーツァルトの曲を聴いていると、”そこに留まっている” 感じではありません。 確かに先に進んでゆく感じです。 もう少し具体的言いますと、伴奏を8分音符などで刻んでいる場合が多いようです。



遅いけれども、時間は先に進んでゆく。 私たちの人生のように・・・・

 確かに、それを”歩くような感じ” と言えなくもないのですが、歩くと言っても本当に右、左と足を出す感じではなく、何か、抽象的に時間が先に、先にと進んでゆく感じと言った方がよいかも知れません。  つまり遅いけれども、同じところに留まっているわけではない。 モーツァルトのアンダンテを聴くとそんな風に感じられます。

<音楽基礎講座 on Blog>    速度標語 14


速度標語のまとめ




冗談ぽくなってしまったが、

 修了試験の方はやや冗談ぽくなってしまいましたが、気を取り直して、最後にこれまで話したことをまとめておきましょう。 結論としては本文中に何度もいったと思いますが、Andante とか Allegro といった速度標語は絶対的なテンポを表す、ということよりも、その曲の性格を表すということです。 



メトロノームの数字ではない

 かつてのメトロロームにはそれぞれの速度標語に、メトロノームの数字を対応させたものがありましたが、そのように速度標語は、はっきりとした数字で表せるものではありません。 また Largo と Adagio で、どちらが遅いかなどといったことが音楽辞典に記されていますが、そう言ったことは全く意味がありません。  それでは、改めて速度標語について、遅い方からまとめてゆきます。



<最も遅いクラスの速度標語> 「Largo」  「Adagio」   「Grave」  「Lento」



その性格が違うだけであって、絶対的なテンポの違いではない

 この4つの速度標語は最も遅いクラスのものと言えます。 この相対的な順位などに付いて語っている辞典や書などもありますが、私が実際に演奏されている曲については、全く順位は付けられません。 また同じ速度標語の中でも曲によって、作曲家によって、その作品の時代によって、、また演奏者によってかなり異なります。
  
 しかしだからといって、これらの速度標語は何でも良いと言う訳ではありません。 これらの速度標語には全く違う個性があると言うことです。 特にこの4種類の速度標語はその違いがはっきりしているようです。

 ですから、作曲家が、自らの作品に「『ラルゴ』 としようか、 それとも 『アダージョ』 としようかなど、迷うことはありえないということです。 ラルゴを作曲する時の気持ちと、アダージョを書こうかと思う気持ちでは全く異なるということです。 

 音楽辞典や伊和辞典等の記載については、以前書きましたが、以下は私の個人的見解です。 一般的に言われていることと異なることもあると思いますが、皆さんもいろいろな音楽を聴いて、以下のことを検証してみることをお薦めします。






おおらかで、癒し系の Largo 
  

 おおらかで、癒し系の曲。 どちらかと言えば4部音符などの長い音符の使用が多く、16分音符や32分音符などの細かい音符は少ない傾向にあります。 曲調や、気分の変化などはあまり多くなく、落ち着いた感じが特徴です。 



バロック時代ではそんなに遅くなかった

 バロック時代から使われていましたが、バロック時代ではそれほど遅く演奏されなかったと考えられます。 しかし19世紀半ば以降の作品はそれよりもかなり遅く演奏された。

 それに従い、バロック時代の作品でも19世紀から20世紀半ば頃まではかなり遅く演奏されるのが普通でしたが、20世紀末からのオリジナル楽器系の演奏団体では、おそらくバロック時代に演奏されていたと思われるテンポ、つまり速めのテンポで演奏されることが多くなりました。

 あくまでもおおよその目安ですが、 4分音符を1拍として演奏される曲においては、 バロック時代(17世紀~18世紀前半)の Largo は60~70、 古典派時代(18世紀後半~19世紀初頭)では50~60、 ロマン派時代(19世紀半ば以降)では40~50 といったところでしょう。




繊細で、真面目、秘めた情熱の Adagio 

 Adagio には、繊細で、真面目な感じ。 内に秘めた情熱を感じます。 ラルゴに比べると、16分音符や32分音符などの細かい音符が多く、表情の変化に富む場合が多いようです。



絶対的なテンポとしてはLargo と同じと考えてよい

 バロック時代から20世紀に至るまでたいへんよく使われた速度標語で、 絶対的なテンポとしてはラルゴとほとんど同じと考えてよく、バロック、古典、ロマン派と時代を経るごとにだんだん遅くなるのも同じです。



ラルゴ派とアダージョ派に分かれる

 この Largo と Adagio では作曲家によって使われ方に違いがあることも本文中で言いました。 言ってみれば ”ラルゴ派” と ”アダージョ派” に分かれるわけです。

 ラルゴを好んだ作曲家としては、まずヴィヴァルディ。 ヴィヴァルディの協奏曲の第2楽章の多く、あるいはほとんどがラルゴとなっています。 ヘンデル、ハイドン、ドボルザークと言った作曲家もラルゴの名曲を残しています。



モーツァルト、ベートーヴェン、ブラームスにはラルゴはない

 それに反して、モーツァルトには1曲もラルゴという速度標語のついた作品がありません。 多作家のモーツァルトですから、よく探せば1曲くらいはラルゴが見つかるかも知れませんが、少なくとも交響曲や協奏曲などの主要な作品にはラルゴは見当たりません(ラルゲットはあるが)。 




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モーツァルトには死ぬまで ”のんびりした” 曲は書けなかった



 おそらくモーツァルトにはのんびりした曲とか、表情の変化のない曲というのは書けなかったのでしょう。 同様にベートーヴェンや、ブラームスにも、ラルゴの作品はほとんどありません(全くのゼロではないかも知れませんが)。 やはり音楽には表情の変化や、秘めた情熱が絶対に必要と考えていたのでしょう。




ショパンはなぜアダージョを書かなかったのか?

 Adagio の方については、ゆっくりした曲の速度標語としては非常によく使われるもので、アダージョの作品を書かないという作曲家はほとんどいませんが、 唯一、ショパンのみ、アダージョの作品を書いていません。 ショパンはゆっくりした曲の場合、ほとんど Lento を用いていましたが、Largo の方はそれなりに使っています。 




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なぜショパンはアダージョを書かなかったか? 音楽史上、最大のミステリーといってもよいのでは




 ショパンの音楽には ”表情の変化” も ”秘めた情熱” も十分にあるはずなのですが、なぜショパンはアダージョで作品を書かなかったのでしょうか? 

 これは、あくまで私の推測ですが、ショパンにとってはアダージョという言葉の中に、非常に強いドイツ・ロマン派の香りを嗅ぎとったのではないかと思います。 当時ヨーロッパ全土に拡まるナショナリズムの影響もあったかも知れませんし、またアダージョのイメージにはなにか粘着質のようなものも感じていたのかも知れません。 



速度標語の使い方で作曲家の特徴、あるいは速度標語の意味合いがよくわかる

 こうした理由は明らかではありませんが、ただ、ショパンが Adagio の曲を書かなかったのは確かです。 そして、これが最も大事なことですが、 このことによってショパンの音楽と、 Adagio という速度標語の意味がよく理解できるのではと思います。 




Grave   バロック時代に、組曲の第1曲目としてよく用いられた


 グーラヴェという速度標語は、バロック時代の組曲の第1曲目によく用いられ、その後、交響曲などの序奏として用いられるようになりました。 グラーヴェの序奏を最初に置く意味合いとしては、その音楽をいっそう偉大なものにするため、いわば ”権威付け” のようなものと言えます。 また、その後に続くアレグロ楽章を引き立たせる役割もあったでしょう。 



ベートーヴェンがグラーヴェを悲劇的に仕立てた

 しかしベートヴェンのピアノ・ソナタの「悲愴」などでは、単なる ”序奏” でも ”前口上” でもなく、このグラーヴェが ”悲劇” そのものを非常に強烈に表しています。 何となく私たちに、「グラーヴェ=悲劇的」 といった印象があるのは、このベートヴェンの作品によってなのかも知れません。
 
 ロマン派以降では交響曲などに序奏自体が付く事が少なくなったせいか、グラーヴェとされた曲はあまりありません。 グラーヴェは主にバロック時代に使われた速度標語と考えてよいようです。 



グラーヴェとアダージョは近い関係

 また、グラーヴェとアダージョは比較的近い関係にあるということも言いました。 バッハの無伴奏ヴァイオリン・ソナタの「グラーヴェ」がおそらく自らの手で編曲したと思われるチェンバロ版では、「アダージョ」 と書き換えられています。 強いて違いを言えば、グラーヴェの場合は音量的に大きく演奏されることが多いのに対して、アダージョの場合は音量的には控えめのことが多いようで、まさに”秘めた情熱” と言ったところでしょう。 
 




ショパンが好んだ Lento  自虐的な意味があるのかも

 レントは本来(イタリア語)の意味に、「のろま」 とか 「締まりがない」と言った意味があるので、古典派時代にはそれほど用いられていませんでした。 モーツアルトやハイドン、ベートーヴェンなどの作品にはレントはありません。 前述のとおり、ショパンは好んでこのレントを用いたわけですが、自虐的な意味も含まれていたのかも知れません。




無味無臭

 ギターの方ではそれほど多くないとしても、ソルなどが用いていますので、パリなどでは一般的だったのかも知れません。 音楽的な意味としてはただ単に ”遅い” と言うこと以外の意味はなく、いわば ”ニュートラル” なイメージがあります。 そいいった点もショパンが好んだ理由かも知れません。 ショパンは速度標語のイメージに縛られるのが嫌だったのでしょうね。

 おそらく、ショパンの影響で、それ以降のフランスの音楽家(ラヴェル、ドビュッシーなど)を始め、多くの作曲家がこの Lento という速度標語を用いて作曲しています。 したがって、Lento とされた曲は、ほぼ19世紀半ば以降の作品と考えてよいようです。

 
  
        

 
<音楽基礎講座 on Blog>  速度標語  13  


修了試験 答え合わせ 2



<問題4>  ある男子中学生の日記から


 今日は、チョー Allegro な日。 2時間目が終わった休み時間、香澄ちゃんがオレのところまで来て、「ねえ、翔クーン、今度の数学の試験の範囲と、問題が出そうなところ教えて? ・・・・それじゃ、明日、家に行ってもいい?」 なんてね。 

 オレは思わず 「来てよ、来てよ、もちろん来てよ! 何の用もないし、何時でもいいよ!」 と言いそうになったけど、 「明日? ちょっと待ってね。 えーと、ああ、ちょっと約束があったな。 うん、でもなんとかするよ。 時間? そうだね、じゃあ、後でまた連絡するよ」と余裕。

 オレはデキる。 マジ・ヤバ!  ゲキ・ヤバ!  香澄ちゃん、やっぱりオレに気がある、香澄ちゃん照れ屋だから、はっきり言わないけど、でもオレにはわかる。 数学だけは得意でよかった!!!!!!


    答え    マジ・ヤバ(ゲキ・ヤバ)    




超難問!

 今回の基礎講座の受講者のほとんどが over60th と言うこともあって、この問題4は、超難問といえるでしょう。 しかしヒントは出しておきました。

 最近の中学生が、とても嬉しい、あるいは有頂天になっている様子を、どのような言葉で表現するかということですが、 私もよくわからなかったので、ネットで検索してみましたが、「アゲアゲ」、 「テンション・アゲアゲ」、 「ノリノリ」 などといった言葉を使うようです。 さらには私たちには未知の言葉もあるかも知れません。




同じ中学生でも女子と男子では違う

 同じ中、高生でも女子と男子では、言葉の使い方が異なると思いますが、女子の場合は様々な言葉を新しく作る傾向にあるようです。 文字通り、私たちには未知の言葉も使用するわけです。 その中の一部が一般成人にまで使われるようになると、流行語として新たに日本語として認められるなど、流行語の発信源でもあるようです。



少ない種類の言葉で会話を済ます

 男子の場合は、逆に一つの言葉に多様な意味を持たせ、少ない言葉で会話を済ませてしまう傾向があります。 「マジ」 とか 「ヤバイ」 などという言葉は典型的な言葉だと思います。 もちろんその両方を組み合わせて 「マジ・ヤバ」 なんてよく言いますすね。

 この 「マジ・ヤバ」 を通常の日本語に直したらどうなるでしょうか、難しいですね。 この言葉は、その状況で全く意味の異なる言葉で、確かに本当に 「すごく危険だ」、 「本当に、まずい状態だ」 と言ったマイナス的な意味に使うこともありますが、 「素晴らしい」 とか 「おいしい」、 「面白い」、 「きれい」 などプラスの事柄に使うことも多く、最近ではこういった意味の方によく使われるようです。



ヒントに気付いた人はいなかった

 つまり基本的には意味を持たない言葉なので、どんな状況にも使える訳です。 強いて言いえば、「『マジ・ヤバ』とは、様々な状況での感嘆を表す言葉」ということでしょうか。 簡単ですね、答えは。 しっかりヒントを出しておいたのですが、残念ながらそれに気づいた人はいませんでした。 もう少し楽譜同様、文章も読みましょう! 



間違った言葉使いのほうが中学生らしい

 他の答えとして、前述のとおり「アゲアゲ」 や 「ノリノリ」 の他に、最近の若い人は英語の本来の意味に関係なく「テンション」などという言葉をよく使います。 テンションとは本来 「緊張」 とか 「不安」 と言った意味で、 国家間が緊張した状態、つまり戦争が起きそうな事態も「テンション」 と言う訳で、 どこにも「楽しい」などという意味はありません。
 
 この「テンション」という言葉を「興奮した状態」、あるいは「気分が高揚した状態」と捉え、さらに「すごく楽しい状態」と連想して行ったのでしょうね。 確かに「今日はチョー・ハイ・テンションな日」は英語的には全く違う意味になるのですが、このような誤ったことばを使うことにより、より中学生らしい文に仕上がるのではと思います。 もちろん「ハイ・テンション」 は正解です。

 と言った訳で、20点満点の正解者、つまり中学生が使いそうな言葉を書いた人(ハイ・テンション) は一人しかいませんでしたが、「ハッピー」、 「ラッキー」、 「ゴキゲン」 といった言葉も、昭和の時代であれば、問題なく正解なので、2点減点の18点としました。





<問題5>  居酒屋で、名門大学柔道部の学生とそのOB

 「イヨー! ミタ・センパイ! ミタ・センパイ本当に ① Largo っすね、 ごっつぁんです!   おおーい、お代わり欲しいやつ!  ええーと、イチ、ニイ、サン・・・・  じゃあ生6つ! それからトリカラ! 鶏ナンコツも・・・・ あとフライド・ポテトに、出し巻き」

 「本当にミタ・センパイは ② Largo いいっす、1年次の評判も最高っすよ、「ミタ・センパイは人格が違う」って。 そこいったら、あのノムラ・センパイ。 ノムラ・センパイは現役時代の成績はハンパなかったっすけど、 何ちゅうても 『オイ、今日はワリだからな』 ですよ!  あれじゃ形無しっすよ、全国大会連覇も・・・」

 「おお、来た、来た、こっち、こっち。 それじゃ、もう一回! カンパーイ!」


    答え   ① 太っ腹        ② 気前



出題の仕方に問題

 ちょっと出題の仕方に問題がありましたね、 確かに混乱しやすい問題です。 Largo には「気前がいい」という言葉も入っているので、これが①か②のどちらかに入るのは確かで、ほとんどの人はどちらか、あるいは両方に「気前」 あるいは 「気前がいい」と書きました。

 確かに、①が「気前いい」で、 ②が「気前」でも、文としては成立してしまいます。 でも同じ言葉を入れたのでは、少なくとも、問題としては成立しないので、別の言葉が入ると思ってほしかったところ。  出題者としては、①の「太っ腹」を書いてほしかったので、その伏線として「気前いい」も問題にしたわけです。

 ①②の順番を変えるともう少しわかりやすかったかも知れません。 やや混乱したものの、正解者の多い問題でした。「太っ腹」なんて体育会系の人がよく使いますよね。




最高得点は98点

 さて、試験結果のほうですが、最高得点者は98点で、中学生言葉がやや昭和の香りがしたこと以外は、完璧に正解でした! たいへん素晴らしいと思います。 限られた時間内で、よく適切な言葉を選んだと思います。

 他に、参考記録として、自宅などでやっていただいた方で、100点、97点の方がいました。 100点の方は、前述のとおり中学生言葉も正解(唯一の)でした。 年齢が30代ということで、若干アドバンテージはあったかも知れません。



女性の方が圧倒的に成績がよかった

 この3名の方はすべて女性で、その他の女性の受講者も高得点でした。 平均点を出すと、圧倒的に女性のほうが成績がいいようです。 男性に比べて女性の方が言葉に対する反応力があるのだろうと思いますが、それと共に、文章を読んで、出題者の意図、つまり私の意図をしっかりと読んだのでしょう。



文章も、 楽譜も、 空気も、 やはり読めなければならない!

 バカげた試験ではありましたが、その結果は、終わってみると、やはりギターの上達と、無関係ではなかったようです。 特に音楽の理解力とはかなり相関関係があるように思います。 文章も楽譜も最初からある訳ではなく、誰かが書いたものです。 その書いた人の意図を読まない限り、読んだことにはならないでしょう。  

 文章も、 楽譜も、 空気も、 やはり読めなければならない!

 ・・・・・・・・本題の速度標語と関係なくなってしまいましたので、次回まとめを行います
 
<音楽基礎講座 on Blog>   速度標語  11



修了試験



資料などは見ても構いません

 それでは、音楽基礎講座「速度標語編」の修了試験を行います。 問題用紙2枚と答案用紙が1枚あります。 例題よく読んでから解答して下さい。 なお解答し終わった方から答案用紙を提出してください。

 先ほど言ったとおり、資料等は何を見ても結構ですが、隣の人の解答は見ないでください。  正解は一つではありません。 また必ずしも正解とは言えない解答でも、文章的にある程度成立するものであれば、中間点を差し上げます。 なお、点数配分は、5問ともそれぞれ20点で、満点は100点となります。  ①、② と二つの言葉が入る場合は、それぞれ10点ずつとなります。


 *特に前の記事を読んでいなくても、簡単に出来る問題なので、ちょっと立ち寄った人も、ぜひやってみて下さい




・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・




  例題に従い、赤字で示した速度標語を、文章全体や、登場人物のキャラクター等から考え、適切な言葉に置き換えよ。 なお、①と②は別の言葉が入る。




<例題> 都内サウナで。 恰幅の良い大企業の会長と、マッチョでイケメンな訳アリ社員の会話。


「君、今日は済まなかったね、朝早くから呼び出して。 本当に助かったよ」

「いえ、いえ、とんでもない、会長の御用とあらば、① Presto い御用ですよ」

「朝早く、家内が『家中の電気が消えちゃった』って大騒ぎ。 こんな時間に停電もないだろうから、ブレーカーが落ちたんじゃないかって言ったら、『ブレーカーって何?』ときた。 どうやらエアコンが故障したことまではわかったんだけど、なにせ早朝。 修理屋
に電話してもつながらないし、そこで君に連絡したと言う訳だ」 

「エアコンの室外機にナメクジが入っただけでしたよ、季節柄よくあることで。 ちょっと前まで便利屋やっていたもので、何てことないです。 時間も時間なので本当にこれぞ ② Presto ってやつですよ」

「本当にありがとう。 そう言えば、君、探偵もやっていたんだよね」

「ええ、他人には言えない相当ヤバイ仕事もやっていました、東京湾に浮いていてもおかしくないくらいな。本来ならこんな会社で働ける身分じゃないんですが、本当に会長に拾ってもらったおかげです。足を向けては寝られません」

「そこでもう一つ大事なことを頼みたいんだ、今度はエアコンのナメクジほど②Prestoではないかも知れない。 どうも最近、社内の機密事項が外部に漏れているようだ。 社内にスパイがいるのは間違いない、今のうちに手を打たないと。 君、極秘に調べてくれないか、資金はいくらでも出す」


    答え ①   おやす(い)                  ②   朝飯前            


 テレビドラマか何かで見たような光景ですが、①は伊和辞典にあるように、容易、たやすいといった意味でよいでしょう。 ②はPrestoに「朝早く」といった意味もあるので、まさに「朝飯前」以外にないでしょう。






<問題1>  災害普及工事に関して、とある市町村の職員と住民との説明会で。  


「えー、 その事案に関しましては、国交省、および県の諸機関とも緊密に調整を図りつつ、早急に対処したと思っています。 したがいまして、近隣住民の皆様方にはもうしばらく・・・・・・」

「何 ① Lento なこと言ってんだっぺか。 そんなこと言って、また大雨降ったら誰が責任とるんだっぺ」

「そうだ、そうだ、第一、被害が出てからんじゃねえと、なーんもやんねえ、なんちゅうの、そういうの ② lento って言うんだっぺな」

   *以上はあくまでフィクションで、特定の地域、県での出来事では全くありません。 


 




<問題2>  一人娘の名門幼稚園受験を控えた夫婦の会話。

夫はその何とも言えない ① Grave しい空気を振り払おうと、「ああ! 今日は本当にいい天気だな! やっぱりゴルフいけばよかったかな」

妻は容赦しなかった。 「何言ってんの、あなた! あなたは事の ② Grave さがわかっていないのよ。 中学や高校に入ってからじゃもう、どうすることも出来ないのよ、小学校だって遅いわ! 今度の私立幼稚園の受験にあの子将来がかかっているの、わかる?  向かいの青木さんのところだって、二人とも○○幼稚園よ、だいぶ前から受験の準備していたらいいわ」 

「うん、まあ、そうかも知れないけど。 でも女の子だからいいじゃん、明日香は。 それに明日香とてもかわいいし・・・・ 大きくなったらモテモテだよ。 セレブなイケメンと結婚すれば、それでいいじゃん」

「もういい! 話にならないわ。  明日香のことは私が一人でやるから。 でも面接は、明日香本人じゃなくて、私たち親がされるのよ、それだけはちゃんとわかっておいて下さいね」


 *やや教育熱心過ぎる奥さんかも知れませんが、旦那さんの言うように、女の子だから将来はよい結婚相手を見つければよいと言った時代ではないでしょうね。 名門私立幼稚園に入園することが将来にとってよいことかどうかは、ともかくとしても。 このお父さん、明日香ちゃんが本当に結婚するとなったら、きっとたいへんかも・・・・







<問題3> 初孫を巡って、姑さんとお嫁さんとの会話。


「まあ、彰子さん、そんな抱き方じゃだめよ。 赤ちゃんを抱っこする時には Adagio に、 Adagio に、こんな風に抱っこしないと、まだ首が座っていないんだから」

「それにしてもシュンちゃん、 マークン(雅弘)にそっくりね、本当にマークンが生まれた時とそっくりだわ。 あの子、小さい頃、本当に可愛かったのよ」

「そう、小学校の時の授業参観の時ねえ、 『一番大好きな人はお母さんです』 なんて作文読んでね。 周りのお母さんたちも、 皆こっち見るし、 あの時は本当に顔から火が出るくらい恥ずかしかったわ、 今思い出してもね、 ホントにね」

「マークン、これからの季節、すごく風邪ひきやすいから、 彰子さん、シュンちゃんだけじゃなくて、マークンにも気を付けて下さいね・・・・・」


*結局、お嫁さんが口ばしを挟む余地はなかったようです。 授業参観の話も、お嫁さんはこれまで何回も聴かされているようです。 姑さんにとっては、シュンちゃんは彰子さんと雅弘さんの子ではなく、あくまでマークンの子みたいですね。 これも家族愛の一つの形と言ってもよいのかも知れませんが、度が過ぎなければ・・・・







<問題4>  ある男子中学生の日記から。


 今日は、チョー Allegro な日。 2時間目が終わった休み時間、香澄ちゃんがオレのところまで来て、 「ねえ、 翔クーン、 今度の数学の試験の範囲と、問題が出そうなところ教えて?  ・・・・それじゃ、明日、家に行ってもいい?」 なんてね。

 オレは思わず 「来てよ、来てよ、もちろん来てよ! 何の用もないし、何時でもいいよ!」 と言いそうになったけど、 「明日? ちょっと待ってね。 えーと、ああ、ちょっと約束があったな。 うん、でもなんとかするよ。 時間? そうだね、じゃあ、後でまた連絡するよ」 と余裕。 

 オレはデキる。  マジ・ヤバ!  ゲキ・ヤバ!!   香澄ちゃん、やっぱりオレに気がある。 香澄ちゃん照れ屋だから、はっきり言わないけど。  オレにはわかる。   数学だけは得意でよかった!!!!!!


 *香澄ちゃん、ただ風邪で欠席していたのと、数学が苦手で今度の試験で落第点取りたくなかっただけの可能性の方が高いと思うけど・・・・  







<問題5>  居酒屋で、名門大学柔道部の学生とそのOB


「イヨー! ミタ・センパイ! ミタ・センパイ本当に ① Largo っすね、 ごっつぁんです!   おおーい、お代わり欲しいやつ!  ええーと、イチ、ニイ、サン・・・・  じゃあ生6つ! それからトリカラ! 鶏ナンコツも・・・・ あとフライド・ポテトに、出し巻き」

「本当にミタ・センパイは ② Largo いいっす、1年次の評判も最高っすよ、『ミタ・センパイは人格が違う』 って」

「そこいったら、あのノムラ・センパイ、 ノムラ・センパイは現役時代の成績はハンパなかったっすけど、 何ちゅうても 『オイ、今日はワリだからな』 ですよ!  あれじゃ形無しっすよ、  全国大会連覇も・・・ 」

「おお、来た、来た、こっち、こっち。 それじゃ、もう一回! カンパーイ!」


 *ミタ・センパイの現役時代の成績はイマイチだったようですが、後輩からは慕われているようです、下心見え見えですが。 因みに“ノムラ・センパイ”は、あのオリンピック金メダリストとは全く関係ありません。





・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・




何で皆さん真剣に問題やっているんですか?

 え、なんで皆さん真剣に問題やっているんですか?   ここは笑うところですよ!   シャレですよ、シャレ!   それにしても、バカでしょ、こんな問題、夜な夜な考えてるなんて。  でも結構、苦労したんですよ、問題文作るのに、妄想力フル回転したり、ネットで居酒屋メニュー調べたり。 

 
 でも、もちろん、ちゃんと答え合わせをして、点数もちゃんと付けます。  先ほど言った通り、皆さん当然100点満点と思いますが、ハードルはずっと下げて、60点以上は合格点としましょう。 ほとんどバリヤー・フリー状態ですね。




次回答え合わせ

 ブログ上では、答え合わせを次回 (数日後くらい) 行います。 ネットで受講の方は、答えをメール等で送っていただければ、無料で採点いたしますので、遠慮なくどうぞ。

<音楽基礎講座 on Blog>   速度標語 12


修了試験  答え合わせ 1 



速度標語=メトロノームの数字、ではない

 確かに冗談ぽい問題ですが、この問題を行うことにより、それぞれの速度標語の本来の意味を、深く理解することが出来るのではないかと思います。 これらの言葉はけっしてメトロノームの数字だけを言っているのではありません。 実際に演奏するの当たっては、その雰囲気、つまりその”空気感” を掴むのがとても大事です。 

 これらの問題文中の登場人物は、それぞれ性格や特徴を持っています。 同じようにそれぞれの速度標語もそれぞれキャラクターがあるわけです。 そうしたものは理屈だけでなく、感覚的にも感じておくべきでしょう。
 


例題をしっかりと読む

 では答え合わせをしましょう。 まずは問題文にあるとおり、 例題をしっかりと読んで下さい。 この例文をちゃんと読まないと正しい解答は導き出せません。 例文の中の二つの言葉が、速度標語の 「Presto」 で隠されています。 別にPrestoの意味が解らなくても、文章を読めば隠されている言葉は、ある程度わかりますが、さらにPrestoの意味も考慮して、最もふさわしい言葉を選ぶ訳です。

 

大きなヒント

 例題の ①Presto  は、資料(伊和辞典) の③にある 「容易に、たやすく」 と言った意味から、前後の文に合わせて 「おやすい」 が正解になったわけですが、 ②に当てはまる言葉は直接伊和辞典の中にはありません。 「これぞ ②  っていうやつですよ」 といっている訳ですから、ここは慣用句的なものが入ると考えてよいでしょう。  となれば、答えのように 「朝飯前」 しか考えられません。 このようにして以下の問題を解いて下さい。 





 <問題1>  災害普及工事に関して、とある市町村の職員と住民との説明会で。  

「えー、 その事案に関しましては、国交省、および県の諸機関とも緊密に調整を図りつつ、早急に対処したと思っています。 したがいまして、近隣住民の皆様方にはもうしばらく・・・・・・」

「何 ① Lento なこと言ってんだっぺか。 そんなこと言って、また大雨降ったら誰が責任とるんだっぺ」

「そうだ、そうだ、第一、被害が出てからんじゃねえと、なーんもやんねえ、なんちゅうの、そういうの ② lento って言うんだっぺな」

 答え     ① Lento   ごじゃっぺ        ② Lento    ドロナワ(泥棒捕まえて縄を綯う)



茨城県人なら当たり前

 ①は、茨城県人だったら (まずい! 茨城県と言ってしまった!) 正解するのは当然。 よく口論になった時よくこんな風にいいますよね、 「おんめえ、 何ごじゃっぺ言っでんだ」 なんて。  よく読めば、かなりわざとらしい茨城弁となっていますので、出題者(私)が茨城弁的なものを要求していいることに気付くとよいでしょう。 

 全体の、何となく冗談ぽい文(試験そのものが冗談だが)からして、これくらいのユーモアはあっていい、と読んでいただきたいところ。 しかし残念ながら、現実には誰もこの正解を書いた人はいませんでした。 私の生徒さんは、皆、茨城県人だと思うのですが。      ・・・・・・茨城県人としての自覚が足りない?



最初は面喰ったが、今ではとても愛着

 私は栃木県出身で、18歳の時大学入学で水戸に来たのですが、その時、まるで怒鳴りあっているような茨城弁に面喰いました。 今ではすっかりその文化に馴染んだせいか、茨城弁を聴くとホッとします。

 茨城県出身の磯山さやかさんがテレビでネイティブな茨城弁をしゃべっている時(最近はああmり聴かないが)など、その響きの美しさに、うっとりと聴き入ってしまいます。

 磯山さんの出身地は、私の家内の実家と比較的近いらしく、 家内の実家で聴く茨城弁とほとんど同じです。 家内は普段、茨城弁を使いませんが、旧旭村の実家に帰ると、流暢な茨城弁を話します。 ぜひこういった言葉は後世まで残したいものですね。




県外の方に解説

 一応、県外の方にもわかるように 「ごじゃっぺ」 の意味を説明いたします。 この言葉は、「でたらめ」 とか、「いい加減」 「不真面目」 といったような意味で、他に 「だめなやつ」 といったような否定的な事柄一般的使います。

 また言い方によって 「オレのダチらは、みんなごじゃっぺなやつばっかしだからよお」 と言ったように、気取らずに、親密な関係を表すこともあるようです。 この言葉には否定的なだけでなく、相手を慈しむ気持ちが含まれているように私は思います。



他の正解

 もちろん茨城弁がわからない人のための答えも用意してあります。 要するにこの住民は、役所の対策が 「遅い」 とか 「手ぬるい」 とか言って怒っている訳ですから、そういった意味の言葉を当てはめれば良い訳です。 もちろんこの言葉とLentoの意味はあっています。



「悠長」が最も正統的な答え

 「 ・・・・な」 といった助詞が付いていますから、それに合った言葉としては、まず 「悠長」 が考えられるでしょう。 これは最も正統的な解答で、実際の試験でも正解者は結構いました。 他に 「のんき」 なども自然でしょう。 「のろま」とか「遅延」と言った言葉も入らなくはありませんが、やや違和感があるでしょう。



②は例題同様、慣用句が入る

 ②のほうは、例題の②と同じく、 「そういいうの ・・・・・・ って言うんだっぺな」 といった流れから、慣用句が入ります。 「対策が後手に回る」 と言った意味の慣用句としては 「ドロナワ」 つまり 「泥棒捕まえて縄を綯う」 といった慣用句が最も趣旨に合っているのではと思います。



若い人には意味不明かも

 ただ、若い人にとっては意味不明の慣用句かも知れませんね、 昔は泥棒を捕まえると、縄で縛り、縄は藁(わら)を編んで作るのですが、縄は「編む」のではなく、正しくは”綯う(なう)”と言います。 

  「後手に回る」 とか、 「遅きに失する」 といった解答した人もいました。 確かにそれぞれ意味はあっているのですが、これらの言葉だと、あえて 「・・・っていうんだっぺな」 とはならなでしょう。




全国の公務員の方々のことを考えると、正解には出来ないが

 大胆な意訳として、「そういうのを ”お役所仕事” っていうんだっぺな」 と解答した人が何人かいました。 問題を作った当初は私の頭の中にこの解答はなかったのですが、何回か見直しているうちに、住民の怒りがマックスになった時には、こんな言い方もあるなと思いました。 

 でも、やはりこの解答は日夜、身を粉にして住民のために働いてくださっている、全国の公務員の皆様に対し、礼を失する言葉だと思い、 問題文を作り直そうかと思いました。 しかし、結局他に問題文が思いつかなかったのと、この答えを実際に書く人はいないだろうと考え、そのまま問題にしてしまいました。 

 実際には意外とこの解答が多かったので驚いていますが、解答者の中には公務員関係者もいて、ジュークと捉えていただいたのでしょう。 全国の公務員の方々のことを考えると、この答えは正解とは出来ないところですが、 やはり10点満点!  平にご容赦!  あくまで冗談です!





<問題2>  一人娘の名門幼稚園受験を控えた夫婦の会話。

 夫はその何とも言えない ① Grave しい空気を振り払おうと、「ああ! 今日は本当にいい天気だな! やっぱりゴルフいけばよかったかな」

 妻は容赦しなかった。 「何言ってんの、あなた! あなたは事の ② Grave さがわかっていないのよ。 中学や高校に入ってからじゃもう、どうすることも出来ないのよ、小学校だって遅いわ! 今度の私立幼稚園の受験にあの子将来がかかっているの、わかる?  向かいの青木さんのところだって、二人とも○○幼稚園よ、だいぶ前から受験の準備していたらいいわ」 

 「うん、まあ、そうかも知れないけど。 でも女の子だからいいじゃん、明日香は。 それに明日香とてもかわいいし・・・・ 大きくなったらモテモテだよ。 セレブなイケメンと結婚すれば、それでいいじゃん」

 「もういい! 話にならないわ。  明日香のことは私が一人でやるから。 でも面接は、明日香本人じゃなくて、私たち親がされるのよ、それだけはちゃんとわかっておいて下さいね」
 
 
答え   ①  重々(しい)          ②  重大さ 



 この答えは比較的簡単ですね、ほとんどの人が正解でした。 ①②とも伊和辞典に載っている言葉ですので、特に迷わなかったと思います。 強いて言えば、②で、「重大さ」と言う言い方は、女性が使う日常会話の言葉としては、ちょっとカタイかなと言うことで、「大事さ」などと言う方が自然かも知れません。

 もちろん「事の大事さ」では、「頭痛が痛む」と同じ言い回しになってしまいますが、 私たちは日常会話ではこんなこと、特に気にせずよく使ってしまいます。 ”文法的におかしいだけに、日常会話としては自然” なんて言うのは、ちょっとひねりすぎかな?





<問題3> 初孫を巡って、姑さんとお嫁さんとの会話

 「まあ、彰子さん、そんな抱き方じゃだめよ。 赤ちゃんを抱っこする時には Adagio に、 Adagio に、こんな風に抱っこしないと、まだ首が座っていないんだから」

 「それにしてもシュンちゃん、マークン(雅弘)にそっくりね、本当にマークンが生まれた時とそっくりだわ。 あの子、小さい頃、本当に可愛かったのよ」

 「そう、小学校の時の授業参観の時ねえ、 『一番大好きな人はお母さんです』 なんて作文読んでね。 周りのお母さんたちも、皆こっち見るし、あの時は本当に顔から火が出るくらい恥ずかしかったわ、今思い出してもね、ホントにね」

 「マークン、これからの季節、すごく風邪ひきやすいから、彰子さん、シュンちゃんだけじゃなくて、マークンにも気を付けて下さいね・・・・・」


答え    静かに




グラーヴェとアダージョは意味が近い

 これも比較的易しい問題だったと思います。 アダージョには「ゆっくり」の他に、「慎重に」とか「静かに」と言った意味があります。 そのどちらでもよいのですが、お孫さんを抱っこしている、おばあちゃん(本人はこう呼ばれるのを嫌がると思いますが)からすれば「静かに」のほうがよいでしょう。

 伊和辞典にはありませんが、ここでも「大事に、大事にね」といった言い方もしそうですね。 講義の中でも言いましたとおり、「グラーヴェ」と「アダージョ」は近いものがあります。 同じゆっくりでも 「ラルゴ」 とは全く違うわけですね。 なお 「ゆっくり」 と書いた人は、問題の趣旨が捉えられていない、ということになるでしょう。 要するに 「空気が読めない」・・・・・


<音楽基礎講座 on Blog>  速度標語  10


Presto(プレスト)

音楽辞典  :  きわめて速くの意。アレグロよりさらに速い速度を言う

伊和辞典  :  ①すぐに、間もなく   ②急いで   ③容易に、たやすく   ④朝早く


<例>
バッハ : 無伴奏ヴァイオリン・ソナタ第1番 第4楽章
モーツァルト : フィガロの結婚序曲




 プレストはアレグロよりも速いということですが、特に固定したイメージもなく ”ただただ速い” とい言ったことのようです。 アレグロよりも速い速度標語としては、他にヴィヴァーチェもあります。






Vivace(ヴィヴァーチェ)

音楽辞典  :  はやく、生き生きと 
伊和辞典  :  ①活発な、元気の良い、快活な、すばしこい   ②(頭などの)回転が速い、鋭い   ③生き生きとした、活気ある  ④鮮明な 他 


<例> 
ベートーヴェン :  交響曲第.9番ニ短調  第2楽章「モルトー・ヴィヴァーチェ」
モーツァルト : 交響曲第41番 「ジュピター」 第1楽章「アレグロ・ヴィヴァーチェ」
ジュリアーニ : アレグロ・ヴィヴァーチェ


 ヴィヴァーチェは上記のとおり、速いだけでなく、活発で、生き生き、 と言った意味があります。 つまりプレストは、かなり速いが特に固定したイエージがない。 それに比べ、ヴィヴァーチェは”エネルギッシュ” といったことなのでしょう。




疾走する感じのPresto

 この違いを二つの曲で感じてほしいと思いますが、 まず、プレストの例としてモーツァルトのフィガロの結婚序曲を聴いていただきましょう。 


≪ モーツァルト作曲 フィガロの結婚序曲 ≫


 速いけれども、サーと駆け抜けてしまう感じですね、まさに 「快速」 と言った感じです。  では、ヴィヴァーチェのほうも聴いてもらいましょう。 例としては、ベートーヴェンの「交響曲第9番」の第2楽章です。




超高速のブルトーザー


≪ ベートーヴェン作曲 交響曲第9番ニ短調 第2楽章≫

 なんか、凄いですね、根こそぎ持ってゆく感じで、 超高速で走る戦車かブルトーザーみたいですね。  もちろん作曲家も違うので、当然と言えば当然かも知れませんが、「フィガロの結婚序曲」とだいぶ違いますね。




もちろん絶対的な速度の差ではない

 この 「プレスト」 も 「ヴィヴァーチェ」 もアレグロより速い速度ということですが、どちらの方が速いか、遅いかといった問題ではないことは皆さんもお分かりですね。 もちろん両者の違いは、絶対的な速度の違いではなく、その質の問題です。

 そのことはラルゴとアダージョなどとの関係と同じですが、 プレストとヴィヴァーチェには使われ方に特に ”クセ” はありません。 古典派からロマン派初期の作曲家であれば、どの作曲家もだいたい同じように使っています。




アレグロ・プレストはない

 また、「アレグロ・ヴィヴァーチェ」といった言葉はありますが、「アレグロ・プレスト」という言葉はないようです。 プレストの場合、「プレスト・アッサイ」 とか 「モルトー・プレスト」 と言った表現になるようです。 確かに「モルトー」という言葉はこのように使われるみたいですね。





ジュリアーニの 「アレグロ・ヴィヴァーチェ」

 さて、ギターの方ではジュリアーニの 「アレグロ・ヴィヴァーチェ」 を聴いていただきましょう。 基本的にこの曲は中級者を対象として書かれ、確かにそれほど難しい曲ではありませんが、 速いテンポで弾くとなると、それほど簡単ではないでしょう。 ジュリアーニとしては、どれくらいのテンポを想定していたのでしょうか。




 ≪ジュリアーニ作曲 アレグロ・ヴィヴァーチェ ≫


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ジュリアーニとしては、どれくらいのテンポを想定していたのか? 4分音符=100以上で演奏するのはたいへん難しい



現実には60~70かも知れないが

 私の教室の生徒さんで言えば、かなり練習しても、だいたい4分音符=60~70 と言ったところでしょうか。  80以上で弾ける人はほとんどいません。 60というとかなり遅いようですが、ほとんどの音譜が16分音符なので、60でもかなり速く感じます。

 でも、おそらく”速弾き” だったと考えられるジュリアーニですから、本人は少なくとも 4分音符=100 以上だったのではと思われます。 私もそんなテンポで弾きたいと思いますが、でも真ん中くらいのところはどうしても追いつかないので、結局は90台だと思います。






・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・





以上で <音楽基礎講座、速度標語編> 終了です

 以上で今回の速度標語についての基礎講座は終了です。 皆さん、私の極めて明解で、理路整然とした話、および演奏で、速度標語については完璧に理解出来たと思います。 

  ・・・・・・余計にわからなくなった? 全然明快でない。 同じ速度標語でも、曲によってかなり違うということしか、わからなかった?  もっと上手くギター弾け?  

 一切のクレームは受け付けません!  苦情があるなるベートーヴェンやモーツァルト、 あるいは音楽之友社の方に言ってください!  




修了試験を行います。 何を見ても構いません

 それでは皆さん、私の話を完璧に理解していただいたと思いますので、 ・・・・まあ、一部の人を除けば。  これから修了試験行います。

 当然のことながら、皆さんすべてが100点満点となると思いますが、 ハードルは思いっきり下げて、合格点は60点としましょう。 ありえないとは思いますが、60点未満の方は単位を差し上げられません。 勉強しなおして、次の機会にもう一度受講して下さい。

 では問題用紙を配ります。 なお資料等、何を見ても構いませんが、 隣の人の解答を見るようなことは厳禁です。 


<音楽基礎講座 on blog >  速度標語 9


Allegro(アレグロ)


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ジュリアーニの大序曲

アレグロとされたギター曲はたくさんありますが、ギター演奏は、テンポの速い曲をたくさん書いた、マウロ・ジュリアーニの曲にしましょう。 ジュリアーニの曲としてはたいへん人気のある 「大序曲」 です。 この曲は序奏が「Andante Sostenute」、 主部が 「Allegro maesutoso」 となっています。

 ソステヌートは「なめらかに」と言った意味で、マエストーソは 「威厳を持って」 と言った意味です。 序奏は、2段目の低音に乗った16分音符を考えると、あまり速くは出来ず、私の場合、 4分音符=56 くらいです。



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 ほとんどのギタリストも、だいたいこれくらいのテンポでしょう。 中には、出だしは、やや速めに始まるものの、この16分音符が出てくるところからテンポを落とすギタリストもいますが、これはあまり良くないでしょう。




「アレグロ・マエストーソ」は、アレグロの中でも中庸

 「アレグロ・マエストーソ」 とは、まず 「力強く、堂々と弾く」 ということが重要ですが、テンポとしては”中庸なアレグロ” といったところです。 あまり速すぎても、遅すぎても良くないでしょう。 マエストーソ単独でも速度標語となることがあり、その場合はモデラートと同じか、やや遅いテンポと言われます。

 多くのギタリストは、このアレグロ・マエストーソを、 4分音符=120~130 くらいで弾いています。 私の場合も120くらいで弾こうと思いますが、下の譜面の1段目、3小節目の ”上からのアルペジオ” はたいへん難しく、ここでテンポを落としてしまうギタリストの少なくありません。


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 私の場合はテンポは落ちないのですが、クリヤーに弾けるかどうかが問題です (要するに『空振り』しやすくなる)。 それではちょっと長いですが、演奏しましょう。


≪ マウロ・ジュリアーニ作曲 大序曲イ長調作品61 ≫





 うん、 やはり、ちょっと ”かすっちゃった” かな?  しゃべりながら弾いているから調子が出ませんね。   言い訳するな、それなら別な曲を弾け?    確かに。 でもこれ来年やる予定なので・・・・     練習する場ではない?     ・・・・・・






Allegretto(アレグレット)



 気を取り直して、次にゆきましょう。 「アレグロほど速くなく」 といった意味の 「アレグレット」 もよく使われる速度標語です。 先ほども出てきた「田園」の第5楽章を例にとってみましょう。

 通常、アレグレットは、やや速く、軽快な感じということなのですが、この田園の最終楽章は、軽快な感じというより、とても落ち着いた感じで、こころ和むと言った感じです。  ”神に感謝する” といった内容にも関係あると思います。 



≪ベートヴェン作曲 交響曲第6番「田園」 第5楽章 アレグレット ≫  演奏 ハンス・シュミット・イッセルシュテット指揮  ウイーン・フィルハーモニー  1967年の録音


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 8分の6拍子で、このイッセルシュテットの演奏では、8分音符=155、 つまり、付点4分音符=50 くらいです。 ベートーヴェンの指示は、付点4分音符=60で、もう少し速く演奏することを指示しています。

 しかし、20世紀の多くの指揮者は、「神への感謝」 ということで、その指示よりも遅めのテンポで演奏しています。 最近の指揮者はベートーヴェンの指示に近いテンポで演奏しているのは、他の曲と同じです。




速くない「アレグレット」もある?

 ベートーヴェンのアレグレットといえば、交響曲第7番の第2楽章が有名で、これも聴いてもらいましょう。 これも同じくイッセルシュテットの演奏です。



≪ベートヴェン作曲 交響曲第7番 第2楽章 アレグレット ≫  演奏 ハンス・シュミット・イッセルシュテット指揮  ウイーン・フィルハーモニー  1967年の録音


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 どうですか、あまり ”アレグレット” じゃないでしょう。 これならアンダンテか、せいぜいアンダンティーノ、あるいはラルゲットくらいに聴こえますね。 それもそのはず、この演奏ではなんと、4分音符=58くらいで演奏しています。

 ベートーヴェンの指示は76で、それほど遅くは指示していませんが、 この76でも、あまり軽快な感じにはなりません。 交響曲の場合、普通かならずゆっくりした楽章が一つは入るのですが、このベートーヴェンの交響曲第7番には、アンダンテなどのゆっくりした楽章は一つもありません。



実質上、緩徐楽章扱い

 この楽章はメロディが美しく、初演当時から人気のあった楽章と言われています。 アレグレットではありますが、他の楽章はすべてかなり速い楽章となっているので、実質上の遅い楽章扱いとなっています。 

 そうしたことを考慮してこれまでの多くの指揮者は、作曲家の指示より、さらに遅いテンポをとっているのでしょう。 アレグレットと書いてあっても、あまり速くないこともあるということは考えておくべきでしょう。 そう言えばしみじみ歌う感じのシューマンの 「トロイメライ」 もアレグレットと書いてあったと思います。




こちらが”正統派”のアレグレット

 ちょっと順番が逆になってしまいましたが、通常、アレグレットは前述の通り、「アレグロほど速くなく」 と言った意味で、「やや速い」 といった意味に解されます。

 ハイドンやモーツァルトのメヌエットは、自動的にアレグレットとなり、だいたい 4分音符=100~120 くらいのテンポで演奏されます。 このテンポはめちゃ速いというわけではありませんが、軽快な感じで、速いか、遅いかと言われれば、誰しも 「速い方」 と答えるテンポでしょう。

 モーツァルトの有名な「アイネ・クライネ・ナハト・ムジーク」の第3楽章「メヌエット」 も、ブルーノ・ワルターは 4分音符=113くらいで演奏しています。 これくらいがまさに ”アレグレット中のアレグレット” といった感じでしょう。
 


≪ モーツァルト作曲 「アイネ・クライネ・ナハト・ムジーク」 第3楽章「メヌエット」 ≫  ブルーノ・ワルター指揮 コロンビア交響楽団




セゴヴィア編 ハイドンの「メヌエット」

 さて、ギター演奏のほうでは、ハイドンの交響曲第96番「奇跡」の第3楽章「メヌエット」をアンドレス・セゴヴィアの編曲で聴いてもらいましょう。 ハイドンやモーツァルトの場合、前述のとおりあえて書いてなくても、交響曲中のメヌエットといえば、「アレグレット」と決まってしまいます。

 セゴヴィアはアレグレットとしてはやや速めの、120くらいで弾いていますが、それくらいの方が活気があってよい感じです。 私もそれくらいのテンポで弾きたいと思います。  


≪ ハイドン作曲 交響曲第96番「奇跡」 第3楽章「メヌエット」 アンドレス・セごビア編曲 ≫

 セゴヴィアのアレンジなので、ギターっぽいでしょう? でも原曲の感じはしっかり出ています。 私もあえてセゴヴィア風に弾いているところもありますが、結構好きな曲です。 
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Allegro(アレグロ)  

音楽辞典  :  快速に、活発に、にぎやかに。これはほかの付加語といっしょになって、より具体的な意味をあらわすことがしばしばある。例えばアレゴロ・コンブリオは元気に速く、の意。

伊和辞典  :     ①陽気な、快活な   ②(会話、劇などが)陽気な、楽しい、(部屋などが)明るい、快適な   ③(色彩が)鮮やかな  ④みだらな、軽はずみな 他


<例> 

ベートーヴェン : sy.3「英雄」第1楽章「アレグロ・コン・ブリオ」
ベートーヴェン : sy.5「運命」第1楽章「アレグロ・コン・ブリオ」
ベートーヴェン : sy.6「田園」第1楽章「アレグロ・ノン・トロッポ」
モーツァルト : sy.40ト短調 第1楽章「モルトー・アレグロ」
ジュリアーニ : 大序曲作品61「アンダンテ・ソスティヌート~アレグロ・マエストーソ」


(アレグレット)
ベートーヴェン : sy.7イ長調 第2楽章  sy.6「田園」第5楽章
モーツァルト : アイネ・クライネ・ナハト・ムジーク 第3楽章「メヌエット」
ハイドン : 交響曲第96番「奇跡」 第3楽章「メヌエット」



最もよく用いられる

 アレグロは速度標語の中では最もよく用いられます。 特に速い曲や速い楽章の場合、この「アレグロ」と指示されることが最も多く、 交響曲や協奏曲の第1楽章では、ほとんどアレグロとなります。 交響曲の第4楽章や、協奏曲の第3楽章もアレグロとなることが多いようです。

 それだけに、単に 「Allegro」 ではなく 「Allegro Moderato」、 「Allegro con brio」、 「Allegro molto」、 「Allegro Maestoso」 などのように他の言葉と組わせて用いられることも多いです。




アレグロ・コン・ブリオ と言えば

 この組み合わせ方は作曲家によって好みや傾向がありますが、 ベートーヴェンの場合「運命」などでお馴染みの「Allegro con brio」 が最も良く用いられ、第5番「運命」の他、第2番、第3番「英雄」、第4番、第7番などの使われています。 意味としては「生き生きと」 と言った感じなのですが、ベートーヴェンの場合 「根性入れて」 とか 「気合入れて」  くらいの方が合っているかもしれませんね。

 それでは交響曲としては最も有名なベートーヴェンの「運命」を聴いていただきましょう。 演奏は1960年代のウィーンを代表する指揮者の ハンス・シュミット・イッセルシュテット とウイーン・フィルです。 


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 ≪ベートヴェン作曲 交響曲第5番「運命」 第1楽章 アレグロ・コンブリオ ≫  演奏 ハンス・シュミット・イッセルシュテット指揮  ウイーン・フィルハーモニー  1967年の録音



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1960年代では、ベートーヴェンなどの演奏で定評のあった ハンス・シュミット・イッセルシュテット


 この演奏のテンポは、だいたい 2分音符=85 くらいですが、当時としては(1960年代)平均的なテンポです。 最近ではもっと速いテンポで演奏されることが多く、デビット・ジンマンの演奏では 2分音符=104 くらいです。 ベートヴェンの指示は 2分音符=108 となっています。

 以前は堂々とした感じと言うことで、イッセルシュテットのようなテンポが好まれたのですが、この曲ははやはり速めの方がいいですね、ベート-ベンの指示に近いテンポのほうが曲の持ち味が出るように思います。 因みにカール・ベームはもっと遅く演奏しています。



ベートーヴェン的な曲が「アレグロ・コン・ブリオ」?

 速度についてだけ言えば、「Allegro con brio」 はかなり速いテンポを意味するようです。 アレグロ・モルトー やアレグロ・ヴィヴァーチェ などと近いと考えてよいようですが、ただ速いだけでなく、「勢い」 や 「力強さ」を伴ったものとも考えてよいでしょう。

 逆に「運命」や「英雄」みたいなものが 「Allegro con brio」、 あるいはベートーヴェン的なものが 「Allegro con brio」 と考えるのも、一つかも知れません。



作曲家は速い速度を指定する傾向にある

 ベートーヴェンだけではなく、たいていの場合、作曲家は実際に演奏されているテンポよりも速い速度を指示することが多いようです。 逆に言えば、 ほとんどの演奏家は作曲家の指示よりも遅く弾いていると言えます。

 これは作曲家の場合、頭の中だけで音楽をイメージするので、テンポが速くなる傾向があるのかも知れません。 また演奏者は聴衆により、音をはっきりと聴いてもらうために、また表情を込めたりする関係上、作曲家の指示よりも遅く演奏するのでしょう。 特にその度合いは1970年代くらいまでは大きかったと思われます。

 最近のオリジナル楽器系の演奏団体では作曲家の指示に近いテンポ、つまりかなり速めのテンポを取ることが多くなっていますが、どちらがよいかは、その曲によって、あるいは聞き手の判断でしょか。



アレグロ・ノン・トロッポ

 次は同じベートーヴェンの「田園」を聴いていただきましょう。 この「田園」の第1楽章は 「Allegro non troppo」 つまり 「アレグロ、しかしあまり極端でなく」 と指示されています。 先ほどと同じイッセルシュテットの演奏です。



≪ベートヴェン作曲 交響曲第6番「田園」 第1楽章 アレグロ・ノン・トロッポ ≫  演奏 ハンス・シュミット・イッセルシュテット指揮  ウイーン・フィルハーモニー  1967年の録音




アレグレットでもいいじゃない?

 テンポは 4分音符=105 で、運命から比べると、かなりゆっくりですね、半分に近いです。 このテンポならアレグロではなく、アレグレットでいいんじゃないかと思いますが、やはり交響曲の第1楽章は「アレグロ」でないといけないのでしょう。 おそらくアレグレットと書くと、音楽が軽くなってしまうので、”枯れても、いや、遅くてもアレグロはアレグロ” なのでしょう。




ベートーヴェンの指示は、2分音符=66

 因みにベートーヴェンの指示は 2分音符=66、 つまり4分音符にすれば132となり、最近の演奏ではこのテンポ前後で演奏されることも多くなりました。 デビット・ジンマンは、4分音符=126 くらいで演奏していて、ベートーヴェンの指示に近いのですが、やはりちょっと落ち着かないですね。 テンポだけでなく演奏の仕方もあると思いますが。

 カラヤン(1970年代)は 4分音符=116 といったあたりで、何回か録音していますが、常にこのテンポのようです。 カラヤンの演奏は若い頃から馴染んでいるせいか、私には自然なテンポに感じます(速すぎるという人も多いが)。




モツァルトは「モルトー・アレグロ」を好んだ

次はモーツァルトのアレグロです。 モーツァルトが好んで使うアレグロは 「Molto Allegro」 です。モルトーとは英語で言えば「more」 に相当し、「よりいっそう」 と言った意味ですが、 「モットー」と覚えていただいてもよいでしょうか、もちろんダジャレです。


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なぜ「モルトー・アレグロ」?

 モーツァルトは速い曲が好みらしく、このモルトー・アレグロという速度標語を好んで用いていました。 しかしなぜ、「アレグロ・モルトー」 ではなく 「モルトー・アレグロ」 とモーツアルトは書くのか、よくわかりません。

 他の言葉との組み合わせの場合、必ずアレグロの方が前になるのに、この「モルトー・アレグロ」場合だけ必ずこのように書きます。 イタリア語に堪能だったモーツァルトのことですから、文法上、このほうが正しいのかも知れません。



モーツァルトの演奏では非常に評価の高かったブルーノ・ワルターの演奏

 モーツァルトの「モルトー・アレグロ」で最も有名な曲としては「交響曲第40番」の第1楽章があります。 モーツァルトの演奏では非常に評価の高かったブルーノ・ワルターの演奏で聴いていただきましょう。



≪ モーツァルト作曲 交響曲第40番ト短調 K550 第1楽章 ≫  ブルーノ・ワルター指揮 コロンビア交響楽団


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いまだに色あせないワルターの名演


 たいへん素晴らしい演奏ですね、こうした演奏を聴くと、テンポがどうの、など全く感じさせませんね、まさに正しいテンポで演奏しているからでしょう。 50年以上前の演奏ですが、いまだに名演奏中の名演奏だと思います。



モーツァルト自身はなるべく速く演奏するように言っていた

 しかしモーツァルト本人はもっと速く演奏した、あるいは速く演奏してほしいと望んだようです。 モーツァルトは手紙などに「オーケストラがだれないように、なるべく速く演奏するように何度も促した」と言ったことを書いているようです。 この曲についても、最近ではかなり速く演奏する指揮者などが多くなりました。


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Moderato(モデラート)


音楽辞典  :  中庸の速度で、の意味。 アンダンテとアレグロの間の程度を言う。

伊和辞典  :   ①控えめの、 抑えた、無茶をしない、程よい    ②節度ある   ③穏健な



<例>   ドビュッシー :  小組曲「行列」、「メヌエット」     前奏曲集Ⅰより第2、4、5、12曲(Modere)
       モッツァーニ :  ラリアーネ祭り
       ホセ・ブロカ :  一輪の花 



18世紀半ば頃より使われるようになった

 モデラートとは上のように「中間くらい」といった意味で、言葉的にはわかりやすいと思います。 モデラートという速度標語はバロック時代には使われなかったようで、古典派以後、つまり18世紀の半ば頃から使われるようになったようです。



作曲家により、使い方に差がある

 このモデラートも、ラルゴ同様に、作曲家よって使われ方にかなり差があるようです。 早い時期としてはハイドンの作品に用いられています。 ハイドンのピアノソナタにはかなり頻繁に使われ、単独で「モデラート」として、あるいは「アレグロ・モデラート」のように他の言葉と組み合わされて用いられています。

 弦楽四重奏曲にも使われていますが、交響曲には使われていません。 おそらく交響曲の場合、各楽章の組み合わせに、一定の規則があり、中間的な速度の楽章を取り込む余地がないからだろうと思います。




ここでも、モーツァルトは

 しかし同じ古典派でもモーツァルトは全く(おそらく)このモデラートを用いていません。 ベートーヴェンも晩年のピアノ・ソナタにわずかに見られる程度で、ほとんど用いていないようです。 後期のベートヴェンと同時代に、同じウィーンで活動していたシューベルトにはモデラートの作品が結構あります。

 ラルゴのケースと同じような現象ですが、それにしてもモーツァルトはかなり個性的で、はっきりとしたポリシーみたいなものがありますね、本当にいろいろな意味で私たちはモーツァルトを誤解しているようです。




ドビュッシーなど、フランス系の作曲家が好んだ

 ロマン派以降ではほとんどの作曲家がこのモデラートの作品を残していますが、特にドビュッシーが好んで用いました。 ただし初期の作品を除くと、Moderato ではなく Modere とイタリア語ではなく、フランス語で表記しています。

 古典派からロマン派中期頃までは、音楽用語はどの国の音楽家(もちろんヨーロッパ限定)もイタリア語を使用していたのですが、 19世紀後半頃から、それぞれの国の言葉を用いるようになりました。

 確かにそれぞれの国の人々からすれば、より意味がわかりやすくなったわけですが、その一方で、ナショナリズムの台頭と言った面もあるのでしょう。 ある意味音楽もインターナショナル的なものではだんだんなくなってきた時代です。

 さて、それではモデラートの例ととしてドビュッシーの小組曲から「メヌエット」を聴いていただきましょう。 この演奏では、4分音符=90 くらいで演奏しています。 なお、この曲はドビュッシーの初期の曲なので、Moderato と表記してあります。


≪ ドビュッシー 「小組曲」 より 「メヌエット」 ≫   ジャン・マルティノン指揮  フランス国立管弦楽団



ラリアーネ祭

 なかなかいい曲ですね、以前ギターの五重奏でやったことがあります。 ギター曲の方では、皆さんよく知っている曲としては、「ラリアーネ際」があります。 以前この曲の譜面にこのモデラートの他に 4分音符=108  と書いてあるものがありました。 確かにテーマはこのテンポで弾くと流れもよいのですが、 しかし第2変奏のトレモロはこの速度で弾ける人はイエペスか山下和仁さんくらいかも知れません。  最も、最近ではこの速さでトレモロが弾けるギタリストは珍しくなく、逆に普通かも知れません。


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この譜面(阿部保夫編)には、しっかりと 4分音符=108 と書いてある。 この速度でのトレモロは超絶技巧に値する



各変奏を同じテンポで弾くのは難しい

 しかし、少なくともギター教室でギターを習ってる、一般の愛好家では、まずこの速さでは無理でしょう。 私の教室の生徒さんの場合だと、だいたい 4分音符=40~70 といったところです。 

 原則からすれば、「ラリアーネ祭」 はテーマと二つの変奏を同じテンポで演奏すべきなのでしょうが、現実的には不可能なので、結局それぞれ弾き易いテンポで弾くということになるでしょう。 ほとんどの人はそう弾いています。

 それでもテーマをあまり速く弾くと、後続の変奏とのバランスが悪くなるので、若干押さえた方がようでしょう。 いわゆる中級くらいの人を前提に考えると、テーマと第1変奏を、4分音符=80、 トレモロの第2変奏を、4分音符=60 といったあたりが適切なのではと思います。




ホセ・ブロカの詳しいことはわからないが

 さて、演奏の方は、ラリアーネ際の方はよくご存じだと思いますので、19世紀のスペインのギタリスト、ホセ・ブロカの 「一輪の花」を演奏します。 ホセ・ブロカ(1805~1882) はバルセロナを中心に活動したギタリストだということですが、詳しいことはわあつぃはわかりません。 デビット・ラッセルがブロカ作曲の「ファンタジア」を録音していたと思います。



ロマン派風の演奏法が必要

 この「一輪の花」は初~中級程度のギター曲集などによく収められていますが、演奏の仕方次第では、特にロマン派の演奏様式を身に付けた人が演奏すると、なかなか良い曲になると思います。 テンポは、80~90 といったところが適切なのではと思います。


≪ ホセ・ブロカ作曲 「一輪の花」 ≫


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ロマン派的な演奏法が出来ないと、曲の持ち味が出ない。 下の2段の3連符に付いたグリサンドを軽快な感じで出すのはなかなか難しい

<音楽基礎講座 on Blog>  速度標語  6




アデリータとラグリマのテンポ

 タレガの小品で、「アデリータ」 はLento、 「ラグリマ」 はAndante となっています。 レッスンなどでは、これらの曲のテンポがよく問題になりますので、その話をしましょう。  まず、いろいろなギタリストがこの2曲をどのようなテンポで演奏しているかということから始めましょう。


<アデリータ  Lento>

セゴヴィア(4分音符)=74
デビット・ラッセル=78
マリア・エステル・グスマン=74


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アデリータの初版譜






<ラグリマ Andante>

ラッセル=76
グスマン=70
ベルグストローム=74


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ラグリマの初版譜




レントのアデリータの方が速い?

 ラッセルとグスマンは、レントとなっているアデリータの方が、アンダンテと書かれたラグリマより速く弾いていますね。 これはいったなぜなのでしょうか? これらのギタリストはLentoやAndanteの指示を無視したのでしょうか?

 それも若干考えられなくもないですが、 一つの理由として、アデリータには「マズルカ」という副題が付いいていて、この曲はショパンのマズルカの影響で書かれています。 マズルカは基本的には速い曲ですが、ショパンにもレントのマズルカがあり、レントとはいっても基本はマズルカなので、一般にそれほど遅くは弾かれません。



同じテンポで弾くと、アデリータのほうが遅く聴こえる

 また、マズルカは、ワルツの場合と同じく、4分音符が1拍ではなく、1小節、つまり付点2分音符が1拍的なところもあるのでしょう。 そう言ったことで、ほとんどのギタリストは極端に遅いテンポは取らないようです。 また、もう一つの理由として、アダリータは4分音符中心、ラグリマは8分音符中心に書かれ、この2曲を全く同じテンポで弾くとこのようになります。

≪ アダリータとラグリマのそれぞれの前半を、4分音符=70 で演奏 ≫

 どうですか、アダリータの方が遅く、ラグリマの方が速く聴こえるでしょう? ラグリマのほうは常に8分音符で刻んでいるので、先に進む感じがありますね。 同じテンポで弾いても、アデリータはレント、ラグリマはアンダンテに聴こえるのではないでしょうか。  ・・・・えっ? 詭弁? ゴマカシ?  ・・・・まあまあ。 



私はもう少し遅く弾いている

 でも私は両方とも、もう少し遅く弾きたいと思います。 というのも2曲ともたいへん短い曲です。 速く弾けばそれだけ速く終わり、その印象も薄くなるのではないかと思います。 予定としてはアデリータは64、 ラグリマは66くらいで弾こうと思います。



≪ タレガ作曲 マズルカ「アデリータ」、  ラグリマ ≫




一般には、もう少し遅く弾くべき

 アデリータの方が若干遅めに弾きましたが、アデリータの場合、1小節1拍と取るのは、やはり無理があるように思います。 ラグリマのほうも、プロのギタリストなどは、やや速めのテンポで弾くことが多いですが、技術的に非常に高いレヴェルであれば、多少速いテンポでも曲の持ち味などが出ますが、 一般の愛好者の場合、あまり速いテンポで弾くと、表情や、曲の内容など、どこかに行ってしまいます。

 どちらの曲も、少なくとも60台くらいで演奏すべきでしょう、70以上のテンポはお薦め出来ません。 またやはり、アデリータの方が遅く弾くべきでしょう。 ただし60以下まで落とす必要はないと思います。

  

<音楽基礎講座 on Blog>   速度標語  5



Andante(アンダンテ)



音楽辞典  :  「歩くandare」 から出た言葉で、アレグレットとアダージョの中間の速度を言う。 アンダンテが速い速度に属するか、遅い速度に属するかは意見が一致しておらず、したがって、ピウ・アンダンテ、メーノ・アンダンテ、モルトー・アンダンテなどの場合に解釈が異なる (andare) 

伊和辞典 :   ①行く  ②進む、歩く  ③達する、至る  ④(時間が)進む  ⑤進行する、はかどる 他


<例> 
モーツァルト : ピアノ協奏曲第21番 第2楽章「アンダンテ」
バッハ : 無伴奏ヴァイオリン・ソナタ第2番より「アンダンテ」
タレガ : ラグリマ            
ソル : 練習曲イ長調Op.6-12
ソル : アンダンテ・ラルゴ作品5
ソル : アンダンティーノ ニ長調作品2-3



片足が4分音符? それとも8分音符?

 ギター曲のほうで、最もアンダンテらしい曲の一つとして、ソルの 「練習曲イ長調作品6-12」 があります。 この練習曲は、セゴヴィア番号では14番で、ソルの練習曲の中でもたいへん人気があり、よく演奏されます。 確かに歩くような感じがしますが、この時、前にも言いました通り、4分音符1個が片足なのか、それとも8分音符が片足なのか、という問題があります。

 少なくとも、この曲を聴いた感じでは、両足で4分音符、つまり8分音符が片足のように聴こえます。 仮に4分音符1個が片足とすると、相当遅く歩いても4分音符=60、急ぎ足だと140を超えるのではないかと思います(歩き方で相当差があるが)。 

 8分音符が片足だとすると、ゆっくり歩くと30、速足で70くらいとなり、だいたいこの曲を演奏できる速度となります。 セゴヴィアはこの曲を、4分音符=68くらいで弾いていて、私の演奏もそれくらいだと思います。 とすれば、結論としては、片足が8分音符と解釈すべきなのか?



≪ ソル作曲 練習曲イ長調作品6-12 ≫


IMG_20151215225652ff2.jpg 確かに歩いている感じだが、その一歩は4分音符なのか? 8分音符なのか?


 本当に歩いている感じがしますね。 どちらかと言えば軽快な歩きと言った感じですが、これはあくまで8分音符が片足と思った場合です。 もし4分音符1個が片足と考えたら、相当ゆっくりした歩きですね。  こんな感じで・・・・・  でも考え事をしながらとか、悩みながらだったら、こんな風に歩くこともありますよね。 まあ、あり得なくもないか。




バッハのアンダンテでは

 さて次はバッハの無伴奏ヴァイオリン・ソナタ第2番の「アンダンテ」です。 譜面は皆さんの手元にあると思いますが、これを先ほどのソルの練習曲と同じテンポ、つまり 4分音符=68 で弾いたら大変なことになりますね。 このあたり(32分音符のところ)など絶対に弾けないですよね!

 もちろん、この曲は8分音符を1拍としないと弾けませんし、落ち着いた感じも出ません。 実際に多くのヴァイオリニストも8分音符を60台で弾いています。 名盤とされているヘンリク・シェリング盤では64、やや速めに演奏する傾向のある ギドン・クレーメル も66くらいで演奏しています。

 ちょうどソルの練習曲の半分といったところです。 同じ歩きでも、こちらは物思いにふけりながらゆっくり歩く感じでしょう。 でも立ち止まらず、先に進んでゆく感じはあります。 私の演奏もだいたい同じくらいのテンポです。



≪ バッハ作曲 無伴奏ヴァイオリン・ソナタ第2番イ短調BWV1003より「アンダンテ」 ≫



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8分音符=60~70 くらいでないと弾けない




「アンダンテ・ラルゴ」という速度標語を使うのはソルだけ?

 アンダンテとされたギター曲はたくさんありますので、このアンダンテは念入りにやっておきましょう。 ソルは単にアンダンテではなく、「アンダンテ・ラルゴ」 といったように、ラルゴと組み合わせて使うことがたいへん多いです。 これはソル以外の音楽家はあまり用いないようで、音楽辞典などにも載っていません。

 ”アンダンテ風のラルゴ” なのか、”ラルゴ風のアンダンテ” なのかどっちなんだろうと悩むところですが、これは後者の ”ラルゴ風のアンダンテ」と解釈した方がよさそうです。 つまり ”遅いアンダンテ” と解釈すべきかも知れません。 遅いけれども、先に進んでゆく、そんな感じなのでしょう。

 有名な「魔笛の主題による変奏曲」の序奏もこの「アンダンテ・ラルゴ」で書かれていますが、ここでは美しい小品である「アンダンテ・ラルゴ作品5」を演奏しましょう。 この曲は私が高校生のころから弾いている曲で、個人的にも思い入れのある曲です。



≪ ソル作曲 アンダンテ・ラルゴ作品5 ≫ 


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 なかなかよい曲ですね、それなりに人気のある曲です。 今の私の演奏では、8分音符=72 くらいで弾いていますが、セゴヴィアはじっくりと、58くらいです。 ゆっくりなのは確かですが、それでも先に進んでゆく感じということで、私はこれくらいのテンポがよいと思います。




ソルのアンダンティーノ

 次は同じくソルのアンダイティーノです。 「アンダンティーノ」 とは 「アンダンテっぽい」 と言ったような表現で、 「アンダンテほど遅くなく」 と言った意味になります。 速めのアンダンテといったことでしょうか。 またソルの曲ですが、なかなかよい曲なので、「6つのディベルティメント 作品2」 からのアンダンティーノを聴いていただきましょう。

 ソルには、よく教材などに用いられる「アンダンティーノ ホ長調作品32-1」などもありますが、今日はこちらのアンダンティーノを聴いていただきましょう。



≪ ソル作曲 アンダンティーノ ニ短調作品2-3 ≫


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 私の演奏では4分音符=58~60 くらいで弾いていますが、セゴヴィアは56で弾いています。 数字上は先ほどのソルの練習曲より遅いですが、16分音符が多いので、それなりに軽快に聴こえ、やはり、「アンダンテ」ではなく「アンダンティーノ」として聴こえるのではないかと思います。 

 この曲を70~80くらいで弾くと、まず弾くのが難しいのと、聴いた感じも軽快どころか、かなり忙しく聴こえ、「アンダンティーノ」といいた感じにはならないでしょう。 因みに「ホ長調作品32-1」の方は 4分音符=70~80 くらいが適当でしょう。
<音楽基礎講座 on Blog>  速度標語  4



Lento(レント)


音楽辞典  :  おそく

伊和辞典  :  ① 遅い、ゆっくりした、のろい、緩慢な、時間のかかる    ② ゆるんだ、たるんだ、締まりがない


<例>
    ショパン : ワルツイ短調作品34-2
    タレガ  : マズルカ「アデリータ」
    ラヴェル : 亡き王女のためのパヴァーヌ



19世紀以降から使われるようになった

 レントは音楽辞典などでは、表情やニュアンスに関係なく ”物理的に遅いテンポ” といったような意味になるようです。 イタリア語的には、「のろい」 とか 「しまりがない」 といったように、あまりよい言葉ではないようです。 このレントといy速度標語が使われるようになったのは、19世紀以降で、バロック時代には使われず、古典派時代でも非常に少ないです。



ショパンやドビュッシーが好んで使った

 よく使われるようになったのは19世紀半ば頃で、ショパンやドビュッシーなどが好んで使いました。 ショパンの場合、遅い曲にはほとんどこのレントを用いましたが、アダージョで書いた曲はないといったことは、前に言いました通りです。 ラルゴとした曲は多少ありますが、はやりショパンは伝統的なアダージョやラルゴといった速度標語はさけて、あまり手垢の付いていないレントを好んだのでしょう。

 ではそのショパンがレントとして書いた曲のうち、ワルツイ短調作品34-2を聴いていただきましょう。 この曲はタレガがギターに編曲していいて、ギターでも演奏されます。 演奏は、かつてショパンに演奏ではたいへん評価の高かった、アルトゥール・ルービンシュタインです。


≪ショパン作曲  ワルツイ短調作品34-2 ≫  演奏  アルトゥール・ルービンシュタイン



数字上ではあまり遅くないが

 確かにゆったりとは聴こえますが、メトロノームでは 4分音符=124 で、かなり速い数字です。数字だけでいったら、アレグロの領域でしょう。 しかし、ワルツの場合、4分音符1個が1拍でなく、1小節が1拍に聴こえます。 

1小節、つまり付点2分音符を1拍とすれば だいたい40くらいとなり、これなら確かに”Lento” となるでしょう。 因みに速いタイプのワルツ、たとえば有名な「子犬のワルツ」は 4分音符=300 くらいで弾いているピアニストが多く、これも3分の1に考えた方がよいようです。



ラヴェルの名作、譜面には54と書いてあるが

 レントで有名な曲としては、他に、ラヴェルの「亡き王女のためのパヴァーヌ」 があります。 元はピアノ曲として作曲されたのですが、当時から人気があったらしく、作曲家本人の手により、オーケストラ曲を始め、いろいろな形に編曲されています。

 譜面の方には 4分音符=54 と書いてありますが、 ほとんど指揮者やピアニストはもっと遅く、4分音符=40~48 くらいで演奏しています。 これから聴いていいただく私の演奏も、だいたい46くらいです。 

≪ ラヴェル作曲 亡き王女のためのパヴァーヌ ≫  編曲 中村俊三






Andante(アンダンテ) 

音楽辞典  :  歩くandare」から出た言葉で、アレグレットとアダージョの中間の速度を言う。 アンダンテが速い速度に属するか、遅い速度に属するかは意見が一致しておらず、したがって、ピウ・アンダンテ、メーノ・アンダンテ、モルトー・アンダンテなどの場合に解釈が異なる。

(伊和辞典) (andare)  :  ①行く  ②進む、歩く  ③達する、至る  ④(時間が)進む  ⑤進行する、はかどる 他

  

<例>
 モーツァルト : ピアノ協奏曲第21番 第2楽章「アンダンテ」
 バッハ : 無伴奏ヴァイオリン・ソナタ第2番より「アンダンテ」
 タレガ : ラグリマ          
 ソル : 練習曲イ長調Op.6-12
 ソル : アンダンテ・ラルゴ作品5
 ソル : アンダンティーノ ニ長調作品2-3



ほとんど意味が解らない

 上の音楽辞典の内容からしても、アンダンテというのはよくわからないテンポですね。 それにしてもこの内容では、この辞典を使って調べた人も、さっぱりどういうテンポで弾いていいかわかりませんよね。 全く辞典の形を成していないんじゃないかと思います。 ・・・・でも正直でよい!



「歩く速さ」と言われても

 結論としては、その作品ごとに考えて行かなければならないといったところでしょうか。 一般にアンダンテは 「歩く速さ」 ということになっていますが、これもたいへん幅広い解釈が成り立ちます。 同じ歩くのでも、考え事をしながら歩くのと、電車に乗り遅れないように駅まで歩くのとは相当ちがいますよね、もちろん人によっても違う。

 また左、右合わせて1拍なのか、 左右それぞれで1拍ずつなの、それもはっきりしませんね。 その解釈の違いでテンポが2倍になってしまいます。



やはり、いろいろ曲を聴いてみるしかない

 何はともあれ、やはり曲を聴いてみましょう。 モーツァルトはゆっくりした楽章として、アダージョとかラルゴよりもアンダンテ、またはラルゲットといった速度標語を使用していました。 そのモーツァルトのピアノ協奏曲第21番の第2楽章「アンダンテ」を聴いてみましょう。


 ≪ モーツァルト作曲 ピアノ協奏曲第21番K467 第2楽章「アンダンテ」 ≫  ピアノ、指揮 ダニエル・バレンボイム  イギリス室内管弦楽団



けっして何の苦労もなく名作を生み出していたわけでは

 たいへん美しい曲ですね、1785年、つまりモーツァルト29歳の頃の作品です。 モーツァルトは天才音楽家とされ、幼少時から優れた曲を書いたとされていますが、私自身では、30才近くなってから優れた作品を生み出すようになった作曲家だと思っています。

 また一般に言われているように、決して何の苦労もなく、次から次へと名作を生み出していたわけではないのでしょう。 モーツァルトの”天才伝説” はある程度”売り”として強調されてきた部分も多あったのではと思います。 モーツァルトの優れた作品は、モーツァルトの非常に強い向学心と、勤勉さによって生まれたのではないかと、私は考えます。



美し過ぎるから

 この演奏はわりとゆっくり目で、 4分音符=53 くらいで演奏しています。 おそらくモーツァルト自身はもっと速く演奏していたと思われますが、 ただ、やはりモーツァルトはこの楽章(アンダンテ)をゆっくりなものと考えていたでしょう。 ただ、立ち止まる訳ではなく、常に先に進んでゆくといった・・・・・

  モーツアルトを聴くと涙が止まらなくなるのは、モーツァルトの音楽が悲しいからではない、美し過ぎるからだ・・・・・・    なんて誰かが言っていたな。







<音楽基礎講座 on Blog >  速度標語  3


Grave(グラーヴェ)


音楽辞典  :  重々しく、荘重に、おそく

伊和辞典  :  ①重大な、深刻な、容易ならぬ、危険を伴った、耐え難い、②重たい、重量のある、比重の大きい、③重々しい、重厚な、重苦しい、ゆったりとした、④厳粛な、荘重な、威厳のある、真面目な、本気の、落ち着いた、物静かな


例  :   ベートーヴェン : ピアノ・ソナタ第8番「悲愴」 第1楽章「グラーヴェ」
       バッハ : 管弦楽組曲第2番 序曲「グラーヴェ~アレグロ」




ベートーヴェンの悲愴

 Grave は、英語でも同じ綴りで、「重大な」と言ったような意味ですが、「墓」と言った意味もあります。 代表的な例としてはベートヴェンのピアノ・ソナタ第8番「悲愴」の第1楽章が挙げられるでしょう。 早速、20世紀の半ば頃、ベートヴェンなどの演奏で評価のたいへん高かった、ウィルヘルム・バックハウスの演奏で聴いてみましょう。



≪ベートヴェン作曲 ピアノ・ソナタ第8番「悲愴」の第1楽章≫   演奏 ウィルヘルム・バックハウス


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最初の和音から、まさに「悲愴」

 テンポは揺れているので、はっきりとはわかりませんが、だいたい 4分音符=40 くらいです。 これから非常に深刻なことが始まると言った感じが良く出ていますね、まさにベートヴェンらしい音楽です。


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 最初の和音からしてまさに「悲愴」と言った感じでが、特別な和音を使っている訳ではなく、普通の短和音なのですが、音の配置や音域の関係でこんな風に聴こえるのですね、さすがベートベンです。 このあとアレグロの速い楽章が始まるのですが、そのアレグロとの対比が、またいいですね。

 もうひとつ別のCDも聴いていただきましょう。 これは私が特に好きな、ラドゥ・ルプー と言うピアニストの演奏です。


≪ベートヴェン作曲 ピアノ・ソナタ第8番「悲愴」の第1楽章≫   演奏 ラドゥ・ルプー



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ベートーヴェンの音楽を真正面から捉えている

 凄い遅さですね、次の音がいったいいつ始まるんだろうと言った感じです。  大御所、バックハウスの演奏は、巨匠の余裕で、わりとあっさり弾いているのですが、 ルプーはベートーヴェンの音楽を真正面からとらえ、こうしたテンポで始めたのでしょう。 強弱の変化も、テンポの変化も非常に大きく取っています。

 バックハウスの演奏以上にテンポは測りにくいのですが、強いて言えば 4分音符=25 くらいです。 個人的にはとても好きな演奏なのですが、一般にはあまり高くは評価されないようですね、”若気の至り” てきな捉え方をされているのでしょう。 でもベートヴェンの演奏は”余裕しゃくしゃく”で演奏するよりは、 こんな ”切羽詰まった” 感じのほうが感動的ですね。



ルプーはもともと繊細な表現が特徴だが

 ルプーはもともと音の美しい、繊細な表現のピアニストで、シューベルトやシューマンなどの評価は高いです。 このような情熱的というか、激情的な演奏はこれ以外にはあまりないようです。 またベートヴェンのソナタも、これ以外(同時に「月光」、「ワルトシュタイン」を録音している)は録音していません。 ぜひ録音してほしかったところですが。



グラーヴェはバロック時代の序曲などによく用いられる

 もう一つグラーヴェの曲で、バッハの管弦楽組曲第2番の「序曲」を聴いてもらいましょう。 グラーヴェという速度標語はどちらかと言えば、バロック時代によく使われていました。 特にこうした組曲などの序曲で、アレグロ楽章と対で用いられていました。



≪バッハ作曲 管弦楽組曲第2番より「序曲」≫  演奏 カール・リヒター指揮 ミュヘン・バッハ管弦楽団



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 かなりゆっくり目ですね、4分音符=40 くらいです。 1960年代の録音ですが、この頃までのバッハの演奏はゆっくり目に演奏する傾向がありました。 もう一つ別の演奏も聴いてください。 トン・コープマン指揮、アムステルダム・バロック管弦楽団の演奏です。


≪バッハ作曲 管弦楽組曲第2番より「序曲」≫  演奏 トン・コープマン指揮 アムステルダム・バロック管弦楽団



最近のオリジナル楽器系の演奏団体では、比較的速く演奏される

 だいぶ速いですね、テンポはだいたい4分音符=60 くらいです。 さらに細かい音符はより短く弾いて、グラーヴェにしては結構軽い感じですね。 楽器も当時のもの、あるいはそのレプリカを使っています。

 最近のバロック音楽の演奏は、こうしたオリジナル楽器系の演奏が主流となっています。 バロック時代は遅い楽章でもそんなに遅くしなかったという研究から、こうしたテンポとなっています。 楽器だけではなく、いろいろな意味で当時演奏されていたと思われるスタイルで演奏しています。

 1960年代では、バッハの演奏で圧倒的な人気と評価をえていたカール・リヒターの演奏ですが、最近ではこのような演奏をする人は少なくなりました。 しかし演奏というものは時代とともに移り変わって行くもの、リヒターのような演奏も、あってよいのではないかと思います。



グラーヴェとアダージョは近い関係?

 グラーヴェといえば、当ブログで 、「無伴奏ヴァイオリン・ソナタ第1番」 と 「同第2番」 のそれぞれの第1楽章はたいへんよく似ていながら、第1番はアダージョ、第2番はグラーヴェとなっています。 またその第2番もチェンバロへの編曲ではアダージョと曲名が変更されています。

 そのあたり理由はよくわかりませんが、アダージョとグラーヴェは比較的近い関係にあるのでしょう。 しかしベートヴェンの「悲愴」は、間違ってもアダージョではありえませんね、ラルゴはそれ以上にあり得ません。 やはり悲愴の出だしはグラーヴェ以外にはないでしょう。

 

グラーヴェのギター曲はあまりない

 ところで、「グラーヴェ」とされたギター曲はあまりないので、ギター演奏の方はありません。 グラーヴェとギターもあまり相性が良くないのでしょう。




<音楽基礎講座 on Blog>   速度標語  2


Adagio(アダージョ)

音楽辞典 :  「くつろぐ」の意味から出た語で、アンダンテとラルゴの間のおそい速度。 おそい速度で書かれた楽章、特に交響曲やソナタなどのおそい楽章。

伊和辞典 :   ①ゆっくりと、静かに、 ②注意深く、慎重に  ③ゆっくり
   

<例>
  ロドリーゴ : アランフェス協奏曲 第2楽章「アダージョ」
  アルビノーニ : 弦楽とオルガンのためのアダージョ
  メルツ : 愛の歌「アダージョ・カンタービレ」




音楽辞典では 「ラルゴとアンダンテの間」 と言っているのが

 音楽辞典では 「ラルゴとアンダンテの間」 と言っているので、少なくともアダージョはラルゴよりも遅いということになりますが、前にも言った通り、ラルゴやアダージョ、レントなどの標語による相対的な速度の違いははっきりしたものではありません。

 当然アダージョで書かれた曲のほうが遅いということも頻繁にあるわけで、前にも言った通り、これらの言葉の違いは絶対的なテンポの違いというより、曲想の違いと言った方がよいようです。



その違いは実際の曲で

 では、アダージョとラルゴの違いはどういうところにあるのか、というと、これは実際の曲を聴いてみるのが一番よいでしょう。 アダージョとして私たちに一番身近な曲といえば、まず何といってもアランフェス協奏曲の第2楽章でしょう。 アランフェス協奏曲は非常に多くのギタリストが録音していて、私のCD棚にも⒑数種類ありますが、ナルシソ・イエペスの1979年の録音を聴いてみましょう。


≪ ホアキン・ロドリーゴ作曲 アランフェス協奏曲第2楽章「アダージョ」 ≫  演奏 ナルシソ・イエペス  指揮 ナバロ  フィルハーモニアO.



新世界の「ラルゴ」より遅く弾いている

 当然かも知れませんが、これまで聴いたラルゴの曲とだいぶ感じが違うでしょう。 テンポは 4分音符=36 くらいで、新世界の「ラルゴ」よりはかなりゆっくりです。 譜面の方には 4分音符=44と書かれていますが、ほとんどのギタリストはこれより遅く弾いています。 ジョン・ウィリアムスの場合はイエペスよりも遅く、 4分音符=33 くらいで弾いています。



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アランフェス協奏曲の第2楽章  細かい音符が目立つ


 譜面の方を見ると、その違いがもっとよくわかるかも知れません、やたらと音符が細かいですね。 ラルゴの方がシンプルなことが多いようです。 アダージョは「くつろぐ」という意味の言葉からきた、とされていますが、リラックスした感じというより、繊細で、ちょっと神経質といった感じもありますね。 少なくとも、おおらかと言った感じはありません。



アダージョには ”秘めた情熱” のようなものがある

 アダージョには、なんとなく秘めた情熱みたいのが感じられますね。 あまり心穏やかと言った感じではないようです。 ではもう一つ有名な曲で あるびのーにの「弦楽とオルガンのためのアダージョ」を聴いていただきましょう。



≪ トマソ・アルビニーニ作曲  弦楽とオルガンのためのアダージョ ≫   イ・ムジチ合奏団



プレスティ&ラゴヤも弾いている

 この曲は本当にアルビノーニが作曲した曲ではなく、アルビノーニの作品を基にジャゾットと言う人が編曲した曲だそうですが、1960~70年代ころにはたいへん人気のあった曲です。 伝説のデュオ、プレスティ&ラゴヤがギター二重奏でも演奏していましたね。 やっぱりラルゴじゃなくて、アダージョですね、この感じは。




 さて次はまたギターの演奏を聴いていただきましょう。 メルツ作曲 「吟遊詩人の調べ」より 「愛の歌」 です。 私の演奏では、曲の中でテンポが揺れ動きますが、平均すれば、 4分音符=50 と言ったところでしょうか。 私以外のギタリストもだいたい同じくらいですが、奇才パヴェル・シュタイドルのCDではテンポの揺れが大きすぎて、計測不能と言った感じです。


≪ メルツ作曲 「吟遊詩人の調べ」より 「愛の歌」 ≫




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メルツ作曲 「吟遊詩人の調べ」より 「愛の歌」   ゆっくり歌う曲だが、”秘めた情熱” を感じさせる演奏が望まれる



あまり幸せ過ぎては”愛の歌”にならない

 どうです、「秘めた情熱」って感じするでしょ。 ”お風呂につかって一杯” といったリラックスした感じはないですよね。 だいたい「愛の歌」と言う場合、あまり幸せすぎてはいけない。  「あなたが好きです」  「はい、私も好きです」  「じゃ、お付き合いしましょう」  「はい、わかりました」  ・・・・・こんな感じじゃ、歌にはならないですね。



私には十分

 伝えたくても伝えられない気持ち、 なかなかふり向いてくれない、 愛が返ってこなくても自らの愛は貫き通す・・・・・ そんな苦い、あるいは屈折した気持ちがないと ”愛の歌” にはならないですね。 つまりモテモテの人生を送っている人には”愛の歌”は歌えない、 そういう意味では、私の過去の人生からすれば、”愛の歌” を歌う権利は十分にあると思います。  まあ、ここにいる皆さんもだいたい大丈夫かな? 十分に歌えそうですね。



速度標語にも作曲家の好みがある

 ところで、同じ遅い曲でもラルゴとするか、アダージョとするかは、作曲家によって好みがあるようです。 特にラルゴの場合、同じ古典派の作曲家でもハイドンの場合は前述の曲のように、特に多いと言うほどではありませんが、ラルゴとした曲が結構あります。 それに比べ、ほぼ同時代で、同じオーストリアで活動していたモーツァルトの方は、”ラルゴ” と記された曲はほとんど、あるいは全くありません。



モーツァルトはラルゴが嫌い?

 モーツァルトはあまり遅い曲が好きではなかったらしく、協奏曲や交響曲の第2楽章でもアンダンテとかラルゲット (ラルゴはないが、ラルゲットはある) とすることが多いようです。 アダージョとした曲はある程度ありますが、ラルゴとした曲はモーツァルトの主要な作品からは1曲も見つかりませんでした。

 つまりモーツァルトの音楽と、 「幅広く、ゆったり」 と言った言葉とは、合い入れないものなのでしょう。 一般には”癒し系の音楽”といったイメージのあるモーツァルトですが、実際はゆったりと落ち着いた音楽よりは、激しく、情熱的な音楽を好んだということなのでしょう。 モーツァルトという音楽家に関しては、その作品の内容も、なた人柄も、私たちは誤解している部分がかなりあるように思います。

 因みに、ベートヴェンもラルゴは全く書かなったわけではないにせよ、非常に少ないのは確かです。 やはりベートーヴェンの音楽も、ラルゴとは相性がよくなかったのでしょう。



ショパンはアダージョを書かなかった

 一方、アダージョのほうは、バロックからロマン派くらいまでの作曲家は、ほとんど書いていますが、唯一書かなかった作曲家がショパンです。 後からお話するように、ショパンの場合、遅い曲は 「Lento」 とすることが多いのですが、それでも Largo のほうは、かずは少ないですが作曲しています。

 しかし当時の作曲家なら誰もが書いたと思われる「アダージョ」は主要な作品では見当たりませんでした。 これは何を意味するのでしょうか。 おそらく、アダージョという速度標語には、何か、どろどろした情念のような意味合いが含まれるのと、何といってもドイツ・ロマン派的な香りがするからかも知れません。 ショパンはそういった音楽を好まなかったのでしょう。




両派に分けると

 つまりアダージョというのは粘度の高い音楽なのでしょう。 同じ遅さでもラルゴの方はさらさらしている・・・・・・  18世紀から19世紀半ば頃までの大作曲家を 「アダージョ派」 と 「ラルゴ派」 に無理やり分けると、下のようになるでしょうか。



<アダージョ派>

モーツァルト
ベートーヴェン
ブラームス
バッハ

・・・・・・・

ドボルザーク
ヘンデル
ハイドン
(ショパン)
ヴィヴァルディ

<ラルゴ派>




作曲家の傾向がわかると同時に、アダージョとラルゴの違いも分かる

 アダージョ派の筆頭は、おそらくラルゴを1曲も書かなかったモーツァルトでしょう。 次いでベートーヴェン。  ブラームスは作品の数があまり多くないのでなんとも言えないところもですが、やはりラルゴとした作品は少ないようです。 バッハの場合はラルゴは、なくはないのですが、ヘンデルに比べると少ないようです。

 ドボルザークの場合、ラルゴとした曲は多くはありませんが、何といっても新世界のラルゴが有名です。 ヘンデル、ハイドンはラルゴが多いというほどでもありませんが、それなりにあります。 最もラルゴを書いたのはヴィヴァルディかも知れません。協奏曲の第2楽章はほとんどラルゴとなっています。

 ショパンの場合はラルゴ派というより、アンチ・アダージョ派とでも言うべきでしょう。 このように分けると、やはり作曲家の傾向がわかりますね。 同時にまたアダージョとラルゴの違いもよくわかると思います。
<音楽基礎講座 on Blog 1  速度標語>



ブログ上で基礎講座の講義の再現

 今月の13日(日)と19日(土)に私の教室で上記のような音楽基礎講座を行うので、その内容をブログの方でも書いてゆこうと思います。 音楽標語と言うのは、クラシック音楽の譜面の左上に書いてある、「Allegro」 とか 「Andante」 などと書いていある速度指定の言葉です。 クラシック音楽の場合、曲名の代わりになったりもします。



やや話の多いコンサート

 ギターをやっている人たちにとっては聴きなれた言葉だとは思いますが、正しい意味や、実際にどのくらいのテンポで弾くべきか、など、よくわからない人、誤解してしまう人などはたいへん多いのではないかと思います。 演奏をするうえで、その曲をどのようなテンポで弾くかと言うことはたいへん重要なこと、こうした言葉の正しい理解なしにはクラシック・ギターの演奏は出来ません。

 今回の速度標語の講義については、クラシック音楽の名曲のCDなども聴いていただきますが、ギター曲に関しては私の生演奏となります。 曲数の結構あるので、ちょとしたコンサートと言った感じになります。 いつもよりは、やや話の長いコンサートと言った感じです。   ・・・・いつも話は結構長い?



ちょっとマテ

 当ブログの記事は、実際の講座の日程とb前後すると思いますので、講座を受講する方は予習、復習に、また受講出来ない方でも受講した気持ちになれるのではないかと思います。 はそれでは、<音楽基礎講座 on blog 速度標語編> 開講します。 

 ・・・・・・ちょっと待って!  前回、いよいよバッハの「チャコーナ」本体、本丸に迫ると言ってなかったかったかって?  ・・・・・ウン。     ・・・・・難攻不落の城塞を前に尻込みしたじゃないかって?   ・・・・・・まあ、まあ、まあ、  とりあえず、楽しみは後に取っておくと言うことで・・・・・       引っ張るねえ。





Largo(ラルゴ) 

音楽乃友社 新音楽辞典  :   「広い」のイタリア語で、非常にゆっくりとした速度。同時に表情豊かに

小学館 伊和中辞典   :   ①幅広い、横幅のある  ②広い、ゆったりとした、ゆるい  ③多くの、広範囲の  ④気前が良い ⑤(考え方が)幅広い、とらわれない、偏狭でない、理解がある 


<例>  ドボルザーク : SY.9「新世界」 第2楽章「ラルゴ」
      ハイドン : 弦楽四重奏曲作品76-5 第2楽章「ラルゴ・カンタービレ・エ・メスト」
      ヘンデル : 歌曲「オンブラ・マイフ」
      ソル : 幻想曲作品7 第1楽章「ラルゴ・ノン・タント」



Largoは最も遅いクラス

 Largo は速度標語の中でも、最も遅いものに属します。 この後お話するAdagio や、 Grave、 Lento などと同クラスです。 これらの言葉の素体的関係、たとえばLargo と Adagio どどっちが遅いのかといった議論もありますが、 これは解釈する人により、また、時代、ジャンル、作曲家、使っている音符の種類など様々な条件でことなり、はっきりしたことはいえません。

 これらの言葉の違いは絶対的な速度ではなく、その曲の表情やニュアンスの問題と考えるのが正しいでしょう。 Largo というのは普通に使われれるイタリア語ですから、イタリア語がわかる人ならあまり説明がいらないかも知れません。




イタリア語的には「幅広い」と言った意味

 しかし普段イタリア語に接していない私たちの場合ですと、一応この言葉のイタリア語意味を多少は知っておくべきでしょう。 そこで専門的ではありませんが、伊和辞典に乗っていることも記しておきました。

 その訳語からすれば、Largo という言葉は、「幅広い」といった意味のことばのようです。 さらにゆったりと”くつろぐ”と言ったような意味もあり、理解がある、気前が良いといった意味もあるようです。 同じゆっくりでも神経質な感じではなく、のんびりとした感じということになるでしょう。



どんな曲があるか

 もちろん、言葉の意味が解っただけでは Largo がどんなテンポかはわかりません。 やはり何といっても実際にそれらの曲(Largoと書いてある曲)がどのようなテンポで演奏されているかと言うことを検証してみる必要があります。 そこで、まず最も有名な「ラルゴ」として、ドボルザークの交響曲第9番「新世界」の第2楽章を聴いてみましょう。

 
 ≪ ドボルザーク作曲、交響曲第9番「新世界」より、第2楽章『ラルゴ』  ≫   ケルテス指揮、ウィーン・フィル



ひと風呂浴びて一杯

 夕方6時ころになるとよく聞えてくる曲ですね、「家路」という題名で歌詞を付けて歌われたりもします。 仕事を終えて、家に帰り、一風呂浴びて、かわいい奥さんの顔を見ながらビールでもいっぱい・・・・・  といったような、くつろいだ雰囲気がよく出ていますね。  ・・・・・えっ、 独身者なので意味がわからない?  そこんとくる・・・・

 メトロームで測ると、この演奏ではだいたい  4分音符=40  くらいのテンポで演奏しています。 もちろん指揮者などによってテンポはまちまちですが、だいたいはこんなところでしょう。 ラルゴの場合、同じ遅さでも、ゆったりと、リラックスした感じがあります。



こんな曲はハイドン以外に書けない

 他にもう一曲良い例として、 ハイドン作曲、弦楽四重奏曲ニ長調作品76-5 の第2楽章がありますので聴いてみて下さい。 このラルゴは比較的有名で、この弦楽四重奏曲を「ラルゴ「と呼ぶこともあります。 個人的にはたいへん好きな曲で、年に2,3度くらいは聴きたくなる曲です。


 ≪ ハイドン作曲、弦楽四重奏曲ニ長調作品76-5 第2楽章『ラルゴ・カータービレ・エ・メスト」 ≫


 どうですか、肩の荷がすっかり取れるような気がしませんか?  ハイドンはモーツァルトやベートーヴェンに比べるとイマイチ的に言われますが、こんな曲はハイドン以外には書けませんね。 まさに 「ラルゴ」 と言った感じで、 幅広く、 ゆったりとして、 とてもリラックス出来る曲ですね。 何かに行き詰まった時に聴くには、たいへんよい曲だと思います。 因みにこのCDでは、4分音符=50くらいで演奏しています。



「オンブラ・マイフ」も有名だが

 他、ラルゴで有名な曲といえば、先々週アコラで弾いたヘンデルの「オンブラ・マイフ」がありますが、その時聴いていただいた人もいると思いますので、演奏は省略します。 この曲は、私の持っているソプラノのCDでは、 4分音符=64 くらいで演奏しています。 私の演奏では、それより少し遅く 4分音符=60 くらいでした (多分)。 



時代を経るごとに、いっそう遅くなってゆく

 この3曲のテンポで、気付いた人もいるかも知れませんが、バロック⇒古典派⇒ロマン派と時代を経るごとにだんだんテンポが遅くなっていますね。 要するにバロック時代では、遅い曲でもそんなに極端ではなかったのですが、だんだん時代を経るごとに遅い曲はより遅く、逆に速い曲はより速くなってきます。 だんだんにその差が大きくなってくるという傾向があります。




ギター曲では

 さて、次は私のの生演奏でギターの曲を聴いていただきましょう。 ラルゴとして有名なギターの曲としては、まず、ソル作曲 幻想曲作品7より 「ラルゴ・ノン・タント」 でしょう。 「ノン・タント」 というのは 「あまり極端でなく」 と言った意味です。 『たんと』 ではないということですね、 わかりやすいですね。



中途半端な終わり方をする

 たいへん美しい曲で、モーツァルトの名曲、「幻想曲ハ短調」を彷彿させる曲と言ってもよいでしょう。 人気曲の一つですが、半終止という文字通り中途半端な終わり方をし、原曲ではこのあとに主題と変奏が続きます。

 この「主題と変奏」もなかなかよい曲なのですが、ちょっと長めの曲なので、ジュリアン・ブリームなどは、この主題と変奏の代わりに、メヌエットやロンドなどハ長調の別の曲を、この曲の後に弾いたりしています。
 
 私としてはこの曲を、8分音符=78 くらいで演奏する予定ですが(予定通りに行けば)、他のギタリストでは、イェラン・セルシェルなどが84~94、 ブリームが78~88 くらいで演奏しています。 最近のギタリストのほうがやや速めに演奏していることが多いようです。 私のテンポはブリームの影響があるのかも知れませんね。



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ソル作曲 幻想曲作品7 「ラルゴ・ノン・タント」 8分の6拍子で、8分音符=80前後くらいで演奏しているギタリストが多い



2週間で13曲練習するのは結構たいへん?

 因みに、なんだかんだと、今日演奏する曲はだいぶ多くなり(13曲)、時間内に収まるかどうか心配な感じです。 先々週までアコラのコンサートがあって、今日演奏する曲の練習はそれが終わってからなので、結構たいへんだったんですよ。  多少易しい曲はあるものの、曲目は全部違い、大序曲などと難しい曲も入っていますから。  ・・・・別に頼んだわけではない? それよりも、プロならそれくらい当然?  ごもっとも。



 ≪ フェルナンド・ソル作曲 幻想曲作品7より 「ラルゴ・ノン・タント」 ≫   ~私の生演奏  演奏時間 約7分
 
<バッハ・シャコンヌ再考 20  これまでのまとめ>



城本体が大きいために、外堀も広くて、深い

 <バッハ・シャコンヌ再考>と言うタイトルで書き進めてきましたが、まだ本当にバッハの無伴奏ヴァイオリン・パルティータ第2番のシャコンヌ(正確にはチャコーナ)の話にまではいっていません。 まだ外堀を埋めている段階ですが、何分、お城本体がとても大きいため、外堀もそれだけ広くて、深いといったところでしょう。

 外堀が埋まったかどうかはともかく、そろそろ本丸へ、ということですが、その前にこれまで書いてきたことを一旦まとめておきましょう。 





≪シャコンヌ(チャコーナ)の起源とひろまり≫



当初は庶民的なもの

 シャコンヌは17世紀初頭に新大陸からスペインに渡ったもので、ギター伴奏と歌を伴う踊りでした。 その世紀のうちにイタリア、フランス、ドイツなどに広まりましたが、当初はかなり庶民的な内容のもので、あまり上品でないために、禁止令も出たほどだったようです。



基本は変奏曲だが、ロンド形式のものもある

 17世紀当時のフランスではリュートが盛んで、老ゴーティエ(エヌモン・ゴーティエ)などのリューティストがシャコンヌを作曲しています。 さらにクラブサン奏者のフランソワ・クープラン (大クープランと呼ばれたルイ・クープランの伯父) などもシャコンヌを作曲していますが、クープランのシャコンヌは変奏曲形式ではなく、ロンド形式になっていて、バッハのチャコーナなどとは全くの別物になっています。



ドイツにはイタリア風のチャコーナがひろまった

 イタリアではシャコンヌはチャコーナと呼ばれますが、イタリアのチャコーナはすべて変奏曲形式で、バッハ、ヴァイス、ケルナーなどのドイツの音楽家はすべてイタリア式の「チャコーナ」を作曲しています。 つまりバッハだけでなく、ヴァイスやケルナーも曲名を「チャコーナ」としています。



舞曲的な要素は薄められた

 イタリアからドイツに伝わったチャコーナは舞曲的な要素は薄められ、パッサカリア同様、基本的に変奏曲形式の一つとして考えられていたようです。 

 チャコーナ、及び変奏曲形式になっているシャコンヌは、中庸なテンポの3拍子の曲となっていて、ほとんどの場合、1拍目から曲が始まり、アウフタクト(弱起)を持ったり。バッハのチャコーナのように2拍目から始まるものはほとんどありません。



パッサカリアとの区別は難しい

 また、パッサカリアとの区別は難しく、特にドイツの作曲家の場合はほとんど同じといってよいでしょう。 ヴァイスのチャコーナとパッサカリアも全く区別が付けられません。 「パッサカリアは重厚で厳密、シャコンヌはやや自由」といったイメージはバッハの二つの作品(無伴奏ヴァイオリン・パルティータの「チャコーナ」と、オルガンのための「パッサカリアとフーガハ短調」)によって付けられたと言ってよいでしょう。

 バッハ自身がどのようにこの二つを区別していたかは、よくわりませんが、仮にこの2曲の曲名が入れ替わったとしても、当時の人たちには大きな違和感はなかったのではないかと思います。



ドイツの作曲家の場合は、同じ和音の小節が重複するのを避け、一つの変奏が7小節となっている

 普通、一つのフレーズは4、または8小節で作られることが多いのはご承知のとおりと思いますが、ヴァイスやケルナーなどのチャコーナは一つの変奏やテーマが7小節で出来ています。

 これは先行の変奏の最後の小節が後続の変奏の最初の小節を兼ねているからなのですが、 なぜこのような形をとったかと言うと、おそらく同じ和音(主和音)が2小節続くのを避けたためと思われます。 ヴァイスの場合は「パッサカリア」の場合も全く同じようにしています。 

 これはドイツの作曲家だけのこだわりのようで、イタリアなどの作曲はこうした方法は取っていません。 ドイツ以外の作曲家の場合、一つの変奏は4小節、または8小節で、各変奏の最初の小節と最後の小節は共に主和音となっています。 つまり変奏が変わるところでは同じ和音が2小節続くわけですが、特にそのことを避けようとはしていません。



バッハの場合は

 バッハは数字に対して、いろいろこだわりのある作曲家で、一つの変奏が7小節という中途半端な数字には我慢ができなかったようです。 しかし、かと言って同じ和音の小節が続くことにも我慢が出来なかった。 バッハの場合はあることをして、一つの変奏が4、または8小節となっても、同じ和音の小節が2小節続かないようにしている訳ですが、それについては ”本丸” のほうで説明しましょう。






≪バッハの変奏曲≫



バッハはチャコーナなどの変奏曲が嫌いだった?

 バッハはチャコーナや、パッサカリアなどの変奏曲は音楽的レヴェルが低いものと考え、フーガなどに比べるとあまり積極的に作曲しなかった。 初期の習作的な作品などを除くと、バッハの主要な変奏曲はチャコーナ(無伴奏Vnパルティータ第2番)、 オルガンのための「パッサカリアとフーガ」、 チェンバロのための「ゴールドベルク変奏曲」の3曲しかありません。

 特にチャコーナやパッサカリアのように決まった低音主題で作曲するとなると、和声や調性などが大きく制約され、レヴェルの高い音楽は作曲しにくいと考えたのでしょう。 



素人でも作曲できる?

 逆に言えば、低音主題の上に装飾的なパッセージを載せるというのは、それほど高度な作曲技術かなくても出来ると言うことで、どちらかと言えば、作曲より演奏の方が得意な音楽家にとっては都合がよく、比較的簡単に作曲できるというこでもあります。 その一例として、私が適当に作ったチャコーナ・モドキの譜面も掲載しました。



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以前掲載した、私がテキトーに作ったチャコーナ・モドキ。  




ありきたりのチャコーナなど作曲する気は毛頭なかった

 バッハは、結果的にはレヴェルが低いと思っていたチャコーナとパッサカリアを、それぞれ1曲ずつ作るわけですが、バッハは自分がこうした曲を作曲する場合は、誰もが作曲するような”ありきたり”のチャコーナやパッサカリアを作曲する気など毛頭なかったでしょう。

 自分が作る以上は、誰も作曲出来ないようなチャコーナやパッサカリアでなければならないと考えていたと思われます。 バッハのチャコーナを理解する上では、こうしたことは充分に考慮しておかなければならないことと思われます。




音楽史上最大、最高の変奏曲「ゴールドベルク変奏曲」もあるが

 なお、バッハには音楽史上最大の規模と内容を誇る 「ゴールドベルク変奏曲」 がある訳ですが、この曲についてコメントするのは私の力量をはるかに超えたことなので、皆さんは、ぜひ直接この曲をじっくりと聴いたり、また解説書などを読んでみて下さい。

 ゴールドベルク変奏曲がこんなにすごい曲になったというのも、バッハが 「普通の変奏曲は作りたくない」 と思っていたからなのかも知れません。







≪バッハの無伴奏ヴァイオリン曲≫



1台のヴァイオリンでフーガなどを作曲したのは、バッハだけではない

 1台のヴァイオリンでフーガなどの複旋律の曲を作曲したのはバッハの専売特許のように思われがちですが、当然のことながら同じことをやっていた音楽家は当時も必ずいたはずです。 そうした音楽家として、バッハに影響を与えたとされているワイマールの宮廷ヴァイオリストヴェストホフなどの名前が挙がっていますが、実際に譜面などが手に入ったのはテレマンの12の幻想曲だけでした。



極めて高度な和声法を駆使し、オルガン曲に迫る充実したフーガ

 では、他の作曲家のものとバッハの無伴奏ヴァイオリン曲では何が違うのかというと、まずバッハの曲の場合はたいへん高度な和声法を駆使しているという点で、その和声進行には”5度進行”と言うことが大きなポイントとなっています。 またフーガの場合はヴァイオリン1台で演奏するにもかかわらず、オルガン曲に匹敵するような充実したフーガを作曲しています。

 3曲の無伴奏ヴァイオリン・ソナタは、それぞれのフーガが中心楽章となっていますが、1番、2番、3番と番号が先に進むほど規模の大きい曲となっていて、第3番(ハ長調)のフーガは354小節となっています。 その構成も主要呈示部、喜遊部、副呈示部、喜遊部、対呈示部、喜遊部、主要呈示部と大掛かりなものとなっています。 またフーガにおいても和声法は非常に重要な要素となっています。



作曲上の制約を楽しんでいる

 このような充実した内容で、規模の大きいフーガを作曲するのであれば、何も1台のヴァイオリンで演奏するより、チェンバロでもオルガンでも、あるいは合奏曲のような形で作曲すればよいと思うのですが、バッハはこうした作曲上の制約を逆に楽しんでいるような”ふし”があります。 こうした点もチャコーナを考える上で考慮しておくべきでしょう。





≪いよいよ、総攻撃≫

 一応これで外堀は完全に埋まった(?)のでは、ということで、いよいよ次回からは陣を整え、本丸総攻撃とゆきたいと思います。 堅牢な城壁に跳ね返されないよう、十分に心してかからねばなりません。