ポンセ : 組曲イ短調いちいちつっこむのも何だが ポンセの組曲イ短調の話に戻ります。 この組曲の構成は、「プレリュード」 「アルマンド」 「サラバンド」 「ジグ」 の5曲からなります。 この構成も ”本物” のバロック時代の組曲からすると、ちょっと変です。
もちろん元々この曲は本物のバロック作品ではないのだから多少変なのは当たり前のことで、そんなこと、いちいちつっこむものではないのでしょうけれど。
通常、アルマンドとクーラントは対になっている 通常、やや遅めのアルマンドと速いテンポのクーラントはセットになっていて、バッハやヴァイスの作品の場合、アルマンドがあれば、ほとんどの場合、次はクーラントとなります。
古典組曲の基本としてはアルマンドとクーラント、 サラバンドとジグ、 という二つの、遅い曲、速い曲 のセットとなります。 それにプレリュードやガヴォット、ブレー、メヌエットなどが組み込まれた形が一般的な組曲となります。
アルマンド~クーラント、 サラバンド~ジグ の4曲が組曲の基本 バッハの無伴奏ヴァイオリン・パルティータの場合、第1番ロ短調は、このアルマンド、クーラント、サラバンド、ジグの基本曲にそれぞれドゥーブル、つまり変奏を付け加えた形で、第2番ニ短調はこの基本の4曲の後に長大な変奏曲であるチャコーナを付け加えた形になっています。
第3番ホ長調にはアルマンドがありませんが、クーラントもなく、組曲の基本形から離れていますが、バロック時代の典型的な組曲というより、やや未来型になっているように思えます。 つまり1番、2番は伝統的なスタイルで作曲したが、3番は新しい形を試みたと言ったところでしょうか。
イ短調組曲では、遅めの曲が3曲続くことになる この組曲イ短調の場合はプレリュードがあまり速く曲とは考えられないので (プレリュードは基本的にテンポが決まってなく、速い場合も遅い場合もある)、プレリュード、アルマンド、サラバンド と最初の3曲がすべて遅い曲ということになってしまいます。
だからセゴヴィアはアルマンドを速く弾く セゴヴィアは通常は遅めの曲であるアルマンドをかなり速いテンポで演奏していますが、確かにそうしないと組曲としてのまとまりを欠いてしまうでしょう。 他のギタリストもそれに倣い、このアルマンドは速いテンポで演奏するということが定着しています。 それと言うのも、結局、本来あるはずのクーラントが抜けているからなのでしょう。
もう一つの組曲
やはりセゴヴィアは ”ポンセ作” とはしていない ポンセはイ短調組曲の他に、もう1曲、ニ長調の組曲を書いています。 この組曲は、「プレアンブロ」 「クーラント」 「サラバンド」 「ガボット」 「ジグ」 の5曲からなります。 セゴヴィアは「プレアンブロ」をヴァイス作曲、「ガヴォット」をアレクサンドロ・スラルラッティ作曲として録音しています。
組曲ニ長調の第1曲プレアンブロ。 セゴヴィアは「プレアンブロ」をヴァイス作、 第2曲の「クーラント」をヴィゼー作、第4曲の「ガヴォット」をアレクサンドロ・スカルラッティ (ソナタで有名なドメニコ・スカルラッティの父)作としていて、一貫してポンセ作とはしていない。
作曲者名も、曲名も、調性も、全部違っている! 「クーラント」はスタジオ録音はしていませんが、1955年のスコットランド、エジンバラでのリサイタルで演奏していて、そのライブ録音のCDが発売されています。 ただし曲名は 「メヌエット」 で、ロベルト・ド・ヴィゼーの作品と一緒に演奏しています。 なんとそのCDの曲目リストでは ”組曲ホ短調より” と書いてあります。
1955年エジンバラでのセゴヴィアのリサイタルのライブCD 全体としてはたいへんすばらしい演奏だが、ポンセのクーラントは「ヴィゼー作曲、組曲ホ短調より、メヌエット」 と作曲者も調も曲名も全部違っている!
どう聴いてもこの曲、ヴィゼーの作品のは聴こえませんし、またメヌエットには全く聴こえません。もちろんホ短調でもありません。 そのリサイタルの聴衆にはどのようなパンフレットが配られたのかわかりませんが、少なくともこのCDを聴いた人は疑問を感じたのではないかと思います。
「ヴィゼーのメヌエット」で楽譜を探すのは無理! もっともネットでのこのCDのコメントで 「ヴィゼーのメヌエットが特に面白かった。 楽譜が欲しい」 といったものもあったので、この曲を本当にヴィゼーの曲と思った人もいるのでしょう。 因みにセゴヴィアの演奏は速めのテンポでかなり ”乗った” 演奏で、確かに面白いかも知れません。
しかし、「ド・ヴィゼーの作品」 として楽譜を探したら、見つかるはずはありませんね。
やはり何か足りない もちろん最近ではこの組曲は、 「ポンセ作曲」 として演奏されていて、イ短調組曲ほど頻繁ではありませんがなかなか面白い曲です。 曲目リストのとおり、こちらはクーラントがある代わりにアルマンドがありません。 緩急のバランスは特に変でもありませんが、バッハなどの組曲に馴染んでいる人にとっては何か、ちょっと足りない感じもするのではと思います。
ナクソス盤のポンセ作品集Ⅱ 演奏アダム・ホルツマン ポンセの組曲イ短調、ニ長調などが収録されている。 特に組曲ニ長調の全曲録音は他にはあまりない。 ナクソスではポンセの作品集は第4集まで発売されていて、ポンセのギターのための作品はほぼ全曲収録されている。
こちらのガヴォットは通例どおりに3拍目から始まっている こちらの 「ガヴォット」 については第1ガヴォットも、第2ガヴォットもどちらも3拍目から始まるようになっていて、バロック時代のガヴォットを踏襲したものになっています。 ・・・・・確かにガヴォットぽい
なぜプレリュードではなく、プレアンブロ? 最初の曲がプレリュードではなく ”プレアンブロ” となっています。 プレリュードと同じ意味と考えてよいのではと思いますが、この単語はフランス語で 「序文」、 「前文」、 「前置き」 と言ったような意味で、特に音楽用語としては、あまり使われないようです。 曲としては、確かにプレリュードというよりは、遅い部分と速い部分からなる 「序曲」 的ではあります。