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中村俊三 ブログ

中村ギター教室内のレッスン内容や、イベント、また、音楽の雑学などを書いていきます。

第1回IGCアンサンブル演奏会


 11月29日(木)  石岡市ギター文化館




本当にありがとうございます

 昨日茨城大学クラシック・ギター部1969年入学の同期によるアンサンブルの演奏会、<ICGアンサンブル演奏会>を行いました。


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 会場には約70名の方々に来ていた来ました。 ご来場下さった方々、本当にありがとうございます。


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 同期や、先輩にあたるギター部のOBの方々も多数来ていただきまして、数十年ぶりにお会いする人もいました。 


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 「マイアミ・ビーチ・ルンバ」 では、メンバーのご主人の圷文雄さんはじめ、OBの方などにパーカッションで参加していただきました。


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 アンコール曲として茨城大学の校歌を演奏しましたが、一緒に歌っていただいたか他も多数いました。 なんと、歌詞を覚えているんですね!   私などほとんど覚えていない。



 また来年も行いたいと思います。今回来ていただいた方々、ぜひ懲りずに次回も来ていただければ。
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レッスンのためのクラシック・ギター曲集Ⅰ~Ⅳ

              ~新録音





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4枚のレッスンのためのCD
  レッスンのためのCD出来ました。 これらは私の教室で用いているクラシック・ギターの初級から上級にかけての約100曲を4枚のCDにしたものです。

 同様のものはこれまでも3枚のCDとして録音していましたが、ことしの8月~10月にかけて録音し直したものです。

 かつてのものはMDプレーヤーなどで録音したもので、編集などしていませんでしたので、レッスンの才にも 「ここはこんな風に弾いてくださいね、でもCDのほうはそうはなっていませんけどね」 と若干苦しい言い訳していました。

 また音質もあまりよいとは言えませんでしたが、今回のものはこれまでのものにくらべて、いろいろな点でよくなりました。

 レッスンの際にも 「ここはCDのように弾いてくださいね」 と自信(?)をもって言えるものになっていると思います。

 でも、その分、録音、および編集にはだいぶ苦労しました。




本来、簡単に弾けるはずだが

 中級程度の曲が主なので、プロのギタリストとすれば簡単に弾けるはずで、本来編集作業などと言ったものも不要なはずなのですが、なかなか自分がレッスン中に行っているようには弾けません。

 一見簡単な曲でも、何度もやり直したり(また編集でゴマカシたり?)しました。

 簡単な曲ほどかえって妥協できないところもあるでしょう。

 でもこの一連の作業を通して、自分自身で出来ていない部分なども良くわかり、今後のレッスンにとってたいへん良い事だったと思います。

 もちろん目的は生徒さんのギターの上達のためですが、私自身の勉強にもなりました。

 販売価格は1枚 1500+税 で、曲目などは以下の通りです。 

 オリジナルのギター曲他、一般のlクラシック名曲や、ほんの一部私の曲も入っています。




レッスンのためのクラシックギター曲集 Ⅰ
       初、中級編


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1 夜想曲(ヘンツェ)
2 マリア・ルイサ(サグレラス)
3 タランテラ(サルコリー)
4 禁じられた遊び(ルビラ)
5 ラルゴ~四季より(ヴィヴァルディ)
6 ジュピター(ホルスト)
7 練習曲ホ短調(タレガ)
8 アダージョ(サグレラス)
9 小さなロマンス(ワルカー)
10 雨だれ(リンゼー)
11 バラード(フェレール)
12 白鳥の歩み(マルサグリア)
13 ノクターン作品9-2(ショパン)
14 タランテラ(メルツ)
15 落ち葉の精(武井守成)
16 トロイメライ(シューマン)
17 練習曲ニ長調(中村俊三)
18 緑の木陰にて(ビッグフォード)
19 練習曲ホ長調作品31-7(ソル)
20 舟歌(コスト)
21 軒訪るる秋雨(武井守成)
22 ワルツホ短調(中村俊三)
23 月光~練習曲ロ短調作品31-22(ソル)
24 ラグリマ(タレガ)




ギター・レッスンのためのクラシック・ギター曲集 Ⅱ
          中級編


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1 ワルツ・アンダンティーノ(カーノ)
2 ソナチネ(パガニーニ)
3 セレナーデ(シューベルト)
4 練習曲ト長調作品31-5(ソル)
5 ギャロップ(ソル)
6 練習曲ニ短調(コスト)
7 ワルツイ長調(コスト)
8 イタリア舞曲~デル・フップ・アウフ(ノイジトラー)
9 イタリアーナ(作者不詳~ルネサンス期の作品)
10 ジグ(作者不詳~ルネサンス期の作品)
11 メヌエットイ長調(バッハ)
12 メヌエットイ短調(バッハ)
13 ラリアーネ祭(モッツァーニ)
14 悲しみの礼拝堂(ゴメス)
15 ノクターン(フェレール)
16 タンゴ第2番(フェレール)
17 タンゴ第3番(フェレール)
18 ソナタニ長調(カルリ)
19 アレグロ・ヴィヴァーチェ(ジュリアーニ)
20 皇帝讃歌(ハイドン~メルツ編)
21 ワルツホ長調作品32-2(ソル)
22 練習曲ハ長調作品35-13(ソル)
23 ワルツホ短調作品18-1(ソル)
24 アデリータ~マズルカ(タレガ)
25 スェーニョ~マズルカ(タレガ)






ギター・レッスンのためのクラシック・ギター曲集 Ⅲ
        中級編


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1 グリーン・スリーブス(カッティング編)
2「牛を見張れ」によるディファレンシャス(ナルバエス)
3 アルマン(ジョンソン)
4 エスパニョレッタ(サンス)
5 パヴァーナ(サンス)
6 フーガ(サンス)
7 ガヴォット(ロンカリ)
8 ジグ(ロンカリ)
9 ラルゲット(カルリ)
10 練習曲ニ長調作品35-17(ソル)
11 ロンドニ長調作品48-6(ソル)
12 メヌエットハ長調作品22より(ソル)
13 練習曲ホ短調作品60-22(ソル)
14 アンダンティーノホ長調作品32-1(ソル)
15 メヌエットハ長調作品25より(ソル)
16 ラ・メランコリア(ジュリアーニ)
17 一輪の花(ブロカ)
18 スペインの微風(フェレール)
19 水神の踊り(フェレール)
20 ワルツニ長調(タレガ)
21 ショーロ「鐘の響き」(ペルナンブコ)
22 ネグリート(ラウロ)
23 ガティーカ(ラウロ)





ギターレッスンのためのクラシック・ギター曲集 Ⅳ
      中、上級編



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 ルネサンス時代の6つの小品(作者不詳)
1 アリア
2 白い花
3 舞曲
4 ガリャルダ
5 カンション
6 サルタレッロ

7 メランコリー・ガリアルド(ダウランド)

 組曲ニ短調(ド・ヴィゼー)
8 プレリュード
9 アルマンド
10 クーラント
11 サラバンド
12 ガヴォット
13 メヌエットⅠ、Ⅱ
14 ブレー
15 ジグ

16 カナリオス(サンス)

17 メヌエット(ラモー)

18 19 サラバンドとドゥーブル
   無伴奏ヴァイオリン・パルティータ第1番より(バッハ)

20 アルマンド~リュート組曲第1番(バッハ)

21 ブレー~リュート組曲第1番より(バッハ)

22 プレリュード~チェロ組曲第1番より(バッハ)

23 練習曲イ長調作品6-12(ソル)

24 メヌエットニ長調作品11-5(ソル)

25 メヌエットイ長調作品11-6(ソル)

 ソナタ第1番ホ短調(アルベルト)
26 第1楽章 力強く活発に
27 第2楽章 ゆっくりと温かさを持って
28 第3楽章 ロンド~速く




第1回ICGアンサンブル演奏会


 11月29日(木)14:00

 茨城県石岡市 ギター文化館

 入場無料




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 以前もご紹介しましたが、来週の木曜日、ギター文化館でICGアンサンブル演奏会を行います。 

 ICGアンサンブルとは、茨城大学クラシック・ギター部、1969年入学のOB、7名(私を含めて)によって、今年結成されたアンサンブルです。

 私以外の6名のうち、しばらく前からギター合奏、あるいはマンドリン合奏などを行っている人が3人、2,3年前からギターを再開した人が一人、昨年から復活した人が2人という内容です。

 気持ちだけは現役時代に戻っているのですが、耳や、指、頭などがそれに追いつくには、ちょっと時間が必要なようですね。

 プログラムは以下の通りです。



=  第  1  部  =

【合奏】
シバの女王・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ミッシェル・ローラン
子守唄・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ヴィルヘルム・タウベルト

【独奏   中村俊三】
タンゴ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・フランシスコ・タレガ
アラビア風綺想曲・・・・・・・・・・・・・・・・・フランシスコ・タレガ
カディス(スペイン組曲作品47より)・・・・・・・・・・・イサーク・アルベニス

【合奏】
*マイアミビーチ・ルンバ・・・・・アーヴィング・フィールズ



=  第  2  部  =

【独奏   圷 英子】
月の光・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・クロ-ド・ドビュッシー

【二重奏   中村俊三   圷 英子】
紫陽花・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・莉 燦馮(リ・サフォン)
プレスト(セレナード第3番ト長調より)・・・・・・・・・・・・フェルナンド・カルリ

【合奏】
サラバンド(組曲第11番より)・・・・・・・・・ゲオルク・フリードリヒ・ヘンデル
フーガBWV578(原曲ト短調)・・・・・・・・・・・ヨハン・セバスティアン・バッハ
グランソロ作品14・・・・・・・・・・・・・・・・・フェルナンド・ソル



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<ICGアンサンブル メンバー>

圷  英子 (教育学部卒)
和田 晴夫 (人文学部卒)
谷津登喜子 (教育学部卒)
中村 俊三 (理学部卒)
堀内眞理子 (教育学部卒) 
福間 敏明 (理学部卒)
佐々木廣子 (教育学部卒)




パーカッション(*マイアミビーチ・ルンバ)

圷  文雄
木坂 恵子
熊谷 義直 
高橋美千代



アンサンブル 002 
  47年前の定期演奏会




ぜひご来場を!

なお、パーカッションで共演していただくのは、私たちの先輩(茨大クラシック・ギター部OB)などです。

入場無料(入館料もなし)ですので、ぜひ足をお運びいただければと思います。
美術の沖山先生 9






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全校生の前で校長先生から

 それから何日かして、今度の美術展で入賞したナカムラ君たち二人が、全校生約1000人の前で校長先生から表彰されることになりました。

 これまで特に目立つこともなかったナカムラ君にとって、全校生の前で校長先生から賞状をもらうなど、小学校の卒業式以来です。



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ご祝儀袋が二つ!

 全校生の前で校長先生から渡されたのは賞状だけでなく、二つのご祝儀袋もありました。

 その一つには中学校の名前が書かれていて、もう一方には町の名前が書かれていました。

 その中を見るとそれぞれ、中学生のお小遣いからすればかなりの高額の現金が入っていました。

 もちろんナカムラ君はたいへん驚きました。  




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 このようなことが一般的に行われているのかどうかわかりませんが、少なくともナカムラ君はこのようなこと見たことも聴いたこともありません。


 ・・・・・こんなことってホントにあるんだ。 これ(美術展で金賞をとること)は、よほど凄いことなのかな・・・・・・





賞状を貰う以上に

 やはりナカムラ君としては、彼の版画がデパートに飾られたり、賞状を貰ったりするより、お祝い金を貰ったことの方がずっと衝撃的だったようです。

 しかしその金額はナカムラ君が日頃手にするお小遣いからすると、はるかに高額だったので、彼自身では使うことも出来ず、母親にそのまま渡し、最終的には高校入学の費用などに用いられたようです。

 


オレ、なんか、凄いことやったみたい、 オレって天才?

 沖山先生に 「お前の版画が金賞を受賞した」 と言われた時には、なんのことかさっぱりわからなかったのですが、校長先生から表彰されたり、高額のお祝いをもらったり、さらに小さくですが、新聞にも自分の名前が載ったりすると、ナカムラ君もだんだんと、何か凄い事をしたんだなと思うようになってゆきます。



・・・・・・オレ、なんか凄いことやったみたい。 美術展で金賞を取るということはとても凄いことみたいだな。

 大勢の前で賞状をもらうなんて、ちょっと恥ずかしかったけど、なんか、お金までもらって。

 それに、新聞に自分の名前が載るなんて、なんか変な感じ。

 ともかく、今まで経験したことのないことばかり。

 オレは絵が下手だと思っていたけど、それって思い込みだったみたいだ。

 今まで全然気が付かなかったけど、オレって美術の才能があるみたい。 

 いや、間違いない。 オレが言うんじゃなくて、みんながそう言うんだから・・・・・・




 もちろん、これまでの話からおわかりのとおり、彼が美術展で金賞になったのは、当然のことながら沖山先生の、たいへん熱心で細かい指導によるものです。

 何といっても、最後の仕上げはナカムラ君ではなく、沖山先生が行ったわけですから。

 ナカムラ君がしたことと言えば、ただ沖山先生のいうことを忠実に行っただけ。

 しかし当のナカムラ君は、学校を挙げてのお祝い気分に、いつのまにかそんなことも忘れてしまい、自分の力で賞を勝ち取り、さらに自分には美術的才能があるとまで、思うようになってゆきます。





沖山先生の記憶がない

  彼には職員室でお礼を言ってから、つまり校長先生から表彰されたりするようになってからの、沖山先生の記憶が不思議なくらいありません。 

 もちろんまだ美術の授業は続いていましたが、その頃にはすでに高校入試が近づいて、沖山先生の美術の授業でも何か作品を作るということはなくなり、入試対策のようなことが行われていたのでしょう。

  そうしたことで授業中の沖山先生の言葉も、ナカムラ君には記憶に残りにくかったのでしょう。

 またなんといっても沖山先生からも、その頃になると、ナカムラ君に個人的に言葉をかけたりすることがほとんどなくなっていました。 

 特に「おめでとう」 とか 「よくやったね」 といったような言葉は一切ありませんでした。
 
 そんな、こんなで、いつの間にかナカムラ君は校長先生から賞状や、お祝い金をもらったことは強烈な印象として残ったのですが、その一方で沖山先生の存在は、だんだんと小さくなってゆきました。



美術の沖山先生 8




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レストランで

 展示会場の中の版画を一通り見終えると、ナカムラ君たち二人は、先生にお昼をごちそうになることになりました。

 彼にとって、デパートのレストランなどには、そう滅多に行けるものではなく、まさにあこがれの世界でした。 

 テーブルをはさんで、窓際のナカムラ君の正面には沖山先生、その隣に男性。 ナカムラ君の右側には女子が座りました。

 先生から 「好きなもの注文しなさい」 と言われ、彼は女子と一緒にメニューを見たのですが、二人とも何を頼んでいいか全くわからず、結局、沖山先生が男性と相談して注文を決めてくれました。

 しばらくして、いかにも豪華で、美味しそうな料理が運ばれてきました。 

 ご飯が皿の上に載っていて、ナイフとフォークが付いてきました。



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フォークの背にライスを乗せて

 ナカムラ君は  ・・・・・確か、こういう時は、こうやって食べるんだったな、テレビで見た気がする。

 ちゃんとしたマナーで食べないと恥ずかしいからな・・・・・ 

 と、フォークの裏側にナイフでご飯を載せて食べ始めました。 それを見た沖山先生は、



 「お前、なかなか器用なととするな」



 と男性と一緒に笑っていましたが、ナカムラ君にはその意味がよくわかりませんでした。 

 しかし坊主頭でメガネの中学生が、不慣れな手つきでナイフでフォークの背に、ご飯を載せて食べている姿は、ちょっと滑稽に見えたでしょう。

 因みに、今現在ではこうしたことは誤ったマナーだとか、いやイギリスではそういう作法もある、などいろいろ言われていますが、もともとヨーロッパでは白いご飯が平皿の上に乗って出てくることは、まずないので、“正しいライスの食べ方”というのは特にないようです。 好きなように食べればいいようですね、余計な話ですが・・・・・






家に帰って

 家に帰ってナカムラ君は母親にその日のことを報告しました。



 「その美術の先生、沖山先生っていうのかい?  若い女の先生?

 へえー、 そうかい、 見た目はきれいだけど・・・・

 なるほど、そうなのかい、もったいないねえ。

 でも、まあ、その先生にはよく教えてもらって、賞にまで入れてもらって。

 ちっちゃい頃から絵が下手なお前がねえ、小学校の時なんか、いつも通信簿が2か3だったのにねえ。

 お前は、字も下手だけど、絵はもっと下手だったのにねえ、ウソみたいだね、ホントに。

 それに宇都宮に連れってもらって、お昼までごちそうになっちゃって、本当に済まないねえ、その先生には。 

 それで、どんなものごちそうになったんだい」



 「なんだか、よくわかんない」




それ、カツ・ライスって言うんだべ

 側にいたナカムラ君より14歳ほど上の兄が、


 「どうせお前らガキに食わせんだから、お子様ランチに決まってるべ。 旗ついてなかったか? 旗ア?」



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 「旗? 旗なんかあったかな・・・・・・   トンカツあった、でっかいの。 銀色の皿に乗っかってた、ご飯も。 うまかった」



 「そらあ、カツ・ライスって言うんだべ」



 「カツ・ライス?   オレ、ちゃんとナイフとフォークで食べた。   沖山先生、器用だって。

 沖山先生、男の人と一緒だった。   知らない人。   どっかの学校の先生みたい」



 「旦那さんなんじゃないの?」



 「そうかなあ、沖山先生、結婚しているって聞いたことないけど」



 「彼氏だ、彼氏。 彼氏に決まってるべ」



 「じゃないかな。 背高くて、カッコいい」



 「そう、 それじゃあ、結婚も近いのかも知れないね。  それにしても、そんなものごちそうになっちゃってすごいね。

 明日学校に行ったら、すぐに先生にお礼言うんだよ、すぐに職員室に行って」



 「そうだ、ちゃんと言っておけ、ちゃんとな。 

 先生だって、たいへんだべ、、いろいろとな」



 「丁寧にね、親から言われてきたってね」 





次の日職員室で

 母たちの言う通り、彼は翌日学校に行くと、ナカムラ君はすぐに職員室の沖山先生のところに行きました。

 沖山先生は机に向かって何か書き物をしているようでした。



 「沖山先生!」


 とやや背中越しに声をかけると、沖山先生は一瞬振り返り、



 「おう、ナカムラ。 どうした?」


 そう言うと、先生はまた机の方に向いて仕事の続きを始めました。 



 「先生、 あの、 さっ、 昨日はホントに ありがとうございました。

 宇都宮まで連れて行っていただいた上に、 あの、 お昼までごちそうになりまして。

 家のりょっ、両親からも、くれぐれも先生にお礼を言うようにと言われてきました。

 それから、 あの、 いつも本当に丁寧に、 ごっ、 ご指導、 くださいまして。  今度ののことも、 あの」



 沖山先生はナカムラ君の方には振り向かず、そのまま書き物を続け、少し間をとりながら、



 「バカに丁寧だな・・・・   今日は・・・・・    いいよ・・・・・    別に・・・・・・ 」



 「ハイ」



 「・・・・・・・・教室に戻りな」



 「ハイ。  ほっ、 本当に、 ありがとうございました」




なんだか、ほんわりした感じ

・・・・・やっぱり沖山先生と話をするのは緊張するな、最近少し慣れてきたはずだけど。 

 でもなんか、ほんわりした感じだな、今日は。

 沖山先生、なんだか照れ臭そう。

 もしかしたら、お礼言われたりするの、苦手なのかな?
美術の沖山先生 7







版画の授業

 デッサンの授業が終わると、版画の授業となりました。ナカムラ君はそれまで版画なんてお正月の年賀状にするものくらいにしか思っていませんでした。

 しかし沖山先生の授業を受けて、版画のイメージが全く変わりました。

 版画は白と黒だけで表現するので、デッサンの延長でもありました。 これまでデッサンの指導を受け、多少なりとも身に付けたものが役に立つわけです。

 しかし鉛筆でのデッサンの場合、同じ白黒でも濃淡をつけることが出来るのですが、版画には完全に白と黒しかありません。その点がデッサンとは異なる訳です。



限られた方法の中で

 しかし版画は、その限られた手段の中で、デッサン同様にものの形だけではなく、質感も表さなければならないという訳です。

 まずは下書きとしてデッサンから始まるわけですが、デッサンをするためには、しっかりと対象を見なければならない、つまりずっと見続けられるものを題材としないといけなかったので、ナカムラ君は鏡で見られる自分の顔を題材に選びました。

 そして背景として二人の友達と教室の壁などを描くことにしました。

 下書きのデッサンのほうは特に問題なく出来ましたが、実際に版画版にそれを貼って彫り始めるとなると、ナカムラ君には全くやり方がわかりません。

 彫刻刀の基本的な使い方なども全くわからなかったナカムラ君を、沖山先生は丁寧に指導し、時々自ら彫刻刀で彫って見本を示しました。



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いつもは怖いと思っていた沖山先生が

 沖山先生は文字通りナカムラ君の手を取りながら、細かく教えた訳ですが、そんな時、ナカムラ君はなぜか沖山先生を怖いとは思いませんでした。

 沖山先生が指導した内容と言うのは、大まかに言えば、細かい線を1本、1本重ねて、本来ないはずの濃淡を表すわけです。

 たいへん細かく根気と集中力の必要なことで、失敗はゆるされません。 




もともと嫌いだったが

 それまでの彼だったら、こういった細かいことをやるのは大嫌いだったのですが、この時点では、そうしたことを全く苦痛と思わず、慎重に根気強く行うことが出来ました。 

 そうしているうちに、その質感や立体感などがだんだん表われるようになり、ズボンの皺やふくらみ、机の硬さ、顔の皮膚の質感、後の友達との距離、そんなものがだんだんと表れてきます。

 そうなると彼はますます作業が楽しくなって、家に持ち帰って続きをやったりしていました。  




いよいよ出来上がって

 1枚の版画にしては、かなりの時間と労力を使いましたが、いよいよ出来上がって、先生から 「何とか展に出すから、提出するように」 と言われました。

 彫り終わった版画版に墨を塗り、慎重に紙をのせて刷りました。

 刷り上がってみると、自分の姿が、ちゃんと自分らしく見えて、また机や背景もそれぞれよくわかるようになっていて、立体感や、質感、距離感なども出ています。 

 ナカムラ君は自分でもなかなかよく出来たなと、感激でした。 



ナカムラ君が刷った版画を見るなり

先生のところに持ってゆくと、沖山先生は彼の刷り上げた版画を見るなり、

 「薄い! ダメだ! もっと墨を塗れ! もう一度やり直してこい!」

 とたいへん強い口調で言いました。 

 ナカムラ君はそれをたいへん意外に思いました。

 ナカムラ君自身ではたいへんきれいに仕上がったんじゃないかな、と思いましたが、もちろん沖山先生の言葉に異を唱える選択肢など、彼にはありません。

 先生に言われたとおり、彼は先ほどよりは多少、多めに墨を塗って刷り、再度先生のところに持ってゆきました。




全然ダメだ、版画版持ってこい!

 「全然駄目だ!  版画版、持ってこい!」

 ナカムラ君は席に版画版を取りに戻り、それを先生に差し出しました。

 沖山先生はその版画版を素早く受け取ると、これでもかとばかりに大量の墨を塗り始めました。



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え、そんなに塗るの?

 ・・・・・え、そんなに塗るの?・・・・

 と彼は驚きました。

 先生は版画版にたっぷりと墨を塗り終えると、その上に用紙をのせ、“ばれん”で手際よく刷り上げました。

 先生が刷り上げたものをみると、なんか真っ黒で、ちっともきれいには見えません。

 それに墨を塗り過ぎたため、せっかく時間をかけて彫った細部などにも墨が入ってしまい、よくわからなくなっているところもあります。 

 ナカムラ君にはどう見ても先生が刷ったもののほうが良いようにはみえませんでした。

 「これを出す! いいな」

 と、沖山先生は自ら刷った彼の版画を持ってゆきました。




沖山先生の見る目って、変わっているな

 ・・・・・・先生が刷ったやつ、なんか真っ黒で汚らしいな。 それにせっかく時間をかけて彫ったところ、よくわかんなくなってるし。 

どう見ても自分で刷ったほうがきれいで、上手そうに見えるんだけどな。 

 でも、先生がいいって言うんだから、まあ、いいか、オレ、別にどっちでも構わないし。 

ていうか、逆らう訳にもゆかないし。それにしても先生の見る目って、だいぶ変わっているな・・・・・  


 とナカムラ君は思いました。



終わったら忘れてしまった

 版画が出来上がって、先生に提出し、版画の授業が終わると、ナカムラ君はもう版画のことなどどこかに行ってしまい、“何とか展に出す”などと言うことも、後で先生から受賞したことを知らされるまで、完全に忘れていました。

ミニ紅葉





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 家の前の空き地の木が紅葉しています。 こんなところに紅葉する木なんてあったかな? 

 何の木かわかりませんが、こんなにきれいに色ずくのはあまり見たことがありません。 




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 このところ、一日の気温差が大きくなっているせいでしょうか。 普段は紅葉しない木も、思わず紅葉してしまったのかも知れません。

 こんなところで紅葉が見られるくらいですから、今年は大子や北茨城など、各地で美しい紅葉が見られそうですね。

 残念ながら今年はどこにも行く予定がありません。



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菊の方はイマイチかな


美術の沖山先生 6

  =美人教師とメガネの中学生のお話=




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2組のカップル

 ナカムラ君たち4人は、デパートの最上階に設けられた県の美術展の会場内を、展示されている作品見ながらゆっくりと歩いていました。

 先生たち二人は寄り添うようにして前を歩き、その少し後ろを小柄で可愛らしい女子中学生と、メガネで坊主頭の男子中学生の2人が並ぶようにして歩いています。 


 ・・・・先生たちは誰が見ても美男、美女のカップルだな。  オレたち4人、他の人が見たら2組のカップルに見えるかな?

  オレとこの女子も中学生のカップルなんちゃって?  知らない人が見れば。  きっと。

  いや、そんな風に見えるはずないか、こういうの妄想って言うんだな・・・・・・ 



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ほとんどしゃべんネかった?

 後で、クラスの仲間にその女子も一緒に宇都宮に行ったことを言うと、


 「オンメエ、 2年4組のシノダ・キョウコちゃんと一緒に宇都宮に行ったってカイ?  トーブ・デパートに?

 いいなあ、オンメエ。  かわいいべ? キョウコちゃん。  みいんなそう言っているべヤ。 

 そういや、7組のアオキ、あいつ、キョウコちゃんに夢中になっちってよ、結局フラれちったけど。

 他にも何人かいるべ、あの子に気があんの。

 で、何話ししたん? キョウコちゃんと。 今度どっかで会うべ、とか言ったんカイ?

 え? ほとんどしゃべんネかった?  なんでヨ?」



 どうやらかなりモテる子のようでした。 





先生たちの会話

 ナカムラ君は、聴くとはなしに、前を歩いている先生たち二人の会話を聴いてしまいました。

 話の感じからすると、その男性もどこかの学校の美術の先生のようです。

 しかしどうもその男性と話している時の沖山先生は、今まで彼の知る沖山先生とはだいぶ違う感じでした。


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あくまで聴き手に

 沖山先生は、前にも言ったとおり、ナカムラ君たち生徒の前では乱暴とも言える男性的な話し方で、また常に自信を持って断定的に話し、曖昧な言い方は殆んどしませんでした。

 でも、この時の沖山先生の言葉は全然そんな感じではありません。

 何といっても沖山先生は、あくまで聴き手になっていて、あまり自分の考えや、意見を言っているようではありません。

 その男性の考えを尊重しているというのか、要するに”立て”ている感じです。

 そして、何といってもその声そのものが、いつも聴いているあの沖山先生の声とは違っています。

 彼は、こんな沖山先生今まで見たことがありません。




 「ねえ、これ、どう思う?」

 「ウウン、まあ、いいんじゃないかな。 質感とかはよく出ているね。 でもちょっと構成、弱いかな。 上手だけどね。 僕はそう思うね」

 「そう、やはりそう思う? じゃあ、こっちはどう?」

 「ウン、こっちの方がいいよ、絶対にね。 表現が強いし、勢いもあるね。 こういう表現なんか、なかなか出来ないと思うよ」

 「そうね、確かに力強いね」




聴いてはいけない大人の会話

 ・・・・・なんだか沖山先生の声は、いつもの声と違っている。  沖山先生もやっぱり女性なのかな・・・・

 ナカムラ君はそんな風に思い、ちょっとくすぐったいような違和感というのか、あるいは聴いてはいけない大人の会話を聴いているような感じというのか。

 そんな気がして、前を歩いている先生たちとの距離を少しとりました。
美術の沖山先生 5


  =美人教師とメガネ中学生のお話=




人は物を見る時、先入観で見ている

 沖山先生は美術の授業でナカムラ君たちに次のように話しをしました。




 「人は物を見る時、客観的に見ているようで、かなりの部分思い込みや、先入観で見ている。

 いや、ほとんど思い込みだけで見ているといってもよい。 

 デッサンを行うには、まずその思い込み、先入観をすべて捨て去らなければならない。

 その対象をありのままに見る。 ただそれだけのことだが、それが最も大事なことだ。

 それがデッサンすることの最大の目的といってもよい。



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顔を無意識に大きく書いてしまう

 例えば、人物画を描く時、たいていの人は顔に比べると、手を小さく描いてしまう。

 自分の手を顔に当てて見なさい。 手は顔のほとんどを包むことが出来るくらい大きいことがわかるだろう。

 でも人間は顔の意識の方が高い、顔の方がより重要に思うので、自然に大きく描いてしまう。

 デッサンは白と黒の濃淡だけで表現する。 明暗だけで表現するわけだ。

 デッサンとは観察することがすべてだ。 デッサンを行うのは、観察眼を鍛えるためでもある。



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私たちが見ているは対象そのものではなく、反射した光を見ている

 どのように光が当り、どのように反射しているかをよく観察しなさい。

 全く同じものでも光の当たり方で全く違うものになる。

 白い花瓶が常に白いわけではない。 光のあたり方次第で黒にも、グレーにもなる。

 赤や青にだってなる。 私たちが見ているのは対象そのものではない、その対象が反射した光を見ているのだ。



その性質も表現しなければならない


 デッサンはその形だけでなく、その性質も表現しなければならない。

 硬いものなのか、柔らかいものなのか。 重たいものなのか、軽いものなのか。 温かいものなのか、冷たいものなのか」




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それまでのものとは全く違った

 沖山先生が、実際にどのような言葉で話したかは正確でないとしても、ナカムラ君は沖山先生の授業からこのようなことを学びました。

 特に、「描くことよりも観察することが重要」 と言ったことがナカムラ君にとっては最も記憶に残りました。

 そして、何といっても、沖山先生が言った通りにデッサンをしてみると、確かにそれまでナカムラ君が描いてきたものとは、全く違ったものになってゆきました。

 それまで絵なんて自分にはまともには描けないものと思っていましたが、こんな自分でも、正しいやり方でやれば出来ないものではないと思うようになりました。



よりいっそう真剣に沖山先生の話を聴く

 そして、何かこれまでにはなかった別の世界が開けたような気がして、デッサンも、また沖山先生の美術の授業もとても楽しいものになってゆきました。

 そして、いっそう沖山先生の話を真剣に聞くようになってゆきました。 沖山先生の話のひとこと一言を漏らさず聴き取り、すべて記憶に残そうとしました。




それまでの授業態度からすると

 授業中先生の話を真剣に聴くなどと言うことは、普通当然のことと思いますが、それまでのナカムラ君の授業中の態度からすれば、まさに革命的な出来事と言ってよいでしょう。 

 恐らくクラスの誰よりも、また10数年の彼の人生の中で、最も真剣に先生の話を聴いていた時期であり、先生を本当に信頼することを初めて経験したとも言えます。

 

美術の沖山先生 4

 
=美人教師とメガネ中学生のお話=




小学生の頃は授業中に先生の話を聴いていなかった

 ナカムラ君は小学生の頃は授業中、先生の話をちゃんと聞く子供ではありませんでした。

 ほとんどの授業で、先生の話はあまり聴かず、よそ見をしていたり、ノートに落書きしたり、あるいは授業の進行とは関係なく、教科書の他のページを読んだり、時には算数などの好きな問題を解いたりしていました。

 時にはナカムラ君の頭の上に、いきなり先生の“げんこつ“ が飛んでくることがありましたが、それでも直りませんでした。



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教科書をなぞっているだけだし

 当時の小学校の授業では、たいていの場合、先生の話は教科書をなぞったものが主だったので、

 ・・・・・先生の言っていることは全部教科書に書いてあるし、別に話を聞かなくてもいいかな。 あまり面白くもないし・・・・・

  などとナカムラ君は思っていました。



最初に教科書を全部読んでしまう

 ナカムラ君は小中学生の頃、ほとんど家では勉強しませんでした。 なおかつ、授業中も先生の話を聴いていませんでした。

 でもナカムラ君は本当に勉強が嫌いな訳ではなく、学年の始めに教科書が配られと、全部の教科を一通り読んでしました。

 一通り読むとそれで気が済むのか、その後読み直すことはあまりありませんでした。

 そしてあとは授業中先生の話を聴いているような、聴いていないような、という訳ですが、あらかじめ読んであるので、先生の話はだいたい理解出来ていました。




テストのための勉強はしない

 ナカムラ君は、特にテストで点を取るための勉強というのを毛嫌いしていて、テストが近づくと、いっそう勉強しなくなります。

 というのも、彼はテストの前だけ勉強するなんて正しいことではない。

 テストは日頃身に付けた実力を試すもので、テストに関係なく、内容を本当にに理解することが最も重要だと考えていました。

 もっとも、日頃もあまり勉強していなかったのですが、テストで多少悪い点を取ってもほとんど気にすることはありませんでした。 

 


沖山先生が怖かったので

 中学校に入っても基本的にそうしたことは変わりませんでしたが、沖山先生の授業は、ともかく怖かったので、ウソでも聴いているふりだけはしてないといけませんでした。

 よそ見や、落書きなど、もっての外!




その乱暴な言葉使いとは裏腹に

 沖山先生の授業は、最初のうちはただ怖いから聴いていたのですが、そうしているうちに沖山先生の話は、その乱暴な言葉とは裏腹に、非常に理路整然としていて、たいへん筋道と通ったものであることに気付くようになりました。

 何といっても、沖山先生の話は、決してどこかに書いていることをそのまま言っている訳ではなく、先生自身の、たいへんしっかりとした考えに基づいて、話をしているということを、ナカムラ君は気付きました。




数学や理科の授業よりも論理的

 沖山先生の話は、美術の授業ではあっても、数学や理科の先生よりも、むしろ論理的で、一貫性があるように感じられました。 

 彼にとって美術はこれまであまり興味のない科目でしたが、沖山先生の授業を受けているうちに、だんだんと興味が湧いてきました。



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いつも絵が下手だと言われていたので

 それまで絵を書くことなんて、特に方法がある訳ではなく、上手な人は最初から上手で、自分のような下手な人は、どんなに頑張っても上手に描けるわけはないと思っていました。

 なんといっても、ナカムラ君は小学生の頃、いつも先生から 「お前は絵が下手だ!」 と言われ続けてきたので、自分でも絵は苦手なものと思い込んでいたのも確かです。



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そんなところに線なんてあるか?

 沖山先生の美術の授業は、デッサンから始まりました。 デッサンとは、まずその対象よく見ること、観察することだと沖山先生は強調しました。

 そして生徒一人ひとりのところにやってきて、細かく指導していました。 ナカムラ君の描きかけのデッサンを見て、


 「お前、そんなところに線なんてあるか?」

 「確かに、花瓶と背景に境界はある。 でも、その境界に線なんてあるか?」

 「それはただの思い込みだ。 線なんてどこにもないし、見えない。 ないものを描いてはいけない! 見えないものを描くのはデッサンではない!」


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ただの思い込みだと気づく

 花瓶を描くのだから、まず、花瓶の形を線で描く、ナカムラ君にとって、それはあまりにも当たり前のことと思えました。

 最初のうちは先生が何を言っているのかわかりませんでしたが、よく見れば確かに花瓶に線はない。

 あるとすれば、自分の頭のなかで勝手に作りだしたものだということが、だんだんわかってきました。

美術の沖山先生 3

   =美人教師とメガネ中学生のお話=




待ち合わせの駅で

 ナカムラ君は次の水曜日の朝、家の近くの駅から一駅ほど電車に乗り、待ち合わせの駅に行きました。 

 ホームに降りると、ナカムラ君と同じ中学校の制服を着た女の子がいました。


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 リボンの色で2年生だということがわかり、今日一緒に行くことになっている女子に間違いないかなということで、その女子のほうに少し近寄り、

 
 「あの、シノダさんですか? 2年生の?」 


 「ハイ」


 「あの、ナカムラです、3年の、一緒に行くことになっている・・・・     あの、沖山先生は?」


 「沖山先生は、まだ来てないみたいです」


 「そうですか」



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長身のイケメンと

 ナカムラ君は、また少し距離をとり、線路の方に向き直りました。

 それから数分後、沖山先生が改札口の方から現れました。 沖山先生は一人ではなく、男性と一緒でした。

 その男性については、「この人も一緒に行くことになったから」  と沖山先生はナカムラ君たちに言っただけで、それ以上の詳しいことは言いませんでした。

 その男性は長身の沖山先生よりさらに長身で、今の言葉で言えばかなりの “イケメン”。

 沖山先生とは、よく似合う感じでした。 その親しげな様子に、  ・・・・・きっと彼氏か、婚約者なのかな?・・・・・ ナカムラ君は思いました。 



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美術展の会場

 ナカムラ君たち4人は電車に乗ると、特に会話もなく30分ほどで宇都宮の駅に着きました。

 美術展の会場となっているデパートは、駅舎と一緒になっていて、会場はその最上階にありました。

 エレベーターを降り、先生たちの後を歩いて行くと、版画のコーナーとなり、ボードや壁に非常にたくさんの版画が掛けられていました。

 ナカムラ君にとって、ともかく美術展などと言うものは、はじめての経験。 目はキョロキョロするも、どこに焦点をあわせてよいやら。 



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教室の風景

 想像以上に会場は広く、・・・・・・県の美術展って言うのは、本当に大きな催しなんだな・・・・・と思いました。

 それらをゆっくりと歩きながら見てゆきましたが、・・・・・やはり入賞作品は凄いな、銀賞とか銅賞でもすごく上手だ・・・・・  

 金賞受賞作品は会場の奥の方にありました。


 「お前の版画、あそこにあるだろ」


 沖山先生が指さした方向に、ナカムラ君が描いた版画が掛けてありました。

 その版画には「教室の風景」と題名が付いていました。

 沖山先生が付けたのでしょう、彼は自分の版画がこのような題名になっていることを、ここで初めて知りました。 




こんなところで見るなんて

 ナカムラ君は自分が描いたものをこんなところで見ることが、とても不思議な感じでした。

 そして、なんだか自分が描いたものではないようにも思えました。

 その版画はA3よりやや大きいくらいのもので、版画としては大きめなものです。




自分で考えたように思っていたが

 基本的には自画像で、中央やや右下に机に座っているナカムラ君が左を向いたように描かれ、その空いた左上のスペースには、クラス・メイト二人がお互い言葉を交わしているように描かれています。

 人物や物の立体感、衣類や皮膚などの質感、人物と背景との距離感なども表現されています。
 
 もちろんすべて沖山先生の決め細かく、適切な指導によるものです。

 ナカムラ君としては題材の選択から構図など、自分で考えたように思っていましたが、実際には沖山先生の巧みな誘導によるものと言えます。