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中村俊三 ブログ

中村ギター教室内のレッスン内容や、イベント、また、音楽の雑学などを書いていきます。

バッハ:無伴奏チェロ組曲 3



バッハには4つの ”リュ-ト組曲” があるが

 前回の記事で、バッハの 「組曲」、すなわち 「Suite」 は、 「アルマンド」、「クーラント」、「サラバンド」、「ジグ」 の4つの舞曲を基本とし、それにプレリュード、およびメヌエット、ブレー、ジグなどの舞曲を挿入したものだということを書きました。

 Suite は、ただいくつかの曲を組み合わせたものという訳でなく、細かい規則があります。

 似たようなものでも「ソナタ」や「パルティータ」などとは厳密には異なる訳です。 

 そこで、私たちギターをやるものにとって、たいへん親しみのある、バッハのリュートのための作品についても若干触れておきましょう。

 バッハのリュートのための作品には、「プレリュード、フーガ、アレグロBWV998」 などの他に、4つの組曲として知られているものがあります。



ブルガーによって付けられた番号

 これらの4つの組曲については、当ブログを読んでいる方はご存じと思いますが、第1番(BWV996)はホ短調、 第2番(BWV997)はハ短調、 第3番(BWV995)ト短調、 第4番ホ長調(BWV1006a)となっています。

  第1番と第2番はラウテンヴェルク(リュート・チェンバロ)のために書かれ、第3番は無伴奏チェロ組曲第5番の編曲、 第4番は無伴奏ヴァイオリン・パルティータ第3番の編曲です。

 この第1~第4という番号は、バッハが付けたものではなく、20世紀のリューティスト、および音楽学者の ハンス・ダーゴベルト・ブルーガー が1921年にバッハのリュートのための作品集を出版した際に付けられたものです。



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1960年代に全音から出版されたブルガー編のバッハ:リュート作品集。 当時としては画期的なものだったが、誤植などもあり、現在では最良の資料とは言えなくなっている。



1920年代としては画期的なものだったが

 この曲集には現在バッハのリュートのための作品とされているものがすべて含まれ、まだバッハの作品の研究が十分でなかった当時を考えると画期的なもので、たいへん貴重だったものといえるでしょう。

 しかし、このブルガーの付けた番号にはあまり根拠らしいものはなく、最近ではあまりこの番号で表記されることがすくなくなり、その代わりに、BWV番号などで表記されることが多くなりました。
 
 また、 「4つの組曲」 と言われていますが、この中には組曲、つまりSuiteではないものが含まれています。



ホ短調BWV996(第1番) 

 4つの組曲を詳しく見てゆくと、まず「第1番」、 正確には 「ホ短調BWV996」 に含まれる曲は 「プレリュード ~正確にはパッサジオとプレスト」、 「アルマンド」、 「クーラント」、 「サラバンド」、 「ブレー」、 「ジグ」 の6曲。

 確かに Suite の基本の4曲(アルマンド、クーラント、サラバンド、ジグ)を含み、 「プレリュード」が 「パッサジオとプレスト」 となっている以外は、チェロ組曲第3,4番と同じ構成になっています。

 実筆譜は存在しないようですが、曲の構成から見て 、Suite  と考えて間違いないでしょう。



ト短調BWV995(第3番) 

 「第3番BWV995」 はもともと無伴奏チェロ組曲第5番のわけですから、これも問題なく Suite でしょう。



ハ短調BWV997(第2番)

 この曲は旧バッハ全集では Suite となっていて、現在出ている多くの出版物なども Suite としてありますが、 曲の構成を見ると  「プレリュード」 、「フーガ」、 「サラバンド」、 「ジグ」 の4曲となっています。

 これは明らかにバッハの Suite には当てはまりません。 

 この曲についてはバッハの実筆譜は残されてなく、いくつかの写譜があるだけなのですが、その中の一つで、リューティストの ヴァイラウホ のタブラチュアには ”Partita” と書いてあります。

 従って、この曲はSuite ではなく、 Partita と考えるべきでしょう。  実際に、最近のCDや楽譜などでは Partita となっています。

 組み合わせを見ると 「ソナタ」 と 「Suite」 の中間のような感じですね。



ホ長調BWV1006a(第4番)

 「第4番BWV1006a」 はどうかというと、これはもう最初から結論は決まっていますね。

 もともと 「無伴奏ヴァイオリン・パルティータ第3番」 なのですから、 リュートのためにアレンジされてもパルティータには変わりありません。

 因みに曲の構成は 「プレリュード」、 「ルール」、 「ガヴォット」、 「メヌエット」、 「ブレー」、 「ジグ」 の6曲です。

 同じ舞曲でも、最後のジグを除いて、アルマンドやクーラントなど、Suite に含まれる基本の曲よりも、「ガヴォット」や「メヌエット」のような、いわばオプショナルの曲が多いのも、おそらくSuiteと区別するために、意図的に行っているのでしょう。

 Suite の意味を知っている人ならば、この曲が ”組曲” と呼ばれることについては違和感を感じるのではと思います。



表紙がなくなってしまい、何の楽器のための作品だかわからなくなってしまった

 この曲がなぜ Suite になってしまったかというと、 この曲にはバッハの実筆譜が残されているのですが、その曲名が書いてあるはずの表紙がなくなってしまったようです。

 したがってかつては、この譜面が何の楽器のための作品か不明でした。

 とりあえず2段譜で書かれているので、当初は鍵盤楽器のための作品と考えられたのですが、それにしては変だということで、一時期ハープのための作品とも言われたこともありました。

 しかしハープとしてもおかしいということで、その後リュートのための作品ということに落ち着きました。



音符が書いてあるページがなくならなくてよかったが

 たかが表紙とは言えませんね、表紙がなくなってしまったおかげで、後の人がいろいろ悩むことになるわけですから。

 でも音符が書いてあるページがなくならなくてよかったですね。

 


「リュートのための4つの組曲」 ⇒ 「リュートのための2つの組曲と、2つのパルティータ」

 以上結果の、バッハがリュートのために残したのは 「4つの組曲」 ではなく、 正確には 「2つの組曲と、2つのパルティータ」 ということになります。




そんなこと、どっちだっていい?

 え? 別に組曲だって、パルティータだってそんなことどっちだっていい?  曲名が違っても中身には変わりない!

 いちいち組曲だの、パルティータだの区別するのメンドクサイ!  たいして変わりない!

 このブログの蘊蓄ウザイ!   言葉遊びで記事をひっぱるな!

 早く本題に入れ!



バッハ自身はこれらの言葉を厳密に区別していた

 ごもっとも、ごもっとも。 おっしゃる通りです。

 確かに名前で中身が変わるわけではありません。

 演奏が良ければ組曲として演奏しても、パルティータとして演奏してもどちらでもいいには違いありません。

 ただ、 バッハはこれらの言葉を厳密に区別して用い、作曲していた。
 


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バッハ:無伴奏チェロ組曲 2



ケーテン時代の作品

 バッハの 「6つの無伴奏チェロ組曲」 がいつ作曲されたかは、あまりはっきりしないそうですが、1720年、バッハ35歳の時には、すでに完成されていたのは確かなようです。 

 この年にバッハは 「3つの無伴奏ヴァイオリン・ソナタ、およびパルティータ」 とこの「6つの無伴奏チェロ組曲」 を清書しています。

 このうちヴァイオリンのほうはバッハの実筆譜が残され、チェロのほうは妻のアンナ・マグダレーナの写譜が残されています。



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アンナ・マグダレーナの写譜(無伴奏チェロ組曲第1番プレリュード)  バッハの直筆にたいへんよく似ていると言われている



 バッハは1717年~1723年ケーテン(中部ドイツ)のレオポルド候のもとで楽長をしていいました。

 正味5年という決して長い期間ではありませんでしたが、この時期にレオポルド候の庇護もあって、特に器楽曲において数々の傑作を生みだしています。

 この無伴奏のヴァイオリンとチェロのための曲他、平均律クラヴィア曲集第1巻をはじめとする数々の鍵盤曲や協奏曲など、私たちが親しんでいる多くのバッハの器楽曲がこの時期に作曲されています。



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バッハが5年間のど過したケーテン城  この時代に多くの重要な器楽曲が生まれた。




ソナタ  パルティータ  スイーテ

 この無伴奏チェロ組曲は無伴奏のヴァイオリン曲とセットで作曲されたと考えられますが、曲の出来には若干の違いがあります。

 チェロの方はすべて ”Suite” 、つまり組曲で、 ヴァイオリンのほうはソナタとパルティータが交互に3曲ずつ作曲されています。 
 3曲のヴァイオリン・ソナタは、バロック時代の用語では ”教会ソナタ” という形で作曲されています。

 教会ソナタというのは、主に緩、急、緩、急 の4つの楽章からなり、舞曲ではなく「アンダンテ」や「アレグロ」などの曲で構成されます。



パルテータもスイーテも ”組曲” と訳されるが

 パルティータは日本語で「組曲」とも訳されたりしますが、元々は変奏曲の意味もあり、バッハの作品には実際に、変奏曲的なパルティータもあります。

 しかし次第に変奏曲的な意味あいは薄れ、”何となく” 似たような感じの曲の組み合わせとなり、さらに自由な形の組み合わせの組曲的なものになってゆきます。

 シャコンヌが含まれる「無伴奏ヴァイオリン・パルティータ第2番ニ短調」などは、この”何となく似た感じの” ものといえるでしょう(どの曲も最初の低音の動きが同じ)。

 また自由な組み合わせということで、バッハの場合ソナタ(教会ソナタ)に含まれるフーガと、通常組曲(あるいは室内ソナタ)に含まれるサラバンドやジグといった舞曲の両方を含むパルティータもあります (リュートのためのパルティータハ短調BWV997など)。


 それに対してバッハの ”Suite” は、プレリュードを除いてすべて舞曲で構成され、さらに 「アルマンド」 「クーラント」 「サラバンド」 「ジグ」 の4曲を必ず含むものとなっています。

 「6つの無伴奏チェロ組曲」 のそれぞれの構成は次のようになっています。


<第1番ト長調>

1.プレリュード
2.アルマンド
3.クーラント
4.サラバンド
5.メヌエットⅠ、Ⅱ
6.ジグ


<第2番ニ短調>

1.プレリュード
2.アルマンド
3.クーラント
4.サラバンド
5.メヌエットⅠ、Ⅱ
6.ジグ


<第3番トハ長調>

1.プレリュード
2.アルマンド
3.クーラント
4.サラバンド
5.ブレーⅠ、Ⅱ
6.ジグ

<第4番変ホ長調>

1.プレリュード
2.アルマンド
3.クーラント
4.サラバンド
5.ブレーⅠ、Ⅱ
6.ジグ

<第5番ハ短調>

1.プレリュード
2.アルマンド
3.クーラント
4.サラバンド
5.ガヴォットⅠ、Ⅱ
6.ジグ


<第6番ニ長調>

1.プレリュード
2.アルマンド
3.クーラント
4.サラバンド
5.ガヴォットⅠ、Ⅱ
6.ジグ




5曲目が違うだけ

 5曲目が違いうだけで、6つの組曲はほぼ同じ構成になっています。 すべてプレリュードで始まり、アルマンド、クーラント、サラバンド、ジグ+1曲 となっています。

 その ”+1曲” は 1番、2番が「メヌエット」、 3番、4番がブレー、 5番、6番がガヴォットと、2曲ずつセットになっています。



イギリス組曲、フランス組曲も基本は変わらない

 バッハの他の組曲といえば、鍵盤のための 「フランス組曲」 や 「イギリス組曲」 がありますが、 「フランス組曲」はプレリュードがない代わりに、基本の4曲以外に挿入される舞曲が1曲と限らず、第6番などは、ガヴォット、ポロネーズ、メヌエット、ブレーとたいへん豪華になっています。

 「イギリス組曲」 はすべてにプレリュードが付き、挿入される舞曲も1曲で、チェロ組曲と近いものになっています。

 類似したバッハの作品で 「6つのパルティータ」 というのもありますが、こちらは ”Suite” ではなく「パルティータ」 なので、組み合わせはもっと自由なものになっています。

 バッハは ”Suite" として作曲する場合は、アルマンド、クーラント、サラバンド、ジグの4曲を必ず含むものと、厳密に決めていたようです。




有名な管弦楽組曲は?

 バッハには4つの「管弦楽組曲」と言うものがあります。 英訳では 「Orchestral Suite」となります。

 この中で、有名な第2番の曲目構成を書くと次のようになります。


1.序曲
2.ロンド
3.サラバンド
4.ブレー
5.ポロネーズ
6.メヌエット
7.バディネリ




予選通過が決まった後のサッカーの試合?

 Suiteなのに、必ず含まれるべき4曲のうちサランバンドしか入っていないじゃないか、ということになりますね。

 それに 「バディネリ」 や、 「ロンド」 などバッハの曲としてはあまり聴かない曲も多いし。

 レギュラー陣は今日はお休みかな? 予選トーナメント通過が決まった後のサッカーの試合みたいに。




管弦楽組曲は Suite ではない

 バッハでも例外はあるのかといったところですが、ご安心下さい、バッハ自身ではこの管弦楽組曲を ”Suite" とは呼んでおらず、”Overture” と表記しています。



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カール・リヒターの管弦楽組曲のCD。  このCDには英語で ”Orchestral Suites” と書かれているが、バッハ自身では ”Suite" とは書いていない。



 バッハは言葉についてもたいへん厳格なんですね。

 ですから ”管弦楽組曲” というのならまだしも、 ” Orchestral Suite!” と呼んではいけないということですね。


 

バッハ:無伴奏チェロ組曲 1





「アリア」 や 「ブランデンブルク」 を知る前に

 今回から始まるこのテーマですが、まずは作品についての話から始めましょう。

 個人的な話から始めますが、私がこのバッハの無伴奏チェロ組曲を知ったのは大学以年生の時、ギター合奏で第6番の「ガヴォット」をやった時だったと思います。

 それまでバッハなどというと、中学校の音楽室にあった肖像画くらいしか知りませんでした。

 バッハの有名な曲というと、他にもたくさんあるので、何もシブイ無伴奏チェロ組曲から入らなくてもよいのに、いきさつ上、こんな曲から入ることになりました。

 また、何もわからないうちに 「シャコンヌ」 なども聴いた話も以前書きました。

 バッハの曲として一般に知られている 「ブランデンブルク協奏曲」 や 「アリア」 、 「主よ人の望みの喜びよ」 などを知るのはその後ということになります。





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高校生の頃までは、バッハは音楽室の肖像画でしか知らなかった





なんでわざわざ無伴奏って書くの?

 ところで、最初のうちは、この「無伴奏チェロ組曲」の、 「無伴奏」 と書かれている意味がよくわかりませんでした。

 チェロ1台で演奏しているのだから、別にただの「チェロ組曲」でいいんじゃないか、ギターの場合、伴奏なんかなくても 「無伴奏ギター曲」 なんて聞いたことがないし・・・・・ とちょっと疑問でした。




クラリネット5重奏曲って、クラリネット5本じゃないの?

 さらに、「ヴァイオリン・ソナタ」 というのに、なんでピアノが入るのかとか、

 また なんで 「クラリネット5重奏曲」 は5本のクラリネットじゃなくて、1本のクラリネットとヴァイオリンやチェロなどなのか、

 「交響曲第5番嬰ハ短調」 なんて、なんでいちいち調の名前をいうの?  その前に ”嬰” って何?

 クラシックの曲名は、ホントにわかりにくいですね。




カッコつけてるだけじゃないと思うけど

 しかし、よくわからなくても、「無伴奏」 なんて肩書が付くと、なんか凄そうで、いかにもクラシック音楽っていうか、名曲だなって感じがしますね、ナンカ格調高くて。

 でもカッコつけるためだけの理由で付けている訳じゃなさそうだし・・・・・・




ギターしかやっていないから?

 でも、こうした疑問は私がそれまでギターしかやっていなかったからですね。

 ヴァイオリン、チェロ、フルートなどの旋律楽器をやっている人だったら、「ナントカ・ソナタ」には必ずピアノが付くということに、何の疑問も持たないでしょう。 

 ギターは通常一人で弾きますが、ヴァイオリンやフルート、そしてチェロなどの場合は、基本的に単旋律楽器ですから、当然伴奏が付く訳です。

 音楽はメロディだけでは成り立たない、なんて音楽の授業でやりましたね。
 
 「ヴァイオリン・ソナタ」 も、正式な名称としては 「ヴァイオリンとピアノのためのソナタ」 となるわけですが、 ピアノは当然付くものなので、いちいち 「ヴァイオリンとピアノ」とはいわないわけです。




バッハの時代はピアノではなく通奏低音


 バッハの時代では伴奏はピアノではなく、チェンバロ、あるいは通奏低音ということになります。 

 従って、バッハの時代に 「チェロ・ソナタ」 あるいは 「チェロ組曲」 というと通常、チェロとチェンバロ、場合によっては 「通奏低音」 ということでさらにチェロが1本、つまり2本のチェロとチェンバロということもあります。

 そういったことで全く伴奏なしでチェロを演奏することはたいへん特殊な場合ということになります。

 もちろんヴァイオリンやフルートの場合も同じです。


 

当然のことを書いてしまったが

 当たり前のことを書いてしまいましたが、要するにバッハはたいへん ”特殊な” 曲を書いたということです。 

 「シャンコヌ」 の記事でも書きましたが、バッハの同時代に、このようなヴヴァイオリンやチェロのための無伴奏作品を書いた人がいるかどうかということですが、皆無ではありませんが、少ないのは確かです。

 ヴァイオリンの作品ならテレマンにも無伴奏の作品が残されていて、現在CDでも聴くことが出来ますが、チェロとなるとどうでしょうか、私自身では聴いたことがありません。




伴奏者のギャラを節約するため?

 では、どうしてそんな特殊な曲をバッハが書いたかということですが、それはたいへん難しいところですね、やはりバッハ本人に聞いてみるしか・・・・・・・・

 ともかくバッハはそういう人だったとか言うしかないでしょうね。

 あるいは自分以外の誰もやらない、あるいは出来ないことだから、などという理由はちょっとあるかも知れません。

 え、 伴奏者のギャラを節約するために無伴奏で書いた?  まさか!   確かにバッハは結構ケチだったというけど・・・・・・・・




”伴奏付き” も存在する

 話がそれてしまいましたが、バッハにはこの無伴奏チェロ組曲の他に、”伴奏付き” のチェロ曲も書いています。

 といっても正確にはチェロに若干近い 「ヴィオラ・ダ・ガンバと通奏低音のための3つのソナタ」 ですが、チェロでも演奏されます。

 こちらは伴奏が付く分、メロディは歌いやすく、無伴奏の方に比べ、美しく、たいへん聴きやすい曲となっています。



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シュタルケルの「3つのヴィオラ・ダ・ガンバと通奏低音のためのソナタ」。 たいへん美しく聴きやすい曲だが、残念ながら無伴奏チェロ組曲の圧倒的な存在感の前に影が薄くなっている。




 にもかかわらず、今現在人気度としては無伴奏曲のほうがずっと高いのは確かです。 

 というより、無伴奏チェロ組曲はよく聴くけど、この伴奏付きの 「3つのヴィオラ・ダ・ガンバと通奏低音のためのソナタ」 なんて知らない、という人も決して少なくないのではと思います。

 かならずしも耳になじみやすい音楽のほうが親しまれるわけではないようですね、それだけこの 「6つの無伴奏チェロ組曲」 のインパクトは強いと言えるのでしょう。


 
 
バッハ:無伴奏チェロ組曲(序)



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最近無伴奏チェロ組曲第1番との縁が深くなって

 1月のコンサートで、バッハの「チェロ組曲第1番」を演奏しました。

 さらに昨年から今年にかけて、この無伴奏チェロ組曲第1番のレッスンを3人の方に行っています(こんなこと滅多にはないが)。

 そうしたことから、最近、特に昨年末か今年にかけてCDをいくつか購入しました。

 よく考えてみると、この10年、あるいはもっと長い間、このバッハの無伴奏チェロ組曲のCDを買っていませんでした。

 鍵盤曲の方は平均律曲集の記事に関して結構購入しましたし、無伴奏ヴァイオリン・ソナタ、パルティータもシャコンヌの記事などに絡んで、かなり入手しました。




今世紀の録音は聴いていない

 一方、チェロ組曲のほうはその両者に後れを取るように、あまり新しい録音などは購入せず、所有しているCDも、1980年代くらいの録音のもので止まっています。

 つまり21世紀に録音された無伴奏チェロ組曲はほとんど聴いていないことになります。

 といったわけで、チェロ組曲をコンサート弾いたり、レッスンするのであれば、やはり最新、少なくとも2000年以降の録音を聴かないといけないかな、と思った訳です。


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最近のチェリストはよくわからないが


 しかし今現在どんなチェリストが録音しているのか、どんな演奏が人気があって、評価が高いのかなど、全くわからないので、とりあえずネットのリストに載っているものを、ほぼ適当に、手当たり次第に取り寄せてみました。

 でも鍵盤やヴァイオリンでも、最近では、若く優れたプレーヤーはたくさんいましたが、やはり思ったとおり、チェロの方でも、名前こそ知らなかったが、優れた演奏家がたくさん出現していました。

 中には過去の大巨匠の録音よりも共感が持てるんじゃないかな、と思えるものもありました。




20世紀の名盤や作品についても

  もちろん私が最近CDを購入して聴いたチェリストは、今現在の優れたチェリストのごく一部で、まさに”氷山の一角”ではあるでしょう。

 また、この記事は基本的にCDの紹介ですが、その前に平均律の時のように、若干作品について触れておかないといけないでしょう。

 また21世紀の録音を紹介することが主な目的ですが、やはりこれまで多くの人に親しまれてきた20世紀の名盤につても紹介しておきます。

 さらに、若干ではありますが、ギターやリュートでの録音のCDについても紹介してゆきます。




ヨーヨーマ、マイスキー以降のチェリストの名前が出てこない諸氏に・・・・・

 それでは、バッハの無伴奏チェロ組曲といえば、相変わらずカザルスとフルニエでどっちがいいか、と悩んでいて、ヨーヨーマとマイスキー以降のチェリストの名前が一つも出てこない、中高年のバッハ愛好者の方々!   ・・・・・・・私もちょっと前までそうだったが。

 今回の記事はそういった諸氏に捧げます。




 
大萩康司マスター・クラス

   2月3日(日)  ギター文化館




ギター文化館で行われた大萩康司さんのマスター・クラスを聴講しました。 受講者と受講曲は次の通りです。


清水和夫   ショーロ 「鐘の音」 (ペルナン・ブーコ) 

永松知雄   前奏曲第1番、 ショールス第1番 (ヴィラ=ロボス)

杉澤百樹   ロマンス(パガニーニ)、 練習曲Op.35-3 ラルゲット (ソル) 

森田 晴    ファンダンゴ、サパテアート (3つのスペイン風小品より ~ロドリーゴ)

鈴木幸男   練習曲第8番、 前奏曲第5番(ヴィラ=ロボス)




中田英寿ぽい?

 この前に大萩さんの演奏を聴いたのは、おそらく7,8年くらい前だったと思います。 あれから髭を伸ばし、ヘアー・スタイルも変え、外見上はだいぶ変わりました。

 以前は爽やか好青年の文字通り、”イケメン・ギタリスト” と言った感じだったのですが、最近ではより男性的で、ワイルドな感じになりました。なんとなく中田英寿を彷彿させる風貌となっています。

 おそらく女性ファンの間でも 「より魅力的になった」 という人と、「前の方が良かった」 という人と意見の分かれるところでしょう。

 確かに外見は変わりましたが、声の方はもちろん以前と同じで、相変わらずたいへんマイルドな音声と口調です。




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12年ほど前の大萩さんのCDの写真。 今は外見上ほぼ別人で、どちらかといえば中田英寿さんぽい。



響き、表情の変化についての話

 さて、そのマスター・クラスの内容としては、基礎的な演奏技術のより、表現上の話が多いようでした。 特に表情の変化、響きの変化ということについての話が主でした。

 レッスンしながら、断片的に弾く大萩さんのギターは、もともとたいへん美しい響きを持っていましたが、さらによりいっそう多彩さも加わったようです。 

 大萩さんのデビュー当時は、フランス的でたいへん上品で美しい響きが特徴でした。 その後ブローウェルなど中南米の音楽に取り組み、エッジの利いた切れのよい演奏が特徴となっていたのですが、この日の印象では、さらに力強さ、大胆さも加わったようです。



原色的な色彩感

 どうやら、ワイルドになったのは外見だけではなさそうですね、特にロドリーゴのレッスンではそれが感じられました。

 隣り合わせの国でもフランスとスペインでは大違いで、上品でどちらかといえば淡い色感を多用するフランス音楽とはことなり、ロドリーゴなどのスペイン音楽では鮮やかな原色どうしをぶつける色感です。

 ロドリーゴのレッスン中に断片的に聴こえてくる大萩さんのギターからは、そのような鮮やかなコントラストの聴いた響きが聴かれました。



男性もエステの時代

 レッスンの最後に館長に促されて弾いたヴィラ・ロボスの「前奏曲第1番」では、低音弦をグリサンドする際の ”例の” 弦を擦る ”キー” といった音がほとんど出ません。

 指を斜めにして動かすのだそうですが、私などには低音弦のグリサンドにはこの ”キーキー音” が付き物といった印象があるので、全くノイズのないグリサンドは、なにか ”ツルッ” としていて、逆に違和感さえあります。

 最近の若いギタリストは、皆こういったノイズを一切出さないのですが、最近の若い人は男性でもエステに行ってムダ毛を処理するそうですね。 今時 ”スネ毛ボーボー” は流行らないのでしょう。
 


さりげなく

 ヴィラ=ロボスの「前奏曲第5番」のレッスン中に、 「このあたりが社交界へのあこがれをイメージしているのかも知れません」 とこの曲が「社交界への賛辞」と副題がついていることにさりげなく触れました。 確かにこの曲はスロー・ワルツになっています。

 受講者の鈴木さんもそのことを瞬時に理解したようです。 大萩さんが常々作品についてよく研究されていることの表れでしょう。