バッハ:無伴奏チェロ組曲 3
バッハには4つの ”リュ-ト組曲” があるが
前回の記事で、バッハの 「組曲」、すなわち 「Suite」 は、 「アルマンド」、「クーラント」、「サラバンド」、「ジグ」 の4つの舞曲を基本とし、それにプレリュード、およびメヌエット、ブレー、ジグなどの舞曲を挿入したものだということを書きました。
Suite は、ただいくつかの曲を組み合わせたものという訳でなく、細かい規則があります。
似たようなものでも「ソナタ」や「パルティータ」などとは厳密には異なる訳です。
そこで、私たちギターをやるものにとって、たいへん親しみのある、バッハのリュートのための作品についても若干触れておきましょう。
バッハのリュートのための作品には、「プレリュード、フーガ、アレグロBWV998」 などの他に、4つの組曲として知られているものがあります。
ブルガーによって付けられた番号
これらの4つの組曲については、当ブログを読んでいる方はご存じと思いますが、第1番(BWV996)はホ短調、 第2番(BWV997)はハ短調、 第3番(BWV995)ト短調、 第4番ホ長調(BWV1006a)となっています。
第1番と第2番はラウテンヴェルク(リュート・チェンバロ)のために書かれ、第3番は無伴奏チェロ組曲第5番の編曲、 第4番は無伴奏ヴァイオリン・パルティータ第3番の編曲です。
この第1~第4という番号は、バッハが付けたものではなく、20世紀のリューティスト、および音楽学者の ハンス・ダーゴベルト・ブルーガー が1921年にバッハのリュートのための作品集を出版した際に付けられたものです。

1960年代に全音から出版されたブルガー編のバッハ:リュート作品集。 当時としては画期的なものだったが、誤植などもあり、現在では最良の資料とは言えなくなっている。
1920年代としては画期的なものだったが
この曲集には現在バッハのリュートのための作品とされているものがすべて含まれ、まだバッハの作品の研究が十分でなかった当時を考えると画期的なもので、たいへん貴重だったものといえるでしょう。
しかし、このブルガーの付けた番号にはあまり根拠らしいものはなく、最近ではあまりこの番号で表記されることがすくなくなり、その代わりに、BWV番号などで表記されることが多くなりました。
また、 「4つの組曲」 と言われていますが、この中には組曲、つまりSuiteではないものが含まれています。
ホ短調BWV996(第1番)
4つの組曲を詳しく見てゆくと、まず「第1番」、 正確には 「ホ短調BWV996」 に含まれる曲は 「プレリュード ~正確にはパッサジオとプレスト」、 「アルマンド」、 「クーラント」、 「サラバンド」、 「ブレー」、 「ジグ」 の6曲。
確かに Suite の基本の4曲(アルマンド、クーラント、サラバンド、ジグ)を含み、 「プレリュード」が 「パッサジオとプレスト」 となっている以外は、チェロ組曲第3,4番と同じ構成になっています。
実筆譜は存在しないようですが、曲の構成から見て 、Suite と考えて間違いないでしょう。
ト短調BWV995(第3番)
「第3番BWV995」 はもともと無伴奏チェロ組曲第5番のわけですから、これも問題なく Suite でしょう。
ハ短調BWV997(第2番)
この曲は旧バッハ全集では Suite となっていて、現在出ている多くの出版物なども Suite としてありますが、 曲の構成を見ると 「プレリュード」 、「フーガ」、 「サラバンド」、 「ジグ」 の4曲となっています。
これは明らかにバッハの Suite には当てはまりません。
この曲についてはバッハの実筆譜は残されてなく、いくつかの写譜があるだけなのですが、その中の一つで、リューティストの ヴァイラウホ のタブラチュアには ”Partita” と書いてあります。
従って、この曲はSuite ではなく、 Partita と考えるべきでしょう。 実際に、最近のCDや楽譜などでは Partita となっています。
組み合わせを見ると 「ソナタ」 と 「Suite」 の中間のような感じですね。
ホ長調BWV1006a(第4番)
「第4番BWV1006a」 はどうかというと、これはもう最初から結論は決まっていますね。
もともと 「無伴奏ヴァイオリン・パルティータ第3番」 なのですから、 リュートのためにアレンジされてもパルティータには変わりありません。
因みに曲の構成は 「プレリュード」、 「ルール」、 「ガヴォット」、 「メヌエット」、 「ブレー」、 「ジグ」 の6曲です。
同じ舞曲でも、最後のジグを除いて、アルマンドやクーラントなど、Suite に含まれる基本の曲よりも、「ガヴォット」や「メヌエット」のような、いわばオプショナルの曲が多いのも、おそらくSuiteと区別するために、意図的に行っているのでしょう。
Suite の意味を知っている人ならば、この曲が ”組曲” と呼ばれることについては違和感を感じるのではと思います。
表紙がなくなってしまい、何の楽器のための作品だかわからなくなってしまった
この曲がなぜ Suite になってしまったかというと、 この曲にはバッハの実筆譜が残されているのですが、その曲名が書いてあるはずの表紙がなくなってしまったようです。
したがってかつては、この譜面が何の楽器のための作品か不明でした。
とりあえず2段譜で書かれているので、当初は鍵盤楽器のための作品と考えられたのですが、それにしては変だということで、一時期ハープのための作品とも言われたこともありました。
しかしハープとしてもおかしいということで、その後リュートのための作品ということに落ち着きました。
音符が書いてあるページがなくならなくてよかったが
たかが表紙とは言えませんね、表紙がなくなってしまったおかげで、後の人がいろいろ悩むことになるわけですから。
でも音符が書いてあるページがなくならなくてよかったですね。
「リュートのための4つの組曲」 ⇒ 「リュートのための2つの組曲と、2つのパルティータ」
以上結果の、バッハがリュートのために残したのは 「4つの組曲」 ではなく、 正確には 「2つの組曲と、2つのパルティータ」 ということになります。
そんなこと、どっちだっていい?
え? 別に組曲だって、パルティータだってそんなことどっちだっていい? 曲名が違っても中身には変わりない!
いちいち組曲だの、パルティータだの区別するのメンドクサイ! たいして変わりない!
このブログの蘊蓄ウザイ! 言葉遊びで記事をひっぱるな!
早く本題に入れ!
バッハ自身はこれらの言葉を厳密に区別していた
ごもっとも、ごもっとも。 おっしゃる通りです。
確かに名前で中身が変わるわけではありません。
演奏が良ければ組曲として演奏しても、パルティータとして演奏してもどちらでもいいには違いありません。
ただ、 バッハはこれらの言葉を厳密に区別して用い、作曲していた。
バッハには4つの ”リュ-ト組曲” があるが
前回の記事で、バッハの 「組曲」、すなわち 「Suite」 は、 「アルマンド」、「クーラント」、「サラバンド」、「ジグ」 の4つの舞曲を基本とし、それにプレリュード、およびメヌエット、ブレー、ジグなどの舞曲を挿入したものだということを書きました。
Suite は、ただいくつかの曲を組み合わせたものという訳でなく、細かい規則があります。
似たようなものでも「ソナタ」や「パルティータ」などとは厳密には異なる訳です。
そこで、私たちギターをやるものにとって、たいへん親しみのある、バッハのリュートのための作品についても若干触れておきましょう。
バッハのリュートのための作品には、「プレリュード、フーガ、アレグロBWV998」 などの他に、4つの組曲として知られているものがあります。
ブルガーによって付けられた番号
これらの4つの組曲については、当ブログを読んでいる方はご存じと思いますが、第1番(BWV996)はホ短調、 第2番(BWV997)はハ短調、 第3番(BWV995)ト短調、 第4番ホ長調(BWV1006a)となっています。
第1番と第2番はラウテンヴェルク(リュート・チェンバロ)のために書かれ、第3番は無伴奏チェロ組曲第5番の編曲、 第4番は無伴奏ヴァイオリン・パルティータ第3番の編曲です。
この第1~第4という番号は、バッハが付けたものではなく、20世紀のリューティスト、および音楽学者の ハンス・ダーゴベルト・ブルーガー が1921年にバッハのリュートのための作品集を出版した際に付けられたものです。

1960年代に全音から出版されたブルガー編のバッハ:リュート作品集。 当時としては画期的なものだったが、誤植などもあり、現在では最良の資料とは言えなくなっている。
1920年代としては画期的なものだったが
この曲集には現在バッハのリュートのための作品とされているものがすべて含まれ、まだバッハの作品の研究が十分でなかった当時を考えると画期的なもので、たいへん貴重だったものといえるでしょう。
しかし、このブルガーの付けた番号にはあまり根拠らしいものはなく、最近ではあまりこの番号で表記されることがすくなくなり、その代わりに、BWV番号などで表記されることが多くなりました。
また、 「4つの組曲」 と言われていますが、この中には組曲、つまりSuiteではないものが含まれています。
ホ短調BWV996(第1番)
4つの組曲を詳しく見てゆくと、まず「第1番」、 正確には 「ホ短調BWV996」 に含まれる曲は 「プレリュード ~正確にはパッサジオとプレスト」、 「アルマンド」、 「クーラント」、 「サラバンド」、 「ブレー」、 「ジグ」 の6曲。
確かに Suite の基本の4曲(アルマンド、クーラント、サラバンド、ジグ)を含み、 「プレリュード」が 「パッサジオとプレスト」 となっている以外は、チェロ組曲第3,4番と同じ構成になっています。
実筆譜は存在しないようですが、曲の構成から見て 、Suite と考えて間違いないでしょう。
ト短調BWV995(第3番)
「第3番BWV995」 はもともと無伴奏チェロ組曲第5番のわけですから、これも問題なく Suite でしょう。
ハ短調BWV997(第2番)
この曲は旧バッハ全集では Suite となっていて、現在出ている多くの出版物なども Suite としてありますが、 曲の構成を見ると 「プレリュード」 、「フーガ」、 「サラバンド」、 「ジグ」 の4曲となっています。
これは明らかにバッハの Suite には当てはまりません。
この曲についてはバッハの実筆譜は残されてなく、いくつかの写譜があるだけなのですが、その中の一つで、リューティストの ヴァイラウホ のタブラチュアには ”Partita” と書いてあります。
従って、この曲はSuite ではなく、 Partita と考えるべきでしょう。 実際に、最近のCDや楽譜などでは Partita となっています。
組み合わせを見ると 「ソナタ」 と 「Suite」 の中間のような感じですね。
ホ長調BWV1006a(第4番)
「第4番BWV1006a」 はどうかというと、これはもう最初から結論は決まっていますね。
もともと 「無伴奏ヴァイオリン・パルティータ第3番」 なのですから、 リュートのためにアレンジされてもパルティータには変わりありません。
因みに曲の構成は 「プレリュード」、 「ルール」、 「ガヴォット」、 「メヌエット」、 「ブレー」、 「ジグ」 の6曲です。
同じ舞曲でも、最後のジグを除いて、アルマンドやクーラントなど、Suite に含まれる基本の曲よりも、「ガヴォット」や「メヌエット」のような、いわばオプショナルの曲が多いのも、おそらくSuiteと区別するために、意図的に行っているのでしょう。
Suite の意味を知っている人ならば、この曲が ”組曲” と呼ばれることについては違和感を感じるのではと思います。
表紙がなくなってしまい、何の楽器のための作品だかわからなくなってしまった
この曲がなぜ Suite になってしまったかというと、 この曲にはバッハの実筆譜が残されているのですが、その曲名が書いてあるはずの表紙がなくなってしまったようです。
したがってかつては、この譜面が何の楽器のための作品か不明でした。
とりあえず2段譜で書かれているので、当初は鍵盤楽器のための作品と考えられたのですが、それにしては変だということで、一時期ハープのための作品とも言われたこともありました。
しかしハープとしてもおかしいということで、その後リュートのための作品ということに落ち着きました。
音符が書いてあるページがなくならなくてよかったが
たかが表紙とは言えませんね、表紙がなくなってしまったおかげで、後の人がいろいろ悩むことになるわけですから。
でも音符が書いてあるページがなくならなくてよかったですね。
「リュートのための4つの組曲」 ⇒ 「リュートのための2つの組曲と、2つのパルティータ」
以上結果の、バッハがリュートのために残したのは 「4つの組曲」 ではなく、 正確には 「2つの組曲と、2つのパルティータ」 ということになります。
そんなこと、どっちだっていい?
え? 別に組曲だって、パルティータだってそんなことどっちだっていい? 曲名が違っても中身には変わりない!
いちいち組曲だの、パルティータだの区別するのメンドクサイ! たいして変わりない!
このブログの蘊蓄ウザイ! 言葉遊びで記事をひっぱるな!
早く本題に入れ!
バッハ自身はこれらの言葉を厳密に区別していた
ごもっとも、ごもっとも。 おっしゃる通りです。
確かに名前で中身が変わるわけではありません。
演奏が良ければ組曲として演奏しても、パルティータとして演奏してもどちらでもいいには違いありません。
ただ、 バッハはこれらの言葉を厳密に区別して用い、作曲していた。
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