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中村俊三 ブログ

中村ギター教室内のレッスン内容や、イベント、また、音楽の雑学などを書いていきます。

バッハ:無伴奏チェロ組曲 19


 調性とギターへの編曲 4



そもそも、バッハとギターとの接点はないが
 
 今回からはギターへの編曲の話となります。 具体的な話となる前に、若干ギターへの編曲の歴史みたいなものに触れておこうと思います。

 もちろんこのバッハの無伴奏チェロ組曲は作曲された当初からギターで演奏されたわけではありません。 そもそもバッハが生存中に、何らかの形でギターと関わったという記録も残っていません。

 スペインやフランスなどで用いられている楽器として、バッハもその存在は知っていたと思われますが、少なくともバッハの周辺にギターを弾く人はいなかったようで、バッハとギターとの接点は見当たりません。



しかしリュートには強い関心があった

 その代わりにバッハはリュートには深い興味を示し、自身ではあまり演奏出来なかったと思われますが、リュートのための作品を残し、また楽器も所有していたようです。

 チェロ組曲第5番ハ短調はバッハ自身の手でリュート用にも編曲され、バッハが生存中に無伴奏チェロ組曲がリュートで演奏されていたのは確かなようです。



18世紀後半になると、リュート自体が演奏されなくなる

 しかし18世紀も後半になるとリュートはほとんど演奏されなくなり、したがってバッハのチェロ組曲がリュートで演奏されることもなくなりました。

 またバッハの音楽自体も一時期表舞台から消えることになります(一部の音楽家などには愛好されていたが)。



チェロでの無伴奏チェロ組曲の全曲演奏は20世紀になってから

 19世紀半ば頃には再びバッハの音楽が高く評価されるようになり、無伴奏チェロ組曲の一部は演奏されるようになったようですが、全曲演奏が普通になるのは20世紀に入ってからのようです。

 1936~38年にはパブロ・カザルスによって初めて全6曲録音されます。



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パブロ・カザルスによる無伴奏チェロ組曲の世界初録音(1936~1938年)



タレガは無伴奏チェロ組曲第3番の「ブレー」を 「ルール」として編曲

 ギターへの編曲で最も古いものとしては、タレガのものが知られています。

 タレガは無伴奏チェロ組曲第3番ハ長調の「ブレー」をギターに編曲していますが、なぜか曲名が 「ブレー」 ではなく、「ルール」とされています。 

 「ルール」 と 「ブレー」 は全く別の舞曲なので、なぜタレガが 「ルール」 としたのかは全くわかりません。

 この曲をセゴヴィアやバリオスも 「ルール」 の曲名で録音しています。



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タレガのチェロ組曲第3番のブレーのアレンジ。 タイトルはしっかりと 「Lore」 と書かれている。 ハイポジションが多く技術的にはかなり難しい。 



 上の譜面のように、タレガの 「ルール」 は原曲のハ長調を ”9度” 上げてニ長調としてます。

 ギターでもかなり高い音域を用い、技術的にも難しいです。

 その結果、チェロ曲の面影はほとんどなく、とても軽快で華やかな曲となっています。

 原曲のことを考慮しなければ、これはこれでなかなか面白い曲です。

 

セゴヴィアは1961年にデュアートの編曲で第3番を録音

 セゴヴィアは1961年に無伴奏チェロ組曲第3番を全曲録音しています(前述のブレーはブレーとして)。

 編曲はイギリスの音楽家、ジョン・デュアートによるもので、イ長調版となっています。



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ウィリアムスの1958年の録音はチェロ組曲全曲(第1、第3番)録音としては世界初かも



ジョン・ウィリアムスはセゴヴィアよりも早い時期に録音

 セゴヴィアの高弟でもあったジョン・ウィリアムスは、そのセゴヴィアの録音に4年先立つ1958年に、同じくデュアート編でチェロ組曲第1番、第3番を録音しています。 

 ウィリアムスは1941年生まれですから、当時17歳ということになるので、ウィリアムスの天才ぶりの一つの表れでしょう。

 演奏は後のウィリアムスの演奏スタイルとは若干異なりますが、師のセゴヴィアにかなり似ているとも言えます。



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この時代(1950~70年代)では無伴奏チェロ組曲第1、第3番はこのデュアート編、あるいはデュアート編の再編曲で演奏されるのが一般的だった。



 なお、この時代(1950~70年代)では、チェロ組曲第1、第3番に関しては、このデュアートの編曲が一般的で、ほとんどのギタリストがこのデュアート版、あるいはこのデュアート版の再編曲などで演奏していました。



全く手を加えずといった方法も

 1980年代になると、ギター界においても 「バッハの原典に忠実に」 といった考えが強くなり、なるべく原曲に忠実にということで、チェロの譜面を全くそのまま、移調もせず、音も追加せず、ギターで演奏すると言ったことも行われるようになりました。



現在では ”バッハ的な手法” でアレンジ

 しかし、バッハ自身では一つの作品を他の楽器にために編曲する際、かならずその楽器に合うように移調したり、音を加えたり変更したりするのが常で、全く手を加えず他の楽器で演奏すると言った発想はなかったのではと思います。

 今現在はギターで無伴奏チェロ組曲を演奏する場合、ほとんどそのギタリスト自身の編曲を用いています。

 その際、バッハチェロ組曲第5番をリュートにアレンジしたような方法をとりながらアレンジしているのが一般的と言えます。
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バッハ:無伴奏チェロ組曲 18


 調性とギターへの編曲 3



第3,4,5番は調的に関連付けられているが

 前回の記事で、 第3番ハ長調 ⇒ 第4番変ホ長調 ⇒ 第5番ハ短調 の3曲は調性的に強く関連付けられていて、その中でも第5番ハ短調は、その中心、あるいは重心となっていると言ったようなことを書きました。

 特に第4番に変ホ長調という無伴奏のチェロには不向きな調が与えられているのは、第5番のハ短調との関係でしか理解できないでしょう。

 6曲の組曲のなかで、この3曲が一つのグループを成していることが見てとれるでしょう。




残りの3曲は?


 では、残りの 「第1番ト長調」、 「第2番ニ短調」、 「第6番ニ長調」 の3曲はどうかというと、やはりこちらも 「第6番ニ長調」 を軸に結びつけられていると考えられます。

 「第6番ニ長調」 を中心として、「第1番ト長調」 は下属調、 「第2番ニ短調」 は同主短調となっていて、「第6番」を中心としたグループを作っています。 

 舞曲的にも、また調性的にも、前述の 「第5番」 とこの 「第6番」 は6つの組曲の中でも重要な役割を持っているということになります。



二つのグループに分かれる

 そして、6つの組曲は第1、第2、第6番の3曲と、第3番、第4番、第5番の3曲の二つのグループに分かれるということになりますね。


 一つ目のグループは

先鋒 : 第1番ト長調

中堅 : 第2番ニ短調

大将 : 第6番ニ長調



 もう一つのグループは

先鋒 : 第3番ハ長調

中堅 : 第4番変ホ長調

大将 : 第5番ハ短調


 ・・・・・なんか、剣道の団体戦みたいですね。  でも本当に試合をしたらどちらが勝つのかな?  とりあえずそれぞれの選手の特徴を書き出してみましょう。



<ニ長調館大学>

先鋒 : 第1番ト長調  ・・・・・・  たいへん人あたりがよく、誰にも好かれるタイプ。 気難しいところがなく、性格も穏やか。

中堅 : 第2番ニ短調  ・・・・・  あまり目立たず、やや暗い性格。 しかし内面は激しいところもある。 

大将 : 第6番ニ長調  ・・・・・  非常に積極的で、動きは速い。 ともかく攻撃あるのみ、手数も多い。



<ハ短調体育大学>

先鋒 : 第3番ハ長調  ・・・・・  相手方の先鋒と似た感じで、親しみやすい性格。 しかし相手方よりは力強さはある。

中堅 : 第4番変ホ長調 ・・・・・ やはりあまり目立たない存在で、相手方の中堅と似ているが、性格は陽気で、軽快な面も。

大将 : 第5番ハ短調  ・・・・・  どのような状況でも動じることない精神的な強さを持つ。 その構えだけでも相手を威圧する。








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 1勝1敗を受けて、決着は大将戦に。 攻めのニ長調館大学にたいして、鉄壁の守りのハ短調体育大学で、一向に勝負がつきません・・・・・・・ 




第5番ハ短調と第6番ニ長調は正反対の性格

 あまり変な例えをすると自爆しそうですが、ともかく 「第5番ハ短調」 と 「第6番ニ長調」 は共に6曲の組曲中でも内容の濃い曲ですが、その性格はまさに正反対となっています。

 バッハかなり意識してこの2曲の性格付けを行ったのではないかと思います。 まずニ長調とハ短調と言うことだけでもすでに軽快さと重厚さが現れますが、 チェロに関しては、前にか言った通り、ハ短調では最も低い第4弦に主音(ド)があり、次に低い第3弦に属音(ソ)があります。

 それに対してニ長調では通常高い方から2番目の第2弦に主音(レ)があり、第1弦が属音(ラ)となっています。 これによってハ短調では全体に低めの音が使われ、ニ長調では比較的高い音が使われます。




さらに、さらに

 まだそれだけではありません。 第5番ニ長調は通常のチェロではなく、5弦チェロのために書かれています。 通常のの「ラ」より4度高い「ミ」の音の弦を追加している訳です。

 これは前にも書きましたとおり、チェロというよりはほぼギターの音域の楽器となります。 したがって、第6番ニ長調は第5番ハ短調とは比べ物にならないほど高い音域で演奏されるこのになります。

 さらに第5番のほうも通常「ラ」に調律する第1弦を1音下げて「ソ」に調律するように指示があります。 この調律はチェリストにとっては演奏しにくく、あまり評判良いものではないようで、通常の調律(第1弦=ラ)で演奏する人もいるようです。

 この変則調律は弾き易さのためというより、より内向的な響きを求めてということではないかと思います。




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 チェロ組曲第5番ハ短調の楽譜。 下の譜表は実際の音。 上の譜表は演奏譜で、通常の調弦にした場合の ”ポジション” を示したもの。 上の譜面で弾く場合は演奏者は実際に出る音を無視して弾くことになる。

 例えば、2小節目の最初の和音の最高音は上の譜表では「シ♭」だが、実際に出る音は下のように 「ラ♭」 。 もちろんこの譜面では①弦で弾くところを②弦で弾くことはできない。

 チェリストにとっては、この”弾いている音” と ”実際に出ている音” が違うのはたいへん、苦痛なようで(絶対音感があればあるほど)、下の譜面で弾く人も多いという(それはそれで弾きにくいが)。 

 どちらにしてもたいへん弾きにくい譜面のようだ。 なお、バッハ(実際には妻のアンナ・マグダレーナ)は上の演奏譜の形で書いている。




たまたまこうなって訳でも

 このように考えると、バッハの6曲の無伴奏チェロ組曲は内向的、かつ重厚な第5番ハ短調と、軽快で華麗な第6番ニ長調という、二つの極を持ち、他の4曲はそれぞれどちらかの極と繋がりを持つということになるでしょう。

 また、バッハはそうしたことを周到に考慮してこれらの曲の作曲を進めたと考えられます。

 イギリス組曲やフランス組曲、無伴奏ヴァイオリン・ソナタとパルティータなどが、どの程度それぞれの調の関係を考えて作曲されているかはわかりませんが、少なくとも、この 「6つの無伴奏チェロ組曲」 に関しては、たまたまこのような調の配列になったわけではなさそうです。
 


 


クラシック・ギター・コンサート in ひたちなか



 2019年8月10日(土) ひたちなか市文化会館小ホール



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 先日お知らせしました、アコラ主催ひたちなか市文化会館のコンサート終えました。

 たいへん盛りだくさんの内容でしたが、多くの方々に楽しんでいただけたのではないかと思います。




「最後の約束」は感動的と

 19世紀のオリジナル楽器による演奏や、ヴァイオリンとギター、バッハのフーガの技法やゴールドベルク変奏曲などのアレンジなど、興味る内容の演奏がたくさんありました。

 ただ、私の場合、最初の方と小暮さんの演奏以外は楽屋で準備などしていましたので、残念ながらあまり聴けませんでした。

 その中では4重奏(レニエ)による「最後の約束(リ・サフォン)」などは感動的と、たいへん評判がよかったようです。



聴き手のことを考えた演奏

 小暮さんは前回も書いた通り、本格的にクラシック・ギターに取り組んだのが18歳と、東京国際ギターコンクール優勝者としては異色とも言える人だったので、どんな人かなと興味もあったのですが、楽屋などでゆっくり話す機会も持てました。

 小暮さんは現在30歳くらいですが、謙虚で向上心も強く、まさに好青年と言った感じです。

 またその演奏も聴き手のことを十分に考えた演奏で、これまで決してコンクールで好成績を取るためにだけ努力してきた訳ではないことがわかりました。



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ヴァイオリンとカザン?


 コンサート終了後に隣り合わせたヴァイオリンの北川さんと話をしていると、

「私、普段はカザンの方やっていましてね」

「カザン?」

「ええ、気象庁に勤めていて、 このまえ浅間山が噴火したので、忙しいんですよ」 

 なるほど、カザンとヴァイオリンをやっていると言った訳です。

 因みに、浅間山はこれ以上は活動が活発にはならないようです。
バッハ:無伴奏チェロ組曲 17


 調性とギターへの編曲 2




調の選択にはチェロの調弦が関係している

 当記事も更新がとびとびになって、前回の記事と内容が繋がりにくくなっていますが、前回は6つの組曲の調についてで、それぞれの調の選択はチェロの調弦に深く関わっているといったことを書きました。 

 ほとんどの曲では主音や属音、下属音などの重要な音が開放弦となっている調を選んでいます。 またその主要な音が比較的高い開放弦か、低い開放弦かによって、曲の感じ、重厚か、軽快か、などといったことも決まってきます。




同じ調では曲を書かない

 また、前回は触れなかったことですが、バッハの場合、このように何曲かセットで作曲する場合、同じ調の曲は書かないようにしているようです。 

 フランス組曲、イギリス組曲、パルティータ(鍵盤のための)、および無伴奏ヴァイオリンのためのソナタとパルティータなど、それぞれ6曲ずつとなってますが、その6曲の中では同じ調の曲はありません。

 インヴェンションや平均律曲集は最初から調ごとに作曲しているわけですから、これも同じ調の曲はありません。 他の同時代の作曲家も同じような傾向はありますが、バッハほどは徹底していないようです。

 ロマン派の作曲家とはその内容は異なりますが、こうした事でもバッハの調へのこだわりが感じ取れます。




なるべく触れないようにしてきたが

 チェロ組曲の話に戻りますが、第1番ト長調、 第2番ニ短調、 第3番ハ長調、 第5番ハ短調、 第6番ニ長調 の5曲はいずれも主音や属音などの主要な音が開放弦となっています。 

 では第4番の変ホ長調は? ということになりますね。 これまでなるべくこの曲については触れないようにしてきましたが、確かに♭3個の、この ”変ホ長調” という調はチェロの通常の調弦からすればたいへん不向きな調です。

 何といっても主音(ミ♭)も、属音(シ♭)も、下属音(ラ♭)もすべて開放弦がありません。 他の5曲ではそれらのほとんどの音が開放弦となっていたことからすれば、まさに正反対です。




見当はずれは覚悟上で

 この第4番変ホ長調のみ演奏の都合では調を選択しなかったということになるのでしょう。 

 では、なぜ演奏上の都合を無視してこの調が選ばれたか?

 たいへん難しい問題ですね、なるべくならこの問題は避けて通りたいところですが、しかしこの話題に入り込んでしまった以上、見当はずれは覚悟の上で話を進めてゆきましょう!




ベートーヴェンの場合は

 ベートーヴェンの場合、「交響曲第3番英雄」は変ホ長調でなければならない、変ホ長調でなければ英雄的、あるいは雄大さは出てこない。 というように言われています。

 ベートーヴェンの頃にはそれぞれの調にはそれぞれ個性があると言われるようになりました。 いや、ベートーヴェンがそういったージを作り出したのかも知れません。

 ♭3個は演奏しにくいからということで、「英雄」を半音上げて♯2個のニ長調で演奏したりしたら、各方面から 「ニ長調の『英雄』などあり得ない」 と一斉に非難を浴びる、などということは以前にも言いましたね。

 どうんも私たちのようにギターなどやっていると、調はなるべく弾き易いものを選ぶという習慣が身についてしまいますが、一般的にはそうではないということも知っておかなといけませんね。

 また、「英雄」が変ホ長調となっているのは、第5番「運命」がハ短調になっていることも深く関係があると言われています。 どちらも♭3個で、平行調の関係にあります。

 


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変ホ長調は雄大で英雄的なイメージがあるから、ベートーヴェンは変ホ長調で交響曲第3番「英雄」を書いた?  いや、ベートヴェンが変ホ長調で「英雄」「を書いたから、変ホ長調は英雄的な調となった?




他にどんな理由が

 もちろんバッハはベートーヴェンと同じような意味第4番を変ホ長調したわけではないでしょう。

 そのような絶対的な調のイメージで調を選択したという訳ではないと思います。

 そうした理由でないとしたら、他にどんな理由が?  そこで、最初に書いた各組曲の調のリストをもう一度書いてみます。



第1番 ト長調(#1個)

第2番 ニ短調(♭1個)

第3番 ハ長調(調号なし)

第4番 変ホ長調(♭3個)

第5番 ハ短調(♭3個

第6番 ニ長調(#2個)




第4番、第5番は共に♭3個

 こうしてみると気が付きますね、第4番と第5番は共に♭が3個です。 つまりこれはお互い平行調の関係ということになります。 

 さらにその前には第3番ハ長調があります。これは第5番と同名調の関係ということになります。

 つまり第3番と第4番は共に第5番と繋がっているわけです。

 第3番のハ長調と第4番の変ホ長調は、直接的な関係はなく、どちらもあくまで第5番のハ短調と繋がっています。




第3、第4、第5番で一つのまとまりが出来ている

 こうした事から考えれば、第4番が変ホ長調になったのは、第5番との関係という可能性が強いのではと思います。

 そして、第3番ハ長調と第4番変ホ長調は共に第5番へと繋がって行く。 つまり第5番ハ短調を軸として第3、第4、第5番の3曲はひとつのまとまりが出来ているということが言えます。




第5番ハ短調は一つの重心

 前回の舞曲に関しての記事のところでも、第5番、第6番は他の組曲よりもよりいっそう充実したものとなっていることを書きましたが、調の関係からも第5番は一つの中心となっていることがわかります。

 確かに第5番ハ短調はその ”重心” に相応しく、たいへん重々しい曲です。

 


たまには変な調も?

 ・・・・・なんて、いろいろ勝手に書きましたが、バッハに直接聞いてみたりすると、

 「え?  なんで変ホ長調にしたかって?  べつに理由なんか。  たまたま変ホ長調で書き始めちゃったし。  ちょっと弾きにくいかなって思ったけど。  まあいいかなって、たまには。   変な調も。  いつも弾き易い調ばっかりでも何だし・・・・・」


 そんなにバッハはチャラくないか。 


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バッハは気まぐれやなりゆきで調を選ぶような音楽家ではない。 たぶん。



 



 
ギター文化館所蔵銘器によるコンサート


 2020年 1月12日(日)  石岡市ギター文化館




昨日楽器を選びに

 来年の話ですが、1月12日にギター文化館所蔵の楽器を用いてのコンサートを行うことになりました。 

 昨日ギター文化館に行って演奏に使用する楽器を選びに行ったのですが、このシリーズのコンサートとして北口さんや大島さんなども行っているので、なるべく同じ楽器にならないように、できればこれまであまりコンサートで使用していない楽器ということで考えました。



チューニグや弦の交換が難しいものも

 19世紀の楽器を使ってみたいということで、いくつか試奏してみたのですが、楽器制作時のオリジナルの形を保っている物は、糸巻きや、ブリッジなどが現在のもとは異なり、チューニングや弦の交換なども難しいようです。

 この楽器、弾いてみたいとは思っても、そうした理由から断念したものもあります。



文化館所蔵の楽器の中で、最も製作年が古い

 それらの中で Antonio Pages Lopes (アントニオ・パフェス・ロペス) と言う楽器は制作年が1795年ということで、文化館所蔵の中で最も古く、 古い分だけ完全にオリジナルのままではなさそうで、ブリッジやヘッド、おそらくネックなども後から手を入れたと思われます。

 確かに原型通りではないとは思うのですが、あとから手を入れた分だけ、扱いも簡単で、チューニングも問題なく出来ます。 

 19世紀というより18世紀の楽器で、19世紀の楽器として有名なラコートやガダニーニなどに比べてもさらに古く、おそらく5コース複弦のいわゆるバロック・ギターから6単弦ギターに変わったばかりの時期のものと思われます。

 そいったことではたいへん希少価値のあるものと思われ、また当館のこのシリーズのコンサートでも、あまり使用されていないよなので、この楽器を使うことにしました。



やや現代風のところも

 音としては、いわゆる19世紀ギター風 (厳密には18世紀の楽器だが)で、低音がしっかりと鳴り、力強さも感じます。

 また、後の時代に修復された関係上か、やや現代風のところも若干感じられます。



重力バランスが悪い?

 ただ、重力的なバランスがヘッド側に偏り(ボディは軽いが、ネックやヘッドが重い)、弦の間隔も狭く、またボディも小さいのでかなり弾きにくく感じます。

 しかしそうしたことは何度か弾けば解消されること思いますし、比較的同時代の楽器の中では最も弾き易く、音も良く出るものと思います。



ネットでも情報が出てこない

 それにしてもこの  Antonio Pages Lopes (アントニオ・パフェス・ロペス) という名前、聴いたことがありますか?  私も初めてです。

 文化館のデータによれば18世紀から19世紀にかけて4代続いたスペインのギター制作家一族の一人だそうで、1794年に父親とともにギター工房を開いたとされています。

 ネットでも検索してみたのですが、原語で検索してもなかなか情報が出てきません、あまり知られた家系ではないようですね。

 しかし、それまでの5コース複弦ギターから、6単弦ギター(現在のギター)に変わって間もなくの頃の楽器で、大変希少価値のある楽器であることは間違いありません。

 

サンスとソルを弾こうかな

 演奏曲目についてですが、当初バッハなども考えていたのですが、 18世紀のスペインの楽器ということで、ガスパル・サンスとソルの曲を弾こうかと思ってます。

 因みにガスパル・サンスは17~18世紀のギタリストですが、サンスの時代は5コース複弦ギターなので、このパフェスのギターとは全く違うものが使われていました。




ソルはまさに同時代

 ソルの方はまさに同時代で、同じスペインと言うことですから、ソルの作品はこうした楽器を対象に書かれたと言っていいでしょう。

 またこの楽器はその後も多くの人に演奏され続けたと思われますので、おそらくタレガの作品なども演奏されたでしょう。

 ・・・・・・画像があればよかったですね、次回にはカメラを忘れずに持ってゆきましょう。




2014年に亡くなられた松村雅旦さんの楽器

 もう1本は松村雅旦(まさのぶ)さんの楽器を選びました。 松村さんは伝説のスペインの名工、ロベルト・ブーシェに学んだ人で、当ギター文化館とも縁の深い人です。

 北口さんはじめ、松村さんの楽器を愛奏する人は多いのですが、2014年に惜しまれつつ、この世を去りました。

 2014年の1月31日に亡くなられたそうですが、その年のお正月に年賀はがきをいただいていたので、連絡をいただいた時には、本当に驚きました。

 その年の4月13日には当文化館で、しのぶ会が行われ、いろいろな方が松村さんの楽器を用いて演奏されていました。




松村さんの命日と同月

 私自身は松村さんの楽器を弾いたことがなかったので、たいへんよい機会だと思いました。 

 松村さんの楽器は決して派手な音ではありませんが、心の奥に響く音と思います。

 気が付てみれば、コンサートの日は松村さんの命日と同月。 これも何かの縁かも知れません。

 松村さんの楽器ではヴィラ=ロボスのガヴォット・ショーロ、ショティッシュ・ショーロ。 バリオスの大聖堂、クエカ などを弾こうと思っています。