またまたシャコンヌ 9
シャコンヌは一応変奏曲だが
前回は本題なしになってしまいましたね、今回は早速本題に入りましょう。 バッハのシャコンヌは変奏曲ということになっていますが、一般的な変奏曲とやや違う点もあります。
まずテーマが4小節なのか8小節なのかはっきりせず、したがってこのシャコンヌはいくつの変奏で出来ているかはっきりしません。
そのように主題の長さが曖昧とか、変奏の数がはっきりしない変奏曲は、あまり例がないのでないかと思います。 もちろんそれにはバッハのはっきりとした意図があるのでしょう。

隣の空き地はお花畑状態 (本文には関係ないが)
普通の変奏曲とは
ところで、一般的に変奏曲というのはどういったものかをちょっと考えておきましょう。 変奏曲という形式はたいへんわかりやすくあえて説明することでもないかも知れませんが、一応やっておきましょう。
例えば、歌の伴奏をする時、1番と2番でアルペジオの形を変えたりすることもありますよね、 まだ歌であれば歌詞がありますから、1番と2番を同じように伴奏してもいいでしょうけど、楽器で演奏する場合は何回も同じことをやるのは若干抵抗も感じるでしょう。
従って、楽器で歌などを演奏する時には、歌詞の1番、2番みたいに同じメロディを繰り返す時、何らかの形で伴奏の方法を変えることが普通です。
ただアルペジオの弾き方を変えるだけのものから、楽器編成とか和声とかリズムとか大幅に変える場合もあります。


紅白のバラ
ラリアーネ祭も変奏曲だが
ギターの有名な曲では、「ラリアーネ祭」 は一応(?)テーマに二つの変奏が付いた変奏曲となっていますが、3つともメロディも和音も全く同じになっています。
アルペジオとトレモロと言うように右手の弾き方を変えているだけですが、こうしたものも変奏曲と言えるのでしょうね。
そのやり方でいけば、 「禁じられた遊び」 もアルペジオの形を変えたり、トレモロ奏法にしたりすれば(ラリアーネ祭と全く同じやり方が出来る)、一応、変奏曲の出来上がりとなるのでしょうか。



ご存じの「ラリアーネ祭」。 主題、お及び二つの変奏ともメロディも和声も同じ、なおかつ左手もほとんど同じ。 右手の弾き方だけが違う。 これも変奏曲といえば変奏曲。 もちろん目的としては右手のトレーニングのための曲と考えられる。
変奏曲には二つのタイプがある
こうした例はやや特殊な例かも知れませんが、変奏というのはそれほど特別のことでもなく、日常的に行われている事と言ってもいいでしょう。
ただ、完成された一つの作品としての変奏曲ということでであれば、それなりの内容も備わっていなければならないでしょう。
一般的に変奏曲の作曲の仕方としては、大ざっぱに2種類あります。
主題のメロディを変化させてゆく
その一つはテーマの ”メロディ” を基にし、それを変化させてゆく方法です。
19世紀以降の変奏曲はこの形をとる場合が多く、おそらく私たちが持っている変奏曲のイメージもこちらのほうだと思います。
また、このようなテーマとなる旋律を変化させてゆくタイプの変奏曲は、ヨーロッパの音楽だけでなく他の世界各地の音楽でも普遍的に行われていると思われます。
日本古謡で有名な 「さくら」 はもともとお琴の練習曲だったそうですが、おそらく当初から、あるいはかなり早い時期から変奏曲として演奏されていたと思われます。
ギターでも横尾幸弘氏をはじめ多くのギタリストが 「さくら変奏曲」 を作曲していますが、それら多くはこの 「さくら」 の旋律を変化させてゆく方法を取っています。
因みに、横尾氏の変奏曲の第3変奏は旋律には関係なく、さくらの持つ構造の A - B - B - A - C という形のみを基にしています。
バロック時代では低音、あるいは和声進行をテーマとする場合が多い
もう一つの方法はテーマの和声進行を用いて、それに合わせて旋律やパッセージを添えてゆくと言った方法です。 バロック時代の変奏曲はほとんどこの形を取っています。
バロック時代の変奏曲は和声進行というより低音の旋律をテーマとしますが、バッハの曲、特にこのシャコンヌでは具体的に書かれている低音はかなり変化しているので、その背景にある和声進行の方を主題としていると言っていいでしょう。
ジャズのアドリブもまさにこの方法とっていて、原曲のコード進行に合わせてソロ・プレーヤーや自由に演奏しますが、もちろんコード進行に合わせなければならないので、自由と言っても当然ながら制限もあります。
この和声進行を基にすると言ったものは、まさにヨーロッパの音楽独自のものと考えられます。 和声の概念そのものもヨーロッパの音楽固有のものとも言えるかも知れません。
バロック時代においては、変奏曲の主題は低音部、つまりバス声部となることが一般的ですが、ルネサンス時代においては主題にあたる定旋律はテノール声部におかれることが通常だったようです。

16世紀のスペインのビウエラ奏者、ナルバエスの「牛を見張れによるディファレンシャス」 ディファレンシャスは変奏曲といった意味だが、テーマは上声部ではなく、赤丸の低音部の ド ー ソ - ラ ー ミ の4つの音。 時代的にはバラック時代というより、ルネサンス時代末期といえるが、演奏上の問題で、定旋律が低音部に置かれていると考えられる
実際にはこれらの両方を用いる場合が多い
19世紀以降の変奏曲でも、実際にはその両方の方法を用いていることが多く、その例として、 ギターの変奏曲で最も有名なソルの 「魔笛の主題による変奏曲」 を例にとってみます(よくご存じの曲だと思いますので譜例は省略します)。
第1、第2、第5変奏は主題の旋律を変化させたものですが、第3変奏はテーマの旋律を思わせるところはほとんどなく、主題の和声進行のみを用いている形です。
因に、主題となっている旋律は魔笛の中でモノスタートスたちが歌う 「なんと素晴らしい鐘の音」 という短い歌ですが、ソルはその旋律をそのまま使わず、自分流に変更してテーマとしています。
和音で出来ている第4変奏はどちらかと言えば和声的ですが、音程の上下は主題に若干関連していて、中間型といえるでしょうか。
変奏の数
このソルの「魔笛の主題による変奏曲」 は5つの変奏 (それに序奏、テーマ、コーダがある) で出来ていますが、一般的に変奏の数というのは5~6個くらいが最も多いのではないかと思います。
ヨーロッパでは ”6” という数字は区切りのよい数字とされているので、「6つの変奏」などが最も多いのではと思います。
主題が短ければそれだけ変奏の数は多くなり、パガニーニのカプリース第24番などは14個、タレガのグランホタは楽譜によって違いますが、だいたい20~30くらいでしょうか。
変奏の数が多くなれば、それだけ主題を聴かせるというより変奏の方にウェイトがかかり、多くは技巧的な曲になるようです。 確かに上記の2曲とも演奏者の技量を発揮させる曲となっていますね。
変奏の並べ方
変奏の並べ方にもある程度傾向があります。 テーマに続く第1変奏は、普通テーマからあまり離れないものが多く、いきなり何の曲かわからなくなるような変奏は少ないようです。
主題の旋律から遠い変奏、あるいは短調から長調に変わると言った変奏は主に中間に置くことが多いようです。 6つ位変奏がある場合、変奏の一つは長調、短調を入れ替えることが多くあります。
最後の変奏はコーダを兼ねることが多く、テンポを速くして華麗な変奏とすることが一般的です。 変奏曲の多くは演奏者の技量を発揮させるものが多く、このような終わり方となります。
またテーマ自体を重く見る場合、最後にテーマをもう一度演奏して終わるということもしばしばあります。 バッハのゴールドベルク変奏曲はそのような形で、シャコンヌのも若干変えられていますが、最後にテーマが現れます(中間部でも出てくるが)。
自由なところもあるが
変奏曲は、その作品や作曲家によっては変奏の順番は常に確定している訳ではなく、変奏の順番を入れ替えて演奏することもできる曲もあります。
タレガは自らのリサイタルで 「グランホタ」 を必ず演奏し、場合によってはリサイタルの前半、後半にそれぞれ一回ずつ演奏していたこともあったようです。
毎回演奏していたといっても、その内容は日によってことなり、変奏の数も、順番も変えて演奏していたようです。 1回のリサイタルで2度グランホタを弾いたと言っても、おそらく別の変奏、あるいは別の組み合わせで演奏していたのでしょう。
因に曲目のほうも、「スペイン幻想曲」 とか「スペインの調べ」 など日によって異なり、この 「グランホタ」 という曲名は出版の際の曲名で、実際にはタレガはこの曲名ではあまり演奏していなかったようです。
現在、タレガの残したグランホタの譜面が数種類あるようですが、当然のことながらそれらは皆異なっています。 おそらくタレガのグランホタには完成された形、あるいは決定版とでも言えるようなものは存在しなかったのでしょう。
このように変奏曲にはフレキシブルな面もありますが、かつてソルの 「魔笛の主題による変奏曲」 を変奏の順番を入れ替えて演奏していたギタリストがいました。
しかしこれは作品の性質上、あるいはソルと言う作曲家の性格上あり得ないことかなと思います。 多くの場合、変奏の順番を変えると、作曲者の意図に反することになるでしょう。
シャコンヌは一応変奏曲だが
前回は本題なしになってしまいましたね、今回は早速本題に入りましょう。 バッハのシャコンヌは変奏曲ということになっていますが、一般的な変奏曲とやや違う点もあります。
まずテーマが4小節なのか8小節なのかはっきりせず、したがってこのシャコンヌはいくつの変奏で出来ているかはっきりしません。
そのように主題の長さが曖昧とか、変奏の数がはっきりしない変奏曲は、あまり例がないのでないかと思います。 もちろんそれにはバッハのはっきりとした意図があるのでしょう。

隣の空き地はお花畑状態 (本文には関係ないが)
普通の変奏曲とは
ところで、一般的に変奏曲というのはどういったものかをちょっと考えておきましょう。 変奏曲という形式はたいへんわかりやすくあえて説明することでもないかも知れませんが、一応やっておきましょう。
例えば、歌の伴奏をする時、1番と2番でアルペジオの形を変えたりすることもありますよね、 まだ歌であれば歌詞がありますから、1番と2番を同じように伴奏してもいいでしょうけど、楽器で演奏する場合は何回も同じことをやるのは若干抵抗も感じるでしょう。
従って、楽器で歌などを演奏する時には、歌詞の1番、2番みたいに同じメロディを繰り返す時、何らかの形で伴奏の方法を変えることが普通です。
ただアルペジオの弾き方を変えるだけのものから、楽器編成とか和声とかリズムとか大幅に変える場合もあります。


紅白のバラ
ラリアーネ祭も変奏曲だが
ギターの有名な曲では、「ラリアーネ祭」 は一応(?)テーマに二つの変奏が付いた変奏曲となっていますが、3つともメロディも和音も全く同じになっています。
アルペジオとトレモロと言うように右手の弾き方を変えているだけですが、こうしたものも変奏曲と言えるのでしょうね。
そのやり方でいけば、 「禁じられた遊び」 もアルペジオの形を変えたり、トレモロ奏法にしたりすれば(ラリアーネ祭と全く同じやり方が出来る)、一応、変奏曲の出来上がりとなるのでしょうか。



ご存じの「ラリアーネ祭」。 主題、お及び二つの変奏ともメロディも和声も同じ、なおかつ左手もほとんど同じ。 右手の弾き方だけが違う。 これも変奏曲といえば変奏曲。 もちろん目的としては右手のトレーニングのための曲と考えられる。
変奏曲には二つのタイプがある
こうした例はやや特殊な例かも知れませんが、変奏というのはそれほど特別のことでもなく、日常的に行われている事と言ってもいいでしょう。
ただ、完成された一つの作品としての変奏曲ということでであれば、それなりの内容も備わっていなければならないでしょう。
一般的に変奏曲の作曲の仕方としては、大ざっぱに2種類あります。
主題のメロディを変化させてゆく
その一つはテーマの ”メロディ” を基にし、それを変化させてゆく方法です。
19世紀以降の変奏曲はこの形をとる場合が多く、おそらく私たちが持っている変奏曲のイメージもこちらのほうだと思います。
また、このようなテーマとなる旋律を変化させてゆくタイプの変奏曲は、ヨーロッパの音楽だけでなく他の世界各地の音楽でも普遍的に行われていると思われます。
日本古謡で有名な 「さくら」 はもともとお琴の練習曲だったそうですが、おそらく当初から、あるいはかなり早い時期から変奏曲として演奏されていたと思われます。
ギターでも横尾幸弘氏をはじめ多くのギタリストが 「さくら変奏曲」 を作曲していますが、それら多くはこの 「さくら」 の旋律を変化させてゆく方法を取っています。
因みに、横尾氏の変奏曲の第3変奏は旋律には関係なく、さくらの持つ構造の A - B - B - A - C という形のみを基にしています。
バロック時代では低音、あるいは和声進行をテーマとする場合が多い
もう一つの方法はテーマの和声進行を用いて、それに合わせて旋律やパッセージを添えてゆくと言った方法です。 バロック時代の変奏曲はほとんどこの形を取っています。
バロック時代の変奏曲は和声進行というより低音の旋律をテーマとしますが、バッハの曲、特にこのシャコンヌでは具体的に書かれている低音はかなり変化しているので、その背景にある和声進行の方を主題としていると言っていいでしょう。
ジャズのアドリブもまさにこの方法とっていて、原曲のコード進行に合わせてソロ・プレーヤーや自由に演奏しますが、もちろんコード進行に合わせなければならないので、自由と言っても当然ながら制限もあります。
この和声進行を基にすると言ったものは、まさにヨーロッパの音楽独自のものと考えられます。 和声の概念そのものもヨーロッパの音楽固有のものとも言えるかも知れません。
バロック時代においては、変奏曲の主題は低音部、つまりバス声部となることが一般的ですが、ルネサンス時代においては主題にあたる定旋律はテノール声部におかれることが通常だったようです。

16世紀のスペインのビウエラ奏者、ナルバエスの「牛を見張れによるディファレンシャス」 ディファレンシャスは変奏曲といった意味だが、テーマは上声部ではなく、赤丸の低音部の ド ー ソ - ラ ー ミ の4つの音。 時代的にはバラック時代というより、ルネサンス時代末期といえるが、演奏上の問題で、定旋律が低音部に置かれていると考えられる
実際にはこれらの両方を用いる場合が多い
19世紀以降の変奏曲でも、実際にはその両方の方法を用いていることが多く、その例として、 ギターの変奏曲で最も有名なソルの 「魔笛の主題による変奏曲」 を例にとってみます(よくご存じの曲だと思いますので譜例は省略します)。
第1、第2、第5変奏は主題の旋律を変化させたものですが、第3変奏はテーマの旋律を思わせるところはほとんどなく、主題の和声進行のみを用いている形です。
因に、主題となっている旋律は魔笛の中でモノスタートスたちが歌う 「なんと素晴らしい鐘の音」 という短い歌ですが、ソルはその旋律をそのまま使わず、自分流に変更してテーマとしています。
和音で出来ている第4変奏はどちらかと言えば和声的ですが、音程の上下は主題に若干関連していて、中間型といえるでしょうか。
変奏の数
このソルの「魔笛の主題による変奏曲」 は5つの変奏 (それに序奏、テーマ、コーダがある) で出来ていますが、一般的に変奏の数というのは5~6個くらいが最も多いのではないかと思います。
ヨーロッパでは ”6” という数字は区切りのよい数字とされているので、「6つの変奏」などが最も多いのではと思います。
主題が短ければそれだけ変奏の数は多くなり、パガニーニのカプリース第24番などは14個、タレガのグランホタは楽譜によって違いますが、だいたい20~30くらいでしょうか。
変奏の数が多くなれば、それだけ主題を聴かせるというより変奏の方にウェイトがかかり、多くは技巧的な曲になるようです。 確かに上記の2曲とも演奏者の技量を発揮させる曲となっていますね。
変奏の並べ方
変奏の並べ方にもある程度傾向があります。 テーマに続く第1変奏は、普通テーマからあまり離れないものが多く、いきなり何の曲かわからなくなるような変奏は少ないようです。
主題の旋律から遠い変奏、あるいは短調から長調に変わると言った変奏は主に中間に置くことが多いようです。 6つ位変奏がある場合、変奏の一つは長調、短調を入れ替えることが多くあります。
最後の変奏はコーダを兼ねることが多く、テンポを速くして華麗な変奏とすることが一般的です。 変奏曲の多くは演奏者の技量を発揮させるものが多く、このような終わり方となります。
またテーマ自体を重く見る場合、最後にテーマをもう一度演奏して終わるということもしばしばあります。 バッハのゴールドベルク変奏曲はそのような形で、シャコンヌのも若干変えられていますが、最後にテーマが現れます(中間部でも出てくるが)。
自由なところもあるが
変奏曲は、その作品や作曲家によっては変奏の順番は常に確定している訳ではなく、変奏の順番を入れ替えて演奏することもできる曲もあります。
タレガは自らのリサイタルで 「グランホタ」 を必ず演奏し、場合によってはリサイタルの前半、後半にそれぞれ一回ずつ演奏していたこともあったようです。
毎回演奏していたといっても、その内容は日によってことなり、変奏の数も、順番も変えて演奏していたようです。 1回のリサイタルで2度グランホタを弾いたと言っても、おそらく別の変奏、あるいは別の組み合わせで演奏していたのでしょう。
因に曲目のほうも、「スペイン幻想曲」 とか「スペインの調べ」 など日によって異なり、この 「グランホタ」 という曲名は出版の際の曲名で、実際にはタレガはこの曲名ではあまり演奏していなかったようです。
現在、タレガの残したグランホタの譜面が数種類あるようですが、当然のことながらそれらは皆異なっています。 おそらくタレガのグランホタには完成された形、あるいは決定版とでも言えるようなものは存在しなかったのでしょう。
このように変奏曲にはフレキシブルな面もありますが、かつてソルの 「魔笛の主題による変奏曲」 を変奏の順番を入れ替えて演奏していたギタリストがいました。
しかしこれは作品の性質上、あるいはソルと言う作曲家の性格上あり得ないことかなと思います。 多くの場合、変奏の順番を変えると、作曲者の意図に反することになるでしょう。
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