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中村俊三 ブログ

中村ギター教室内のレッスン内容や、イベント、また、音楽の雑学などを書いていきます。

今年のまとめ




コロナに尽きた1年

 令和2年も、もうすぐ終わりです。 それにしても今年はコロナで明けて、コロナで暮れた年でしたね。

 我が国の犠牲者数では9年前の震災ほどではないものの、世界的に見れば大変大きな犠牲者数となり、経済活動、オリンピックを含む各種イヴェントなど、多方面に計り知れない悪影響を及ぼしました。

 また犠牲者としては志村けんさんなど、著名人が多数亡くなっているのも特徴ですね、さらにいろいろな面での自粛続きとなり、精神的な負担も大きく、多数の自死者も報道されています。

 ともかく、この2020年は歓迎できないでほうで、大変記憶に残る1年となってしまいました。 いや1年ではとうてい終わりそうもなく、来年もまたコロナとの闘いが続きそうですね。

 では、気を取り直して、この時期当ブログ恒例の今年のまとめということですが、今年はコンサートなどのイヴェントも少なく、寂しいまとめとなります。
 




★1月12日(日)   銘器コンサート    ギター文化館




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アントニオ・パフェス・ロペス(1795 スペイン)と松村雅亘 ~今年唯一のコンサート(1997)

 今年の私個人のコンサートとしては唯一のものになってしまいました。 ギター文化館所蔵の二つの楽器、 アントニオ・パフェス・ロペス(1795 スペイン)、 松村雅亘(1997) を用いてのコンサートでした。

 パフェス・ロペスはギター文化館所蔵の楽器の中で最も制作年が古いもので、5コース複弦のバロック・ギターから6単弦に変わった、最初期のもと思われます。




館所蔵の楽器中、最も古く、修理の痕も多いが、ボディなどはオリジナル

 この制作家はカディスに工房を持っていたということ以外にほとんど情報がありません。 この楽器はその後修理された箇所が多数あり、ボディ以外は制作時のものより大幅に変わってしまったものと思われます。

 指版とヘッドは明らかに後からつけられたもので、糸巻もちょっと変わっていますがおそらく20世紀のものと思われます。 しかし、表面版にフレットを打ち込んだ痕があり、少なくとも表面版は19世紀初頭以前のものであるのは確かです。

 つまり修理の後はたくさんありますが、ボディとネックはオリジナルのものでる可能性は高いようです。

 形としてはかなり細長く、その結果なかなか膝の上に収まらず、ちょっと苦労しました。最終的には右足にダイナレットを使って弾きました。 また弦の間隔も狭く、いろいろな意味で弾きにくい楽器でしたが、大変貴重な体験でした。




当館にもゆかりの深い松村さん

 松村さんは 生前にはよくこのギター文化館にも訪れていて、私も何回かお会いしました。我が国では大変著名な制作家ですが、とても気さくに声をかけていただきました。 

 松村さんは2014年に亡くなれてしまいましたが、この機会に松村さんの楽器を演奏する事が出来て幸せでした。 松村さんの楽器は派手に鳴るタイプではありませんが、低音などとても深い響きがします。




★前立腺などの手術で入院



手術の1か月後に大量出血があり再処理、再入院 ~個人的なことだが

 前記の銘記コンサートを行っていた時点では、コロナの件は重慶市の問題として報道されていましたが、まだ国内では感染者も出ておらず、現実の問題といった認識はありませんでした。 コンサートの際にもそういった話題は全く出なかったと思います。

 1月末にかねてから予定されていた結石と前立腺の手術で入院しました。7時間にわたる手術だったそうで(自分では全く自覚も記憶もない)、終わってからちょっと辛かったです。

 5日ほどで退院したのですが、せれから約1か月後に手術の個所から大量に出血し、また入院となってしまいました。 この時も出血で尿道が塞がれ、辛かったです(ちょっとどころではない!)。 今は特に問題がなくなとか完治したようです。




★リサイタル中止(4月25日ひたちなか市文化会館)



3月ころからコンサートなどが相次いで中止に

 この3度目の入院、つまり2月末から3月上旬のころになって、コロナ・ウィルスの件大きな問題となってっきました。

 ギター文化館などで予定されていた3月のコンサートなどが相次いで中止となりましたが、まだこの時点では2~3か月もすれば収まり、5月くらいに延期すれば行えるんじゃないかといったような雰囲気でした。

 私のリサイタル(4月25日)も3月上旬ころはまだ予定通り行うつもりでいましたが、3月半ばころだったと思いますが、それまでゼロだった県内でも感染者が出始め、開催できる状況ではなくなり、やむを得ず中止にしました。




★発表会中止、アンサンブル練習できず

 また5月にギター文化館で教室の発表会も予定していましたが、それもしばらくして中止となりました。 また水戸市の市民センターも使用することができなくなり、水戸ギター・アンサンブルの練習もできない状態となりました。

 7月くらいには始められるかなとも思ったのですが、状況はあまりよくならず、市民センターも70歳以上は使用できないということだったので、結局ことしのアンサンブル練習はなくなりました。




★ICG活動もほぼ休止

6月ころ予定していたICG(茨大ギターの同期によるアンサンブル)の合宿も、県外在住のメンバーが出席できず、とりあえず県内のメンバーだけ集まりましたが、結局今年は演奏会無理ということで、例年10~11月に行っていたICGアンサンブル演奏会も中止となりました。




★水戸市民音楽会中止

 毎年7月に水戸芸術館で行われていた水戸市民音楽会も中止となりました。 最初の実行委員会は2月上旬にあったのでうが、その時には開催中止といったことは全く議題に上がりませんでした。

 なんといっても非常にたくさんの出場者がいて、特にステージ裏などが大変込み合うコンサートなので、やはり開催は困難でしょうね。 来年状況が若干好転したとしても、開催は危ぶまれるところでしょう。




★水戸・ギターアンサンブル演奏会(10月31日)中止

 アンサンブルの練習ができなくなった結果、10月31日に予定していた水戸ギタ・アンサンブル演奏会も必然的に中止なってしまいました。 




★10月21日 中村ギター教室発表会  ギター文化館


今年唯一の教室のイヴェント

 今年唯一の教室のイヴェントでしたが、これはけ決行しました。 あまり宣伝もせず、また生徒さんにもそれほど積極的に参加を呼びかけず、本当に出演したい人と、どうしても聞きたい人だけといった感じでなるべく地味に行おうと思ったのですが、出演者17名で、観客を合わせると40名を超えるイヴェントとなりました。



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検温、消毒、マスクは今年のイヴェントには欠かせない



 検温、消毒、マスク、 間隔を空けての着席と厳戒態勢だったのですが、参加者が意外と多く、内心ちょっと心配しました。 そのご特に連絡はないので、どうにかセーフだったようです。

 この10月21日というのは第3波の直前で、これがもうちょっと時期が遅かったら実行できたかどうかわからなかったところです。 
 



★教材の手直し

 1月のコンサートを除いて今年はコンサートらしいコンサートもなく、また生徒さんも休みなどが多く、また芸文センターも一時休止となり、仕事のほうではかなり暇な1年となりました。

 この機会に教材の整備(基本的に教室の教材は自分で作っている)などを行いました。 これまでの教材は音符や運指などが小さく、最近私自身を含め、高齢者が多くなったので、「楽譜が小さくて読めない」といった苦情も多くなりました。

 そこでこれまでの教材を今までとは別のソフト(KAWAIのスコア・メーカー) を用いて見やすく直しました。 といっても教材は非常にたくさんあるので、全部とまでは行きませんでしたが、主要なものは見やすくなおしました。 またさらにいくつかの教材は模範演奏のCDも制作しました。





★スター・ダスト 中村俊三ポピュラー&オリジナル・アルバム発売



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スターダスト、第3の男、サマータイム、ラ・クンパルシータ、ハナミズキなどのほか、私のオリジナル3曲も入っている



一人ギター二重奏、合奏

 以前から自作の曲をCDにしたいと思っていたのですが、この機会に自作の3曲を11曲のポピュラー曲(一部クラシック曲もあるが)と共に録音、発売しました。

 私の曲、「ホワイト・ローズ」、「7月の風」、「Broken Cup」 の3曲はすべて二重奏曲だったので、それぞれのパートを別に録音し、編集によって二重奏曲としたもです。

 ポピュラー系の曲は当初独奏のバージョンだったのですが、こちらのほういくつかは ”一人二重奏” の形で録音しました。 さらにバーチャルでオーケストラの音を入れたり、エレキ・ギターの音を入れたりもしました。

 チャイコフスキーの「花のワルツ」は3重奏バージョンですが、聞いた感じはまさに ”一人ギター合奏” といった感じです。 なんといっても編集で制作しているので、”生” のギター合奏よりもテンポも速く、またズレが全くないので、よくも悪くも ”生では出来ない” 演奏に仕上がっています。

 こうした時期なのでまだ購入していただいた方は少ないのですが、購入したいただいた方々からは 「変わっていて、なかなか面白い」 と言っていただいています。



★来年は

 それでは、今年はこんな年でしたが、来年は今年の反動で大変良い年になるといいですね。
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目で見るギターの音 5




3弦と6弦



 これまで①弦の各フレットのグラフを見てもらいましたが、今回は3弦と6弦のグラフを見てもらいます。

 まず3弦ですが、今回は16個の音を一つのグラフにしたので、間隔が狭くなっていますが、1個の音は時間にしてだいたい2~3秒くらいです。



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3弦の開放から15フレット(シ♭)までのグラフ。 上がハウザー、下がジェイコブソン やはり開放と1フレット、12フレットと13フレットの「ソ」、「ソ#」 は3弦でも突出している




やはり「ソ」と「ソ#」は突出している

開放1フレット、12フレットと13フレットの 「ソ」 と 「ソ#」 が突出している点は1弦の場合と同じです。 ハウザーでは 「ソ」 と 「ソ#」 の差があまりありませんが、ジェイコブソンの 「ソ#」 はかなり突出しています。

 1弦ではあまり鳴らなかったハウザーの「ド」とジェイコブソンの「シ」はそれほどへこんではいません。 前述の「ソ」と「ソ#」が突出していること以外はわりと均等ですね。



「ソ」、「ソ#」に食われている?

 でも突出した 「ソ」 と「ソ#」 の両隣の 「ファ」、「ファ#」、「ラ」、「ラ#」 が凹んでいます。 まるでこの「ソ」と「ソ#」に音が持ってゆかれているみたいですね。



2台とも傾向は同じ

 それにしてもこの二つの楽器、この3弦を見る限りではかなりよく似ています。 どうしても同じような傾向の楽器を好む傾向があるのでしょう。 因みに3弦はどちらもサバレス・アリアンスのノーマル・テンションを使用しています。




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6弦の開放から12フレット 1弦に比べると各音の差が小さい。 12フレットの音はどちらの楽器も変な形をしているが、他の弦の共鳴を拾っていると思われる。




低音弦は、やはり余韻が長い

 次は6弦ですが、やはり6弦となると余韻が長く、減衰が少ないですね。 放っておくとまだまだ余韻が続くでしょう。 ちょっと見た感じでも1弦とはだいぶ違ったグラフになっています。



高音弦ほど各音で差がない

 それにしても、6弦の場合は、1弦に比べると各音であまり差がないですね。 相変わらず4フレットの「ソ#」がやや突出している以外は、ほぼ同じような振幅です。 またハウザーとジェイコブソンの差もあまり顕著ではないようです。

 ハウザーの低音の「ラ」、つまり6弦の5フレットの音はいつもよく鳴らなくて苦労するのですが、グラフを見た限りではあまり凹んでもいないようですね。

 また1弦では7フレットの「シ」が鳴って、8フレットの「ド」が鳴らなかったのですが、6弦ではその逆のようにも見えます。「シ」のほうは減衰が速いようです。

 どちらの楽器も12フレットのグラフは乱れた形をしていますが、おそらく他の弦が共鳴していたのでしょう。



よく鳴る音は減衰も速い

 ところで、よく鳴る音の 「ソ」 と 「ソ#」 ですが、確かに発音時の振幅は高いのですが、減衰も速いです。 あまり鳴らない5フレットや6フレット(「ラ」と「ラ#」)ほうが減衰が遅く、音が伸びるようです。

 特に低音は発音時に鳴るかどうかというより、持続する方が大事なので、そういった意味ではこの「ソ」とか「ソ#」はやや困った音ともいえるでしょう。



よく鳴る楽器はウルフトーンも顕著に出るのか

 こうした音は前に言いましたとおり「ウルフトーン」と言って、楽器の製作上、どうしても現れてしまうことだそうですが、これらを押さえようとすると、どうしても楽器全体としてならなくなり、また楽器全体の音量を上げようとすると、このウルフトーンも顕著に現れてしまうということなのかも知れません。



楽器を選ぶ際には

 確かに楽器を買う時に、よく鳴る楽器を選ぶか、バランスの良い楽器を選ぶかで悩むところですね。 よく鳴るといっても瞬間的に鳴るよりも、余韻が長続きする楽器が良いのは間違いありません。



中音域が太い楽器は近くでは大きく聴こえるが

 また、中音域がよく鳴る楽器は聴いて大きな音に聴こえるのですが、どうしても離れたところには届きにくい面もあります。 遠達性を考慮すると中音域よりもやや高い音域の倍音をよく拾う楽器のほうがいいようです。

 しかし高音域をよく拾う楽器というのは弾き方によってはノイズっぽく聴こえるので、こうした楽器で美しい音を出すのはかなり技術が必要です。



思った以上に差が大きかった

 さて、このようにギターの音を編集ソフトによりグラフで見てもらいましたが、今回こういったことをやってみて改めて気が付いたこととしては。まずグラフで見ると各音によって相当差があるということです。

 確かに、同じギターでも鳴る音と鳴らない音があるということは日頃からわかってはいる事ですが、グラフで見るとこんなに違うものかと思いました。



グラフには現れない部分も


 それは特に高音で顕著で、低音弦ではそれほど差がないこともわかりました。 しかし実際に耳で聴いた感じではグラフで見るよりも差が小さく、鳴る音とならない音の差が2倍以上もあるようには聞こえないのも事実です。 おそらくは人間の耳にはグラフ通りには感じられない他の事情もあるのかも知れません。



固有振動

 ギターの場合、特になる音、つまりウルフトーンが現れるのは、ボディ自体に固有の振動数があるからで、それは楽器製作上避けられないものだそうです。 
 
 そうしたことからすると、録音の際にも、デジタル録音とは言え、空気の振動をデジタルのデータに置き換える際、やはり物理的な媒体で空気の振動を感知するしかありません。となればその物理的媒体にも固有の振動があって、拾いやすい振動数とそうでないものもあるのかなとも考えられます。

 さらには人間の耳も鼓膜という物理的な媒体によって空気の振動を感知するので、その鼓膜の固有振動なども関係する可能性もあるでしょう。 結論としては、人間の耳も完全ではないが、こうしたグラフもまた完全ではないということでしょう。



お店で

 何はともあれ、私たちがギターを選ぶとき、こうしたグラフはたいへん参考になるでしょうね。 

 しかし楽器店にICレコーダーとノート・パソコンを持って行って、その場で録音しパソコンでグラフを見ながら、 「この音の凹み酷いな」 とか、「この音、なることは鳴るけど、減衰早すぎ!」  「うあー、ヤバイ! こんなところにウルフトーン! きついな」 

 なんてやっていたら店の人に追い出されるでしょうね。 くれぐれも当ブログを参考にしたなんて言わないで下さい。
目で見るギターの音 4




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18、19フレットは突出していたはずだが

 前回の記事に引き続き、消音した場合としない場合のグラフで、今回はハウザーの1弦の14フレットから19フレットです。 

 このグラフで、まず気になるのは、以前載せたグラフでは18、19フレットの「シ♭」と「シ♮」のグラフが突出していたのですが、今回のグラフではそれがあまりはっきり出ません。

 よく見ると(クリックすると拡大する)弾弦直後に若干振幅が跳ね上がるのは前回同様ですが、それにしても前回とだいぶ違います。



無意識に調整してしまった?

 おそらくこの2か所は前回グラフが突出したので、無意識に抑えて弾いてしまったのでしょう。 逆に言えば、前回はこのあたりの音は出にくいので習慣的に強く弾いてしまったとも言えます。 

 実際の曲の中でも、このあたり音が出てくる場合はほぼ間違いなく目立たせなければならない音、つまりフォルテが必要とされる場合多いので、強めに弾く習慣が出来てしまったのでしょう。 

 その他も音についても前回ほど凸凹が少ないですね。 前回のグラフを記憶していて、無意識にコントロールしてしまったのかも知れません。 

 やはり人間が弾くと実権にはなりませんね、全く音を聴かないで弾けばいいんでしょうけど、なかなか難しい。  ・・・・・・それが出来ちゃう人もいるが。



上段と下段の差もあまりないが

 上段と下段(消音した方としない方)の差も、ちょっと見えるとあまりありませんが、 グラフを拡大してみると、同じ音を低音弦に持つ音、「ソ」、「ラ」 などは振幅が収まったあたりから余韻があるのが分かります。

 つまりこのあたりの音は弾いてからしばらくしないと他の弦の共鳴は表に出ないということでしょうか。 



ファ#は意外と他の弦と共鳴する

 14フレットの「ファ#」は直接同じ音が開放弦になく、かろうじて2弦が5度関係になっているくらいですが、意外と共鳴があるようです。 
 4弦とか5弦も長3度関係である程度共鳴するのでしょうが、この長3度は厳密には5倍音にはなっておらず、あまり共鳴しないはずなのですが、ある程度共鳴するのかも知れません。






ハウザーとジェイコブソンの違い

 ちょっと話が変わりますが、下はハウザーとジェイコブソンの同じ 「ミ」の音~1弦の開放弦のグラフです。 



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上段はハウザー、下段はジェイコブソン。 どちらも1弦の開放(ミ)のグラフ 時間にして約2秒間  ジェイコブソンのほうが音量があるが、伸びはハウザーの方があるのがわかる




弾弦直後はあまり変わらないが

 前述のとおり、弾いた瞬間の振幅はどうも弾き方の違いの方が大きく出てしまうようです。 音色についてはこのグラフからではよくわかりませんが、弾いた瞬間の音色も楽器の違いよりも弾き方、あるいは弾く人の差の方が大きいかも知れません。

 しかしこの「ミ」の音はグラフでもまた弾いた感じでも音量はあきらかにジェイコブソンの方が大きいです。 グラフをよく見ると弾いた瞬間がは両者でそれほどの違いがありませんが、ジェイコブソンの方は弾いた直後に減衰せず、一定の時間振幅が持続するので、大きく聴こえるのでしょう。 人間の耳に大きく聴こえるためにはある程度の時間が必要と言えるのでしょう。 

また、よく見ると弾弦直後よりその少し後に振幅のピークがあります(どちらの楽器も)。 つまりギターのボディの共鳴にはすこし時間がかかるのでしょう。



ある程度時間が経つとハウザーの方が振幅が大きくなる

 一定の時間が過ぎるとハウザーに比べ、ジェイコブソンの方が減衰が大きくなり、ある時点で振幅が逆転します。 正確な時間はわかりませんが、このグラフ全体が約2秒くらいなので、だいたい0.5秒当たりでしょうか。

 そしてその後は音が聞こえなくなるまでハウザーの振幅のほうが大きい状態が続きます。

 この余韻の長さだけが楽器の特徴を決める訳ではありませんが、一つのファクターであることは言えるでしょう。 弾いている印象からもハウザーのほうが音の”伸び”があるのですが、それはこうしたグラフに表れているようです。



減衰の仕方は弦でも変わる

 もっともこの減衰のしかたは弦の種類によっても異なるでしょう。 テンションの高い弦は弾いた瞬間の振幅は上がるが、減衰も速いと思われます。

  テンションの低い弦は弾いた感じ、音がよく出ないように思われるのですが、その分伸びはよく、また高音は自分には小さく感じても少し離れたところではよく聴こえるので、どちらかと言えば弦のテンションは弱めの方がいいようです。

 もちろん今回はどちらも同じ弦を用いていますが(プロアルテ・ノーマルテンション)、 同じ楽器で弦を変えて測定しても面白いかなと思います。
目で見るギターの音 3





他の弦を共鳴させて

 今回は前回と同じ①弦の開放から19フレットまでを他の弦を消音せずに弾いたものです。 まずハウザーからです。




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ハウザー  開放から6フレットまで




共鳴する音としない音でだいぶ異なる

 ちょっと見にくいかも知れませんが(クリックすると見やすくなる)、音によってだいぶ異なります。 当然のことながら開放弦に同じ音がある音は共鳴し、ないものはその音だけの響きとなります。



「ミ」は6弦の他、2弦と5弦も共鳴する

 特に開放の「ミ」は6弦が共鳴するわけですが、他に5弦と2弦も5度関係なので共鳴します。 その結果、ミの音の余韻が大きくなっています。

 共鳴すると言っても、発音の瞬間には関係なく、余韻、つまりある程度時間が経ってからが大きく異なります。 しかし人間が感じる音量は瞬間的な振幅だけでなく振動している時間にも関係あるので、やはり共鳴が多い音は大きく聴こえます。

 ハウザーの場合、元々「ミ」は鳴る方ですが、さらに他の弦との共鳴もあるということで、やはり他の音より聴こえるのは確かです。いろいろと「恵まれた音」とも言えるでしょう。




6弦の余韻が残ってしまった?


 1フレットの「ファ」はギザギザしていますが、おそらくこれはその前に弾いた「ミ」の音によって6弦や5弦などが響いていて、その響きと不協和となっているためではないかと考えられます。




意外と共鳴


 2フレットの「ファ#」は特にオクターブや5度関係の弦がなく、あまり共鳴しないと思いますが、それでもすこし共鳴があるようです。おそらく➃弦の「レ」が長3度(微妙だが5倍音)、2弦(シ)が5度関係と言うところで若干共鳴があるのでしょう。



1オクターブ下の音があるので余韻が長続き

 3フレットの「ソ」は3弦と同じ音なので、さすがに余韻が長続きしていますね。 この音は元々鳴る音なので、「恵まれた」ということになります。 3弦以外に4弦も若干共鳴します。




あまり共鳴しないが


 ソ#はよく鳴る音(ウルフトーン?)ではありますが、5度やオクターブ関係の音がなく、他の弦と共鳴しにくい音ですが、これも若干共鳴があるように見えるのは6弦が長3度関係と言うことなのでしょう。 他の弦は全く共鳴しないのではないかと思います。

 

他の弦とよく共鳴する

 5フレットの「ラ」は一般的によく鳴る楽器が多いのですが(昔使っていたホセ・ラミレスはよく鳴っていた)、このハウザーではあまり鳴りません。 しかしあまり目立たないのは5弦などの共鳴を拾いやすいからなのでしょう(6弦、4弦も共鳴する)。



共鳴には頼れない

 6フレットの「シ♭」は全く共鳴する弦を持たず、まさに自力で頑張るしかないのですが、このハウザーではそこそこ鳴るので、あまり気にはなりません。
 


上段のほうが発音時の振幅が大きいが

ところで、よく見ると他の弦を消音して弾いた方、つまり上の段の方が音の出の振幅がやや大きいように見えます。 どちらもアポヤンド奏法(薬指の)で弾いているのですが、他の弦を消音しているということは、左手のどこかを2~6弦に置いて弾いている訳です。



同じように弾いているつもりでも

 そのため右手が安定して弦を強く弾くことが出来る訳です。 消音しないということは右手を他の弦に全く触れないで弾かないといけないので、どうしても不安定になります。

 出来るだけ同じ音量で、同じ力で弾こうしたのですが、こうした事もあって発音時の振幅にやや差が出てしまったのでしょう。

 結果、音自体を大きくしたければ、親指を6弦などに添えてアポヤンド奏法で弾いた方が良く、また逆に音の出よりも”伸び”を重視する場合はアルアイレ奏法など、他の弦に触れない方が良いということになるのでしょう。 こういったことも日頃無意識にやっていることかもしれませんね。




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7フレットから13フレットまで




共鳴が複雑に絡み合っている?

 7フレットの 「シ」 は、下段(消音しないほう)のグラフは、なんか変な形をしていますね。 発音直後は消音したほうよりも減衰が大きく、その後は減衰せず余韻が長続きしています。

 この 「シ」 は6弦、4弦、2弦、共鳴が共鳴し、さらに3度関係で3弦の若干共鳴するので、それらの共鳴が複雑に絡み合っているのかも知れませんね。

 元々よく鳴る音なので、、実際の演奏では他の弦を消音したほうがすっきり聴こえます。グラフ的にも上段の方がきれいですね。



何重苦?

 8フレットの「ド」や普段からよく鳴らない音なのですが、共鳴もほとんど拾っていないようですね。 よく鳴らない上に共鳴もないといった、困った音ですね。 さらに音の伸びも悪く、音色もなかなかきれいに出ず、ヴィヴラートもかかりにくい、・・・・・何重苦?

 9フレットの「ド#」は、そのナチュラルの 「ド」 に比べるとよく鳴る音ですが、他の弦の共鳴は殆んどないようです。 ほんの少し5弦が鳴るくらいでしょうか(5倍音関係で)。

 

10フレットの「レ」は最も 「おいしい音」

 10フレットの「レ」はグラフではわかりにくいのですが、このハウザーでは最も 「おいしい音」 で、たいへん美しく、余韻も長く、特にヴィヴラートがかかりやすい音です。

 8フレットの「ド」と真逆の関係ですね。 こうした事からも、この楽器ではハ長調には不向きで、ニ長調、またはト長調に適していることがわかります。 もちろん低音弦の関係からもこうした調がよく合うことは自明と言えるでしょう。

 この「レ」は同じ音の4弦のみでなく3弦、5弦も共鳴し、拡がり感のある音となっています。 しかし複数の弦が共鳴すると、前述のようにグラフ上では不規則な形になるようですね。
 


うっかり触れてしまった?

 11フレットの「レ#」と12フレットの「ミ」は上下であまりかわりませんね。 「レ#」は共鳴する弦がないので当然と言えますが、 12フレットの「ミ」の場合は 開放と同じく6、5、2弦などが共鳴するので余韻が大きくなるはずです。

 うっかり低音弦にふれてしまったかな? しかし余程しっかりと消音しない限りどこかの弦が共鳴するので、やはり同じ「ミ」でも開放の場合ほどは共鳴しないのかも知れません。



実際の演奏でも気を付けなければならない

 13フレットの「ファ」のグラフが不規則になっているは、1フレットの時と同じく6弦などの余韻が残っていたからでしょう。 これは実際に演奏の場合でも気を付けなければならないことです。 6弦などが鳴っている状態で 「ファ」 を弾いてしまう機会はよくあります。