令和時代のギター上達法 44
アラストレ、ポルタメント、グリッサンド
前回この3つの言葉についての説明をしましたが、今回はそれぞれギターに於ては弾き方に違いがあるのかという話になります。 阿部保夫編、「カルカッシギター教本」 と京本輔矩著「クラシックギターの第一歩」 でそのことに触れている部分を引用します。原文通りですが、添えられた譜例は省略します。
阿部保夫編 「カルカッシギター教本」
アラストレ(arrastre or glissando)
これはギターの特色とも云えるもので、非常に美しい効果がある。しかし使いすぎる人が多い。楽譜に記されている以外は、あまり使用しない方がよい。
アラストレは ー で表され、前の音は弾弦し、次の音まで押さえた指を離さず、すべらせてもってゆく。次の音は改めて弾弦しない。特に注意すべきことは、音符の長さを正しく取ること。前の音を速く弾く人が多い。
ポルタメント(portamento)
アラストレやリガートは、後の音を右手で弾弦しないが、それを弾弦する。この場合も前の音をひいて、すぐにすべり出す人がいるが、必ずテンポ通りに弾くこと。
前にも言いましたが、このテキストは「カルカッシギター教本」となっていますが、直訳したものではなく、文章などは阿部氏の考えによるものと思われます。出版(初版)年代は不明ですが、状況的には1950~1960年代のもとと思われます。
京本輔矩著 「クラシックギターの第一歩」 1970年
アラストレ
音符間を斜線でつないで表し、後の音は右手弾弦する事なく、左手をそのまま次の音にすべらせて奏する。但し、アラストレでない場合でも斜線でつないだ楽譜もあるから注意してください。これは古い書き方でドイツあたりでまだ使っている人もいますが、同じ指を使用せよとの意味ですから混同しないように。
ポルタメント
アラストレと同じ要領で次の短倚音まで指をすべらせ、しかる後次の音を右手弾弦します。指をすべらせる速度が遅いとしつこい厭味なものになりますから、最初の音はなるべく時価一杯までのばすように心がけてください。そして後の音は素早く。
我が国のギター界のレジェンド
多少表現は違いますが、ほぼ同じ内容ですね。 前にも言いました通り、アラストレは後続音を弾かないもの、ポルタメントは後続音を弾き直すと言っています。 阿部保夫氏、京本輔矩氏とも、昭和後期におけるわが国のギター界を牽引したをレジェンドで、そうしたギタリストが言っていることなので、こうした言葉の定義は間違いないことなのでしょうか。
しかし前にも言いました通り、私の周辺や、知りあいのギタリストたちは、あまりこうした言葉の使い分けをしていないように思われます。知っているけど使わないだけかもしれませんが。
世界共通の認識なのか?
また、このような言葉の定義が、世界共通のものかどうかということになると、さらに疑問となります。 というのも日本では音楽用語としてイタリア語、ドイツ語、英語、そしてギターに於てはスペイン語と、いろいろな言語を用いています。 さらにもちろん日本語もあるでしょう。 しかし一般に、特に欧米などでは音楽用語といえども基本的に自国語を用いることが多いようです。
日本ではいろいろな言語の音楽用語を用いているが
例えば音の読み方なども日本ではイタリア語の 「ドレミ」、 英語の 「CDE」、 同じアルファベットでもドイツ語読みで 「ツェー、デー、エー」 と読む人、あるいは場合もあります。 日本語の 「ハニホヘト」 もありますね。
日本ではこれらを状況や、ジャンルによって使い分けています。声楽をやる人は「ドレミ」、器楽をやる人はドイツ語の「CDE」、ジャズやロックをやる人は英語読みの「CDE」、クラシック・ギターはどちらかと言えばラテン系の楽器なので「ドレミ」を用います。しかし同じギターでもポピュラー系になると英語読みとなります。
アメリカではすべてCDE
このように日本では音の呼び方がいろいろあるのですが、アメリカでは音名はすべて英語の「CDE」で呼ぶようです。これはアメリカの人を教えたことがあるので、確かだと思います。「ドレミ」というのも一応知ってはいたようですが、あまり使わないそうです。
余談ですが
若干余談ですが、読者の皆さん、ニ長調の音階と主和音すぐにわかりますか? 当ブログの読者の皆さんであればこのような質問は、たいへん愚かなことと思います。 しかし私の教室で、生徒さんにこのような質問をしたとき、即答できる人はむしろ少数派です。
これは私の生徒さんの意欲や勉強不足、あるいは記憶力の問題というより、日本で音楽を学ぶと、これがすぐにピント来なくなるようになっています。それは音名が上記のように少なくとも3種類使われるからですね。 ニ音=レ=D とわかれば簡単です。音階は「レ」から始まり、主和音は「Dコード」とすぐわかります。
おそらくアメリカで音楽を学んでいる人だったら、これらのことはすぐにわかるのではと思います。Dメジャーのキーですからスケールは「D」ではじまり、トニックは「Dメジャー」、これで済んでしまいます。
レ長調って言えば
日本でも 「レ長調」 で 「レのコード」 とすれば非常に簡単なことになります。皆さん学校で 「 ト ニ イ ホ ロ ヘ 」 なんて覚えたのではないですか? あれ本当によくないです。調の意味を誤解する原因となります。
「アラストレ」はスペイン語圏の人しかわからない?
話は戻りますが、多くに国では音楽用語と言えども基本的に母国語を用います。とは言ってもポルタメントは基本的にイタリア語ですが、音楽用語としてよく用いられ、音楽に携わる人、特にクラシック音楽関係者であればどの国の人にも理解され、また使われていると思われます。
その一方、アラストレとなるとスペイン語以外の辞典にはその類似語も含め、全く載っていないので、おそらくスペイン語を用いる人だけに理解される言葉なのではと思われます。ドイツやアメリカのギタリストなどもアラストレという言葉を用いているかどうかは定かでありません。
グリッサンドは世界共通
グリッサンドという言葉はそれぞれの言語によって綴りや発音が違いますが、スペイン語、フランス語などにもその類似語があり、おそらくヨーロッパ系の人であれば多くの人が理解する言葉でしょう。 従って発音や綴りなどは違うにせよ、世界中のギター愛好家に理解され、使われている言葉と考えられます。
こうしたことから考えると、上記のアラストレとポルタメントについての阿部氏や京本氏の定義は、我が国だけのものなのでは、といったことも考えられます。
アコースティック・ギターと真逆の意味に
また、阿部氏の説明ではアラストレとグリッサンドは同じ意味としています。そのことからすると、今現在アコースティック・ギターで使われているグリッサンドの意味と真逆になってしまいます。阿部氏の説明ではグリッサンドは後続音を弾かない、一方アコースティック・ギターでは後続音を弾く方がグリッサンドで、弾かない方はスライドとしています。
これではちょっと厄介なことになってしますね。もっとも、アコースティック・ギターの 「グリッサンド」 と 「スライド」 の使い分けにしても、本来そう言ったことがこれらの言葉の中にあるわけではありません。アコースティック・ギターの関係者が便宜上そのように定義しただけと思われます。
ただし、このグリッサンドとスライドはどちらも英語なので、わが国だけでなく英語圏の人もそのような使い分けをしている可能性もあります。これについては、私自身アメリカやイギリスのギターのテキストを読んだことがないので確かなことはわかりません。
詳しいことを知っている人いましたら
いずれにしても、私自身では確かなことはわからず、これらの文章も不確かな推測を基に書いています。こうしたことについて詳しい情報をお持ちの人がいましたら、ぜひコメントお願いいたします。
アラストレ、ポルタメント、グリッサンド
前回この3つの言葉についての説明をしましたが、今回はそれぞれギターに於ては弾き方に違いがあるのかという話になります。 阿部保夫編、「カルカッシギター教本」 と京本輔矩著「クラシックギターの第一歩」 でそのことに触れている部分を引用します。原文通りですが、添えられた譜例は省略します。
阿部保夫編 「カルカッシギター教本」
アラストレ(arrastre or glissando)
これはギターの特色とも云えるもので、非常に美しい効果がある。しかし使いすぎる人が多い。楽譜に記されている以外は、あまり使用しない方がよい。
アラストレは ー で表され、前の音は弾弦し、次の音まで押さえた指を離さず、すべらせてもってゆく。次の音は改めて弾弦しない。特に注意すべきことは、音符の長さを正しく取ること。前の音を速く弾く人が多い。
ポルタメント(portamento)
アラストレやリガートは、後の音を右手で弾弦しないが、それを弾弦する。この場合も前の音をひいて、すぐにすべり出す人がいるが、必ずテンポ通りに弾くこと。
前にも言いましたが、このテキストは「カルカッシギター教本」となっていますが、直訳したものではなく、文章などは阿部氏の考えによるものと思われます。出版(初版)年代は不明ですが、状況的には1950~1960年代のもとと思われます。
京本輔矩著 「クラシックギターの第一歩」 1970年
アラストレ
音符間を斜線でつないで表し、後の音は右手弾弦する事なく、左手をそのまま次の音にすべらせて奏する。但し、アラストレでない場合でも斜線でつないだ楽譜もあるから注意してください。これは古い書き方でドイツあたりでまだ使っている人もいますが、同じ指を使用せよとの意味ですから混同しないように。
ポルタメント
アラストレと同じ要領で次の短倚音まで指をすべらせ、しかる後次の音を右手弾弦します。指をすべらせる速度が遅いとしつこい厭味なものになりますから、最初の音はなるべく時価一杯までのばすように心がけてください。そして後の音は素早く。
我が国のギター界のレジェンド
多少表現は違いますが、ほぼ同じ内容ですね。 前にも言いました通り、アラストレは後続音を弾かないもの、ポルタメントは後続音を弾き直すと言っています。 阿部保夫氏、京本輔矩氏とも、昭和後期におけるわが国のギター界を牽引したをレジェンドで、そうしたギタリストが言っていることなので、こうした言葉の定義は間違いないことなのでしょうか。
しかし前にも言いました通り、私の周辺や、知りあいのギタリストたちは、あまりこうした言葉の使い分けをしていないように思われます。知っているけど使わないだけかもしれませんが。
世界共通の認識なのか?
また、このような言葉の定義が、世界共通のものかどうかということになると、さらに疑問となります。 というのも日本では音楽用語としてイタリア語、ドイツ語、英語、そしてギターに於てはスペイン語と、いろいろな言語を用いています。 さらにもちろん日本語もあるでしょう。 しかし一般に、特に欧米などでは音楽用語といえども基本的に自国語を用いることが多いようです。
日本ではいろいろな言語の音楽用語を用いているが
例えば音の読み方なども日本ではイタリア語の 「ドレミ」、 英語の 「CDE」、 同じアルファベットでもドイツ語読みで 「ツェー、デー、エー」 と読む人、あるいは場合もあります。 日本語の 「ハニホヘト」 もありますね。
日本ではこれらを状況や、ジャンルによって使い分けています。声楽をやる人は「ドレミ」、器楽をやる人はドイツ語の「CDE」、ジャズやロックをやる人は英語読みの「CDE」、クラシック・ギターはどちらかと言えばラテン系の楽器なので「ドレミ」を用います。しかし同じギターでもポピュラー系になると英語読みとなります。
アメリカではすべてCDE
このように日本では音の呼び方がいろいろあるのですが、アメリカでは音名はすべて英語の「CDE」で呼ぶようです。これはアメリカの人を教えたことがあるので、確かだと思います。「ドレミ」というのも一応知ってはいたようですが、あまり使わないそうです。
余談ですが
若干余談ですが、読者の皆さん、ニ長調の音階と主和音すぐにわかりますか? 当ブログの読者の皆さんであればこのような質問は、たいへん愚かなことと思います。 しかし私の教室で、生徒さんにこのような質問をしたとき、即答できる人はむしろ少数派です。
これは私の生徒さんの意欲や勉強不足、あるいは記憶力の問題というより、日本で音楽を学ぶと、これがすぐにピント来なくなるようになっています。それは音名が上記のように少なくとも3種類使われるからですね。 ニ音=レ=D とわかれば簡単です。音階は「レ」から始まり、主和音は「Dコード」とすぐわかります。
おそらくアメリカで音楽を学んでいる人だったら、これらのことはすぐにわかるのではと思います。Dメジャーのキーですからスケールは「D」ではじまり、トニックは「Dメジャー」、これで済んでしまいます。
レ長調って言えば
日本でも 「レ長調」 で 「レのコード」 とすれば非常に簡単なことになります。皆さん学校で 「 ト ニ イ ホ ロ ヘ 」 なんて覚えたのではないですか? あれ本当によくないです。調の意味を誤解する原因となります。
「アラストレ」はスペイン語圏の人しかわからない?
話は戻りますが、多くに国では音楽用語と言えども基本的に母国語を用います。とは言ってもポルタメントは基本的にイタリア語ですが、音楽用語としてよく用いられ、音楽に携わる人、特にクラシック音楽関係者であればどの国の人にも理解され、また使われていると思われます。
その一方、アラストレとなるとスペイン語以外の辞典にはその類似語も含め、全く載っていないので、おそらくスペイン語を用いる人だけに理解される言葉なのではと思われます。ドイツやアメリカのギタリストなどもアラストレという言葉を用いているかどうかは定かでありません。
グリッサンドは世界共通
グリッサンドという言葉はそれぞれの言語によって綴りや発音が違いますが、スペイン語、フランス語などにもその類似語があり、おそらくヨーロッパ系の人であれば多くの人が理解する言葉でしょう。 従って発音や綴りなどは違うにせよ、世界中のギター愛好家に理解され、使われている言葉と考えられます。
こうしたことから考えると、上記のアラストレとポルタメントについての阿部氏や京本氏の定義は、我が国だけのものなのでは、といったことも考えられます。
アコースティック・ギターと真逆の意味に
また、阿部氏の説明ではアラストレとグリッサンドは同じ意味としています。そのことからすると、今現在アコースティック・ギターで使われているグリッサンドの意味と真逆になってしまいます。阿部氏の説明ではグリッサンドは後続音を弾かない、一方アコースティック・ギターでは後続音を弾く方がグリッサンドで、弾かない方はスライドとしています。
これではちょっと厄介なことになってしますね。もっとも、アコースティック・ギターの 「グリッサンド」 と 「スライド」 の使い分けにしても、本来そう言ったことがこれらの言葉の中にあるわけではありません。アコースティック・ギターの関係者が便宜上そのように定義しただけと思われます。
ただし、このグリッサンドとスライドはどちらも英語なので、わが国だけでなく英語圏の人もそのような使い分けをしている可能性もあります。これについては、私自身アメリカやイギリスのギターのテキストを読んだことがないので確かなことはわかりません。
詳しいことを知っている人いましたら
いずれにしても、私自身では確かなことはわからず、これらの文章も不確かな推測を基に書いています。こうしたことについて詳しい情報をお持ちの人がいましたら、ぜひコメントお願いいたします。
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