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中村俊三 ブログ

中村ギター教室内のレッスン内容や、イベント、また、音楽の雑学などを書いていきます。

アポヤンド奏法 3



だいぶ遅くなったが

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ちょっと遅れてしまったが、沢渡川(和菓子店「にいづま」付近)の桜。撮影は3月29日  桜の花は青い空によく映える



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アポヤンド奏法の弾き方



弦の弾き間違いは少ない

 今回はアポヤンド奏法の実際の弾き方です。アポヤンド奏法はアルアイレ奏法にくらべるとそれほど難しくありません。動きとしては次の弦まで押し付ければよい訳です。細かく言えば、それぞれの指には3つ関節がありますが、主には先端から3番目の関節を使います。他の二つの関節もある程度使いますが、どちらかといえば、逆方向に動かないようにする程度です。

 特に問題がなければ、親指は6弦などに添えておきます。これによって右全体が安定するので、確実に弦を弾くことが出来ます。 また右手が安定することにより、弦の弾き間違いもたいへん少なくなります。



爪は斜めにあてる

 爪を弦に平行にあてると、アルアイレ奏法の場合と同じく爪が引っかかって、ノイズが発生したりしますから、爪は弦に対して45度くらいになるようにいします。フラメンコ奏者などの場合、指を弦に叩きつけるように弾いたりしますが、通常は指先を弦に当ててから、押すようにして弾きます。

 この時、爪の左側と指先の先端部分の皮膚が両方とも弦に触れ状態となります。 弦に触れる時、つめの一部が弦に当たっていないと爪がひっかった感じになります。 また皮膚の一部が弦に触れていないと直接振動している弦に爪が当たるので、やはりノイズが発生します。
 



アポヤンド1
imaのアポヤンド奏法の場合は、基本的に親指を6弦などに添えておく



「く」の字

レッスンの際、アポヤンド奏法が出来ないという人はほとんどいませんが、指先の関節を曲げすぎるとアポヤンド奏法は弾きにくいでしょう。かといって、指を反らせたり、一直線にしたりしても弾きにくいです。指が軽く曲がった状態、ややまっすぐ気味に書いたひらがなの 「く」 くらいの感じでしょうか。



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爪は45度くらいに当て、爪の左側(親指側)が弦に接するようにする。



アポヤンド✖
このように爪を当てると硬質な音になったり、ノイズが発生したりする。



親指のアポヤンド奏法が出来ない人もいるが

 imaのアポヤンド奏法に比べて、親指のアポヤンド奏法の方がやや難しいかも知れません。その理由のひとつとしては、フォームの問題で、右手が上の方、つまり6弦のほうにあると親指のアポヤンド奏法が難しくなります。

 親指のアポヤンド奏法の場合も im を1,2弦に置きますが(差しさわりがなければ)、そのimをまっすぐにしたりすると右手全体が上に上がってしまいますから、触れているimは曲げておくようにします。

 もう一つの理由として爪の問題もあります。確かに親指の場合、爪の形の調整とか弾弦の際の爪の付か方はやや難しく、その関係でアポヤンド奏法が上手く出来ないということもよくあります。親指の爪は基本的に斜めに整えますが、それについてはまた別項目でお話ししましょう。


親指○
親指の場合も爪の先端を弦に接してから弾く。


爪の一部が弦に触れるように

 上の写真のように、まず爪の先端と指先の皮膚の部分を両方とも弦に接してから弾弦します。下の写真のように弦に触れた際、爪の一部が弦に触れていなと、やはりノイズが発生したり、爪が弦の引っかかったりします。



当初は爪がない方が

 ギターを習い始める時には爪は伸ばしていないと思いますが、むしろその方がアポヤンド奏法もアルアイレ奏法も弾きやすいでしょう。ただし爪がない状態でたくさん練習すると指先の皮膚が痛くなったりしますが、やっているうちに皮膚が厚くなって委託なくなるでしょう。私の場合、爪の調整が上手く行かなくて爪が短くなったりすると、結構指先が痛くなってしまいます。



親指✖
このように爪の先端が弦から離れるとノイズが発生する。



上級者でも出来ない場合もあるが

 前述のとおり、imaのアポヤンド奏法が出来ない人はあまりいないのですが、親指のアポヤンド奏法が上手く出来ない人は少なくありません。 しかもどちらと言えば初心者が出来ないのではなく、”いわゆる”上級者の人で出来ない人が多いので、その点はやはり問題となります。

 クラシック・ギターではima以上に親指のアポヤンド奏法は重要で、かつてimaのアポヤンド奏法が使われなかった時代でも、親指についてはアポヤンド奏法を用いていたくらいです。



入門時から練習すれば問題はない

 アポヤンド奏法が出来ないことの主な理由としては、ギターを始めた当初、親指のアポヤンド奏法を練習しなかったことが主だと思います。 全くギターを弾いたことがない段階からレッスンした場合、特に親指のアポヤンド奏法が出来ない、とかあるいは出来るようになるまで時間がかかるといったことがありません。 最初からアポヤンド奏法の練習をすれば特に問題ないようです。



親指のアポヤンド奏法を重視しない先生もいる

 問題になるのは、親指のアポヤンド奏法をずっと行わないで長年、10年とか20年とかやってきた人の場合と言うことになります。 独学でギターを始めた人の場合はやむを得ないこともありますが、意外とギター教室で長年習っている人でも結構そうした人はいます。ギター教室の先生の中には親指のアポヤンド奏法を重要視しない先生も多いのかも知れません。

  私個人的には、親指のアポヤンド奏法は、クラシック・ギターを弾くためには絶対に必要な技術だと思ってますので、入門時からこれをしっかりレッスンしてゆきます。 しかし長年親指のアポヤンド奏法を使ってこなかった人へのレッスンは確かに難しいです。



結局は耳の問題

 とはいっても、初心者にでも出来ることですから、絶対に出来ないはずはないのですが、その必要性をあまり感じないということなのでしょう。正しく自分の演奏や、他の人の演奏を聴けば、その重要性は理解できるのですが、突き詰めるとやはり耳の問題となるのでしょう。

 そうなると、親指のアポヤンド奏法が出来ない人は、多くの場合他の面でもいろいろ問題が生じ、結果的に”いわゆる上級者”となってしまうのでしょう。
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令和時代のギター上達法



アポヤンド奏法 2



imaのアポヤンド奏法はいつ頃から使われるようになったか

 前回の記事では、リュートやバロック・ギターでは ima のアポヤンド奏法は基本的に使われなかったといったことを書きました。これは絵画などでの演奏姿勢などからも裏付けられると思います。右手全体が下がっていて、この姿勢ではアポヤンド奏法がしにくいと思います。またこれについては後でまた触れるかも知れませんが、アルアイレ奏法で弾く場合の一つのヒントになると思います。



タレガがアポヤンド奏法を多用していたことは知られている

 アポヤンド奏法、特に ima のアポヤンド奏法が使われるようになったことがはっきりわかるのはタレガの時代からで、そのことはエミリオ・プジョールの著作の「タレガ伝」にも書かれていますし、その作品からもそれが窺えます。、

 また、直接的な師弟関係はないものの、その流れをくむアンドレ・セゴヴィアもアポヤンド奏法を多用していることからも言えます。これは映像などでも確認できますし、私の師であり、セゴヴィアの高弟でもあった松田晃演先生も積極的に使っていました。




ハッキリはしないが

 では、いつ頃からアポヤンド奏法(ここでは主にimaに関して)が使われるようになったのかは、なかなか難しいところです。もちろんのことですが、ある日、またはある年を境にすべてのギタリストがアポヤンド奏法を使い始めたという訳ではありません。 またこの「アポヤンド奏法」という言葉自体もいつ頃から使われるようになったのかと言うことも、あまりよくわかりません。

 プジョールによれば、タレガの師に当たるフリアン・アルカスも限定的ではあるが、アポヤンド奏法を用いていたが、タレガはそれを積極的に使ったと言っています。 したがってタレガ以前からアポヤンド奏法が使われていたのは確かなようです。



譜面などを見る限り19世紀初頭ではアポヤンド奏法(ima)は使われなかったと思える

 しかし、19世紀初頭、恐らく1830~40年頃まではアポヤンド奏法が積極的に使われた形跡はありません。その教本や作品などからして、ソル、アグアドはアポヤンド奏法を用いなかったのは確かで、アグアドは親指の先端の関節の動きで弾弦すると言っているので、親指もアルアイレ奏法で弾いていたようです。 ジュリアーニ、カルリ、カルカッシなどもそれに準じていたと思われます。

 使われなかったと言っても、全く使われなかったかと言えば、もちろんそれも断言できません。単音を弾いた場合、たまたまアポヤンド奏法になてしまうこともあるでしょうし、中にはそれを比較的積極的に用いたギタリストもいたでしょう。

 

もしかしたら

 もしかしたら、アポヤンド奏法を使ったかも知れないと言った例として、レゴンディの作品を挙げておきましょう。次の譜面はジュリオ・レゴンディの「序奏とカプリッチョ作品23」の冒頭部です。レゴンディは生存期間が1822~1872年ということですが、幼少時より高く評価され、演奏活動もしていたギタリストです。この作品の作曲年代ははっきりわかりませんが、比較的若い頃、おそらく1830~1850年代くらいのものと思われます(ちょっと幅広いですが)。



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ジュリオ・レゴンディの「序奏とカプリッチョ作品23」




小節の最初の音を単音にしている

 このように小節の最初の音が単音になっているところがありますが(赤↓)、ここでアポヤンド奏法を使っていた可能性が考えられます。通常小節の最初には低音が付くことが多いのですが、小節の冒頭の音を単音にして、和音はその裏で弾くようになってます。こうすることで冒頭の音をしっかりと弾くことが出来ますね、今現在であれば多くのギタリストはこの単音をアポヤンド奏法で弾くでしょう。

 もちろんアルアイレ奏法であっても単音のほうがしっかりと出るので、絶対にアポヤンド奏法を使ったとも言い切れませんが、可能性としてはありそうです。



パガニーニ、コスト、メルツは

 パガニーニ、コスト、メルツの場合は、その譜面からすると、アポヤンド奏法を用いた可能性は低いようです。 パガニーニは時代的にも19世紀初頭ですから、当然アポヤンド奏法は使わなかったでしょうが、活動の時期が19世紀の中ごろとなるコスト、メルツも、譜面を見る限りではアポヤンド奏法は使わなかったように思えます。



パガニーニソナタ
パガニーニの大ソナタイ長調のギター・パート。 オクターブ・ユニゾンを多用しているところからも、アポヤンド奏法は使わなかったと考えられる。


リゾンの泉
コストの「リゾンの泉」


ハンガリー幻想曲
メルツの「ハンガリー幻想曲」  作品から見る限りでは、コストもメルツもアポヤンド奏法は使わなかったと思われる。小さい音符で書かれた箇所(2,4小節)は親指で弾いたと思われるが、その場合はアポヤンド奏法の可能性もある。



単旋律=アポヤンド奏法となったのは、19世紀末くらいか

 いずれにしても、高音の単旋律をアポヤンド奏法で弾くことが標準になったのは、19世紀末から20世紀初頭にかけてくらいの時期と考えてよいのではと思います。その時期には楽器のの方も変わってきていますから、それとの関連性もあるかも知れません。