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中村俊三 ブログ

中村ギター教室内のレッスン内容や、イベント、また、音楽の雑学などを書いていきます。

グレーな音符たちのその後 6



ソルの練習曲ト長調作品31-5




常に正確に書かれるわけではないが

 前回は音としては別におかしくはないが、音符の棒の向きがおかしいと言う話でした。今回もちょっと似た話で、確かに音がおかしいという訳ではないのですが、楽譜の書き方がちょっと気になるということです。

 とは言っても、楽譜というのは、常にそれほど正確に書かれるものでもないですし、演奏に支障がなければいいくらいに書かれるものです。特にギターに関しては、あまり正確に、あるいは几帳面に書かれると、かえってややこしくなって、逆に誤解が障子が生じたり、わかりにくくなったり、また、見た目が”煩く”なったりするので、ある程度は省略、もしくは簡略化して書く方が一般的です。



ソルは譜面の書き方にこだわる方だが

 フェルナド・ソルは楽譜の書き方、特に声部分けについてはかなりこだわって書くタイプです。有名な「月光」なども、もともとシンプルな曲ですが、棒が上向いたり、下向いたり、わかりにくいですね。結果だけ考えれば、もっとシンプルな書き方も出来たと思いますが、「ちゃんと声部の動きを考えて弾きなさい」 といったメッセージなのかも知れません。


月光
ソルの月光はだいぶこだわった書き方をしている


 一般的に”こだわりやさん”というのは、自分がこだわることには、とことこんこだわる、逆にあまり関心がないところはルーズになる傾向があります。




ソルの練習曲としてはよく弾かれる

 さて、今回はソルの練習曲の中でも比較的よく演奏されるト長調Op.31-5です。この曲の譜面は市販されているものでも、あまり違いがなく、それぞれ初版にほぼ忠実なものではないかと思います。下の譜面は基本的に現代ギター社版を基にしていますが、一部で棒の向きは変更しています。



ソル31-5
3段目の赤丸の1拍目の 「ラ」 と 「ファ#」 は普通に弾けば2分音符、または付点2分音符になる。


 特に気になるのが2段目の赤丸の個所ですが、他にも3段目の赤丸のように、音符の長さがあまり正確でないと思われるところも見られます。ただし、2段目以外は実際の演奏ではそれほど問題にはなりません。




音楽の区切りはは文章の区切りとほぼ同じ

 本題に入る前に、まず音楽の区切りに付いて説明が必要だと思います。とは言っても、私の場合音楽大学などで音楽を学んだわけではないので、正確でないかも知れませんが、わかる範囲で書いておきましょう。

 音楽の区切りも基本的に文章の区切りと同じ言葉を使います。文章の場合は、 

単語(ワード) ➡ 文節(フレーズ) ➡ 文(センテンス) ➡ 段落(パラグラフ) ➡ 文章(センテンス? コンポジション?) 

といったとこでしょうか。最後の「文章」については書いたもの全体を言っているので、小説だったり、論文だったりと、定まった英単語はないようですね。

 これを音楽の方に当てはめると、

動機(モチーフ) ➡ 小楽節(フレーズ) ➡ 大楽節(センテンス) ➡ (段落) ➡ 曲(ミュージック)? 楽章(ムーブメント)? 作品(オーパス)? 音楽?


 音楽の場合、意味のあるものの最小のもの、つまり単語に当たるものが動機(モチーフ)と言われます。さらに動機が部分動機に別れている場合もあります。 その動機が集まって、小楽節、さらに大楽節となります。その大楽節がいくつか集まって一つの曲というか、作品が出来上がると言うことになるのでしょう。 

 長い曲になれば、曲は主題提示部など、さらにいくつかの部分に区切られます。それをなと呼ぶのか分かりませんが、段落というのでしょうか(パラグラフという言葉はあまり聞かないが)。




音楽の場合は小節数がほぼ決まっている

 ただし、音楽の場合は、文章の場合とは違って、その長さがほぼ決まっていると言うことです。

動機 = 2小節  (部分動機 = 1小節)
小楽節 = 4小節
大楽節 = 8小節

 ということになりますが、曲全体の長さはもちろん決まっていません。ただし最低限8小節はないと曲にはならいようですね。「かえるの合唱」とか 「野いちご」、「赤とんぼ」 などはこの8小節で出来ていますが、こうした曲の場合歌詞が複数あって、何度か繰り返されることが多いです。



小節線はフレーズなどの区切りとは限らない

 因みに小節線はあくまでもリズムの区切りであって、メロディの区切りではありません。またフレーズやモチーフも常に1拍目から始まるわけではありません。この曲の場合は4拍目からそれぞれ始まります。



3とか、5もあるが

 「フレーズ」は一般的には単なる「区切り」ということで、幅広い意味に使われますが、音楽用語的には4小節と決まっている訳です。ただしこうした数字はあくまで古典的なものが対象で、3小節や、5小節のフレーズも、勿論存在します。ビートルズの「イェスタディ」も冒頭のフレーズは3小節ですね。古いものでもヴィヴァルディの「春」第1楽章も3小節のフレーズとなっています。



この譜面は各段とも4小節ごとに書かれていて、各段の最後の4分音符が各フレーズの始まりとなる

 このソルのエチュードについては、上の原則に完全に当てはまります。なお、この譜面は各段とも4小節ごとに書かれているので、わかりやすいですね、ただしアウフタクトがあるので、各段の最後の四分音符が各フレーズの出だしの音となる訳です。



2の累乗数で区切られることが多い

 そして、前半のト長調の部分が二つの大楽節で16小節、後半(中間部)のホ短調の部分も同じく16小節で出来ています。もうお分かりと思いますが、古典的な曲の場合、動機や楽節は2の累乗数(2,4,8,16)で出来ています。



2段目の赤丸では次のセンテンスに音が繋がっている?

 このようにして二段目の赤丸のところを見ると、ここは大楽節(センテンス)の区切りに当たります。しかし楽譜では3拍目の「レ」が二分音符で書かれ、次のセンテンスにかかるようになっています。もちろん常識的に考えれば、ここで比較的大きな区切りとなっていますから、一旦消音してから次のセンテンスに進むべきところです。 実際に各段とも最後の小節の4拍目の低音部は、ここ以外すべて休符となっています。



常識的に考えれば

 確かに、ソル独特のこだわりがあって、ここは区切らないで次のセンテンスに進むために、あえて3拍目の「レ」を二分音符で書いたと言うことも全く考えられない訳ではありませんが、しかしそれはかなりに”奇策”ということになります。

 曲全体としても、特殊な曲とも言えませんから、ソルがそうしたことを意図したとは考えにくいところです。やはり素直に考えれば、ここも他の段と同じく、4拍目の低音部は四分休符にすべきではないかと思います。




「レ」が開放弦だと違和感?

 また、この小節で、2拍目と3拍目の「レ」に開放弦の指示がある譜面もあります。確かに3拍目の「レ」を2分音符とすると、開放弦で弾いた方が弾きやすいですが、聴いた感じ、これも不自然でしょう。この「レ」は1拍目から続いてくる音なので、やはり1拍目と同じく5弦で弾くべきでしょう。

 しかし、これらのことは”常識的に考えれば”ということで、ソルがあえて非常識な作品を書いたとなれば、話は全然違ってきます。確かにそのように解釈しているギタリストもいるようです。




ちゃんと書かれた休符もある

 一方、ソルが”ちゃんと”書いた休符もあるので、それは間もなら毛rばならないでしょう。特に下から2段目と最後の段の赤丸の休符は消音しないと、動機やフレーズの区切りがはっきりしなくなります。




あえて書けば

 その他、確かに演奏上では特に問題にはならないですが、この曲は音符の長さなど、結構アバウトに書かれているようです。敢えて正確に(ほぼ?)に書けば、下のようになるでしょうか。あくまで参考ということですが、多くのギタリストは、結果的にはこのように弾いていると思います。



ソル31-5修正
スラー記号は動機(モチーフ)の区切りを示す
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木村大×アンドリュー・ヨーク×押尾コータロー
  スーパー・ギター・トリオ・コンサート


2月12日(月) 土浦市民会館




 茨城県出身のギタリスト、木村大、サンバーストなどの作曲家でもあるアンドリュー・ヨーク、アコースティック・ギタリストの押尾コータローのコンサートが土浦でありました。



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アコースティック・ライブと言った感じ

 木村大君については紹介の必要はないと思いますが、ご存じのとおり(?)レパートリーやアンプ使用などからしても、クラシック・ギタリストというよりはアコースティック・ギタリストと言えるでしょう。このコンサートでも、そのアンプ使用、ステージ照明、トークと、アコースティック・ライブと言った感じのコンサートです。




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異なる設定だが

 それぞれ著名なギタリストによる独奏、二重奏、三重奏によるコンサートで、押尾氏はスチール弦(アコースティック・ギター)、大君とヨーク氏はナイロン弦で、それぞれ内臓マイク(いわゆるエレアコ)使用、おそらくヨーク氏は外部マイクだったように思います。

 このように3人とも異なる楽器と設定によるコンサートだったのですが、意外なほど違和感がありませんね。スチール弦もナイロン弦もアンプの調整次第ではあまり変わらなくなるようですね。 でもヨークの音はたいへん美しいでした。

 



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押尾コータローも茨城出身?

 この会場はおそらく千人前後のキャパだと思いますが、開演前から長い列が出来て、ほぼ満席といった感じでした。木村家の人々はもちろん、押尾氏の家族、親戚の方も来ていたそうで、押尾氏も茨城出身だそうです。




一曲ごとに楽器を変える

 押尾氏は一曲ごとに楽器を変えていましたが、これはおそらくチューニングのためと思われます。ポピュラー系のコンサートでは、それが普通という話は、 聴いたことがあるのですが、本当にそうなんですね。

 結局、押尾氏はステージ上で全くチューニングをしないで、チューニングはすべて他のスタッフが行ているようでした。クラシック・ギタリストは、どんな大御所級でも自分でチューニングするので、こうしたことは全く考えられませんね。それにしても、押尾氏の弾き方は見ているだけではよくわかりません。



最後はラヴェルのボレロで

 3人、それぞれのオリジナル曲やポピュラー系の曲が中心のコンサートでしたが、最後にラヴェルの「ボレロ」をトリオで演奏しました。誰の編曲というより、3人それぞれ自由に弾いているような感じでしたが、クラシック曲でも、こういった曲はこの3人のギタリストによくはまりますね。 来場した人々もみな十分に楽しめたコンサートだったと思います。
グレーな音符たちのその後 5



ヘンツェ : ノクターン




教材としては有名だが、作曲家の詳細はわからない

 この曲もギターを習っていたり、あるいは教えている人にとっては馴染みの深い曲ですね。初級~中級程度の小品と言えるでしょうか。特に難しい曲ではないですが、弾き方次第では美しい曲になりますね。曲の方は有名なのですが、作曲者のカール・ヘンツェと言う人について検索してみたのですが、なかなかヒットしません、ドイツ人で生没年が1872~1946年ということしかわかりませんでした。



初版の情報などもないが

 譜面につても、だいたい市販されているのは以下のようなものですね(ドレミ楽譜出版)。初版などの情報はありませんが、おそらく特には変わらないものではないかと思います。



ノクターン3
聴いた感じは全く変ではないが



聴いた感じでは、特におかしいところがない

 この譜面通りに弾いても、特におかしな点はありません。グレーな音符とは言っても、音符自体にはグレーな点はありません。まあ、ちょっとした書き方の問題なのですが、赤矢印のところにちょっと気になる点があります。



メロディだけだと変

 問題の個所を拡大すると下の通りですが、この譜面からすると、ひと段落するところのメロディが ミーファード となっていますね。そうでしょうか、これで曲というか、フレーズが終われるでしょうか? これ、誰しも変に聞えるんじゃないかと思います。小学校とか、中学校の音楽の授業で、こんなメロディ作ると、先生から 「これじゃメロディになりません」 なんて間違いなく言われるでしょうね。




ノクターン1
譜面の書き方からすると、赤い線がメロディの終わりの部分となるが、この ミーファード は如何にも変、曲が終わらない。




棒の向きがおかしい

 しかし、メロディ(上向きの音符)だけでなく、楽譜通りに全部の音を弾けば、全くおかしくありませんね。 皆さん、もう気が付いたと思いますが、実は下向きに書かれている音符の 「ラ」と「シ」もメロディなのですね。本当は下のようにそれらの音符も上向きに書くべき音です。



ノクターン2
本当はこのように棒の向きを書くべき




ラ、シを伴奏とすると、コードもおかしい

 このように ミーファラシド とメロディを考えれば何の問題もなくなります。因みにこの「ラ」と「シ」が伴奏の音、つまりコードの音だと考えると、ここのコードが 「Gナインス」 ということになります。ナインス・コードからトニック(主和音)に進んでも別に問題ありませんが、曲全体がシンプルに出来ているので、ここに突然ナインス・コードはちょっと唐突で不自然でもあります。


 というわけで、ここの部分では、音自体には問題ないが、音符の棒の向きが違っているということで、解決となります。それでおしまいと言えばおしまいで、あとは私の勝手な妄想ということになります。



単純ミス?

 では作曲家、あるいは出版関係者のミスで、棒の向きが逆になってしまったのかと言ことですが、私にはどうも単純にそうは思えないところもあります。 



ショパンのノクターンの影響がある

 曲目のノクターンといえば、やはり何と言ってもショパンですね、19世紀後半以降、こうした曲が作曲される場合、どうしてもショパン抜きには考えられないでしょうね。この曲もおそらくショパンのノクターンの影響でか書かれたと思われます。下は有名なノクターン(作品9-2)を、このヘンツェのノクターンと同じくハ長調にアレンジしたものです(かなり易しくアレンジしている)。



ショパンノクターン
赤線のところの5つの音 ミ、ファ、ラ、シ、ド はヘンツェのノクターンと同じ



フレーズの終わりの5つの音はショパンの曲と同じ

 なんだか雰囲気似ていますね。原曲は変ホ長調(♭3個)で、ピアノ曲なので音の数も多いですから、それとは見た目だいぶ違いますが、このようにハ長調のギター曲にアレンジすると似ているのがよく分かります。 さらに赤線の5つの音は、音符の長さこそ違いますが、音の進行は全く同じですね。



ショパンのイメージがぬぐえなかった?

 ここまで似ていると、誰もがショパンのノクターンを参考にしている、もうちょっと平たく言えばパクリだということがわかると思います。おそらく作曲者も同じにはしたくはなかったのではないかと思いますが、どうしてもショパンのノクターンが頭から離れなく、他の終わり方が出来なかったのかも知れませんね。



隠ぺい工作?

 そこで、形の上ではショパンのノクターンと同じにならないように、ラとシを伴奏扱いにして、ショパンのノクターンと同じように見えないようにしたのかな? つまり、パクリ疑惑の隠蔽? 勘ぐりすぎかな?