中村俊三 ブログ

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最近聴いたCD  ジュリアーニ:ギター協奏曲集


ジュリアーニ:ギター協奏曲第1番イ長調 Op.30
       同 第2番イ長調 Op.36
       同 第3番ヘ長調 Op.70
       ギターと弦楽のための大五重奏曲ハ長調Op.65
       ジェネラーリの「ローマのバッカス祭」の主題による変奏曲Op.102

 クラウディオ・マッカリ(g) OP.30 OP.36
 パオロ・プリエーゼ(g) Op.70 Op.65 Op.102 
 オーケストラ  アンサンブル・オットチェント



 ジュリアーニのギター協奏曲は3曲残されていて(4曲という話もあって、もう1曲の作品番号は129なのだそうですが本当なのでしょうか?)、特に第1番(Op30)は、有名で演奏される機会も多いものです。第1楽章は行進曲風の主題を持ち、はつらつとした躍動感に溢れ、とても親しみやすい曲です。第2楽章はシチリアーナ風の感傷的なメロディ、第3楽章は軽快なポロネーズになっています。モーツアルト風とか、ベートーヴェン風とか言われたりもしますが、よく聴けばやはり”ジュリアーニ風”と言ったほうがよいでしょう。イタリア的な明るさと透明感を持った曲だと思います。


 この第1番の初版(1908年)は二管編成のフル・オーケストラのために書かれていましたが、後に弦楽合奏とテンパニー(省略される場合も多い)版、あるいは弦楽四重奏版なども出版されました。これまでの録音ではほとんどが弦楽合奏版で、さらに半数以上がジュリアン・ブリームのように展開部のほとんどを省略した形になっていました。私自身ではこれまでフル・オーケストラ版のスコアだけ持っていましたが、そのフル・オーケストラ版の演奏は一度も聴いた事がなく、今回このCDを入手し、やっと聴くことができました。このCDがフル・オーケストラ版の初録音かどうかはわかりませんが、少なくとも現在手に入るものでは唯一のフル・オーケストラ版なのではないかと思います。


 フル・オーケストラ版と弦楽合奏版では冒頭のオーケストラによる主題提示部はかなり違っていて、弦楽合奏版は単純に管楽器のパートを弦楽器に移し変えただけではなく、ほとんど作曲しなおしている感じです。もっともギターが入ってからの後続の部分はほとんど変わりませんから主題などの素材は同じものを用いてということです。弦楽合奏版の方がどちらかと言えば、簡潔によくまとまっていて、効率的に主題を提示している感じです。それに比べフル・オーケストラ版は接続部分などのやや「無駄」が多いのですが、本格的な管弦楽曲にしようという意志も感じられ、その「無駄」も味わいの一つかなと思います。


 このCDの解説では、ソリストのクラウディオ・マッカリ(Claudio Maccari)は、19世紀初頭のギターであるカルロ・ガダニーニ(Carlo Guadagnini 1812)を使用し、オーケストラも半数くらいは当時のオリジナル楽器を使用しているとのことです。オーケストラは、フルート、オーボエ、クラリネット、ファゴット、ホルンがそれぞれ2本、弦楽は5部で13人、計23名の編成となっています。


 このCDを聴いた限りでは、他の弦楽合奏版による演奏に比較すると、このフル・オーケストラ版は重量感や迫力がある、というよりむしろ繊細な感じに聴こえます。演奏のしかたにもよると思いますが、他の弦楽合奏版による演奏の方が、勢いとか躍動感とかはあるように思います。このCDのギター・ソロは19世紀ギターを使用し、それに従い、爪を使用しない「指頭奏法」と考えられ、高音は柔らかいといえば柔らかいのですが、あまりクリアーには響かないようです。また録音環境の影響でか、ギターの響きや余韻は豊かなのですが、その分個々の音は不鮮明に感じます。


 「当時の演奏スタイルに出来る限り忠実に」というコンセプトに基づいてCDを制作しているものと思われ、録音的にもギターの音量はかなり抑えられています。おそらくこの曲の初演時には、コンサート会場で「このように響いたであろう」ということでCDを製作したものと思われます。確かに考え方としては十分納得出来、このようなCDは絶対に必要なものと思いますが、一方では曲の内容や、ギタリストの意図などがイマイチ伝わって来にくく、多少欲求不満も感じてしまうのも事実です。オーケストラのほうは、ヴィヴラートを使用していないのと、音程がとてもよいことで、たいへん澄んだ響きになっています。


 ところで、このジュリアーニのギター協奏曲のCD、現在では他にどのようなものが入手可能なのでしょうか。インターネットで調べた限りでは、カテマリオ(おそらくイタリアのギタリスト)のCD(このCDとほぼ同じような企画。オリジナル楽器使用と思われますが、第1番は弦楽合奏版)が入手可能なようで、あとはウィリアムスとフェルナンデスのものがアランフェスのオマケとしてあるくらいなようです。以前はもう少しいろいろなものがあったようなのですが、最近はかなり少なくなってしまったようです。アランフェス協奏曲などはは次から次と新たにCDが発売され、また古い録音も再発されたりするのですが、ジュリアーニなど他の作曲家のギター協奏曲のCDはあまり新譜も再発も少ないようです。ギター協奏曲の世界も格差がいっそう激しくなっているのでしょうか。


 実演となるとさらに極端で、オーケストラの演奏会でアランフェス以外のギター協奏曲が演奏されることなど滅多にないのが実情のようです。ジュリアーニに限らず、ヴィラ・ロボスやテデスコ、ポンセ、ブローウェル、アーノルドといったギター協奏曲の名曲が、通常のオーケストラの公演でプログラムにのるのは極めて珍しいことでしょう。もっともオーケストラ側からすれば協奏曲はあくまで「客寄せ」で、少しでも知名度が高く、人気のある曲をということになり、当然のごとくアランフェス協奏曲に集中するのでしょう。またギタリストのほうで協奏曲によるコンサートを企画し、オーケストラに出演を依頼するということなれば、曲目等は自由になりますが、それはそれで膨大な費用がかかり、やはり実現は難しくなります。


 私自身、アランフェス協奏曲以外のギター協奏曲を演奏会で聴いたのは2回だけで、1回目は1972年に、「ギター協奏曲の夕べ」と題して、当時たいへん人気のあった若い4人のギタリスト、菊池真知子さん、芳志戸幹雄さん、荘村清志さん、渡辺範彦さんが、東京フィル・ハーモニーと、それぞれテデスコ:ギター協奏曲第1番、ジュリアーニ:ギター協奏曲第1番、ある貴紳のための幻想曲、アランフェス協奏曲を弾くといったものでした。人気ギタリスト4人の共演と、めったに聴けないギター協奏曲の演奏会とあって会場はとても熱気に溢れていた記憶があります。このコンサートはその4人のギタリストの人気と、当時のギター・ファン(みんな若かったが)の熱気とで実現したコンサートかも知れません。菊池真知子さんのテデスコは、多少緊張した様子も見られましたが、とても印象的でした。


 もう一つは1976年、イエペスが東フィルとアランフェス、ある貴紳、とルイス・ピポーの「3つのタブラス(事実上ギター協奏曲)」を演奏したコンサートです。この時のピポーの「3つのタブラス」はとても印象に残っています。これはイエペスというカリスマ的ギタリストによって実現したコンサートでしょう。でもやはりアランフェスはプログラムに載りますね、これをはずすと演奏会が成り立たないのかも知れません。
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