中村俊三 ブログ

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最近買った楽譜

タルレガ 初期のスペインの出版全集Francisco Tarrega The Complete Early Spanish Editions


 この楽譜は1902年から1920年にかけて、つまりタルレガの生前と死後、スペインの数社の出版社から出された譜面のリプリント版です。これまでは生前のものと死後出版されたものに分冊されて販売されていたものが、最近合本となり、価格も約3分の2の八千数百円となったものです。曲数にして作曲、編曲あわせて111曲あります。もちろんタルレガの作品すべてではなく、他の出版社から出された楽譜も他に多数あると思います。


 この曲集に収められている作品のうち、1902年と1903年に Antich y Tena から出版された18曲はタルレガの最初の出版ということで、おそらくタルレガ自身によりしっかりと校閲され、丁寧に楽譜が作られているように思います。また曲そのものもタルレガの自信作ということになるのでしょう。一部のタルレガ譜面には不可解なものや、印刷ミスと思われるものもありますが、それらはほとんどタルレガの死後出版されたものです。この2集に分けられた Antich y Tena の譜面にはミスなどは見当たらず、かなり忠実にタルレガの意志を反映したものではないかと思います。


 Antich y Tenaから1902年に出版されたタルレガ作品集、第1集には

   アラビア風奇想曲
   前奏曲第1番、第2番
   ラ・マリポサ(練習曲)
   大ワルツ
   アデリータ(マズルカ)
   ラルゴ(ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ作品7より)

の7曲が収められています。1曲目は現在でもアルハンブラの思い出と並ぶタルレガの代表作である 「アラビア風奇想曲」です。最初の出版の1曲目にしたということは、タルレガ自身この曲を自らの代表作と考えていたのでしょう。また当時から人気の高かった曲でもあったのでしょう。この作品集には1曲ごとにその当時の価格も表記されていますが、この曲は4ページで2.5ペタとこの中で最も高くなっています。

 タルレガ自身によると思われる、細かく、丁寧に運指が付けられていますが、これは現代ギター社のものと一致しています。つまり現代ギター社(中野二郎監修)のものは初版にたいへん忠実ということが出来ます。ドレミ楽譜出版社など他社のものは若干変更してあるようです。強弱記号については、pとかfなどはなく、poco cre. と molto cre. が一箇所ずつあるだけで、そのかわり rit. accel. a tempo などのテンポの変化に関する記号は結構あります(これらの記号も現代ギター社版と同じ)。ある意味、強弱の変化をそれほど重視しないタルレガの演奏スタイルを示しているのかも知れません。

 タルレガの作品の場合、その譜面からわかるように運指の意味合いはたいへん重要なのではないかと思います。特に使用弦やポジションの違いによって生まれる微妙なニュアンスの違いに重きを置いているように思います。場合によっては強弱や速度記号以上に演奏する人に伝えているものがたくさんあるかもしれません。確かにこの譜面は今まで持っていた現代ギター社版と変わるところはないのですが、こうしてタルレガが目を通したであろうこの譜面、特に丁寧に書かれた運指を見ているとタルレガの意思が直接伝わってくるような気がします。


 次には前奏曲1、2番です。これらは短い曲ですが、とてもタルレガらしい曲だと感じますが、おそらくタルレガ自身もそう考えていたのではないかと思います。


 次はマリポサ(蝶)と題されたエチュードですが、今現在はあまり演奏されることが少ないようです。
 

 イ長調の大ワルツは弾きやすく、馴染みやすい曲だと思いますが、わりと演奏されないようです。セゴビアなどが弾かなかったせいでしょうか。


 次のアデリータは現在でも人気の高い曲ですが、この曲には運指だけでなく、強弱やテンポに関する記号が細かく記入されています。タルレガがこの曲を弾く人(主に中級者くらい)のことを考えて細かく記入したのではないかと思います。おそらく当時から人気のあった曲だったのでしょう。4小節目のクレシェンドがかかっているので、pの指示が5小節目ではなく、6小節目に付いているのは納得のゆくところです。また1~3小節目の2拍目にアクセント記号が付いていますが、これはマズルカという舞曲を意識してというとろですが、あくまで「アクセント」であって、決して「スフォルツァンド」ではないと思います。中間部の終わりの所を「詰め気味」に弾く人が結構いますが、もちろんそんなことは書かれていません。この曲に関してはたいていの譜面がこの初版と同じになっていると思いますので、この曲を弾く時には、ぜひ楽譜の隅々まで見てほしいと思います、タルレガのこの曲を弾く人に対しての「心遣い」が伝わってくるのではないかと思います。


 最後は、ベートーベンのピアノ・ソナタ第4番変ホ長調作品7の第2楽章の編曲となっています。この曲は普通に考えると、ギターに適した曲とも、また特に人気のある曲とも思えません。にもかかわらずタルレガがこの最初の作品集に加えたわけですから、タルレガとしてはこの曲を重要な編曲作品と考えていたようです。しかし実際にこの曲を演奏したギタリストは、あまり多くはなかったのではないかと思います。私自身もこの編曲の演奏を聴いた事がありません。原曲はハ長調ですが、半音下げてロ長調というギターでは弾きにくい調に移調されています、やはりかなり難しそうです。

 私達はギターとベートーヴェン、あるいはタルレガとベートーヴェンとはあまり深い繋がりがないように思いますが、タルレガの考えは少し違うのかも知れません。タルレガはシューマンやショパンの曲をたくさん編曲していて、演奏もしていたと思いますが、ベートーヴェンの曲も両者に劣らずたくさん編曲しています。私の勝手な推測になりますが、タルレガはヨーロッパの伝統的な音楽(私達はクラシック音楽と呼んでいますが)を一身に受けて育ってきた人なのでしょう。当時のヨーロッパの音楽の頂点と言えば、やはりベートーヴェン、タルレガにとっては弾きにくいとか、相性が悪いとか関係なしに、ベートーヴェンの音楽を自分が最も愛する楽器で演奏し、編曲するのは当然の使命だったのかも知れません。

 一般的には、タルレガはたいへんスペイン的なギタリスト、あるいはギター的なニュアンスを追求したギタリストと言うイメージがあります。確かにそれは間違いではないのですが、同時にヨーロッパの伝統的音楽の中で生きた人とも言えます。前にも書きましたが、スペインのピアニスト、イサーク・アルベニスにも同じようなことが言えそうです。この二人、確かに似た点があるのでしょう。


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コメント

ベートーヴェンの曲の編曲が多いことは驚きます。あまり弾かれることはありませんが、悲愴のアダージョカンタービレはギターに向いていると思います。ピアノソナタのスケルツオもギターでよく響きます。また、面白い曲などありましたら、聴かせてください。アルベニスのコンサートも楽しみにしています。
2008/06/14(土) 04:37:11 | URL | acoustic #-[ 編集]
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