中村俊三 ブログ

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フェデリーコ・モンポウ:ピアノ作品全集   ピアノ:フェデリーコ・モンポウ

 ギター愛好者には「コンポステラ組曲」の作曲家として知られている、フェデリーコ・モンポウの4枚組のピアノ作品全集を聴きました。演奏もモンポウ自身によるものです。


 モンポウ(1893~1987年)はスペインのバルセロナ出身ですが、この1893~1987年という生没年はアンドレ・セゴビアと同じです。そういえばスペインの音楽家は長寿の人が多いですね、カザルスやモレーノ・トローバも90歳以上の長寿でしたし、ロドリーゴは1901~1999年と、ほとんど20世紀の間生きていました。


 このCDの録音は1974年、つまりモンポウが81歳の時と記してあります。作品としては1911~1967年にかけてのもので、初期の作品はいわゆるロマン派風の感じで、ショパンや、シューマンに近い感じがあります。アルベニスやグラナドスに近いといってもよいかも知れません。また全作品を通じて静かな曲が多いのはこの作曲家の特徴なのでしょう。ピアノ演奏の技術的なことは私にはよくわかりませんが、なんといっても作曲者自身の演奏なので、この音楽がというものなのかを知るには、最も信頼できる演奏だと思います。


 この全集の中で私達にとって最も身近に感じるのは、やはり1921~1962年に作曲された12曲の「歌と舞曲」でしょう。これはスペイン、特にカタルーニャ地方の民謡をもとにしていて、ギターをやっている人には馴染みのあるメロディがいろいろ出て来ます。第3番には「聖母の御子」、第7番には「あととりのリエラ」、第8番には有名な「アメリアの遺言」と「糸をつむぐ娘」など、リョベットの編曲カタルーニャ民謡集で馴染みのある曲が次々に出てきます。「アメリアの遺言」もリョベットとは違う和声付けですが、メロディ・ラインにはあまり違いはなく(ト短調になっていますが)、雰囲気としてはあまり変わらない感じがします。ギターで聴きなれた曲を別の楽器とアレンジで聴くのはなかなか興味深いものです。


 また前述の第3番の「舞曲」の部分はコンポステラ組曲の終楽章「ムニェイラ」によく似ていて、同じリズムで出来ています。また第6番の「舞曲」は南米風のリズムをもち、なかなか面白いです。またこの全集には入っていませんが、「第13番」はギターのためにかかれ、カザルスの演奏で有名な「鳥の歌」のメロディを用いています。その他の曲も有名な旋律を用いているものと思われ、私達の知らない素材の曲でも、とても親しみやすく感じます。これらの曲はギターをやっている人にとってはとても楽しめる曲だと思います。


 1938~1957年に作曲された「ショパンの主題による変奏曲」はショパンの前奏曲Op28-7をテーマにし、それに12の変奏が付けられています。どちらかといえばやはり静かな変奏が多いのですが、マズルカ風とかワルツ風というのもあります。テーマはショパンの原曲どおりのようです。因みにこの曲はタルレガもギターに編曲しています。


 晩年の作品で1959~1967年に書かれた「Musica Callada」は「沈黙の音楽」または「静かな音楽」と訳すのでしょうか、これは曲名どおり静かな曲ばかりで、コンポステラ組曲とは作曲年代もほぼ同じで、近い印象があります。この頃になると作風は初期の調性的な音楽から教会旋法などを用いた音楽に変わっているようです。コンポステラ組曲は自然短調、またはフリギア調などの教会旋法を用いています。


 因みにフリギア調とは長音階(普通のドレミファソラシド)を3番目の「ミ」からはじめたもの、「レ」からはじめたものは「ドリア調」、「ラ」からはじめたものは「自然短調」となります。これらの音階は、おおよそで言えば、「明るさ」が違うようです。参考までに、これらを暗い方から順に並べると以下のようになると思います。なお、比較しやすいように、すべての音階を「ミ」を主音とするものにしました。



フリギア調(「ミ」を主音とした場合)

  ミ   ファ   ソ   ラ   シ   ド   レ   ミ



自然短調

  ミ   ファ#  ソ   ラ   シ   ド   レ   ミ



ドリア調

  ミ   ファ#  ソ   ラ   シ   ド#  レ   ミ



長調
  
  ミ   ファ#  ソ#  ラ   シ   ド#  レ#  ミ


と言うわけで単純に#の数が少ない方が暗く、多い方が明るいと考えてよいのではないかと思います。フラメンコやスペイン音楽でよく用いられるフリギア調は短調(自然短調)よりも暗いというわけです。ドリア調は短調と長調の間で、もちろん長調が一番明るい感じがします。ドリア調で有名な曲といえばS.サイモンの「スカボロ・フェア」が挙げられると思いますが、この曲の透明感というか、中性感のようなものは、この短調と長調の間のドリア調を用いていることと深くつながっていると思います。


 話がちょとそれてしまいましたが、モンポウの晩年の作品は、主にこれらの自然短調を含めた教会旋法によって作られています。前衛的という訳ではありませんが、伝統的なヨーロッパの音楽、特に19世紀のロマン派的な音楽とは一線を画しているようです。モンポウにはもともと派手な感じの曲は少ないのですが、晩年になると益々静かな曲ばかりになります。ちょっと聴いてすぐに面白いと思える曲は少ないのですが(前述の聞き覚えのある曲を別にすれば)、聴いているうちに、いつの間にか心に残ってしまうというような、そんな作品の数々だと思います。

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