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中村俊三 ブログ

中村ギター教室内のレッスン内容や、イベント、また、音楽の雑学などを書いていきます。

グレーな音符たちのその後 3




F.タレガ : アラールの練習曲




腕に自信のあるギタリストなら

 今回はタレガ作曲の「アラールによる練習曲」です。今現在も人気のある曲だと思いますが、かつては腕に自信のあるギタリストならみんな弾いていたといった曲です。もっとも、私はあまり腕に自信がなかったので、これまでちゃんと弾いたことがありません(少なくともステージでは)。でも出来ればそのうち弾いてみたなと思っています。

 セゴヴィアの演奏を聴いた時、凄く速いテンポの曲だなと思いましたが、他のギタリスト、ブリームとか、パークニング、ラッセルなどはもっと速く弾いていて、だいたい2分くらいで弾いています。



編曲ではないと思うが

 原題は 「Estudio Inspirado en Alard」 となっていて、アラールによってインスパイアされたエチュードということになるでしょうか。アラールは19世紀フランスの有名なヴァイオリニストということだそうですが、私自身はこのヴァイオリニストについては詳しく知りません。おそらくは超絶技巧的なヴァイオリニストだったのではないかと思います。

 「インスパイア」ということですから、編曲というわけではないようですが、音形だとか、メロディなど一部引用しているのかも知れません。



3ページ目

 下の譜面は現代ギター社版、ターレガ・ギター曲集4、中野二郎監修、編曲による練習曲集で、この「アラールの練習曲」の3ページ 目です。問題の個所は赤矢印のところとなります。



アラール1
現代ギター社版 アラールの練習曲3ページ目



CCI_000325.jpg



アリエール社の初版では

 その前の小節が「ファ=ナチュラル」だから、当然この小節も「ファ=ナチュラル」ということなのでしょう。私自身では、なんとなく、この箇所変だなとは思っていたのですが、マドリッドのアリエール社から出版された初版では次のようになっています。



アラール2
アリエール社の初版  同じ個所にはしっかりと#が付いている。 しかし楽譜の書き方としては、その間のファに#を付けるのが通例。 タレガは演奏者が間違えないために、あえてここに#を付けたのではないかと思う




通常なら、前のファにシャープを付けるべきだが

 問題の個所にしっかりとシャープが付いていますね。もっとも確かにこのシャープの付け方変で、本来ならその前のファに#を付けるべきなのでしょう。しかし。おそらくタレガとしては、ここは前の小節とは違ってナチュラルではなくシャープだと言うことを強調するために、こちらの方に#を付けたのでしょう。

 おそらくは当時も(タレガ生存中も)ここをナチュラルで弾く人が多かったのかも知れません。つまりタレガとしてはこの曲を弾く愛好者やギタリストに気を配って、あえてここに#を付けたということになります。




タレガの気遣いが裏目に

 しかし逆に楽譜を読む人からすれば、通常ここに#を書き入れるはずがない。だからこれはナチュラル記号の間違いだ、おそらく版下を作った人がシャープとナチュラルを間違えたのだろうと解釈したのではないかと思います。つまりタレガの気遣いが裏目に出てしまったのでしょう。

 もっとも、タレガの場合、手書きなどの譜面が何種類か残されていることが多く、これとは別の譜面を基にして現代ギター社版が出版されているのではとも考えられますが、ここ以外に異なる点はないので、別の譜面を基にしたと言うことは考えにくいようです。




和声が前の小節とは異なる

 確かにここはその前の小節とよく似ていて、メロディはどちらも ラーシード# ですが、和声が違いますね、それは2弦の音を見ればよくわかります。




アラール3
一段目から二段目にかけての2弦の音は ファ#ーファ♮ーミ と半音ずつ下がってくるようになるが、このように次の小節もファ♮としてしまうと ファ#ーファ♮ーソ# と不自然な動きとなる。



ファ♮だと2弦の音の動きがおかしい

 上の譜面(現代ギター社版)の一段目から二段目にかけての2弦の音は ファ#ーファ♮ーミ と半音ずつ下がってくるようになりますが、このように次の小節もファ♮としてしまうと ファ#ーファ♮ーソ# と、ちょっと変な動きになってしまいます。

 ファに♮が付くのは、あくまで次にミにさがるからであって、上がってゆくなら半音下がることはあり得ないことになります。特に19世紀から20世紀初頭にかけてはこの3半音となる「増2度」という音程は、旋律上嫌われますから、そういった意味でもあり得ないと言えるでしょう。

 したがって、この箇所についてはシャープが正しく、ナチュラルが間違いと、比較的はっきりと判定できるのではないかと思います。つまりグレーではなく、ナチュラルは黒と言えるでしょう。




現代ギター社版だけではなく、国内版のほとんどがナチュラルに変更している

 しかし、これは現代ギター社版が間違っていると言うより、ほとんどの国内版がナチュラルになっています。ですからたまたま間違えたのではなく、伝統的にそう演奏されてきたとも言えます。




速くてなかなか聴き取れないが

 実際、それぞれのギタリストたちはどう演奏しているのかとCDなどで調べてみたのですが、これがまた、テンポが速くて、なかなか聴き取れません。何と言っても一個の音で、それも極めて短い音価ですからね。 もちろん音感のいい人であればどんなに速くても聞き取れるのではと思いますが、私の場合は、個々の音ではなく、響きとしてしか聴き取れません。

 響き的に言えば、ナチュラルでもあまり変な響きには聴こえません。むしろ私もこれまでほとんどナチュラルで聴いていたので、自然に聞えます、例の増2度の動きなども全然わかりません。 逆にシャープで弾くと、何というか、ちょとフワッという感じに聞えます。やはり明るく聴こえるようですね。



ブリームのみシャープで演奏

 そんなようにして聴いてみたら、セゴヴィア、パークニングなど殆どのギタリストはナチュラルで弾いているようなのですが、私が聴いた中では、唯一、ジュリアン・ブリームだけがシャープで弾いているようです。音感に自信のある方々、ぜひご自分でも聞き分けてみて下さい。

 この話、まだ一般的には認知されてないことなので、オトク情報(?)かなと思います。この曲を練習いている方々に参考にしていただければと思います。



今現在はChanterelle社から出ている

 因みに、このアリエール版は、今現在 Chanterelle 社からまとめて出版されています。この譜面が今現在も入手彼のかどうかわかりませんが、タレガ生存中から1920頃までに出版されたタレガの作品が含まれています。かなり厚い楽譜なので、それなりの価格はしますが、内容からすれば決して高いものとは言えないので、入手できるものであれば、ぜひ入手しておくといいでしょう。



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1900~1920年にスペインで出版されたタレガの作品が収められた The Comprete Early Spaish editions オリジナル、編曲を合わせ、100曲以上となる。
 

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