中村俊三 ブログ

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イサーク・アルベニス : アストゥリアス

 リサイタルの後半はアルベニスの作品6曲ですが、アルベニスの作品はギターのオリジナル曲ではないにもかかわらず、ギター曲としてたいへん人気の高い曲、また何といっても私がこれまで特に力を入れて取り組んできた曲でもあります。



前奏曲? アストゥリアス? レーエンダ?

 その1曲目はギターで弾くアルベニスの作品の中でも最も人気の高い「アストゥリアス」です。アストゥリアスについても昨年当ブログで詳しく書きましたが、少し付け加えておきます。アストリアスは1895年頃出版された「スペインの歌Op.232」の第1曲目「プレリュード」として作曲されました。1893年前後の作曲と考えられます。さらに作曲者の死後ドイツの出版社により、「スペイン組曲Op.47」に「アストゥリアス=レーエンダ」と題され、組み入れられました。


 アストゥリアスはスペイン北部の地方の名前、レーエンダは英語で言えばレジェンドで、「伝説」といった意味。この曲は聴いてわかるとおり、フラメンコ的な曲で、もしグラナダやコルドバのようにスペインの地名が付けられるとすれば、当然南部スペインのアンダルシア地方の地名が付けられるべきなのですが、フラメンコとは全く縁のない北部スペインの地名が付けられています。そう考えるとこの曲名は若干矛盾することになります。レーエンダの方は抽象的な言葉ですから、特に矛盾することもありません。


 したがって、この曲の名称としては、最も正しいのは ”『スペインの歌』より『前奏曲』” で、スペイン組曲の方の名前をとった場合でも『アストゥリアス』ではなく『レーエンダ』のほうをとったほうが矛盾しないということになります。しかし一般的にこの曲は『アストゥリアス』として親しまれ、私自身でもこれまでそう呼んできたので、今回もこの曲名でプログラムに載せました。ちなみにアンドレ・セゴビアは『レーエンダ』としているようです、やはりスペイン人なのでしょう。『前奏曲』として演奏している人もいます。


セゴビアが最初に演奏?

 曲名の話だけで長くなってしまいましたが、この曲がいつ頃からギターで演奏されるようになったかと言うことですが、同じアルベニスの曲でも「グラナダ」や「セビーリャ」はタルレガが編曲していて、アルベニスの生存中から演奏されていたのは確かです。アルベニスとタルレガは同じ没年で、アルベニスはタルレガがギターで演奏するそれらの自分の作品を聴いた可能性は高いようです。


 しかし現在では最も人気が高く、またギターに最もよく合うと思われているアストゥリアスのほうはタルレガもリョベートも編曲しておらず、もしかしたら戦前には演奏されていなかったのかも知れません。詳しいことはあまりわかりませんが、はっきりとわかっていることとしては1951年にセゴビアがこの曲を録音しています。これが録音としては初めてのものかも知れません。


 編曲の話は以前に詳しく書きましたが、セゴビア以前にこの曲を演奏した人がいなかったとすれば、現在いろいろな出版社から出されているこの曲のギター譜は当然セゴビアの編曲ということになります。しかしその譜面はなぜか「セゴビア編」として出されず、海賊版のような形で編曲者が明記されないまま、あるいは直接その曲集を編集した人の編曲になっていたりしていました。それらの譜面は微小な部分を別にすればほとんど同一のもので、同じ譜面から派生していることがわかります。現在でもいろいろなギタリスト名で譜面が出版されていると思いますが、この譜面と全く違っていたり、少なくとも全く影響を受けていない譜面はないようです。ちなみに1990年代になってから「セゴビア編」として譜面が出されましたが、これは前述の編曲者が明記されていないものと全く同じです。

 

原曲どおりにしたかったのだが

 私も最初は前述の「曲集を編集した人=阿部保夫編」で弾いていたのですが、原曲を知るようになって、原曲とは異なる部分が気になり、特に中間部などはなるべく原曲にそうように少しずつ直して行き、現在弾いているものになりました。主要部(16分音符の)で、前述の低音を簡略化している音*をセゴビアのように原曲どおりにしたいとは思ったのですが、これは実際には演奏が難しく断念しました。また低音の間に入る16分音符の伴奏も全体に統一感をもたせようと、違った形を試みたのですが、これもトラブルが発生しやすく、元のままになっています。結局主要部で変更したのは1ヶ所の音の間違い (ソ → ファ#) を訂正したのとエンディングを16分音符にしたのみで、運指なども一般的なもので弾いています。中間部とコーダは前述のとおり、原曲に近い形に直してあり、一般的なものとはだいぶ違っています。

 *8フレットセーハの和音。コード・ネーム的には「C7」。通用譜では低音が「ド」だがセゴビアは原曲に忠実に「シ♭=ラ#」で弾いている。音楽的内容からすればそうでなくてはおかしいが、ギターでの演奏はかなり難しくなる。
 

出だしだけなら誰でも弾ける

 この曲が難しいのかどうかということですが、確かに聴いている人が十分に楽しめるほどにっちゃんと仕上げるのは決して簡単な曲ではないと思います、もっともそれはどの曲も同じでしょうが。ただ音楽としては結構シンプルな部分もあるので、アルベニスの曲のなかでは「とっつきやすい」曲の一つではないかと思います。特に冒頭の部分はほぼ単旋律的で弾きやすく、また格好も付きやすくなっています。発表会やコンサートで弾くとなると、またちがってきますが、中級者などが難しい曲に挑戦してみようなどと言う場合には結構適した曲なのではと思います。


 よく「十分基礎が出来ていないのに難しい曲を弾いてはいけない」などと言われます。確かに基礎は絶対に必要なものでそれなしにギターを上達するのは不可能ですが、だからと言って難しい曲や弾きたい曲を弾いてはいけないなどと言う事もないと思います。難しい曲でも弾いてみたいと思ったり、どうしても弾いてみたいという曲があるということは、ギターに対する意欲の表れだと思いますので、決して上達の妨げにはならないでしょう。もちろんそれだけではだめですが。


 話がちょっとそれてしまいましたが、この曲が一般的に人気があるのは、聴いっていいというだけでなく、意外と「とっつきやすく」、ある程度ギターが弾ければ、少なくとも冒頭の部分だけは弾く事が出来ると言う事にもあるのでしょう。

 
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