中村俊三 ブログ

中村ギター教室内のレッスン内容や、イベント、また、音楽の雑学などを書いていきます。

本の薦め

 この1年はともかくリサイタルで明け暮れてしまい、本などほとんど読まずに過ごしてしまいました。ぼちぼち読む時間も出来たというわけですが、この機会に私が今までに呼んだ本のうち、特にお薦めしたいものをいくつか紹介したいと思います。本と言っても音楽に関するものが中心で、最近のベスト・セラーとか、人気小説とかはありません。


                本

          ① 名曲に何を聴くか  田村和紀夫著   音楽の友社


 一言でいえば、曲の分析、つまりアナリーゼの本と言えます。ショパンの「別れの曲」やシューベルトの「グレート」、シューマンの「ピアノ協奏曲」などのクラシック名曲を例に、「音楽とテンポ」、「拍子とリズム」、「旋律」、「調性」といった項目で話を進めています。音楽は理屈よりも「聴くこと」や「感じること」、あるいは「楽しむこと」が大事と言われますが、しかしやはり聴くだけではわからないことはたくさんあると思います。音楽に関する本はこれまでにもいろいろ読みましたが、この本で書かれていることは、一つ一つが目からウロコといった感じのもので、とても勉強になるというか、刺激になる感じがしました。各曲それぞれ一つのポイントにしぼって語っていますが、「こんな考え方があるのか」とか「こんなところに作曲者のこんな意図があるのか」とかかなり内容の濃いものだと思いました。


橋柱が橋の上に突き出てしまっては・・・・・

 紹介したい具体例はたくさんありますが、「拍子とリズム」のところでは、ピアニストのパドゥラ・スコダの話として、「旋律を川に架けられた橋に例えると、小節線は橋柱のようなもの」で、橋柱は橋を渡る人には気付かれないが、橋柱がなければ橋は存在出来ない。かといって橋柱が橋の上に突き出てしまったら、その上を車で走れなくなる・・・・・といった話が紹介されています。「小節線」と言っていますが、これは「拍子」と考えてもいいようです。拍子がなければ音楽は成り立ちませんが、かといっていつも1拍目を強く弾いていたのでは、これも音楽にならないということでしょう。


話がとぎれるまさにその時

 ショパンの有名な「ノクターン」のところでは、「話がとぎれるまさにその時、われわれは何らかの合いの手をいれている」と言っていますが、これは歌から始まった音楽には、フレーズがあり、フレーズには必ず息継ぎのための切れ目がある。そこは音楽にとって弱点で、それをカヴァーする意味で何らかの合いの手が入る。この曲の場合は低音の動きがそれに当たるといったことのようです。


一斉に上昇

 またバッハの有名な「アリア」のところで、バッハの曲は普通対位法的に書かれ、対位法的に書かれた曲では仮にソプラノが上行すればバスなどは下行するなど、普通各声部は反行するように動き、この曲もほとんどがそのようになっている。しかし一箇所だけすべての声部が上昇するところがあり、これはそれまで「客観的」だった音楽が「主観的」に動き出したもので、特別な個所だそうです。この曲は何度も聴いたし、合奏などでもやっていてそれなりに把握しているつもりだったのですが、今まで全く気付きませんでした。言われてみれば確かに印象的な部分です。


悲劇は突然、希望とはよいことの予測

 この本の中で最も印象的だったのは、ベートーヴェンの「運命」に関して、「不幸は突然、予告なしでやってくる」~第1楽章、「希望とはよいことを予測すること」~第3楽章から第4楽章への移行部、と述べていることです。第1楽章の有名な動機(運命の動機と呼ばれています)は何の予告もなしに突然強烈な音で始まり、これは突然起こったアクシデント、あるいは人生に襲いかかった不幸を暗示しているようです。一方ハ長調の最終楽章は、第3楽章から続く長い移行部によって導かれ、その移行部では、希望の灯火のように弱音ではあるが「ミ」のナチュラルが現れ、曲が明るいハ長調に変わることが暗示されています。この曲はさすが有名な曲だけあって、詳しく解説した本がたくさんありますが、この本に書かれていることは独特の視点に立った内容だと思います。


 なおこの著者には「名曲が語る音楽史」と、「音楽史17の視座」といった姉妹書もあり、どちらも音楽に深く興味のある人にはたいへんよい本だと思います。


              本 001



              本 002

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