中村俊三 ブログ

中村ギター教室内のレッスン内容や、イベント、また、音楽の雑学などを書いていきます。


前回は

 前回の話では、人はしゃべる時、無意識に抑揚を付ける、その延長線上である歌を歌う時にも何らかの心の動きが伴う、それに対して同じ音楽でも楽器、特にギターを演奏する時などでは別に心の動きなどとは全く関係なく演奏出来る、といったことを話しました。ギターを演奏する時も、「気持ち」とか「感情移入」がもっとも大事といた結論になってしまいそうですが、気持ちだけでは済まない問題もあります。前回の話に関して言えば、ギターの演奏でメロディを「歌わせる」ということは、皆さんが日常会話で無意識に付けているイントネーションというより、ドラマなどでの俳優さんたちのセリフの言い回しの方に近いと思います。


「意識的」に「無意識」を行うのは難しい

 テレビ・ドラマの中では何気なく聴いている俳優さんたちのセリフは本当に自然に聴こえますが、「無意識」に行うことを「意識的」に行うことは決して簡単なことではないと思います。それは厳しい稽古や才能などにより出来ることで、いろいろな細かいテクニックもあるでしょう。しかしまた俳優さん自身がその「役」に「なりきる」必要もあり、その役の人物がどのような性格で、どのような人生を歩んできたか、またその人物がそのシーンにあるような状況になったときどのような心の動きがあるか、などを真剣に考えたりもするのでしょう。ギターなどでメロディを「歌わせる」ということは、それらのこととよく似たことではないかと思います。ただ気持ちを込めて演奏すればよいなどということではなく、いろいろ基本的な技術の習得が必要でしょうし、「歌っているように」聴こえるための細かいテクニックもあると思います。また何といってもその音楽がどういう音楽なのかということもじっくりと勉強する必要もあるでしょう。


「そこはもっと歌って!」を連発するのは

 楽器でメロディを「歌わせる」ということは一言でいえば楽器を演奏する時、「まるで歌のように聴こえる」ように演奏するということと言えます。ということは本当に歌を歌っている場合は「歌わせる」とは言わないでしょう、声楽の先生はレッスンの時に「そこはもっと歌いなさい」とはあまり言わないのではないかと思います。第一、本当に歌っている人に「歌いなさい」も変だと思いますし。また同じ楽器でもフルートやヴァイオリンなどは音的にも歌に近いので、歌わせることはわりと自然にできるのではないかと思います。おそらくこの「歌いなさい」を最も多く発声する音楽の先生はピアノの先生ではないかと思います(勝手な推測ですが)。


歌うことが最も不得意な楽器

 ピアノの場合はポンポンといった打弦音ですから、歌っている響きとだいぶ違います。確かにピアノは便利な楽器で、これ1台でコンサートを行うこともできればオーケストラの代わりにもなり、声楽やいろいろな楽器の伴奏も出来ます。またなんといっても作曲をする場合には欠かせない楽器です。一つだけ欠点があるとすれば、それは人間の声とはだいぶ違うという点です。メロディ弾くこと、つまり「歌うこと」が最も苦手な楽器だといえると思います。ピアノが出来た頃(18世紀初頭)はチェンバロとあまり変わりがなく、音も軽く、余韻もあまり長く響かず、どちらかといえば和音やアルペジオ、細かいパッセージなどが中心で、メロディを歌わせるということはあまりしなかったようです。しかしその後19世紀になるとピアノは万能の楽器としてヨーロッパ中に普及し、「歌わせるのが苦手な楽器」などとは言ってられなくなります。楽器も改良に改良を重ね、余韻も長く豊かになり、かなり歌わせやすくなってゆきました。もちろんそれを使用するピアニストたちも「歌っているように」聴こえさせるために、いろいろな演奏上の努力や工夫を重ねていったわけです。19世紀の半ば頃には、ピアノはすっかり「歌わせる」楽器となり、ショパンの「ノクターン」やメンデルスゾーンの「無言歌」など、まさにピアノのための「歌」といえる曲が作曲されるようになります。ピアノという楽器はもともと歌わせるのが苦手な楽器なので、逆にピアニストたちは「歌わせる」ことに力を注ぎ、そのことを克服してきたと言えるでしょう。


ギターだって他人事ではない!

 弦を指で弾いて音を出すギターもピアノと同じように歌うのが苦手な楽器ですから、ピアノの先生同様にギターの先生も「そこはもっと歌いなさい」を連発してもよいのですが、でも一般にギター教室の先生はあまりこの言葉を使っていないのではないかと思います、かく言う私自身もそうです。ギターの場合はクラシック・ギターといえどもポピュラー系、あるいはラテン系の音楽の影響が強く、メロディを歌わせるというより、リズムの「キレ」とか「ノリ」とか、あるいはコードの響きなどの方を重視するギタリストが多いと言えます。もっともギタリストの中でもヨーロッパの伝統的な音楽のを一身に受けて育ったような人は別でしょう(例えばオスカー・ギリアのような)。しかしジャンルを問わずメロディのない曲というのはそんなにないでしょうから、ギターを弾く上でも、当然この「歌わせる」という技術は絶対に必要なものといえます。ただまだまだ指導する側も、学ぶ側もそれほど意識していない現実もあるのではないかと思います。

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