中村俊三 ブログ

中村ギター教室内のレッスン内容や、イベント、また、音楽の雑学などを書いていきます。

ルプー 001

シューベルト:ピアノ・ソナタニ長調D850
ベートーヴェン:ピアノ協奏曲第5番「皇帝」
   pf ラドゥ・ルプー  イオシフ・コンタ指揮  ルーマニア放送交響楽団
  録音:1969年 (写真はおそらく後のもの。デビュー当時はひげがなかった)


ルプー


ベートーヴェン:ピアノ協奏曲第3番ハ短調 
  pf ラドゥ・ルプー  コンスタンチン・ブゲアヌ指揮  ルーマニア映画交響楽団
  録音:1967年



 ルーマニア出身のピアニストのラドゥ・ルプーに関しては以前にも書きましたが、最近ルプーの若い頃録音したこの2枚のCDを買ったので、また書くことにしました。ラドゥ・ルプーは1945年生まれで、1966年にヴァン・クライバーン国際・ピアノ・コンクール、1969年にリーズ国際ピアノ・コンクールで一位になりました。ヴァン・クライバーン・コンクールと言えば、最近では辻井伸行さんが優勝して話題になったコンクールです。ルプーは70年代から80年代にかけては「リパッティの再来」とか「千人に一人のリリシズム」といったフレーズで話題にもなり、CDなども結構出ていました。美しい音で評判で、シューベルトの即興曲集のCDは今でもベスト3に挙げられています。最近では新にCD録音などはなく、また来日もあまりしていないので「知る人ぞ知る」ピアニストと言ったところでしょうか。


 「皇帝」の方は1972~3年頃FMで放送され、録音してよく聴いていました。たまたま電波状態もよかったのか、また自慢?のオープン・テープ・デッキで録音したせいか、結構よい音で録れていました。オーケストラの音もピアノの音も華麗で美しく、溌剌としたとても爽快な演奏だった記憶があります。その後このテープは聴かなくなってしまいましたが、最近ネットでこの演奏のCDが発売されているのを知り、取り寄せてみました。もっとも「若い頃はとてもよい演奏だと思ったけど、今聴くとそうでもないじゃないかな」とか「ズビン・メータ盤と特に違いがないんじゃないかな」などと考えて、また古い録音にしては価格も特に安くなく、若干躊躇はしました。ルプーは1979年頃ズビン・メータ指揮のイスラエル・フィルと共演しベートーヴェンのピアノ協奏曲全5曲を録音していて、一般にはそれが出回っています。


 ネットのほうにもほとんどデータとかコメントもなく、ルーマニアの国内盤らしく、いかにも「やばそうな」CDといった感じです。CDが自宅に届いて中身を開けてみると、CDケースの破片がポロポロ、なんかいやな予感です。でも実際に音を鳴らしてみると、何と言っていいのか、いきなりのオーケストラの和音、ピアノのカデンツァ・・・・ 私の気持ちはあっと言う間に30数年前に戻ってしまいました。いかにも若々しい、溌剌とした演奏、かつて何度も聴いたその演奏を思い出しただけでなく、その時感じた気持ちまで思い出してしまったようです。当時味わった感動と同じ感動が蘇りました。


 とは言いながらも、今聴くと、オーケストラは確かに勢いはあるが、特に能力が高いとも言えず、録音は多少人口的な感じ。しかし後のメータ盤より第一楽章で30秒ほどしか速くないのに、勢いはまるで違う感じで、新鮮さとか若さも感じます。メータ盤と違うというより、他のどのルプーの演奏とも違う感じで、「若い頃はこんな演奏をしていたのか」と思わせる演奏です。またやはりルプーの音は美しく聴こえます。メータ盤は確かにオーケストラの力量も高く、またオーケストラの音もピアノ音も美しく録音され、とてもよくまとまっているのですが、でもこのルーマニア盤には他では聴けないスリリングさとか、面白さがあります。


 「皇帝」がとてもよかったので、「第3番」のほうも取り寄せてみました。1967年録音ということで、バン・クライバーン・コンクールで優勝したばかりの頃なのでしょう。オーケストラは「シンフォニカ・シネマトグラフィ」となっていて「映画交響楽団」と訳すのでしょうか、指揮者も全く聴いたことがありません、いっそう「やばい」感じです。音を出してみると第一楽章はいままで聴いたことのない遅さで聴こえてきます。データを見ると、一般に16分くらいで演奏されるこの楽章が19:44となっています。ルービンシュタイン盤も遅かったけど、これほどではなかったような気がします。


 ピアノが登場するまで約3分半、この遅さで、このオーケストラと付き合うのは若干辛抱が必要ですが、ピアノが登場するとはやはり引き込まれてしまいます。ルプーはこのテンポに乗せて、自分の世界を展開してゆきます。前の「皇帝」とは全く違ったアプローチで、とことん細かいニュアンスにこだわった演奏のように感じます。結局この遅いテンポもルプーの強い意志によるものなのでしょう。そういえばベートーヴェンのピアノ・ソナタ「悲愴」のグラーヴェもかなり遅いテンポで演奏しています。


 79年のメータ盤では5曲ともあまり極端なテンポではなく、ほとんど平均的なテンポ(気持ち遅めか)で演奏しています。ルプーも歳を重ねた結果なのでしょうか、あるいはメータも意志が働いているのでしょうか。またあるいはレコード会社もオーケストラもメジャーになり、そうした関係もあるのでしょうか。


 そのようなわけで、「第3番」の方は「皇帝」以上に個性的な演奏と言えます。その後のルプーはシューマンとかシューベルトのスペシャリストのイメージが定着しましたが、かつてはこんな演奏もしていたのかなと改めて思いました。確かにマニアックなCDで、いったい誰がこんなCDを買うのかなと言ったものですが、聴き出すと結構「クセ」になる2枚です。ある音楽評論家いわく「彼(ルプー)のファンは間違いなく彼の音楽を理解している人であり、そうでない人を寄せ付けない」と言っています。要するに好きな人は好きだけど・・・・ということで、当たり前のことを言っているだけですが、そうした人たちはブランド志向の人でないのは確かなようです。



 
 
スポンサーサイト
コメント
コメントする
URL:
Comment:
Pass:
秘密: 管理者にだけ表示を許可する