中村俊三 ブログ

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 フェルナンド・ソル : 幻想曲作品54bis (コスト編)


 ソルのニ重奏曲の中でも人気のある曲で、最近ではもう一つの人気曲、アンクラージュマンよりも耳にする機会も多くなっているかも知れません。曲は「アンダンテ・アレグロ」、「アンダンティーノ」、「エスパニョール」の3つの部分からなります。「アンダンテ・アレグロ」はイントロダクション的ですが、それにしても「アンダンテ・アレグロ」とはちょっとややこしい表記です。「アンダンテなアレグロ」なのか「アレグロなアンダンテ」なのかどっちなのでしょうか。どうもソルには「アンダンテ・ラルゴ」のように速度記号を2つ並べる表記が時々あります。私の知る限りではこのような表記をする作曲家は他にはあまりいません。結果的に言えば「アレグロなアンダンテ」、つまり「速めのアンダンテ」と考えるべきなのでしょうが、それなら「アンダンティーノ」などと表記してくれればよいと思いますが、次の楽章は「アンダンティーノ」なのでそれと違った感じで弾いて欲しいということなのかも知れません。「アンダンティーノ」が軽快にといった感じがあるとすれば、こちらは「あまり遅くはないが、レガートに」といったように解釈しています。いずれにしてもソル独特の表記です。


 第2の部分の「アンダンティーノ」は三部形式の曲と考えられますが、冒頭の部分が再現される際は単純な繰り返しではなく変奏されています。つまり三部形式と変奏曲の両方の性格を持っています。前述のとおり軽快な感じですが、中間部は短調となります。第3の部分の「エスパニョール」は8分の6拍子と、4分の3拍子が交錯する典型的なスペイン舞曲となっています。活き活きとした爽快な曲で、この曲の人気の源となっています。


 ソルのオリジナルでは1stギターは常に主旋律、2ndギターは常に伴奏とはっきり区別されていますが、この「コスト編」では細かくパートが入れ替わるようになっています。このコスト編だと、確かにパートを決める時もめなくてすむのですが、主旋律部分と伴奏部分と両方練習しなければならなくなります。特に「エスパニョール」では頻繁に主旋律部分と伴奏部分が入れ替わるので、その切り替えは意外とたいへんです。必然的にポジション移動も多くなってきます。サッカーでいえば相手陣内深くでクロスをあげたかと思えば、直ぐに自陣に戻ってディフェンスをするサイド・バックといったところでしょうか。うっかり集中を切らすと、二人で同じメロディを弾いていた・・・・などということにもなりかねません。パートの割り振りに関して言えば、「優しき玩具」と「幻想曲」は私が1st、バッハの「フーガ」は鈴木さんが1stです。




 J.S.バッハ : フーガ (ファンタジアとフーガイ短調BWV561より~横尾幸弘編)


 この曲は「さくら変奏曲」で有名なギタリストの横尾幸弘氏が1969年に出版したギター二重奏曲集に入っているもので、以前にも二人でこの曲を演奏したことがあり、今回も鈴木さんの提案よりこの曲をやってみることにしました。この譜面にこの曲の原曲に関することは何も書かれていなかったのですが、今回もう一度やることになり、この曲の原曲のことが気になり、それらしいCDをいろいろ聴いてみました。幸いに私のCDコレクションもその時からするとだいぶ充実してきました。


 そう思ったのも前にこの曲をやった時にちょっと「ひっかかり」があり、「確かにこの曲は有名な『小フーガト短調』に似ているけど、なんとなくバッハらしくないな」と感じていたからなのです。「ひょっとしたら横尾氏の作曲では」などと思ったりもしました。もっとも当時はただ「なんとなく」で、全く客観的な根拠などがあったわけではありません。今回あらためてこの曲の譜面(横尾氏編曲の)を見てみると、普通バッハのフーガには頻繁に現われる転調がほとんどなく、主題も主調と属調以外では出てきません。また装飾的なパッセージもどうもバッハ的には見えません(ヴィヴァルディなどに近い)。


 そうこうしているうちに適当にかけたバッハのオルガン曲集のCDからこの曲の主題が聴こえてきて、「なんだ、思い過ごしか、やはりバッハの真作なのか」と思ったのですが、解説を読んでみると、やはりバッハの真作ではなく、バッハの作品として伝えられているが、現在の研究では別の作曲家の作品だとされているようです。いわゆる「偽作」というわけですが、本当の作曲者は不明なようです。いずれにしてもバッハの身近な人の作品か、少なくとも同時代の作曲家の作品のようです。


 といったわけでこの曲の正式な名称が「ファンタジアとフーガイ短調 BWV561」で、ということがわかったわけですが、さらに言えば「伝バッハ作曲」と付け加えるべきかも知れません。原曲では曲の最初と最後にかなり技巧的な部分があり、横尾氏のアレンジではそうした技巧的な部分は省き、フーガになっている部分のみをギターニ重奏にしてあります。フーガの部分はほぼ二声になっていて、主題は前述のとおり有名な「小フーガ」の後半部分によく似ています。主題は上声部にも現われますが、どちらかといえば下声部に現われることが多く、上声部は主に装飾的なパッセージとなっています。この曲全体からすればかなり技巧的な曲なのですが、横尾氏がアレンジした部分についていえば意外とシンプルで確かによくギターニ重奏にはまります。横尾氏は他にもさまざまな曲をニ重奏にアレンジし、またソルなどのオリジナルのニ重奏曲も出版するなど、ギター界への貢献はとても大きいものがあります。


 横尾編ではこの曲はホ短調に移調されていて、前回の時も、また今回も当初はその譜面どおりに練習していたのですが、鈴木さんのほうからこの調では弾きにくいということで、1音下げ、ホ短調からニ短調に移調することにしました、こんな時パソコン・ソフト(ミュージック・タイム)は便利です。そのことでだいぶ弾きやすくなり、また響きも重厚になった感じがします。またエンディングも若干変更しました。


 
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