中村俊三 ブログ

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入り江のざわめき ~「旅の思い出」より


 しばらく間があいてしまいましたが、12月13日のアルベニスのコンサートの曲目紹介の続きです。前回(1ヶ月近く前になってしまいますが)はパヴァーナ・カプリッチョの紹介をしましたが、今回はギター曲としてたいへん人気の高い「入り江のざわめき」です。


 この曲は1886年頃出版された「旅の思い出」作品71.B (Recuerdos de viajo)に含まれ、全7曲中の第6曲となっています。原題は Remores de ra Caleta で、「Remores」は「うわさ」とか「つぶやき」、「ざわめき」、「せせらぎ」とかいった意味のようです。かつては「入り江のたより」つまり「入り江のうわさ話」といった邦訳になっていたのですが、現在ではこの「入り江のざわめき」といった訳に統一されているようです。つまり「入り江にある港町から聴こえてくる賑わい」といった意味なのでしょう。因みにこの「入り江にある港町」とは地中海に面したマラガ港を指しているものと思われます。楽譜には明記されていませんが、曲はマラゲーニャのリズムで出来ています。


   入り江

                  原曲のピアノの譜面



 上の原曲の譜面はフラット一つで、一見、ニ短調のように見えます。しかし実際は、ニ短調ではなく、「ラ」を主音とした「フリギア調」で出来ています。つまりヘ長調の第3音の「ラ」を主音とした音階を用いたものです。ギターではこの調では弾きにくいので、普通シャープ、フラットなし(一見、イ短調)の、「ミ」を主音としたものに移調して演奏しています。私が持っているギター譜の中には、この曲がフリギア調であることを知ってか知らずか、曲の最後にイ短調の主和音を付け加えているものがあります。またそうした演奏も聴いたことがあります。曲が属和音で終わるのはおかしいというので(確かに属和音で終わっているようにも見える)、常識的判断として付け加えたのでしょう。もちろんこれこそ本当の蛇足!


 このフリギア調というのはフラメンコではよく用いられるもので、スペイン的な音楽を書く時、多くの作曲家がこの旋法を用いています。今回演奏するアルベニスの曲のうちこの「入り江のざわめき」の他、組曲スペインの「プレリュード」、「マラゲーニャ」がこの旋法を用いています。スペイン的な音楽を書いたアルベニスですから、当然このフリギア調の作品はあるわけですが、数的にはそれほど多くありません。またその作品もどちらかといえばシンプルなもや、短いものが主となっています。何回かお話したとおり、アルベニスは基本的にはロマン派的な作曲家なのでしょう。


 主部は前述のとおりマラゲーニャのリズムで出来ていて、テンポも速く、熱狂的に踊る感じになっています。中間部は16部音符のシンプルなリズムの伴奏を伴う歌となりますが、特に遅くとは書いてありませんがrit.などのテンポの変化の指示は多くなっています。またここは”普通”の長調となっていて(ギター譜の場合ハ長調)、前後のフリギア調の舞曲と対比されています。


 ギター譜としてはいろいろなものが出ていて、原曲に近いものから、やや離れているものもありますが、大きなところではそれほど違いはありません。今回演奏する私のアレンジは私の技術の範囲内で、出来るだけ原曲に近くしてあります。主部のアルペジオも原曲どおり3連符にし、中間部の伴奏部も出来る範囲で原曲に忠実にしてあります。この曲は、かつてはイエペスなどの演奏でよく知られ、アルベニスの曲の中ではアストゥリアスと並ぶ人気曲だったのですが、最近では弾かれる機会が若干少なくなったような気もします。フラメンコぽさではアストゥリアス以上です。

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