中村俊三 ブログ

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スペイン組曲作品47より   グラナダ、カディス、セビーリャ


 このスペイン組曲作品47はアルベニスの作品としては「イベリア」と並ぶ代表作としてピアノでも比較的よく演奏される曲集で、グラナダ、カタルーニャ、セビーリャ、カディス、アストゥリアス、アラゴン、カスティーリャ、キューバの8曲からなります。もちろんギターでもグラナダ、セビーリャ、アストゥリアスなど馴染みの深い曲が並んでいて、マヌエル・バルエコなどこの組曲の全曲をギターで演奏しているギタリストもいます。しかしこれまでも何度か触れたとおり、私たちにはアルベニスの作品の中でも最も馴染みの深いこの組曲は、ちょっと「わけあり物件」といったところです。


 もともとは1886~7年頃に上記の8曲からなる組曲を完成させる予定だったようなのですが、実際にに作曲されたのはグラナダ、カタルーニャ、セビーリャ、キューバの4曲だけでアルベニスは世を去りました。残りの4曲は曲名のみ決まっているだけでした。アルベニスの死後出版社により、その曲名に合わせて他のアルベニスの作品から曲を当てはめて、前記の8曲からなる「スペイン組曲作品47」として世に出されました。「カディス」には1890年に作曲された「セレナータ・エスパニョーラ」を、「アストウリアス」には「スペインの歌」の「プレリュード」を、「アラゴン」には1889年出版の「ホタ・アラゴネーサ」を、「カステーリャ」には「スペインの歌」の「セギディーリャ」があてはめられました。


 そうした「わけあり組曲」であるにもかかわらずこの曲がアルベニスの代表作の一つになったのは、セビーリャやグラナダなどはアルベニス自身により生前からよく演奏されており、おそらく比較的早い時期からギターでも演奏されていたものと考えられます(タレガなどにより)。また後からこの組曲に加えられた曲も一般に受け入れられやすい曲が選ばれていることもあるかも知れません。そうした事情はありますが、やはりアルベニスの作品の中では親しみやすい曲が多く、オリジナルのピアノでも、またギターでも、どちらで聴いても楽しめる作品ではないかと思います。またこの組曲はオーケストラにアレンジされて演奏されることもあり、入手可能のCDもあると思いますので、興味ある人はぜひ聴いてみてください。



グラナダ

 ギターではよく演奏される曲の一つで、1886年に作曲されました。「セレナータ」という副題が付いていて、スペイン風というよりはアラビア風といったほうがよいのかも知れません。タレガの編曲譜も残され、当時からギターでも演奏されていたようです。原曲はへ長調ですが、タレガのギター譜ではホ長調に移調されており、現在ギターで演奏される場合、ほとんどこのホ長調になっています。確かにこのホ長調が一番弾きやすいのではないかと思いますが、このホ長調で中間部の和声を忠実にギターで再現するのはたいへん難しく、何らかの形で和声の変更は簡略化はやむを得ないことになります。このホ長調を採用した場合、主部(前後半)はそれほど違いはなく、まただいたい原曲に忠実にアレンジできるのですが、この中間部はアレンジによってかなり差が出るところです。


 私のアレンジは、私の力量の許す範囲で、和声構造をなるべく原曲に忠実に、ということなのですが、その中間部では結果的には響きが薄くなってしまったかも知れません。中間部の終わり近くにヘミオラの部分、つまり 3/8拍子=3/4拍子 になる箇所があり、ここはタルレガ以来、伝統的なアレンジでは無視した形になっていますが、私のアレンジではそれを尊重しています。因みに、この曲をホ長調ではなくイ長調に移調している編曲譜(ニコラ・ホールなど)もあり、これも選択肢の一つだと思いますが、中間部が難しいことには変わりないでしょう。 



カディス

 前述のとおり、もともとは1890年に「セレナータ・エスパニョール」として作曲されたもので、アルベニスの死後この組曲に組み入れた(この曲名に当てはめられた)ものです。原曲は変二長調(♭5個)ですが、もちろんこの調ではギターでは演奏が困難になってしまいますので、普通イ長調、または二長調などに移調されて演奏されます。タレガ(リョベット?)編は二長調になっていますが、この調は原曲より半音高い調ということで、ほぼ原曲どおりの音域となります。音域が高い分だけ華やかには聴こえるのですが、技術的には若干難しくなり、技術の高いギタリストや、華やかさを志向する人向きのアレンジといえるでしょう。イ長調のほうはバルエコやブリームなどが採用していて、最近ではこちらの方が多数派と言えるかも知れません。原曲より4度ほど低くなりますが、ギターとピアノの音域の違いを考えると、こちらの方がむしろ自然と思います。聴いた感じからしても音域的な偏りは感じられず、原曲に近いイメージもあります。


 伴奏の音形に乗せてメロディを歌わせるといったタイプの曲ですが、これがギターではなかなか難しく(特にタレガ編の場合は)、シンプルなメロディがシンプルに聴こえるようにするだけでもなかなかの技術が必要となります。今回私が弾くアレンジは基本的にはバルエコ編(イ長調)を使っていますが、技術的に困難な箇所や、単純ミスと思われる箇所(16小節目)などを若干修正しています。
  


セビーリャ

 グラナダと同様に1886年頃作曲された曲で、タイトルも途中から変えられたり、また他の組曲などから編入させられたりもせず、この組曲の中では、いわば「正規組」と言えます。また「セビーリャナス」という、この地名が付けられたフラメンコのリズムで出来ており、そういった点でも曲名に矛盾がありません。曲の華やかさといった点では他のアルベニスの曲に比べて抜きん出ており、よくコンサートの最後に演奏されたりします(今回もそうなのですが、これにはチューニングの関係もあります)。ただしピアノ譜にはメトロノームの数字が、4分音符=100とされていて、特に速く弾くようには指示されていません。しかし一般にギタリストは華やかさを強調するため、かなり速めのテンポをとることが多いようです、もちろんそれだけの技術があればということになりますが。


 原曲はト長調ですが、ギターでは普通 ⑤=ソ ⑥=レ にチューニングし、原調のままで演奏されます。これがとてもよくはまり、他の選択肢はないと考えられます。チューニングや技術的な問題だけでなく、曲の感じからして、主部=ト長調、中間部=ハ短調、は譲れないところでしょう。上記のように調の選択やチューニングに関してはどのアレンジも変わりありませんが、もちろん細かい部分についてはそれぞれ異なります。その中でもタレガ編は原曲から最も遠いのですが、このタレガ編を弾くときには単にアルベニスの作品を弾く、というよりタレガを通したアルベニス、つまりタレガとアルベニスの共作、くらいのつもりで取り組んだほうがよいかも知れません。


 因みに、グラナダはスペイン南部のネバダ山脈の谷間にある都市で、なんといってもアルハンブラ宮殿で有名、カディスはやはりスペイン南部のカディス湾に面した港町、セビーリャはガダルキビル川を河口から数十キロほど内陸に入った都市で、それぞれスペインのアンダルシア地方の都市名となっています。

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