中村俊三 ブログ

中村ギター教室内のレッスン内容や、イベント、また、音楽の雑学などを書いていきます。

パガニーニ : ヴァイオリンとギターのための作品全集
        
   Vn. ルイジ・アルベルト・ビアンキ
   G. マウリツィオ・ブレダ

      9枚組 (5000円弱 HMV)

    

     パガニーニ






今回のCDは伝説のヴァイオリニストと言われる、ニコロ・パガニーニのヴァイオリンとギターの作品集で、「全集」としているので、おそらく現存するこの種の曲をすべて収められたものとと思われます。


悪魔に魂を売ったヴァイオリニスト

 パガニーニは当時(19世紀初頭)も今も謎の多い音楽家で、当時は「悪魔に魂を売って、その超絶的な技巧を身に付けた」などとまことしやかに語られ、埋葬の時は受け入れを拒否した教会も多かったそうです。自らの音楽や技巧を盗まれるのを嫌い、協奏曲などを演奏した時もパート譜などは演奏が終わるとすぐに回収したそうで、パガニーニのコンサートの目玉だったはずのヴァイオリン協奏曲は、生前には出版されなかったそうです。結局パガニーニの生存中に出版されたのは、ヴァイオリン独奏の「24のカプリース」のみと言われています。これも誰も演奏出来ないことを前提に出版されたと言われています(現在では、一流のヴァイオリニストなら、当然のごとくこの曲を演奏しています)。因みに、ヴァイオリン協奏曲は12曲ほどあったらしいと言われていますが、現在譜面として残されているのが6曲(1曲はソロ・パートのみ)で、それらは他の音楽家などが「耳コピー」したもののようです。

 当時(1830年前後)このパガニーニの演奏に大きな刺激を受けた音楽家は多く、シューベルト、リストは直接演奏を聴き、リストは自らが「ピアノのパガニーニ」となることを決心したと言われています。また直接ではないかも知れませんが、シューマン、ショパン、ブラームス、さらにラフマニノフなどにも大きな影響を受けています。



出版は嫌ったはずだが?

 といったように自らの作品、あるいは超絶技巧を譜面として残すことを嫌ったパガニーニですが、不思議なことにこのCDでわかるように、ギターに関する作品についてはかなりの作品が残されています。この9枚組に収められた多数のヴァイオリンとギターのための作品以外に、「37のソナタ」をはじめとするギター独奏曲、さらに15曲の「ギター四重奏曲」をはじめとするギターを含む室内楽(後述)などがあり、CDの枚数にすれば20枚程度のギターに関する作品が残されています。これはおそらく現在残されているパガニーニの作品のうちの半数以上を占めるのではないかと思います。もっとも一般の音楽愛好家にはこうしたことはあまり知られてはいないようです。

 これは、パガニーニの作品のうちギターを含む作品だけが、何らかの理由で選別的に「残された」ためとも考えられますが、ギターに関する作品には作品番号も付けられており、また「6つのソナタ」などのように6曲セットになっている作品もたくさんあります。当時の習慣では作品番号は出版の際に付けられるもので、作品番号があるということは、当時出版されたということになります。もっともそれがパガニーニの意思によってなのか、あるいは生存中だったのか、などはあまり資料等が手元にないのでわかりません。また当時は楽譜の出版は6曲あるいは12曲、3曲のセットで行うことが多く、6曲セットで作曲したということは、それ自体で出版の意図があったということになります。



ギター曲はガードが甘い

 上述のとおり、パガニーニは伝説の「超絶技巧」のヴァイオリニストだったわけですが、私たちギターをやるものにとってはあまりピンとこないのではないかと思います。パガニーニのギターの作品、あるいはギターのパートは比較的平易なものが多く、超絶技巧とはあまり縁がなさそうです。ソロの曲は、いわゆる初級、中級程度の曲が多く、ヴァイオリンとの二重奏曲もギターのパートは決して難しくはありません。「ギターとヴァイオリンのための大ソナタ」などは異例として、ギターの方が主となり、ギター・パートは華麗で技巧的にはなっていますが、「超絶技巧」というほどではありません。



二重人格? 影武者?


 どうも私には「ヴァイオリニストのパガニーニ」と「ギタリストのパガニーニ」とはそれぞれちょっと違ったキャラクターのように感じられます。 「ヴァイオリニストのパガニーニ」は神秘的で悪魔のような超絶技巧を持ち、また自らの作品を公にはせず秘密主義の音楽家。それに対し、「ギタリストのパガニーニ」は、美しいメロディを平易な技術でだれにでも演奏出来るように書いた作曲家。また自らの作品が多くの人に弾かれるように積極的に出版した(あるいは出版しようとした)作曲家といった感じがします。「神秘主義で悪魔の化身のようなパガニーニ」、「親しみやすく誰にでも気軽に声を掛けそうなパガニーニ」、この二つのキャラクターをどう考えればよいのでしょうか。ヴァイオリンの譜面を出版しなかったのは自らの技巧が盗まれることを嫌ったからと言われていますが、ギターの方では盗まれるべき超絶技巧がなかったからなのでしょうか。それとも二重人格だったのでしょうか。あるいは本当にパガニーニが二人いた、なんてオチが待っているのかも知れません。



父もギターを弾いていた

 一説によればパガニーニがギターのための作品を書いたのは、ギタリストの愛人がいたためともいわれていますが、パガニーニが日常的にギターも弾いていたのは確かなようで、唯一人の弟子のカミッロ・シヴォリや、息子のAchilleのためにギターとヴァイオリンの作品を書き、そのギター伴奏を受け持ったと言われています。パガニーニの父もギターを弾いていたようです。また普通ヴァイオリンの伴奏にはオーケストラ以外ではピアノを用いますが、パガニーニにはヴァイオリンとピアノのための曲はたいへん少なく、ほとんどはギターの伴奏になっています。

 
スポンサーサイト
コメント
コメントする
URL:
Comment:
Pass:
秘密: 管理者にだけ表示を許可する