中村俊三 ブログ

中村ギター教室内のレッスン内容や、イベント、また、音楽の雑学などを書いていきます。

パガニーニ:室内楽作品集

 パガニーニ四重奏団
 アドリアーノ・セバスチアーニ(ギター)他


パガニーニ 001



・弦楽とギターのための四重奏曲全集
 第1番 MS 28,第2番 MS 29,第3番 MS 30,第4番 MS 31,第5番 MS 32
 第6番 MS 33,第7番 MS 34,第8番 MS 35,第9番 MS 36,第10番 MS 37
 第11番 MS 38,第12番 MS 39,第13番 MS 40,第14番 MS 41,第15番 MS 42

・弦楽とギターのための三重奏曲集
 セレナータ ハ長調,協奏三重奏 ニ長調,三重奏曲 ニ長調
 三重奏曲 ニ短調,三重奏曲 ヘ長調

・弦楽四重奏曲全集
 第1番 MS 20,第2番MS 20,第3番MS 20

・2つのヴァイオリンとチェロのための「心にもう感じない」
・ヴァイオリンとチェロのための3つの二重奏曲
・2つのヴァイオリンとチェロのための謝肉祭のディヴェルティメント

・ヴァイオリンとファゴットのための3つの二重奏曲 MS 139
・ヴィオラとファゴットのための3つの二重奏曲

・弦楽四重奏による4つのノットゥルノ MS 15
・弦楽四重奏曲 MS 34(弦楽とギターのための四重奏曲第7番の弦楽四重奏版)

・マンドリンとギターのためのソナタ MS 14
・同 MS 16
・マンドリンのためのメヌエット MS 106


室内楽であって室内楽でない

 前回に続き、パガニーニの作品集で、価格は10枚組で前回の9枚組と同じ価格(4,697円=HMV)。お買い得といえばお買い得なのですが、お薦めかどうかは、ちょっと微妙なところ。室内楽といっても同時代のベートーヴェンやシューベルト、あるいは古典派のハイドンやモーツァルトなどの作品に比べると、パガニーニの室内楽は極論的には、室内楽であって室内楽ではないもの。5枚のCDにおさめられた15曲の弦楽とギターのための四重奏曲(ギター、ヴァイオリン、ビオラ、チェロ)は、ヴァイオリンとギターの二重奏曲の延長といった感じで、メロディを奏でるヴァイオリンを残りの3つの楽器が伴奏するといった形です。



ギターを含む室内楽

 ちょっと話がかわりますが、皆さんはギターを含む室内楽作品といったら、他にどんな曲を思い浮かべるでしょうか? おそらく真っ先に思い浮かべるのはボッケリーニの「ギター5重奏曲」でしょうか、これは有名な「ファンダンゴ」をはじめ、計7曲ほど残されています。ジュリアーニにも若干、ギターと弦楽四重奏のための作品があります。シューベルトには「ギター、フルート、ビオラ、チェロのための四重奏曲」というのもありますが、これはマティーカというギタリストの「ギター、フルート、ビオラのための三重奏曲」にシューベルトがチェロ・パートを加えたもの。テデスコがセゴビアのために作曲した「ギター五重奏曲」もあります。後はどんな曲があるでしょうか、もちろん他にもたくさんあるのでしょうが、すぐに浮かんでくる曲は少ないのではないでしょうか。



何の目的で

 と言うようにギターを含む室内楽、特にギターと弦楽のための室内楽に絞れば、このパガニーニの15曲のギターと弦楽のための四重奏曲は数的にはたいへん重要なものといえます。それにしてもこれほどの数の四重奏曲をどういった目的で作曲したのでしょうか。詳しいことは手元の資料ではわかりませんが、当時の習慣として何の目的もなしに作曲することはありえませんから、おそらくこうした曲を演奏する機会、あるいは必要とするイヴェントなどが頻繁にあったと考えられます(貴婦人の恋人のサロンという話もあります)。



埋もれてしまった秘曲

 この時期の室内楽というのはいろいろなジャンルの中でも重要なものと考えられ、さらに音楽史上でも重要な音楽家の作品ですから、普通に考えれば一般の音楽愛好家からも、またギター愛好家からもこれまでもっと注目されてもよかったはずなのですが、このブログでその存在を知ったとい人も結構いるのではないかと思います。かく言う私もこのアルバムでこれらの曲を初めて聴きました。これまであまり注目を浴びなかったのは、それなりの理由があるとは思いますが、やはり埋もれてしまった「秘曲」ということになるのでしょうか。


尾ひれが

 これまで伝えられているパガニーニと言えば、大きなステージでオーケストラをバックに、熱狂する聴衆を前にこれでもかとばかりに超絶技巧をふりまき、コンサートが終わればオーケストラのパート譜と大金を手に跡形もなくどこかに消えてしまう・・・・・ などという話ばかりですが、おそらくそれはパガニーニのごく一部分、あるいは限定された期間の話だったのかも知れません。こうした逸話には当然のごとく尾ひれが付いてしまうものです。



本当のパガニーニは

 もしかしたら本当のパガニーニはもっと地味で普通で、性格も「悪魔的」とは正反対で人柄もよかった、などというと、これまでのパガニーニのイメージが崩れてしまうかも知れませんが、その外見と、卓越した技術から人々が勝手に虚像を作ってしまった、ということも全くありえなくないかも知れません。これらの室内楽を聴いていると、おそらくパガニーニが弾いたと思われるヴァイオリンのパートは、確かに他の楽器に比べ目だってはいるのですが、特に超絶技巧といった感じでもなく、美しいメロディが中心で、とても耳になじみやすい感じがします。「悪魔的な」ヴァイオリニストのイメージからはだいぶ遠い感じがします。サロンなどで少人数の観客を前に、やさしく語りかけるように美しいメロディを奏でていたパガニーニというのも、もしかしたら存在していたのかも知れません。



こちらのほうが普通

 また収拾の付かない話になってしまいましたが、これらのパガニーニの室内楽は前述のとおりベートーヴェンなどの弦楽四重奏曲などとは全く異なり、対位法的な処理も、主題労作といったようなこともあまり見られず、ヴァイオリンに他の楽器が和音を添えているといったものです。時にはギターやチェロなどが表にでることもありますが、それぞれの楽器が複雑に絡み合うことはあまりなく、基本的に美しいメロディを聴く曲といった印象です。

 古典派からロマン派にかけての室内楽というと、ついつい、ベートーヴェンなどの弦楽四重奏などを連想してしまいますが、しかし考えてみればベートーヴェンの弦楽四重奏曲などというのは、当時でも特殊なもの。特殊だったからこそ今日でも音楽史上最高の作品として聴かれるのだと思います。当時「普通」の作曲家により作曲され、多くの人に親しまれた「普通の」室内楽のほとんどは現在ではむしろ聴かれなくなってしまい、考え方を変えればパガニーニのこれらの作品は当時の室内楽のひとつの標準形を示しているのかも知れません(メロディの美しさなどは決して「一般的」ではない)。



やはりパガニーニはミステリアス

 これまで書いたとおり、前回のヴァイオリンとギターのための作品集と、今回の室内楽作品集から感じたことは、これまで逸話として伝えられてきたパガニーニのイメージからはずいぶんと異質なものでした。「近寄りがたい神秘的な超絶技巧のパガニーニ」、「気さくで、やさしく美しいメロディを奏でるパガニーニ」、どちらが本物のパガニーニなのでしょうか。結論としては、いろいろな意味でパガニーニは私たちにとって「ミステリアス」な音楽家ということに落ち着きそうです。

スポンサーサイト
コメント
コメントする
URL:
Comment:
Pass:
秘密: 管理者にだけ表示を許可する