中村俊三 ブログ

中村ギター教室内のレッスン内容や、イベント、また、音楽の雑学などを書いていきます。

 前回はリスト・アップだけで終わっていしまいましたが、今回からそれぞれのCDについてコメントしてゆきます。といってもやはりたくさんなので、何枚か印象に残ったものだけになると思います。


フォールホスト = バロック音楽のギター編曲

 1枚目のCD(前回のリスト参考)はバロック時代の作品ですが、サンスやヴィゼーなどのいわゆる「バロック・ギター」のジャンルからではなく、すべてバッハやヘンデルなどの鍵盤曲などからの編曲となっています。ギタリストはVoorhorst(フォールホルスト)と言う人で、オランダのギタリストのようです。1992年に瀬戸大橋国際ギター・コンクールに優勝したという経歴があるそうです。


教会的な響き

 このCDから聴こえてくる音は、たいへん重厚な音で、教会などの響きを意識してか、かなり残響のある録音です。編曲はすべて演奏者自身によるものと記されていますが、最初のバッハの「シャコンヌ」はオリジナルのヴァイオリン譜に、若干低音を加えたり、オクターヴ移動をしたもので、基本は「原曲に忠実に」といった感じです。装飾や、声部の追加などはあまりありません。



バロック建築を彷彿させる

 全体の印象としては、バロック建築を思わせるような重厚で壮麗な音楽作りで、とても共感を感じます。またスピード(演奏時間14:06)やアレンジなどにも、私自身のものとあまり変わらない感じがします(私のものと比較して恐縮ですが)。なんとなくデヴィット・ラッセルの演奏を思わせますが、何か影響があるのでしょうか、バッハのフルートの作品を編曲して演奏している点なども同じです(ラッセルはソナタ・ホ短調 BWV1034)。



ホセ・ラミレスⅢ 1963年

 それにしてもこのギターの音とても馴染みのあるものなのですが、ジャケットを見ると使用楽器が「ホセ・ラミレス 1963年」と書いてありました。確かに言われてみればそんな感じです、かつて私も10弦を含めて3本ほどラミレスを使いました。「1963年」ですからⅢ世ということになるのでしょうが、この時代はまさにホセ・ラミレスⅢの「盛期」、当時、セゴヴィアを始め、多くのギタリストが使用していました。よく杉の楽器は賞味期限が短いなどと言われますが、このCDを聴く限りでは、まだまだ瑞々しさは失っていないように思います。



機能美

 この楽器が出来た時、つまり1960年代に活躍したギタリストたちは、この楽器からたいへん美しい音を出していたわけですが、その美しさを、ヴィヴラートやポルタメントなどによる曲線的な美しさと例えるなら、このVoorhorstの出す音はもっと直線的な美しさで、言ってみれば「機能美」と言った美しさに感じます。同じ1960年代のラミレスでも演奏者が変われば、当然また違った音が出るのでしょう。



ギターの方が

 このCDには大バッハ(J.S.Bach)他に、バッハの息子のフリードリヒとエマヌエルの作品、さらに同時代のテレマンの作品も収められています。それぞれもともとは小品なのでしょうが、このVoorhorstの演奏ではそれぞれ重厚な曲に聴こえてきます。さらにフランソワ・クープランのクラブサン曲から「神秘の障壁」も演奏しています。この曲は何年か前に水戸芸術館でヒューイットのピアノでも聴いていますが、鍵盤曲にしてはたいへん音域の狭い曲で、ヒューイットが小さく身をかがめるようにして弾いていたのを記憶しています。この曲は現代のグランド・ピアノだと、もてあまし気味で、ギターの方がずっと「納まり」がよいように思います。リュートで演奏される場合もありますが、確かにリュート的な曲ですね。



両巨匠のシャコンヌで挟む

 こCDの最後はヘンデルの「シャコンヌ」で、バロック時代の大作曲家二人の「シャコンヌ」でこのCDの前後を挟む凝ったプログラミングになっています。このようなところにも、この演奏者の性格や考えが現れているように思います。このヘンデルのほうのシャコンヌは、前にも触れた伝説のギター・デュオ、プレスティとラゴヤも演奏している曲です。シャコンヌはご存知のとおりバスの主題による変奏曲ですが、こちらのヘンデルの作品は、メロディックなテーマに装飾的な変奏が付くといった曲で、バッハの曲のように重厚で難解なところはありません。むしろ気軽に聴ける曲といってもよいかも知れません。



こちらの方が本当のシャコンヌ?

 私たちは「シャコンヌ」というと、どうしても「バッハのシャコンヌ」をイメージしてしまい、前述のとおり、重厚で難解な曲といった印象がありますが、もともとは「低音を主題とした装飾的な変奏曲」といったもので、むしろこのヘンデルの「シャコンヌ」方が「標準的」なシャコンヌに近いものだったのでしょう。バッハの曲の方が異例の作品で、第一、「低音を主題にした変奏曲」を、「低音のない楽器」のために作曲したこと自体が異例中の異例だったのではないかと思います。



バッハはシャコンヌが嫌い?

 意外と思われるかもしれませんが、バッハはあまりシャコンヌやパッサカリアなどといった変奏曲はあまり作曲していません。よく知られている曲としては、シャコンヌの他、オルガンのための「パッサカリアとフーガ」、鍵盤のための「ゴールドベルク変奏曲」で、計3曲しかありません。もちろんそれぞれバッハの作品を代表する、あるいはクラシック音楽を代表する名曲となっています。バッハは「標準的」な変奏曲を作曲するのはあまり好きではなかったようです。もっとも、即興的な変奏曲などは楽譜に書かなかっただけかも知れませんが。
 
 1枚目から長くなってしまいましたが、さすが1枚目に置くだけ、演奏も、コンセプトもしっかりしたCDで、とても満足感のあるCDです。

 
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